2024年3月30日土曜日

たまには魚と豆以外のタンパク質を-ナマジのビンボ飯モツ鍋編-

 ワシ、紀伊半島に移住してからこちら、主な蛋白源は釣ってくる魚であり、マアジが安定生産できるようになってからは、基本「アジ釣っときゃおかずにゃ困んねぇ」状態である。マアジの旨さと言ったら”アジの語源は味が良いから”説を支持するぐらいのもんで、生食系でも干しても焼いても煮ても揚げてもなにやっても旨い。さすがに毎日のように食ってると多少飽きてくるけど、それでも旨いので毎日のように食っても苦にならないといえば苦にならない。

 とはいえ、時化続きで底濁りで釣りにならんとか、シーバス日和でアジ釣ってる暇がないとかだと、わが家の主力オカズのアジも在庫が切れる。釣友達にはちょくちょく「でかい冷凍ストッカーでも買って干物とか冷凍保存しておけばいいのに」と言われるが、そんなもん買って冷凍在庫抱えはじめると、常時先に在庫が悪くなる前にそちらを食わねばならない状況が生じ、いつも味の落ちた冷凍物を食べなければならない。まっぴらゴメンである。自転車で5分の近所の漁港でピチピチの活魚が泳いでるのに、何が悲しくて冷凍物を食わねばならん。近所に”生け簀”があるぐらいのつもりで魚食いたいなら食べるだけ釣ってくれば良い。っていうのが理想だけど、そこまでの腕もない故、先ほど書いたとおり生鮮やら干物の在庫が切れる時もある。そういう時はこれまでも書いたように、概ね大豆製品と鶏卵に頼っている。納豆一パックが50gから45gにしれっと小さくなり(おかめ納豆は50gのままでエラい!)、鶏卵の値段が上がったとはいえ、それでもまだまだ価格の優等生達であり、物価高のご時世頼りになる存在である。

 まあ贅沢言わなければそれで済む。済むんだけどたまには贅沢してみたいのよワシも。ということで贅沢な飯と言えば”お肉”な昭和脳なジ様であるワシ、たまには肉でも食うかと考えるんだけど、まあ肉ってお安くはない。都会じゃ魚の方が高いけど、港町だと圧倒的に魚の方が安い。アジなんか一パック200円とかで買える。贅沢して鶏肉買っても良いんだけど、貧乏人なら安い鶏胸肉よりさらに安い内臓肉のほうが贅沢するときの謎の罪悪感にさいなまれずに済む。昔は牛内臓肉とかも安くて、それこそ大阪弁で捨てるモノという意味で”ホルモン”って呼ばれたぐらいだったけど、今じゃ牛や豚のホルモンはB級グルメの主役級の人気でおいそれとは手が出ない価格になっている。関東では関西ほどは人気が無いのか、ハチノス(牛の第二胃)とかガツ(豚の胃)とかなら、たまに行く武蔵小山の中古釣具屋の近くに安く売ってる肉屋があったので、買いだめして煮込んで楽しんでたりしてたけど、港町のこの地じゃ馴染みが薄いのか売ってるのもあまりみかけない。

 しかし、そんな貧乏人の強い味方が以前にも書いたけど鶏内臓肉鳥皮である。100g100円以下とクソ安い上に旨い。今回はこのクソ安い鶏モツのモツ鍋を紹介しつつ。クソ安いということについてまつわるアレコレについて書いてみたい。

 なんのことかというと、ワシの嫌いな”動物愛護団体の人達”が「アニマルウェルフェア(動物の福祉)」とか動物の権利とか小うるせえことを言い始めて、やれ豚を狭いところに閉じ込めて飼うなとか、雌鳥を卵を産む機械のように扱うなとか、うるせぇ黙っとけって感じでワシも黙っちゃいられない。

 先日も「 【ニューヨーク時事(通信)】ストレスの少ない環境で家畜を育てる「アニマルウェルフェア(動物福祉)」を巡り、米西部カリフォルニア州の法規制が畜産業界に波紋を広げている。」とかネットニュースになってて、ただでさえ物価高騰と格差社会で貧乏人がしんどそうな米国で、畜生の幸せのためにさらに食糧の値段上げてどうするって話で、守る順番を間違えるなって説教してやりたくなる老害なワシ。別に金持ちがそう思って、そういう動物福祉に配慮した畜産物を買う分には別にどうでも良い。好きにしろって話である。それを”勝手な正義”を他人に強要して、貧乏人の安い食糧を買う選択肢を奪うなって話である。オマエがそう思うんならそうなんだろうけど、オマエの中だけの話であって他人を巻き込むな。その結果人が飢えて、産業動物である豚が死ぬまでに多少快適に暮らせることを確保することに意味があるのか?著しくバランスと優先順位がおかしいだろ?

 基本犬畜生は犬畜生であって、線引きとしては”人間の方が大事”っていうところでキッチリ引いておかないとマズいって。ワシも愛猫家だから猫の幸せを願ってやまないけど、そこの線引きはしておくべきだと思う。核戦争が起こって「シェルターに猫を入れる余裕はありません」って言われたら、それはそうだろうなと納得する。納得した上でワシはコバンとシェルターの外で生き残る方法を考える。ネコの命より人間の命の方が大事っていうのはその通りだと思う。そのこととワシの感情が「コバンを見殺しにするぐらいなら共に死ぬ」ってぐらいに溺愛してしまっているっていうことは併存している。そういうワシの精神の自由は、個人の責任の範囲の中での自由だからほっておいてほしい。ワシは他の愛猫家の方に同じように考えることを強いたりしない。猫にとって何が幸せかっていうのは、自分の幸せが何か、50年からかかってやっとこさ分かってきたワシには難問ではあるにしてもだ。

 犬畜生であり産業動物である家畜家禽の健康や快適な生活は、もちろん配慮はされるべきである。あるけどそれは健康や快適さが肉の歩留まりや質を確保するためとかに必要であるからというのを第一にして配慮すべきで、採算性や効率化を達成するために削れるモノなら削るのが畜産家の企業努力の1つの方向性であり、安い畜産物を享受する貧乏人としては、多少家畜家禽に狭苦しい思いをさせたとしても、365日休みなく糞尿やら羽毛やらにまみれて働き、安く食糧を提供してくれる畜産農家を支持する。いつも書くけど鶏卵が風邪引いた時に精を付けるときぐらいしか食べられなくなったら嫌じゃん。日常的に気軽に安くて美味しい卵かけご飯とかが食べられる幸せって、雌鳥をケージに押し込めて不幸にしてもワシ譲りたくない。見ず知らずのニワトリの幸せなんて知っちゃこっちゃないぜワシが幸せになりたい。ぶっちゃけ死ぬほど酷い環境で飼育されたら死んでしまうので売り物にならず、家畜家禽はどうやったってある程度は大切にされるのでほっときゃいい話だと思っている。むしろ人間の方が今の社会では、ぶっ壊れたら新しい人を雇えば良い程度の家畜以下の”部品”扱いされていて”社畜”とか揶揄されるよりまだ酷い実態もあるように感じる。部品扱いされる人間の幸せをさらに削ってまで、家畜扱い程度は確保されている家畜たちの福祉を求めることのなんと歪なことか。

 ほんと、動物の福祉とか言い出す輩の気持ち悪さは鼻につく。「上げ馬神事」が動物虐待だとかで中止に追いこまれている。しらんがな。ヤツらは競馬とかももちろん槍玉にあげていて、競馬で鞭を入れる回数とかにまで口出ししてきてるらしいと聞いてウンザリする。競馬がなくなったらそもそもサラブレッドの存在価値がなくなってサラブレッド生きていけなくなっちゃうじゃん。動物を娯楽の対象として消費するのはどうかというのは、放流した魚釣ってる釣り人としても複雑な感情はあるっちゃある。サラブレッドっていう品種が無くなっても馬としてはいなくなりはしないだろうし、人間が無理くりねじ曲げたような歪な品種を維持する意味はと問われると、正直答えに窮する。ぶっちゃけダックスフントとかもうウサギの穴にもぐらなくても良いンだから脚伸ばしてやれよと思わなくもない。そういう品種の血統を保つために、おそらく品種の基準から外れたような子供は間引かれてるんだろうとか、近親交配で病弱になってるのは避けられないだろうとか思うと、奇形みたいな品種をありがたがるなよ、ってワシの股ぐらでまどろむ雑種の愛猫を撫でながら思う。でも、その品種の形作られた背景、例えば牧羊犬のボーダーコリーの賢さや、水鳥を回収(リトリーブ)する狩猟犬であるレトリバー系とかの水遊びではしゃぐ姿とかを見ると、いろんな特徴をもつ品種があって保たれていることの価値もまた認めざるを得ない。このへんはもう、個人個人の趣味やセンスの問題で、どこまで許容するかなんて変わってくるんだろう。ワシも線引きは単なる好みでしかない。イエネコの巨大品種メインクーンとか飼ってみたい憧れがあるし、犬でも狩猟犬系は格好いいと思わずにいられないけど、正直奇形みたいなミニチュアダックスフントやスコティッシュフォールドとか見ていてやや不快ですらある。でも、そんなこと言い始めたら金魚の世界なんてデメキンとかランチュウとか”THE奇形”でっせ、って話でペットの場合はそれもありって思う人があながち間違ってるとも思えない。まあそういうこと含めて個人のセンスの問題で特に酷いとかの場合を除いて、他人の趣味にはとやかく言わないのが正しいのかなと思う。おもっきりとやかく書いてしまってるけどな。気を悪くした人がいたらゴメン。

 ただ米国の事例を始め、うかうかしてると食うもんなくなりそうな主張をしている愛護の輩どもの意見が力を持つ程度に、人が他の生き物の命を奪っている、その”命の軽さ”から遠ざかってしまっている現代なので、ジジイは心配で書かずにおれんのである。ドイツの現政権は支持母体の一つが動物愛護団体らしく、オオカミが保護の成果もあって増えつつあるのは良いことなんだろうけど、そうなると当然放牧している家畜が被害に会うなんていう問題が生じる。でもドイツじゃ今オオカミの捕獲とかの許可は出ないらしい。オオカミは生態系の秩序を左右する高位捕食者だからその保護は意義が大きく重要なんだろう。だろうけど、増えて被害が生じるなら数の調整やらなんらかの対策も必要だろうけど、それを許さない盲信。さすがナチスを産んだお国柄、振り子がどっちかに振れるときはおもいっきり振れて猪突盲信、というとドイツだけを侮辱しているようで申し訳ないので、我が国も今だ”大本営発表”で情報操作されて”隣組”で相互監視して異分子をつるし上げていやな”空気”を醸成していた国民性からまったく変わってないということを恥ずかしながら指摘しておこう。マスゴミの情報誘導に引っ張られて流行に流され、しょうもない個人の失敗をSNSでつるし上げる。第二次世界大戦時の国民性と何が違ってる。っていうワシも昨年のクマ騒動のおり、適当に数減らすしかないじゃんって思ったけど、carankeさんに「マスコミの煽りを受けてクマ駆除の方向に行きすぎないか心配」と言われて、ワシも”空気”に流されつつあったことを認識し恥じたしだいである。野生動物とは適切な距離感が重要であって、化け物扱い敵認定して闇雲に恐れて排除しようとするべきではないだろう。冷静に論理的にと思っていても、情報やら空気感やらに影響されないなんてなかなかあり得ないということを含みおいて、物事は考えなければならないと肝に銘じた。自分なりの真理、絶対的な正義、そんなもんはない。そうあなたやワシが思うモノは自分に都合の良い誰かの意見なり多数者の意識、それらの借り物に毛が生えた程度と思っておくべきだろう。そういう、人の意見に流されがちなのが枢軸国だけじゃないのは連合国側の米国でも同じなのを見れば明らかなので、西も東もグローバルスタンダードもイスラム社会も”共感性”を武器の一つとして生き残ってきたというホモサピならそこから逃れられないのだろう。”みんな違ってみんなダメ”。だからこそ天邪鬼は必要であると、ワシのようなひねくれ者の意見も必要なんだとワシャ思うんじゃ。空気感に流されかかってるところで、冷や水浴びて冷静になって一旦立ち止まって考える。その冷や水になれるよう天邪鬼としての務めを果たしていきたい。

 っていう永い枕を一区切りつけて、本題のビンボ飯的モツ鍋の紹介に移っていきたい。いうても簡単である。材料は鶏モツ(今回はレバーとハツ)、鳥皮、ニラ、キャベツ、めんつゆ、ラー油というところ。モツ鍋の旨さの要素として牛モツの脂の甘さがあるので、脂っこさのある鳥皮は安いけどその代役を果たしてくれる。内臓料理といえば、ミソとか濃いめの味付けで癖を殺して臭みを誤魔化しというのが一般的で”ドテ煮”とかまさにそういう料理だけど、モツ鍋では味付けはアッサリとした醤油出汁っていうのに、博多の食い道楽どもの非凡なセンスを感じる。匂い消しにニラはぶち込むにしても、今時の処理のしっかりした鮮度良く流通する内臓肉であれば、そこまで癖も臭みもないので、内臓肉本来の野趣溢れる風味として楽しめる味付けになっている。

 2年と少し暮らしたけど、博多はメシが旨い。食の名物も博多ラーメンから鶏の水炊き、アラ(クエ)鍋、明太子といったメジャーどころから、ややマイナーな柔らかい博多うどんにはゴボ天乗せるのがワシ好きだったし、意外に目の前で揚げてくれる安い天麩羅屋というのも博多流でお気に入りだった、寿司屋も回ってるのも回ってないのも魚自体が美味しい土地柄なのでレベルが高かった。魚と言えば刺身食べるときに醤油が甘くて最初慣れなかったけど、慣れてくると名物料理のマサバの刺身に胡麻がかかってる”胡麻サバ”には甘い九州の醤油じゃないと物足りなくなってくる。飲んべえの多い九州を代表する繁華街でもあるので名物の屋台も楽しいし、焼き鳥やら居酒屋やら街中華やらも総じてレベルが高い。ああ「ハルピン」の中華飯が懐かしい。

 調理は材料切って、お好みの濃さに水で薄めためんつゆを沸騰させたらぶち込んで、モツに良く火が通ったらラー油を垂らして完成。とアホぐらい簡単である。料理というほどのものでもないけど、鶏モツはあらかじめハツの中の血の固まりとかは洗い流しておくのが良いかな。ニラだけだとクドすぎるところをキャベツがバランスを取り、キャベツ自体も出汁を吸って美味しく、鶏モツは血の臭いを感じさる良い感じの肉肉しさで、鳥皮の脂のコクも箸を進める。ワシ飯のオカズにしてバクバク食ってるけど、飲みながら食べても悪くないだろうと思う。安っすい材料だけど腹一杯に肉料理を楽しめる。

 こんなに安くて美味しいのは、養鶏屋さんの企業努力と鶏の犠牲があるからにほかならない。ワシはワシの幸せのために安い畜産物を支持する。豚も鶏も皆ゴメン。

2024年3月23日土曜日

最後の大物!シェイクスピア「2090EJシーワンダー」

 あれだ、シェイクスピアが大森とかにスピニング作らせる前の”20××シリーズ”は日本じゃ全然人気ないけど、今まで触った「2052」系「2062」系も素晴らしいデキで、本国ではフルーガー版とかテッドウィリアムズ版とかも出るぐらいの人気機種で、なぜ、日本じゃ鱒向きサイズの2052系はともかく、シーバス好適の2062系が全くといっていいぐらい人気がないのか?なにせ以前ネタにしたように3つぐらい入札しておけば1つぐらい落とせるだろうと考えたら、3つわが家に来てしまったぐらいである。でも、整備して干からびてた皮のドラグパッドだけフェルトに換装とか調整して整備してやれば絶好調で、80超のスズキ様も連れてきてくれたし、3台確保して(既にあった1台を含めて4台所有)まったく問題無かった、むしろ幸運だったと思っている。

 で、そんな日本じゃマイナーなアズキメタリック色の中小型機ではなく、さらに輪をかけてマイナーな600g超の大型機(PENNだと704とかに近い大きさ)が、れいの”謎のデカアメリール&マイナー大森大放出祭り!”で入手したデカアメリールの最後のお楽しみの1台、シェイクスピア「2090EJ」である。なんで、2台あるのかって?あれだ、日本の中古釣り具市場じゃ全く需要無くて、お祭りの時に落とした箱入り未使用品でさえ3千円しなかったんだけど、これがその後ヤフ○クで同時期に2台別の出品者から出てきて、片方は8千円とかの「そりゃ買う人おらんわい」っていう開始価格だったけど、もう1台は3千円というマウスの摩擦抵抗が軽くなる程度の値段だったので、どうせワシしか入札せんだろうと3020円で入れておいたら開始価格でアッサリ落札。まあ箱入り新品を分解するのはネジとか分解跡が残りそうで気が引けるので、ラインも巻いてあって使用済みの個体を分解整備することとした。正直2台もいらんなとちょっとだけ反省。箱入りの方は箱書きや取説は写真撮ってデータ化したので売りに出したいところだけど、3千円でも買い手が付くかどうかなので売っても仕方ないので、欲しい人は物々交換とか可能なのでご連絡を。

 なんで最後のお楽しみに残してあったのか?っていうと、これシェイクスピア製で”E”が付く機種ってことは60年代の発売(もっと書くならE=6、j=2で62年製)のはずなんだけど、ハンドル回してみると、思ったより軽く回ってくれる。巻きが重くなりがちなウォームギア機のハズなのになんで軽いんだろう?って考えると、たぶん一つにはギア比が低いからで、箱書きによると3.2:1と低速。同時代のPENNの700や704が3.8:1なのでそれと比べてもかなりトロ臭い。かわりに軽く巻けるというかパワーがある。もいっちょの理由がこの時代のウォームギア機には珍しくスプール上下(オシュレーション)が減速式で、1/2弱ぐらいの減速割合になってるのも巻きの軽さには貢献してるんだろう。どんなオシュレーション機構が入ってるのかお楽しみってところである。あとパッと見て独特なのが本体と脚が別々でボルトで固定されているところで、ちょっと個性的な癖のある機種であることは見て取れるのでバラすの楽しみである。

 ということで、早速分解していこう。いつものようにまずはスプール周りから。はい、台座から伸びるドラグを受ける部分の軸は亜鉛あたりの金属で太くしてあります。スプール座面のワッシャーは革、“6D(6枚円盤)”3階建てのドラグのドラグパッドも革製、比較的良い状態で残ってるので、実際に使用するとかでなければこのまま温存で良いだろうと思う。スプール裏のドラグの音出しは逆回転防止のタイプ。と今時のスピニングを知っていれば、何のことはないんだけど、このリールこの個体は”EJ”で62年製造のようだけど、「2090シーワンダー」自体はネットで調べたところ59年からあるシリーズの模様で、そのぐらい前に既に今の中大型スピニングのドラグの基本型はできていたということ。さらに遡るなら50年代の初めに登場したらしいミッチェル「302」がやはり3階建てなので、そのあたりまで溯れるし、いまだもってそこからたいして進化していないのが見て取れる。

 続いて本体蓋をあけていくと、入れ直したらしい白いグリスが劣化もしておらず滑らかな状態で、これも軽い回転の一因だろうなという感じ。まあ洗浄して青グリスぶち込んでしまうけどな。

 パカッと開けてハンドル軸のギアの上に小径のギアが付いてて、それが蓋側の棚の上に乗ってるギアを回転させるような構造で、一瞬「ナンジャコリャ」と戸惑うんだけど、本体蓋銘板の出っ張りのところに格納されているギアを外すと、あぁそういうことかと理解できる。棚に見えたのは実はオシュレーションカムで、写真右下のオレンジで囲った部品なんだけど、これがハンドル軸のギアの回転を使って回される”棚の上のギア”の凸部に溝を填めて上下させることにより後端で主軸とネジ留めされているので、スプールを上下させるという仕組み。この時代、まだハンドル軸のギアの下?には写真の様に逆転防止が入ってたので、この位置に歯車を入れて、その上に主軸に固定したオシュレーションカム設けてスプールをを上下させる方式は採られておらず、大型スピニングの減速には大森も「スーパーセブン」や「スーパー2000」で独特の方法を採用して試行錯誤していた。一方PENNは”ウォームギア機には単純クランク方式”という割り切りなのも個性があって面白い。PENNはスピニングにおいては堅実路線。確かにその割り切りには単純な設計で整備性良くトラブルが少ないだろうという利点もあり一つの方向性。あとウォームギア機はギアが重ならず横並びになるので本体が薄っぺらくなるのがカッコ良くて好きなんだけど、シーワンダーでは上の方の4方向からの外観写真を見てもらえば分かるように、蓋側からの見た目は棚のようなオシュレーションカムの分上下幅が出てるし、オシュレーションのギアの入ってる銘板の部分が凸ってしまって、ハンドル側からみたスッキリとした外観より、太って野暮ったく見える。重量もその分増加しているだろう。とはいえ重い仕掛けや魚を相手にする大型リールにおいては巻きが軽いのは売り文句にはなるだろう。

 ハンドル軸のギアは鉄系芯の真鍮というより銅という感じの色の素材、ローター軸のギアはステンレスなんだけど、ローター軸には1個ボールベアリングが填まってるんだけど、これが”Maid in USA”で60年代のアメリールには米国製ボールベアリングが入ってるんだなと細かい所でおもしろがったんだけど、もいっちょ細かい所でこのベアリング上の写真の様に片側シールタイプでギア側が開いてるんだけど、下の写真の様にテフロンっぽいワッシャーで蓋をして、ゴムリングで留めている。回転部分のシーリングなんて完全には難しいだろうから、このぐらいの接触型のシーリングで充分だと思う。っていうかそれで大丈夫な濡れてもこまらんような素材にしておけ、あるいは整備しやすくしておけ、ってしつこくしつこく書いておこう。細かいところも丁寧に作ってるのは、オシュレーションカムの溝に填まるギアからの突起に金属のブッシュが被せてあるのとか、ハンドル根元の給油穴を蓋するネジにゴムの輪っかのパッキンが付いてるのとかにも表れている。

 次にベール周りを見ていくと、まずは開いたときの角度が写真左のようにどこで開いてもベールが邪魔にならず投げられるぐらいにフルオープンなのが特徴。ラインローラーは直受けで軸に油溝。あとラインローラー導入部はステンのベールワイヤーにロウ付けで形成してあって、ベールの開放角といい、「オービス100」とか作ってたザンギ(コプテス)とかのイタリアリールを思い出させる。ギア方式も、先行していた海用大型のミッチェル302がベベルギアなのを、巻き心地の良いウォームギア機をということで、イタリアやドイツのスピニングあたりを参考にしたのかなと想像する。ABUもまだ「444」とかでベベルギアの時代だったはず。まあミッチェルの影響はモロにあったんだろうけど「302」の対抗馬として出すには、高級感のあるウォ-ムギア機にして、あっちにはプラナマチックな減速機構があるからってことで減速オシュレーション機構も頑張って搭載したのかなと。

 でもって、今回一番面白かったのがローター。
 塗装が同じ色なので全く気がついてなかったけど、こいつPENN「スピンフィッシャー700」と同じで、ローターは円筒部分だけで下のお椀部分とは分離されるタイプ。そしてベール反転機構をベールアームと反対側に持ってきて重量分散して回転バランスを取ってる所や、ベール反転レバーのローターの外に出てる部分が縦型なのも、まんまPENN「700」と同じ方式で、PENN710系(700系からアウトスプールと720と722を除いた機種)の元ネタはこれだったのか?とちょっと驚いて、正直ショックでもある。
 同じシェイクスピアの米国製インスプールでもアズキ色の中小型機ではローター形状もベール反転機構も違っていたので”アメリカンな感じの単純明快なウォームギア機”という共通点は感じていたけど、PENNのインスプールの近い元ネタがシェイクスピアである可能性には気がついていなかった。縦型ベール反転レバーはPENN710系に共通で採用されていて、むしろアズキ色シェイクスピアより直系の子孫のようですらある。ちなみに「2090シーワンダー」の発売が1959年、PENN「スピンフィッシャー700」の発売が多分1963年とのこと。いやはや買っておいて正解。PENNのというかスピニングの歴史においても重要な1台な気がする。
 さらに、ローター外して残ったカップには、なんか大森やら日吉やら古き良き日本のスピニングで目にするような”簡易ローターブレーキ”が入っている、写真左の緑の矢印の位置の、カップを本体に固定するボルトが頭がデコらせてあってベール反転機構の”蹴飛ばし”になってるんだけど、その手前にオレンジの矢印のあたりにステンの薄い板バネでやんわりとブレーキが効くようにしている。写真右が部品単体。この方式の元祖ってどこなんだろう?ってところまでは分からないけど、少なくとも大森はシェイクスピアに学んだっていう可能性が高いように思う。ついでに回転バランスをベール反転機構とベールアームを反対側に持ってきて取る方式もシェイクスピアの影響かも。ワシの好きなスピニング作ってる2大メーカーであるPENNと大森製作所がどちらもシェイクスピアの流れを汲んでいるってのはなかなかに味わい深い。どうりで2062系とか手にしっくりくるわけだ。

 で、脚がナット留めされてるのは、ハメ殺しかなともおもったけどちゃんと外せた。脚が外せるのはフライリールでは珍しくないんだけど、海で使うとそこの隙間に潮噛みして、腐蝕して固着したりするので、シリコンコーキング剤とかで防水したりするので、コイツにもせっかくなので防水処理を施しておいた。合わせる面に青グリスを薄く塗布してナット締めて留めてから、隙間にボンドスーパーXをヌリヌリして固める。なんで通常は鋳造一体成形するところを2回に分けてナットで固定なんていう面倒臭いことをしたのかな?まあ当時の鋳造技術では長く伸びた脚の先まで綺麗にアルミを流し込みきれない、とかの技術的な問題が、この大きさになってくるとあったとかか?マンガで美少女フィギュア作るのに、全身一発型取りでは樹脂が隅々まで行き渡らないので、髪とか手足とかは分けて作ってから接着した方がイイ、とか描かれてたのを読んだけど似たような話か?スピニングの脚をナット留めというと、ドイツのダム「クイック・スーパー」が思い浮かぶけど、ダムも戦前からスピニング造ってたような老舗中の老舗なので、参考にはしたんだろうなと思うところ。あと、しょうもない裏技として脚の向きを逆にしたらミッチェル500系みたいにリールフット指に挟まず投げられるようにできるなと思いついたけど、だからどうしたって話であんま意味ないな。


 ”Built like a fine watch(素晴らしい時計のように作られています)"と、この時代のシェイクスピアリールの箱書きには誇らしく記されているけど、時計ほど繊細には作られてないとは思うにせよ、確かに丁寧に作られていて古き良き米国の職人魂というかクラフトマンシップを感じる良い仕事だと感心した。
 先行者達の良いところを取り入れつつ後のスピニングリールに引き継がれていった工夫の数々。スピニングリールの生き証人的な一台だと、キワモノ扱いで入手したけど認識を改めたところである。
 ただ、こいつの実戦投入の場面があるかって想像すると、今一ピンとこない。このクラスのスピニングでは先に魚を釣らせたいリールがPENNだと「6500ss」「704」とか他に大森大型機とかも順番待ちなうえに、3.2:1という低速機の出しどころが想定しにくい。
 おそらくそれは発売されていた当時でもそうだったんだろうと思う。軽い仕掛けやルアーを遠くに投げるのがスピニング本来の仕事だとすると、このクラスのリールの出番は砂浜での遠投とかだと思うけど、遠投すると低速機なので回収がトロ臭い。あと凝った設計の分自重が重い。じゃあ糸巻き量の多さと巻き上げの力強さを活かして船からの底釣りとかか?と思うけど、それなら両軸使っとけって話だと思う。ウォームギア機の仕事じゃないだろ。
 実際、以前にも紹介したように東海岸とかのサーフでのストライパー狙いとかの光景ではインスプールのPENN「704」やミッチェル「302」とかはよく見かけるけど、シーワンダーはあんまり見ない。ミッチェル「302」は触ったことないのでなんとも言えないけど、PENN「704」については、後発で先輩達の良いところ取りをしつつ、余計なモノは取っ払って、オシュレーションをクランク方式に割り切ったように、単純化して最適化して堅実な物作りをしているという気がする。PENNは両軸の世界では偉大な開拓者として今日見られるトローリングリールとかを創造してきたんだろうけど、スピニングは先行者の技術を真似つつ、いらんものを削って丈夫な”海に強い”実用機に仕上げて、それが紛れもない個性になっているんだと感じている。
 単に同じ”アメリール”つながり程度に思ってたシェイクスピアとPENNが、1950~60年代のインスプールスピニングを見ていくと、シェイクスピアがあって、PENNがある、ついでに大森もあるっていうのが理解できて、今回の大物は物理的にも大きかったけど、スピニングの歴史においても大きな意味があったんではないかと思うにいたり、買ったことに一片の後悔もなくなったのである。実に面白かった。堪能しました。

 まだワシが知らんだけで、マイナーでも味わい深いスピニングはいくらでもあるのかもしれない。そう思うと”スピニング熱”は冷めそうにないのである。アタイ病気が憎いっ!

2024年3月16日土曜日

蓋を開けるまで量子の状態は確定しないーパソコン椅子探偵ZEBCO「QSS2」編ー

  先週ワシは「他にも、ワシが知らんだけで、瞬間的逆転防止機構が搭載される前の機種で実用性の高いのはあったんだろうと思う。(略)日本じゃあんまり見ないけど、ゼブコとか絶対アメリールらしい実用性の高いのを用意してただろう。」って書いた。書いたら欲しくなって、ワタシ気になります!って感じ。そして買った。という自然でスムーズな流れ。

 アタイ病気が憎いっ!ということでいつものことですが、弁解と説明の機会を与えていただきたくぞんじます。なーに2台輿入れ先も決まってることだし、1台増えてもまだ勝ち越してる(嘘です。記録によると359,660円の赤字)。

 まああれだ、ゼブコのクァンタム(量子)シリーズは一時期バレーヒル扱いで国内にも入ってたので、スピニングなら「クァンタムエナジー」ってのがわりと見かける機種で、ネットオークションにも出てたのでそいつでも良さそうなもんだけど、ハッキリ言ってなんか日本製リールっぽくて面白くない。かつどうも瞬間的逆転防止機構入ってそうでそこそこのお値段してやがる。もっとマイナー味の効いたワシ好みのもあるだろう?って米本国のネットオークションを覗いてみるとZEBCO縛りだとスピニングに限定できないのもあって多すぎて見てらんねぇ、クァンタム縛りでみるとなんかパッとしない感じ。って思ってたらメル○リでクァンタム縛りで調べたら、この「QSS2」というのが1700円(送料別)で出てた。”マグナムドラグシステム”たらいうのも気になったのでスルルのポチチで即ゲット、発送も素早く、届いて速攻決めて分解整備。どんなもんだったか報告させてください。

 で到着して、ハンドル回してみると、まずはやかましい!逆転防止のカリカリ音なんだけど、カリカリ程度の可愛い音でなくカカカカカカカカッーというようなキツツキの高速連打みたいな音がして、ワシ隣でカリカリ音がするタイプのリール使われてもまったく気にしない釣り人っていうか自分でも使ってるけど、このリール隣で使われたらさすがにちょっと「うるせぇ」って思うかも。なんでこんなに喧しいのか理解しかねるけど、分解していけばそのうち明らかになっていくだろう。もいっちょすぐに、ここはイマイチ、と思ったのがスプールが本体に対して小さいことで、せっかくのエッジの立ったゼブコのスプールなのにスプール径が小さいと美点が活かしきれん気がする。ちなみに足の裏に「KOREA」とあり韓国製。

 ということで、まずはいつものようにスプール周りから、といきたいところだけど、マグナムドラグシステムとやらが見たことない機構であり、スプール裏面にデカいのが入ってるようなんだけど、ちょっとお楽しみにとっておいて後で見てみよう。なぜか主軸の横棒にスプール裏に見えてる座面を填める構造なんだけど、そこまでやるならワンタッチ着脱式にすれば良いのにそうはなってないのも不思議な感じ。

 で本体をいじっていくんだけど、まずこのリール、ハンドルはねじ込み式で、かつ、亜鉛一体成形のハンドル軸のギアに直にねじ込んでるんではなくて、ハンドル軸のギアは真鍮の軸を鋳込んだ亜鉛鋳造で、さらにはハンドルの方のネジが、大森方式で同軸状に左右用のネジ山を切ったれいの方式。だだ、韓国大森と微妙にネジの端の処理の癖が違うのは、以前ネタにした「アタック5000」の時と同様で、ゼブコに主にリール収めていたらしい「ソウルフィッシング」社製なのか韓国日吉製とかの日本系なのかその他なのか、相変わらずこのへん80年代の韓国製品は、日本の中小メーカーの技術が混在しつつ継承されている感じで、どこで作ってたのか特定できません迷宮入り。いずれにせよ売りに出てる時点で”ワンタッチ式でなくてハンドルの反対側のキャップが被さってなくて根元と同じ径”だったので、わりとしっかりしたネジ込みハンドルの機種だな、ということがみてとれたのも購入判断の一因。 

 本体樹脂製で、タップビス抜いて蓋を外すと、ギアはいたって普通のローター軸真鍮、ハンドル軸は芯が真鍮の亜鉛鋳造のハイポイドフェースギアで、スプール往復は単純クランク方式。

 ボールベアリングはローター軸に1個だけ。ハンドル軸を受けているのは左右どちらも黒い樹脂製のブッシュで、摩擦に強いポリアセタールかなと思ったけど、なんか本体樹脂と同じような素材に見えなくもない。もともとボールベアリング入れる予定が経費との関係でなしになって、急遽てきとうなブッシュ入れたとかか?いずれにせよ最悪削れても部品交換すればよく、悪くはない。規格品のブッシュやらチョイと加工したら填められるだろう。右写真の白い輪っかは銅かなにかの厚さ調整のシムリング。

 でもって、今回一番の難問が逆転防止周り。

 ハンドル軸のギアを抜くと、その軸にはギア側から、オレンジの矢印で示した爪が2つ出ている消音化カムのような部品、その下のアルミは部品位置決め用と思われるアルミのスリーブのハメ殺し、その下は本体に填まってた軸受けのブッシュとなっていて、消音化部品の爪が、正転時逆転防止の爪の矢印の突起を押して爪を押し上げることによりラチェットから遠ざけて消音化してそうなモノなんだけど、そうはなっていない。なぜなら見やすいように右の写真で拡大したけど、リールフットの基部から伸びているバネが、わりとしっかり逆転防止の爪の下の方を引っ張って、爪をラチェットに押し当てているので、消音化カムのギアの回転からちょっと借りてきたぐらいの力ではまったく爪がラチェットから離れないようだ。この辺は後ほど調整できるか試してみるとして、とりあえず分解整備を進める。

 ローター周りを見ていくと、まずはボールベアリングとローター軸のギアを押さえている金具が独特。4つ穴が開いてて2つが本体の出っ張りに填まって、2つがネジ穴になってる。ベール反転の蹴飛ばしは、上下に動くレバーが本体の坂を登る方式で、シルスター「CX60」で見た形式。で、樹脂製のローターにベールアームやらをとめるのには金属のビスをEクリップでとめるダイワの「ウィスカートーナメントSS」とかでも使われていた、樹脂で回転部分を受けない丈夫な設計で、このへんはしっかりしていると感じるところ。
 でもって、スピニング熱患者なら「オオッ!」と盛り上がるのがラインローラーで、真鍮クロームメッキのどうということのないローラーなんだけど、バラしてみると、ちゃんと樹脂製スリーブ入りです。大森や日吉といった韓国に生産を移していった日本の中小メーカーの良き伝統を韓国メーカーが受け継いでるなと感心。白い素材だけどジュラコンとかのポリアセタールっぽいツルツルした素材でローラーの回転も滑らかで良い感じである。

 ヨシッ!あと残ってるのは、楽しみにとっておいたドラグ周り!って言ってもそんなにややこしいモノではなかった。
 写真上の左の方から、スプールやらドラグやらが填まる台座、でその上にまず鋳造の台座では平面が出し切れないからか、台座と同期して回らないステンレスの小判穴ワッシャー、その上に大口径のテフロンワッシャーがきて、スプール底面とで挟む。でスプール上部にはまた小さめのテフロンワッシャーが来て、その上に3枚も台座と同期する小判穴ワッシャーが来るけど、3枚必要な理由はよくわからない。1枚は横から板バネ状に立ち上がっててドラグノブを挟む形でクリッカーの役目をしている。最後は台座の頭にCクリップ止め。ドラグノブは普通にバネ入りの樹脂製。最初の方でも書いたけど、なぜ台座まで作っておきながらワンタッチ交換式にしなかったのかは謎設計。このころワンタッチって流行っとらんかったとかか?なんにしろドラグをスプールの下を使って直径大きいドラグパッドを入れるってのは80年代のリールらしいこのあたりから既にあるって話。スプール下を使うの自体は、構造考えたらあたりまえだけど、PENN「スピンフィッシャー700」でもみられたように最初っからあるといえばある。あと、ドラグ作動時の音出しは台座裏に入ってて、スプールの裏に一瞬”マルチポイントストッパー”かと間違うような凸凹が切ってあるけど、ドラグの音出し用で、音出しの部品が大森式でバネで根元側を挟むれいの方式、といえば大森沼の住人には分かると思うけど、大森の影響はこのあたりにも見てとれる。ドラグの作動は手で回した感じでは上出来の部類かと。

 全バラし終了で、部品数はそんなに多くなく整備性は悪くない。樹脂製で錆びるところも少ないし、逆転防止とかも本体内なので耐海水性能も悪くない気がする。
 樹脂製スリーブ入りラインローラーや、丈夫なネジ込みハンドル、回転部を樹脂でなるべく受けない設計とかも良い感じなんだけど、あちこち惜しい点も散見される。既に書いたとおり、糸巻き量4lb/100m、173gの小型機のわりには、本体が大きく、次のサイズと本体共有とかならこの「2」サイズより「3」のほうがしっくりきそう。あと喧しいカリカリ音。

 消音化ぐらいはなんとかならんのかと、グリスアップしつついじくってはみた。
 消音化のカムの上の写真で矢印で示した2本の爪のあいだに、下の写真の逆転防止の爪のネジの脇の突起を入れて、正回転時に矢印の方向に力がかかって、爪がラチェットから離れるという仕組みのはずである。
 でもまったく爪が上がってる感じがしない。もっと消音カムの摩擦力を上げてみるかと、グリスぬぐって割らない程度にカムを締めてキツく軸に填まるようにしてもどうにもなってない。
 あれこれ過去事例と比較して考えていると、これ本来はバネ無しで正転時は爪がラチェットから離れて、逆転時に爪をラチェットに押しつけるという、スズミ「マクセル700RD」と同様の方式なんじゃないかと思いあたる。構造自体は似ている。というわけでバネ外してみたけど全く機能せず、ストッパーは気まぐれに掛かるときがある程度で不安定で役立たず状態。何でだろ?と「ここを下から押せば爪が上がるはずなのに」と矢印のあたりをペンチの先で押してみて分かった。この形状だと引っかかりがなくて押しても爪がラチェットから離れる方向にはなかなか動かない。斜めじゃなくてしっかり引っかかるように充分な長さで真っ直ぐ出っ張ってないとダメなはずである。そう思うと、なんで、取り付けるのも面倒な脚の根元にバネをネジ留めしているのかも推理できる。これ、最初”バネ無し消音仕様”のつもりで設計したんだけど、上手くいかなかったので無理くりバネでラチェットに爪を押し当てる方式にしてごまかしたんだろう。鉄系の板の打ち抜きってそんなに手間かかるのだろうか?手直しすりゃ良いのにと思うけど、実は手直しした版もあって、ひょっとしてこの個体はダメ出しされた版でゼブコに納められなかったのを、日本に流したバッタモンという可能性もあるのかも。というのはこの個体、ハンドル反対側のキャップに新品の時の透明なシールがまだ付いてて使用した痕跡がない。にもかかわらず箱入りではなかったので、そういう可能性もあるのではないかと推理した。「米国から買ったのは問題無く消音化されてましたよ」等どなたか真相を知ってる方がいたら是非タレコミよろしく。 

 しかたないので、せめてけたたましいラチェット音をどうにかするべくバネをなるべく緩く伸ばして多少おとなしくさせて、今回樹脂本体の小型機でありグリス使用量は少ないので高級なPENN純正グリスを奢って整備終了。回転具合が分かりやすいように逆転防止OFFにして回してみると、これが回転は良いのよ、ローターのバランスも良く素直な滑らかさ。ベール反転も軽いし基本性能しっかりしてて、このころの韓国メーカーがなかなかの力を持ってたのがうかがえるところ。ただ、まだスピニングのなんたるかは全然わかっちょらんかったんだろうな。今でも日本のメーカーも分かってないぐらいで仕方ないけどさ。ということで実に惜しい感じの1台でありました。

 まああれだ、仕事でちょっと関係あった人達をみての感想だけど、韓国の人って失敗しても「いいじゃんこれで」って開き直る傾向にあるようには思う。ケンチャナヨ精神って呼ばれるらしいけど、”なるようになる大丈夫”とかそういうノリらしい。設計どおりの消音化仕様じゃないけど、バネ付けて釣りできるようにしたから大丈夫。って開き直られると発注元は頭痛いだろうな。ワシ、別にだから日本はエラいとか言うつもりはなくて、日本だと「仕様で正確に設計まで指定していなかった御社の責任もあるかと存じます。」って責任のなすりつけとか、発注元にゴネることまではさすがに少ないと信じたいけど、社内でやれ営業がデキもせん仕様で受けやがって、とか技術屋が設計ミスったのは誰が責任とるんだとか、生産性のない内輪もめで問題延々先送りってのが定番だろう。心当たりあるよね?どっちが良いって話じゃなくて違いがあるよって話で”みんなちがって、みんなダメ。”っていう逆みすず状態がこの世の常、そういう違いが、作り出すモノにも結構影響出るのかなと思ったりもする。日本製品のどうでも良いところへの異様なまでの細かいこだわりとか、右へならへの無個性さとかまさに国民性が出てる気がする。それがウケる場合もあれば、不利になる場合もあるので良いんだか悪いんだか。どっちもあるんだろう。っていうなかで今回の韓国製ゼブコは米国の実用主義と韓国のケンチャナヨ精神が出会って止揚した結果、微妙にズレてあと一歩な仕上がりになっております。ってのもまあ趣があるっちゃあるよね。何にせよ楽しめました。

 ゼブコ「クァンタムエナジー」さえメジャーに思えるようなマイナースピニングの記事が読めるのは「ナマジのブログ」だけ。と、80年代少年ジャンプ枠横煽り風に締めて、それではまた来週。

2024年3月9日土曜日

僕が考えた最強の大森タックルオート

 最近釣友が、職場の釣り好きに誘われたのがきっかけとかで、貸しボートでのカマス・アジ釣りにハマっている。昔使ってた魚探引っ張り出して、ボート用の台座自作して取り付けたり、アジの時合いにはアジ釣りマシーンと化して釣ってたり、なかなかに楽しんでいるようだ。で、その時に狭いボートの上で竿先に絡んだ道糸をほどこうとしてたら、反対側のリールが誤ってチャポンと海水に浸かってしまったらしい。一瞬チャポン程度ではどうっちゅうことないだろうという楽観視を尻目に、しばらくしたら中でジャリジャリとした感触が生じ始めた。

 「ほんの一瞬浸かっただけやで」と嘆こうが、覆水盆に返らずっていうか、今時のスピニングリールにおける諸悪の根源”瞬間的逆転機構”がろくな防水機構もなくローターの下に入れてあったら、一瞬ドボンなどもってのほか、水道ジャバジャバ水洗いなんてとんでもない、雨降っても、波かぶっても、あんなところ防水してなければ無防備状態で、しつこく書くけど水辺で使う道具なのに、水かぶった程度で不具合が生じかねない。雨が降ったら釣りに行かず、小さなミスも犯さない、リールを水中に落っことしたり、自分がコケてリール水没させたりしない人間用なのであろうか?ワシャそんなん自分がコケて肋ヒビ入らしているぐらいで、とても上手にあつかわんわい。

 釣友も「別にご大層なリールが欲しいわけじゃなくて、それ買ったら面倒がなくそれっきりで良いのってどれよ?」とぼやくわけである。彼の所持するリールにはそういう良いリールがあるにはあるけど、若き日の相棒であり、もうおいそれとは出したくないらしく、次買うときに同じような面倒な機種はウンザリだということらしい。

 手っ取り早くいくなら、大手の1万円ぐらいからの大衆機で、瞬間的逆転防止機構にガッチリ防水機構が付いているのを買うという選択。整備性は良くないけどラインローラーとかの外回りだけ気をつけてやればよさげ。あとはメーカーメンテ。

 中古で探すなら、そういう耐海水性能で強いのはPENN、整備性が良いので面倒臭くないのが大森、という感じだけど、ボートでアジやらカマスやらを狙う小型リールでとなると、PENNはちょっと弾数少なくかつお高い。大手の大衆機よりヘタすると高くつく。大森No.1サイズはボロければ値段安いし、見た目ボロくても整備すれば機能はなんら問題ないことがほとんど。ということで、どうせわが家で出番もなしに蔵に在庫しているだけなら、使ってもらった方が道具として正しい有り様である。ということで「余らしてる大森でよかったら使えるようにして進呈するよ」ということになった。

 ちょうど、TAKE先生が「コメットG1」の逆転防止の消音化部品を売りに出したところであり、コメットはタックルオートをインスプール化したような機種でハンドル軸のギアとか設計に共通点が多く、件の消音化部品も「タックルオートNo.1」にも適合するとのことで、そのあたりも組み込んで、ワシが考え得る現時点での最強の「タックルオートNo.1」に仕上げて引き渡したい、ということになった。なったんだけど、他に良いリールはないかと、自分が使うのを想定して「面倒臭くなくて優秀なアウトスプールの小型スピニング」にはどんなのがあるか、ってのをちょっと数え上げて考えてみた。

 まずPENN勢は「430ss」「4300ss」「430ssg」あたりだろう。前2者はベールスプリングを折れたら交換する必要があるっていうほかに、欠点と言わなければならんほどの不具合はない。ただ、さっきも書いたように弾数少なく値段高いのでおいそれとは買えん。430ssgは瞬間的逆転防止機構搭載なんだけど、油グッチャリの湿式で使えるので浸水しても平気ではある。ただ寒いとグリスの粘度が上がって逆転してしまったりする。逆転防止機構を一方通行のベアリング一個に任せて単純に仕上げてるのは整備性良くて良いんだけど、欠点もある。弾数少ないのは一緒。

 お次、大森製作所なら「マイクロセブンC1」「キャリアーNo.1」「マイコン301TB」「タックルオートNo.1」「タックルNo.1」あたりか、正直海水での実用性では本体樹脂製の「マイクロセブンC1」がもってこいな気がする。けど、現在使用中の機種であり今回の選からは惜しくも外した。キャリアーも樹脂製だけど人気機種なので値段が高い。「マイコン301TB」も良いリールだけどリアドラグのツマミの隙間から浸水してドラグの調整幅出すバネが錆びがちなのでその点やや注意必要。値段という点では「タックルオートNo.1」「タックルNo.1」はクソ安い。ボロいと2千円しないことが多い。消音化パーツが出たことで「タックルオートNo.1」は若干注目が上がって値もあがるかもだけど、「タックルNo.1」など左巻のネジが失われてることが多いのが難点だけどゴミのような値段で買えるし、じっさい買って今年使用予定で整備済み。ということで、今期も今後も使用予定がなく、大森らしい軽くベールが返る内蹴り機構と簡易ローターブレーキを楽しんでもらうにも「タックルオートNo.1」が最適な機種だろうと考えた。チョイボロすぎる個体をスペアスプール要員兼部品取り個体として抱き合わせてセットで、片方をカリッカリの実戦対応モデルに仕上げて進呈しよう。いじるのは消音化はオマケで、大森スピニング最大の欠点とされる”なで肩のスプールエッジ”、”スプール往復幅より広い糸巻き幅”をレイの方法でアレしてやる。

 と方針はこの時点で決まったんだけど、この際他にも実用性の高い機種ってあるか?と続けてアレコレ考えてみた。

 ABU「カーディナルC3」は合格だろう。ドラグ含め濡れたら困る機構は本体内に収めてある。アキレス腱のベールスプリングも長寿命ベールスプリングを組み込めばだいぶ戦えるはず。ダイワ「ウィスカートーナメントSS」は、かなり良い、ルアー用小型スピニングに初めてロングスプールを採用、まだこの時代は瞬間的逆転防止機構が搭載されておらず、ラインローラーにもベアリングは入ってない。650サイズのベールスプリングは普通のトーションバネだけど、750サイズから上になると耐久性の高いグルグルコイルバネが採用されていて「樹脂ボディーの瞬間逆転防止機構の搭載される直前の機種が実用性が高い」というワシの持論に合致している。バラしにくく整備性はイマイチってことぐらいしか欠点が思いつかない。ラインを端まで巻くとドバッとまとまって出てしまうトラブルが多いらしいけど、糸巻き量減らすことで対応可能。渓流で使ってたけど気持ちよく使えていた。ダイワがトーナメントSSならシマノは「92’ツインパワー2000」が瞬間的逆転防止機構が付く前の樹脂本体機でマルチポイントストッパー方式。分解整備しただけで使ったことないけどこれは良い気がする。ベールスプリングがコイルグルグルなのはポイント高い。リョービ「サイノスXS1000ZM-T」も2000番の同型機をいじった程度だけど、マルチポイントストッパーでベールスプリングがコイルグルグル、ラインローラーに無駄にボールベアリングが入っておらず、やや樹脂で回転部を受ける構造が多いのが耐久性的にどうかと思うけど、まあそれなりに持つんだろうとは思うと上出来。で、ルー(韓国日吉)「ゴールドスピン」は使ったら良かったので、弾が少ないので入手はやや難しいけど実用性高いアウトスプールスピニングとなれば出しておかねばという感じ。他にも、ワシが知らんだけで、瞬間的逆転防止機構が搭載される前の機種で実用性の高いのはあったんだろうと思う。オリムのその時代の機種は触ったことないけど何かあったんだろうし、日本じゃあんまり見ないけど、ゼブコとか絶対アメリールらしい実用性の高いのを用意してただろう。そして、そういうのを下請けしてた韓国、中国製のリールでも丁寧に拾っていけば良いのはあるかも。

 というときに、自分が評価する項目として、重要な項目から書き連ねると「瞬間的逆転防止機構が付いていない」「整備性の良い単純設計」「必要充分な耐久性」「まともなドラグ」「適正な幅のスプール」「適正な形状のスプールエッジ」「ラインローラーにはボールベアリングではなく樹脂製スリーブ」「回転部を受ける工夫」「ベールスプリングはグルグルコイル」「本体樹脂製」「ハンドルはワンタッチ折り畳み不採用、取り付け方法はねじ込み式が望ましいが共回りも可」「ハンドルノブが長時間使ってても指が痛くならない形状」「ローターブレーキ採用」「指がスプールエッジに届く設計」あたりを評価基準にしている。いるけど、いじくってどうにかしてしまえる、あるいは外法で対応可能なら欠点は補完できると思う。 

 ということで、本題の「タックルオートNo.1」の改善に取り組んでいこう。タックルオートNo.1を上の評価項目で評価すると、「適正な幅のスプール」「適正な形状のスプールエッジ」「ベールスプリングはグルグルコイル」「本体樹脂製」「ハンドルノブが長時間使ってても指が痛くならない形状」以外は問題なしである。つまりこの5項目のうち対応可能なものに手を付けようという方針。ベールスプリングはグルグルコイル式に改造できないか考えたことはあるけどなかなか難しい。むしろトーション式のベールスプリングの自作で対応する方が簡単なので、まあ定期的に交換か予備を用意しておくことで対応してもらおう。本体樹脂製じゃないけど、整備性の良さと逆転防止機構まで本体内に入れた、ある程度防水性がある設計でカバーできるので耐海水、耐腐蝕的には充分対応可能だと思う。釣りから帰ったらジャブジャブ洗って、から拭き乾燥。たまにラインローラー、ハンドルノブ、スプール外して主軸の根元に注油程度で問題生じないはず。ハンドルノブの形状については、一概にこれが良いという話ではなくて、釣り手のツマミ方、握り方、手の形大きさで変わってくるので、なんとも言えんところで、ワシは大森の三角パドル型は摘まみやすいし痛くなってこないので好きである。一応マイクロセブンCシリーズのウッドノブ型と2つ用意して使いやすい方をという選択方式にする。で、のこった「適正な幅のスプール」「適正な形状のスプールエッジ」についてはれいによってFRPの板を使って、スプールエッジの形状等調整をやってしまうという方針。あとせっかくなので消音化部品も組み込む。

 まずはだいぶ慣れてきた感のあるスプールエッジの形状等調整。No.1サイズの場合、スプールの幅が約13ミリにたいしてスプール上下幅は約11ミリなので、11ミリの高さの厚紙の下駄を履かせて、填まるように切り出したFRP、8ミリの板をズレないように填めておいて、隙間にティッシュの紙縒りをクルッと入れて瞬間接着剤を染みこませて、その上にさらに紙縒りを重ねてまた瞬間接着剤。という感じで大まかな形状を整える。その上でハンドドリルに填めてエッジの面取りをしてティッシュも削ってある程度滑らかにしたうえで、エポキシで隙間とか窪みを埋めつつロッド回しに刺してコーティング。固まったら銀色のラッカー塗料でヌリヌリで完成。

 でもって、消音化部品の組み込み。消音化部品は樹脂製で出るかと思ったけど、樹脂製だと温度差とかで作動が安定しないとかで、バネ的部品でハンドル軸の回転を拾ってそれを、金属製のカムに伝えてカムの隙間にストッパーの爪を入れて正回転時にラチェットから遠ざけるという仕組み。チョイ面倒だけど金属製なのは丈夫そうで悪くない。

 写真上左が元のストッパーで矢印の位置に爪がない。で外して消音化部品と並べたのが写真上右、右の爪付きのストッパーに交換して、ワッシャーで高さ調整の後、写真下左のように金属製カムを隙間でストッパーの爪をはさむように設置。チョイ見づらいけど写真下右のようにハンドル軸のギアの軸にバネ的部品を填めて、その出っ張って曲げてある部分を金属製カムの隙間の反対側の凹部に填めてやるという手順。そんなに難しくなく、想定していないだろうぐらいにグリスグッチャリなので滑りすぎると上手くいかんのでバネ締め直しとか調整必要かと思ったけど、一発で決まって問題なく機能してくれた。

 カリカリ鳴るの嫌いじゃないけど、たしかにラチェットに当たるごとに抵抗は発生しているわけで、ラチェットに当たらず音が鳴らないようにしてみると、ボールベアリング一個しか使ってない、でもハンドル軸をアルミの本体で直受けにしたりせず真鍮スリーブを入れているという、丁寧な仕事ぶりが光る大森スピニングの真骨頂的な滑らかな回転が味わえる。さすがの大森ハイポイドフェースギア。回転の滑らかさとか、わりとどうでも良いとワシ思ってるにしても、これはこれでたしかに良いものだと思わされた。そりゃ今時の高級スピニング様はもっと滑らかに回るのかもしれん。しれんけど、そのためにどんだけボールベアリング突っ込んで面倒くせえことになってるのかって話。実用上充分以上に滑らかな回転をボールベアリングたったの一個でやっつけている、同時代のボールベアリング2個入りのオートベールと比べても下位機種なのにこの仕上がり。無駄が無くスッキリしてて良いリールだなと改めて思うのよ。って感じでいっちょあがりが下の個体。スプール調整済み、消音化部品組み込み済み。グリスグッチャリ整備済み、ハンドルは純正のまま。対して上がローターが一部欠けてたようなボロ個体で整備済みではあるけどやや回転の滑らかさとか損なわれている。スプールはそのまま(可能ならどちらも試して比較してもらいたいところ、その後追加でスプール形状調整も承ります)。ハンドルはマイクロセブンCSのを付けてあるので、どちらかお好みのを付けて使ってください、どちらにも付けられます、という感じ。結局、リール改造用の部品とか各種売ってるけど、買って価値あるのはスプールとハンドルぐらいで、あとはだいたいにおいて自己満足程度かなと思っている。スプールは同じ替えスプール買うだけでそのリールの戦闘能力が格段に向上するし、形状やら糸巻き量の適正化やらいじれる要素も大きく、スピニングの飛距離とかトラブルの少なさとかスプール上下の方式とかも関係してくるけど、大きくはスプールの形状で決まる話で、ベアリングの数増やして空回ししたときクルックル回るようになったところで戦闘能力はあがらんのでそれは無駄な金の使い方だと思うし、そんなもんよりスプールに金かけろだろ。そしてハンドルはノブの形状とかが手に合わん痛くなってくるヤツだとつらいモノがあるので大事。見た目より何より使ってて痛くなってこないのが良いハンドル。こればっかりは使ってみないと分からん。

 なんにせよ、基本設計がしっかりしている機種に不足している機能を足していく、あるいは必要な調整を施すのは比較的容易に対応可能。でも基本設計に”瞬間的逆転防止機構”なんていうクソがデデンと鎮座していると、防水性とセットでそこは外せないのでどうにもならん。スピニング作ってる各社は早く外せっての。

 とはいえ、しばらくは瞬間的逆転防止機構の流行はおさまらないんだろうから、ワシそういうのはクソだとネットの片隅で叫び、レジスタンス運動に身を投じつつ、クソが鎮座していない時代のスピニングを愛でていきたい。

 てなことやってたら、大森熱がぶり返して「大森スピニングが整備したい!」ってアタイ苦しかったの。でもご安心くだされ。わが家には整備待ちの大森スピニングぐらいたーんとござる。

 ブッコミ泳がせに使ってる「マイコン202」が調子よくてずいぶん気に入ったんだけど、そうなると替えスプールが欲しいなという症状が出てきて、すると出てくるんですね中古市場にポロポロッとボロ個体が2台、2台とも競りもせず確保。まだマシな方を整備して剥げてた塗装もお化粧直しして、すでに現場投入済み。そして、ワシが整備してやらねば燃えないゴミになりそうなジャンクな「マイクロセブンNo.1」のグリーニーな個体。ハンドル後方の左右交換用のネジ入れに格納されていた左用のハンドルネジが赤さびまみれになっていて泣きそうになったけど、ダイヤモンドヤスリでネジ山を復活させてなんとか使用可能な状態に復帰。てな感じに今期も楽しく大森沼にズブズブと潜っております。皆様もご自愛くださいませ。アタイ病気が憎いっ!

2024年3月8日金曜日

鳥山先生、あなたがナンバーワンだ!

 ドラゴンボールの作者である、なんて前置きする必要もないぐらいのマンガ家、鳥山明先生が、3月1日急性硬膜下血腫により亡くなられたとの訃報が・・・・68歳とのことで世界中で愛された作品の生みの親の若すぎる死に衝撃が走っている。ドラゴンボールも凄いけど、なにげにゲームの「ドラゴンクエスト」のキャラクターデザインとか後生に与えた影響はすざまじく、多分いま”スライム”と言って皆が水饅頭みたいな可愛いキャラクターを頭に思い浮かべるのは、鳥山先生の功績に他ならないと思う。 

 「ドクタースランプ」も「ドラゴンボール」もジャンプ掲載時にワクワクしながら読んでいた直撃世代としては、感謝を込めて安らかにお眠りくださいとお祈りするしかない。

 よく、ネットではマンガ家で”画力”が高いのは誰かという議論がなされる。書き込みの多い緻密な絵を描く三浦建太郎先生や森薫先生が候補としてよく上がってくるけど「マンガ表現としての画力というのは、単に絵が上手いだけではなく、マンガとしての動きや物語を表現しうる能力というのも重要ではないか?」という疑義が呈され、そうなってくると俄然、それなら鳥山明先生が一番だと推す声が大きくなる。私もそれに一票投じたい。

 アメリカのカートゥーンみたいなコミカルな表情変化から、戦闘シーンの迫力のある動きや衝撃の大きさまで描ききる力量。これをマンガ家の画力といわずして何という。

 ドラゴンボールはキンドル版でも読み直したけど、今読んでもまったく古びてないどころか、夢中になって読むことができた。これからも世界中で先生の生み出した作品やキャラクター達は愛され続けるだろう。

 鳥山先生、楽しい時をありがとうございました。

2024年3月2日土曜日

スピンフィッシャーはこのあたりから始まる

 最初のスピンフィッシャーである「 スピンフィッシャー700」はミスティックさんところでみると、前回の704等と同じく1966年発売となっているけど、これから書くようなモロモロ勘案すると、ORCA(オールドリールコレクターズアソシエーション)で識者が書き込んでいるように1963年カタログ掲載(≓発売)と見て良さそうだ。スピンフィッシャーに詳しいマニア氏の英語サイトがあったんだけど、ブックマークしてあったけど既に閉鎖されているようで残念(いまどき個人管理のウェブサイトなんて絶滅危惧種だな)。ORCAでも写真が上げられているけど、最初のモデルはハンドルがわが家のと形状が違いクルッと反転できないタイプ。わが家のは例の”謎のデカアメリール&マイナー大森大放出祭り!”で入手したものだけど、ハンドルは704と同じ仕様である。同時期に製造された個体だろうなと想像できる。それでも60年代中盤からから70年代始めのリールである。初期モデルでなくても半世紀は前の個体で充分に歴史を感じさせてくれるなかなかの品である。PENN好きとしては1台ぐらい持ってても良いなと思って気合い入れて入札して意外と値段釣り上がらず6600円(送料別)で落札。イイ買い物だったんじゃなかろうか。それにしてもORCAで話題に上がってるマイクC氏の「PENNの本」が読んでみたい。っていうかあっちのコレクターの自費出版本とか手に入れるにはどうすりゃ良いんじゃ?まあ手に入れても自動翻訳かけられるデータ形式じゃないと読めンけどな。船上のガイドさんの英語とかわりと分かる”洋上英会話”がそれなりにできる方なので、釣りの話なら読めるだろうと「トラウト・バム」が面白かったジョン・ギーラック氏のKinndle版「フールズパラダイス」の英語のを買ったけど読めんかった。東氏ギーラック本もっと翻訳してくださいプリーズ。

 まあ、枕はこのくらいにしていつものように分解整備。いつものようにスプール周りから。
 最初っからスプールを乗っける台座の上には真鍮で太らせたドラグ部を受ける部品が乗っていて、かつスプールの方にも真鍮スリーブが入っててアルミ直受けではないっていうところが、栴檀は双葉より芳しな感じである。
 でドラグなんだけど、ドラグノブにはバネが入っていてそれなりに調整幅も出ている。700では3階建てではなくて1階建ての単純なドラグ構成になっているけど、そこそこの効き具合と滑らかさで存外悪くない。ドラグパッドは704にも使われていた、樹脂に繊維を混ぜて固めたような謎素材なんだけど、意外に重要なのはスプール裏面と座面に入ってるワッシャーだと思う。今時のリールなら3階建てのドラグの仕事を邪魔しないように直径小さめで滑りの良いテフロンのワッシャー入れてるかアホみたいにベアリング入れてるかだろうけど、当然ながらドラグ全体の”効き”としてはこのスプールの下のパッド等の摩擦力って含まれてきて、昔の日本製リールにここに摩擦力の大きなファイバーワッシャーが入ってるのは、ギッチリ締まらないとクレームが来るような“投げ釣り”偏重の我が国釣り具市場の要望にあわせて全体として締まりを良くしていたんじゃないかと思っている。でもって、この700のスプール座面には上の写真でも分かるように結構大きめの直径のが入っててスプール裏側にもそれを受ける面を設けてある。ちなみに材質は皮。スプール座面のワッシャーの直径を大きくしてドラグとして機能させるのは後の9500ssにも繫がるようなそうでもないような。ともかく単純な設計ながら割と良い塩梅のドラグになってるのはさすがPENN、”さすペン”という感じ。

 本体蓋パカッと開けると、まあここはもう700番台インスプールではお馴染みのステン芯真鍮のハンドル軸ギアにステンのローター軸ギア、単純クランク方式にハンドル軸ギアの裏にラチェットがあって、そこに掛ける逆転防止機構。以前の持ち主は良く分かってらっしゃった感じでグリスグッチャリ。とここまではいいんだけど、ちょっと危なかったのがグリーニーな塗装。ちょっといつもと塗料が違う感じなので念のためと、パーツクリーナーかけるまえにスプール裏面を試しにとティッシュにパーツクリーナー液付けて拭いてみたら、写真の様に塗料溶けてきやがる。ダイナミックで失敗しておいて良かった。ダイワの作ったパチモンとではさすがにワシの中での重要性は月とすっぽんである。ということで今回グリーニーな本体やらスプールやらはパーツクリーナーではなくCRC666ぶっかけてティッシュで拭き拭きして古いグリスとかをぬぐい落として作業を進めた。

 でもって、700の写真とか見る度にローターが下の方だけグリーニーカラーじゃなくて金属剥き出しなのはなんでじゃろ?と疑問に思っていた。海外オークションサイトとかで見てると、同じ色で下まで塗られている個体とかもあるので、初期の頃はアルミ鋳造一体成形では強度が出せないので、下部だけステンとかの丈夫なのにして継いでるとかか?と想像していた。704のローターにこれでもかというぐらい梁が入れられて強化されているのを見てその思いは強まってたんだけど、バラしてみたら大ハズれ。なんのことはないローターが円筒形で、色の違う下のカップ部はボールベアリングとローター軸のギアを押さえているリングと一体のもので、ついでにこのカップを本体に止めているネジの一つが大きく凸ってて、ベール反転レバーの蹴飛ばしを兼ねている。初めて見る面白い設計。ちなみにベール反転機構はベールアームと反対側に入ってて重量分散されてるのは後のスピンフィッシャーに引き継がれていく方式。多分だけど後の時代の700には704みたいにカップまで一体成形のもあったんだと思う。

 ベール周りに移っていくと、ラインローラーは灰色の素材がちょっと分からんモノなんだけど回転式で軸には油溝が切ってある。色的には酸化アルミ系のセラミックに見えるけどこの時代そんな素材あったのか疑問。
 ちょっと重めの質感からいってタングステンかなと思うんだけど、横から見るとなんかスリーブを填め込んだような段差が見て取れて、そのへんも謎なんだけどまあわからんもんはわからんわい。

 ちょっと小ネタで面白かったのが、このリール、ボールベアリング一個使ってて、片面シールのステンレス製なんだけど「Maid in USA」でこの手の細かいボールベアリングって北欧やアジアあたりで作ってたんだと思ってたけど、米国製のもあったのね。って意外だった。でも今ググったらミニチュアベアリングの世界シェアは一位ミネベア(日本)、二位SKF(スウェーデン)、三位RBC(米国)と米国製ワシが知らんだけだった模様、そら工業国だしあたりまえか。そのわりにリールに入ってるのみかけんけど無印のは米国製だったりするんだろうか?米国製は誇らしく「Maid in USA」って入れるよね?

 ベールアームのブチ当たるところのストッパーが、キノコ型のゴムをバネで補強したような代物なんだけど、残念ながら経年劣化か割れ始めている。ぶっといナイロンショックリーダーと適当なスリーブとかで新しくこさえても良いんだけど、このリールは使用の予定はなく、なるべく元の状態を維持したい。仕方ないのでセメダインスーパーXで固めておくんだけど、右の写真なにやってるのかというと接着面を圧着するのに輪ゴムを使ったんだけど、輪ゴムそのまま使うと当然はみ出した接着剤で輪ゴムもくっついてしまう。なのでスーパーXの取説読んで接着できない素材となっているポリエチレンの袋の切れっ端をはさんで固定して接着。という接着剤の使い方の細かい技です。接着剤を使う時、そいつが何と何をくっつけるのかを知ってるべきなのは当然として、何と何がくっつけられないのかを知ってると意外に応用が効きます。

 てな感じで、独特だけど単純な設計でサクサク分解終了でCRCかけて拭き拭き、金属部品はパーツクリーナーでピカピカに、仕上げはいつものようにグリスグッチャリであと50年は良い状態で保存可能かなとおもっちょります。

 使って使えないリールではなく、実釣能力は充分あると思うけど、使わず保管という選択になったのは、一つには歴史的な資料価値のある1台だと思うっていうのと、もう一つにはぶっちゃけ704と使い分けどころがないのと違うか?っていうところ。
 700の糸巻き量は250y/20lbで番手的に704より小さいんだと思ってたけど704zが前回も書いたけど235y/20lb(ついでに6500ssが220y/20lb)とやや700のほうが大きいぐらいで、700番台については下二桁が10以上のが700より小型、一桁が大型と思ってたけどどうも違うようである。一番下の写真見れば分かるように700、740,6500ssはだいたいサイズ感一緒である。
 てなことや、設計が704に比べると詰め切ってない感じ、発売年が他の700番台より先ということを考えると、700は先行試作版的な意味もある、エヴァンゲリオンでいうところの零号機で、704やら714の改良が加えられたグリーニーな後発機がある意味完成形の初号機、Zの時代が我々がスピンフッシャーと聞いて想像する黒金になった本物のスピンフィッシャーで2号機、3桁が色目的には黒だけどちょい縁起悪いなな3号機、4桁が米国で(人気)爆発した4号機ってところか?例えると余計わけ分からんけど、とにかく700はPENNらしい海を想定した大型機の系譜の始祖にして、基本的な構造は整ったものの、ドラグやラインローラー、ローター形状等に改良の余地のあるプロトタイプ的な機種だったんだろうなと思いましたとさ。最初の機種がこの大きさってところが”さすぺン”。

 スピンフィッシャーは最初からスピンフィッシャーそのものだったけど、歴史を見ていくと、何度も書くけど少しずつ改良を加えられて進化していったんだなと、改めてその長い歴史に敬意を抱くところである。