2020年5月2日土曜日

おあげさんの実力


 人類史を紐解いてみると、農耕が果たした役割は非常に大きいことは論を待たないだろう。狩猟採取生活のころの方が、単位時間当たりの労働に対するタンパク質獲得量は多かったので良いもの食ってたって説も読んだことあるけど、タネをまいて計画的に生産できて、特に備蓄が可能な穀物を生産するようになって、人間は「もしもの時に蓄えておこう」という保険を掛けることができるようになって、蓄えるとソレを奪われないようにせにゃならんとか、余った分は売り買いできるとか、おとなしく獲れるモノを獲ってみんなで食ってりゃ幸せだったかも知れないのに、持つ者と持たざる者の差が生まれ争いも生まれた。現代でも世界経済を牛耳る存在に石油メジャーと呼ばれる企業群と並んで穀物メジャーなんてのがあるぐらいで、農業で計画的に生産して備蓄できる食糧の重要度は様々な意味で高い。
 などという小難しい枕から入ったけど、要するに釣りっていうのはプロの漁師が経済活動として営んだとしても、この21世紀において未だ引き継がれている純然たる狩猟採取活動の一種で、計画・安定なんてハナから期待するなという感じの出たとこ勝負であり、資源管理して持続的にっていうのは理想だし方向としては間違ってないんだろうけど、捕らぬタヌキのように漁獲物をアテにしているとスカくらってオマンマ食いあげるって話で、コロナ禍で”生け簀”とまで呼んでアテにしていた釣り場が実質封鎖になって、あっさりオマンマ食いあげてしまったワシがいかにして糊口をしのいだかっちゅうお話しじゃ。貧乏で食うモンねえって時には役に立つと思うので心して読むのじゃ。

 貧乏飯の経験は学生時代にたんまりと積んでいて、今も昔も基本は一緒である。まずは貧乏人は米を食えで、米炊いて自炊が基本であることは揺るがない。スパゲッティーやらうどんやら乾麺も安いけど米の方がなんでもオカズにしてしまえる万能性があって堅いのでまず米を炊く。
 そして安い野菜と、安い蛋白源をオカズに調理して食うんだけど、これがいま安い野菜の代表格キャベツと大根始め生鮮野菜が高騰しまくってて生け簀の封鎖と共に痛手だった。こういうときは値段安くて安定の”もやし”の連投でしのぐしかないとして、安い蛋白源とはなにか?と問われれば、それは昔っから変わらず鶏卵と各種大豆製品である。
 鶏卵ヘタするとワシが学生じゃったウン十年前と同じように1パック100円セールで売ってたりする恐ろしい価格の優等生。そのうえ美味いし栄養は”完全食品”とまで讃えられるほどだし、調理は単純に白飯の上にパカッと割って醤油かけて卵ご飯という簡単なモノから、卵白だけ泡立ててメレンゲにしてケーキを焼くとかの応用編まで多種多様な使い方ができる優秀さで、昼飯は特に食う獲物がなければ卵ご飯でいいやという感じじゃ。
 そして大豆製品、これまでワシャ大豆製品と言えば豆腐で麻婆豆腐、冷や奴、厚揚げをレンチンして鰹節とめんつゆかけて”即席揚げ出し豆腐”とかで堪能してきた。1丁50円から100円程度で食いでがあって腹持ちよくて味も良い。納豆もいい。


 でも最近見直したのが、なんかカスカスの腹持ち悪そうな雑魚キャラだ思っていた”油揚げ”が、なかなかにヤると言うことに気付かされて、何とかシロギスが釣れ始めてオカズ事情が改善されてきたけど、ソレまで一時期アゲ連投でしのがせてもらった。
 まずは、定番の味噌汁だけど、野菜の味噌汁に油揚げが入るだけで油っこさが付加されて格段に”オカズ値”が上昇する。
 ワシャ食通でも何でもないんで、飯なんぞ白飯に味噌汁で腹がふくれればとりあえず満足じゃ。
 で、この油揚げが割と汁気を吸って味付けが決まる、ッテことに気がついて色々とやってみた。


 簡単なのはフライパンでジュジュッと焼いてからめんつゆ掛け回してご飯に乗っけて冒頭の”油揚げ丼”なんだけど、これはちょっと惜しい気がする物足りなさがある。良い線行ってるんだけどもう一歩で化ける気配があるなと、化けさせてみた現時点でのワシの考えた油揚げ最強料理が”他人丼キツネ版”なのじゃ。ありがちな料理なので正式な料理名あるかもしれんな。
 親子丼の鶏肉をというかカツ丼のカツを油揚げに変換したもので、油揚げが汁を吸ってかつ適度に全体に油っ気がでて、卵と絡んで味も腹持ちも満足のいく一品に仕上がったと自負している。
 作る手順としては、フライパンにメンツユ適当に薄めて砂糖ぶち込んでお好きな味のタレを作って、その中に切ったタマネギと油揚げをぶち込んで煮立てる、写真のは日持ちしないもやしも余ってたのぶち込んでもやし入り版になっている。
 適度に火が通ったら卵を割り入れてグチャッと適当にかき混ぜて良い塩梅に火が通るチョイ手前で火を止めて蓋をして卵を好みの状態に固めて、あとは丼飯にぶちかまして食う。うまいゾ。

 これ油揚げをクソ安い鶏皮でやっても”廉価版親子丼”って感じで美味かった。ただ鶏皮は年寄りには脂っ気が多すぎてちょっとお腹下した。若い頃のようには鳥獣肉の脂が消化できなくなってきているようで寂しい。トンカツ屋でヒレカツ食ってるようなオッサンを密かに軽蔑してたけど、ひょっとしたらワシもうロースのトンカツはよう食わんかもしれん。
 貧乏飯っていっても、米と卵と大豆製品が買える程度の貧乏なら十分楽しめると思ってて、魚の供給が長期間途絶するようならシリーズ化して、他にもあまた学生時代に開発した貧乏飯レシピとかあるので紹介しようかと思ったけど、ありがたいことに紀伊半島は魚が多くてそこそこ釣るものはあるようなので、また不漁になったらその時に披露することとしたい。
 今ワシの月の食費は1万円台前半から1万5千円ちょいぐらいの間で落ち着いてきていて、魚釣って食ってるってこともあるけど、この程度の食費でも割と美味しいモノ腹一杯食べてます。

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