2017年2月25日土曜日

沼に足を突っ込んでみなければ「奥が深い」か分からない

 前々から「奥が深い」という言葉自体に違和感を覚えることが多かった。
 まあ、極端な例を出せばその道うん十年の求道者とかが言うならそうなんだろうなと思うが、TVのレポーターとかが体験コーナーとかでちょっと囓っただけで「奥が深いですねー」とか言ってるのをみると、「思いっきり浅いところしかオマエみえてないやろ!」と突っ込まずにいられない。

 まあ、どんな趣味だろうと事がらだろうと、突き詰めていけばどこまででも深く探求できるのが人間の好奇心とか向上心とかの性質で、逆に「奥が浅い」物事などないとも思うのだが、割合良く目にする台詞である。

 ヘラブナ関係の情報をネットであさっていても「奥が深い」という言葉は散見されるので、まあ浅いわけはないだろうが、ネットに転がってる程度の情報でいちいち「深い」と感心するほど「うぶ」でもないスレッカラシな釣り人なので、いかにも大層なことをやっているような大仰な書きぶりの割りにしょうもないことしか書いてなかったりすると鼻ほじりながら半笑いで読ませてもらっている。

 しかしながら競技の世界もあり、釣り具メーカー、餌メーカーが本腰入れて普及させている釣りだけあって、様々な試みがなされていて技術の情報から道具餌の情報から、多種多様な情報に溢れている。玉石混淆なんだろうけど、どれが玉やら石なのやらまだ判別もつきかねる。
 こういういろんな釣り方やらがあることを指して、えてして半可通は「奥が深い」とか言ってしまうんだろうと想像に難くないが、情報が多様に広がっている様は「深い」のではないと思う。
 じゃあどう表現するのかといえば、正解はないのかも知れないけど、椎名誠先生が釣りをするようになって防波堤周りの釣りがいろんな釣りものがあって「情報が華やいでいて楽しい」とか書いていて、なるほどなと読んだことがある。シーナ先生さすが物書き。紋切り型の「奥が深い」よりはずいぶん的を射ている気がする。

 そういう「情報が華やいでいる」ヘラ釣りについて勉強していて、自分はどんな「ヘラ釣り」をしたいのか?という問いが頭に浮かぶ。

 最先端のテクニックや道具、餌を駆使して数を釣りまくり、競技の釣りで勝ち抜けるようなトーナメンターを目指すのか?
 たぶん違うだろう。ハゼとかワカサギとか100釣っても全部美味しく食べられる釣りなら数を目指すのも一興だと思うが、釣りを楽しむためだけに数を競うのには正直抵抗がある。罪深き釣り人がなにを今更な感じだが、シーバス釣りで間違って1日5匹以上とか釣れると、なにか悪いことしているような尻の据わりの悪さを感じるときがある。
 ヘラ釣りにおいて数を釣るという方向を試行するのはある程度必然だと思うが、数が目標なのか、もっというと人より釣りたいかと考えると、それ程釣りたいとも思わない。
 じゃあ一発大物かというとヘラブナはそういう性格の釣りものではあまりない気がするし、近所に管理釣り場があるから、気楽に行けそうだから釣りたいのであって今のところそれ以上ではない。

 ということで、結局いつのも他の釣りものと一緒で、「面白く釣る」「楽しんで釣る」ぐらいしか根本的には目標がない。
 まあ、あんまり釣れないとつまんないので、そこそこアタリとかの反応が出て、半日なり1日釣って5から10も釣れれば、匹数的には充分じゃないだろうか。
  
 その中で、渋いときにでもコンスタントに釣果は出すとか、良く釣れるときには色々実験してみるとか、最初のうちはスカ食うカモだけど楽しんでみたい。

 当面は何とか実戦で使えるようなスカ食わないレベルの技術の取得が課題になるだろうが、そのうちやっつけてしまいたい「ナマジ的課題」もすでにいくつか見えてきたように思う。
 見えてきた課題を総括すると「ヘラ釣りでは高度で複雑な技術とそれを支える最高の道具や餌が必要だ」という、「その幻想をぶち殺す」だろうか?

 趣味の世界だから、職人が作った工芸品的な道具にお金をかけて道具の目利きから楽しんでももちろん良いし、商品の売り上げと自身の価値観をかけたトーナメンターが時に宗教じみた信念で己の信じるテクニックを世に問うてもぜんぜん構わない。好きにしてくれだ。
 でも、そいういうのが前面に出てきちゃうと敷居が高い感じがしてきて、テキトーにゆるふわな感じでちょっと近所でヘラでも釣ったろかという人間は肩身が狭くてやりにくい。
 なので、シンプルに低コストにを念頭に「ゆるふわなヘラ釣り」を真面目に考えてみたいと思っている。
 しょせん私の釣りは、生活も名声もなにもかかってない、ただの暇つぶしの釣りである。楽しく暇がつぶれればそれで重畳。

 「ゆるふわ」に楽しむのにまずは、ヘラ釣りって道具がめんどくせえという印象があった。釣り座にパラソルとか付いてて道具が多そうだと感じていた。
 でも、実際に道具を買って準備してみると、普通の釣りに無いもので必須なのは「竿掛け」ぐらいで、腰痛持ちなので背もたれ付きのクッションマットなんてのも買ったけど思ったほどお金もかからなかった。餌まだ買ってないけど全体で4万5千円ぐらい。今時そのぐらいは竿一本でもかかったりするけど、竿は安竿が好きなので大手メーカーの初心者用を中古で買ったら1本3千円ぐらいだったので長さ変えて2本買った。道具入れとか竿ケースとかは他の釣りで使っているものを流用できそう。

 でもって、一番お金がかかったのが「浮き」で今後かかりそうなのが「餌」。

 「浮き」は、天然素材であるクジャクの羽の芯とかを使って手作りなので、1本3千円からするのもまあそんなもんだろうとバルサ製やウッド製のルアーの値段と比較しても納得はする。
 納得はするんだけど、でもこの釣りの肝の一つの道具だとはいえやっぱり高いと思ってしまう。
 浮きの性能を決める要素って、目盛りの振ってある「トップ」の素材(の違いに由来する太さの差)、本体ボディーの「浮力」、トップから足まで含めた全体の浮力というか重心のバランス、の3点が主なもので、他の要素としては水の抵抗とか慣性力とかもあるんだろうけど、まあそれ程大きな要素でもなさそう。あとは趣味や好みの話で、だからこそ売ってる「ヘラ浮き」はどれもクジャクやカヤ製のボディーでそれ程奇抜な形はなくて失礼ながら似たような形に収斂されて落ち着いているのだと思う。
 だったら、自分で作ってしまっても良いんじゃないかと考えてネットで情報収集してみると、結構作っている人もいる。それでもカヤを熱したガラスチューブで整形してとかは面倒くさそう。
 もっと「ゆるふわ」に、見た目とか気にしないのなら、いい加減に作ってしまえないだろうかと考えている。
 まずは、使える「浮き」というのが釣り場でどういう動きをしてどんな機能を持っているのかは釣ってみないと知りようがないので、とりあえずはF師匠と釣り具屋さんに勧められた浮きを使って釣れるようにまでなってみて、そこから「いい加減な」浮き作りに挑戦してみたい。

 「餌」のほうだが、これがまた餌メーカーのお抱えテスターとかの記事を読んでいると、使い分けがどうたら、ブレンドの比率がどうたら、作り方がどうたら、複雑怪奇でかつ人によって言ってることが違う。
 まあ、この辺はルアーと全く一緒。メーカー側はいろんなの売ろうとして躍起になってるけど、実際には自分の釣り場やら釣り方にしっくりくるパターンやら得意パターンやらを作ってそれをベースにアレンジするぐらいが休日釣り師には関の山で、沢山あって迷うのは楽しいかも知れないけど、ルアーと違って「餌」は日持ちの問題もあるので、そんなにいろんな種類買えるかよという感じ。
 餌は練れば粘ってバラけにくくなるし、水を多くするとばらけやすくなるというので、その辺の微調整で何とかなることも多いだろうし、極論すれば一番バラけやすい餌と一番バラけにくい餌の2種類を買って混ぜてやれば好きなようにできる理屈である。
 「餌はバラケだけが要素じゃない」とか理屈と膏薬はどこにでも付くんだろうけど、メーカーからも親切に初心者用に釣り方別に配合比率を調整した餌も売ってるので、素人の暇つぶしの釣りぐらいそれで何とかなるように、餌以外の仕掛けだとかも含めて技術を磨いた方が正しいように思う。
 ルアーでも釣れないときに、ルアーが原因だと思い始めるとドツボにはまりがちなのと一緒だろうというのは想像に難くない。釣れやん魚はなにやっても釣れやんのである。

 もういっちょ、ついでと言っては何だけどナマジ的には重要案件。「おもり」は重さの微調整のできる鉛の板おもりを使うのがヘラ釣りの常識だが、水鳥の口に入る大きさのおもりには鉛を使わないと心に決めているので、スズ製のガン玉で何とかする。小さいサイズの個数調整や必要なら削って調整で対応する。水鳥は小石を飲んで砂嚢(砂肝)に貯めて食べた餌をすりつぶすのに使っている。散弾銃の弾や釣りのおもりなどで小石大の鉛が環境中にばらまかれると、それを食べた水鳥が鉛中毒で命を落とす。ラインが高切れしておもりが水中に残ってしまうことなど稀なことかも知れないが、暇つぶしの釣りごときで水鳥の命を危険にさらすのは可能な限り避けておきたい。スズ製のおもりは鉛製に比べて若干軽く、そこそこ高価だが釣り業界全体で考えて欲しいと思っていて、とりあえずはスズ製のおもりで充分釣りになることを証明していきたい。ハゼ釣りテナガ釣りワカサギ釣りではスズ製おもりで何の問題もなく釣りができている。


 とまあ、釣る前からゆるふわにして壮大な野望を抱いているのだが、実際に釣ってみれば思うようにはいかなかったり、思いもよらない発見があったりするのだろう。
 正直言って、隣で座って釣っても技術で差が出るような「技術的」な釣りって、私の最も苦手な釣りだと思っている。
 ルアーの釣りにおいては「技術なんて投げて巻くだけ」と割り切って、釣り場やタイミングの選択でいかに「釣れる魚」を見つけるかを主眼において釣ってきたつもりである。

 ただ、釣りにおいて「技術」なんていうのは、「どんなアタリも拾える魔法の浮き」やら「どんな食い渋りでも口を使わせる奇跡の餌レシピ」とかみたいな、ちょっと考えただけであり得ない詐欺のような都合の良い技術ではなくて、丁寧に基本を押さえた手順とかちょっとずつ工夫を加えて手にした手返しだとかの効率化とか、辛酸舐めて頭と体にたたき込んだ得意技とか、そういう地道なものだと理解するぐらいには老成した釣り人になってきているので、座って釣れる釣りならジジイになってもできるだろうし、そろそろ始めて良いタイミングなのかなと思う。
 始めてみて「やっぱりオレには合わん!」となるのか、ハマって毎週詳細に複雑な餌の混合についての報告を書き始めるのか、まあ釣ればおいおい分かるだろう。できれば気楽に長くつき合うことができればいいな。

 「釣り」についての人それぞれの考え方は、前の方でも書いたけど時に宗教じみていると感じられる。
 いまの「ヘラ釣り」の競技の釣りをベースにした考え方がある中で「ゆるふわ」とか、真面目にやっている人からすれば馬鹿にされたように感じるかもしれない。
 せっかくそれで楽しんでいる人がいっぱいいるのに、それに反旗を翻すようなコトを書くのは、教会とかに行って「神などいない!」と叫ぶような無粋な行為かもしれない。でも書く。どんな神を信じようと自由だし、神などいないと信じてもいい。ここは教会じゃないし、ナマジは少数派の天邪鬼の代弁者でありたいと思う。
 お気に障ったらご容赦を、鼻で笑いながら楽しんでいただけたなら幸いです。こうご期待。

2017年2月19日日曜日

へら学ことはじめ

 「サクラが咲いたらオレ、へら釣り始めるんだ」などと、死亡フラグ臭い台詞を吐いている今日この頃、皆様お加減いかがでしょうか。
 私、リハビリの方は3歩進んで2歩下がるというか三寒四温というか、まあ悪くはなってないからいいか、という感じの進み具合。あせっても仕方ないと自分に言い聞かせる日々。

 春のシーバス釣りは楽しくて、リハビリの励みにはなっているんだけど、2月3月は近所ポイントを攻めるとして、4月5月がここ数年、港湾部の立ち入り禁止の強化で釣り場が激減してちょっと苦戦している。この傾向は東京オリンピックを控えてることとかテロ対策とかでこれからも進む方向だろうから気が重い。
 事故とか起こった場合の管理責任とかもあるだろうから、立ち入り禁止にしてしまえば管理は楽なんだろうけど、事故なんて滅多に起こらない上に、釣り人でも人がいる限り、本来人気のない暗い港湾部での密輸やら傷害やらの事件が起こりにくくなるという、放っておけばタダで巡回警備員が雇えている状態なのに馬鹿臭いことやってるなと正直思っている。

 河川はまだ港湾部ほどうるさくないので4月5月も河川を中心にシーバスは狙っていくけど、河川は潮の効きが釣果に直結するので、いつでも条件がそろうわけじゃない。

 ということで、この時期のシーバスの裏作として何か面白い釣りはないかと探っていた。オイカワ釣りはそこそこ楽しくて割と安パイなんだけど、もうちょっと新鮮味のある釣りものも開拓したい。

 これまで、いろんな釣りをやってきたけど手が出せていない釣りに、アユの友釣り、本格的な磯釣り、チヌ釣り、ヘラブナ釣りなどがある。これらは、高度に技術が体系化されていてトーナメントとかも行われる、ちょっと敷居が高いと感じる釣りである。素人がひょいと手持ちの道具で、というのは難しい。アユもグレもチヌもヘラも釣ったこと自体はあるのだけど、専門的に狙うとなると道具への投資からしてちょっと覚悟がいる。

 ところが、ここ数年、故郷のF師匠がライギョ釣りに行った池でヘラ釣りの人に竿を握らせてもらったところから、ズボッとはまってヘラに夢中になっている。ずいぶん面白いようで、これはそろそろ私もヘラ釣り始める時期なのかなと思い、そもそも近くでヘラ釣りできるところがないか調べてみた。
 一カ所テナガポイントの近くの河川敷に人工の池があってヘラ釣りのオッサン達がパラソルさして釣っているのは知っていたが、調べると他にも自転車で行ける範囲に公園の中の半自然の砂利採取跡池を使った管理釣り場があることが判明。
 偵察に行ったところ、クソ寒い中桟橋にオッサン達が並んで座って釣っていた。事務所には「例会」の告知とか貼ってあって本格的な感じ。
 とりあえずこの管理釣り場でヘラ釣りを始めて、F師匠の通信教育とあわせて、隣の人の釣り見て我が釣り直せで行こうかと思う。
 当日は寒くて全く釣れてなくて、暇そうにトイレ休憩にきた釣り人をつかまえて、竿とかどんな長さが必要かと聞いてみたら、春なら9尺とか10尺の短いのでできるけど、冬は沖目の底を釣るので18尺とか20尺とかを使うよとのこと。とりあえず春浅い棚で釣れる時期に始めるとして、10尺をまず買ってみようと思う。

 ということで、F師匠お勧めの入門書「ヘラブナ釣り入門」でお勉強を始めたところ。
 なにはさておき道具そろえるのがまず楽しいよね、ということでヘラ釣り独特の「竿掛け」あたりは既に専門店に発注した。
 ヘラ釣りと一口でいっても、中層を釣るか底を釣るか、餌は何を使うかとかで、いろんな釣り方があるようだ。
 とはいえ、始めたばかりの素人が様々な釣り方の技術を使い分けることなどできるわけがないので、まあおいおい憶えていくにして、まずは「ヘラ釣り」といったときに真っ先に連想する、2本バリの上針に寄せ餌であるバラケ餌を、下針に食わせ餌であるグルテン餌を使って、魚を寄せて中層を釣る「宙づり」から始めてみたい。
 ヘラ釣りは、浮きの微妙な動きで餌の状態と魚の状態を探りながら釣る釣りのようなので、浮きはちょっと良いのを選ぶ必要がありそうでF師匠おすすめの三千円ぐらいの中級グレードのを何本か買おうと思う。
 浮きであたりをとるのはもちろん、餌の状態、バラケ餌がだんだん減って浮きが微妙に上がってくる様子だとかまでみるようなので、ちょっと慣れるまで難しいかも知れない。
 餌も、バラけるスピードやらハリ持ちの良さやらを、各種餌の配分やら捏ね方、付け方で魚の活性や棚などの状況に合わせるとか、いろいろ考えなければならないようだ。
 左手で餌付けして、テンポ良く振り込むとか、ぬれタオルで手を拭いて餌を扱うとか、効率的に釣っていくための手練も必要だし、必要な道具を自転車で運んで釣り場で整理良く使いやすく展開するための運搬収納方法とか、いろいろ試してこれまた工夫せねばである。

 まあ、最近はネットで映像も見られるし、ぶっちゃけ管理釣り場なら隣の人にあれこれ聞くというのもありだろう。もちろんF師匠の通信教育も頼りにしているところ。
 どうしても上手くいかないようなら魚のいっぱいいるらしい釣り堀も電車でちょっと行くとあるのでそこで修行しても良いだろう。

 結局釣りはどんな釣りでも実際に釣ってみて、課題を持ち帰って考えて、また実釣で試してという試行錯誤の繰り返しだと思うので、とにかくサクラが咲く頃突撃してみようと思う。

2017年2月12日日曜日

暗黒に潜む名状しがたきもの達の婚姻の宴

 玄く冷たい季節が終末を迎え、月の力が満ちてまた衰えるとき、そのもの達は婚姻の予感に打ち震える。

 光の届かない暗黒で、牙とあまたの触手をそよがせて生きてきた体に歓喜がほとばしる。

 汚らわしい太陽が地に落ちる頃、そのもの達は我先にと天上を目指す。

 宴の夜は短い。

 生の限りを尽くしてそのもの達は精を放ち地に溢れんと繁栄を求める。

 宴の夜は恐ろしい。

 多くのものが狩られる恐怖さえ感じるまもなく狩るものの胃の腑に落ちる。

 宴の夜は狂おしい。

 生と死が、静寂と混乱が、始まりと終焉が、あるべきものとなかったものが、得たものと失ったものが、観測されるものと観測するものが、箱の中の猫のように不確実。

 宴の夜は待ち遠しい。

 不確実なものが確かなものとなることが過去においてのみならば、今宵を過去にせんがため、今宵いざゆかん。

2017年2月4日土曜日

サイモチの神-巨人篇-

 「デカいというのはそれだけで偉い」ととある先輩釣り師が言っていたが、確かにそういう部分があることは否定できない。
 サメからちょっと脱線するが、史上最大の脊椎動物であるシロナガスクジラが水面で潮を吹いて(呼吸して)その後潜っていく映像を見たことあるのだが、最初潮吹いて、背中がでて、そこから延々と背中が続いて、まだかまだかと息をのんでいるとやっと尻ビレが水面上に現れて潜行していく、という感じでその体躯の信じられないまでの巨大さに見蕩れてしまった。デカいというだけで畏敬の念が湧いた。
 さすがにシロナガスには負けるとしても、サメにも充分デカいのがいて、ベストスリーはジンベイザメ18m、ウバザメ15m、ホホジロザメ8m(いずれも全長、日本産魚類検索参照、以下同様)だとされている。
 ただ、ご存じのようにジンベイザメ、ウバザメはプランクトン食で鋭い歯を持っていないので刃を持つ神「サイモチの神」として紹介するには不適当であり、改めて巨人族の「サイモチの神」ナマジ的ベスト3を紹介してみたい。

○3位 イタチザメ
 検索図鑑では4mとなっているけど、実際にはもっと大きいのが確認されていて6mぐらいにはなるようだ。ちなみにIGFAの記録では810kgというのが釣られている。
 ホホジロザメと並んで人を襲う事故が多い種で日本では沖縄などでこの種による被害が散見される。延縄や網にかかった魚を食害するとして、定期的に間引く「駆除」の対象ともなっている。駆除で400キロとかの充分な大物が釣れたりしているので是非釣らして欲しいのだが、延縄で沢山餌を付けて長時間かければそれなりに釣れるけど、竿1本で狙うとなるとなかなか難しいとも聞く。
 特徴的なのは、何でも食べる悪食性で、映画「ジョーズ」では最初にこの種が釣れて、人を食った個体か確認するために腹を割くと、空き缶やらルイジアナのナンバープレートやらが出てきたけど人を食った形跡はなくて・・・という感じだったんだけど、空き缶やらナンバープレートは実際に論文でそういう事例が報告されていたのを引っ張ってきていると聞いて改めて「ジョーズ」のデキの良さに感心した記憶がある。
 「何でも食べる」なかでも特にコイツだけだろというのがウミガメ食で、その特徴的なとがったハート型とでもいう形の歯を使ってウミガメをバリバリ囓って食ってしまうらしい。
 この何でも囓ってしまう大型の「サイモチの神」には特別な力が宿っていると考えられたのもむべなるかな、ハワイのホノルル水族館には、ハワイの原住民が戦闘用に使っていたとされるイタチザメの歯を使ったメリケンサックのような拳に巻いて使う武器が陳列されていた。写真がそれである。
 ハワイ島の釣具屋に行くと「サメ夜釣りツアー」のビデオが流れていて、船縁に寄せられてきた4m位はありそうなイタチザメが舷側をガリガリと囓ろうとしていた。
 英語では縞模様からタイガーシャークと格好良く呼ばれているが、日本にはネコザメの仲間の可愛いサメにトラザメと標準和名で呼ぶのがいて、どこがイタチか理解に苦しむけどイタチザメが標準和名とされている。

2位 ホホジロザメ
 魚食性の魚類が1トンを超えるのは難しいのかも知れない。硬骨魚類でも最大種のマンボウ(ウシマンボウ)は1トンを軽く超えるがクラゲなどプランクトン食である、魚食性のカジキ類は最大のシロカジキでも700キロぐらいまでだ、サメも魚食性の種ではアオザメの500キロ超が最大くらいだろうか。
 ホホジロザメも小型のうちは魚食性である。これが成長すると魚類でこの種だけの特徴といって良い「海産哺乳類食」に移行していく。
 オットセイやクジラといった大型の高次捕食者をさらに食べることで、最大では8m、3トンを超えるともいう巨体を維持しているようなのである。
 さすがに生きた元気なクジラを狩ることはないようだが、死んだクジラに群がっている映像とかは見たことがある。極めて優秀な臭覚を使って死の臭いをかぎつけてやってくる様は英語の別名「ホワイトデス」の通りの白い死神ッぷりといえるだろう。
 南アフリカのオットセイの繁殖地で海底から急浮上して狩りをするホホジロザメは、捕食時水面上にまで飛び上がることから「エアジョーズ」とか呼ばれている。
 この海域でオットセイのシルエットを模した木製の疑似餌を引っ張ると、下からドカンとホホジロザメが飛び出してくるのを観察できるようで、本来はエアジョーズの撮影、ウォッチング用なんだろうけど、フック付けて世界で最もデカい獲物を狙うトップウォータープラッキングをやってみたいなどとアホなことを考えてしまうのである。

1位 オンデンザメ
 2位でホホジロが出てきた時点で疑問に思った方もおられるかも知れないけど、釣りたい順番で単純にデカさ順で並べたわけでもないというのと、ひょっとしてオンデンザメの方がデカくなるんじゃないかということもあっての1位である。
 何しろ、駿河湾とかの深海の底にいるので生態もなにも謎だらけで、検索図鑑の7mというのも果たして最大なのかハッキリしない。というかもっとデカいのがいて知られていないだけだとしても不思議じゃない。ずいぶん前にTV番組で深海を撮影した映像が流れてその時写った巨大なオンデンザメが10m以上だとか根拠もあんまりなくネットで流布されているが、実際には6~7m位らしい。でもたまたま写った個体が最大個体とも思いがたい。もっと大きいのがいるんじゃないだろうか。
 「もっと大きいのがいるんじゃないか説」を裏打ちするのに、ホホジロのところで書いた魚食性魚の成長の限界と最近の大西洋側の近縁種ニシオンデンザメの研究の結果とからのナマジの考察を書いておきたい。
 まず一つには食性。ニシオンデンザメは高緯度地域ではそれ程深くない海にも現れて漁業の対象にもなっているので食性とかがよく調べられているんだけど、何でも食うタイプであり、結構哺乳類を食べている。魚と共にアザラシとかも食べているようで、おぼれたのを食べたのかトナカイが腹に入っていたこともあるらしい。
 オンデンザメも何でも食うタイプでかつ哺乳類も食べると想定すると、当然NHKスペシャルで放送された「深海にクジラの死体を沈めたときに、その死体がなくなるまで大型のサメがそこを縄張りにする」というようなことが、オンデンザメでも想定できるのではないか。NHKスペシャルでは5m級のカグラザメが「深海の帝王」として君臨していたが、サイズ的には上回ることがあるだろうオンデンザメが同じような役割をしてクジラを食べていても不思議ではない。深海にもカグラザメやオンデンザメのような怪物が育つ程度には食い物があるようだ。
 とはいっても、死んだクジラが降ってくるなんていう機会はそうそうないようにも思う。じゃあなぜオンデンザメは大きくなれるのか。最近のニシオンデンザメの研究で彼らがとてつもない省エネでとてつもなくゆっくりと長生きして大型化することが明らかにされてきた。
 平均時速1キロという省エネ泳法で冷たい海の中で代謝を押さえて生活し、成長も1年に1センチとか非常にゆっくり。しかし400年からかかって4mにまで成長。単純計算だとニシオンデンザメの最大とされている7mの個体は700年生きていたことになる。
 ホホジロザメのように活発にエネルギーを消費しながら餌を得ているサメなら、巨体を維持するには飢餓しないように餌を効率的にとり続ける必要がある。
 しかし、超省エネのオンデンザメならしばらく餌がなくても大丈夫で、たまに獲物が手に入るときにガッチリ食いだめして成長していけば、餌をとる機会が少なくても何百年という時間をかけて巨大に成長しうるのではないだろうか。
 ニシオンデンザメは古くから漁業の対象となっているけど、オンデンザメを対象とした漁業は深海に棲んでいることもあり非常に珍しい。ということはオンデンザメの資源のほうが未利用度が高く、古から生きてきた怪物サイズが残っている可能性も高いのではないだろうか。比較的餌の多い浅い海域にも現れて個体数も多いニシオンデンザメと単純に比較はできないのかも知れないが、実際には分からないことだらけな分、期待しても罰はあたらないのではないかと思ってしまう。
 かつ釣りをする場合、深度が深いのが問題だけど、省エネであまり引かないと予想できるので、化け物サイズとのやりとりを想定するうえで、深さを考慮しない引っ張り合いだけのやりやすさなら、オンデンザメが一番楽だと考えられる。
 謎に包まれた魚なので、夜間に浅い水深に浮いてくるとか、冬に浅い海域にやってくるとかそういう深さをチャラにするような生態があるのなら、チャンスは出てくるのかも知れない。などと妄想がはかどる「サイモチの神」なのである。

 いずれにせよ、こいつらを釣ろうと思ったら普通じゃ間に合わない。体も鍛えなければならないし、道具や技術も未知の領域で、正直この人生が終わるまでにたどり着ける気はあんまりしない。
 でも、心の中にはそういう「神」を泳がせておいても悪くはないのかなと思う。