2023年5月27日土曜日

ZEBCO兄弟の兄「XRL35」はリョービ製か?ーパソコン椅子探偵XRL編ー

 

 ゼブコ「XRL35」と「15XRL」はリョービ製のOEM品、「XRL35」は固着がなければ分解整備だけなので楽勝。
 という当初の見立てはどちらも淡い夢と散った。このゼブコ兄弟はどこ製なんじゃ?謎が謎を呼び、分解整備ではいらん欲をかいて失敗。挽回するために四苦八苦。そんな感じで最初は兄弟一緒にネタにしようと思ったけど、2回に分けざるを得ずな状況でございます。いつものとおりご用とお急ぎでないスピニング熱患者の皆様、ゆっくりしていってください。

 こいつらはどこから来たのか?こいつらは何者か?こいつらはどこへ行くのか?とゴーギャンの名画風に問われたなら、一応今のところのパソコン椅子探偵としてもワシの回答としては、日本と韓国から来た、リョービ製のOEM品で、ワシが直して稼動品にするというものになるが、ちょっといろんな方面で自信がない。
 どちらも日本製ならそんなに悩まなかったんだろうけど、兄貴の足の裏には「MADE IN JAPAN」の刻印があるので日本製で問題無し。だがしかし弟の足の裏には刻印ではなくシールで「MADE IN KOREA」となっているのはコリャぁいったいどうしたことか?もの自体は「リョービ222」という国内販売版とドラグノブと銘板以外同じ見た目でリョービ製でいいんだと思うんだけど、なんで韓国製なのか?リョービがインスプール作ってた時代って販売が弱くて、ゼブコのような欧米ブランドに限らず国内でもオリムピックのOEMという名の下請け仕事していたと聞くけど、リョービが韓国メーカーにリール作らせていたっていうのを目にした記憶がない。
 そう思って一つ疑問に思って引っかかってしまうと、兄貴の方も日本製なのは間違いないけど製造元はリョービ製で間違いないのか?というところにまで疑問がおよぶ。XRL35兄貴に相当する日本販売機種がネットの海をさまよっても出てこない。似たような大きさのインスプール機「リョービ277」というのは出てくる。「釣りキチ三平」の”イトウの原野”編で出てくるとの情報があったので確認したら、鳴鶴先生のところの実験水槽備え付けのタックルのリールがこれだ。ただコイツはちょっと違う、見た目的にも逆転防止の切り換えスイッチの位置からして違うし、後ほど説明するけど分解してみると根本的に違うことが分かる(ゼブコだと「XBL45」に相当か?)。
 リョービの昔のカタログにはゼブコのリールも載っていて、ゼブコのリールを輸入していたようだ、との記事はあったけど、それってゼブコに納めなかったのを国内販売してただけだよねって気がするので、兄貴に関しては国内流通版も商標利用の契約とかしてたのか分からんけどゼブコブランドのまま売ってた可能性もあるかも。
 ゼブコのリールのことが知りたかったら、米国のマニアの知識を借りるしかないだろうと、ネットの海だと大平洋超えも苦にならんので情報あさってみたら、1962年から80年代半ばまでのラングレー(後にゼブコが買収)とゼブコのカタログ掲載機種あらかた所有してますという米本国のスピニング熱どえらい重症の患者さんのサイトに行きついた。こういうのを見るとワシなど症状も軽いし、いつも書く表現だけど沼の浅瀬のぬかるみでピチャピチャやってるだけだなと謙虚にさせられる。ここの管理人さんのリストによるとXRLシリーズは71年(か72年)から77年のカタログに掲載されていて、「XRL80、XRL40、XRL37、XRL35。XRL15、5 リール、製造国は日本、すべて持っています、注: Gene は韓国製の XRL35 を持っています」となっていて、やっぱり基本日本製なんだけど、なぜか韓国製のが本国アメリカでも確認されているという状況。とはいえ例外的なのを除いて日本製ならXRL15の国内版とみられるリョービ222が存在することからいって、15XRLは、ひいてはXRL35も基本は日本製でリョービが作ってたとみて良いんだろう。でも韓国製のものも、少なくとも15と35で確認されているから、リョービが国内自社ブランドでの販売も増えてきて同シリーズから手を引くときに、ゼブコ主導で金型を韓国メーカーに売り渡したとか、できてた部品在庫を引き継がせて足裏の刻印削って韓国で組ませたとかなのかなとか想像するしかなく、真相にはたどりつけなかった。とはいえリョービ製って整理で良いことにしておく。国内ネットオークションに出品されているのをちょくちょく拝見する「播磨漁具研究所」さんという古釣り具輸入業者さん?のサイトでもゼブコXRLシリーズは「リョービがゼブコにOEM提供したモデル」とされていて、妥当な整理なんだろうとは思う。

 ということで、XRL35兄貴に関しては日本から来た、リョービがゼブコにOEM提供した機種で、これからワシが稼動機に整備する。のでサクサクと作業に入って片付けて、デキの悪い弟15XRLのスプール再建という面倒くせぇ作業に取りかかろうという方針で、いつものように分解していく。シリーズ名「XRL」は米国マニア氏のご指摘を待つまでもなく、左右ハンドル交換可能を表しているんだろうけど、これが銘板が今見えている左面にしかなく、思いっきり右巻を想定した仕様で”日本製”なんだなというのがそこはかとなく臭ってくるぱっと見。

 そしてまずはドラグからとドラグノブ外してスプールぬぽっと抜いて拍子抜け。ハメゴロされてますがな。仮にもゼブコだぜ!ドラグはアメリカ仕様の良いのが入ってると期待したのにこの有様。まあ上面見えてる端かき穴のワッシャーの下にフェルトパッドが入ってて底面とワッシャーでパッドを挟む典型的な1階建て方式なのは、スプール上部が欠損している15XRLで分かっちゃいたけど、その上にバネなりなんなりの調整幅をだして実用的なドラグに仕上げる工夫がしてあると思ってたのにドラグノブただの雌ネジが入ってるだけの樹脂のツマミでしかない。見てのとおりの安っぽい樹脂製で、ドラグの音出しは金属板製のがスプール裏の樹脂に突き刺さっている。やややや安っぽーい。大丈夫かコレ?まあ後でそのへん検証するとしてサクサクとバラしていこう。

 ローター周りは、ありゃなんか直近に稲村スピニングで見たようなのが入ってるな!という感じのスライド式のベールリリースレバーは良いとして、なぜかロータを固定するナットが見えていない。ギアにネジが切ってあってローター回してネジで固定する方式か?まあ主軸抜いてみたらそのへんは分かるだろう。ラインローラーは固定式っぽいのは良いとして、メッキがハゲハゲで銅の地金が見えてきてるので何らかの対応が必要だろう。ローター内部に塩水の水滴が付いていたとおぼしきところが綺麗に水玉模様に表面塗装剥げてて、いかに塩水による腐蝕が金属に悪いかというのの典型例。アルマイト処理とか塗装とかはしてあるだろうけどこんなもんですよ。

 ハンドルは6角棒貫通ネジ止め式。でパカッと本体蓋を開けると、これまた稲村っぽいハンドル軸ギアの上に逆転防止の歯を設けたタイプで、ギアもローター軸が平歯のオフセットしたフェースギア。リョービって稲村系だっけ?と疑問に思うところだけど、スプール上下のクランクがコの字に曲げてピンを刺す方式でこれまた、稲村吸収したダイワ系に多い特徴なので、リョービはOEMの関係もあったしオリムピック系と認識してたけど、むしろ機械的には稲村系というかダイワ系なのかも。そういえばダイワから移籍してきた技術者がいたんだっけ?それならむしろ当然か?そんなの関係なくて後発メーカーの利点を活かして、当時一番”経済的”だった設計を真似したってことかもしれない。前述したリョービの「277」はハイポイドフェースギアで普通にハンドル軸ギアから歯車介して回転持ってきてる減速オシュレーション方式と近代的?な設計でまあ良くできてる感じだけど、正直つまんないかな。などとアホなことを言っております。今回みたいなあんまり見ない設計のリールの方がバラしてて心がときめきます。

 でもって、ローターはC型の金具で本体の”首”に止められていて、C型金具外してやればローターはあっさりぬぽっと抜けてきて、ローター軸のギアはローターと一体化している。ローター自体はアルミで、ギアは亜鉛っぽい。ギアは結局亜鉛と亜鉛のオフセットさせたフェースギアで例によって耐久性に難がありそうだけど、いまのところ削れたりはしていない感じ。ボールベアリング不使用はこの時代の正しい安リールっぽくて好ましいんだけど、亜鉛のローター軸のギアの根元を本体のアルミで受けているというベアリングとかいう概念をうっかり忘れていたような設計はちょっと心配。

 てっ感じでバラしてみたんだけど、えらくあっさり終わった気がする。見てのとおり部品数が少ない。数えてみたら35個。単純で整備性が良いPENNスピンフィッシャー700系のなかでもベールワイヤーがなくてなお部品数少ない706zですら部品数40ぐらいある。それより少ないってのは整備性は間違いなく良いし、作るの楽だし”経済的”だろうっていうのが良く分かる。名前に”35”ってつくのは部品数からか?とか一瞬アホな想像をしてしまったけど、なら”15”はスピニングリールが15個の部品で作られているか?っていうと、さすがにそんなことはないと思うので関係ないだろうけど、ちょっと頭が混乱するぐらいには単純な設計。
 安っぽいって言ってしまえばそれまでだけど、この単純さは結構好み。なので是非実釣可能な程度に必要なら改善加えて仕上げてやりたいってことになると、問題は2つある。
 
 一つは超単純なハメゴロされてるドラグがやっぱりどうにも調整幅がなくて、締めていくと一瞬ドラグらしい挙動をする締め具合が存在するけど、そこからちょっとでも締めると引っかかりまくってろくでもない挙動になってしまうし、逆に緩めると止まらずユルユルになってしまう。バネ的なモノがどこにもないので調整幅が無いに等しい。ならバネ的なモノを一番上の主軸と同期して回らないワッシャーとドラグノブの雌ネジのアタリ面との間に入れてやるかと考えて、とりあえず曲げワッシャーがあればいけるんじゃないかと思ったけど、ちょうど良い大きさの金属製ワッシャーで適度に曲げてバネ的な弾性を持たせることができるのがなかったので、モノタロウで買い出ししようとしたんだけど、なかなか寸法的にドンピシャのとかがなくて、薄板買ってミッチェル方式っぽい板バネ自作しようかと思ったけど、そういえばバネの代わりに韓国日吉釣具「ゴールドスピン」では弾力のある樹脂が使われてたな、ということを思い出して、ちょうど良いモノがないかと我が家にある素材を物色したら、水槽のエアーポンプに繋ぐパイプがちょうど主軸に填まる穴が開いてて加工もハサミで切るだけなのでモノは試しにと、ドラグノブが浮きすぎない程度の厚さに切り出して填めてみたら、これでちゃんとバネの役割を果たしてくれるようで調整幅が実用上問題無いぐらいに出てくれた。ドラグ自体はパッドがそれなりに直径のあるフェルトのはずなので滑らかさもまずまず。バネの代わりを金属じゃない弾性のある樹脂にするってのはなかなかに鋭い気がする。錆びないからドラグの一番上に持ってくる素材としては好適。熱には弱そうだけどこのクラスのスピニングのドラグが樹脂を溶かすほど熱を帯びるとは思えないので上等だろう。

 もう一つがメッキが剥げて地金の真鍮が見えてるラインローラーで、最初瞬着で表面塗装してこれ以上剥げないようにしてお茶を濁すかと思ったんだけど、その程度では使ってたらすぐ剥げる、剥げたら固定式なら糸溝一直線なのでどうにか回転式にできないか?といじくってみる。回転式なら1箇所でラインがスレないので最終的には糸溝掘れるにしてもかなり時間が稼げるはず。
 どうもローラーをベールアームに止めているネジはローラーの軸より細く、よってローラーの軸はナットを締めたら締めただけ短くなっていくんじゃなくて、長さが固定されている。うまく糸落ち防止の”カラー”を填めてやれば回転式にできそうだし、もっと単純に行くならラインローラーの幅を軸の長さよりギリギリ短くしてやれば、隙間が小さくナイロンラインぐらいは挟まらなくて、かつローラーが回転する状態に持ち込める気がする。試してみたら、ラインローラー両側の腐蝕をサンドペーパーで磨いただけで、ほぼ狙っていた状態になった。歯磨き粉付けてルーターで回してやって当たりをとったら普通に回るようになって、2号ナイロンラインは隙間に入らないのでとりあえず合格。
 ということで、あとは形状をれいによって”なんちゃってツイストバスター”的に谷底に落ちるように割り箸に刺してドリルで回転させつつ形状を調整していく。いい感じに仕上がってきて、よしゃ!あとちょっと谷底をハッキリさせたろ、っていらん欲をかいて大失敗。アタイのバカ!オタンコナスのアンケラソ!!

 やってもた。覆水盆に返らず、死んだ子の年を数えても戻らず、犯してしまった過ちはもう取り戻すことができない。
 ズボンの屁じゃないけど右と左に泣き別れ。
 どうにかならんのか?接着したところでどうにもならんのは明らかだし、ギザギザにしてガシッと合うようにすればいけるかもしれんけど、そんなことできる技術はねぇ。もちろん溶接の技術ももちあわせない。
 万策尽きたか?と諦めかかるけど、諦めきれない。だってもう実動品にあと一歩まで来てたんだもん。

 しかたねぇ、最初っから作りなおすか?と考えてちょうど良い太さと穴の真鍮パイプとかないかネットで物色するも、パイプはどれも厚さがなくてなんちゃってツイストバスターにしようとしたら、また右と左に泣き別れになるのは目に見えている。バス釣り用のブラスシンカーを加工っていうのも考えたけど、これは削る量が多すぎてしんどそうでパス。
 じゃあ、カプリⅡでまさに今実戦導入中で、意外と大丈夫な感じのルーロン系樹脂で、スペーサーなりパイプなりを加工して作るかと、在庫をゴソゴソして外径がちょうど良いのがあったので穴を拡張しようとして悶絶。ラインローラーのボールベアリングが気に入らなくて、PENN430ssg用に削った時も動画見ながら何十分って時間掛かって、摩擦に強い素材だというのは身に染みて知ってたつもりだけど、穴にダイヤモンドヤスリを突っ込んでハンドドリルで回してやっても、2mmぐらい拡張しなきゃなんだけど、全く終わる気がしない。ダメだコリャ。
 ウーンどうしよう、うちの蔵にはいっぱいリールもあればパーツ在庫もあるから、ちょうどイイのあるんじゃないの?って虫の良いことを考えて、ダメ元でまずはパーツからと探してみたら、ございました。PENN4300ssとかの小型アウトスプール機用のがピッタリの長さで穴はちょっとユルいかなって感じだけど許容範囲内。実にめでたしめでたしなんだけど、なんかしっくりこないのよね。「ありました、填めました」では、ボロリールをなんとかして稼動状態に復活させて楽しもうっていう場面では安易すぎるように感じてしまう。ややこしいこと考えとらんと、コレで手を打っておけ!と理性が言ってるけど感情は、アタイ嫌なものは嫌ッ!って言っている。
 嫌なモンはしょうがない。何か考えるかととりあえず作業保留にしてアレコレ考え続ける。

 そういえば、ジュラコンとかのルーロン系樹脂って、摩擦には異様に強くてヤスリではなかなか削れないけど、刃物の刃は入る感じで、ヤスリ使うとむしろ金属の真鍮の方が削れるのに、刃物には弱い印象がある。とはいえ2mmの穴にナイフ突っ込んで削るのは無理ってもんで、回転する細い棒に刃が付いてるような道具って何かないのかなと思ったけど、考えるまでもなくあるやんけ、それがドリルだろって思いついた。電動でギュイーンとやると中心ズレるおそれがあるので、手動の6角バイスにドリルセットしてグリグリと回してやった。
 穴掘れる!ヤスリで電動で回しまくってもなかなか削れなかったのが嘘のよう。

 穴が拡張できてしまえば、あとは以前もやった作業。長さをピッタリにしてラインが落ちる隙間ができないように、太い串に刺して串ごとサンドペーパーに押しつけて電動ドリルで回してやり、長さがちょうど良くなったら、ナイフで削って片側にラインが落ち着くように傾斜をつけて、空気銃の弾のような形に成形してドリルで回して表面をならしていく。右下が完成状態で2号ナイロンは落ちないぐらいに隙間小さく、回転はそもそもルーロンは滑りの良い素材なので今はまだたまに回ってくれているかな?ぐらいだけど使っててアタリがとれてくると良く回るようになるのは運用中のカプリⅡで経験済みで心配してない。
 よっしゃ、これで良いだろう。そら見た目的にはPENNの部品流用の方がいいだろうけど、こっちの方が修繕した喜びが断然大きい。満足。

 という感じで、特に欠損部位もなく分解整備は簡単だろうと思ってたら、自ら部位欠損させてしまい悪戦苦闘してしまったけど、存分に楽しみました。コイツはギアゴロもそれほど酷くないし、売れたら売りたいかな。もうちょっとルーロン系樹脂製のラインローラーの耐久性試験を重ねて、どのぐらいで溝掘れたりしてダメになるか、あるいはならないのか?そのあたりあきらかにしてから、場合によってはスペアのラインローラー付きで売りに出そうかなとか考えております。約350g、カーディナルC4級の大きさで小型機ではなくあんまり値段付きそうにはないけど、自分が買うかって考えると2千円ぐらいなら考えると思うんだけどどうだろう?巻き形状の確認のためにラインも巻いてみたので、実戦導入してみるのもべつに悪かない。ギア比3.4:1とローギアでその分スプール径大きめなのは丸ミッチェルっぽくてシーバスには合いそう。
 ぜんぜん全く名機でもなんでもないし、人気も知名度もないけど、それ故にいじってて気付かされることもあったりして、この手のマイナー機種はなかなかに面白く楽しめるとワシャ思うのじゃ。

2023年5月20日土曜日

稲村製作所は独特!

 

 稲村製作所のリールは過去「ロディーマチック825RL」をいじったことがあるけど、稲村製作所を代表するスピニングと言えばヘドンのOEM(相手先ブランド名製造)で作ってた「コンバーチブル234」と多分色違いの同型機ロディーブランドで作ってた「マイクロ2200」あたりで、そのへん一度いじくってみたかったけど、稲村沼の猛者ども結構張り込んでくるので、あわよくばと安値落札狙う程度ではどうにもならんかった。ので、同シリーズの一つ大きい機種であるヘドン「コンバーチブル246」がジャンク5台に含まれてたのは購入の動機のひとつであった。まあ足折れ個体なので市場価値的には”ゴミスピ”でしかないだろうけど、足折れてても中身の機構とかが残ってれば、バラして楽しむ分には問題無しだし、足も折れた部分尖らせてやれば、Fuji社のDPSシリーズとかのパイプシートなら付くようにできるはずで、なんなら実釣持ち出しても良いだろうっていう腹づもり。稲村製作所は70年代当初にダイワに吸収されたとのことで、60年代の製品なんだろうけど足裏見ると「部品日本製で米国で組み立てました」的なことが書いてあって、まだメイドインジャパンが価値を生じさせるようになる以前の時代だったんだなと歴史を感じさせてくれる。

 表面の腐蝕とかもそれなりにある歴戦の強者っぽい個体だけど、多少重いけど回ってるし、逆転防止やらベール返りやらも正常に機能していて、足折れ以外は問題なさそうということでサクサクとバラしていく。

 まずはスプール外してドラグあたりからなんだけど、いきなり独特で面白い。

 方式自体は良くある3階建て方式なんだけど、主軸と一緒に回るワッシャーが俵型穴じゃなくて、穴に1箇所凸部があってそれを主軸の溝に填める方式。けったいなことやってます。ドラグパッドは赤いファイバーワッシャーみたいな質感だけど赤くない繊維質のパッド。ドラグの効き的には普通にちゃんと機能している。

 ハンドルを右巻、左巻きコンバート可能なのは名前にも「コンバーチブル」ともろに謳われているけど、ハンドルの反対側の蓋的部品の頭はマイナスネジなっていて、ハンドル回すと回ってるので「共回り式か?」とこの時代のスピニングでねじ込み式じゃないのは珍しいなと思ったけど、何のことはない、蓋の方もハンドル同様に”ねじ込み式”で先と元で太さを変えて右用左用にしている方式。60年代なら大森製作所はマイクロセブンDX作ってたぐらいで、まだ左右両用は珍しく、ハンドルの反対側は蓋作って填めておくと防水性も確保できて良いってところがまだ知られてなかったということか。そういえばロディーマチック825RLでも「ねじ込み式の共回り」だったな。

 でもってパカッと本体蓋開けると、でましたTHE稲村方式といっていいだろうハンドル軸のギアの上に歯を乗っけて逆転防止をもってくる構造。「ロディーマチック825RL」でももちろんそうだったし、稲村の流れを汲むダイワでも「7250HRLA」がその独特な伝統を引き継いでいたし、PENN「101」にも引き継がれていてコイツがダイワ製とワシが推定した根拠の一つになっている。ただコレまで見た稲村方式だと、ギアの円盤いっぱいつかって遊びを少なくしてたけど、本機種ではやや小さめの直径になっている。

 でもってギアの方式は本体銘板に「HELICAL GEAR(ヘリカルギア)」と書かれていて、ヘリカルギアは斜めに歯を切った”はす歯車”のことなので、ハイポイドフェースギアのローター軸のギアのことを言ってるのかなと思ったんだけど、ローター軸のギア見るとヘリカルギアじゃなくて平歯で、ハイポイドフェースギアじゃなくてこれまたロディーマチック825RLでも採用されてた、軸の中心が交差しない”オフセット”したフェースギア的な作りのギアである。

 結局このギアの方式は、耐久性がいまいちとかで、ハイポイドフェースギアに駆逐されていくんだけど、まだそのあたりが固まってなかった日本のスピニングリールの黎明期のブツだと思うとなかなかに味わい深く感じる。この時代、60年代は稲村に限らず日本のメーカーが単なる模倣の時期を過ぎて、独自の技術を追求、試行錯誤し始めた時代だったんだろう。たぶん。

 でもってその古い時代のリールに、ハンドル軸から歯車で回転もってきてオシュレーションカムを上下させている”減速オシュレーション”がスプール上下の方法として採用されていて、事前にそうらしいという情報は仕入れてあったけど、仕組み自体がまさに試行錯誤中って感じで独特なので面白い。ハンドル軸にそれ用のギアが固定してなくて後から填める方式だったり、オシュレーションカムを真っ直ぐ上下して浮かないように押さえる後付けのアルミの細板が取り付けられてたり今まで見たことがない方式でまさに独特。あとギアの上?に逆転防止の歯を持ってくるのは、下にオシュレーション関係を入れる都合から始まったのかも?とかこのオシュレーション機構を見て思ったり思わなかったり。

 ちなみにハンドル軸のギア、真鍮が鋳込んであるとともに、どうも真ん中に銅板、その両面にギアの歯と逆転防止の歯が鋳造でくっついてるように見える。ギアの歯側から見ると亜鉛の灰銀色だけど逆転防止の歯側から見ると歯の下の外周に明らかに色の違う赤銅色が見える。なんでそうなってるのか分からんけど凝ってるし独特。

 逆転防止のスイッチも独特で、ボディー内側でEクリップ止めじゃなくてピン刺して止めてるんだけど、コレが外しにくい。ここは最悪外れなければグリス隙間にねじ込むようにして放置という手もあるんだけど、固着してるのかスイッチ上下にスライドしてくれなくて外さにゃならん。銅板をグイッと押して隙間作る感じでたわませてやって、やや力を掛けてペンチでピンの先を摘まんで引っこ抜いたらやっと抜けた。なんか単なる円錐形のピンだと思ってたら刺さってる部分が凹んでる特殊な形状。ってのも独特だけど、外してビックリ、固着してると思ってたスイッチ、とくに固着してなくて実は上下にスライドじゃなくて左右にスライドさせる方式だったでござるの巻。ここが今回一番のビックリどっきりメカかも?

 ベール反転は、反転のレバーがバネで前後スライドさせる方式で割と普通。蹴飛ばしの方が、蹴飛ばし自体は本体の金属側の出っ張りなんだけど、その前後にギアを押さえている円盤の端を切って坂状に起こした”簡易ローターブレーキ”というか、変なところではベールが起こせないようにするバネにしてある部分が設けられ、昔からそういった工夫とかあって、少なくともこの時代の稲村の設計者はスピニングリールの使い方とかちゃんと分かってたと見て取れる。稲村のダイワ吸収合併の際にそういう設計のデキる技術者も吸収されたハズだけど、そのわりに古いダイワとかにはあんまりな設計のリールがあったりするし、今でもリールのこと良く分かってるのか疑問に感じることがあるのはなんでだろう?方式とか設計とかが独特でも、ちゃんと機能すればなんでもいいけど、その設計の意図する目的がそもそもリールのこと分かってないような頓珍漢なありさまではどうにも奈良漬け。

 ちなみにお待たせしましたBBB団(ボールベアリングをボロカスにこき下ろす者の団)の皆様、このリールはボールベアリングレス機です。左右巻き替え”コンバーチブル”で死角なし!ブッシュは填め込んであるのか鋳込んであるのか?とにかくハメ殺しだけど本体アルミで直受けとかにはしていないのがちゃんとしてるところ。オシュレーションカムを上下させる歯車上の突起にも真鍮のカラー被せてあるし、そのへんの素材選定のあたりもしっかりしてて、この頃の中小の日本メーカーは真面目って言われてるけど、ワシもそう思う。先人達は真面目に一所懸命リール作っておりました。

 ラインローラーは固定式、ベールアーム側にベールワイヤーを留めるナットのカバーがついていて糸絡み防止で凝ってる、最初レンチとかで六角ナットを締めていって、最後はナットの頭の一文字の切り込みをマイナスドライバーで締める。ベールアームの内側がスパッと切り取ったようになってて、この位置を削る目的がイマイチ分からんけどなんか意味があるんだろう。ひょっとして軽量化して回転バランス取るためか?

 下の写真、通常は本体側にポコッと樹脂製のキノコ型の部品が突っ込んであるベールが閉じたときの”受け”がベールアームの側に設けられているっていう細かいけれど独特な箇所。

 足は溶接の技術があるわけでないので、やれることは限られていて、角をカナノコで切って、後はサンドペーパーでリールシートに突っ込めるように尖らせるぐらいしかデキることはない。削ってパイプシートなら何とか固定できるようになった。やっぱりFujiのDPSは優秀で足が長かろうが短かろうが入るのも偉いけど、削って尖らせた1cmも突っ込めばしっかりと樹脂が足を咥えて放さない感じに固定できる。フォアグリップを被せる方式のシートを試したら、まず足の長さが足りずに締めるところまで行かなかった。独占企業Fuji社の数の多いガイドシステムを売りつけようとする姿勢は気に食わんけど、モノのデキが良いのは認めざるを得ない。

 減速オシュレーションが搭載されているとはいえ、なんだかんだ凝った設計でパーツ数多めなのはややワシの好みには反する。

 パーツクリーナーで洗浄して綺麗になると、主軸とドラグのワッシャー2枚が真鍮なのが明らかになる。主軸はメッキかけてあるのが支持部とか擦れるところでは削れて剥がれて地金が出てきている。鉄系ではなく真鍮てのがまた独特。どおりで主軸に溝掘るなんていうステンレスなら堅くて面倒そうな設計になってるわけでアル。逆に俵型穴とかだと真鍮が削れて回りかねないとかあるのだろうか?

 あとは、組むだけなんだけど、逆転防止の填め方には注意が必要で、そのまま填めようとすると、ハンドル軸のギアの上に乗っている逆転防止の歯の上に、爪が乗っかってしまって、そのまま本体蓋のネジをギリギリ締めてしまうと多分爪が曲がるなど不具合が生じる。蓋に付いた爪ごと蓋を閉めるときに、途中でマイナスドライバーでも突っ込んで、爪をちょっと開かせて逆転防止の歯に掛かるようにしてから蓋を閉めるとうまくいくので、稲森のこの系統をいじる機会があれば憶えておいてください。

 で今回は、ギアが耐摩耗性にあんまり優れてない方式でもあり、青グリスではなくABU純正グリスを主体にグリス入れて組み上げた。

 回してみると各部正常に機能はしているんだけど、ややギアゴロ感があり、普通に回しているといいんだけど、回すのやめて惰性で回ってる状態で「ギヤーッ」って感じの嫌なギアゴロ感がある。なんか回して止めてってやってると手がムズムズするような気に障る感触。ワシ回転の滑らかさとか気にしない方だけど、さすがにコレは使えと言われれば使えんことはないけど、ちょっと使う気を削がれる。シム調整あたりでどうにかならんか?と試しに薄いテフロンワッシャーをハンドル軸のギアに噛ませてみたりしたけど、常時ギヤーーって鳴るようにしかならず断念。

 独特で興味深いスピニングではあるけど、色々試行錯誤している段階で複雑になってゴチャついている傾向があり、そのあたりはやはりちょっと好みじゃない。紆余曲折を経て、洗練されて本当に必要な単純な設計にたどり着いたような、そんなスピニングがワシゃ好きなんじゃ。

 とはいえ、売れそうな弾じゃない。なんせ足折れジャンク個体、表面腐蝕、小傷、ギアゴロ感年式相応にあり鱒。ではただでさえ、中型機で380グラムは、大きさ的にはカーディナルC4級なれど、やや重いし、常々書いているけどバスマンは骨董的リールならベイトにいくだろうし、シーバスマンは興味ないだろうしで需要が少ない。1000円スタートで買い手がついたら御の字というところだろう。

 古いパイプシートのグラス竿にも付くようになったので、雰囲気はあるし、歴史が感じられる趣深いリールなので、手がムズムズするのを我慢して使おうと思えば使える。とりあえず蔵で眠らせておくか、それとも安くて良いので売れるか試してみるか、まあ急ぎはしないな。もし、欲しい人が居たらご相談ください。例によって物々交換希望です。

 いずれにせよ当初目的だった、稲村製作所の代表的な機種をいじって楽しむということは達成できたので、独特で面白いリールだったし、その点は満足している。

2023年5月13日土曜日

封印されし伝説の名機が今蘇る、ってほどではないジャンクリールの楽しみかた

 

 イカレた仲間達を紹介するぜ、トップバッターは左上シェイクスピア「2103」ちょっとボロいがまだまだ行けそうだぜ、お次は右上ヘドン「コンバーチブル246」稲村製の名門ヘドンだ、下段真ん中ゼブコ「15XRL」、下段右ゼブコ「XRL35」はリョービ兄弟、最後の下段左がモノホンのアメリール、ラングレー「スピンフロー822GC」だぜ、みんなよろしくぅ!

 ってな感じなんだけど、かなりのゴミスピ具合で、固着していなかったらシェイクスピアとゼブコの大きい方は分解整備のみでカタが付きそうなんだけど、その他がちょっとばかしイカレ過ぎで、ヘドンは足が折れてるのは短くして尖らせるぐらいしか手がなさそうで、ゼブコの小さい方に至ってはスプールが割れて、割れた上部が欠損してて存在しない。直すならスプールの再建という面倒くせえ仕事が待っていて二の足を踏む。スピンフローはとにかく錆がキツい。11月に軽く汚れぐらい落としCRCぶっかけて他とまとめて封印(冒頭写真は封印前)してから半年でどこまで浸透してくれたか分からんけど分解自体からして苦労させられそう。逆転防止が面白い機構になっているらしいので是非稼動品に持ち込みたいけどどうなることやら。

 ちょっと一筋縄ではいきそうにないけど、5台まとめて一山2200円で落札+送料750円で我が家にやってきたゴミスピ達なので、ダメで元々、力と知力と創造力の限りを尽くして、稼動状態に持っていくことを目標に四苦八苦してみたい。

 まずは肩慣らしに簡単そうなところでシェイクスピア「2103」なんだけど、コレぱっと見は大森製作所っぽいし足裏の刻印は「JAPAN」なんだけど、微妙に大森とは違う臭いがする”なんちゃって大森”のように思う。古いシェイクスピアの海外カタログとか眺めてもこの機種なかなか見つからなくて「ゴールドモデル2170」とかが近いモデルのように思うけど微妙に違う。ストッパーレバーとハンドルノブがミッチェルっぽいところとか明らかに違ってる。「2170」は廉価版機のようで、1975年ころのシェイクスピア下請けの日本メーカーは「2200(=マイクロセブンDX)」の大森製作所が高級スピニング、日吉産業が低価格スピニング、五十鈴がスピンキャストだったそうで(「リール興亡史」参照)、そうだとそするとこの「2103」やカタログで見る「2170」等が日吉製だったのかもしれない。もうちょっと情報無いかとネットで調べてみるも情報ほとんど出てこなくて、イーベイにも出品1台だけで、あんまり人気のあった機種でもなさそう。イーベイの個体の写真を見ると手元の「2103」とはハンドルノブが違っていて、どうも手元の個体のハンドルノブは前の持ち主がミッチェルのに交換して使っていたようだ。元々のハンドルノブはT型っぽい。「2170」もついでに調べてみるとイーベイに2台出てて、ベール周りのパーツやドラグノブは同じように見えるので同じ工場で作られてたようには見えるけど、いまいち核心に迫るような情報は出てこない。

 現物バラせば分かることも出てくるだろうから、早速バラしていこう。

 ラインローラーは固定式でまあ低価格機ならしゃあないかという感じで、最近丸ミッチェルがラインローラー固定式もクソもベールアーム自体が固定式でただの出っ張りでしかないマニュアルピックアップ化した304でもラインそんなに縒れんがな、ってのを体感しているので実際使ってみんと現時点ではなんとも評価できん。材質はメッキじゃなさげでステンの無垢っぽいけど確信はない。ドラグがちょっとどうなのよ?なドラグが分かってない感じの作りで、一番上が俵型穴の主軸と同期して回らないワッシャーなのは良いとして、次が革、そしてバネの役割だろう曲げワッシャー、次が革という下3枚が一緒に回るんだかどこが滑るんだか分からん構成。一番右の底の革が微妙に耳付きっぽくなってるけどこれは長年押しつけられて革がはみ出してるだけで耳付きではない。当然ドラグノブにバネは入ってない。バネである曲げワッシャーにバネの仕事だけさせるには、耳付きワッシャーでスプール底面と挟むか、逆に俵穴ワッシャーもう1枚で一番上との間に入れるかしないといかん。大森製作所はそのへん良く分かってて「スーパー2000」でバネはスプール底面と耳付きワッシャーで挟んでバネとしての仕事しかさせてなかった。日吉ってもっとちゃんとしてると思ってたけど昔のダイワみたいでちょっとガッカリ。まあ後で調整するかと分解を続ける(←ここ伏線です)。

 本体蓋をパカッと開けると、鎮座しておりますは円筒と平円盤の組み合わせのフェースギア。ローター軸が真鍮、ハンドル軸が鉄系を鋳込んだ亜鉛。そして本体蓋は安っぽいプラ。フェースギアって、始祖イリングワースが90度回転軸を変えるのに使った、どちらもかさ歯車に歯を切ったベベルギア、から後に出てきて経済的で安く作れるってことで安リールに採用されたけど、スピニングリールのギアとして機能的にははむしろ退化した方式だと思ってる。そういう”経済的”なギアを心臓部に積んだこのリールは、そういった安っすい機種でドラグがどうこう言うべきじゃない代物なのかもって気がしてきた。廉価版のリールに難しいこと言うたるなや!と。ワシ大人げなかったと反省。そういう目で温かく見守ってあげなければいけないと思う。

 反省しつつ分解を進めていく。

 ローターをぬぽっと抜いて、出てきたのは本体のアルミを出っ張らせただけという単純なベール返りの蹴飛ばしと、分厚いワッシャーっぽい真鍮が填まってるローター軸のギアの頭の方。

 本体側でギアを止めているコの字の金具を外してローター軸のギアをこれまたぬぽっと抜くと。

 お待たせしました。全国のBBB団(ボールベアリングをボロクソにこき下ろす者の団)の皆様。ボールベアリングレス機です。真鍮の分厚いワッシャーかと思ってたのは填まってるんじゃなくてローター軸のギアと一体成形のブロンズベアリングといって良いのかなんなのかな襟巻き的な部分で、一応その下にステンの薄いワッシャーが填まっててコレがベアリング?なのか単なる隙間調整のシムなのか、なんにせよボールベアリングなんてモノは使っておりません。回した感触軽い上にギア比4:1と低速機ってほどでもないのでちょっと意外。オフセットのないフェースギアの経済性の他の美点は巻き上げ効率の良さなので小型機の4:1ぐらいなら軽いぜって話なのか?ちなみにカタログで見ると「2170」もギア比4:1でやっぱり同系列と考えて良さげ。残念なのは右巻機が設定されてなさそうなことで、我がBBB団の会員は50%が左利きという統計があるので、せっかくのボールベアリングレス機だが半数の会員には使えないという問題がある。このへん、国内流通してた安い価格であっただろう”針金ベールアーム”機が右巻機ばっかりで左巻機種探すの苦労したのと”行って来い”の関係であるともいえるか。多くの人には全くどうでも良いことかもだが、沼の底の特殊な環境に棲息する住人には諸事情あるのよって話。

 でもってハンドル軸のギアをこれまたぬぽっと抜くと、ストッパーがギア裏の歯に掛ける方式でギアと亜鉛鋳造一体成形のタイプ。ストッパーの歯車が亜鉛では削れないのか?というのをカプリⅡで実際に削れた経験から心配していたんだが、どうも大丈夫な気がしてきた。というのはギア裏のギアと一体成形の亜鉛鋳造の歯を使う方式は、なんか見覚えあるなと思ったけどマイクロセブンDX系列でも使われてて、コレが削れるって話は見た記憶がないし、我が家にある4台でも実際削れていなかったので大丈夫なようだ。なんでカプリⅡでは削れて、マイクロセブンDXだのデラックススーパー777だのでは削れないのか?いじくってみた感触から、おそらくバネがそれほど強くなく、やわっと爪が歯に当たるように設定されているので大丈夫なんだろうと思う。多分。そのへんも最初っから上手くはいかなくてダムの真似してカプリⅡを作ったときの大森は、なぜダムクイックでステンと真鍮という丈夫な組み合わせで逆転防止機構が構成されているのか理解してなかったけど、学んで次には亜鉛でも削れない設計に、ってしてきたんだろう。その流れをこの2103もくんで大森式を参考にして設計されているように思う。試行錯誤の歴史が見てとれて味わい深い。

 ってな感じで分解終了、部品数少なくて単純で整備性良好。かなり表面の腐蝕とかもあって、パーツクリーナーで汚れ落とした後、ベールアームのラインローラーへの導入部とかの錆は歯磨き粉をティッシュに付けて擦ってざらつかない程度に磨いておいた。当初はあんまりパッとしないリールだし、整備したら売りに出そうかと思ってた。高値で売れるとは思えないけど稼動品で整備済みなら2千円ぐらいにはなって、5台分の元をあらかた回収できるだろうとトラタヌな甘いことを考えてたけど、なかなか面白く好ましいリールなので使ってみたくなった。で、イマイチだろうと感じてたドラグについていっちょ調整してやるかと、ドラグは常々書いているように簡単な機構で、素人の工作程度でどうとでもなると思ってるのでいじくってみた。

 方針は曲げワッシャーにはバネとしての仕事だけしてもらってドラグパッドの仕事はドラグパッドに任せる。ということで何か加工できる固めの板ってことでペットボトルの蓋利用で俵型の穴の開いたワッシャーをでっち上げて一番上の元々の俵穴ワッシャーとで曲げワッシャーを挟んで、その下に純正のドラグパッドである既にカピカピになってる革のドラグパッドの代わりに硬質フェルトで作ってやる。っていう感じで工作してみました。ハイこんな感じ。

 でもって填めてみたら、ペットボトルの蓋も2ミリの硬質フェルトも厚さがあって、スプールのドラグ穴に収まりきらず落下防止のリングがはまらんし、ドラグノブが浮いて間にラインが落ちそうでカプリⅡの悪夢がトラウマ的に脳裏によぎる。こりゃいかんということで、じゃあ薄っぺらい百均フェルトでドラグパッド作りなおうそうかと思ったけど、ポンチで穴開けてチョキチョキ周りハサミで切ってって面倒くせぇなと、適当なテフロンワッシャーないかなと探したら外径12mmのちょうど良い薄っぺらいのがあったのでドラグパッドはそれでいく。今度はキッチリ填まってくれてテフロンパッド1階建て方式のドラグになりましたとさの一本釣り。

 ドラググリス塗って填めてドラグノブ適宜締めたり緩めたりしつつ手でグリグルと回してやると、やや調整幅は狭めかなだけどそれなりにドラグっぽく仕上がってて及第点。まあドラグなんて簡単だぜ、って思ってワシ的には不合格の烙印を押した純正状態のドラグをどんなもんかと軽い気持ちで試してみる。

 あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!

 干からびかけた革パッド2枚で曲げワッシャーを挟んだ上に俵型穴ワッシャーを乗せただけのドラグが、滑り出しも良好でシャクリもせず、調整幅も充分ある… 

 な… 何を言ってるのか わからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった… 頭がどうにかなりそうだった…

 ドラグなんて単純な機構で、物理法則を無視したような謎の力を発揮するようなモノはあり得ないと常々書いてきたけど、なんでこれが実用充分なほど機能するのかワケが分からないよ。一番下の革パッドが耳付きみたいに変形してたぐらいだから一番下の革パッドは固定されて回ってないはず。それに乗っかってる曲げワッシャーか上の革パッドの表裏都合4面のどれか、あるいは複数の面が滑って摩擦を発生させてドラグとして機能してるハズだけど、刺さるほどではなく接触面積が小さく、よって滑りやすそうな曲げワッシャーの上面と革パッドの間の面で滑りそうに思うけど、そんな面で安定したドラグの滑りが確保できるのか?締めたら接触面積が増えるような気がして不安定に思うけどどうなんだろ?あるいは一番上の俵型穴ワッシャーと上の革パッドの上面で滑ってて、曲げワッシャーと2枚の革パッド合わせて3枚が実質バネ的な弾力性をも兼ね備えた1枚のドラグパッドとして機能しているとかか?理屈は分からんけど、とにかくドラグノブにはバネなんか入ってなくて単純な雌ネジでしかなく、ドラグに入ってる円盤が革パッド2枚に曲げワッシャーと俵型穴ワッシャーの4枚だけで実用的なドラグになっているという、コレまで見てきた中で一番ワケが分からん謎ドラグ。単に経費的に安くあげようとするなら、ドラグパッド1枚にしてその上に俵型穴ワッシャー、その上に曲げワッシャーという構成にできて、それなら1階建て方式のドラグのPENNスピンフィッシャー714Zとかと基本構造一緒で理解できる。ただわざわざドラグパッド増やしてまでこの構成にしたのは意図的としか思えず、何というかリールのことが良く分かってる人間が試行錯誤しつつ設計したんだろうなと思えてくる。「ドラグが分かってない感じの作り」とか書いてゴメンナサイ。おもいっきりブーメラン帰ってきてグサッと刺さった感じ。ワシまだまだ未熟。

 ということで、こいつはやはり実際に使ってみて魚釣ってその実力を見極めたい。おそらくものすごい高性能ってワケじゃないだろうし耐久性とか自ずと限界もあるだろうけど、実用性充分な費用対効果抜群の”良い安リール”なんじゃないかという予感がある。こういう全然名機でもなんでもない、人気もなければ語られることもないリールでも、いじってみると思わぬ発見があったりしてリールいじくるのはやめられず、沼の底にまた深くブクブクと沈んでいくのであった。軽く肩慣らしのつもりの1台目から既に面白い。

 ワシ、もっと深く深く沈んでいきたい。


<オマケ情報>ドラグネタ書いたのでついでにご紹介。デカいの掛けたらドラグノブのアタリ面が熱で溶けた、といううらやまけしからん書き込みをいただいてて、その時に話題になった4桁第3世代スピンフィッシャーのドラグノブが、後期型ではアタリ面を樹脂製から真鍮製に変えてアップデートしてあるっていう、そのアプデ前と後の比較写真です。さらに第4世代ssmになると防水ゴムパッキンがつきます。そして第3世代にも適合します。4桁PENNをワシが史上最強のスピニングリールだと思ってるのは、こういう実際の釣りの現場からの不具合報告等を受けて「次のモデルで対応します」って新しい製品買わそうとするんじゃなくて、細かい改良を加えたマイナーチェンジで対応していて、かつ同機種の古いバージョンも部品交換で対応できるという、長く使う顧客が嬉しい対応を繰り返した末に実用性抜群のリールに仕上がっていってるからなんです。要するに”現場たたきあげ”のスピニングだってこと。最後SSJでラインローラーにボールベアリング入れたのは蛇足だと思うけど、7500ssなら原型になった70年代末登場の「747」から、80年代登場のギアがハイポイドギアなだけで多くの部分が共通の3桁「750ss」を経て1992年登場2005年廃盤7500ssまでは、ほぼマイナーチェンジの域でしかなく都合30年近く売り続け、かつその後の第四世代「750SSM」にもスプールは共通で引き継ぎバッチリという、問題無いところは頑固なまでに変えない気質をワシャ愛さずにいられないのじゃ。ご理解いただけただろうか?5年やそこらで総取っ替えせにゃならんようなショボい設計はしてなかったってことだと思うんだけど、どうでっしゃろ?

2023年5月6日土曜日

シルスターを知る

  シルスターっていうと日本じゃ釣り具量販店上州屋御用達の韓国製の安ッスイリールのメーカーという印象だろうか。

 コリアンリールについては、韓国大森系は以前から、ワシしか興味なくてもワシは書く、ということでちょくちょく書いてきたし、韓国日吉釣具についてもちょい前にゴールドスピンをネタにしたところである。その他にも謎のなんちゃって大森やらフルーガーブランドのやらもいじったことはある。総じて「なんだかな~」って感じのそこはかとない安物感が漂って、それはそれで味わい深けれど道具としてはイマイチという評価だったけど、ゴールドスピンは良くできたリールで、コリァもうちょっと韓国方面ほじくってみんとあかんかな?と思ってたら、TAKE先生が韓国日吉とかでリール作ってた”ミスターハラの記憶”シリーズを刊行して、欧米ブランドと日韓の下請けメーカーの歴史とか当時の情勢とか読むにつれ、やっぱり韓国も気になるし、norishioさんからは「今、Silsterが熱いですよ‼」とか感染させる気満々の書き込みもいただいたしで、韓国の代表的なリールメーカーであるシルスターも買わにゃならんなと思ってしまうあたりで既になんらかの症状を発症していたのだろう。アタイ病気が憎い!

 norishioさんはシルスター「タイニー20」に大森イズムの継承を見て取ったとのことだけど、そういえばワシ、上州屋つながりでだと思うけどシルスター製「DIAMOND EX35」っていうのがネットオークションにかかってるのを見た記憶がある。韓国大森とシルスターに何らかの技術的なつながりがあったのはどうも間違いなさそうである。シルスター製ダイヤモンド、競り負けて入手できなかったのが今となっては悔やまれるところ。

 というなかで、実釣面では良型根魚狙いの岸壁足下泳がせがなかなか結果が出ないので、対象を広げてエイやらヒラメの扁平系、ハモやらウツボの長物系も狙うべくチョイ投げ泳がせに挑戦。コレがまた悶絶しまくりの大苦戦なんだけど、一発大物アカエイをやっつけるのを想定した場合、ゴツいグラス竿にABU7000Cという道具立てはドンピシャだと思うんだけど、意外に食い込みの悪いハモ相手にはもっと柔くて長い竿とハリスが良いとか、青物狙うポイントでやや遠投でワニエソ狙いたいとかになってくると、オモリと活餌で重量が分散されていて投げにくいのをそれなりに投げる必要が出てくる。となるとスピニングの方が向いている。ただPENNの”ライブライナー”みたいにレバードラグ?が付いてれば何の問題もないけど、ドラグユルユルでアタリを待って食い込ませて、食い込んだらソレッとドラグ締めてアワセるのには普通の頭にドラグがあるリールではやりにくい。リアドラグでかつ数値がふってある目盛付きだと、ユルユルにしておいた状態から、アタリがあったら竿を持ってググーッと持ち込んだらやおらあらかじめ想定してあった目盛までギュッとドラグを締めてアワセ食らわすというのができて塩梅が良い。

 ということで、買っちゃいましたのが冒頭のシルスター社「CX60」でなんと某フリマサイトで送料込み980円の持ってけ泥棒価格。まあ日本じゃこの程度の評価ということなんだろうけど、世間様の評価なんぞアテにならんので結局自分でいじって釣り場に持ち出してその実力見極めてやらねばならん。というわけで早速分解整備調整に入るんだけど、元々巻かれていたラインがケッタイなしろものでナイロン系の編み糸なのでダクロンぽくはあるんだけど、昔懐かしのグデブロッド製のみたいな滑らかな編み込みじゃなくて、むしろフライラインの接続に使うブレイデッドナイロンみたいなグジュグジュした編み込みのブツで、日本じゃ売ってるの見たことないようなライン。相当太いのでリーダーとして接続してあるのかと思ったけど、最後のスプールに巻く部分以外コレでしかも3色分しか巻けていないぐらい太い。1色20メートルでも60メートルしか巻けてないのでどういう用途で使ったのか?何にせよぶっといラインでドラグガッチリ締めて使ったんだろうなと、試しに5キロのオモリが上がるかドラグ締めて試したら上がりやがった。ドラグも最大値的にはかなり上げられるし、樹脂製の本体の丈夫さも安っぽい樹脂のわりに大丈夫そうである。

 糸巻き量的には4桁PENNだと5500ssとだいたい同じ。15Lb-230mとなってて、16ポンドナイロンで運用予定。

 ただ、リアドラグ機なのでどうしても前後に長い。あとなぜか同じ樹脂製本体で5500ssの460g程度に対し、約490gと重いのは不思議な気がする。樹脂製とはいえ5500ssはスプール金属だしアレコレ補強も入ってるので本体樹脂製としては重い方である。そして、CX60の丈夫さに寄与しているのは、シマノが3本脚にして樹脂ボディーの強度確保してたけど、シルスターはその3本脚の後方2本の間を埋めたような幅広の脚で強度を稼いでおります。そしてその際に生じる脚の広い平面にはドラグ特性を示すグラフが書かれていて、ホントかどうか知らんけど綺麗な放物線を描いている。って放物線じゃまずいでしょドラグは?締めた力に正比例してくれなきゃダメでしょ。と早くも突っ込みが入るのであった。まあ感覚的には締めていってギュッと締まったあたりでドラグがギュッとフルドラグっぽくなるっていうのを示しているのだろうか?気にしないでいこう。実際のドラグは最大値も大きいけど調整幅やら滑らかさもそれなりにあって、わりと良さげ。980円でこれなら今のところ上出来。

 で分解していくと、まずはハンドルがねじ込み式で、方式は左右の山を同軸に切る大森方式ではなく、先と根元で太さを変えてそれぞれ右用左用とするPENNとか日吉の方式。ハンドル軸のギアは真鍮ぽいのが見えてて、タップビス抜いて本体蓋を開けて確認するとハンドル軸のギアは真鍮を芯に鋳込んだ亜鉛製のハイポイドフェースギア。そして軸は両側にルーロン樹脂っぽいブッシュが填まってて無駄にボールベアリングを使わず、かつ削れる運命を受け入れて樹脂本体で軸を直受けとかじゃなくて、樹脂ブッシュ入れているのは真面目な賢い設計で好感持てる。ちなみにボールベアリングはローター軸のギアに一個入ってるだけだけど、回転は素直で軽くまったく問題無いように感じた。ローター微妙にプルッてるかもだけど許容範囲。単に安いリールを作ろうというのなら、ネジ込みハンドルも、樹脂製ブッシュもいらんハズで、シルスター社なりに優先順位つけつつも丈夫で使いやすいリールを作ろうとしていたのは見て取れる。

 でも、ヌポっとハンドル軸のギアを抜いてみると、やや「コレはどうなの?」という部分が見えてくる。

 逆転防止とサイレント化の仕組みは特に問題はない。真ん中の写真にあるように、ハンドル軸のギアの芯に脚二本で巻き付いて針金が四角く飛び出していて、コレを上写真の逆転防止の爪の矢印で示した切れ込みに突っ込んでやって、正転しているときは爪がストッパーの歯から離れてカチカチとも鳴らない。逆転すると爪がストッパーの方に押し出されて歯と噛み合って止まる。

 っていう逆転防止のストッパーの歯とローター軸のギアがどう見ても亜鉛鋳造一体成形である。ハイポイドフェースギアのローター軸のギアが真鍮切削なのはそうする理由があるんじゃないの?削れたりしないのか?というのがやや不安な部分。とくにストッパーに亜鉛はコンパック「カプリⅡ」では削れたので、今回はサイレントなので正回転で回ってるときには歯と爪はカチカチと接触はせず摩擦して爪で歯が削れていくことはないにしても、力が掛かるストッパーに亜鉛鋳造の歯は耐えうるのか?亜鉛同士のギアの組み合わせで削れることはないのか?ちょっと不安なところである。

 でもって、亜鉛鋳造一体成形のストッパーとローター軸のギアってなんか憶えがあるんだよなと記憶をまさぐってたら、なんちゃって大森のシェイクスピア「アルファ2260-030」もそうだった。1980年代、シェイクスピアの下請けは大森、五十鈴の日本勢の他、シルスターと香港シェイクスピアが請けていたらしいので、アルファ2260-030はシルスター製っていう可能性が充分ありそう。

 引き続きバラしていくと、スプール上下のオシュレーションカムを主軸に止めてるのがCクリップじゃない!エラい!!これだけで、まあ高級リールじゃなかっただろうし、多少のアラはよきにはからえ、と言いたくなる。

 なにしろ、マイコンSSのCクリップには、知恵の輪状態で泣かされてトラウマもんの経験だったし、ゴールドスピンでもCクリップ跳ねて這いつくばって探すことを余儀なくされた。このカパッと両サイドに主軸の溝に填めるC状の部分を持ってきた薄板曲げた部品の方式はマイコンTBシリーズが採用している方式で、加えてネジ止めして、板で挟んだだけだと外れるかもな部分をしっかり固定している。ひょっとするとこのあたり大森イズムの継承の発露なのかも。

 ただお次は安っぽい。ローター外したらベール返しの”蹴飛ばし”は手前に見えている樹脂本体から一体成形で張り出てる単なる坂道。ベアリングの固定はタップネジ3本締め。蹴飛ばしみたいな摩擦が多い部分の樹脂丸出しは、韓国大森製のダイヤモンドキングやらダイヤモンド2001やらもそうで、このへんは真似せんでくれと言いたいところ。レバーの方がアルミか亜鉛の金属パーツなので長期的には削れるよねって話。タップネジ3本締めはコレでも固定できてるからまあ良いか?単純設計に振ってあるPENNの430ssgではタップネジ2本締めが採用されているけど、それが原因で不具合生じたことは今のところない。ただ蹴飛ばしは真鍮の部品を組み付けているのが”経済的設計”でもそこはPENNってところ。

 ローター周りも、正直パッとしない感じではある。ラインローラーは回転式で真鍮に硬質クロームメッキのローラーが金属の芯に直づけされている。大森熱患者としてはここにはルーロン系樹脂スリーブを入れたいところだけど、回転部分が金属どうしなのは、720zのブロンズベアリングとかでは問題ないし、一概に削れるというモノではなく素材や設計、使用の条件によるのではないかと思う。ちなみにラインローラー金属製で直づけは去年活躍してくれたシェイクスピアの2062の”E系”がそうで、特に削れたりの問題は生じていない。このへんは使ってみんと評価できんということか。2062も”D系”になると樹脂製スリーブが入ったので、樹脂製スリーブが入ったほうがモアベターなのかもしれない。

 でもって分解していくと、ベールアーム、ベールアーム反対側の支持部ともにタップネジでとめていて、本体樹脂でそれらの回転部分を受けている。ダイヤモンド2001でもそうだったけど樹脂×樹脂は削れそうに思う。せめて真鍮のカラーとか填めたくなるのはワシだけか?これどうも最近まで大手の安い機種でも同じような処理があったようだ。そしてベールアームと反対側の支持部からなんか謎の亜鉛パーツが覗いてるなと外していくと、予想外の大きなカウンターバランサーがでてきて驚く。ベールアーム側そこまで重くなる要素ないと思うんだけどなぜそんなに反対側のバランサーがデカくなるのか?蓋外すとミッチミチに詰まっててちょっと笑えるぐらい。これは重量増加の一因だろうな。でもおかげで回転バランスはそこまで酷くない。

 ベール反転機構は、亜鉛製っぽいL字型のレバーが蹴飛ばしの坂道で押し上げられてベールが戻るという上下動でベールをリターンさせる単純で良好な機構。ハンドルリターンで軽く返って、ここは悪くない。写真の左の列がベールを起こした状態で、写真下はローターの裏から見たところだけど、ベールを起こすとレバーが下に下がる。下がってるレバーの端が巻き取りでローターが回って蹴飛ばしの坂道を上がることで左写真のように押し上げられ、ベールが返る。蹴飛ばしの坂道が樹脂製剥き出しなのが気になるならアルミの薄板貼り付けるとかして、削れ対策とかした方が良いのか?今のところ削れてないようなのでそこまで気にしなくて良いのか。使ってみて不具合でるようならまた考えるで良いか。とりあえず現状維持で。

 でもって最後にドラグ。マイコン方式で後ろからドラグパッドやらバネやら突っ込んである。本体と一緒に回らない耳付きワッシャーの耳の先が曲げてあって、おそらくこれ耳が本体樹脂に食い込んでしまうミスターハラ用語でいうところの”ドラグバイト”の防止なのかなと思う。本体側樹脂と接する部分の長さが増える分力が分散されて食い込みにくくなるだろう。ちょっと不安なのがドラグバイトってそういう理解でいいんだろうか?ってところで「リール興亡史」で原氏が大森製の「Σ(マイコン)」のステンの耳付きワッシャーはドラグバイトでリアドラグ機のドラグ能力の評判を落とした的な苦言をていされているけど、マイコン初代のことを言ってるなら本体金属なので耳付きワッシャーが食い込むとは思えないんだけどどうなんだろう。ドラグバイト自体が耳付きで起こるならリアドラグに限らずフロントドラグでも起こるよなと思ったんだけど金属スプールなら耳付きワッシャーは一般的なように思う。そういえばキャリアーやマイクロセブンCとかの樹脂製スプールには耳付きワッシャーじゃなくて六角ワッシャーが使われている。2箇所で支える耳付きワッシャーより6辺で支える六角ワッシャーの方がそら食いこまんわな。でもって、上から2枚目の写真が抜き出したドラグ関連部品。左から赤い繊維性ワッシャー、主軸と回る亜鉛部品、謎の細バネ、表面を樹脂で固めたような繊維質のドラグパッド、耳の先曲げた耳付きワッシャー、バネときて、あとは写真に写ってないけどバネを押さえるネジを切った樹脂部品が来て、樹脂製のドラグノブを被せてネジ止めという感じ。ファイバーワッシャーも含めて実質2階建てのドラグになっている。ドラグパッドが繊維質のパッドの表面を樹脂で固めたようになってるのはマイコンTBシリーズと似てる。ついでに書くなら同じようなドラグパッドは”なんちゃって大森”と紹介したシェイクスピア「アルファ2260-030」にも入っていて大森からシルスターへの技術継承的な流れが示唆される気がする。ついでにアルファの過去記事みて、謎の細バネの役目がドラグパッドの固着防止かなと思いあたった。一番下の写真のように細バネは耳付きワッシャーを持ち上げるように働いている。アルファでは無理に剥がすとドラグパッド破損しそうなぐらいに固着してたので、おそらくそれを防ぐためのものかと。

 バラしは終わったので、ギア等はパーツクリーナーで洗浄するんだけど、今回本体もスプールも樹脂製なので本体等はパーツクリーナーは使わずティッシュで水拭きしたんだけど、樹脂が劣化して表面剥げるのかティッシュがえらい黒く汚れる。脚の隙間では小さなクモが脱皮してたりもして、テキトーにほったらかしにされてたんだろうということが想像に難くない。可能な範囲で綺麗にしてあげる。樹脂製なのは海で使うには錆びなくて良い。ネジとかにはグリス塗って、使ったら水洗いして錆びないように気をつけなきゃだけどステンのネジならそうは錆びないしワシのようなテキトー放置系メンテの人間にはありがたい。

 てな感じで、分解清掃は終わったので、いつものように青グリスグッチャリで組んでいく。
 その際、ドラグの調整にちょっと手間取った。純正の状態では最大5キロぐらいのドラグ値になるけど、16ポンドナイロン運用ではそんな高負荷かけられない。お作法にのっとるなら締めるのはライン強度の1/4から強くて1/3ぐらいまでにするとなると、4ポンドは約1.8キロで2キロ強ぐらいまで締められて、調整幅が広く滑らかなのが望ましい。最大5キロも締まっても、そのあたりのドラグ値は使わん。マイコン方式でドラグノブの”止め”の位置の調整で多少の調整は効くけど最大5キロ状態は根本的に合ってない。なのでドラグパッドとしても働いているだろう赤い繊維質ワッシャーのほうをテフロンに変えれば、そこが滑りよくなった分最大ドラグ値が下がって良い塩梅になるだろうと思ったら、実は滑りの悪い赤ファイバーワッシャーは堂々ドラグパッドの役割の大きな部分を占めていたようで、ドラググリスPENN純正で湿式にしつつテフロンに変えたら、滑り良すぎてドラグ最大値が2キロギリギリで、余裕がなく調整幅もイマイチになってしまった。赤ファイバーとテフロンの中間ぐらいの摩擦具合のパッドをと考えて、サイズ的にも4500ss用とかのが合いそうなのでPENN純正のカーボンドラグパッド(HT-100)を入れてやったら、最大値が2.5キロちょいぐらいになって、そこそこの滑らかな調整幅も得られて良い塩梅に収まってくれた。このリールの美点の一つはドラグがちゃんとしていてまずまず使いやすいことで、ドラグパッド自体はリアドラグ機に多い実質4階建てではなく、2階建てだけど、ドラグの直径が大きいのが性能の良さに直結している気がする。上の写真のようにギアが収まってる本体よりドラグ部の方が太い。ちなみに下のドラグパッドの写真は左からテフロン、カーボン、グリスで濡れて黒く見えるけど赤ファイバー。最大ドラグ値等はドラグパッドの素材やら組み合わせ方を変えて調整可能というのは使える技かと。

 これで、16Lbナイロン70mを下巻きもまいてから巻いてやり準備は完了(冒頭写真)。
 樹脂部品が削れそうなベール返しの蹴飛ばし、ベールアームとベールアーム基部の受け方あたり、と亜鉛鋳造のストッパーの歯とローター軸のギアが強度的に大丈夫なのか的な若干の不安はあるとはいえ、なんかゴン太の編み糸で乱暴に扱われてたようだけど、現時点では不具合生じていないので、ある程度の丈夫さはありそうなのでとりあえず目をつぶっておく。ネジ込みハンドルやハンドル軸にボールベアリングじゃなくてルーロン樹脂系ブッシュが填めてあるのは実用的で好感が持てる。ドラグの性能がそれなりに良いのも美点だし、脚を太くして前後2本で樹脂製本体の強度も稼げているようなので、全体としては多少アラも見えるけど悪くはなさそう。という現時点での感触で、いつも書くように釣り具の評価は実際魚釣ってみないことにはどうにもならんので、そのうち実戦投入してその実力の程を見せてもらうとしよう。そうそう忘れちゃならない、オシュレーションカムを主軸に止めるのにCクリップを使っていない整備性の良さもワシ的には高評価。ぶっちゃけルアー投げまくりの釣りでこのリール使うか?っていうとちょっと二の足を踏んじゃうけど、ブッコミ系泳がせなら投げるのも巻くのもそれほど回数多くないしそのぐらいは大丈夫だろ?って思ってる。

 全く人気など無い機種の、詳細な力のこもったこの報告。多くの人が知りたいような需要のある情報ではないとは理解しているけど、”ナマジのブログ”じゃなきゃ読めないような情報であることには自信がございます。重めのスピニング熱患者の方にでも楽しんでいただけたなら幸いです。