2021年10月26日火曜日

風の中を抜けていく~

  「カムイ伝」などで知られるマンガ家白土三平先生の訃報が。

 89歳は大往生の部類かと思わなくもないが、これでカムイ伝シリーズも未完となった。まあ、わしゃアニメ化もされた「カムイ外伝」とかしか読んだことないけどな。

 とはいえ、鮎の毛鉤釣りの時に、手元に近い方の毛鉤に魚が掛かったときに、取り込み時竿尻ではなくやや上に持ち替えて抜き上げてタモに収める技に、抜け忍カムイの必殺技の一つ「変移抜刀霞切り」から着想をもらって(=パクって)「変化抜竿霞捕り」と名付けたぐらいにはマンガもアニメも好きな作品である。忍者の必殺技って使ったら敵を”必ず殺す”から対策がとられない、っていう設定なんだけど、実は変移抜刀霞切りは原作マンガでは1回破られている、変移抜刀霞切り自体は短い直刀の忍者刀を背中側の帯に差しておいて、斬り合う際の相手の反応に合わせて、左右どちらか切れる方から切るという”後出しジャンケン”な抜刀法なんだけど、破ったのも抜け忍でその方法はまさしく「その手があったか!!」ていう感じで、気になった人は是非読んでみて欲しい。あと鶴にカムイが餌をやる話が子供心に泣けてきたのを妙に憶えている。

 カムイの必殺技としてはもう一つ有名なのがあって、対戦格闘ゲームの愛好家ならそれと知らずに使っていたかも。イタチの仲間の小型種イイズナが自分より大きいヤマドリを襲い自らと共に空中から落として仕留める技に着想を得たとなっている技「飯綱落とし」は「ストリートファイターⅡ」でバルログの「イズナドロップ」の元ネタになってるほか忍者系のキャラクターの必殺技としてはもはや定番かと。簡単に説明すると空中や高所から決めるバックドロップで、そら死ぬわなという技。

 まあ、貸本時代からマンガ描いてたようなマンガの神様の一人だから、色んなところに影響を与えてて当然なのかもしれないけど、もう一人の神であり比較の対象とされたりもする手塚治虫先生が「COM」っていう雑誌を創刊したのに対して、「原稿料は出ない」で有名なマニアックなマンガ家を多数輩出した「ガロ」の創刊に関わっていたというのもマンガ史に残すべき功績かなと。

 あと、個人的には後年房総半島の漁師町に移住して、その地で自分で採ってきたりなんだりした食べ物を題材にした写真付きのエッセイなのかなんなのかなシリーズがあって「カムイの食卓」とかっていうんだけど、これが狸を解体するシーンとか、当時まだ”ジビエ”とか注目されてない頃でそういう知識ってほぼ書店で手に入る書物では書かれてなかったので、見付けたときには小躍りしたのを憶えている。秋のゴンズイが旨いというのもその本で知った知識。

 色々とりとめもなく思い出されてくる、そういえばなんの作品だったか忘れたけど、漁師が弓角つくる材料に、エラそうなお侍さんの愛馬の足をぶった切って、その蹄で作るってのがあって、日頃虐げられている腹いせ感と”特別なモノ”を釣り具に求めたがる、釣り人の心理が良く出てて印象深かった。

 これまたとりとめない記憶の断片だけど、昔のアニメのエンディングテーマって哀愁を帯びた名曲が多いんだけど「カムイ外伝」のそれも典型で、高橋葉介先生の「学校怪談」で九段先生がカラオケで熱唱していたし、庵野モヨコ先生の「監督不行届」ではモヨコ先生が「カムイ~♪」って鼻歌歌ってたら、どこからともなく夫である庵野秀明監督の「カムイー♪」っていうコーラスが聞こえてくるっていうほほ笑ましいネタがあった。

 白土先生とのお別れの気分とも良く似合う旋律。先生永らく画業お疲れ様でした。ご冥福をお祈りします。合掌。

2021年10月23日土曜日

天高くネコも肥える秋

 すっかり冷え込んできて、愛猫が布団に潜り込んでくる季節になって来ました。皆様いかがお過ごしでしょうか。

 最近コバンのヤツはつれなくて、以前は一階の三和土の間に放流して出かけて、帰ってくると1階のドア前に張り付いていて、開けると足下にスリスリと頭をこすりつけてきたものだったのだけど、なんか冷めた対応を取られるようになってきてて、開けたら居ないなと思って最初具合でも悪くしてるんじゃないかと心配したんだけど、単に面倒臭いだけのようで、お気に入りのソファーの上の定位置で「まだ眠いんだけど」って言いたそうな顔して欠伸かましてきたりしやがるので、「アタイにはもう飽きたのねっ!キィーッ!!」って悔しくってならないノ。またこれが、欠伸すると猫って牙があらわになって”ワルい顔”なのよね。とはいえ、げんきんな野郎で寒いと暖を取りに寄ってくることが多くなり、膝の上にも頻繁に乗ってきてくださる。7キロオーバーのデカいなりで。重くとも下僕としては喜んで暖房器具替わりを努めさせていただきます。

 ここしばらくのコバンのお気に入りの事柄が3つほどあって、一つは夜に窓の下でジーッと窓を見上げていることなんだけど、なんだかおわかりいただけただろうか?

 そう、我が家の壁及び窓方面警備担当のヤモリの”出待ち”なのである。冷え込んでそろそろ冬眠に入ったのかここ数日空振りのようだけど、連日のように張り込みからの大ジャンプを披露してくれていた。窓の鍵に前足を掛けるようにして窓枠いっぱいぐらいまで7キロオーバーが跳び上がるのは、サバンナのサーバルジャンプとかカラカルジャンプを思い起こさせる迫力ある見世物で、動画撮って公開したいぐらいであった。

 あと感心するのが、さすが半野生動物とワシは整理してる捕食者としての狩りの能力で、ヤモリが窓の外を例の分子間力(ファンデルワールス力だっけ?)を使った垂直歩行でペトペトと歩く音が聞こえているようで、出待ちしてなかった初期の頃、膝の上で寝ていたのがムクッと起きて窓の方に行ったなと思って窓に目をやるとカーテンの向こう側にヤモリが居るようで、カーテンの下でロックオンしてカーテン越しに跳びかかったりもしてた。まあ、キツネがいかにも音がかき消されそうな雪の下のネズミの音を聞いて雪に突き刺さって狩りをする映像とか見たことあるし、野生の狩人なら当たり前の能力なのかもだけど、改めて目の当たりにすると感動する。ネコが何も無いところを目で追うのは霊が見えているとかアホなことを言う輩がいたけど、壁の向こうのゴキブリとかを耳が追ってるんだろうって話。ちなみにウチの警備担当で玄関及び床方面主に対ゴキブリ作戦を任せていたアシタカグモ軍曹はコバンが見つける先から食い散らかしたようでほぼ居なくなってしまった。1階の三和土には掃除するとMIA(作戦行動中行方不明)な感じで脚とか転がってて軍曹殉職してコバンのオヤツになったっぽい。2階級特進だと准尉か?黙祷。ちなみにゴキブリの脚も落ちてたりして、ネコの居る家にはゴキブリが居ない説はあながち都市伝説ではないのかも。ゴキブリ用の毒餌は毒食らってるゴキブリ食ったらコバンが危ないので片付けた。逆に食べてなくて意外だったのが、侵入してきた小さな蟹で、散々なぶりものにした形跡がみられる干からびた死骸が転がってたけど食べなかったようで、猫に生の甲殻類はダメ説は、港の猫は落ちたアミコマセとか舐めてるので眉唾だと思ってたけど、やっぱり食べられないのかも。堅くて気に入らなかったというのは、窓に飛んできたコガネムシを捕まえて与えたら、散々なぶりたおしてからおもむろにカシュカシュと小気味よい音をさせて食べたので、そうではなさそうである。個体差でコバンが虫がお好みってだけかもだけど。

 寝る前に押し入れから布団を出そうとすると、以前は布団の入っている上に飛び乗ったりして大はしゃぎしていたのだけど、最近は押し入れの下の狭いシーツとかタオルとかを収納しているところに潜り込むのがお約束のようになって、オモチャとかで釣って前足捕まえて引きずり出して「悪い子ッ!言うこときかん子にはお仕置きじゃ!」と、ひっくり返して腹といわず脇といわず全身くまなくワシャワシャしてやって、ついでにワシのあごひげで顔周りをゾリゾリと擦ってやってから寝るというのが儀式化している。”お仕置き”は嫌いでもないようで悪びれずケロッとした顔をしているのが小憎らしくも可愛らしい。ていうか明らかにゴロゴロ言ってて喜んでおられるようで、なによりでございます。

 もう一つ最近のコバンのお気に入りが、敷き布団とシーツの間に潜り込むというもので、何が楽しいのか、中でゴソゴソとしているので上から手を出すと、なんかそういう罠みたいな感じでガシッと前足で掴まえられて指とかをガジガジと囓られる。囓られるとこれまた感心するんだけど、肉食獣の歯って、犬歯(猫歯か?)で獲物を捉えて、奥歯というか裂肉歯で噛み切って飲み込むようにできてるのであまり前歯の出番がない。草食獣だと草を噛み千切るために出っ歯なぐらい発達しているけど、ネコの前歯はショボい感じで噛まれても上手に前歯のところで噛んでくれると痛くなくて、ああこれオカーチャンのお乳飲むのにも便利だわ、って理解できる。ただ犬歯で噛まれると当たり前だけど手加減した甘噛みでもそれなりに痛く、かつ、布団のシーツとかは穴開きまくる。おかげでシーツは穴だらけの繕いまくりで、針仕事にもだいぶ習熟してきた。

 まあ可愛いから良いンだけどね。

 先日保険屋さんと、資料付き合わせて打ち合わせする必要があり、コロナ禍もありなんか”テレワーク”的な感じでネット経由で打ち合わせしたんだけど、お約束的にコバンも”ZOOM”デビューしておりました。最近は画面の中のモノには触れられないっていうのは理解してきたようで、小動物とかが映ってても手(前足)は出さないので、「何コイツ画面の中に向かって鳴いてるんだ?」って不思議そうな顔しておりました。

 という感じで、ネコと爺さんの生活は良い塩梅で、秋も深まって行くのでした。

2021年10月16日土曜日

キャリア4年目ぐらいの大森アナリストからの報告

 ちかごろネットオークション・フリーマーケットにおいて、大森製作所謹製のスピニング の値段が落ちてきているように感じる、と既にどっかで書いた気がするけど、先日ボロ目の見た目の個体とはいえ、一時は5万円とかの馬鹿みたいな値を付けていたらしい「コメットG1」が、ネットフリマに8千5百円で出てて、さすがに即売れてしまうだろうと思ってたら1週間以上残ってたりしてて、いかに一時の価格高騰が人様の価値観でしかモノを評価できない節穴型眼球搭載の釣り人が多かったかということを裏付けている。人が欲しがってるモノが欲しいなんていうのは「クラスのみんな持ってるもん」ってカーチャンにゲームソフトねだる小学生と同程度の精神構造で釣り具の目利きとしては論外として、蒐集家としても結局「高いときに買わされて、安いときに売らざるをえなくなる」間抜けにしかなれない。蒐集家なら安かろうが高かろうが欲しけりゃ買って、死ぬまで手放すなッテ話だし、釣り具の目利きとしては大森スピニングは基本性能が押さえられてて丈夫で整備性が良く、40年から前の道具だけど今でも実用機として買って良くて、実用機としての価値は、中古市場の値段の上下とは全く関係なく普遍的に今も有していると思っている。

 値段が落ちてきてる今買えよ!と正直思うし実践している(開き直り!)。まあコメットは買わんかったけどな。あれはアユ君の愛機だからワシが使うべきリールじゃない。

 値段落ちてきて買いやすくなるのなら良いじゃないか?と思われるかもだけど、値段が付くから中古市場にモノが出てくるっていうのがあって、これまた超人気だった「キャリアー」が某カリスマが使ってたssサイズは一時の暴騰に比べりゃ落ちてきたとはいえ値が付くので売りに出す人も多いけど、全くもって使える良いリールなのに、中古市場でそれほど評価されないNo.1、No.2サイズは滅多に出てこない。ワシが出したらこのブログの読者さんが購入してくれたっていうぐらいで、分かってる人は分かってるけど、分からんチンばかりの中古市場に値段も付かないのに出しても仕方ないってことで出てこなくなると、手に入らなくなるので、安すぎるのは考え物で、まだ高すぎる方がマシなぐらいである。ネットオークションとかに出しても手間賃になるかならんか程度なら面倒臭いとなって、燃えないゴミの日に出されてしまうというのもあり得る話で、想像すると慚愧に堪えないものがある。

 良いリールだと思うので、皆さん買ってみてね。ちなみにワシがお薦めするのは、実用機としてなら、いつも推してる不人気実力派「マイクロセブンCシリーズ」と割とマイコンシリーズでは後期の作でかつ樹脂性になる前で丈夫、スプールエッジの形状が初代に比べて「真っ直ぐ系」になっててライントラブルが軽減していると思ってる、「マイコンTBシリーズ」の2シリーズをお薦めしておく。新品箱入りでもなければ3~5千円で買えるハズなので大森初心者でどんなもんか試してみたいというならば買って損はないだろう。そこからふかい沼に沈んだ場合の被害までは当方は関知しない。

 昭和骨董的な雰囲気を楽しみたいなら、「マイクロセブン(アウトスプール版)」と「マイクロセブンDX(デラックス)」を推しておきたい。アウトスプール版マイクロセブンは外蹴り式でベールを手で返す人間なら実用機としても申し分ないシリーズ。廉価版の「タックル5(色違いの「タックル」)」でも、そのへんの単純ではあるけど”スピニングリールの基本を押さえた作り”は楽しめるけど「タックル5」はハンドル左右切り替え用のネジが付属してないことがほとんどで右巻リールばかりしか中古市場に出てこないのが難点。その点「マイクロセブン」はハンドルに左右切り替えネジの保管スペースを設けてあって、それがハンドルのバランス取り的なデザインになってるのとかも含めて、なかなかに見た目独特の格好良さがあって良いのである。アウトスプール機では出色の格好良さかと。でもって、大森の伝統あるシリーズ名である「マイクロセブン」の元祖的存在で、大森小型スピニングの始まりの一台でもある「マイクロセブンDX」は、実際手にしてみると小っちゃくって可愛らしいけど、バランス良く軽やかにクルクル回って性能も良さそうだし、”グッドデザイン賞”受賞も納得の昭和な日本のスピニングなんである。「意外とライントラブル多いよ」っていう識者の指摘もあるけど、それも含めてジャジャ馬乗りこなすような楽しみを見いだしても良し、観賞用蒐集用と割り切っても良し、ということで1台右巻のを買ってしまったら、左巻きも買って使ってみたいなと思ってしまい。そう思ってしまったら止められなくなる程度に今現在、”スピニング熱”の病状は悪化しており、冒頭写真のマイクロセブンDXの欧州輸出版らしい「コンパック89アトラスⅢ」を買っちまったのである。コンパックって、たしかオリムピックにもリール作らせてたような会社だったと思うけど、大森製作所もシェイクスピアと組む前(組んだ後もか?)に色んなブランドのリール作ってたようだ。

 「マイクロセブンDX」も人気あって、キレイめの個体なら普通に1万円超えてたんだけど最近やっぱり値を下げてきていて、1万円切ることも多く、ボロ目の個体なら5000円ぐらいとかになってきてたので狙ってたんだけど、この個体は錆もほぼ出ておらず、置き傷とかも少なくキレイめ。しかしながらドラグノブのキャップが剥がれ落ちて無くなってるという状態で、5000円というジャンクとしては高く、キレイめ個体にしては格安の開始価格でネットオークションに出品されていた。値段下げてきて人気も落ち着いてきてるし、微妙な価格設定だから意外に手を出されなくて、開始価格でいけるんじゃなかろうか?と5000円で入札しておいたら、まあワシも中古大森売り買いし始めて4年ぐらいになり、”大森アナリスト”としてはもはや駆け出しではない地位におり、狙い違わず確保できましたとさ。病気って怖いね。一度欲しいと思ってしまったら止められないね!

 まあ、最悪さらに値を下げる要因である「右巻」である我が家にある個体とドラグノブ交換で「アトラスⅢ」の方は綺麗な左巻き個体にでっち上げできるだろうし、力のかかる部位でなければ樹脂性の部品は修繕可能で、経験もそれなりにあるからナントカできるだろう。ぶっちゃけ蓋がなくてもドラグは締まるんだし、使えねえことはないやなという割り切りもありっちゃありだろう。

 ということで、我が家に届いてまずは試しにと、右巻のDXのドラグノブを取り付けてみると、これがなぜか微妙に合わない。ハマってドラグも締められるんだけど、ちょっと高さがあってスプールとドラグノブの間に隙間ができてしまう。これはラインが落ちて巻き込むと最悪の状態になるのでよろしくない。蓋なしで良いかとも思ったけど、蓋がないと当然水飛沫とか雨とかが入って中のバネが錆びる。実際ちょっと錆びかけてたので洗浄してグリス塗っておいたけど蓋はあった方が良いなと感じた。

 欠損部分の修理や部品の作成において、力が掛かる部位や部品を素人がどうにかするのはほぼ無理である。でも、蓋みたいな力の掛からない水が浸入するのを防げれば良い程度の代物であれば素人の工作で充分対応できる。まずは適当な素材を探してくる必要があるけど、今回はなんの蓋だったか分からないけど適度に丸みの付いたプラスチック製の蓋があったのでそれを素材として使用。平面でも良いけどラインが引っかからないことが重要なので角の処理は面取りするなどして丁寧に丸めておく必要はあるだろう。当然ながら引っかかりがないようにピッタリハマる寸法にしなければならないので、ドラグノブの穴の上に紙を乗せてグイグイ押しつけて型を取って、それを糊で素材のプラに貼り付けてニッパーで大まかに切り出して、実際にドラグノブの上に乗っけながら、ちょっとずつヤスリ掛けしてピッタリの大きさに調整していった。

 それでは接着する、というという行程になるんだけど、これが適切な接着剤は何かというのが悩みどころで、エポキシ系は意外にポロッと剥がれやすいのでイマイチ、瞬間接着剤は接着面が必ずしも密着してるわけじゃないので、隙間ができると付きが悪いのと、衝撃でパリッと剥がれやすいのもあって、こういう場合に頼れるのは「コニシのSU」だなということにあいなった。SUは安物のウェーディングシューズがあちこち剥がれまくるのを「ボンドG17」を使ってたんだけど、合成皮革とフェルトの接着がイマイチで何か良いのがないかとボヤいてたらケン一が教えてくれたもので、素材が違う場合も強力にくっつけるし、素材自体もテフロンとか特殊な素材意外なんでもくっつける、隙間があっても埋めてくっつけるし、曲げ伸ばしにもゴムみたいに柔軟なので強いという優れもので、今では信仰に近い信頼を置いて使っている。ただ、唯一の欠点としては乾いても表面がベトベトしてて完全に固化しない感じにしかならないので、はみ出すとその部分が汚れてキチャナイ感じになってしまうことで”はみ出し厳禁”である。まあ、多少は乾く前に削るように拭き取ってしまえば良いんだけど、今回は慎重にかつ素早くを念頭に竹串の先を使ってペトペトと塗布して、固化を待つ間は洗濯ばさみで圧着しつつ1日放置の後、隙間を埋めるのと蓋の面取りしてヤスリ掛けした側面を滑らかにするために上からエポキシをこれまた竹串でペトペト塗って仕上げておいた。

 ドラグノブの蓋の方は何とかなったので、機関好調で放置でも良いぐらいかなと思ったけど、一応全バラしして洗浄してグリスアップしておくかと思って分解してみると、意外に中は汚れていて、なぜかベアリングとローター軸のギアを止めてる輪っかを外したら本体側にクモの巣張ったような繊維が充満してて、カビの菌糸とかなのか謎の汚れ方だった。まあそれらもまとめて綺麗さっぱりパーツクリーナと歯ブラシでゴシゴシ綺麗にしてやって、ベアリングも錆びてないのでそのまま使えて、グリスと油を入れてやったんだけど、ラインローラーがナットを締めると回ってくれない。ゆるめてしばらく輪ゴム掛けてルーターで回転させて当たりを取ってやっても締めると回らなくなる。錆が浮いて引っかかりがあるとかだろうか?後の大森だと滑りの良いルーロンとかいう樹脂性のスリーブが入ってるんだけど、マイクロセブンDXは真鍮のスリーブが入ってる。かつ、今回の茶色の個体は古いタイプだと思うんだけど、ラインローラーの形状がなにげに1箇所にラインが落ち着いて転がらないようになっていて、糸ヨレは少なそうで感心する。でもって、スリーブの方が長くてちょっと出るぐらいに、もちろんあんまりやり過ぎてラインが入ってしまう隙間ができるとダメだけど、ラインローラーの端を削ってやれば、引っかかりがなくなって滑らかに回るようになるだろうという方針で、ダイヤモンドヤスリとサンドペーパーでちょっとづつ試しながら削って良い塩梅に回るように調整しておいた。この方式だと逆に回転するラインローラーの方が端から削れていってスカスカになっても、真鍮のスリーブの方を削ってやれば問題なくなる。それまでに何十年かかるのか不明だしスリーブとローラーの接する面が先に削れたら処置無しだけど、長期運用考えると優れた設計なのかも?

 いっちょあがりで全ての機能が元通りという感じで、この茶色い色のはマイクロセブンDXが発売された初期の1960年代版だと思うので優に半世紀は昔の個体だと思うけど、今回の修繕と整備でまた半世紀を生き延びる延命措置になったんじゃないかと期待する。

 当時金色に塗装するつもりだったのか、それだと派手すぎるので、メタリックな茶色程度にしたのか?いずれにせよ今の感覚じゃ色からして出し得ない”昭和味”の染み出す良い塩梅のリールで、でも多分今売りに出しても”ドラグノブの蓋が取れてたので直しました”って正直に明記したら、右の写真のとおり上手に直せているとは思うんだけど、オリジナルにこだわる蒐集家筋からは評価されないだろうし、蒐集家筋意外に買ってくれる人もあんまりいないだろうから、値段が下がってきてる現状、買った値段の5千円で売れれば御の字で、まあ、金に困ってから売るぐらいの心づもりで、しばらく蔵に寝かせておくのが妥当というものであろう。たまにクルクル回してやろうとは思うけど、使うにはちょっと綺麗すぎる感じで、正直もっとボロいのを安く買って直して、気兼ねなく海で使って使い心地を確かめてみたいんだけど、ボロいのは意外に出てこないのよね。売るために写真撮って説明文考えて梱包して発送してって手間暇掛けてもたいしたお金にならないとなると、売る気も失せるんだろう。なんとなく3千円ぐらいになってくれるかどうかが分水嶺のような気がしている。

 さてそれでは皆様ここで間違い?探しの時間です。使いもしないスピニングを買ったのが間違いだとか、オマエの人生は常に間違いだらけだとか、そういうことはたとえ真実であっても指摘してやらないでくださいね。本人が一番身に染みて分かってることですからね。そういう心にダメージを与えるような間違い探しじゃなくて、左の写真のリールは上の整備終了写真と何かが違ってるのですがおわかりだろうか?っていうヤツです。

 ワレ、なにマイクロセブンDXもう1台買ってるねン!と思った方、惜しいけど違います。まだそこまで間違ってません。実は他のパーツとかと一緒に米国から買い付けた中に入ってたマイクロセブンDXの”本体蓋”だけをネットフリマに出されている方が居たのを頭の隅に憶えていて(大事なことは忘れまくるくせに余計なことは憶えてやがる)、まだ売れ残ってるかなと確認してみたら、まだ売り出し中で流れるようにマウスを滑らせて購入。マイクロセブンDXの海外版としては、茶色いコンパックブランドのは見かけるけど、黒っぽい緑なのか紺なのか黒系の時代になると、コンパックブランドのは見たことがなく、シェイクスピアブランドで「2200」の名前ででている。シェイクスピアと組む前の大森製作所は米国でも”ダイヤモンド”の自社ブランドで売っていたそうで、今回入手したものは米国でダイヤモンド「マイクロセブンデラックス」として売られていたものに由来するのだろう。これで、実際には1台しか持ってなくても、実質、欧州輸出コンパック版と米国輸出ダイヤモンド版の2台揃ったようなものであり。一粒で2度美味しい感じになって、なんだかとても嬉しいのである。実用性から考えたら”銘”が変わったところで何が変わるねん?って話だけど、昭和骨董的に楽しむなら、大森製作所が欧州や米国に打って出て、後にシェイクスピアと組んで欧米市場で大暴れする前夜の歴史的な背景を楽しめる1台となってるのである。ブラウントラウト釣りに行くときにはコンパック「アトラスⅢ」で、ニジマス釣りに行くときにはダイヤモンド「マイクロセブンDX」でなんていう使い分けも、まあ現実には日本じゃあまり想定されない状況だけど、気分で使い分けてみても良いかも。って書いたら高値で売れてくれんじゃろか?

 という千円ちょいで購入してお値段以上に楽しめる本体蓋なんだけど、これに実はおまけが付いてきてて、ダイヤモンドリールの知識があまりないので良かったら活用してやって下くださいと、これまた茶色の本体フレームが同封されていた。本体蓋と比較すると写真の様にマイクロセブンDXより少し大きいようで、そうなると兄弟機の「マイクロセブンDX730」かなと思うんだけど、茶色の時代にはその名前ではなくてダイヤモンド「スーパーデラックス730」という名前だったのかも。いずれにせよ今のところワシ使うアテがないので、当ブログの読者さんには大森マニアな面々がいらっしゃるので、欲しいという方、先着一名様にお譲りします。送料だけ持ってください。「足が折れてる”730”持ってるので是非欲しい」というような、ピッタリとパズルのピースがハマるような橋渡しができたら最高ではありますが、「スペアパーツとして持っておきたい」でも、「とにかく大森関係ならなんでも欲しい」という欲しがりさんでもかまいません。必要とする人のところにあるのが良いに決まってます。必要な方はサイトの方に記載してる連絡用のメルアドに”欲しい”という旨記入のうえ御連絡ください。多分、すぐに欲しい人が見つかるとは思えないですが、その場合は保管しておきます。サイズの確認とかの問い合わせも必要に応じてしていただければ対応します。

 これで、我が家の蔵には「マイクロセブンDX」が左右2台揃ったことになり、さっきも書いたけど、今値段が落ちてきているので売りに出すのも面倒臭いなと思ってるんだけど、正直リール買って直していじって、売って利益を出す、というのは難易度が高すぎて既にとっくに諦めている。でも、いじったことないリールを整備したりするのは楽しいので手に入れたいという単純な物欲の他に、今現在ラインローラーが固着しているとかベアリングが錆びているとかの不具合で、使用に耐えない状態のスピニングを手に入れて、整備して使えるようにして、使いたい人に(蒐集したい人であっても良い)渡るように、再度中古市場に戻してやるっていうのは続けてみたいと、これは”スピニング熱”に罹患した当初から思っている。ワシが手に入れるのはD.A.Mなんていう変態リールは例外的で、基本PENNか大森あたりの単純明快実用バッチリのスピニング達である。こういうリール達の良さを少しでも多くの人に知ってもらえたら、そういう単純で丈夫で不具合少なく、整備性が良いリールが長く付き合って行くには良いリールなんだと思う釣り人が増えたなら、ジギングやらエギングやらでシャクリまくる釣りに使うならいざ知らず、普通の巻きモノのルア-とか使った釣りでは全く何が利点なのか分からない、スピニングリールの諸悪の根源だとワシが嫌悪している”瞬間的逆転防止機構”なんていう、水辺で使う道具に搭載すべきではない、水濡れに弱い機構を使わないスピニングが売られるようになるんじゃないだろうかと、遠大な野望を抱いているのである。 

 それはなにも、いまさら金型起こして前世紀の古くさい設計のスピニングを新たに作ってくれっていうハードル高めの話だけを期待してるのではなくて、古い名機を今時の知見でちょっと細部改良して使いやすさを向上させたぐらいの「復刻版」を売ってくれるのでも充分である。ABUの「カーディナル」が実際にそうやって復刻版が出てるけど、別にダイワが「ウィスカートーナメントSS」の復刻版作ったって良いと思うし、米国ダイワでは色違いの「トーナメントSS」は今でもカタログには載せてるとかどっかで読んだ気がするし、それがホントなら日本でも要望があって売れるならダイワとかシマノは、およそ作れないリールなんてないぐらいの技術力持ってるんだから、わけないんだと思う。でも必要とされない売れないリールはどんなに技術のあるメーカーでも作ることはできない。

 釣り人の皆さん、3年から5年経って型落ちしたら、なんか使ってるのがこっぱずかしくなるような出ては消えてく”最新型”の道具なんて”ボイコット”して、長く愛着を持って使える良い道具を使いましょう。”普通に釣りができる”程度の性能機能は、40年前ぐらいの釣り具から既に備えてます。そういう普通の釣り具で魚が釣れないというのなら、貴方は普通じゃないぐらいに釣りが下手だということです。道具なんてよっぽど特殊な釣りをするんじゃなければ”普通”で充分で、後は経験や知識の蓄積だの技術の習得だの”腕”で釣れッテ話じゃと偏屈なジジイは思うんジャ。今時の若者達は泡アワとした景気の良い時代の感覚が抜けてない昭和のオヤジどもとはちがって、醒めてて賢いように思うので、未来を担う若者には釣りの世界に限らず世の中のいろいろなことを良くしていってくれるんじゃないかと期待している。自分も鑑みて昭和脳の老害には現状が限界だったってコトなのかも。などと考えると寂しくなっちゃうので、志は高く”スピニングリールから瞬間的逆転防止機構を撤廃させる”を掲げて、コレからもスピニング熱は適度に養生しつつ、釣りと釣りを取り巻く世界を楽しんでいきたいものである。

2021年10月9日土曜日

ドイツのせいでワシはこんな目にあっちょるんじゃ?!(主にワシのせい)

 ダンケシェーン!イッヒ リーベ リール!!全世界のスピニング熱患者の皆さんお元気ですか~?私は”熱”があがっちゃってて大変で~す。

 今日は、以前結局買っちゃったと告白済みのドイツの変態リール「ダムクイック110」を紹介しちゃいます。買っちゃった理由はもう説明は要らないよね。前回ちょっと説明したけどもあれだ、結局「欲しかったから買っちゃった」って以上でも以下でもタコでもないのよね。うん、あんまりグチャグチャ悩まずに単純明快に行きましょう!

 とにかくコイツは、ガションとギアごとハンドルをブッコ抜いて、ハンドルの左右切り替えができるとかいうスピニングらしく「何その独特の仕組み!」って感じなので、そのあたりを今日は中心的に紹介してみますので、どうせこんなマニアックなブログ読みに来てくれてるってコトは、みなさんそのあたりイケるくちなんでしょ?まあ楽しんでってくださいよ旦那。

 とかなんとか言いながら、まずは分解なんだけど、いきなり問題のハンドルとギアがハマってる一塊を止めているネジをブチ抜かないと本体蓋が開かないという構造になってて、早速ブチ抜く。

 ハンドルの根元にある3本のネジが、反対側の本体蓋にくっついている銘板の乗った部分まで貫通して届いていて、銘板部分をガチッと引きつけて蓋を固定することになっている。3本のネジを外して蓋を外してオシュレーション(スプール上下)のクランクとかをハンドル軸のギア(ドライブギア)から外してやると、ハンドルにギアがくっついたままズボッと抜ける。

 後は、このハンドルごと抜けてきたギアを含めた一連の部品達を本体蓋の銘板の部分と左右入れ替えて、オシュレーションスライダーは表裏どちらにもオシュレーションのクランクが留められるようになってるので、裏にクランクを付けてハンドル左右切り替え終了という感じになる。

 ここで皆さんは、なんの疑問も持たないだろうか?

 ワシすっごく疑問に思った点が2つあった。一つはギアをひっくり返したらギアの歯の切ってある方向が逆になって、ローター軸のギア(ピニオンギア)と噛み合わなくならないの?っていう点と、もう一つは、ハンドルとギアの一連のかたまりに逆転防止の切り替え棒らしきモノが付いてきてるので、逆転防止はここに付いてるんだろうけど、左右切り替えして回転が逆になって正転時に止まってしまわないのか?そうならないならどうなってるんだ?っていう点の2点である。

 一つめのギアを左右ひっくり返したら、ギアの歯の切れてる方向が逆になってしまうんじゃないかという疑問は、ワシと同様に頭の中でイメージ図とかを回転させたりすることができない人間は同じように思うかもだけど、頭の中で三次元の立体イメージを自由に回転できる人は「ナマジ何アホなこと書いてるんだ?」と疑問の意味が分からないだろう。ワシ恥ずかしながら、三次元の立体イメージはおろか、二次元の平面図の地図でさえ頭の中では回すことができなくて、実際の紙の地図なりを回さないと道が選べないという方向音痴にありがちな頭の仕組みの人間である。結果的には左右ひっくり返してもギアの歯の切れ方は同じ方向でちゃんとギア同士噛み合うんだけど、イマイチ理解しにくかったので手元にあるペットボトルのキャップに黒くマジックで線を書いて仮想のギアの歯を斜めに切ってみて、左右ひっくり返して確認してみると、写真の様に同じ方向に斜めの線が傾いてて、不本意ながらも実物がそうなってるのでやっと納得できた。

 もう一つの疑問の方は、分解する前から「こりゃ左右ひっくり返すと正転と逆転が逆になるんだな」と推測できた。

 写真はハンドル右に付け替えてみた後だけど、ハンドルの根元に付いてる、逆転防止の切り替えレバーは、普通はオンオフの2種類の切り替えだけど、このリールの場合は「逆転防止」「オフ」「正転防止」の3種類の切り替えがある。写真は「逆転防止」と「正転防止」の位置になってるけど、その中間にちょっと高くなった状態でレバーを留められる位置があって、この「オフ」の位置だと正転も逆転もする。ということは、ハンドルの左右付け替えをすると、正転逆転が反対になるので付け替え前には使う場面が想定されない「正転防止」の位置にレバーを入れて使うんだろうなとすぐに理解できて、じっさいそれで正解だった。

 ただ仕組み的にはどうなってるんだか?予想がつかず、分解してみて初めてナルホドナと理解した。

 例によって、ハンドルを外すにはハンドルピンを細いドライバーを突っ込んで押し出してという力技で抜いて、ハンドル軸のギアを軸受けから抜いてやる。 

 するとハンドル軸のギアの裏面にボコボコと穴が掘ってあって、その穴に逆転防止?の切り替えレバーから伸びている先端を斜めに切った丸棒がバネで押さえつけられて填まるようになっていて、その斜めの方向によってストップが掛かる方向が決まる。「オフ」の位置にするとレバーが高い位置で留まるので丸棒の先が引っ込んでストップはかからず、正転も逆転もするようになる。という仕組み。なので逆転防止機構をオンにしてハンドルを回すと、カチカチという音とともに逆転防止のレバーが微妙に上下動して振動している。なんとも独特の方式で、ドイツ人変わったこと考えるな~と感心する。

 感心するんだけど、素朴な疑問として「なんでこんなにややこしい方式にしたんだろう?」というのが頭に引っかかる。現在のリールのハンドル左右交換方式が、ハンドルねじ込み方式だろうと、真ん中に四角とか六角形のピンを入れる方式だろうと、ほぼハンドルだけを左右入れ替えする仕組みになってて、ギアと逆転防止機構までまとめて左右入れ替えなんていう面倒臭いことにはなってないので、いまいちこの方式にした必然性が分からない。ベベルギア系のギアならローター軸のギアから伸びる主軸がハンドル軸のギアのど真ん中と直交する形で通るので、ハンドル軸のギアの真ん中を貫通してハンドル左右切替えの仕組みを持ってくる設計は不可能だというのは分かる。でもこのリールはローター軸のギアとハンドル軸のギアがリール本体内で横に並ぶウォームギア方式である。ウォームギア機ならABUのカージナルC4とかPENNの4300ssなんかでも、普通にハンドルとハンドルキャップを左右入れ替えする方式であり、そういう設計は可能だったはず。

 なんでじゃろ?ってなことを考えて思いついたのは、スピニングリールの歴史を紐解けばなにか分かるんじゃないだろうか?ということで、國吉昌秀氏著「ベールアームは世界を回る」(以下「ベルせか」と略)を読み返してみて、自身の見てきたスピニングリールのあれこれも照らし合わせて、なんとなくこうだったんじゃないかな?という推論を立ててみた。ワシが思うに、スピニングリールの歴史において、長くベベルギアが一般的であり、かつ、現代的スピニングの方向性を示したと紹介されている第2次世界大戦チョイ前1932年に登場したハーディー社の「アルテックス」でウォームギアが採用されてから後も、戦前に始まり戦後の量産スピニングとしてベストセラーで世界的な標準機だったであろうミッチェル社のスピニングがスパイラルベベルギアも含めてローター軸のギアとハンドル軸のギアの中心線が延長線上で直交するベベルギア系だったことの影響とかも大きかったように思うけど、スピニングリールの設計において、ベベルギアだとハンドル軸のギアの中心線上の、ハンドルと逆側には主軸が通っていて、スプールを上下させるための部品であるオシュレーションカムを主軸に固定して乗せるには好位置だけど、現在のリールでは、多くがハイポイドフェースギアという主軸とハンドル軸が直交しないギア方式を採用しているから当たり前の設計である、ハンドル軸をハンドル軸のギアの両側に伸長して、本体側と本体蓋側の2箇所のベアリングなりスリーブなりで支持するという”両軸”の設計ができず、ハンドルの付いている方だけの”片軸”だけで受けるのが、いわばスピニングの設計における”癖”のような常識であった、というのが背景にあったのではないかと考えた。D.A.M社がこのハンドル左右交換方式を開発したのと同時代かチョイ後ぐらい60年代後半登場の大森「マイクロセブンDX」なんかでも、主軸とハンドル軸の延長線が直交しないハイポイドフェースギアにもかかわらず、右左どちらか専用で同じように片軸受けで設計されている。

 でもって、両軸で受けられる場合と、片軸で受けなければならない場合の差は、なんといっても安定性の違いで、片軸では安定させづらいのは以前にスピニングリールの主軸自体が片軸受けであることから、安定して力をかけにくいという説明をしたことがあるけど、ベベルギア系はもちろん、他のギア方式でも左右のハンドルが交換できないタイプのスピニングリールでは、主軸もハンドル軸も片軸受けでそれが90度方向を変えて力の伝達を行うという、なんとも力の掛けにくい危なっかしい構造なんである。でもって、片軸受けだとなんでD.A.M方式のギアごとハンドル左右入れ替えになるの?って話にだんだん近づいていくんだけど、片軸受けで安定しないハンドル軸を安定させるために、軸受けを長く取る設計にどうしてもなって、例えばABUカーディナルの左専用でインスプールの4と左右両用のアウトスプールのC4、PENNスピンフィッシャーの左専用の430ssと左右両用の4300ssでは同じウォームギア方式でもハンドルの軸受けの”長さ”が全然違う。上の写真はPENN4300ssと430ssのハンドル軸を比較するために引っ張り出したものだけど、写真左の左右両用4300ssの軸受けは本体内に収まっているベアリングの厚さ掛ける2で1センチあるかどうかだけど、お隣左専用機430ssの軸受けは中身は真鍮製スリーブで長く本体から張り出す形になっている。という違いを現代の知識でもってあらかじめ知ってたなら、左右両用にする場合には軸受けは本体内に収まるぐらいの”厚さ”のベアリングなりスリーブなりで両軸受けにしてしまえば良いと、当たり前のように思ってしまうんだけど、その方式がなかった時代の常識で考えると、スピニングリールのハンドル軸の軸受けは安定させるために長さが必要で、ハンドルだけを左右入れ替えにする設計では、リール本体のハンドルが付いていない側にも、長い出っ張りが生じてしまいよろしくない。と当時のD.A.M社の設計者が考えたとしても自然で、ならば軸受けごと交換すればいいじゃないか!と閃いて、今見るとわけのわからん変態的な設計にしたんだろうと愚考した。まあその場合でもなんで逆転防止まで一緒にしたのかは説明付かんけどね。D.A.M社は戦時下で一旦生産が止まってたけど1950年代に再始動したらしく、60年代の「ダムクイックスーパー」にはD.A.M式ハンドル左右交換方式が採用されているので、その頃開発されたと推測した。もう一つの可能性としてひょっとして今の一般的な両軸受けにしてハンドルだけを付け替える方式が特許で押さえられていて使えなかったからかもと考えたけど、「ベルせか」で見ていくと、両軸受けハンドル左右変換方式の原型は、1944年にパテントが取られたウォームギア方式のJ.W.ヤング&サンズ社の「アンビデックス」に既に見て取れて、20年の特許期間が切れるのが60年代後半と考えると辻褄が合うようにも思うけどやや薄い線のような気がしていて、どちらかというと60年代誕生で70年代に人気を博したインスプールのカーディナルや1948年誕生のミッチェル(後のミッチェル300)とその後60年代に出てくる人気小型機の308や408でもハンドル左右交換のできない方式だったように、それが両軸受けハンドル左右変換方式のスピニングリールが一般的になる以前の60年代ぐらいまでのスピニングリール設計上の”癖”だったと考える方が自然かなと今のところ考えている。日本でもオリンピックの大ヒット投げ釣り用リールである1956年発売開始の「93シリーズ」がベベルギア系でハンドル左右交換ができない設計だった。”スピニングリールのハンドルは左右交換できない”っていうのが常識だった時代が結構長かったのではないかと。

 となると、気になるのは現在採用されている両軸受けでハンドルだけ交換する左右交換方式が、何時どのメーカーが開発したのかってところだけど、これが両軸受けにすることによって構造上強度が取りやすくなったという副次的効果が、地味にみえて今時の丈夫なスピニングの基礎を支えてるとても重要な発明だったと思うんだけど、ハッキリしないのよねどうも。「ベルせか」では、最初のアウトスプールスピニングを世に出したのはD.A.M社説とか紹介されていて、筆者はそれより先にセンタウレ社があったんじゃないか?と書いていたりもするけど、インスプールからアウトスプールへの変化も重要だったかもだけど、ひょっとするとそれに相当するぐらいに重要だったと思う”両軸受けハンドル左右交換方式”がどこのメーカーが最初にやったのかは記述が見当たらなかった。TAKE先生のサイトや著書でも目にした記憶が無いので、ネット検索かけてみたけど、余計なクソみたいな情報が多すぎて絞り込めず到達できなかった。英語のサイトとかも調べれば誰かが自説を書いているかもだけど英語不得意で上手に検索かけて、欲しい情報にたどり着くまでの能力がないのよね。何時どこでどのメーカーによって開発され、どの時代にこの方式が採用され始めたのか、「ベルせか」だとさっき書いたように1944年の「アンビテックス」が一番古い時代のものだけど、それ以前にもあったのかは古い話で正直追うのが難しく、ベベルギアだとあり得ない設計なのでハーディー「アルテックス」の1932年以前には開発されてなかったはずっていうのは言えるけど”どこのどいつが発明した”っていうのは結局ワシには確定し得なかった。どなたかご存じのかたがおられたら是非教えて欲しいので、タレコミ情報よろしくお願いします。

 でも、”両軸受けハンドル左右変換方式”が一般的になっていった時代は、各社の古いスピニングリールの機種を見ていけばある程度分かって、割と早かったのは1970年と紹介されているダイワへの吸収合併以前の稲村製作所で「ロディー」のアウトスプールのモデルは共回り方式っぽいネジの頭が、ハンドルが付いてる反対側に見えているので60年代後半には採用していたっぽい。ワシの好きなPENNと大森でみると、PENNのスピンフィッシャーがアウトスプール化して左右ハンドル交換ができるタイプが出てきたのは70年代後半登場の3桁スピンフィッシャーの時代かと思われるだろうけど、実はもうチョイ早くに、おそらく「750ss」とかの前身となった「747」「757」ていう機種があるので多分70年代初めか真ん中ぐらいには採用してたようだ。大森だとマイクロセブンのアウトスプール版が最初かなという感じで1974年のカタログで新製品となっていて、あと70年代当初の製造だと思われるダイワが米国向けに輸出してた古いインスプールのリールに「725RLA」なんてのもあって、もろに右(Right)と左(Left)で使えますよっていうのを売りにしているのが名前に見て取れる。おそらくスピニングがアウトスプール化して日本のメーカーが力をつけていった時代でもある70年代に一般化していったのかなと。その時代でもインスプールのカーディナルとかPENNでもインスプールの710系、720系、3桁アウトスプールの小型機430ss、420ssとかは頑固に片軸受け方式でそれはそれで味のあるリールだし、性能的にも左利きの人には申し訳ない左ハンドルのみ展開の機種もあるにせよ悪くないどころか優れたリールだっていうのは、まあ今さら書くまでもなく、新しければなんでも最上かというと、そうとも限らんという話だとは思う。

 っていうような、スピニングリールの歴史のお勉強と考察をD.A.M式ハンドル左右交換方式に触発されてしてみたところだけど、それはそれとして我が家に来た「ダムクイック110」はグリス固まって巻きが重くなってたし分解清掃して使える状態に整備してやらねばならず、粛々と作業を進めるつもりが、これが予想外に大苦戦。夕方釣りに行くつもりで3時間もあれば終わるだろうと考えてお昼頃に作業開始したんだけど、なんとか片をつけて終わる頃にはすっかり日も暮れ始めてて夕マズメになってて、精根尽きてホトホト疲れ切って釣りの予定をを延期せざるを得なくなってしまった。

 何が起こったのか、D.A.Mのリールの整備に関しては前回「ダムクイック110N」の時はハンドルピンはある種の力技で棒状のモノを突っ込んで押し出して外す、というのを憶えて帰ってもらったところだけど「ダムクイック110」でも皆さんに1つ憶えて帰って欲しいことがあるので、ことの顛末を報告がてら解説していきたい。

 起こった問題を端的に書くと、ローター軸のギアからローターが抜けてくれなくて、にっちもさっちもいかなくなった。その他は問題なくバラせて、ドラグのパッドが耐熱タッパーの蓋みたいな柔らかくてテフロンほどは滑りそうじゃない透明な素材でできた大きなドーナツ状のだったのが新鮮で面白かったけど、まあ理解できる範疇。問題の箇所、ロータを留めるナットを外したら、1方向欠いたワッシャーが填まってて、ローター軸のギアの頭もそのれに対応して1方向が欠けたものにネジ山が切ってあって、でもなぜかローターの穴は丸くて、あんまり見たことない設計だなとは思ったけど深く考えず、ワッシャー外してローター抜こうとしたらば抜けてこない。錆びて固着してるのかもとグリグリと力をかけてみたりしたけど一向に抜けてこないので、固着してるならCRCでも吹いてから力技ぐらいしか手がないなと、ローターをむんずと掴んだ状態で飛びだしているローター軸のギアの頭に樹脂性の棒を当てておいてから、木槌でコンコンと叩いてみた。最初は軽く叩いてたけど全然抜けないのでちょっとムキになって、ガンガンと乱暴に叩いてしまい、これは力ずくだと固着が外れないまま壊れる路線だなと気づいて、諦めてそのまま外さずにパーツクリーナーで丸ごと洗浄して、隙間とかからベアリングにオイルを注して全体をグリスアップして組み直したら、これがローターがガタついて上手く巻けなくなっている。緩んだってコトで、ちょっとは抜けかけてたんだなと、再度バラしてみたらやっぱりちょっとローター軸のギアの頭の出方が小さくなっていた。なのでもう一息だろうと、再度トンカチを振るうも、まただんだんと壊れる路線に収束していきそうになって抜けてくれず、やっぱり抜くのは無理だと判断して、仕方ないので逆にしっかり填めてしまおうとローターを持ってリールの本体のお尻にゴムを当ててから木槌で叩いたけど、これが全くローター軸のギアが出てこなくて、抜けもせず填まりもしなくなった。なんじゃこりゃ?わけが分からないけど、一回この状態でどのぐらいグラつくのか見てみようとして、回さにゃならんからと例のギアごと抜けてるハンドル様ご一行を填めて、ネジで蓋をしっかり留めて回してみたら、なぜかローター軸のギアがちょっと出てきてて、あれだけ叩いても動かなかったのが動いたとしか考えられない状況。

 あぁ、これローター自身にネジ山切ってあって、ローター軸のギアに填めて上からナットで締め付けて固定するだけじゃなくて、ローター自身も回してギアにセットしてから、逆回転して緩まないように、1方を欠いたワッシャーを填めてナットで止めるっていう設計なのか、と気がついて。ハンドルを付けたまま締まる方向に回したときにストッパーがかかる様にしておいて、ローターを手で回して締めてやったらしっかり填まってくれた。ので逆に回したときにストッパーが掛かるようにストッパーレバーを逆に入れて逆回転させてローター無事に外して、ベアリングをグリスシーリングして再度ローターを締めて、ワッシャーを填めてナットで固定して(ナットのネジ山が舐めかけてるのかユルかったので外せるタイプのネジ緩み止めを垂らしておいた)、オシュレーション関係とかの部品を組み付けるために、面倒臭いことに一旦またハンドル軸関連ご一行様を抜いて、グリス塗りまくりながら組み上げて、何とか整備終了。ローターもガタ無く填まってるし、回転も軽くなって機関どこも問題なく快調に仕上がって、クッタクタに疲れたけど、なんとか片が付いて心底ホッとした。

 ハイ、今回皆さんに憶えて帰って欲しいのは”「ダムクイック110」系統はローターがローター軸のギアにネジ山切って回してはめ込むようになっている”ということです。ドイツ本国とか、意外に人気のある米国で、マニアのサイトとか探せば整備の仕方とかは普通に出てくる情報かもだけど、日本じゃいかんせんD.A.Mってせいぜいベイトリールがバスマンには知られてる程度でスピニングはマイナー過ぎてネット検索してもあんまり情報出てこない。今回資料として参照しまくっている「ベルせか」なんかが典型だけど、現物に基づいた”ちゃんとした”情報って、必要な人間が利用できる形でまとめてあるっていうのは、ものすごく価値のあることで、D.A.Mのスピニングの情報なんて日本じゃ多分数人しか必要としないだろうし、読んで楽しめる人間も特定少数と言って良いと思うけど、そういう隙間産業的な”ワシが書かんかったら誰も書かん”っていうような情報が検索可能な状態で存在することこそが、我がお気楽ブログの売りというか存在意義だろうと勝手に思い込んでいるので、ここまで読んでもらって楽しんでくれてる貴兄のために、そして書くのが楽しい自分のために、今回も力一杯書かせてもらいました。ただ、前半は特に”ナマジの妄想”的な推測に基づく記述も多いので、事実関係の誤りとかがあったら全てそれはワシのいたらぬところに起因するものであり、ご容赦いただくとともに正しい情報やら、正しくなくても面白い持論とかお持ちでしたら是非ともご教授いただき、今後ともご指導ご鞭撻の程、なにとぞよろしくお願いいたします。という感じです。 

 これで、2台D.A.M社のインスプールスピニングを分解整備したわけだけど、独自性がスゴいっていうかなんか独特で、”変態”っていうのは既に英語圏では”HENTAI”で通じるぐらい日本人の細かい所にネチョネチョと突っ込んでく性癖を表してるんだと思うけど、ドイツ人も共通する変態性を持ってる人達だなと、ドイツ人が聞いたら激怒するかニヤリと笑ってくれるかわからんけど、そんな風に感じましたとさ。ベールアームがたためるところとかも細かい所だけど凝ってるなという感じで面白いんだけど、道具としてどうかっていうのは使ってみないと分からんという話で、もうちょっとボロくて多少サビさせても良いような個体が手に入ったら使ってみたいとは思うんだけど、ぶっちゃけ変態が過ぎて複雑になってて、自分の好みとしては単純明快なPENNのほうがやっぱり好みかなとは思う。思うんだけど、米国で人気っていうのがちょっと気になってて、米国人は使えん道具は高くは評価しないので、実際に釣り場に持ち出してみたら「やるやんけ!」ってなりそうな気もしてて、やっぱりもう一台、自分で使う用のボロ個体が欲しい、ってなってきてて病状はさらなる悪化の兆候を示し始めているのであった。いつものことながらアタイ、病気が憎いっ!

2021年10月2日土曜日

シングルウィングプロップベイトというは浮いて止められるバズベイトと見付けたり

 プラグのジョイントボディーの後半に1枚羽が生えていて、後半のボディー自体が回転するトップウォータープラグというのは、結構昔から北米のマスキー用のルア-では定番的に売られていて、大きさが20センチ近くあるような大型ルア-なので、小型のバスプラグのように単純に金属ペラをお尻に付けるっていうわけにはいかない理由があるんだろうなと思ってたら、どうも数年前ぐらいに”シングルウィングプロップベイト”とか言うらしいけど、その、ボディー後半が1枚羽根で回るタイプのルア-、を小型化してバスルア-にしたのが、米国トーナメントシーンを賑わしたようで、後発のメーカーも含めていくつか同タイプのルア-が出ているようで、ネットでなんか面白いルア-がないかと探してたら引っかかってきた。

 普通のスイッシャーと何が違うんだろう?一部とはいえボディー自体が回るっていう要素を考えると、ミルスピンやヨーズリのオケラのような胴体回転系に近いのだろうか?と疑問に思って使用動画を見てみると、音の質とか水の動かし方とかがむしろバズベイトで、コレまでもあることはあったけど、バズベイト系のプラグなんだなと自分の中で理解した。

 バズベイト系のプラグとして一番有名なのは、本体前部にバズペラを持って来たフレッドアーボガスト社のスパターバズ(右写真、スカート腐ってしまってます)もしくはペラの形はやや違うけど似たようなスパターバグだろうと思う。なぜ、バズベイトのペラを持ったプラグが欲しいのかといえば、バズベイトは止めると沈むので、一瞬沈ませて食わせるという技がないわけじゃないけど、基本着水したら急いでただ巻きの忙しいルア-で、それを浮くボディーと組み合わせると、着水後波紋が収まるまで待って動かすとか、途中で止めて間を作るとかができるっていうのが利点なんだと思う。とはいえ以前にも書いたけど前方に重いペラを持つこの手のプラグは、一旦止めるとペラ部分が沈んでしまい、再度動かすときに立ち上がりがモタクサしてあんまり塩梅よろしくなく、基本タダ引きで使ってしまうので”バズベイトでいいやんけ”ってなってしまう。

 という問題を解決して、バズペラをプラグに搭載しつつ立ち上がりの反応を素早く、って考えたルア-も過去いくつも作られてきていて、一つの解決策としては本体の浮力を大きくしてバズペラの重さを支えてしまうという方法で、今だとアーボガストのその名も「バズプラグ」っていうのがそうだし、古くはバズペラではないけど大型のペラを前方に持ったヘリン「フィッシュケーキ」なんてのもあった。コイツらの欠点としては多分太さゆえのフッキングの悪さがあるはずで、フィッシュケーキについてはヘリンお得意の、虫の足のように張り出した天秤型のフックハンガーでフッキングの問題を解決しようとしているように見受ける。フィッシュケーキはそう考えると、あれはあれで理にかなった設計なんだなと思わされる。

 もいっちょ解決方法としては、前だけに付けるからバランスを欠いて前が沈むので、後ろにも付けてバランスを取るという方式。ただコレは、後ろにバズペラをつけるとその後ろにフックを付けてもバズペラが邪魔してフッキングしにくいのか、バズペラそのものが前後に付いているルアーというのは米国では作られたようだが本でしか見たことないぐらいに稀(バズペラ後ろにだけ付くのはちょくちょくある、レーベル「バズンフロッグ」(写真上段)とか)。あと前後にバズペラはルア-全体の長さが長くなって邪魔くさくなるというのもあるのかもしれない。というわけで、バズペラほど大きくないけど、バズペラと同様に回転するペラの側面が水面を叩く形の、大きめのペラを前後につけたスイッシャーというのは割と存在する。オザークマウンテン「ウッドチョッパー」とかその流れをくむルーハージェンセンのデカいスイッシャー(写真中段)とかがそう。そして前後もあれば左右もあるよ、って話で左右にバズペラを羽の様に備えたヨーズリ「ギャビー(蜂)」とかティムコ「カラバシュ」(写真下段)なんてのもある。左右方式はちょっとキワモノが過ぎる感じがアリアリとするけど、前後方式で使われるような、バズペラほど大きくはないけど水面を叩くペラを付けたスイッシャーっていうのは、とくに大型スイッシャーではその大きさに見合った音や飛沫が期待できるので割と評価が高いように思う。前後ダブルの他に、後方シングル、後方タンデムもあった。

 あと全くのキワモノとして、バズペラ自体が、浮力のある水中浮きにヒレを付けたような形のバズベイト?もあったように思うけど、これはバズベイトの”ペラの側面が水面を叩く”っていう大事な要素が抜け落ちて、むしろミルスピンやらの本体が回る系に実質近いモノだろうと考える。ルアーで釣ってて不思議に思うことの一つに、スピナーベイトでもバズベイトでもワイヤーベイトと呼ばれるルア-では、なぜかブレードやバズペラに食ってくることは少なくて、ちゃんとハリの付いているヘッドの方を食ってくるってのがあって、誰かそうなる理由を上手く説明できる人がいたら教えて欲しいんだけど、ペラを太らせて回転させたらさすがにペラを食ってくると思う。じゃないと「ガウディー」なんていう回転する本体にフックの付いたワイヤーの骨組みをぶら下げたようなルア-は成り立ちにくいだろう。

 話がちょっとそれたが、元に戻して”シングルウィングプロップベイト”だけど、バズペラの重要な要素である”ペラの側面が水面を叩く”というのはまったくその通りの動きになっているのは動画で確認できて、そういう動きの機能の質から、コイツはスイッシャーというよりはバズベイトなんだなとワシャ理解した。でもって、ペラが沈むのは浮力のある本体後部にペラを付けているのである程度防げる。かつ1枚中心から飛びだした羽という形状は、バズペラほどかさばらず、後ろにペラを持って来てもバズペラほどはフッキングの邪魔をしないように思う。メーカーによってはこの羽を弾力のある曲がる素材にしてフッキング向上を謳ってたりもするようだが、多分堅めの素材でも咥える時には羽は向こう側に回ってそれほど邪魔にならないように思う。

 というように考えて、やっとスイッシャーじゃなくてこういう形態の”シングルウィングプロップベイト”がなぜできたのか、なんとなく理解できた。”浮力のあるボディー後半自体を回転させて、ペラが沈まず立ち上がりの早い、浮いた状態で止めてストップアンドゴーとかが上手にできる、ペラの側面が水面を叩いて音と泡、飛沫を出すバズベイト”なんだろうなというワシ的整理。

 ってなことを考えてたら欲しくなってしまうのは、不治の病に冒された患者の症状としては処置無しの末期であり買うしかなくなった。調べてみるとフライフィッシングの世界ではディアヘアの成形で引っ張ると潜ってく形状を持つバスバグの一種?「ダールバーグダイバー」に名を残すラリー・ダールバーグ氏が設計した、リバー2シーというブランドの「ワッパープロッパー」というのが、バスルア-サイズのシングルウィングプロップベイトの先駆らしいので買ってみるかと思ったら、2千円ぐらいしてお高いんでやがる。いくつか他社からも出てて、手に入りやすくお値段も千円前後と手頃だったのでバークレーの「デックス・チョッポ90」というのを買ってみた。

 パッケージ裏に宣伝文句としてデカデカと「浮くバズベイト!!!」と明記してあり、ワシの考察もあながち的外れじゃなかったな。と得心のいく思いだったが、実際に投げてみて「ありゃ?」っと首をかしげることになった。なんか回転するボディー後半部分が細身だなとは思ってたけど、期待していた水平浮き系ではなく結構縦気味に浮く。動かしてみるとスパターバグみたいな前にバズペラのルア-のモタクサ感はなく、むしろ縦浮き系のシングルスイッシャーのような感じで機敏にバズサウンドを奏でながら走り始めるので、これはこれでいいんだろうなと思ったし、本家「ワッパープロッパー」の映像も止めたときの浮き角度に注目してみると斜め浮きで水平浮きじゃない。こういうルア-らしいなどうも。

 でも、せっかく回転部分に浮力持たせることができるなら、水平浮きにすればユックリ止めて進めてってのもできるし、どうせ首なんか振らないんだから、動かしはじめの反応の早さを求めても良いんじゃなかろうかと、回転部分が浮きそうなのを探してみた。本家の米国通販のマスキー用ルア-を見るとあるんだけど、結構お高くて使うアテもないのに突っ込める額じゃない。と思って誰か国内で持てあまして売りに出してる人いないかなと探ったら、ありましたマスキーベイト「スラマーサンダーヘッド」。18センチと男らしい大きさ。800円とお買い得。するりとマウスを滑らせて即確保。いやはやなかなかに格好いい。チョッポ90はそのうちシーバスに使ってみるかなぐらいに思ってたけど、コイツは使い道があんまりなさそう。しかたない、青物にでも投げてみるか?アマゾン(ガイアナ)行くつもりになったとき(結局行けなかった)に買い集めた、側面で水を叩く系のペラが付いてるデッカいスイッシャーとともに、青物にバズ系はどうか試してみるか?投げてて楽しいたぐいのルア-だと思うので、本気で狙いに行く1軍ルア-の合間にお楽しみルア-として投げて、魚が回ってくるまで投げ続ける集中力を持たせるのに役立てるというのが使いどころかな。

 というわけで、ちょいと前に流行ってすでに廃れたような雰囲気ではあるけど、流行ったってコトは効果があったんだろうし、廃ったってことは今使う人間が少ないだろうしで、今が使い時かなという、腐る前の熟れた果実がごとし、な”シングルウィングプロップベイト”で行ってみました”ルア-図鑑うすしお味”第49弾でございました。