2023年12月31日日曜日

2023年のベスト3(釣り編)

 今年の漢字は「税」だそうだけど、どうせ働いていないから、絞れるモンなら絞ってみろ、なワシには、むしろ物価高騰のほうがジワジワ首が絞まってくようで気色悪い。そんなワシの今年の漢字を選ぶなら1文字じゃないけど「悶絶」だろうな。年明け早々の見えてるけど食い切らないカマスの群に悶絶、一瞬口を使ってるのにハリ掛かりさせようがないぐらい口にフライが入ってないタチウオ、ドラグ鳴るぐらい引っ張ってるのにどうもハリが口に入ってないらしいハモ、挙げ句の果てには水面に落ちてるのを拾ってくる簡単なお仕事程度に思ってた豆アジでさえ、食わせ切れずに悶絶しまくって「悶絶癖がついてるんと違うか?」とおちょくられるしまつ。まあ、おかげでチンチンに熱くなってのめり込んで楽しめたし、苦戦の中でしか身につかないような技量も磨けたと思う。豆アジ小アジにさらに新たな手札を開発することになるとは思ってもいなかったけど、単純明快に棚が浅ければ仕掛け全体を軽くしてコマセは手で撒く「軽浮子仕掛け」は棚が上ずってから回転数上げて水揚げ目標まで釣りきるための切り札として機能するようになった。何十年と血道を上げて釣りにのめり込んできたけど、今現在も行けば行くほど新たな課題が生じて試行錯誤を余儀なくされ、時に苦杯を舐めさせられつつも、いまだに自分の技量が上がっていくのを感じるのは楽しいとしかいいようがない。こんな面白いことがあるだろうか?っていうぐらいの快楽。

 ○釣り:1位「体幅70cmアカエイ」、2位「久しぶりのアユ」、3位「ルアー根掛かりロスト無し」、次点「大晦日サヨナラ爆釣」

 まあ、今年の1位はやっと狙ってた獲物の一つに手が届いたという自己記録更新のアカエイ70cmは堂々10kgはあろうかという巨体で、ちょっとまだ暑い時期だったので干物の仕上がりに自信が持てず放流してしまったけど、次回釣れたらエイヒレ大量生産して、肝臓が滅茶苦茶美味しいらしい刺身、韓国でいうところの”カオリフェ”を存分に楽しんでみたい。アカエイ珍重するところもあるけど、一般的には釣り人に喜ばれない魚だけど、市場価値があまりなく食味の評価が不当に低いだけで、デカいし力はあるし、なにげに食味も良いので、ワシ的にはデカいのはS級認定して狙ってる。また狙ってなくてハモ狙いに絞ってハリスも道糸も竿も細くしたら来てしまって、やりとりも難易度高くて最高に楽しめた。ヒラメや大型根魚も活き餌の泳がせ釣りでは対象になってくるけど、アカエイはそれらと同等以上ととらえて今後も思いっきり狙っていきたい。

 2位のアユは多分3年ぶりで、近所の河川は放流も漁業権も無いような川なので、天然遡上のある年だけアユ釣りができる。今年の遡上量は多くはなくて何十匹と釣れるような状況ではなかったけど、川にアユが居て一緒にウグイちゃんなんかも釣れてきて、釣りから帰ってちょっと夜食にアユとウグイの塩焼きなんてのは、なかなかにこれが乙な味なのである。さすがにアユ釣りの世界も友釣りなんていう道具がクソ高くなって新規参入が望めないような釣りだよりではヤバいと気が付き始めたのか、ルアーによるアユ釣りとかを解禁する川が増えてきた。友釣り以外の毛鉤釣りや餌釣りさえ認められていないようなクソな管理状況の河川も多かったのであたりまえと言えばそうだろうけど良い傾向かなと思う。一部のジャブジャブ金使ってくれる友釣りの釣り人のために、環境収容力もくそもない大量成魚放流で天然河川を釣り堀化して他の釣りを締め出すような、歪な河川における遊漁の状況が時代遅れになっていくのは見ていて痛快である。ザマミロ!

 3位は誇って良いと思っている。もちろんフライやらアジ釣りのハリやら切られて海中というか魚の口の中に残してしまっているので、完璧に海にゴミを出さない釣りにまではたどりつけていないけど、それでもルアーを1つも無くしていないのは我ながら立派。底狙いの根魚は完全に足下狙いで根がかっても外せるし、シーバスもメッキも水面と水面直下でしか勝負していないので根掛かりしようがない。目指すは川や海にゴミをまったく残さない釣りであり、今後も精進していきたい。釣り場のゴミ拾いも地道に続けてます。

 次点は急遽追加。年末恒例のY君との釣り、今年は季節の巡りが遅れていて前半2日渋い状況に大苦戦しつつなんとかその日のオカズぐらい釣ってしのいでた最終日、小雨の中、最後の勝負と練った作戦が大ハマりしてくれて気持ちの良い釣り納めとなった。顛末記たまってしまってるので、また年開けておいおいご報告します。


○残念だった釣り:1位「シーバス」、2位「ハモ」、3位「特になし」

 1位のシーバスに関しては、一番情熱注いできた釣りモノであり、スズキ様1匹釣れないどころか、写真の細っそい40ちょうどぐらいのが今年の最大で、50のフッコサイズすら釣れないってのは、東京湾アクアラインがまだない頃に浮島ー木更津間のフェリー使って内房に行ってたころからおよそ記憶にない。70以上のスズキ様に限定して”顛末記”書き始めた2008年以降を調べてみたけど、健康面悪化して釣行日数が極端に少なかった2010年と、同じく健康問題で好調だったカヤックの釣りをやらなくなった年である2015年以外はスズキ様釣っている。ちょっと何が起こってるのか判断しかねる事態。単にハズレ年なのか、海水温上昇やらで不可逆の変化が生じていて抜本的な方針変換が必要なのか、そのへんは来年も”雨が降ったらシーバス狙い”で足使ってしっかり見極めていきたい。

 2位のハモは、餌囓りながら水面まで浮いてきたのが見えたり、イカ仕掛けに掛かって暴れてバレたり、アユカケ針を孫バリに使った仕掛けでやっと掛けたけど水面で暴れてまたバレたりと、確実に餌を口にはしていて、それらしいアタリもドラグギーギー鳴らすぐらいのが何度もあったけど、これがちょっと囓って引っ張ってるだけで食い込まないのか、どうにもハリ掛かりが悪くて泣かされた。大型の根魚やヒラメ、アカエイよりは個体数多そうなので来年こそ何とかものにして”ハモちり”楽しみたい。

 3位特になし、って感じはいつものとおりで、まあシーバスに関しても、どれだけ情報積み重ねて技術も習得しても、魚の機嫌が悪けりゃ釣れやンことはあるって話で、釣れンかったぐらいで”残念”とか嘆くべきじゃないのかもしれない。ハモなんて今年から狙い始めたばかりで釣れなくてもあたりまえですらあるかもしれん。


○ルア-等:1位「メッシュバイト3.5g」、2位「フラッタースティック」、3位「オレンジチャーリー」

 1位メッシュバイトは今年誕生50周年を迎えた”忠さんバイト”の製造販売を引き継いだアートフィッシングさんから出ている派生モデルで、バイトもマスターも忠さんが作ってた時代のは3gとかの小型は横方向に曲げがない形状だったんだけど、アートフィッシングさんからは普通のバイトを小っちゃくしたようなモデルがでてて、かつ表面加工がメッシュの鱗模様で塗装も剥げにくくなってるのがあって、今期良型のロウニンメッキが主体だった秋のメッキ釣りでよく働いてくれた。写真の個体は青が乗って美麗なカスミメッキ。

 2位フラッタースティックもメッキ用で大活躍で、今期特に水面中速引きという一見釣れそうに見えない、ただ単に水面を真っ直ぐデレデレと引いてくるだけの使い方が、これまでの竿で速度を稼ぐジャーク&ジャークを時に凌駕する釣れっぷりで、アタリもバシャッとでて明確で魚を探すのにも好適で重宝しまくった。

 3位オレンジチャーリーは、渋くて苦戦が続いている冬のカマス狙い。群が小さくたまに回ってくるのを確実に食わせて掛けてしまいたい、と思うとどうしても信頼と実績のオレンジチャーリーを結んでしまうのである。期待に応えてしぶとく魚を拾ってくれることが多かった。年明け状況好転を期待しているけど、その時も信頼して投げるのはこのフライだろう。


○釣り具:1位「宇崎日新プロスクエアマルチ磯3号450+マイコン202」、2位「のべアジ軽浮子仕掛け」、3位「PENNスピンフィッシャー714z」

 1位はブッコミ泳がせで、アカエイ用のゴツいグラス竿にABUの7000cでは食い込みが絶望的に悪いので、もともとダム湖の陸っぱりワカサギでドン深を狙うために適当に買った磯投げ竿を、今年ワシの中で来てたリアドラグブームのときに入手したマイコン202とで組ませてみた。宇崎日新はいまでも国内で竿作ってるようで貴重な”窯元”で地味だけど製品は安定していると感じている。アカエイとのやりとりでも腰まで曲がって粘って耐えきってくれた。リールがまた使いやすくて、リアドラグは効きがイマイチでとかいうのが嘘とちがうかというぐらいにドラグは普通に優秀。そしてリアドラグは”ドラグをいじる釣り”では極めて使いやすい。現在の設定は、ナイロン3号で目盛0のときにユルユルでアタリを待つのはこの状態。そしてアタったらとりあえず孫バリの方が顔のどっかに掛かってるという危うい状態を想定して目盛3か4まで締める。そして掛かってるのが明らかに元針でかつエイとか緩めのドラグでは勝負にならない場合は、目盛6まで締めてドラグ値2キロ弱で勝負をかける。っていう感じでドラグ値をあらかじめ調整して目盛ごとに把握してある。このとき暗くて目盛が見えなくてもカチカチと音出しが鳴ってくれるので回す角度の感覚と合わせて概ね正確にやりとり中にドラグ調整ができる。アカエイだの大型根魚だのにはちと力不足は否めないけどハモ狙いにはピッタリかなと思っている。良い感じに手に馴染んできたので来年も活躍させてみたい。

 2位の「のべアジ軽浮子仕掛け」は、豆アジに悶絶させられてるときに、棚に入れてぶら下げてからの待ちで食ってくるけど、タナゴ仕掛け風のミャク釣り方式だと食ったときに抵抗が大きいのかアワセが効くまで餌が口に入っていなくて吐かれてしまう。なら軽いオモリ、小さい浮子で棚にぶら下げてみるか、というのが着想の発端だったけど、これが浅棚に魚が上ずったときには掛かりが良くて、豆アジはもちろん秋の小アジの時期にも効果を発揮してくれた。

 3位の「714z」は昨年は出番なしでお休みだったけど、今年秋シーズンには主軸機として復帰で樹脂製ラインローラーの試験も担当しつつシーバスにメッキにと活躍してくれた。まあシーバスはセイゴばっかりだったけどな。とにかくトラブルが少なく耐腐食性についても流石のPENNで、面倒くせえことがない優秀さ。個人的にはインスプールスピニングで最も優れたリールだと思っている。まあ使う状況によりけりで、海や汽水で使うことが多いワシはそう思うって話。


○スピニング熱:1位「ミッチェル「304」(マニュアルピックアップ+ワンタッチスプール版)」、2位「ルー「ゴールドスピン」」、3位「コンパック「カプリⅡ」

 今年も沢山のスピニングリールをいじくっております。その中で実戦投入して面白かったリール達がこの3機種。

 1位は使ってみたらマニュアルピックアップは意外と使い方難しくなくて、ワシの中で、マニュアルピックアップ機の可能性が広がった1台。ベベルギアを本体で囲った単純な丸い造形なんだけど、さすがおフランス製なかなかに魅力的。ベベルギアのシャーコシャーコという感じのいかにもギアが仕事して巻いてますっていう風情も悪くない。かなり気に入った楽しい1台。

 2位は”リールガイ”ミスター・ハラの設計による1台。ルーと組んで日吉が作ったスピードスピン、ゴールドスピンは米国じゃ一世を風靡したベストセラー機だそうだけど、さもありなんという使い勝手の良さ。主にメッキ釣りで使ったんだけど、とにかく投げて巻いてがトラブルが少なく気持ちいい。大口径スプールによる良い感じの巻き速度やライン放出性の良さ、糸ぐせの付きにくさ、ベールの素直な返り、簡易ローターブレーキのおかげか意図しないベール反転もなく、ドラグも優秀でやっぱりリアドラグ機のドラグが性能悪いっていうのは疑問に思う。ドラグの”バネ”に相当する部品が独特で弾力性のあるシリコンゴムの輪っかを2重にしてドラグパッドに重ねるように入れているだけなんだけど、これが調整幅も締まり具合も良い感じで感心する。ドラグのバネの代わりにシリコンゴム系の輪っかを噛ませるというのは知ってると、ドラグ暗黒時代の日本製スピニングの調整幅もクソも無いバネ無しのただのスプールを固定するツマミ状態をも、まともなドラグに調整可能なので憶えておいて損はないと思う。観賞魚のエアーポンプ用のシリコンチューブを切ったのが存外使えます。

 3位は、大森製作所が「ダムクイック」を模倣して作ったとおぼしき1台。ラインローラーは鉄系で錆びて崩れ落ちるし、ストッパーはカチカチさせていると削れていくし、ドラグノブの隙間にラインが挟まってドラグノブ落っことすしと、正直ジャジャ馬が過ぎる感じの、まだ設計とか素材とかが詰め切れていない機種だけど、手間掛かっただけ愛着も湧いてなかなかに楽しめた。高得点な優等生なら良いかって言えば、そうとは限らないのは何でも一緒で、多少のアラは気に入ってしまえば愛嬌のうちで、ジャジャ馬にはジャジャ馬の魅力があるように思いましたとさ。

 てな感じで、今年は苦戦が多かった印象だけど、その分工夫して楽しんで、良いクンフーを積めたように思っている。昨日釣れなかった魚を今日釣りたい、今日釣れなかった魚は明日釣りたい。そう思い続けて来年以降も精進を続けていこう。その先にしか手にすることのできない釣果がきっと待っていると根拠は無いけど確信している。
 今年の釣りも楽しかった。来年の釣りも楽しいだろう。釣りが楽しくないわけがないからなにも心配はいらない。

 それではみなさま良い年、良い釣りの日々をお迎えください。

2023年のベスト3(エンタメ編)

©竹中由浩、©光永康則

 あいかわらず釣りの日々は忙しくて、ストレス少ないので寝付きも良く、データで買ってそのうち読もうと思ってるマンガの新刊とかも積もりがちで、かつ今年は”スピニング熱”の発作が酷くて整備待ちのリールも積もってしまっていて、なおさら部屋での”読書”の時間は減った。

 というなかで、「ミスター・ハラの記憶」シリーズがクソ面白かったのと、ブッコミ泳がせでドラグ鳴るまで放置して早アワセを防止しつつ殺気をごまかすのに、釣り場に小説ぶち込んだkindleファイヤータブレットをジップロックに入れて持ち込んでいて、ラノベ中心だけど活字本近年では一番読んだ気がする。ということで、久しぶりに活字部門も復活しての年間ベスト3エンタメ編いってみましょう。

○活字:1位竹中由浩「ミスター・ハラの記憶3部作」、上田早百合「妖怪探偵百目」、日向夏「薬屋のひとりごと」

 1位はぶっちゃけ、重めのスピニング熱患者以外には読めン!ワシにもチョイ難しい技術的な話とか多かった。でも丁寧に注釈・解説入れてくれてあるので充分以上にっていうか、これでもかってぐらいに楽しめた。日本のリールメーカーの黎明期から世界の中心に成り上がる歴史的な流れやら、もちろん技術的な解説やらも資料として一級品の価値があるのは言うまでもないけど、それ以上に世界のあちこちに優秀な技術者として派遣されていた原氏の見た、世界のリール製造現場のその取り巻く環境や文化風土に向けられたまなざし、そして”リールガイ”としての”リール哲学”。読み物としてもこれまた一級品と絶賛せざるを得ないだろう。我がブログ含め、世にリールネタを扱う”読み物”は掃いて捨てるほどある、でも短小軽薄な昨今の風潮、というか傑作古典SF「華氏451度」の鋭い警句を待つまでもなく大昔から凡夫どもの求めるモノは”簡潔に手早く”であって、「こんな高いリール買いました。ベアリングが10個以上入ってて巻きがとても滑らかです。」とか程度のゴミ情報は溢れているけど、じっくりネッチョリ読み込んで楽しめるような沼の底からの濃い情報は限られていて、だからこそワシそういう読み物に渇望しててむさぼるように読んでしまったのである。この感覚ウチの読者さんなら共感してもらえるのではないだろうか?クソマイナーで値段もつかんような機種の詳細な分解整備の報告、誰が読むねンって自分で書いてても思うぐらいで、まあワシが楽しいから書くってのが基本にあるから書くけど、多くの人に読まれるとは思っていなかったんだけど、これが存外読まれてる。っていってもせいぜい1日数百人規模だけど、スピ熱こじらせてマニアックなネタ書き散らすようになる以前は日に50人、3桁行けば「オッちょっとうけたな」って感じるぐらいだったのが思わぬ躍進である。釣行記の方は今でも1日百人越えたら多い方なぐらいで、あからさまに一定数、沼の底からの濃い情報に飢えておられる方がいて、楽しんでくれているらしいというのはとても嬉しく励みになる話である。ちょっと脱線したけどいつも読んでくれてる皆様に”ありがとう”って感謝を伝えたいと思いましたとさ。で、いろいろと興味深かったこの3冊、特に3冊目のの「リール哲学」の「クローズドフェイスリール」論と「ウォームギア」論がナルホドナと唸らされた。クローズドフェイスリールは糸も細糸も太糸も苦手で限定されるし、飛距離もそれほど出せない。でもその”枠”の中であれば誰でも正しく機能させることができるという”枠説”で説明されていて「何でアメ人はあんなにクローズドフェイスリール好きなんだろう?」って疑問に思ってたので、そういう整理もありかと蒙を啓かれた。ウォームギア論ではハイポイドフェースギアの滑らかさが一定以上に上がったので、ウォームギアの機能面での優位性は無くなりつつあるけど、その特別感はそれでも”有り”なんじゃないだろうかという論旨で、ウォームギアフェチを自認するワシとしても大いに納得した。TAKE先生がハイポイドフェースギアでもスプール上下を減速しないクランク方式なら巻き抵抗増やせて巻き感度上げられるのでウォーム機をいまさら作るのは難しそうだと書いているけど、やっぱりそれでもウォームギア機の特別感はあるっちゃあるとワシャ思う。あと好き者的にはギアが重ならず平面に並ぶことから来る本体の薄い感じも好き!ついでに原氏はシェイクスピアの「2062」”E系”を絶賛されていて、やっぱり分かる人が見れば分かるんだなと我が目もあながち節穴じゃないと胸をなで下ろしたところである。スプールエッジの立った形状と、大森も参考しただろうと書かれているベール反転機構をベールアームの逆に持って来て重量分散して回転バランスを取っている方式を賞賛されていた。原氏既に鬼籍に入っており、私的な手紙の内容を公表してしまうのはどうかとTAKE先生悩んだそうだけど、自分だけで楽しんでおくのはもったいなさ過ぎると書籍にまとめたそうだ。ナイス判断!おかげで超楽しめました。TAKE先生の活字本は勝手に生徒を名乗ってるからには全て買うつもりだけど、買ってハズレた試しがない。読む人選ぶかもだけど短小軽薄な情報や釣具屋の太鼓持ちの書く記事に飽いた貴兄にはお薦めしておきます。

 2位の「妖怪探偵百目」は体中に目を持つ妖怪百目が妖怪や時に人間から持ち込まれた謎を解く、的なものを期待して読んだら裏切られたけど、それはそれで面白かったというか超面白かった。早百合先生は「華竜の宮」でその圧倒的な物語世界構築能力を思い知らされた実力あるSF作家で、今作も妖怪モノというよりはSF要素の大きい作品になっている。これが、人の恐怖や餓え、恨みなどの負の感情を食い強大に育ち全てを食い尽くそうとする妖怪”濁”を巡って、妖怪陣営、警察陣営、拝み屋陣営それぞれの思惑入り乱れる中、それぞれの寄って立つ場所と覚悟が試される群像劇となっていて、特に拝み屋播磨の、少年の頃に台風避難時の疫病蔓延に乗じて、家族や仲間を初恋の人を濁に食われた憎しみの行方は、その憎しみをも好物として食う敵を相手にどう決着するのか、ハラハラと読ませてもらった。上中下巻3冊リールのドラグが鳴るのを待つあいだいに夢中になって読み切った。早百合先生実になんちゅうか体力のある作家さんで、難しい設定を独特の世界観に描きあげていて感服する。新しく陰陽師のシリーズも書き始めたようなので、いま夢枕獏先生版「陰陽師」がアニメ化していて楽しんでるけど、早百合先生版陰陽師も期待して読ませてもらわねばならんなと思う。

 3位「薬屋の独り言」は”小説家になろう”っていう投稿サイト出身のライトノベル。舞台は中国っぽい架空の中世アジアの大国、ひょんなことから皇帝の後宮に下働きとして奉公することになった、薬屋の娘”猫猫”が、持ち前の好奇心探究心と薬と毒の深い知識でもって、後宮内で起こる事件の謎を解く、って感じで始まったけど、やんごとなき身分の美青年に便利使いされているうちに、いつしかその関係が変化していき的なロマンスも含みつつ、西の国からの厄介ごとやら、飛蝗の害やらにも、政治的な駆け引きにも巻き込まれていき、なんだかんだで大活躍というお話なんだけど、脇役達も魅力的で楽しい読み物となっている。14巻出てていちおう飛蝗の件が片付いて、功労者の苦労人”羅半兄”も都に戻ってきてて、今度は皇族の末裔の謎に巻き込まれていくような展開。続刊読まねばな引き終わりで今後も楽しみである。今年アニメ化してこれがまた良いデキで評判取ったようで、原作既読組としてなんか誇らしげな気持ちになるのは何なんだろうね。


 ○マンガ:1位「時間停止勇者」、2位「もっこり半兵衛」、3位、「ベアゲルター」

 なんというか、鬼才岡本倫先生がエロマンガみたいな設定で本格的なファンタジー冒険物語「パラレルパラダイス」をブチかまして以降、エロ要素は含みつつもちゃんと読ませる物語っていうのがマンガの一つの方向性として確立しつつある?のかどうか分からんけど、エロもあるけどそれだけじゃなく滅法面白いっていう作品が今年は印象的だったのでそういう作品で3本揃えてみました。でも中身は3者3様でそれぞれ違っててそれぞれ面白い。

 1位、「怪物王女」が出世作な光永康則先生の「時間停止勇者」は題名そのまんまで、ゲームの世界っぽい異世界に転移した主人公が、チートアイテムとして時間を止めることができるゲームコントローラーを手に、闇の勢力から世界を救うために活躍するって筋書きなんだけど、まあ時間停止モノってアダルトビデオでは1ジャンルなぐらいで、そんな便利なモン持ってたら時間を止めて女の子にエッチなコトしまくるだろうっていう当然の行動を主人公で救世の勇者であるセカイ君はやりまくる。冒頭写真でチラッと見切れているのはそういった一場面でライバルチームと情報交換して一時協力しようってなって、ちょっと緊張する場面でとりあえず落ち着くために仲間のオッパイを揉んで、勘の鋭いダークエルフのお姉さんに気付かれて「こんな時にオッパイ揉むなんて信じられない」って顔でにらまれている。困った勇者様である。でもセカイ君案外良いヤツで相棒のゴーレムの岩吉くんとのコンビも冴えて胸のすくような活躍で楽しませてくれるのである。文句なしに面白い。

 2位「もっこり半兵衛」は、「ジャングルの王者ターちゃん」「狂四郎2030」が代表作の徳弘正也先生の江戸の貧乏長屋に住むスケベな凄腕剣士が活躍する人情モノ?先生の作品はデビュー作の「シェイプアップ乱」から愛読させてもらってるけど、昔っからエロとグロとギャグは容赦なく突っ込んで、でもそれだけじゃなくなんか筋の通ったものを感じさせる作風なんだけど、後書きで「若い頃のような人気作品はもう書いていないけど、私のマンガは今でも一流だと思ってます」って書いてて、そういう矜持が下ネタ描きまくってても、その底になにか心を熱くしてくれるようなものが流れている、そういう面白さの屋台骨になってるんだろうなと得心した。そういう矜持を胸に、長くマンガを書き続けてきた先生だからこそ描ける、まごうことなき一流のマンガです。

 3位「ベアゲルター」の沙村広明先生の代表作はアニメ化実写化している「無限の住人」と「波よ聞いてくれ」なんだろうな、個人的には「ハルシオンランチ」が好きだけど、今作も大好き。サブタイトル?に「叛逆ずべ公アクション」とあるとおり、チャイナ服やら眼帯やら、各種性癖をこじらせにきてるようなお姉ちゃん達中心に渋いおっさんも交えて、なにやら陰謀渦めく”売春島”で奇妙きてれつな武器やらMMA(総合格闘技)ではあんまり見られない技を繰り出すカポエイラやらカラパリヤットやらで大暴れ!ってな外連味ない作品です。情け容赦なく下品で痛快。沙村先生のこのマニアックで広範な知識はどこから来るのか?6巻まで来たけどそろそろクライマックスが近づいてきて盛り上がってます。


○アニメ:1位「アンデッドガール・マーダーファルス」、2位「ドクターストーン」、3位「江戸前エルフ」

 1位の「アンデッドガール・マーダーファルス」はこれぞエンタメなトッピング全部のせみたいな作品で、妖怪魑魅魍魎化け物が跋扈する文明開化の日本から欧州へと、探偵役である首から下を盗まれた”不死”の美女とその一行3人が旅をしながら正体不明な感じの悪の組織の親玉であるモリアーティ教授を追っていく、っていうことは当然シャーロックホームズとワトソン君も出てくるし、ついでにルパン(一世)も出てくるし、これまた当然のようにフランケン、ドラキュラ、狼男の化け物定番三種盛りも出てくる。まあ役者揃えりゃ面白いんなら苦労しないわけで、それぞれの役者がまた魅力的、探偵役は首から上だけなので普段は鳥かごに入れられてお付きのクールな戦闘系メイドかもう一人に運ばれてるんだけど、これが妙に色っぽくて何百年と生きてきた知識と聡明な頭脳をもって謎を解いていく様に魅了される。たまに垣間見えるメイドとのユリユリした関係もサービスポイント高し。一行の荒事担当”妖怪殺し”の鬼のシンウチ君の噺家志望のわりに噺はつまらなくてとぼけてるけど、欧州の化け物どもにひけを取らない戦闘能力の高さの落差もまたイイ。ドラキュラのようにコウモリに変化したりとかの特殊攻撃じゃなくてパワーとスピードの身体能力の高さのみで闘うっていうのもどうにも格好いい。てなかんじでなんとも良くできた楽しいアニメで、首から下取り戻せてないので原作ラノベも続いてるようだし続きが気になる。っていうかワシ「化物語」シリーズも好きだし妖怪探偵モノって好物なのか?と他にも妖怪探偵モノないかと検索して活字2位の「妖怪探偵百目」にたどり着いたのであった。妖怪探偵モノとかSF探偵モノとか現実では不可能なトリックが大胆に使えて、とはいえその物語の設定からハズれてはいけないので、そのあたりの自由度高いけど考えるの手間かかってそうな”謎”が楽しめている要因かな?分からんけど。

 2位「ドクターストーン」は3期で、謎の石化光線で石にされた人類を、人工衛星に乗ってて難を逃れた宇宙飛行士の子孫と、永い年月の後、偶然生じた化学反応で石化から復活した主人公の科学力で文明を再構築して、謎の敵と対決するっていう筋なんだけど、3期では通信機と船を作って宇宙飛行士が残した”遺産”をゲットし石化した全人類を復活させる算段が付き、謎の敵本体が月にいることも判明して宇宙船を作ろうってところまできた。来たんだけど、その道筋には様々な困難が待ち受けていて、まさにそれは人類がたどってきた試行錯誤と苦闘の歴史をなぞるような形で、あらためてホモサピは人の頭の上に爆弾落としたり水を空気を土を何百年も残る形で汚したりとクソオブクソな行いもしているけど、それでもより良い明日を目指して今ここに便利で安全な存外良い感じの文明を築いている、その偉業に感動を覚えずにいられない。今作も科学馬鹿の鬼畜な主人公を始め登場人物が魅力的で、個性豊かと言えば聞こえが良いけどマンガ的に癖強い面々が苦楽を共にして信頼で結ばれていくその姿にホモサピのこれまた良い面を見せられるようで胸が熱くなる。ヒロインがワシ好みの身体能力特化系の脳筋ヒロインなんだけど敵地潜入して重要情報を入手して主人公達になんとか伝えてから敵に石化されてしまうんだけど、その時に主人公が石化を解いて助けてくれることをみじんも疑わず自分の務めを全うする場面とかグッとくるモノがあった。アニメのエンディングってなにげに趣深くて、ネトフリで唯一気にくわないのがエンディング楽しんでると右下に小さくエンディングを見るかどうかの確認が出てきて、せっかく余韻に浸りながら楽しんでるのに急いでクリックしないとエンディング尻切れトンボになってお薦め作品に飛んでしまい設定イジってどうにかなる気配もないという点で、エンディングって始まりの主題歌ほど、さあカメラが下からグイッっとパンしてタイトルロゴがドーン!な金掛けた作画ではなく業界の符丁でいうところの”カロリーの少ない作画”で止め絵を横移動させたり、単純な動きの連続だったりが多いんだけど、だからこそのセンスが問われる重要な要素だと思っている。今作のエンディングはそういう意味でセンスが抜群、砂絵を描いてる様子を撮影(ひょっとして透明板に描いてるのを裏からか?)しているんだけど、表情の変化とかを砂絵だから指でチョイチョイと変化させてるのが小粋な感じの演出になってて、エンディングの余韻にピッタリの哀切に溢れるようでいて、ヒロインズの日常生活の描写から最後ヒロインが村に帰ってきて、そっぽ向いてる主人公が振り向く姿を目にしてニコッとこぼす笑みにちょっと射貫かれる感じもあって、なんか抜群なんである。ワシが本作のエンディングを飛ばすことはない、絶対にだ。

 3位の「江戸前エルフ」は、江戸時代に徳川家康に召喚されて異世界からやってきて、精霊さんとお話しができるぐらいで特に何ができるわけでもないけど神様として神社にまつられてはや数百年、すっかり引きこもってオタク趣味に没頭するエルフ様と巫女の女子高生のユルい日常ものアニメなんだけど、これがなかなかに江戸時代蘊蓄とかも楽しく、オタクあるあるネタもクソ面白くて実に良い塩梅の作品なのである。今作もエンディングは素敵で、作中の重要な小物であるオタマジャイロとかを実際に作って引き篭もりエルフの巣であるコタツ周りを再現、カメラワークで横スクロールとかしつつ止め絵と合成してて「そのオタマジャイロ欲しい!」と唸らされるデキになっている。あと、舞台が月島なんだけど隅田川も出てきて、良く釣りに行ってたあたりなので懐かしかったりもする。

 アニメは朝の日課のヤ○オク、メル○リ、○カイモンと一時間以上掛かる巡回の際にダラッと見てるので、ものすごく見てると思う。アニメの筋追いつつ楽しみつつも出物は見逃さない鵜の目鷹の目ぶりで、ワシの頭には2つ以上のこと同時にできるデュアルコア以上のCPUが搭載されているらしいことに50年から使ってきて改めて気がついた。ベスト3に入らなかった作品でも面白いのはいっぱいあって、しげの先生原作の「MFゴースト」とか良いところで後半来年という引き終わりで悶絶しているし、同じくモータースポーツモノの「オーバーテイク」もよかった、馬鹿っぽい中二系の「デッドマウントデスプレイ」が意外に楽しめているし、馬鹿っぽさでは「シャングリラフロンティア」も良い、「無職転生Ⅱ」「七つの魔剣が支配する」「虚構推理2」のヒロイン力の高さも捨てがたいし、「できる猫は今日も憂鬱」「カワイスギクライシス」の猫アニメも堪能、エンディングの良さでは「薬屋の独り言」「AIの遺伝子」「ワンターンキル姉さん」も好みだった。今年のクソアニメオブザイヤーは「マジカルデストロイヤーズ」で作画下請けの中韓台湾のアニメーターの質も本家ジャパンをしのぐほどになってきている昨今、珍しいぐらいに作画がプルっていて笑えた。アニメは来年も沢山楽しむことになるだろう。


○ドキュメンタリー他:1位NHK「老漁師最後の闘い」、2位NHKワイルドライフ「北海道オジロワシ舞う大地 密着!絶滅危惧種レスキュー」、3位アベマTV「WWE中継」

 1位の「老漁師最後の闘い」は、大分から対馬沖にカジキの突きん棒漁に出漁することはや50年の70越えた老漁師兄弟船の、今年を最後に引退と決めたその漁に密着したドキュメンタリー。もうなんちゅうかNHKカメラマン、ドローン操縦者良い仕事っぷりで眼福眼福、電撃三つ叉槍を喰らってなおも水面を疾走していくカジキをドローンで上からとらえたり、波間に見え隠れするカジキのヒレを旋回性能極振りでグワングワンに揺れまくってる突きん棒船の上からしっかり撮っていたりする。間違いなく船酔い地獄だっただろうと思う。最後狙ってたクロカジキの大物を5年ぶりに仕留めて、糖尿で引退余儀なくされたお兄さんもなんかやりきった感が出てて、そりゃ兄弟2人で大海原でオノレの技量でもって大魚を仕留めて生き抜いてきた漁師人生、男なら憧れざるをえないような羨ましいまでの全力フルライフに悔いなどないだろう。天晴れと拍手をおくるしかない。

 2位「北海道オジロワシ舞う大地 密着!絶滅危惧種レスキュー」は、人里に降りてきた熊を殺すなとか、都会からお気楽にクソみたいなクレームを現場の役場にかけるようなアホの動物愛護主義者が湧いた今年、そういう自分と遠く離れた安全地帯から無責任なヤジを飛ばすマヌケどもと対極に、北海道の猛禽を始めとする野生動物を救うべく現場で悲惨な現状をなんとかするべく、使命感を持って”実際に保護活動を行っている”覚悟も技量も責任も全く違う、獣医さんたちのお話。その苦労、熱意、難しさ、新たな取り組み、心に来るモノがあった。尊敬の一言。

 3位の「WWE」はアメリカ最大のプロレス団体なんだけど、やってくれるぜ、我らがアベマTVっていう感じで、WWE内の定期興行ブランドである火曜の「RAW」と土曜の「スマックダウン」を無料中継、日本語解説付き。プロレスは親日に猪木がいて全日に馬場がいた少年時代に夢中になってみていたけど、最近は見てなかった。プロレスって選手の来歴や選手同士、団体同士の遺恨や友好関係とかの”アングル”が見えていないとイマイチ面白くないので、新規でノアとか見るのはちょっとハードル高いなと思ってたけど、アベマでWWEの中継が始まるということは、当然アベマさんのことだから初心者向けの解説とか入れてくれるだろうと見始めたら、まさに痒いところに手が届く感じで、選手入場時には解説者の説明はもとよりテロップで簡単な紹介が表示され分かりやすいったらアリャしない。で、いま日本からも何人も参戦していて、中邑真輔選手がグレート・ムタからの伝統を引き継ぐような毒霧吹く系の大ヒール(悪役)で活躍している他、女子はイヨ・スカイ選手がチャンピオンに輝いている。そしてオッサン的に嬉しいのはダスティー・ローデスの息子さんとかリック・フレアーの娘さんとかが看板選手として活躍してることで、ちょっとコミカルな印象のあったダスティー・ローデス氏の次男坊らしいコーディー・ローデス君がなかなかのイケメンで人気も頷けるというもの。また演出やら技やらが派手で、相手選手が被弾といいつつ受け止めてくれるから成立するとはいえ、コーナーポストのてっぺんから場外にムーンサルトで落下して攻撃とか頭おかしいけど見てて格好いいわな。首捻って頭や顔面から落とす系の技もランニングネックブリーカーからだいぶ進化していて、上から飛んできた相手を空中でとらえて決めるとか、台本あって相手の協力があったとしてもエラい高度な技で感心する。今時のプロレスの重要な視点として”説得力”っていうのがあるらしく、スリーカウント決まるに値する、観客が納得するだけの技かどうか?って概念のようだけど、確かに巨漢の女子選手がデカい尻で決める「セントーン・ボム」とか説得力あるなぁと納得する。特別な大会はペイパービューで金払って見てねということで、今のところその後の中継でちょろっと良いところだけ流れるのを見てお茶濁しているけど、そのうち金払って観るぐらいにハマりそうな気もしている。

 という感じで、今年もアベマTV、Netflix、NHKオンデマンド、アマゾンプライムは金払う価値のある番組が提供されていて、来年も契約更新決定である。


 エンタメ関係は今時の楽しみを存分に享受している実感がある。活字もチョロチョロ読めるようになって、来年も泳がせのアタリ待つ間にボチボチ読んでいこうと思う。

 今年も楽しんだ作品に関わるすべての表現者のみなさんに感謝。

2023年12月30日土曜日

一つの回転する石は無のコケをかき集める-樹脂製ラインローラー実験結果報告-

 今年も終わりそうになっております年の瀬、皆さんいかがお過ごしでしょうか?

 今年は”スピニング熱”が悪化しまくって、リールの改造に手を出してしまい、まあ改造って言っても世のボールベアリング教神徒の方々が、せいぜい”交換”でしかない”フルベアリング化”とか錆びる箇所が増えて重くなるだけの無駄な改悪を喜んでるのとはワシ違うけんね、ワシスピニングリールの機能の根本的なところに鋭く切り込むけんね、と息巻いてスプールエッジいじくったりラインローラーを自作したり、ベールアーム取っ払ってマニュアルピックアップ化したりっていうのを、旋盤とか本格的な機械工作じゃなくてハンドドリルぐらいのお父さんの日曜大工レベルの技術と資材で挑戦してきたわけだけど、改造して実釣で試験しないと使い勝手やら耐久性やらは分からんわけで、これからも引き続き検証だけど、ラインローラーの方は春のシーバスシーズンのコンパック「カプリⅡ」での実験に引き続き、秋のシーバスシーズンPENN「スピンフイッシャー714z」とメッキ等小物用のルー「ゴールドスピン」で実験して大まかな感触は得られたと思うので、その今のところの結果について皆様にご報告したいと思います。

 今回自作したラインローラーは樹脂製で、通常ラインローラー自作といえば、真鍮削って成形して硬質クロムメッキというのが正道だろうけど、そんなもん日曜大工で作れるもんじゃないって話で、じゃあ丈夫な樹脂とか日曜大具の道具で加工成形できるのはないかと考えて、ラインローラーのスリーブにも使われていて、金属面との滑りが良く耐摩耗性にすぐれている商品名ジュラコンとかの”ポリアセタール樹脂”なら、加工しやすい規格サイズの安い部品がモノタロウとかで手に入るので、これでどうかと元々の金属製のラインローラーが腐蝕で割れたカプリⅡの時に思いついて、耐摩耗性が高くてヤスリが効きにくいけど、刃物は通るという特徴からアートナイフであらかた成形してしまって、ハンドドリルで回転させつつダイヤモンドヤスリで表面をなるだけ整えるという方法で、ラインローラーを作って運用してみた。当然金属に比べれば柔らかい印象の樹脂製のラインローラーが、実用に耐えうる耐久性を持っているのかが検証の内容となる。

 カプリⅡではポイント限定で出番が短時間だったせいもあって、春1シーズン使ってちょっと糸溝ができかかってるかな?ぐらいの削れてるんだか削れていないんだか分からない状況で、それなら秋に本格的に主力のリールで運用して耐久性試験をしてみようということになった。

 結果から書くと、小物釣りに1号ナイロンで運用していたゴールドスピンの方は1シーズン使いきって、写真ではわからんぐらいだと思うけど、糸溝ちょっとついたかな?ぐらいでまだまだ使えそう。ただ、流石にシーバス用主軸機としてナイロン2号で運用していた714zのほうは1シーズンもたなかった。とはいえしょっちゅう交換しないといけないほど糸溝が削れるということはなく、シーズン中予備を一個か二個も用意しておけば間に合うので、ラインローラーが破損、あるいは紛失してしまっている場合の代替策として、ご自身で日曜大工レベルの工作ができて苦にならないのなら充分選択肢の一つとなり得るという感触を得たところ。ただ、どんな人が買うか分からない中古市場に出すときは少なくとも説明が必要で、交換前提なのであまり適さないかもだけど、自分で使うことを想定するのであれば、なんとか及第点をあげても良いかなというのが、この秋の実験結果の概要。こんな手もあるよというのを頭の隅に置いておけば、何かのおりに役に立つかもしれません。

 という判断となった実験の様子を、その中で面白いことに気がついたりもしているのでご紹介してみたい。

 主に714zについてになるけど、9月に秋のシーバスシーズン開幕しましたってなって実験開始。最初特に削れてもいないようなので1シーズンぐらい持つかなと思ってたんだけど、10回釣行したあたりでなんか糸溝できてるかなって感じになってきて、そのまま使っていたら、15回釣行でいかにも薄くなった感じで下の軸が透けて見える感じになってきた。写真の谷の底左側のほうが右と比べて谷が深くなって、暗色に下が透けているのが分かるだろうか?この状態まで来たら穴が開くのは時間の問題だろうということで、また新たにラインローラーを作成し、交換することとした。

 ラインローラー製作は、前回やったときと基本同じで、外径6mmのジュラコンスペーサーの穴を4mmにドリルで拡張し、長さ合わせて切って、アートナイフで大まかな形を削り出して、ハンドドリルで回しながらダイヤモンドヤスリで表面をある程度ならして”空気銃弾型”に整える。やや4ミリだと隙間があってガタつくので軸はケブラースレッドでちょっと太らせてあったので、そこはそのまま利用。

 これで、この秋の残りの釣りぐらいは大丈夫だろうと実験再開。ところが、これが2回持たなかった。ちゃんと機能してるかなと2回目終わった段階で何気なく眼鏡外してじっくり確認したら、既に写真の上側の谷を見ると分かるように、糸溝が掘れきって穴が開いて下の軸が見え始めている。

 少なくとも前回は15回の釣行に耐えてまだ穴は開いていなかった。それが2日でダメになるってどういうことなのか?つらつらと原因考えて、ひょっとして回ってなかったとかか?と思い至り、輪ゴムでラインローラーの回転具合を確認してみたら、引っかかって上手く滑らかに回ってくれない状態。

 要するに、回転して摩擦がそもそも少ない場合や、そこまで行かなくても回転することによって、ラインとの摩擦が起こる面が一箇所に固定されないことによって、摩擦熱が分散されていれば糸溝が掘れにくくなるのではないだろうか?ということに思い至った。

 となれば次は、回転の確保ができていることをしっかり確認してから実験に入ってそのことを検証したい。

 ということで再度”空気銃弾型ラインローラー”を作成して、軸の太らせ方も調整して、輪ゴムで回してやって滑らかに回転することを確認してから、実戦導入。ところが、これが使用時あんまりクルックルには回ってるように思えない。思えないけど前回のようにすぐに削れてくる気配はなく、結局今期12月前半まで使いきって、写真下のように糸溝できてるかどうかわからん程度で済んでいる。クルクル回ってはないけどラインが張ったときとか負荷が掛かると回るぐらいはしてるのかな?とラインローラーに一箇所黒点をマジックで打って、釣ってる最中にたまに確認してみると、黒点の位置は一定してなくて、想像したように、クルクルではないけど削れない程度には回って摩擦を逃がしているようだ。ちなみにラインが縒れたりという不具合は、たまに回ってる程度はもとより、回ってなくてラインロ-ラー(実際には回ってなかったのでラインガイドか?)が削れまくった状況でも生じなかった。これはワシがナイロンライン使用で1回使ったら先切って、2回使ったら前後ひっくり返す、3回使ったらまた先切って、4回使ったら交換というお作法でラインを使い古さない運用をしているので、同じラインを長く使うとかだとまた違ってくるのかも。いずれにせよワシが困るほど糸ヨレしなかった。

 ということで、ラインローラーが回ってると、ローラーが摩擦で削れるのがある程度防げるんだ!という考えればあたりまえのことに気がついて、なかなかに面白いと思っていたら、TAKE先生が先日違う方向から、ラインの当たる場所が常に変化することにより、摩擦熱の蓄積や糸溝の発生を抑制することができる旨指摘されていて、昔のミッチェルの固定式のラインガイドがそれで、あの曲線のついた円錐形のラインガイドはラインの位置が一定しないのでラインが傷みにくいし削れにくいとのこと、で凝り性のTAKE先生、セラミックメーカーにミッチェル用のラインガイドをSICで作ってもらって売りに出しております。ワシんちにも写真の最初の314とかこのラインガイド使えるヤツはあるので、一個買っておくかとポチッとしかけて、値段の0を一つ間違えていたことに気がついて焦った。1万7800円でっせ。普段ワシFuji工業さんの、たっかいガイドを竿に沢山付けようと仕向けてくる態度には不信感を抱いて「釣り具のYKKめ!おまえんとこの買うしかないからってボリやがって!!」と思ってたけど、ステンフレームSICガイドが5,6百円からするのぐらいで高いとか言ってたらいかんのやな。Fujiが沢山売るから単価が安く設定できるだけっていうのは、まさに富士工業様の企業努力というやつなんだろう。本来SICは単価メッチャ高くつく素材なんやなと知って反省。ワシやっすい酸化アルミ系の「Oリング」愛用してるけど、その手の安いのも引き続き売ってくれるなら、高いの買わされてる人らのことは関係ないし文句言わないでおこう。トルザイト買いたいやつは好きに買やええんじゃ。

 ということで、奇しくもいかに削れない高品質なリール用固定式ラインガイドを作るか、という試みと、手作業で加工できるような長期的には削れるような素材でもって、なんとかかんとか実釣使用可能なラインローラーって作れないか?っていう試みが、求める出力の方向性こそ違えども、根底にある考え方として「ラインが当たるところが一箇所に集中しなければ、摩擦熱の発生や糸溝の発生を抑制できる」という共通の事象にたどり着くってのが面白い。そういうことに気づけただけでも道具の仕組みが理解できて意義深かったと思う。結果、ポリアセタール樹脂製の自作ラインローラーは、削れてくるけどちゃんと回ってりゃすぐに削れるワケじゃないので、予備も用意しつつ運用すれば使えなくもない。というぐらいの華々しくはない成果に落ち着いたけど、まあ悪くなかったと思う。純正のやちゃんとした工房なりが作った部品のほうが望ましいけど、そういうのが手に入らないときの裏技、奥の手的に知ってると使える、あるいは自作して色々試して楽しめる技っていうことで、皆様よろしく。

 そんな感じで、早速実験も終わってないうちから応用編で遊んでて、丸ミッチェル304でそんなに使いかた難しくないというのが分かって、扱いにも慣れてきたベールワイヤーの無い固定式のベールアームを持った「マニュアルピックアップ」方式のリールをでっち上げて遊んでみている。具体的には大森「タックル5No.2」をマニュアルピックアップ化したんだけど、これまた実際に使ってみたら改善しなきゃならないことが出てきたりして、なかなかに楽しい。巻き始めラインを人差し指で拾ってハンドルを巻いて、ラインをベールアームが拾ってラインローラーにっていう感じで、ベールワイヤーがラインを拾って来る場合と逆側からラインローラーの谷にラインが落ちるんだけど、”空気銃砲弾型ラインローラー”はベールアーム側には傾斜が無いのでその上にラインが乗ってしまう(写真上から2つめの状態)。ということがあったので早速そちらにも傾斜をつけて、きちんと谷にラインが落ちるように改善した。来年春期は今年の春の丸ミッチェルに引き続き「マニュアルピックアップ」方式のリールで行くつもりで、コイツともう一台用意して、なにやら比較検証してみたいと画策しているところであります。

 スピニングリールの機能や構造なんかに理解と興味が深まってくると、こうすれば良いんじゃないか?とか、こうやって遊んでみたい、とかの創意工夫ネタが湧いてくる。面白くなってきたという感触があるので、来年も引き続き楽しんでいこうと思っておりますので、皆様引き続きご贔屓に。

2023年12月23日土曜日

中身が大事だけど外側もそれなりに大事

 年末進行で巻きでいってます。なんで、大森製タックルオートが4台もあるのかと言えば、実は欲しいのは「タックルオートNo.3」で、探してるとどうしても「あっこれ大きさ違うけどボロいし安いしワシが買わなきゃ」と救出したくなるのである。仕方ないよね。マウスも滑るよね。なぜ、No.3サイズが欲しいかというと、大森のこの時代のワンタッチじゃないスプールの機種には、なんとPENN5500SSとかのドラグノブが装着可能ということで、そうすると5500SS後期のドラグノブはワッシャーとの接触面が真鍮製になっていて、ドラグ高速回転時の熱で溶けたりしないわけで、その互換性に気がついたnorishioさんから名言(迷言?)「これで大森はあと100年は闘える。」もとび出して、ワシんち5500SSのドラグノブは蔵にいくつか転がってるので、ワシも欲しい~って熱にうなされたんだけど、これがなかなか中大型の大森は人気薄で、出れば安いことが多いけどなかなか手頃な値段とボロさの弾が出てこないので、思わず弾数多い小型機に誤爆しまくってるのである。アタイ病気が憎いっ!

 No.2サイズは持っていなかったので1個買ったら、次にハンドルが変なのが付いているジャンク個体が出て来たので最悪替えスプールゲットということで確保。No.1サイズSSサイズはそれぞれ蔵に1台あるので、もう一台買ったら換えスプール体制組めるしまあいいか?っていうのはSSは確かにそうなんだけど、実はNo.1サイズはスプールはタックル系統と互換性あるので換えスプールは既にあるっちゃある。No.2サイズがちょっとややこしくて、タックルオートNo.2に例えばタックル5No.2のスプールは一応そのまま使えるけど、逆は高さの関係で何らかの調整なしではちょっと使えない。写真の右がタックルオートNo.2のスプールで左がタックル5No.2のスプール。No.2でもタックル系統とタックルオートはスプール同一規格だと思ってたけどちょっとタックルオートの方が高さがあるということに今回買って比較して気がついた。要するにスペアスプール云々は後付けのいいわけで、結局いつものとおり「欲しかったんじゃーッ!」という物欲に負けてマウスをスルリと滑らせてポチっただけのことである。

 そんなこんなで、年末進行でサクサクいきまっせということでNo.2から分解整備に入って行くんだけど、とりあえずハンドルが変なのが付いているジャンク個体はハンドルのネジのサイズが合ってないのを無理くりねじ込もうとして中途半端な位置で抜き差しならなくなってしまっていて、このままではどうにもならない。幸いなことに右にハンドルが突っ込んであるので、左側にまともな大森製ハンドルを突っ込んで逆に捻ってやって外れたら万々歳、外れなかったら仕方ないので右のネジ穴は死んでもらうことにして、カナノコでハンドルぶった切ってとにかく外すという方針でいく。ハンドルはまだ2本残ってたので1本使う。

 結果、ポキッと変なハンドルが折れてくれて、軸からはみ出した部分をカナノコで切って左巻き専用ギアとして無事救出できたんだけど、これ今考えると、ポキッといったのが左に填めた大森純正ハンドルでなくて良かった。最悪軸の左右両側のネジ穴がふさがってるというダルマギアにしてしまうところだった。最初から安全策でカナノコで切っておくべきだったんだろうけど、結果オーライではあった。

 あとは、前回5台まとめてやっつけたタックル系統に設計的にはベール反転の内蹴り機構が追加されている程度なので、基本的な構造は似ていてサクサクと分解整備が進む。似たような機種をまとめてやっつけるのはやっぱり効率的ではあるな。

 とはいえ、元の持ち主にはハンドルの件も含め説教くらわしたくなるんだけど、塩水かぶってもろくに洗ってもなかったのか、スプールが酷く腐蝕している。内部は糸抜いて保管してないとどうしても腐蝕してしまうとかはワシもやりがちなんだけど、スプールエッジってそうは腐蝕せんぞ?かつ、ココが腐蝕しているとラインが引っかかって出が悪いし傷つくしでそのままじゃ使えん。これはあとでアレしてしまうことにしてとりあえず今回は放置して暫定的に組んで片づけることを優先して、グリスグッチャリでいっちょ上がり。

 次も、同じタックルオートNo.2でこちらの方が見た目も綺麗で回転やらも変なところはないので、サクサク進むかと思いきやラインローラーが固着してしまっていた。しかし、ここは樹脂製スリーブが入っているので、まず外れないことはないので、強引にペンチで摘まんで引っこ抜くとかはローラー割りかねないので、CRC666液に浸るようにジップ付きのビニールに入れて一晩おいて手袋填めてゆっくりグリグリと捻ったら無事取れた。ルーロンスリーブがラインローラー側に固着してたので、千枚通しで引っぺがしてやった。このチューブ状のルーロンスリーブは変形させても後で軸に刺せば元通りになるのでぺちゃんこになっても気にしなくて良い。という感じでバラしても部品数こんなモンなのでパーツクリーナーかけてグリス盛って2ちょあがり。

 サクサクいくぜと次はNo.1サイズ。コイツは見た目がボロい。塗装剥げまくり。回転は問題無いし、ベールの返りが悪いのは錆びてるからだろうぐらいで、お化粧直しだけは面倒だけど楽勝だろうと思ってたら意外な落とし穴というか、これまた元の持ち主説教案件。

 まずは分解とさくさく作業を進めると、ストッパーの爪がラチェットにガチンと噛んで凹んでて驚く。ラチェット鉄系で、爪はステンの板の打ち抜きのはずで、相当な負荷にも耐えうる丈夫な大森設計の逆転防止機構なのに、どういう力のかけかたをすればステンの板が凹むのか想像できない。

 でもって、ローター外したらローター軸のギアの填まる俵型穴になってる筒状の部分が割れてやがった。ココは下はボールベアリングで上をローターナットで挟んで締めてという構造なので、割れていても固定はできていてまともな回転はしていた。とりあえず瞬着で接着してズレないように細いステンレス線で巻いて締めて固定して実用上問題無い程度には処置したつもりだけど、そもそも割れる力がかかるにはローターナットで固定してあるローター軸のギアとローターがズレて、内側のローター軸のギアの俵型の部分がローターを割らなければならず、そんなにズレることがやっぱり想像できない負荷の掛かり方で、ドラグが、それも優秀なのが付いている大森小型機で、どんなラインを巻いてどういう無茶をすればこうなるのか、責任者一回説明しにこい!っていう感じである。インスプールのベールを手で無理矢理起こす”熊の手”の持ち主が理解できないとTAKE先生は嘆いていたけど、これは次元が違う。世の中にはオッソロシイ熊以上の手を持ってる愚か者がいるようだ。PE巻いて根がかり相手にスプール握り込んで走ったとかか?分からん?まあ、とりあえず使えるようには復旧できたので良しとしておこう。接着剤で留めて針金巻いたぐらいで大丈夫か?と心配される方もおられるだろうけど、そもそもさっきも書いたように、ローターとローター軸のギアはロータナットで締めて一緒に固定されていて、どう使ってもズレて力が掛かる構造ではないハズなのでまず大丈夫なんである。壊す方がよっぽど難しい箇所。

 なんにせよちょっと驚かされた。ほかにもベールの返りが異様に悪いのは、ベールワイヤーのお尻の金具が錆びて太ってるからだと思ったら、どうも微妙にお尻を止めるネジとベールアームを止めるネジは長さが違うようで、逆に組まれていて正常に作動しなかった様子。まともに組めないんならバラさんでくれと切に願う。なんとか分解修繕してパーツクリーナーかけてからタッチペンで塗装。

 まあ新品同様とはいかないけど、充分実用に耐えうる状態に復活させた。見た目もこんなもんだろというぐらいにはお化粧直ししてやったつもり。

 このぐらいボロい個体だと、なんとか復活させることができると、わが家に来てもらって良かったと思える。普通に使えばあと何十年と使える状態にはなったと思う。ウチに来てなければ燃えないゴミの日に出されててもおかしくない。生きてる部品は回収しておけば使えるけど、日本の中古市場では特定の機種を除いて部品売りってあんまないので曲がりなりにも単体で稼動品だというのは意味と価値があると思いたい。

 最後のSSサイズも、一見調子よさそうだけど分解したらエラい目に遭うとかないだろうな?と疑心暗鬼になるも、コイツは良個体でサクサクバラして掃除してグリス盛って組み上げて終了って感じでホッとした。スプールの銘板がれいによって剥げてるけど、こっちの方が全体的に状態は良いのでもう一台からスプール持って来てこちらに付けても良いかも。基本ボロい部品は1台に集中させてそのボロい個体から使い潰していきたいんだけど、これが大森スピニングは普通に使ってると潰れないんだわ。まあ末永くよろしく、もしくは売りに出して稼いでもらうか?いずれにせよ悪くない買い物であった。

 ちょっと、元の持ち主なに考えてたんだって個体もあって苦労したけど、基本大森スピニングはボロいの買っても、分解整備してやれば快調に復活してくれるので、整備のしがいがある。

 タックルオートなんて、内蹴りで簡易ローターブレーキもついてて、ボールベアリングは一個だけど回転も滑らかで軽くて、本体もアルミ製で軽くて丈夫、ドラグはもちろん良いしで、アウトスプールのスピニングに求められる性能はかなり高く保持していて実用機として堂々の実力派である。ベールスプリングは交換用の予備をバネ屋さんにでも作ってもらうなりして備えるとして、スプールエッジの形状もアレしてしまえば良いだけで、それほど中古の相場も高くないし超お買い得である。まあ、マウスが滑ったのは遺憾に思うけど、この4台並べて眺めて「アアァッ!良い!!」と悦に入ることができただけでも、銭つこうた価値があったというモノである。ということにしておこう。

 これで、だいぶ整備待ち渋滞解消にむけ進捗した。整備待ちリストにある機種の中には珍しく新品箱入りなんてのもあって、そいつらは当時のまま残す方向で分解はしても古いグリスのままでも良いかなとか、ある程度割り切ってあと20台前後、この冬中に終わらせてしまおう。あぁそうしよう。

2023年12月16日土曜日

ハンドル長者

 積み上がった整備待ちのスピニング達を精力的に分解清掃しているところだが、ここらで一発回転数を上げて”巻き”でいかないと、今年中ははなから諦めてたにしても、この冬中も怪しくなってきた。あと27台あるけど、いやなことに多分そこそこの速度で増えるしな。

 常々感じているところだけど、過去に分解清掃したことのある機種は、バラし方も組み方のコツも憶えてるので、仕事が捗る。初めての機種でややこしい機構が入ってたりすると当然その逆で手こずる。というわけで、馴染みのある機種だけまとめてとっとと片づけてしまえば、より直近の記憶でやり方を憶えているだろうし、回転数上がるんじゃないかと、今積んであるスピニングのうち、大森外蹴りアウトスプール関連、具体的には「タックルNo.2」、「ニュータックルNo.1」×2、「タックル5No.2」、「マイクロセブンNo.1」を連続して、っていっても一日で全部できるわきゃないので一台やっては飯食って、もう一台やっては次の日にとかやってくんだけど、とにかくこの5台をやっつける。 

 やっつけるんだけど、目ざとい読者の皆様なら「ナマジまた右巻き買ってやがるけどどうすんの?」というところに引っかかるだろう。タックル5No.2は左ハンドルが付いているし、マイクロセブンNo.1はハンドルに左用のハンドルネジが収納されているので大丈夫だろうけど、その他の3台は左用のネジごと購入できたのでなければハンドル左にできないだろうと思った皆様、その通りです。なにしろ安いのが出たら条件反射的にスルリとマウスを滑らせてクリッククリックしてたので、右巻のに左用ハンドルネジが付いてくるわけはない。

 ご心配にはおよびません。ジャーン、大森No.1,no.2共通サイズ、左右両用ハンドル~。って感じでハンドルが手元にございますのよオホホホホ。金持ちケンカせず、衣食足りて礼節を知る、左右両用ハンドル備蓄充分、右巻大森機恐るるに足らず。

 我ながらアホかと思うけど、最初左の3本がイー○イに出てて、セカ○モンでお買いモンのときに、関税掛かる手前までなんか買っとくかというときに見つけて、こりゃ良い!あっても困らんだろう。と買ったすぐに、ヤ○オクでバラで2本出てきて、入札しておいたらどちらも落札という感じで、ヤフオクも1本千円ちょっとしてたし、セ○イモンも送料分足したらそのぐらいにはなるので、このハンドルが必要となるような外蹴り大森小型機って、タックルだろうがニュータックルだろうがタックル5だろうが、タックルが雑誌で取りあげられて一瞬値が上がったことがあったけど基本は3千円も出しときゃ買える。ボロ個体なら持ってけ千円台ってことが多く、そんな安リールに割高なハンドルつけてどうするよ?って気はするけど、綺麗なヤツはともかくボロ個体はワシが一旦回収して使えるように整備して、かつハンドルも左右イケるようにしてやるぐらいしないと、ゴミ箱行きが避けられないように思う。まだ使える大森スピニングをワシャ救いたい。まったくそんな必要も義理もないんだけどそう思ってしまうから仕方ない。

 ということで、5台ワシワシと分解整備していきます。

 まずは、一番酷い状態のニュータックルNo.1。とにかくボロい。ハンドルが回らんぐらいに錆がキツく、コイツは稼動状態に持って行けるか怪しいぐらい。

 でも過去同程度に酷かった「タックルオートSS」は、わりとアッサリ復活したので、何とかなるだろうとCRC666ぶっかけて、ビニールに他のジャンクリールと共に寝かせてたのを引っ張り出してきても、やっぱりハンドルはハンドル外してCRCぶち込んだのにほとんど回らん。大丈夫かコレ?ちなみにタックルとニュータックルの違いはベールアーム。金属製ならタックル、樹脂製ならニュータックル。でも箱書きにしか「ニュー」と付かないのでネットオークションとかでは「タックル」として売られていることが多い。

 いつものようにお盆を用意して分解開始するんだけど、これ思った以上に状態が悪く、過去の事例でコレより酷かったのは丸ミッチェル「314」の最初の個体ぐらいか?

 とにかく錆が酷くて、その錆が粉状に剥がれてティッシュでぬぐうとジャリジャリとした嫌な感触。

 ハンドルも回らんわけである。ハンドル外すとなんか錆なのか砂なのかわからん黒っぽい粒子がみっちりとハンドル軸と本体のハンドル根元の筒状の部分の間に詰まってる。なんじゃこりゃ?スプール外したローターにも茶色いこちらは錆っぽい粒子がジャリジャリに付着している。

 のわりには、本体蓋パカッと開けたら、ギア周りとかは普通に固まった古いグリスぐらいで、このぐらいなら珍しくもない。

 上から4枚目は、ベアリングが片面シール型なんだけど、そのシールを止めてるCクリップを針で突いて外してシールも外した状態。今回ベアリングは交換だろうと思って、苦労して固着気味のベアリングをローター軸のギアごと抜いたんだけど、ベアリングはギア周りと同様、あんまり錆びてもいなくて、シール外して古いグリスとかも落としたら普通に使える状態になった。

 外回りがやたら錆びまくってるけど、中はそれほどでもないという落差。どういう経緯でそうなったのか分からんけど、大森式で本体内にストッパーまで入れて防水防塵性をあげる設計は意外としっかり機能してる気が改めてしている。浸水したらしい丸ミッチェルはさすがに本体内も錆で酷かった。大森もハンドル軸やら主軸に鉄系の素材を使ってるので、ステンレス多用のPENNほど腐蝕には強くないけど、本体内部はある程度守られているので、致命傷にはなりにくい気がしている。

 とはいえ、外回りはあちこち錆はきていて、ベールアームのお尻のローターへの固定ネジは腐蝕して固着していて外せなかった。幸い、”ニュー”タックルはベールアームは樹脂製で錆には強いので、大森金属製ベールアームで良くあるラインローラーナット固着からの”ねじ切り”はなく、ローラーもスリーブ入りなので問題無く外せた。主軸とハンドル軸が鉄系なのでやや錆びてるけど、これは使ってれば滑らかにはなるだろう程度。ちょっと手こずったのがさっき書いたローター周りで、まずはローター自体が抜けてくれなくて、コレ抜けないと交換予定だったボールベアリングに手が出せないので、コレで壊れるなら寿命ということで部品取り個体に、という整理で「ええい、ままよ!」と木槌使ってカンカンやって外した。

 と、だいぶ苦戦したので分解に掛かった時間は約40分、単純な設計のリールのわりには時間食ったけどボロいとどうしても固着外したりとか汚れこの時点で拭けるだけティッシュで拭き取ってとかやってると時間を食うのは仕方ない。

 次にパーツクリーナーと歯ブラシで汚れをシュッシュゴシゴシと落とす作業だけど、これも錆や汚れが酷いと、時に竹串やらマイナスドライバーやら爪やらでこそげ落としつつ進めなければならず時間がかかる。

 パーツクリーナーは揮発性のある薬剤を使っているので台所の端の作業ブースや横着してコタツで作業するわけには行かず、換気しやすい玄関の三和土から階段に上がるところに小さい椅子を置いて階段に物を置いて作業している。

 ギア周りとかの内部は普通に汚れたグリスの除去という感じなんだけど、主軸の台座周りとか、本体と蓋のハンドルの穴周りとかがジャリジャリの汚れが酷くて、このジャリジャリが他に回らないように、部位ごとに分けて混ざらないように気をつけて作業する。

 小さい部品もティッシュで拭き拭きしつつ、ここでしっかり汚れを落としておかないとマズいのでかなり手間暇かかった。約50分ほど。ただココをしっかりやっておけば後の組む作業はボロかろうがそんなに手間は変わらないはず。

 とはいえ、今回はコタツに入って動画見ながらというか聞きながらではあったけど、全ての金属部品と摩擦面にはグリスをグッチャリとを基本に、主軸とラインローラー、ハンドルノブにはオイルも注すという丁寧な作業はそこそこ時間はかかった。1時間ちょっと。ということで、ハンドルも左に付けて、1台目は都合2時間半ほどのお仕事でございました。流石に新品同様の滑らかな回転とはいかず、錆びてる軸が擦れるのかコーッという感じの音がしていてやや重いけど、手に来る気持ち悪い振動が出たりとかはなくて、使ってて慣れると同時に錆びた面が滑らかに磨かれていけば特に使うのに不快なことはなくなりそうで、現時点でもワシなら気にせず使えそう。大森ハイポイドフェースギア自体は特に削れたりしてないようで滑らかなので、軸から一定して出てる小さな異音ぐらいは聞かなかったことにしておける。海なら波の音に負ける程度だろうしな。

 2台目は次にボロいタックルNo.2。これは買うときにハンドルキャップがなくて錆びてるのが見えていて、別機種と2台セットでゴミ処分価格だったんだけど、これはハンドル穴からの浸水で内部錆びてて苦戦しそうだなと思ったけど、実際にブツが来てみたら普通にハンドル回るのでわりとイケる感じ。ハンドルキャップってたまに釣り場で拾うけど(ゴミ拾ってるので地面よく見てる、エラいよねワシ)、ネジ込みとかネジ留めなら落としてもしばらく気がつかずに使い続けることはあるかもだけど、共回りのネジ付きキャップも拾ったことあって、仕舞うときに緩めすぎて落とした時かなと思わなくもないけど、ないとハンドル取れてくるので釣りにならないはずで困っただろうなと気の毒に思う。ただ、ねじ込み式とかでハンドルキャップなくしてもとりあえず巻くことはできる状態でも、そこから浸水するのは見りゃ分かるだろ?ってはなしで、部品取り寄せするなり、なんか填まりそうなモノを、それこそキャップなんで填まりゃ良いのでハメておけって、ハンドルキャップ無しで売られてるような中古を見ると思う。今回は、以前これまたハンドルキャップ無しで入手したタックルオートSSに填めてた椅子の足の樹脂製キャップを加工したものを再利用。こういうショボい部品も捨てないところがまたエラいよねワシ。で、分解はサクサクで固着もなく15分ほどで終了。部品数少ないからね。

 ただ、潮カブって白く析出したスプールの腐蝕とか、回ってなかったラインローラーの錆とか、パーツクリーナーでシュッシュ、歯ブラシでゴシゴシ程度では取れない部分もそこそこあって、マイナスドライバーやら爪やらでガリガリと削り落とす作業は地味に生じて、分解ほどサクサクとは作業進まず45分ほどかかってしまった。
 表面塗装が脚周りとか剥げてて、お色直しするべきか迷いどころだったけど、銘板も剥がしていっちょやっつけるかなと剥がそうとしたら剥げず、なぜかしっかり接着されていたので、そんならまあ見た目はこのままでいくかと流しました。

 各部品が綺麗になったら、グリス塗りつつ組んでくのはそれほど時短できる要素は無く、続けて2台目だから熟練度が上がって早くなったかというとそうでもなくて、普通に1時間ほどかかって、全行程通してでは約2時間となりました。キャップもちゃんと填まってウレタン接着剤で落とさないように接着。
 前回より時間が短縮できたのは、前回時間が掛かった固着を外す作業が無かったので分解が楽だったところに負うところが大。まあでも2時間で全バラフルメンテ完了なら悪くはないかなと。
 前回の鉄系の軸周りに錆が出てたニュータックルNo.1はさすがに巻きが多少重くなってたというのが、今回はベアリングもギアも軸周りも錆びてなくてクルックルに復活したので比較して良く分かった。なんなんだろうねこのボールベアリング1個しか使ってない大森スピニングの滑らかな回転は?ちなみにハンドル軸は両側アルミ直受けじゃなく、鋳込んであるのか填めたのか真鍮ブッシュで受けている。金属本体なのでストッパーの音もチリチリよりシャリシャリに近い涼やかで気持ち良い音。上出来だな。

 お次はニュータックルNo.1の2台目、こっちは普通に使えそうな感じだったのでサクサク行くつもり。分解はやっぱり固着が無ければ15分で終わる。サクサク。
 パーツクリーナー洗浄も35分くらいと良いペース。
 こりゃ2時間切るなと動画見ながらコタツでダラダラとグリス盛り盛りして組み立ててたら、それでもやっぱり1時間ぐらいで合計1時間50分ほど。
 仕上がり快調で、ちょい時間も短縮できたけど、正直3台目で飽きてきた。

 でも4台目は黒いタックル系から青いタックル5No.2に変わるので気分も新たに、って色が違うだけの兄弟機だからやること一緒だけどな。
 こいつはライン付きなのでライン引っぺがすところから始める。”ラインはオマケです”とか書いて出品されてるのは良くあることだけど、使用時間もわからんようなラインそのまま使うわけにもいかず、新しそうなら下巻用に使ったりするけど基本捨てる。オマケもクソも引っぺがすの面倒だしスプール腐蝕してたらバレるしで手間かけてないだけだろって感じで今回も古いナイロン糸なので容赦なく引っぺがす。小型リールだとそれほどでもないけど長尺の道糸の交換とかには専用の”ラインクリッパー”があると仕事が捗る。
 しかし今回は問題発生。
 なんか途中から赤さび色になってきて、ラインが固まっててラインクリッパーのモーターの力では引っぺがせない。なんじゃこりゃ?と思いながらドラグユルユルにしてライン手で引っ張って剥がしていくと、クソ忌々しいことにガムテープで”エコノマイザー”的に嵩上げして糸巻き量調整してやがった。そのガムテが腐って粘着部分が染み出してラインを固めている。苦労してガムテを剥がしたけどスプールの芯のところに小汚く赤茶けたカスがへばりついている。ここまで30分もかかってしまってムカつく。

 ムカついてても仕方ないので分解してパーツクリーナーをシュッシュ、歯ブラシでゴシゴシ。幸いなことにパーツクリーナーはガムテのカスにも効果大でしばらく漬けてから歯ブラシかけたら綺麗に取れて一安心。
 内部は綺麗な状態で、パーツクリーナーの廃液もガムテのカスで赤茶に濁ってるけどわりと綺麗な状態。
 いつものようにグリスグッチャリで仕上げて、こいつは見た目もそれほど腐蝕等もなく機関も快調に仕上がった。苦労した甲斐もあったというものである。
 コイツは売れるかもと一瞬思ったけど、No.2サイズはいかんせん需要が少ない。買った値段ぐらいにしかならん。でも快調な個体を使う人に届けるだけでも意味があるかなとも思うので整備待ちの渋滞が解消したら来年は本格的にリールを売ろう、などという鬼が笑うことを言うております師走の今日この頃。

 ということで、ライン引っぺがしに30分、分解15分、パーツクリーナー35分、組み上げやっぱり1時間と都合2時間20分かかってて、うちラインはぎを除くと1時間50分ぐらいで、このあたりが今のところの限界かな?雑にやっては意味がないのでこのぐらいが適正かなと思っちょります。

 やっと最後の5台目マイクロセブンNo.1まで来た。
 こいつもライン付きだったけどラインクリッパーが存分に威力を発揮してくれて、ライン引っぺがすのに所要時間2分。早い!改めてその便利さに惚れ惚れする。
 そして分解17分、内部も写真のようにそれほど汚れておらずパーツクリーナー40分、組み上げ65分、合計2時間4分ほど。
 微妙に時間がかかってるのは、真ん中写真見るとお分かりいただけると思うけど、タックル系に比べて上位機種の外蹴りマイクロセブンは、ハンドル軸ギア側にボールベアリングが一個追加され、スプールがワンタッチ式採用となってて、その分部品数が増えてちょっとずつ時間がかかっているのである。意外にワシ正確に同じように作業できてるんだなと面白かった。
 ここから時間短縮するなら、一番時間掛かってるグリス塗りながらの組み立てのところをどうにかするんだろうけど、グリス塗り多分メーカーとかの組み屋さんは、熱して液体状に溶けたグリスに部品をくぐらせて表面全体に均一に塗布してるか、液状になったグリスをスプレーしてるんだろうと思うけど、電気ポットあたりを改造してグリス溶解槽でも作るか?何台分も流れ作業でやるわけじゃないから、あんまり効率上がらないか?まあ丁寧に塗ってくのも良い気分なのでそこまでしなくても良いかなとは思う。
 あと訂正してお詫びしなければならん件に気がついた、ちょい前の大森”No.5”ネタの時に「マイクロセブンにも大型機ならではの強化が施されていて、ローターのベールが付く”腕”部分に斜めに張り出した補強部分が設けてあり、いかにも大物仕様といった雰囲気が醸し出されている。」と書いたけど、ごめんアリャ嘘だ、小型機にも同じように補強が入ってる。ワシの目は節穴である。信用しすぎないようにお願いすると共に伏してお詫び申しあげます。ゴメン!
 という感じでやや擦れ傷多めながらも、2個もボールベアリングが入ってるおかげか回転もクルックルで気持ちよく仕上がった。マイクロセブンNo.1は薄い水色も雰囲気あって綺麗で格好いいので一回魚と一緒に並べて写真撮りたいのでそのうち実戦投入したいけど、タックル系もあるので出番作ってやれるかどうか。まあいつでも出せる良い状態で保管しておけるのは悪くないさね。

 という感じで、5台無事使用可能な状態に復帰。良い塩梅に整備完了で満足。満足してるんだけど、ボロくて重いニュータックルNo.1は、回して錆落とししてやりたいので実戦投入予定だけど、せっかくなのでちょいいじくってやりたい。
 まあ来年のシーバスシーズンに間に合えばいいやということで、これもまた鬼があんまり笑わせるなよと言うような話。
 同じ系統の機種を連続してやっつけるのは、確かに手順をハッキリ憶えている間にやれて作業効率的には悪くなかったように思う。後半部品位置確認用のデジカメ写真とか省略してたぐらいである。
 同じ作業ばかりで飽きるということを除けば良い手かなと思いました土佐の一本釣り。
 ということで、次もまた同じような機種が4台ほど溜まってるのを片づけるかなと予定しております。ハンドルもまだ2本あるしな。お楽しみに。

2023年12月9日土曜日

パチモン?ゲットだぜ!

 ”大森熱”患者は三角パドル型のハンドルノブを見ると、思わずマウスが滑りそうになる。なるけど過去にシェイクスピア「アルファ2260-030」のような”なんちゃって大森”に騙されたりして経験積んでると、それなりに自制は効く。でもそれなりはそれなりで、欲しかったらマウスなんてスールスルのクリックリで軽く滑らかに滑ってしまうのである。
 まあ左はいいだろう(いいのか?)、「ブロウニング」ブランドで韓国大森あたりが作ったマイクロセブンCシリーズの後継機「ポスカ」の派生機種か余り部品で組んだバッタ臭い代物あたりで、それでもまあ大森スピニングには間違いないと思う。その名をブロウニング「SDX2」というらしい。
 右の”グリーニー”な色の可愛い白い三角パドル型ハンドルノブの一品は、なかなかのパッチモン臭さをごまかしきれない。その名をアビースペシャル「マイクロフィッシャートラウトUL」という、我々オッサン世代にはバスロッドとかで馴染みのあったアビースペシャルだけど、現在の「エイテック」のことである。ここは竿はそれなりにちゃんとしてる安い竿って印象で、エイテックのテイルウォークブランドの竿はワシも中古で一本買ったくらいだけど、ルアーとかはパチモン臭いのが多く、このリールもなかなかに香ばしい。
 そもそも韓国大森自体、ダイヤモンドキングミニあたりの色をグリーニーに塗り替えた「アルフォード」ってのを売ってて、グリーニーカラーをパクって売り上げに何らかの貢献が見込めるのかね?と首を捻らされるところだけど、このアビースペシャル製の小型スピニング、いったいいかなる層を狙って企画した商品なのか?PENN伝統の”グリーニー”カラーに大森お馴染みの三角パドル型ハンドルノブ、大森熱患者のPENNマニアぐらいしかこんなモン買わんだろう。あっそれってワシのことか。ということで買ってしまいました。
 まあ、あれですよ下世話な銭の話ばかりはしたくないですけど、「SDX2」は1000円落札送料780円、「マイクロフィッシャー」のほうなど送料込み1000円ですよ。マウスもなんの抵抗感も無くスルルのポチチですよ。

 まったく、一般的な釣り人の興味のありそうな機種ではなく、誰が読むねン?って話だけど、ぶっちゃけ当ブログにリールネタ読みに来る読者様が、人気のカーディナル33やらミッチェル408の記事などまったく金輪際びた一ペソも期待してないだろうという気もするので、これはこれで当ブログならではのネタということで良しと整理しておこう。いずれにせよ基本方針は”誰も読まなくても書きたいから書く”であり、読者様を置いてきぼりにしてでも書きたいことは書いていく所存。楽しんでいただけたらなお良しということで、お暇ならごゆっくりお楽しみください。

 まずはウチに来たら分解整備は珍品銘品パチモンバッタモン有象無象の差別無く平等に与えられた権利である。
 とりあえず「SDX2」から、パッと見まず形と大きさが「マイクロセブンCS」と金型同じだろうなってぐらい似てるので、スプール互換性があると、それだけでスペアスプール1個確保なのでありがたく、スプールから分解に入る前にサクッと調べてみる。ハイ合格、交換可能ですめでたしめでたし。ということで、バラしてさらに詳しく見ていくけど、基本的にマイクロセブンCSの金型を使って、あれこれ省略できるところは省略した”ダウングレード”モデルのように見受けられる。

 スプールはドラグノブのてっぺんにブロウニングの鹿さんマークがついているけど、基本マイクロセブンCSっぽい、と思って抜いてひっくり返すとドラグの音出しと糸留めの固定が樹脂部品を金具でか締めてあっていきなり安っぽい。ただこの樹脂製の音出しはパリパリしたかん高い音で安っぽいけど悪くない。
 ドラグは3階建てでマイクロセブンSCと一緒でテフロンパッド。当然何の問題もなく機能してくれそう。
 このへんブロウニングブランドで売るには、安物であっても米国市場に流すとなると、ドラグぐらいちゃんとしたモノがついてないとダメなんだろう。ポスカはワンタッチになってたけど安くあげるならワンタッチは無しってことか。同じマイクロセブンCシリーズのダウングレーディング版のような機種でも、国内向けのポスカがワンタッチノブとワンタッチスプールという素人受けする機能を足しているのに対し、米国向けは基本引き算方式なのが我が国の釣り人の素人臭さを表していて面白くて鼻で笑ってしまうところ。ポスカはかなり良いリールだとは思うにしても。
 本体もそうだけど、銘板じゃなくて樹脂製のスプールに直接ブランド名とか印刷?してるので、かすれて薄くなって読みにくくなってる。銘板にすると剥がれるし痛し痒し。「マイクロセブンDX」とかみたいに文字を凸らせてしまうのが一番長持ちするけど、まあ古いリールは年式相応に剥げたりかすれたりも味のうちか?

 本体方面にいくと、まずはハンドルが共回り式。ただワンタッチが付いてない共回りで捻って折り畳み方式なのでそれほどハンドルが重い感じはしない。ガタついてもないしワンタッチは重いのでアリャダメだという気がしてくるけど、共回りでワンタッチ無しはデキが悪くてガタが来てるとかならダメだけど、小型機ならそれで良いんじゃないのかなという気がしている。ただ、ハンドル軸が樹脂本体直受けなのは微妙に気になる。削れないのかどうか?というのは樹脂がマイクロセブンCシリーズやキャリアーのような堅い樹脂じゃなくて、ちょっと安っぽいテカリのある樹脂で素材もケチった可能性があるのでキャリアーはある程度大丈夫だと確認できているけどコイツがどうかは正直わからん。
 で、本体蓋がタップネジでこのへんは、形はマイクロセブンCSなんだけど、抜ける手は抜いてる感じの作り。ギアの素材はローター軸が真鍮でハンドル軸が亜鉛の一般的な組み合わせ。
 この方式は、韓国だと複数のメーカーが使う方式なのか、それとも大森、ダイワ双方の下請けをしていた企業があったとかなのか?まあ良く分からんところである。
 あと、生意気にも正転時消音化してあって、マイクロセブンCSは音出し、消音、逆転可の3段階だったけど、SDX2は音出しは無し。音出したかったらハンドル軸のギア裏についてる、樹脂製の消音化部品を取っ払えば良い。正回転時に回転の力で逆転防止の爪を浮かせる方式。大森はこの方式がほとんど。

 大森式の逆ネジのローターナットを外してローターをひっこぬくと、アチャーそこを省略しちゃったか、という感じで銅板でベール返しの蹴飛ばしも兼用していた”簡易ローターブレーキ”が省略されていて、樹脂で蹴っ飛ばしているのですでに溝が掘れている。ベール反転の方式はいつものL字の金具と眼鏡型のバネの内蹴り式。ボールベアリングはローター軸に一個。その下に逆転防止のラチェットが入ってるのもいつもの大森式。
 
 逆に、エラい!よくそこを残した、っていうのがベールアームとベールワイヤーのお尻の支持部。ローターの樹脂で直受けしてタップネジ留めではなく、前回ネタにしたマイクロセブンCやキャリアーのように、ローター側樹脂に雌ネジ埋め込んで、雄ネジの腹を軸にしてベールアームとお尻を受けている。樹脂で回転部分を受けていない。
 ベール折り畳み機構は省略で、真ん中の写真の様に単なるベールアーム止めの無骨な金具が填まってる。アメ人はリールは竿につけっぱの車やボートに乗せっぱで袋にしまったりしないそうなので省略は妥当か。ワシ的には予備リールとかを選ぶときに、場所取らないからベール折り畳める大森スピニングを、って場合がけっこうあるので評価している部分だけどお国が違えば好みも違うというところだろう。
 あと、ラインローラーはキャリアーと同じでセラミックのスリーブ無し直受け。

 という感じでバラして、部品数はもともとそれほど多くないマイクロセブンCSから省略してる部分もあるぐらいなので少なく、単純で整備性は良い。そして単純にして取っ払えるモノは取っ払った結果、重さが約177gとかるーく軽量に仕上がっている。
 なかなかの仕上がり具合で、樹脂が安っぽいのはいかんともしがたいけど、これは実釣能力高いんじゃないかと思う。
 ただ、ベール反転の蹴飛ばしを樹脂でやってるのは、すでに溝が掘れてるので何とかならないかと思ったけど、例のマジックテープをエポキシで接着するローターブレーキ追加改造方式は簡単だし、削れてきた蹴飛ばしの保護になる上にローターブレーキ追加で意図しないベール返りが防げて一石二鳥じゃん、と改造してみた。
 結果、手持ちのマジックテープでは分厚すぎてハンドル回してベール返すのが重くてどうにもならん状態になってしまいダメだった。もっと薄くて柔いのでないとダメっぽい。まあ急ぎ出番のあるリールでもないので”改良できる”っていうのが把握できてればまあ良いことにして放置とする。同様に樹脂で直に蹴飛ばしてる「ダイヤモンド2001SS」とか「ダイヤモンドキングミニ」もこの改造は有効だろうと思う。小っちゃいリールに合う薄っぺらいマジックテープなりその代替品なりが見つかると良いんだけど、なんか良いのがあれば活躍中のキングミニあたりから実装してやりたいところ。

 お次がお待ちかね、アビースペシャル「マイクロフィッシャートラウトUL」。
 まずはなんといっても小っちゃい。マイクロの名に恥じぬ小ささで、冒頭写真で大きさはマイクロセブンCSと同等のSDX2より小さいぐらいなのが見て取れるかと。
 ただ、そのわりに手にすると重量感があって「これひょっとして金属本体か?」と思うんだけど、スプールはアルミだけど本体は樹脂製。なんで持ち重り感があるのかはオイオイ書いていくとして、実際の重さは約183gとSDX2よりちょい重い。
 そしてバラす前に思うのはこいつもやっぱり直接印刷してるっぽい機種名やらブランド名がかすれて読みにくい。ちなみにスプールにかろうじて「madei n China」と残ってるので中華リールのようだ。
 スプールの方はまだマシなぐらいで、本体のアビースペシャルのロゴはせっかくちょっと小洒落た竿とリールの上にロゴが踊る意匠なのに風前の灯火状態。そんなの気にしてられないような安いブツだとしても、自社のブランドを大事に育てたいならもうちょっとどうにかならんのかなという感じ。リールのでき自体が思ったより善戦してる感じなので余計にそう思う。

 そう、見るからにパチモンなこのリール、わりと頑張ってるとワシャ思ったので、まずはスプールからいってみよう。
 おおっ、ドラグがすげぇまとも。湿式のフェルトパッド3階建て方式。
 そしてギア裏のドラグの音出しが、スプール裏からでた突起を、バネで音出しの爪部品と共に挟むという大森でお馴染みの方式。
 三角パドル型のハンドルノブだけ真似した”なんちゃって大森”かと思いきや、以外とちゃんと機能もパクってる。パクってるのが”ちゃんとしてる”のかどうかはこの際おいておこう。
 そして、写真では伝わりにくいと思うけど、このスプール滅茶苦茶重いのである。アルミ鋳造なんだろうけど一瞬南部鉄瓶みたいな鉄の鋳物かと思ってしまうぐらい重い。どのくらい実際目方があるのかと秤に乗せたら驚愕の数値をたたき出しよりました。
 180gがとこの超小型リールのスプールが約27gもあるってどういうことよ?
 南部鉄瓶とかナマジはまた面白おかしく書きたてよって、と思ったでしょ皆さん。でも27gは場違いに重いっす。ローターのバランサーもそこそこ重量増には寄与してそうだけど、それでも4gかそこら。いかにスプールが重いかとご理解いただけるでしょうか?
 これたぶんあんまり軽すぎると合う竿が無いっていう問題からというより、軽すぎると高級感が損なわれて安っぽくなるからわざと重くしてるよね?って思いましたとさ。全体で180gと軽量に収まってるのでまあ過剰ではあるけど丈夫なスプールだということで良しとして先に進みましょう。

 このリール、こんなパチモン臭い見た目で実はハンドルはねじ込み式で、左右の交換はハンドルの雄ネジ側の根元と先で太さを変えている方式。
 ちなみに最近、ねじ込み式のハンドルと、良く似てるワンタッチじゃない共回り式のハンドルの見分け方が分かってきたので参考まで、買うときに質問すればいいんだろうけど”ねじ込み式”とはなんぞやというのを知らない人に「左右交換するのにハンドル側がネジになってて回して止める方式です」とか説明しても「??よくわからないけどネジを回して外す方式です」って全く分かってない、大くくりでネジ留め以外の方法があるのか教えてくれっていう回答が返ってきたりしてラチが開かないので知ってると良いかも。ハンドルと反対側のキャップが、写真左のように本体から出てる筒状のハンドル基部より太くて被せてあるのが共回り式、同じ径で填めてあるのがねじ込み式でだいたい正解。そうじゃないと防水性モロモロあんばいが良くないはず。

 で、本体蓋をパカッと開ける。蓋を止めているのは長めのタップビスでまあしゃあないけど4箇所で止めてるのはしっかりしてて良し。
 で、ジャジャーンと出ましたハンドル軸のギアが亜鉛鋳造一体成形で軸も亜鉛とやっとパチモノ臭くなってきて調子出てきた。亜鉛そこまで堅くないからねじ込んで大丈夫なんか?
 でも、樹脂製の本体で直受けじゃなくて左右共に真鍮のブッシュを入れていて、そこは真面目な感じで好感が持てる。
 スプール上下はまあこの大きさのリールの場合クランク方式一択かなという感じ。
 ストッパーがハンドル軸のギアの回転を軸に填めた針金パーツでストッパーの爪のお尻に填める方式で、正回転で爪が浮いて消音で回転、逆回転で爪がローター軸のギアと一体成形のストッパーのラチェット?に押しあてられて掛かる。
 そう、このリールのギアはハンドル軸亜鉛鋳造、ローター軸もストッパーとまとめて亜鉛鋳造なのである。やっとパチモンの本領発揮。色々頑張ってるけど糸巻きとしての本体であるスプールと心臓部であるギアが残念な仕様ってのが味わい深い。
 耐久性的にどうなのよこのへんって感じだけど、それをどうこう言うべきリールじゃないのかも?まあこのリール使うような釣りではそれほど削れていかないか?

 でもって主軸抜いて、ローターナット外してローターをヌポッと外してやると、ベール反転の内蹴り方式はバネこそ眼鏡型じゃないけど大森に似たL字の金具方式で軽く返って良い塩梅。
 そしてそのベール反転の”蹴飛ばし”なんだけど樹脂製本体じゃなくて、ベアリングとローター軸ギアを止める部品と兼用の亜鉛一体成形の部品が鎮座していて、樹脂削りながら蹴飛ばすよりずいぶん耐久性良さげな感じになってて感心する。ボールベアリングがここに1個だけなのも好印象。
 と同時に、なんかこのギアの亜鉛鋳造一体成形、のくせにネジ込みハンドル、蹴飛ばし兼ベアリング押さえ部品、あたりに激しく既視感がある。これ方式としてはシェイクスピア「アルファ2260-030」がスゴく似てる。”なんちゃって大森”でこれだけ重要な部分の癖が似てるってのは、同じメーカーが作ってるんじゃなかろうか?という気が強くする。さらに言うなら、今回のマイクロフィッシャーはもともとシェイクスピアブランドで欧米市場で売ってたのがあって、それの色違いの可能性があるように思えてきた。そう思って両製品とも80年代真ん中から後半ぐらいの見た目なので、そのへんの欧州版のカタログとか覗いてみたけど見あたらず。イーベイでリールの「Shakespeare」では多すぎるので「micro」とか「UL」で絞り込みかけたらシェイクスピア「LX UL」というのが、本体の形状、ねじ込み式なところ、逆転防止のスイッチの形状とかが一致するのでかなり近い、ただコイツはスプール樹脂製版とアルミスプールでも若干ドラグノブが違う版もありのようだ。いずれにせよシェイクスピア「LX UL」の色違いアビースペシャル版で確定だろう。で、そうなってくると製造元なんだけど、「リール風土記」の下請け元請け関連図でみると、この時代80年代後半のシェイクスピアの下請けには韓国大森と香港シェイクスピアがあったようなので、中華リールであるコイツは香港シェイクスピアがアビースペシャルブランドの下請け製造したものである。いうのがパソコン椅子探偵ナマジの推理。ということでアルファ2260も香港シェイクスピアかなと思いましたとさ。というわけでパチモンもなにも、発注元のシェイクスピアが大森のリール持って来て「こんな感じでよろしく」って感じだったんだろうから”パクリ”っていうよりはシェイクスピア通じて技術的な交流があったと見る方が妥当なんだろうな。パチモン扱いして失礼いたしました。
 とまあスッキリしたところではあるんだけど、またぞろ病気が出てきて樹脂スプールの「LX UL」はちょっと秤に乗せてみたいのアタイ。ああマウスがツルツルしてきた・・・アアァッ!

 まあ煩悩を断ちきるためにも残りを急ごう。
 ベール周りがまたなかなかやりおる感じで、ラインローラーはステン無垢のローラーを直受けなんだけど、受ける軸に油溝が真ん中へんに設けけてあって、アルファ2260ではメッキの質が悪くてボロボロだったけど、その二の舞は舞ってない。
 そして、ベールアームとベールワイヤーのお尻の回転部分の軸が樹脂で受ける形になっていないのが立派。かつ大森みたいなローターの腕側に雌ネジを埋め込んでという手間の掛かる方式でもない。
 ダイワの革命機「ウィスカートーナメントSS600」が同じ方法だったと思うけど、ネジじゃなくて腕の裏まで貫通させた軸の尻を写真真ん中の矢印のところに見切れているけどEクリップで止める方式。これなら樹脂にネジが効きにくいという問題が回避できる。そして金属の軸で回転を受けているので耐久性は高い。
 その他にも、回転部分を樹脂で直受けにしないというのは徹底されていて、ギアもハンドル軸は真鍮ブッシュ受けでローター軸はボールベアリング受けというのは既に書いたとおり。さらに細かい所で写真下のように、ベール反転のL字の金具を止めているネジにもカラーが填まり、ストッパーの爪もカラーに填まってからネジ留めされる。

 全体通してみれば安っすいつくりではあるんだけど、丁寧には設計して作ってある。ギア周りの耐久性はやや不安ながら、ドラグはしっかりしているし、ベール反転も軽くて調子良いし、回転も重くなく、使ったら気持ち良さげなリールで、正直もっとどうにもならないゴミスピかと思ってたけど、存外悪くない。
 部品数も少なく単純で、ややプラスねじが多用されていて慣れない感じだったけど、整備性も悪くない。80点90点の高得点のリールじゃないとしても、性能としては60点でギリギリ”可”で、でも、可愛い見た目と短期的には使いやすそうな機能が備わってて、ちょっと使いたくなる程度に魅力的。

 今回の2機種はどちらもそんな感じで、経費削減しつつどう実用的なリールにするかっていう苦労が偲ばれるし、苦労の甲斐あってどうにかこうにかまとまったリールに仕上がっていると思う。
 ぶっちゃけ、そこらでお魚釣りするのに、高性能な100点満点のリールなんて必要ない。魚が釣れる程度の性能があれば足りる。なのにゴチャゴチャと余計なモノを付加していって逆に釣りにくくなってるリールのいかに多いいことか。
 このぐらいのちょっと足りないぐらいのリールの愛嬌の方が、そういう過剰なリールの傲岸不遜よりよっぽど好ましく感じる。
 こういう、情報もろくに出てこないようなショボいリールでも、分解してみるとなかなかに楽しめる部分を発見できたり、リールの歴史とかの知識に照らし合わせて考察したりするのもまた楽しい。
 これではマウスが滑るのを止めることは難しく、”スピニング熱”は一向に治りそうにないのでアタイ困っちゃうのである。アアッ!