2021年7月4日日曜日

このスピニングどいつんだ?D.A.Mんだ!

 なかなかに送られてきた箱から取り出すのに心が躍るリールでございました。「ダムクイック110N」。

 ダムクイックというと 、我々世代のオッサンには西ドイツのアンバサダー的なベイトリールが懐かしく思い出されるかも。割としっかりしたリールのようで「さすがは西ドイツ製」と思ってると、後年日本の五十鈴工業製になり、そうとしらずにフットの裏の「JAPAN」の文字を見つけた釣り人は「ドイツのリールは日本一~ッ!(byシュトロハイム)」と驚愕したとかしなかったとか。

 まあ、以前書いたようにシマノにスピニング作らせてたこともあったようで、釣り具業界、世界中どこでも生き残りのためにあの手この手をくりださざるをえなかったんだろうなと思うところ。紆余曲折あったんだろうけど、D.A.M社は今でもしたたかに生き残ってます。

 この個体お値段なんと、送料込み8000円と張り込んでしまいました。無職が何やっっとるんじゃとお叱りを受けるかと思いますが、違うんです、また説明させてください、お願いします。

 ダムクイックのスピニングリールは國吉昌秀著「ベールアームは世界を回る」において「頑丈な作りと頑固なデザインは、実に堅実で、隠れたベストセラーとしてアメリカンアングラーに愛されている」と紹介されており、基本米国の釣り人の選ぶ道具は実用本位というか丈夫で使いやすいという印象があるので、気にはなっていた。気にはなっていたけどそれなりに歴史あるお高い逸品達であり、おいそれとは手が出なかった。でなかったんだけど、某ネットフリーマーケットで、3台だけ相場よりずいぶん安く、7、8千円の値段が付いたまま長く売れていないのがあるのは目にしていた。ネットオークションではだいたい1万5千円弱が相場だと思う。相場の半額ぐらいでも売れ残ってるのが、日本での知名度がイマイチなダムクイックらしさという感じもするけど、なぜダムクイックをワシが出物探してたかというと、以前にダムクイックレトロが話題になったときにちょっと調べたらば「ドイツ在住時に知人にいただいたものですが、使わないので出品します」とネットフリーマーケットに数千円で出されていたダムクイックが、どう見てもABUでいえばCDLのような限定モデルで金ピカの逸品だったんである。アホかと、値段付けの桁が違ってる。当然既に売れていたんだけど、日本じゃダムなんて人気薄だから、こういう価値のわからん人間がホイと出してくるのがまたないだろうか?と切り株にウサギがケッつまずくのを待つような物だとは知りつつも、ずっと定期的に確認していたのである。

 で、まあ相場より安いのが3台あるなと思いつつも、人気あんまりないから確保しても必ずしも相場で売れてくれる保証もないしと、あの葡萄は酸っぱいに違いないと自分に言い聞かせて手を出さないようにしていたんだけど、3台のうち残りが1台となって、その時期に低価格で始まったオークションで試しに、5千円ぐらいで入札したらやっぱり同じような機種が1万4千円からになって、8千円はどう考えても安い。確保して気になるあの娘とちょっとお付き合いしてみようかなと購入。という自然な流れ。仕方ないですよね?

 我が家に来たからには、今日は家の人居ないんだ、っていうことで丸裸に剥いて楽しんでやるゼへっへっへ。ということで、回転も重くなっててグリス固まってる感触なので、全バラしフルメンテ敢行。ガッチリグリス盛ってやって、あと50年は道具として生きられるように整備してやる。

 まずは、ドラグなんだけど、意外なことにスプールは樹脂性。アルミボディーで全体的に丈夫感を醸し出してるけど、ここは軽量化のためだろうか。ちなみに本体フット裏に加えてスプール裏にも「メイド・イン・ウエストジャーマニー」の文字が誇らしく踊っている。写真下手くそで写ってなくてゴメン。

 スプール上面にカーボン繊維を樹脂で固めたような6角形のドラグパッドがハマっていて、その上にワンタッチの軸と共に回る金属スリーブが1枚、その上にバネ替わりのウネウネッっと波打った形状のワッシャーが乗っててそれをドラグノブで締め付けるかたちで、一見小さめのドラグパッド1枚方式に見えるけど、写真の様にスプールの底に6角形のドラグパッドがはめ込んであって、ドラグパット2枚方式というか、実質スプールの上下をドラグパッドにしてワンタッチの座面と軸にはめたワッシャーと摩擦させてドラグとしている。素人考えだと、上のドラグパッドは六角形じゃなくてワンタッチの軸と同期させて回す丸いのにしたら、ドラグ面がもう一面稼げるのにと思わなくもないけど、実際ドラグ締めた状態で回してみるとちゃんと機能しているので悪くはなさそう。スプールが普通のプラスチックっぽい樹脂性なので、ドラグパッドを堅いカーボン繊維樹脂製にしてドラグの耐久性と安定性を確保しているとかだろうか?いずれにせよなかなか個性的。


 ただ個性的なのは、ここからが本番という感じで、ローターが一般的なインスプールスピニングのそれのようにお椀型ではなく、ズドンと円筒形した土管型なのは何か理由があるんだろうなと思っていたけど、予想以上に面白いことになっていた。

 ラインローラーと反対側にベール反転機構を持ってきて重量分散してるのはままあるとはいえ、その反転レバーがレバーじゃなくて”丸棒”で丸棒がローター内に引っ込んでベールが返る構造。ちなみにラインローラーは固定式でセラミックか硬質の金属かそんな素材。

 スプール抜いた状態で、なんかまだ底じゃなくてローターの下部にベール反転とかいろいろ入ってそうな感じ、と共に謎の切り替えネジがある。なんじゃろこれ?ベール反転の方は謎の切り替えネジの反対側の金具がスライドして引っ張られて、丸棒が引っ込むんだろうなというのはなんとなく分かったけど、とにかくこのままでは進まないので、本体から主軸を抜いてローターを外す。

 外すと見たことない光景がそこに現れる。

 左がローターの裏。左端の金具が写真右のローター底面?に斜めに組まれた部品を滑って内側に引っ張られて丸棒が引っ込んでベールが返るっていうのは予想通り、なんだけど、例の謎の切り替えネジは、どうも外側に丸棒を押し出しているの自体は丸棒に巻き付くように配置されているバネのようだけど、そのバネの押し出しの強弱を調整するために、切り替えネジで左右に張り出したワイヤーの張りを変えるもののようで、押し出しが強ければベール反転のためにハンドル巻く力が多く必要になるし、押し出しを弱めてやれば軽くベールが反転するようになるという機構っぽい。ベールの反転の強さを調節するのに、ベールアーム側のベールスプリングの端が刺さる穴の位置を変えてやるという小技は実際PENN714Zでも使ってるけど、このリールはマイナスドライバーで調節可能なようにあらかじめできている。なかなかの独創性。っていうかドイツの釣り人も細かいこと気にするんだなぁという感じで、米国人とはちょっと違うお国柄が垣間見えた気がして面白い。

 でもって、分解して古いグリス落として綺麗にしてグリス塗り直しだなと、着々とバラしていくんだけど、なんか本体内部が寂しいんである。

 薄っぺらいシュッとした本体からも明らかだけど、ギアはウォームギアで、スプール上下(オシュレーション)はクランク方式。クランクがハンドル軸のギアに乗っかるところにワッシャーが噛ましてあって、他にも基本的に回転する場所にはギアでもネジでもワッシャー入れとけというのがダム社の方針のようである。

 まあそれはいい、単純なウォームギア+クランク式の駆動系だなってのはPENNの710系でもカーディナルでもアルチェードでも一緒で、ある種見慣れたものである。でもなんか足りないなと考えて、”ストッパーが本体内に無い”というのに気がつく。

 そういえば、ローターの”底”の丸棒を引っ込ませている部品はバネが付いてて動くようで、切り替えできるように外側にツマミも付いていたし、あれが逆転防止の爪だな、というのはすぐに思いついた。ただ、その爪が掛かるであろう歯の付いたラチェットとかギアとかが主軸周りにみあたらない。ローターの裏にでも付いてるかとみたけど、やっぱり付いてないなと思ったら、エラいところに歯が切ってあるのに気がついた。

 上の方に貼り付けたローターの裏面の写真にばっちり写ってるんだけど、みなさん気付かれただろうか?既に一目見ただけで気がついていたら拍手喝采、答えを見る前に写真もう一度見て気付いても立派。

 さて、どうだったでしょう?

 そう、ローターの内側側面に歯が切ってある”マルチポイント方式”の逆転防止機構であり、おそらくダム社はこの方式の元祖なんじゃないだろうか?他にもっと古いリールで同じ方式のリールってありますかね?スピニングリールの回転する部位で一番直径が大きいのはローターで、そこに歯を切れば沢山歯が切れるので遊びが少なくできるという、合理的な位置に逆転防止を持ってきている。さすが独逸と感心する。同様の方式はワシの蔵にあるのではリョービ「メタロイヤル」が採用しているし、ダム社とは縁深いシマノも「92’ツインパワーで」採用していた。もっとマイナーなところではTAKE先生の愛機、ミッチェルの怪作「クォーツ」もマルチポイント方式だったはず。ウーンもし本当にダム社が元祖なら立派!サイレント方式じゃないので逆転防止をONにしてリールを巻くと当然音がするんだけど、歯の数が多いので音が連続して「ジィーィッッ」というような独特の鳴り方。

 という感じで、感心しつつ作業を進めるんだけど問題が発生。ハンドル軸のギアが抜けてくれない。固着したとか歪んで取れないとかじゃなくて、ハンドルを外して本体側に抜くのは間違いなさそうなんだけど、ハンドルの外し方が分からん。四苦八苦してどうにもならんので、海外オークションではよくハンドルだけとか売ってるので、ダムクイックのスピニングのハンドルだけ売ってるのを探していくと、いくつかあって、ハンドルそのものだけっていうのは参考にならんのだけど、探してた”ハンドルにピンが付いたまま”出品されているのがあって、多分そうだろうなと思ってたけど、ハメ殺しっぽくネジじゃないピンで止められているのを、ハンドルの穴にピッタリのを棒を突っ込んでピンを叩いてやって、ピンをズラしていって外すので正解のようだ。ちょうど2ミリの穴にピッタリの幅のマイナスドライバーがあったので、リール膝に抱えて穴にドライバーあてがって、トンカチで慎重にコンコンと叩いてズラしていくと、無事外れてくれた。それさえ分かればあとは普通に分解清掃できる。ダムクイックの整備の仕方とかを検索してたどり着いた人はこれだけ憶えて帰ってください。”ダムクイックのハンドルピンは棒突っ込んでコンコン叩いてズラす”これ重要です。

 大きさ的に海では使わんかなという大きさでっていうか、割と見た目も良い個体なのでサビさせないようにして、どっかのタイミングで売りさばくんだろうなという思惑もあり、頓挫した「カーディナルC4」転売作戦用に購入してあったABU純正グリスでモリモリとグリスシーリング。金属部品は全面がグリスで濡れているべきさ!ベアリングがローター軸のギアから外れてくれなかったけど、ベアリングの玉にオイル注して上下グリスでシーリングしたら快調に回ってくれている。

 という感じで、なかなかに面白かったし、グリス固まって重かったのが嘘のようにクルックルに、といってもウォームギアなんでシットリ重めではあるけど、見た目もちょこっと置き傷とフットの塗装ハゲがあるぐらいで、年式考えると非常に状態良いので、しばらくたまに蔵から出してクルクルして愛でてから、金に困ったあたりで売りに出そう。インスプールのダムクイックの中では比較的新しいタイプのようで”N”が付くのは左専用機で、それ以前のモデルは、ハンドル軸のギアごと抜いて左右変更ができるらしいので、ちょっとそれは見てみたいけど、まあ機会があれば程度で積極的には狙わないかな。今回ので結構満足して病気も症状治まってきた気がする。

 使えば良いじゃないの?って思われるかもだけど、渓流で使いたいリールとしては、716zとマイクロ2世があって、3番手では出番ないでしょ、っていうか渓流なんかいついくんじゃって状況なので、まあ良いリールで面白いリールなのは分かったけど、ワシが使うリールじゃないなというのが最終的な判断かな(でも、たまたまスペアスプール単品で売りに出てたの見つけてとりあえず確保してたりする。)。

 やっぱりワシはPENNが好きで、たまに浮気は大森さんってところでコレからも行こうと思っちょります。でも今回みたいに別のリールいじると、っていうかスピニングリールの機構が発達していった時代である70年代ころのリールだったっていうのもあるんだろうけど、個性があって面白く楽しかった。今時のリールいじってこういう個性的なというか突飛なリールに出会うことはできるのだろうか?はなはだ疑問だけど、中国や韓国はすでに”今時”の流れに組み込まれてしまってるけど、マレーシアやらインドネシアやら今は下請け仕事でリールとか作ってる新興工業国が、自分たちも釣り道具使い始めて、これまでの発想にとらわれない自由でやんちゃなリールとか作ってくれたらちょっと買ってみたいなとかは期待している。

 「ダムクイック110N」、歴史ある独逸の釣り具メーカーを代表するような、東西冷戦時代に作られていた実に個性的なリールでなかなかの逸品でございました。

6 件のコメント:

  1. こんばんは。

    私、DAM QUICK 220Pなるリールを持ってますが、同様のハンドルが外せなくて困ってました(笑)
    分解図を見てもどうやってあのピンを抜くのか疑問だったのですが…ある種の力技が必要だったのですね。
    ちょっと試してみます。

    DAMスピニングリールのラインローラーは超硬のタングステンカーバイド製で絶対に削れないぜってのを売りにしてたような気がします。
    個人的にはしっかりと回転する機構なら未だに現役の最前線で戦える一台だと思うので非常に惜しいです…


    あと110Nのストッパー機構なのですが、ローター裏にあるんですね。
    パッと思い浮かぶのだとdaiwaさんのファントムex800も同じとこに入ってますね。
    面白いのが、うちのDAM QUICK 220Pだと、大森のマイクロ2世301やカーディナルと全く同じ位置にラチェット式のストッパーが入っています。上記2種と同じ8枚刃で遊び少ないのがgoodです。
    外見を見るにナマジさんの110Nより220Pのほうが後発っぽいのにストッパー機構に変更があったというのが興味深いです。
    自分の知る限り、あの前後の年代のリールでメインシャフトと同軸上でストッパーを掛ける機構は、国内勢を除くと、カーディナルかダムクイックしか見たことないので、同時代だと先進的な機構を搭載したリールだったのでしょうね。
    それとベイルスプリングもカーディナル同様に両側に二つ入っていて非常に気合を入れた作りになってます。
    欧米製のインスプール機でもカーディナルに継ぐ凝ったリールだと思います。

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  2. norishioさん こんばんは

     さすがというかなんというか、DAMにも手を出してましたね。やっぱり気になる存在ですよね。
     ハンドルピンは多分抜きやすい方向があるかもです。片方からやってダメっぽかったので逆から小突いたら動き始めました。

     ラインローラーはタングステンカーバイト製でしたか。確かにそんな感じの材質です。
     110Nはベイルスプリングは1個でした。ただ太くて丈夫な感じです。
     日本じゃほぼ使ってる人見ないですけど、割とヤりおるリールですね。

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  3. こんばんは

    たった今、DAM QUICK 220Pのハンドルピンが抜けました。
    ご指摘の通り両側から交互に試してみたら良い感じにいけました。
    そして元に戻すのに難儀しました💦

    ここは用事がなければ迂闊にバラさないほうが良い箇所ですね(笑)
    なぜねじピンにしなかったのか小一時間問いただしたい謎設計。

    しかしながら、ナマジさんのおかげで数年来の課題が解決したので妙な達成感があります。
    バラせないとあえてバラさないとでは気分的に大きな差があるので…

    貴重な見識、ありがとうございました。

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    1. おはようございます

       お役に立ててなによりです。
       これからもほとんどの人には用のない、ごく限られた人のための情報を発信していく所存です。頑張ります!

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  4. ナマジさん、初めまして。
    度々拝見させていただいております。

    マルチポイント式ってゆうんですね。

    フライヤー壁にラチェットの歯を作ってある物は、
    うろ覚えですが93シリーズが古いと思います。
    93の場合ラインをピックアップする際、行き過ぎてもう一周となる事の対策としてラインローラー上死点付近の歯を一か所欠いている工夫が見られました。

    スライド式トリップレバーはダムを参考にしたのか60年代初期の国産機にもありますね。

    70年手前ですが大森製サウスベンドはおそらくサウスベンドがダムの取り扱いをしていたので機構等大森に注文し、フライヤー直ではありませんがホイールギヤから逆転止めをピニオンに移させ、スライドピン式トリップで作らせたような感じがあり他の大森製リールとはだいぶ違う雰囲気です。

    小型のダムORCA等でも評価高いので気になっております。
    私も購入してしまうかもしれません。

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    1. レクエル堂さん はじめまして

       「マルチポイント方式」は竹中先生がそう書かれているのにならってます。

       オリムピックの93シリーズ、分解したことあるのですが当時それがストッパーだと気がついてませんでした。お粗末。
       ライン拾うとき行きすぎたときの対策があるとか、実際に使う釣り人の視点で作られてたんですね。と考えると持論の「諸悪の根源は瞬間的逆転防止機構」という思いが強まります。

       大森製サウスベンドは存在を知りませんでした。DAMッポイ大森っていうのもなかなか興味深いですね。いかんいかんそっちは沼の深い方のような気が・・・

       小型のDAMは110というのをもう一台入手しており、つい先日大苦戦しつつ分解清掃を終えました。
       その際、直接その機種に関してではないのですがスピニングリールの機構についての疑問点が湧いてきて、ネット検索等ではらちがあかないので、ブログでご報告しつつ、識者のご意見を聞こうと思ってたのですが、レクエル堂さんのような方の知識をお借りできれば幸いと思っております。
       今週末か来週末かぐらいの当ブログになる予定ですのでよろしくお願いします。110自体も面白いリールでしたのでご期待ください。

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