2023年5月13日土曜日

封印されし伝説の名機が今蘇る、ってほどではないジャンクリールの楽しみかた

 

 イカレた仲間達を紹介するぜ、トップバッターは左上シェイクスピア「2103」ちょっとボロいがまだまだ行けそうだぜ、お次は右上ヘドン「コンバーチブル246」稲村製の名門ヘドンだ、下段真ん中ゼブコ「15XRL」、下段右ゼブコ「XRL35」はリョービ兄弟、最後の下段左がモノホンのアメリール、ラングレー「スピンフロー822GC」だぜ、みんなよろしくぅ!

 ってな感じなんだけど、かなりのゴミスピ具合で、固着していなかったらシェイクスピアとゼブコの大きい方は分解整備のみでカタが付きそうなんだけど、その他がちょっとばかしイカレ過ぎで、ヘドンは足が折れてるのは短くして尖らせるぐらいしか手がなさそうで、ゼブコの小さい方に至ってはスプールが割れて、割れた上部が欠損してて存在しない。直すならスプールの再建という面倒くせえ仕事が待っていて二の足を踏む。スピンフローはとにかく錆がキツい。11月に軽く汚れぐらい落としCRCぶっかけて他とまとめて封印(冒頭写真は封印前)してから半年でどこまで浸透してくれたか分からんけど分解自体からして苦労させられそう。逆転防止が面白い機構になっているらしいので是非稼動品に持ち込みたいけどどうなることやら。

 ちょっと一筋縄ではいきそうにないけど、5台まとめて一山2200円で落札+送料750円で我が家にやってきたゴミスピ達なので、ダメで元々、力と知力と創造力の限りを尽くして、稼動状態に持っていくことを目標に四苦八苦してみたい。

 まずは肩慣らしに簡単そうなところでシェイクスピア「2103」なんだけど、コレぱっと見は大森製作所っぽいし足裏の刻印は「JAPAN」なんだけど、微妙に大森とは違う臭いがする”なんちゃって大森”のように思う。古いシェイクスピアの海外カタログとか眺めてもこの機種なかなか見つからなくて「ゴールドモデル2170」とかが近いモデルのように思うけど微妙に違う。ストッパーレバーとハンドルノブがミッチェルっぽいところとか明らかに違ってる。「2170」は廉価版機のようで、1975年ころのシェイクスピア下請けの日本メーカーは「2200(=マイクロセブンDX)」の大森製作所が高級スピニング、日吉産業が低価格スピニング、五十鈴がスピンキャストだったそうで(「リール興亡史」参照)、そうだとそするとこの「2103」やカタログで見る「2170」等が日吉製だったのかもしれない。もうちょっと情報無いかとネットで調べてみるも情報ほとんど出てこなくて、イーベイにも出品1台だけで、あんまり人気のあった機種でもなさそう。イーベイの個体の写真を見ると手元の「2103」とはハンドルノブが違っていて、どうも手元の個体のハンドルノブは前の持ち主がミッチェルのに交換して使っていたようだ。元々のハンドルノブはT型っぽい。「2170」もついでに調べてみるとイーベイに2台出てて、ベール周りのパーツやドラグノブは同じように見えるので同じ工場で作られてたようには見えるけど、いまいち核心に迫るような情報は出てこない。

 現物バラせば分かることも出てくるだろうから、早速バラしていこう。

 ラインローラーは固定式でまあ低価格機ならしゃあないかという感じで、最近丸ミッチェルがラインローラー固定式もクソもベールアーム自体が固定式でただの出っ張りでしかないマニュアルピックアップ化した304でもラインそんなに縒れんがな、ってのを体感しているので実際使ってみんと現時点ではなんとも評価できん。材質はメッキじゃなさげでステンの無垢っぽいけど確信はない。ドラグがちょっとどうなのよ?なドラグが分かってない感じの作りで、一番上が俵型穴の主軸と同期して回らないワッシャーなのは良いとして、次が革、そしてバネの役割だろう曲げワッシャー、次が革という下3枚が一緒に回るんだかどこが滑るんだか分からん構成。一番右の底の革が微妙に耳付きっぽくなってるけどこれは長年押しつけられて革がはみ出してるだけで耳付きではない。当然ドラグノブにバネは入ってない。バネである曲げワッシャーにバネの仕事だけさせるには、耳付きワッシャーでスプール底面と挟むか、逆に俵穴ワッシャーもう1枚で一番上との間に入れるかしないといかん。大森製作所はそのへん良く分かってて「スーパー2000」でバネはスプール底面と耳付きワッシャーで挟んでバネとしての仕事しかさせてなかった。日吉ってもっとちゃんとしてると思ってたけど昔のダイワみたいでちょっとガッカリ。まあ後で調整するかと分解を続ける(←ここ伏線です)。

 本体蓋をパカッと開けると、鎮座しておりますは円筒と平円盤の組み合わせのフェースギア。ローター軸が真鍮、ハンドル軸が鉄系を鋳込んだ亜鉛。そして本体蓋は安っぽいプラ。フェースギアって、始祖イリングワースが90度回転軸を変えるのに使った、どちらもかさ歯車に歯を切ったベベルギア、から後に出てきて経済的で安く作れるってことで安リールに採用されたけど、スピニングリールのギアとして機能的にははむしろ退化した方式だと思ってる。そういう”経済的”なギアを心臓部に積んだこのリールは、そういった安っすい機種でドラグがどうこう言うべきじゃない代物なのかもって気がしてきた。廉価版のリールに難しいこと言うたるなや!と。ワシ大人げなかったと反省。そういう目で温かく見守ってあげなければいけないと思う。

 反省しつつ分解を進めていく。

 ローターをぬぽっと抜いて、出てきたのは本体のアルミを出っ張らせただけという単純なベール返りの蹴飛ばしと、分厚いワッシャーっぽい真鍮が填まってるローター軸のギアの頭の方。

 本体側でギアを止めているコの字の金具を外してローター軸のギアをこれまたぬぽっと抜くと。

 お待たせしました。全国のBBB団(ボールベアリングをボロクソにこき下ろす者の団)の皆様。ボールベアリングレス機です。真鍮の分厚いワッシャーかと思ってたのは填まってるんじゃなくてローター軸のギアと一体成形のブロンズベアリングといって良いのかなんなのかな襟巻き的な部分で、一応その下にステンの薄いワッシャーが填まっててコレがベアリング?なのか単なる隙間調整のシムなのか、なんにせよボールベアリングなんてモノは使っておりません。回した感触軽い上にギア比4:1と低速機ってほどでもないのでちょっと意外。オフセットのないフェースギアの経済性の他の美点は巻き上げ効率の良さなので小型機の4:1ぐらいなら軽いぜって話なのか?ちなみにカタログで見ると「2170」もギア比4:1でやっぱり同系列と考えて良さげ。残念なのは右巻機が設定されてなさそうなことで、我がBBB団の会員は50%が左利きという統計があるので、せっかくのボールベアリングレス機だが半数の会員には使えないという問題がある。このへん、国内流通してた安い価格であっただろう”針金ベールアーム”機が右巻機ばっかりで左巻機種探すの苦労したのと”行って来い”の関係であるともいえるか。多くの人には全くどうでも良いことかもだが、沼の底の特殊な環境に棲息する住人には諸事情あるのよって話。

 でもってハンドル軸のギアをこれまたぬぽっと抜くと、ストッパーがギア裏の歯に掛ける方式でギアと亜鉛鋳造一体成形のタイプ。ストッパーの歯車が亜鉛では削れないのか?というのをカプリⅡで実際に削れた経験から心配していたんだが、どうも大丈夫な気がしてきた。というのはギア裏のギアと一体成形の亜鉛鋳造の歯を使う方式は、なんか見覚えあるなと思ったけどマイクロセブンDX系列でも使われてて、コレが削れるって話は見た記憶がないし、我が家にある4台でも実際削れていなかったので大丈夫なようだ。なんでカプリⅡでは削れて、マイクロセブンDXだのデラックススーパー777だのでは削れないのか?いじくってみた感触から、おそらくバネがそれほど強くなく、やわっと爪が歯に当たるように設定されているので大丈夫なんだろうと思う。多分。そのへんも最初っから上手くはいかなくてダムの真似してカプリⅡを作ったときの大森は、なぜダムクイックでステンと真鍮という丈夫な組み合わせで逆転防止機構が構成されているのか理解してなかったけど、学んで次には亜鉛でも削れない設計に、ってしてきたんだろう。その流れをこの2103もくんで大森式を参考にして設計されているように思う。試行錯誤の歴史が見てとれて味わい深い。

 ってな感じで分解終了、部品数少なくて単純で整備性良好。かなり表面の腐蝕とかもあって、パーツクリーナーで汚れ落とした後、ベールアームのラインローラーへの導入部とかの錆は歯磨き粉をティッシュに付けて擦ってざらつかない程度に磨いておいた。当初はあんまりパッとしないリールだし、整備したら売りに出そうかと思ってた。高値で売れるとは思えないけど稼動品で整備済みなら2千円ぐらいにはなって、5台分の元をあらかた回収できるだろうとトラタヌな甘いことを考えてたけど、なかなか面白く好ましいリールなので使ってみたくなった。で、イマイチだろうと感じてたドラグについていっちょ調整してやるかと、ドラグは常々書いているように簡単な機構で、素人の工作程度でどうとでもなると思ってるのでいじくってみた。

 方針は曲げワッシャーにはバネとしての仕事だけしてもらってドラグパッドの仕事はドラグパッドに任せる。ということで何か加工できる固めの板ってことでペットボトルの蓋利用で俵型の穴の開いたワッシャーをでっち上げて一番上の元々の俵穴ワッシャーとで曲げワッシャーを挟んで、その下に純正のドラグパッドである既にカピカピになってる革のドラグパッドの代わりに硬質フェルトで作ってやる。っていう感じで工作してみました。ハイこんな感じ。

 でもって填めてみたら、ペットボトルの蓋も2ミリの硬質フェルトも厚さがあって、スプールのドラグ穴に収まりきらず落下防止のリングがはまらんし、ドラグノブが浮いて間にラインが落ちそうでカプリⅡの悪夢がトラウマ的に脳裏によぎる。こりゃいかんということで、じゃあ薄っぺらい百均フェルトでドラグパッド作りなおうそうかと思ったけど、ポンチで穴開けてチョキチョキ周りハサミで切ってって面倒くせぇなと、適当なテフロンワッシャーないかなと探したら外径12mmのちょうど良い薄っぺらいのがあったのでドラグパッドはそれでいく。今度はキッチリ填まってくれてテフロンパッド1階建て方式のドラグになりましたとさの一本釣り。

 ドラググリス塗って填めてドラグノブ適宜締めたり緩めたりしつつ手でグリグルと回してやると、やや調整幅は狭めかなだけどそれなりにドラグっぽく仕上がってて及第点。まあドラグなんて簡単だぜ、って思ってワシ的には不合格の烙印を押した純正状態のドラグをどんなもんかと軽い気持ちで試してみる。

 あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!

 干からびかけた革パッド2枚で曲げワッシャーを挟んだ上に俵型穴ワッシャーを乗せただけのドラグが、滑り出しも良好でシャクリもせず、調整幅も充分ある… 

 な… 何を言ってるのか わからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった… 頭がどうにかなりそうだった…

 ドラグなんて単純な機構で、物理法則を無視したような謎の力を発揮するようなモノはあり得ないと常々書いてきたけど、なんでこれが実用充分なほど機能するのかワケが分からないよ。一番下の革パッドが耳付きみたいに変形してたぐらいだから一番下の革パッドは固定されて回ってないはず。それに乗っかってる曲げワッシャーか上の革パッドの表裏都合4面のどれか、あるいは複数の面が滑って摩擦を発生させてドラグとして機能してるハズだけど、刺さるほどではなく接触面積が小さく、よって滑りやすそうな曲げワッシャーの上面と革パッドの間の面で滑りそうに思うけど、そんな面で安定したドラグの滑りが確保できるのか?締めたら接触面積が増えるような気がして不安定に思うけどどうなんだろ?あるいは一番上の俵型穴ワッシャーと上の革パッドの上面で滑ってて、曲げワッシャーと2枚の革パッド合わせて3枚が実質バネ的な弾力性をも兼ね備えた1枚のドラグパッドとして機能しているとかか?理屈は分からんけど、とにかくドラグノブにはバネなんか入ってなくて単純な雌ネジでしかなく、ドラグに入ってる円盤が革パッド2枚に曲げワッシャーと俵型穴ワッシャーの4枚だけで実用的なドラグになっているという、コレまで見てきた中で一番ワケが分からん謎ドラグ。単に経費的に安くあげようとするなら、ドラグパッド1枚にしてその上に俵型穴ワッシャー、その上に曲げワッシャーという構成にできて、それなら1階建て方式のドラグのPENNスピンフィッシャー714Zとかと基本構造一緒で理解できる。ただわざわざドラグパッド増やしてまでこの構成にしたのは意図的としか思えず、何というかリールのことが良く分かってる人間が試行錯誤しつつ設計したんだろうなと思えてくる。「ドラグが分かってない感じの作り」とか書いてゴメンナサイ。おもいっきりブーメラン帰ってきてグサッと刺さった感じ。ワシまだまだ未熟。

 ということで、こいつはやはり実際に使ってみて魚釣ってその実力を見極めたい。おそらくものすごい高性能ってワケじゃないだろうし耐久性とか自ずと限界もあるだろうけど、実用性充分な費用対効果抜群の”良い安リール”なんじゃないかという予感がある。こういう全然名機でもなんでもない、人気もなければ語られることもないリールでも、いじってみると思わぬ発見があったりしてリールいじくるのはやめられず、沼の底にまた深くブクブクと沈んでいくのであった。軽く肩慣らしのつもりの1台目から既に面白い。

 ワシ、もっと深く深く沈んでいきたい。


<オマケ情報>ドラグネタ書いたのでついでにご紹介。デカいの掛けたらドラグノブのアタリ面が熱で溶けた、といううらやまけしからん書き込みをいただいてて、その時に話題になった4桁第3世代スピンフィッシャーのドラグノブが、後期型ではアタリ面を樹脂製から真鍮製に変えてアップデートしてあるっていう、そのアプデ前と後の比較写真です。さらに第4世代ssmになると防水ゴムパッキンがつきます。そして第3世代にも適合します。4桁PENNをワシが史上最強のスピニングリールだと思ってるのは、こういう実際の釣りの現場からの不具合報告等を受けて「次のモデルで対応します」って新しい製品買わそうとするんじゃなくて、細かい改良を加えたマイナーチェンジで対応していて、かつ同機種の古いバージョンも部品交換で対応できるという、長く使う顧客が嬉しい対応を繰り返した末に実用性抜群のリールに仕上がっていってるからなんです。要するに”現場たたきあげ”のスピニングだってこと。最後SSJでラインローラーにボールベアリング入れたのは蛇足だと思うけど、7500ssなら原型になった70年代末登場の「747」から、80年代登場のギアがハイポイドギアなだけで多くの部分が共通の3桁「750ss」を経て1992年登場2005年廃盤7500ssまでは、ほぼマイナーチェンジの域でしかなく都合30年近く売り続け、かつその後の第四世代「750SSM」にもスプールは共通で引き継ぎバッチリという、問題無いところは頑固なまでに変えない気質をワシャ愛さずにいられないのじゃ。ご理解いただけただろうか?5年やそこらで総取っ替えせにゃならんようなショボい設計はしてなかったってことだと思うんだけど、どうでっしゃろ?

2 件のコメント:

  1. 2103のレビューありがとうございます。
    廉価シェイクスピアはやはり廉価なりの部分が多々ありますね。
    逆に一周回って直刃のフェースギアも味があるような気がしてきました。
    記事中にあったshakspeare 2170と2171が我が家にありますねー(オリーブ色のです)。
    こいつらは廉価版でありながら間違いなく大森さんちの子でした。
    ベアリング数0、ギア比が低い、ボディ右サイドの蓋が樹脂製、ハンドルがミッチェル風ではない、ですがほぼ同じパーツ構成のジェネリックマイクロセブンDXといった感じのリールです。

    PENNのドラグノブ、真鍮の厚さが頼もしいですね💦
    現在の国産メーカーだったら数グラムの重量増がうんたらかんたら言って絶対にやらない仕様だと思いました(笑)

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    1.  おはようございます
       楽しんでいただけたのなら何より。PENNの重さにゃ相応の理由があるって話ッスよ。

       スパイラルじゃない本家フェースギア機ってなにげに使ったことなかったので、ちょっと使うの楽しみです。

       右巻の2171もあるんですね。ただゴールドはオリーブのとは仕様が別のようでオリーブの方とはギア比違ってたりしてイマイチそのへん良く分からんかったです。オリーブもちょっと欲しい、などとまたイラん症状が出かかってます。

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