2019年4月6日土曜日

PCチェアディテクティブ 「フルーガーメダリスト1626Z」編


 今回のスピニングネタは名門フルーガーのメダリスト。
 って書くと、多くの読者は「メダリストっていったらフライリールだろ?ナマジもいよいよウロ入って自分の愛用のフライリールのことも分からんようになったか?」と思われるかも知れない。
 確かにワシの3~4番用で使ってるフライリールはご存じのフルーガーのメダリストである。
 でも、冒頭写真のスピニングもメダリストなんである。正確には「メダリスト1626Z」。
 銘板でご確認いただきたい。
 商品の名前って、商標の関係で何でも好きなのが使えるってわけじゃなくて、良い名前は釣り具に限らず他の会社が押さえてたりするので、伝統の名前を継ぐ、っていう積極的な理由から同じ名前を使い続ける場合の他にも”おんなじ名前の使い回し”的なのって結構あって、最近知ったのでは、ダイワのスマックっていう船用の小型ベイトリールがあって、チョイチョイと道糸の細かな出し入れで棚がとれる機能が付いててその機構もダイワじゃ”スマックレバー”って言っちゃってるんだけど、実は古い輸出用のインスプールスピニングにもスマックってあって、昔の名前で出ていますな感じなんである。
 他にもリョービの”メタロイヤル”が実は上州屋に移ってからはチヌ用落とし込みリールに使われてたとか、ちょくちょくある話なんで、まあ名前だけなら”そんなリールもあったんだ~”っていうだけのネタなんだけど、コレが意外に突っ込んでくと面白いリールで、しばらくパソコンの前で情報の海に潜って暇がつぶせたのである。

 まーた暇つぶし程度のためにわけ分からんゴミスピ買いくさってからに、とお叱りを受けるかも知れないけど、ちゃうんですこれ。もう20年近く前に買ったリールで自分でもほとんど忘れてたんだけど、棚卸しの時に出てきてそういやこんなんもあったな、となったブツでとっくに公訴時効成立してる案件なので赦してつかあさい。
 見つけたのは例によって釣りに行った際に立ち寄った釣具屋のワゴンでって書くと「オマエは釣りに行っても魚釣らんと釣り具エグってばっかりやな」と呆れられるかもだけど、釣り場で潮待ちとか日没待ちとか、渋滞する時間をさけてとかポッカリ空く時間がどうしても生じるので、仕方なくじゃあ釣具屋でも覗いて暇を潰すかというごく自然ななりゆきなんです。ホントだよ。
 その時も初めて入る釣具屋に胸ときめかしたんだけど、なぜか他では見ないような米国関係のバッタ臭い品が多くて、アグリースティックのフライロッドとか他で売ってるの見たことないような竿とかもあった。今思えばアグリースティックのフライロッド買っとけばよかった。当時は「グラスソリッドティップのトップヘビーなブランクスでフライロッドってなんぼなんでも振りにくくて塩梅悪いだろ?」とインチキフライマンでも思ったので買わなかったけど、そんなのフライロッドとしてはダメでも、アグリースティックのブランクスが格安で手に入ると考えたら、いくらでもルアーロッドとして再生可能で惜しいことをしたモンである。買い占めときゃ良かった。
 リールのほうは当時のワゴンスピニングはロングスプールで本体樹脂製というのがお約束だったけど、そういう新品段階からゴミスピなヤツらの中でコイツだけがロングスプールじゃなくて、手に取ったら、名前がフライリールでお世話になってるメダリストっていうのも面白いと思ったけど、これがちょっと触った感じワゴン品質じゃなくて良さげだった。スプールも本体も金属でドラグもまともなのが付いている。箱も何も付いてない裸単機でいかにもなバッタモンっぽかったけど、とりあえず値段がワゴン売り価格で、いくらか忘れたけどたいしたことなかったので買ってしまった。
 手元に来て一応ラインも巻いて、まともなリールっぽいのでそのうち使ってみようと思ったけど、とりあえず蔵にぶち込んで忘れ去られていたという1台。

 でもって、今回せっかくなのでブログネタにしてしまおうということで、分解したりしていじってみた。
 いじってみると、どうにもこれ日本製の臭いがしてくる。米国製のを輸入して問屋の棚にあったのが問屋潰れて流れてきたとかかなと思ってたんだけど、そうだとしたら新品なのに箱にも入ってなかったのが不自然。製造元が潰れたりしてハコヅメ前のが流れたと考える方が自然な気がするってのがそう感じた理由の一つと、作りがどうにも大森製作所とかの日本の小規模リールメーカーっぽい気がするのがもう一つの理由である。フルーガーは大森製の640とかもあって、昔はペリカンとか自社工場で作ってたんだろうけど、シェイクスピア同様、アジア等他国のリール屋に自社ブランド名で作らせるOEM方式に早々に移行したブランドなので充分あり得る話(っていうか今調べたら割と早い段階でシェイクスピアに吸収されてる)。


 分解していくと、まずはハンドルがねじ込み式なのにオッとなる。安っぽい共回り式じゃないゼ。
 左右両用にする方式はPENNとかと同様で手前と奥で太さとネジ山の向きを変える方式で大森製作所の左右のネジ山を同じ軸上に切る方式じゃないので、大森じゃなさそう。
 と思って、蓋をパカッと開けるとハンドル軸のギアの歯のない側、クランクがのってる面の面取りが小さく角が立った感じと、逆転防止がローター軸のギアの直上にかける方式なのは大森っぽい。
 でも、ローター外すとベアリングを固定する輪っかを押さえるネジ山が片方円筒になっていて、これがベール反転の内蹴りの突起になっているのが初めて見る方式。かつ大森は今までみたのは全部ココのネジは3カ所で止めているけどコイツは2カ所で止めている。
 そんなに凝ったリールじゃないし、特別な機能もないけど、ねじ込み式のハンドルっていうことは、当然ハンドル軸のギアには固い素材の軸を鋳込んであってどうも見た感じ真鍮っぽいとか、安物では決してないのは分かる。
 じゃあどこが作ったリールなんだっていう謎を解くのが、今回のパソコン椅子探偵の推理なんである。

 まず、このリールが作られた年代は、リアドラグブームとロングスプール化の前っぽいので多分80年代前半か70年代終わりぐらいで、そのころスピニングリールを作ってた国内メーカーで自社ブランド以外の生産もしていたとなると、大手4社はフルーガー(エビスが代理店だっけ?)とは付き合いなかったはずなので外して、70年代早々にはダイワに吸収された稲村製作所も外してと考えると、みんな大好きダイヤモンドリールの「大森製作所」、隠れた実力派でABUとかルーとかゼブコのリールも作ってた「日吉産業」、チャージャーが代表作で今でも小規模生産なリール作ってる「五十鈴工業」、カーディナル700シリーズ作ってた長野の「松尾工業」、カーディナルC3、C4作ってた愛知の「瑞穂機械製作所」あたりに絞られるンだと思う。
 この中で私が実際に製品に触って馴染みがあるのは大森だけで、どうもさっき書いたような理由で大森は外してよさそう。他はどんなリール作ってたのか正直知らなかったので、ネットでいろんなサイトみて勉強した。
 日吉産業はTAKE先生も絶賛のルーのスピードスピンとか作ってて、ねじ込み方式のハンドルに軸は真鍮を鋳込んであるというところが合致。ってふうに調べていこうと思ったけど、分解画像とかのせてるサイトが他の会社のリールじゃ見つからなかった。
 でも、五十鈴「チャージャーⅢ-E」っていうインスプールのリールが2010年代になって作られてるのとか驚きで面白かった。金型作らなくて済む削り出しで少数限定生産の高級品。一般の釣具屋に並ぶリールと同じ扱いでいいのか分からんけど、日本で最後に作られたインスプールスピニングの座を大森コメットから奪ったっぽいな。
 あと、釣り具以外も作ってる松尾や瑞穂は普通に今でも生き残ってて、それでも瑞穂とか会社案内にリール部門とか残ってて取引先「ピュアフィッシングジャパン」とかなってるので、今でもABUの高級リールとか瑞穂で作ってたりするんだろうか?
 ネットで調べるのは限界があるなと”現物買っちまうか”とまたスピニング熱悪化して、カーディナルは高そうなので難しいにしても、スピードスピンやら、チャージャー(昔のね)とかなら買えるかなと、ちょっと中古の値段調べたら高い高い。カーディナルC3とかの方がよっぽど安い。
 ということで現物方面も手詰まり。もし、現物お持ちのかたがおられて、ギアの角こんなんですよとか、ベアリング押さえるのはこういう方式ですとかあったら情報いただけると嬉しいです。

 どっか他に手がかりないかなと舐めるように眺め回していたら、ラインローラーをべールアームに固定するネジの頭がちょっと変わってるのに気がついた。
 これネジの頭じゃなくて中心のラインローラーの軸に雄ねじ切って、それに被せる雌ネジというかナットの頭がマイナスネジの頭っぽく見えてるんである。
 こういう細かいところに癖が出るっていうのは推理の基本かと。
 ただ、こういう雌ネジを使ってるリールが思いっきりあった気がするんだけど、脳内検索に引っかかってこなくて七転八倒して、ネットで調べようとしたらいちいち個別のリールのページを立ち上げるのが面倒臭くなって、結局「ベールアームは世界を回る」をペラペラぺラッとめくって見つけた。
 見つけてしまえばなぜ忘れてたのか理解に苦しむぐらいの有名どころで、ABUのカーディナルのインスプール。
 分かってしまえばカーディナルを狙い撃ちで、主にヤフオクの商品紹介写真でネジが写ってるので確認していくと、カーディナルでも松尾工業が作ってた700系と瑞穂機械が作ってたC3、C4は普通のネジが使われている。
 インスプールの他にはアウトスプールの55もこのタイプのネジが使われている。55はインスプールみたいなベール反転機構搭載のABUの最初の方のアウトスプール機である。
 つまりは、ある程度古いタイプのカーディナルにしかこのタイプのネジは使われていないようだ。ということは、多分C3以降もABUとお付き合いあったであろう瑞穂機械でもなく、まして途中でシマノに釣り具部門吸収されたっぽい松尾でもなく、多分「BUILT BY ABU SWEDEN(ABUが組み立てました)」
となってる古いカーディナルに部品供給してただろう(と勝手に推定した)日吉産業が作ってたとみるのが、今回ナマジの推理である。まあ、他のメーカーが部品供給してた可能性もあるガバガバ推理だけどね。いかがかな諸君。

 とブログネタ一つできたゼ一安心、と思ってたんだけど、別の線から意外な事実が出てきて物語は風雲急を告げるのであった。
 実はこのリール韓国製のようだ。
 このリールにはフットにメイドインコリアとか刻印されておらず、生産国不明な状態なんだけど、実はシェイクスピアの「アルファ040」という同型機があり、そのこと自体はまあフルーガーもそのころにはシェイクスピア傘下だったようだし、大森製インスプールのような前例もあるしで驚くほどのことでもなく。シェイクスピアのΣ(シグマ)シリーズに大森製で樹脂製本体のってないかな?あればキャリアの替えスプール手に入るかも(キャリアーそのものが手に入るとはこの時点では夢にも考えてなかった)、と海外ネットオークション眺めててアルファ見つけて、おんなじリール色と名前変えて出してやがんの。と軽く失笑を漏らした程度なんだけど、紹介写真よく見るとアルファ040についてはフットに「MADE IN KOREA」の刻印が入ってる。アルファがベータをカッバらったらイプシロンした級の笑撃である。
 ナニが「いじってみると、どうにもこれ日本製の臭いがしてくる。」じゃボケ。コリァいかんわい。
 日吉産業も最後の方生産拠点を韓国に移していたそうなので、韓国日吉が作ったんで日本臭いという線はじつは濃いとは思うんだけど、ダイワやら大森やら日吉の下請けとかで力を付けてABUの部品も作ったことある韓国のメーカーが作ってたっていう可能性もでてきて、そうなると韓国のリールメーカーなんてシルスターぐらいしか知らない二ダってくらいで、日本じゃ情報手に入れようがなく、この事件は迷宮入りとなったのである。
 どなたか真相知ってたらご教授いただけると、私がとってもスッキリしまスミダ。

 たしかに、アメリカから工場流れでバッタモンが流れてくるのはなさそうだけど、韓国中国からなら船便でひょいと持ってくるだけですむ。東シナ海も玄界灘も太平洋ほどには大きくない。
 バッタモンってのも値段安けりゃ買ってみるのもオツというもので”当り”引いたら儲けモンだし”ハズレ”掴まされても失うモノはたかが知れてる。
 我が最初のベイトロッドはダイコー製のルースピードスティックのシール貼る前の横流しモノと堂々と店主が説明していたホントかどうかも定かじゃないバッタモノだった。黒くて太い良いダイコー竿だった。
 九州では実際に中国から流れてきたバッタモンに遭遇していて、中国の製造元が依頼元に収めなかったB級品とかのブランクスで勝手に組んだとおぼしき、全くブランクスとガイドやらシートやらが合ってない、リングシートのシーバスロッドとかギンバルに対応してないトローリングロッドとかが流れてきているのを見て腹抱えて笑ったもんだ。ちなみに安全ピン曲げたような品質のガイドの付いているフライロッドを買った。魚は釣れた。
 蛇足だけど、その店は釣り具に限らない総合中古屋でアダルトコーナーがあったので「九州男児がみてるような凄いエロビデオとかあるんやろか?」とワクワクしながら入ってみたら、女性の使用済みのおパンツだのセーラー服だのが売っててビックリした。当時の言葉でいう”ブルセラショップ”って風俗営業の許可じゃなくて古物商の許可が必要なのでついでにと併設していたようだ。ええんか?九州男児がそんなもん買ってて。ワシャ買わんだけどな。ホントだよ。

 ということで、韓国で作られて日本に流れてきて、今我が家にあるこのリール、せっかくだし使えるように整備しておこうといじくってみたら、さすがバッタモン、色々とやらかしてやがるゼ。
 まずはドラグの構造がおかしい、
 スピニングリールのドラグってドラグパッドの枚数を基準に考えて大体3階建てで、そうじゃなければ1階建てである。リアドラグとかでワッシャーが代わりに入ってて2階建てとかの例外はあるけど、基本奇数になる。
 しかし、このリールドラグが2階建てである。一番下のドラグパッドがスプール底面とスプールと一緒に回る耳付きワッシャーとで挟まれていて、ドラグ効いてスプール回ってる状況下では下のドラグパッド1枚スプールと一緒に回ってるだけで何の仕事もしていない。
 それでも2枚目のドラグパッドが耳付きワッシャーと軸と固定で回らないワッシャーの間でお仕事しているのでちゃんとドラグは効いていた。ドラグパッドはフェルトの片面を滑りの良い樹脂で固めた凝ったもので(下の列の白黒のがドラグパッドの裏表)、性能良さげなのにナニやってんだか?というかんじ。ドラグパッドと軸と固定されるワッシャーがあと1セットあれば3階建ての普通のドラグになるんだけど、ドラグを填める穴の深さに余裕がない。仕方ないので、一番下からスプールの底、ドラグパッド、軸と固定されるワッシャー、ドラグパッド、耳付きワッシャーという順番にした。この場合ドラグノブが締める面がスプールと共に回る耳付きワッシャーなので、ひょっとしてドラグが効くときにドラグノブ一緒に回ってしまいドラグが締まっていくんじゃないかという懸念が大当たりで、昔の磯の底モノ師のつかう改造セネターじゃないんだから使ってるうちにドラグ締まってってどうする?
 対策考えて、一番上にポリカーボネイトの薄板(DVD割って剥いだ)で軸に固定して回らない”ドラグノブ置き”をつくってみたら上手くいって、ドラグはもともと1枚でも効いてたのが、輪をかけてスムーズな効きになった。”ドラグノブ置き”と耳付きワッシャーは滑らかな表面なのでドラググリス塗っときゃドラグの作動を邪魔しないようだ。

 もいっちょ困ったのが、ローター軸のギアの頭のネジとローターを固定するナットのサイズが合ってないってこと。ほんと余ってた部品でとりあえず組めるだけ組んでみた感じである。
 一応締まってるんだけど、きつめに締めようとするとスルッと空振りしてしまう。ナットぐらい探せば合うのあるだろうか?
 でも、お次が致命的なので、ナット探す気にもならんというのが正直なところ。
 写真じゃ見にくいかも知れないけど、ベールアームの樹脂、ネジの填まってる上あたりでパッキリと割れてます。
 ドラグテストで負荷かけたぐらいしか力かかってないはずで、その程度で割れるってのは不良品なんだろうなとおもう。
 まあ、今回はハズレ引いてしまったってことだな。
 売るわけにもいかんので、もし同じリール持ってるとかシェイクスピアの「アルファ040」の方持ってるって人で、部品取りやスペアスプールのために確保したいって人はnamajipenn-ss@yahoo.co.jpまでご相談下さい。
 ていうか、ワシがまともなアルファ040なりメダリスト1626Z入手してもいいのか?という考え方はスピ熱病状悪化なので気をつけて避けておきたい。

 別に名機でもなんでもない、知られてないようなリールでも、突っ込んで調べてみると意外に面白かったりして、スピニング熱はなかなか思うように下がらないのであった。
 ネットで調べることができる情報って、やっぱり限られてるし偏ってるしで、こういうの、その筋のマニアの人に聞けば一発で分かったりするのかもしれない。特にカーディナルなんて深くまで潜ってるマニアの人居るだろうから、時代ごとにどのパーツがどこのメーカーで作ってたとか知ってそうで、そういう人から見たら今回書いたことあたりはオママゴトなんだろうなと思いつつ、次回スピニングネタは得意のPENNで行く予定。
 PENN好きの皆さんこうご期待を。PENNならワシも深く潜れまっセ。

0 件のコメント:

コメントを投稿