日課のネットオークション巡回中、なんか細長いインスプールのジャンクなスピニングが目に付いた。見た目ボロく銘板も見当たらず、”中古なんでも屋”が買い取ったガラクタの中に混じってたようで、千円の開始価格で投げ売られてたけど、多分ワシが入札してやらんと誰も買わんな、と思ってしまうともう負けでスルリとマウスが滑ってダブルクリック。今回も止められなかったんじゃ~!
予想どおり落札で送料入れて1680円でやってきましたこのゴミスピ。多分稲村製作所の「ロディーマチック825RL」の銘板落ちか同型機、ひょっとするとサイズ違い?あたりの稲村製作所製のスピニングでございます。1970年代初頭にダイワに吸収された稲村製作所については”ロディー”ブランドで海外、国内で売ってたほかヘドンブランドのOEM(相手先ブランド名生産)なんかもあったりして、昔のダイワのインスプールリール
「7250HRLA」には稲村製作所の影響が見てとれるとか、古いリールをいじってると気になる存在ではあって、何度か入札したことはあるけど、”稲村沼”にも沈んでる住民はいるのか、稲村沼民なかなか強敵で落札には至らなかった。ということで気にはかけてたので今回のブツにもその妙な長い形になんか見覚えがあった。「ロディーマチック」には「820A」「2400」といった細長いスピニングがあってその系譜だなと”あたり”はつく、今回のは左右両用なのと逆転スイッチの形状等から「825RL」だろうとパソコン椅子探偵としては推理した。細かい所だけどベールアームのリリースレバーがかかる”切り欠き”の形状の癖が独特で稲村っぽいところだと思ったりもする。
届いたブツを確認するとフットに「QUALITY PRODUCT OF JAPAN BY RODDY」とあり、推理は外れてなかったようだ。パチパチパチ。銘板はハンドル根元に土星の輪っか状にあるのが外れたのか、もしくは”ロディー”ブランドロゴなしで売ってた版か?
例によってネジやらナットやら可動部やらにCRC666をぶっかけてビニール袋に詰め込んで、しばしおとなしく順番待ちをしていただいたあと、廊下の特設作業ブースにて居室の愛猫の「なにしてんねん、そんなもんで遊んどらんと、ワレを撫でたりせぬか、この下僕めが!」という視線を受けつつ分解清掃作業に入る。
とりあえず、古くなったグリスがベットリでろくに稼動しないんだけど、グリスで覆われてた部品達は、年式相応に摩耗してたりはしたけど腐蝕からは守られており。グリスシーリングの霊験あらたかさを改めて感じたところである。
そして、すでに蓋開けたこの時点で稲村独特という感じが醸し出されているのが、ハンドル軸のギアの上にストッパーの歯が切ってあるところで、これは、ダイワの「7250HRLA」やダイワが作ったと見られる
PENN「101」にも引き継がれていった稲村伝来の方式かと。一番下の写真でハンドル軸のギアの端に見えてるギザギザはギアの歯ではありません。歯は裏に切られています。上に見えてるのはストッパーがかかる歯で、通常ハンドル軸にストッパーの歯を設ける場合は、ギアの下にもう一枚ストッパー用の径の小さい”ラチェット”的な歯車を設けるのが一般的だけど、ギア背面?全面をつかうとその分沢山歯が切れるのでハンドルの遊びが小さくできるという設計思想なのかなと思います。
でもってギアからみていくと、ギア方式はローター軸のギアが直線的でハンドル軸のを斜めに切ってある、ズラした(オフセット?)フェースギア。同様のギア方式はシマノ製の
「D.A.M SLS2」でも採用されていた。ただあんまり耐久性とか優れてないようで、使用によって削れ始めてるのが見てとれる。
ローター軸のギアは芯が真鍮で、鋳造とおもわれる亜鉛かアルミのギアの歯部分が填め込んでEクリップで固定する形となっている。そしてローター軸のギアはボールベアリングで支持されていない。真鍮軸をアルミ本体に鋳込んだ真鍮ブッシュ受け!全国の秘密結社”BBB団(ボールベアリングをボロクソにこおろす者の団、現在団員2名)”団員の皆様お待たせしました。ボールベアリングレス機です。ギア比3.5倍強ぐらいの低速機なのでボールベアリングなんぞいらんのですよ。もちろんラインローラーもボールベアリングとは無縁の固定式。
ハンドル軸のギアは真鍮を鋳込んだ亜鉛鋳造もので最初に言及したとおり上にストッパーの歯が設けられている。本体が細長いのはストッパーがギア後方に配置されているからというのも一因か。そのかわりギアとストッパーが重ならないので本体は薄い印象。
ハンドル軸のギアの芯は真鍮が鋳込んであるので、ハンドルねじ込み式なんだけど、これがなかなかに独特でハンドルの逆側にはキャップがされているのではなく、ハンドルの代わりにネジが突っ込んであって、”ねじ込み式の共回り”ハンドルというべきものになっている。なにげにネジ込みのネジが大森みたいな交差したネジ山が切ってある左右兼用方式で、この頃の中小の”リール工場”は大森製作所に限らず、器用な技術を持っていたようだ。
スプール上下の方式が独特で、ハンドル軸のギア裏(写真上:裏が見やすいようにひっくり返してます)に偏心した円が切ってあって、なんで偏心させてるのかイマイチ理解不能だったんだけど、設計の出発点が左右両用ではないリールのハンドル軸のギアの上に中心を外して”ピン”を立てて、それを左右にオシュレーションスライダーとかのレール上を行ったり来たりさせつつ、スプールの刺さってる主軸を上下させる仕組み(例:
マイクロセブンDX)だったとすると、スプール上下は”ピンを行ったり来たりさせてどうにかする”っていう縛りで苦労した結果なんだろう。写真真ん中でお分かりいただけるだろうか?オシュレーションスライダ-が大きく分けて二つの部品によって構成されていて、一番下の写真で外して手に持ってる一つめが本体に刺さりつつ、ピンをギア裏の偏心円に突っ込む。ちなみにピンには真鍮のスリーブが被せてある。ギアが回ると、ピンが偏心円に導かれて行う円運動にともなって、一つめの部品は本体に刺さった部分を軸に、扇状に往復運動をする。二つ目の部品は真ん中写真では見やすいように主軸を外してあるけど主軸が刺さってて、扇状往復運動する一つめの部品の動きの先端方向に設けられた長方形の穴状のレールにピンを刺して、扇状の往復運動を、主軸を上下させる真っ直ぐな上下運動に変換している。なんともややこしいが、これ、後年のPENN101では、同じハンドル軸ギア上ストッパー方式でも、右下の写真の様にギアの上のストッパーの歯の上さらに上に、中心線を外した円形の凸部を設けて、その円を囲むような薄い板で作ったクランクにして、わりと一般的なハンドル一回転スプール上下一往復の”クランク方式”が採用されている。
本当かどうか自信ないけど、左右両用のスピニングでクランク方式をとなった時に、右写真に見るような、良くある軸を含む形になる輪っかのクランクを使えば単純にできるけど、ピンで発想すると左右に貫通している軸をクランクのシャフトが越えることができずに暗礁に乗りあげる。本機種の方式は部品2個も使って、場所も取るし重くなるしだけど、参考になる前例があんまりない過渡期ならではの工夫と独自性溢れる機構だったんだろうと思うと趣深い。妙に長い本体はオシュレーションスライダーが2個の部品で場所取ってるからというのも一因かと。
ドラグは男らしく1階建てかつバネ無しで「バネ無しでは調整幅出ないだろ?」と思うんだけど、ドラグパッドが写真左のように分厚い硬質フェルトになっていてその弾性を利用というかバネの代用としていたようだ。ただ、経年でペッタンコになっててあんまり弾性がなく調整幅出てなかったので、ちょうど厚めの2ミリの硬質フェルトもあるので新たに作りました。あれこれいじくってみたら滑り確保した方が良い感じだったので、フェルトをテフロンワッシャー二枚でサンドイッチしたところ、優秀とは言いがたいけれど、まあそれなりのドラグになりましたとさ。ちなみにスプールはワンタッチ式。
という感じで、全バラしするとそれなりに部品数あって、凝った作りと言って良いかと。なんというかこの時代の職人さん達は、今ほど経費削減とか小うるさいこと言われてなくて、丁寧に仕事している感じがして良いモノです。ただ時代が進むと、その凝ったモノ作りをしていた稲村製作所は、削れるモノはギアの歯以外でも何でも削るダイワに吸収され、職人さん達ひょっとして
ドラグにドラグパッドが入ってないようなリールも作らされてたのかもと思うと、ちょっと複雑な気持ちになる。
ともあれ、固着やら破損やらはなく、無事分解清掃作業は終了、青グリス盛り盛りで仕上げてやりました。組むときに注意が必要なのは、真ん中写真の最後蓋をするときで、蓋に逆転防止の爪関連のパーツが付いてるんだけど、これをバネをたわませて戻ろうとする状態で填めてやるのが唯一の注意点かな?同型のリールを分解清掃する人で日本語読める人が何人居るかわからんですが、その人達には是非憶えて帰って欲しい豆知識でございました。
見た目は塗装ハゲとかあるし、ギアも摩耗しかかってはいるけど、使おうと思えば使える状態に復帰させることができて今回も満足である。
サイズは糸巻き量的にはカーディナルC4クラス、でも何度も書いてるように妙に長い。糸巻き量的に同クラスと思われるリールで、我が家にあって使ってるのですぐ持ち出せるシェイクスピア「2062NL-2」と比較してみたのでサイズ感とか感じていただければだけど、2062のサイズ感がまず分からんか?まあC4サイズってことでどちら様もよろしく。写真右が2062で左がロディーマチック、上の写真スプール方面から見るとだいたい同じサイズ感だけど、下の写真で横からの姿を比較するとやっぱり長いというのがお分かりいただけるだろう。長い分は分解して分かったように部品がゴチャゴチャと入ってて、その分重く約385gある。2062は約335gでデカいウォームギアが入ってるのでそこそこ重いんだけど、それより50gぐらいは重くなってる。まあ同クラスのPENN4400ssなんて400g近くあるから使って重いかどうかとはまた別問題だけど、重くて長いのに使って軽いとは思えんのよね。ちなみにC4は約300gとこのクラスの糸巻き量のスピニングの標準的お手本のような重量に収めていて軽すぎず重すぎずで好感が持てる。
というように、1680円でこれだけ楽しめたら、もう元は取れたって感じなんだけど、使うかっていうと、正直あんまり使いたいと思わないのよこれが。稲村製作所が技術力あってヘドンブランドやらロディーブランドでブイブイいわせてたという、歴史の一端に触れられた気がするし、丁寧な仕事ぶりやら、まだよく分からん中での工夫にも好感が持てたけど、ワシが好きなのは単純な作りのリールで、例えば今使ってる2062系とか超シンプルな設計のウォームギア機だし、前回取りあげた大森のスーパーデラックス系はハイポイドフェースギアだけど左巻き専用の単純明快なインスプールだし、とかに感じる「こういう面倒臭くないリールが使ってて手間かからないし、使いやすくていいんだよ」感がこのリールにはあんまりないのである。同じ稲村製作所製でも、もっと洗練された、前述のダイワ「7250HRLA」の元ネタらしい「ロディーコンバーチブル7250RL」とかは多分好みに合致するかもだけど、稲村沼の猛者どもに勝てねンだわこれが。
でもまあ、”ボールベアリングレス機”ってのは嫌いじゃないので、気が向いたら使ってみるか?売れるような綺麗な個体じゃないし、使いたい、いじってみたいという方はご相談を(註:輿入れ先決まりました。悪しからず。11/17)。
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