2023年6月24日土曜日

雑草という名の草はないが、ザコという名の魚はいた-ビンボメシ雑魚編-

 「雑草という名の草はない」云々の台詞は今の上皇陛下が昭和天皇時代に従者に言い聞かせたものとして有名だけど、今NHKのドラマで取りあげられてる、植物学者の牧野富太郎博士の台詞が元ネタだったのね。ドラマ関係で注目上がってて牧野博士の逸話とか紹介されてくるので恥ずかしながら初めて知ったところである。当代きっての気鋭の植物学者の台詞を借りて若かりし天皇時代の上皇陛下がドヤ顔でキメている様が想像できてほほ笑ましい。

 「ザコという名の魚はいた」なんだけど、これ前にもネタにした気はするけど、爺さんどこでどんな感じで書いたかボンヤリと霧の向こうのようで記憶の彼方なので、本人忘れてるぐらいだし、読んだ人いても忘れてるだろうという割り切りで、また書きます。

 オイカワの学名はZacco platypusでシーボルトが日本の生物の標本集めたときに、コレなんて魚?って聞いたら「そんなもんは雑魚だ!」という答が返ってきて、シーボルト氏メモ帳片手に「ザコね」、って感じでザコ認定、そして本国に帰って正式に発表するときにも、その名?が使われたっていうことで、雑草という名の草は無いけど、ザコという名の魚は「オイカワ」。というネタだったんだけど、じつはオイカワの仲間は最近分類の再整理があったようで、Zacco属はハスの仲間であるOpsariichthys属に移籍。Opsariichthys platypusという学名になったようだ(ちなみに写真の皿の一番下のがオイカワ雄でその他はオイカワ雌とウグイだったかな)。

 ということで、ザコという名の魚もじつはもういないのである。

 ちゃんとそれぞれの魚ごとに名前がある。分類上未整理で名前が確定しきれない場合もあるだろうけど、それでもザーコ、ザーコ!と馬鹿にして良いような魚など一つも無い。牧野博士も良いこと言った(でもまあ良くも悪くもザコキャラな魚は居るけどね、クサフグとか愛すべきザコだと思う)。

 にもかかわらず、魚を丁寧に扱って然るべき釣り人が、なんとぞんざいに雑魚扱いして気にも留めずにあしらってしまっている魚の多いことか。嘆かわしい。常々、魚が値札付けられて水の中泳いでるわけじゃないのに、釣り人が特定の魚種を”高級魚”とか言ってはしゃぐな!って思ってるけど、その逆にそれぞれの特徴を持って懸命に生き抜いている魚のその真価をろくに知りもせず、名前さえ知ろうとせず、十把一絡げに雑魚だの外道だのと貶めてくれるなと、これまた常々思っている。

 ということで、雑魚とか認識されがちで鼻で笑われがちな魚たちのいかに美味であるかを世に知らしめて「雑魚という名の魚はいない」ということを啓蒙していきたい。というのが今回のナマジのビンボ飯のお題である。

 ワシの釣り場において、雑魚として捨てられがちでも実は美味しい魚というと、ゴンズイ、アイゴ、ササノハベラマエソなんてのが代表例だけど、コイツらはちょっと先入観に犯された人々にたいする導入編としてはハードル高めだろう。

 ということで、最近食べた雑魚と呼ばれてしまいがちな魚2種を事例として紹介してみよう。

 とりあえずは、仔サバ。サバでっせ!そんなもんどうやったって美味いじゃん、って多くの人は思うだろう。当地紀伊半島でも「鯖子の炙り」なんていう塩した仔サバを桜とか良い匂いの木で燻製っぽく焼き上げた保存食的郷土料理があったりするぐらいで、型は小さくても味は良くとても優れた食材である。にもかかわらず、なぜか近所漁港でも、アジ釣りの釣り人の多くが、仔サバが釣れるとトンビやアオサギにくれてやったりしている。オレにくれ!と声を大にして言いたいところだけど、まあ仔サバぐらい自分でも釣れるから自分で釣る。

 でもって、食べ方はそれこそなんでも良い。定番の揚げて南蛮漬けでも、こんな小さくて脂が乗っていなくても、身が痩せていてカスカスではないので、鯖味噌とか干物にしても、ちゃんと鯖の味がして身離れも良く、っていうか骨ごと食えるので旨い。鯖っていうとエラそうなグルメ様は脂のノリにこだわるんでございましょうが、そんなもん脂の乗ってるのを選んで釣れるわきゃないから釣れたのを美味しくいただきゃいいわけで、脂なんか乗ってなくても旨い魚は旨いとフォントを大にして書いておこう。で、釣れたて新鮮な仔サバなら特に小細工必要なくて、頭と腹取って塩焼きにして生姜醤油で、とか、頭と腹とって出汁兼用で味噌汁にぶち込む、とかで充分以上に美味しゅうございます。今年はあんまり仔サバ回ってこなかったので写真貼ってて自分でよだれ湧いてきた。自爆飯テロである。

 でもって、お次がウグイちゃん。釣りモノが無いときに、本命にふられたときに、釣魚としてもいつも良いヤツなウグイちゃんだけど、食味もなかなかどうして悪くない。以前、綺麗な川のウグイは旨いということを書いて、長野県の人達が川を美しく保ち、ウグイの美味を愛する様に敬意を示させてもらったけど、長野の人ほんとウグイ好きで、先般の台風2号の大雨で獲れたてウグイを川辺で提供する「つけば小屋」の「つけば漁」漁場が被害に会って今期再開できないところもあるとの報がネットニュースでも流れていたけど、佐久漁協管内だけで8箇所でつけば漁が行われているとのことで、ウグイちゃん大人気である。写真はアユやんけ?と思ったでしょ、一番下がしれっとウグイちゃんなんです。アユの美味には負けるかもだけど、ウグイちゃんも川魚らしい味わいでこれはこれで乙な味。長野県の来年のつけば漁が豊漁であることをお祈りします。

 って感じで、毒とか限度を超える臭さとかがなければ、だいたいどんな魚でも美味しく食べられるんじゃなかろうかと思ってて、意外に雑魚あつかいで商品価値はない魚でも、商品価値がないのは数が集まらないからとか味とは関係ない原因だったりして、食ったら美味しい魚はナンボでもいるんです。最近海水温上昇の影響でか紀伊半島でもお馴染みになりつつあるカタボシイワシも、馬鹿な釣り人「コノシロ(あるいはサッパ)は小骨が多くて食えん」とか言って鳥やら猫に食わせてる、そもそもコノシロ・サッパぐらい食えるだろ?っていうのも別途あるけど、カタボシイワシはマイワシの七つ星無し版のようなイワシなので、マイワシほど脂のらないけど、脂なんか乗ってなくても旨い魚は旨いので、刺身で酢締めで干物でとオカズに重宝している。平べったくて独特の目つきのコノシロや薄っぺらいサッパと、見るからにマイワシ体型のカタボシイワシの見分けがつかん程度のお粗末な目利きだから旨い魚を食い損なう。っていうぐらいで、魚の名前ぐらいちゃんと調べて分からんと、食えるか食えないかから始まって、情報ネット検索して探るにしても探れねーじゃんって話。カタボシイワシは料理すると間違いなくマイワシに近いと分かる。手開きで中骨もある程度綺麗に取れてきて骨が似てるってのは、見た目云々より同定には重要な要素。(註:カタボシイワシは分類的にはサッパ属でサッパに近いそうでゴメンナサイ間違いありました。にもかかわらずマイワシ体型で手開きできるのは収斂なのかなんなのか?)

 いつも書いてるけど、自分の釣った魚がなんなのか?釣りたい魚は何という名前なのか、そこが知るための入り口なので、「君の名は?」って疑問を抱いてちゃんと調べて、正しく知ることができるようにしておくのは重要って話です。知らんから調べようもなく、知ろうともしないから新しい知識が得られず、新しい美味にも美味しい釣果にもたどりつけないっていう実例を近所の漁港で日々見ております。だいたい知的好奇心も探究心もないような釣り人は”ド下手クソ”と相場が決まっております。いつぞや釣れた方法を、いつまでたっても繰り返していて「あの時はクーラーいっぱい釣れたんや」とかズーッと言ってるたぐいです。一生ほざいてろ。と毒を吐いておこう。


<オマケ>

 料理ネタついでに、オマケを一つ。川尻こだま先生のエッセイマンガを読んでいたら、パスタとかの余りが出て次に買ったものとゆで時間が違うときの解決方法として、「気にせずまとめて茹でる。そして手打ちで太さが不揃いな蕎麦屋に行ったつもりで、その茹で具合の違いを楽しむ」という力技が紹介されていて笑った。

 自分のような小賢しい人間は、例えば8分と7分のゆで時間の麺が残っていたら、まず8分の麺を1分茹でてそこに7分の麺を投入して7分茹でて、それなりにメーカー様推奨のゆで加減に仕上げてしまうところである。

 家庭用の安ッスいスパゲッティの茹で具合に1分そこらが関係あるかよ、アルデンテ?煮えてないやんけ?よう煮とけ!ってぐらいで、オノレのせせこましさを恥じたしだいである。

 まあワシの方法も不正解ってわけじゃないだろうけど、一つの問いに一つの答があるってわけじゃなく、むしろそういった答にたどり着くことが大事なんじゃなくて、考えるなり調べるなりして、自分の納得いく方法で現実に対処していくことが大事なんだと思う。自分が納得できるならその方法は正しいのだろう。と、人様の正解が気に入らないことも多いワシャ思うのじゃ。


<オマケのオマケ>

 昔、「アルデン亭」というパスタ屋さんがあって、本格的なパスタ屋さんなんだろうなと入って食したところ、思いっきり麺柔らかーく茹でられていた。おそらくアルデンテという概念を知らないお客さんからの「コレ麺にが芯残ってるよ!」というクレームが多すぎて、店名にまでした志を曲げてお客さんの求める良く茹でたスパゲッティの麺に行き着いたのであろう。これまた客商売としては一つの正しい選択だったんだろうと、ワシャ思ったのじゃ。

2023年6月17日土曜日

大森を触るとホッとする?

 前回までのジャンク5台は、初めて触るような機種ばかりで、かつ製造元もあまり馴染みのない所だったりして、面白い反面、勝手が分からず苦労もさせられたし、きつめのジャンクっぷりに手を焼かされたりもした。スプール欠損とかぶっちゃけガラクタでっせ。

 なんか反動で、サクサクと分解整備できて気持ち良いスピニングが触りたいなという気分で、馴染みの大森スピニングで整備待ちのを2台ほどいじってみることにした。やっぱり大森はイイ。安定感があるっていうか、癖が分かってるってのもあるけど安心していじくれる(今思うとこんなこと考えてたのが”苦戦フラグ”)。

 そんな大森スピニングなんだけど、最近またちょっと値段が上がってるように思うけど気のせいだろうか、大森アナリストとしてはそのへん気になるところ。一時全体的に値段下がってて、ちょっとボロ目のコメットとか一万切る値段で晒されてたりしたけど、また何万って値段がつくようになっている。チョット驚いたのが今回分解したうちの1台は「マイコンNo.202」という200番台の数字が振られたシリーズなんだけど、コレの小型機「No.20S」がネットオークションで2万を超える値段で落札されていたのがあったことで、様子見で2200円で入札してたけど桁が違った。あんまり話題になってるのを目にしたことがないシリーズだけど”マイコン沼”の住人には高評価のシリーズなのだろうか?ワシが買った「202」自体は、2080円落札の送料750円と3千円がとこも出しときゃ買えるだろっていう不人気大中型大森の相場価格でしかなかったので、たまたまどうしても欲しいマニアが2人居て競ったのか、200シリーズ小型機は実は人気あるのか、中堅大森アナリストのワシとしてもどう分析して良いのか判断が難しい。まあ”たまたま”かなと思う。

 値段が競り上がった要因の一つとしては、弾数の少なさがあると思う。大森マイコンの系譜をたどると、元祖「マイコン」シリーズが1980年登場、そして樹脂製の「100」系シリーズが1983年登場、「200」系シリーズも同年のようで、84年カタログにはすでに掲載されている。でウィスカーチタンカリ強化樹脂を使用した「ウルトラ」シリーズとワシの愛機であるツイストバックシステム搭載の「TB300」系シリーズが1985年登場で、同年カタログには「100」系シリーズも掲載されているけど、「200」系シリーズはカタログ落ちになっている(海外では同時期シェイクスピア「Σプロ」としてまだ販売されていた様子)。その後は韓国大森になって「スペシャル」シリーズのあとはロングマイコンとか作りつつグダグダになってという感じか。つまり、国内で「200」系シリーズが販売されたのは、83年登場だとして、店舗在庫等はまた別としてカタログモデルとしては85年には消えていて、2年の短命モデルだったのである。今時の大手が3年でモデルチェンジしてて3年で陳腐化するような設計するなよな、と苦言を呈してきたけど、それよりもモデルチェンジが早い。なので中古市場に出にくく、欲しい人間は出たら親の敵を見つけたごとく討ち取っておかねばならないのかもしれん。

 で、もういっちょの要因としては、なぜ「200」系シリーズが廃版になったかというと、「TB300」系シリーズとキャラかぶりなところがあって、それが本体金属製でボールベアリングは一個のシンプル設計っていう、むしろ今の大森好きなマニアが評価しそうな設計になってて、同時期の「100」系シリーズ「ウルトラ」シリーズが樹脂製本体なのに対して人気が出る要素になっているのかもしれない。ワシも当初、泳がせ用にリアドラグ機をということで想い出のTB302(写真右)をぶっ込んではみたけど、使って壊すのがちょっと惜しい個体なので代わりの同じ機種を探していて、たまたま「NO.202(写真左)」が目について、ツイストバックシステムが付いてないぶんむしろこっちの方が単純で好ましいかも?とスルッとマウスを滑らせてみたところである。実際の所はツイストバックはほとんど使わないので、あっても邪魔してるわけでもなしで、その有無はそれほど関係なくて、実際に使ってみないと良し悪し判断できんなということで、実戦投入用に分解整備しつつ、それぞれの機構の違いとかを比較してみることにした。

 まずスプール周りからみていくと、左TB302で右がNo.202で横から見た感じは良く似ている。どちらもスプールは樹脂製で初代マイコン等に比べると糸巻き上面の傾斜がきつくなくて、ラインがグズグズッとなりにくい形状にだいぶ改善されている。
 でもって、ワンタッチでスポッと外すと、単純な横棒がスプールの十時に填まる右のNo.202に対して、TB302はツイストバック機構が入る都合上いくつか違っている点がある。
 ツイストバックは以前も書いたけど縒れたラインを引き出してどっかに引っかけて張りつつ、ツイストバックのスイッチを入れてやると、ハンドル逆回転するとライン放出されずにそのままの位置でスプールごとローターが逆回転して、ハンドル・ローター正回転のときに生じたラインのヨレの逆に縒りを入れてというか縒りを戻してやるという機構。なので逆回転時にローターと同期してスプールが回るように、スプール内側のオレンジ色の矢印でしめした所に凸部があって、ローターのオレンジ矢印で示したところからスイッチ入れるとレバーが出てきてこれを引っかける。でその時逆回転させるのにドラグユルユルにしておかなきゃならんと思ってたけどワシの勘違いで、TB302のほうのスプールを主軸に固定する方式は、一方通行に回転させる金具がスプール裏に付いていて、主軸にはそれに対応する形状の歯車っぽい台座が設けられている。なのでTB301はドラグが効かない方向には主軸と同期せずスプールは回る。ただしツイストバックのスイッチが入っているとさっき書いたようにスプール凸部をローターから出たレバーが引っかけるので主軸とは同期しないけどローターと同期する。あんまり使わなかった機能だけど考えた人はすごいと思う。

 ってぐらいが大きな違いだろうと思ってサクサクと本体も蓋開けてみていくと、意外に違ってる。右がTB302で左がNo.202(ゴメン左右統一しておけば良かった)なんだけど、スプール上下の機構がTB302がハンドル軸上にクランクを持ってきたハンドル一回転一往復のクランク方式、No.202はハンドル軸のギアの下から歯車介する形のハンドル二回転ぐらいでスプール一往復ぐらいの減速オシュレーションになっている。後に作られたTB302の方が原始的な機構になってるのはなんでだろうか?リアドラグ機にクランク方式突っ込むのって面倒臭くて、主軸に穴開けて棒突っ込むと主軸回らなくなってドラグが使えないので、クランクと主軸をつなぐ棒の代わりに主軸が中を通って回転できるオシュレーションカム的な部品が必要になるのでクランク方式の利点の一つである単純な形状の部品でできるというのは関係なくなってる。ワシ自身は小型機には単純クランク方式の綾巻気味のラインの巻かれ方はトラブル少ないような気がして良いと思うけど、飛距離とかでは減速オシュレーションの方が良いはずで、トラブル多かったのでクランク方式に変えたのか?でも1/2ぐらいの減速ではたいして変わらん気がするけど謎な部分。ちなみ両機種ともにハンドル軸に樹脂製パーツを組み込んでサイレント化している。真ん中写真がNo.202だけどチョット見にくいか。No.202は音出し機能はなしだけど、後発のTB302は音出しとサイレントの切り換え可能。「音がせんと巻いてる気がせん」という古い人たちの要望が根強かったのか?そんなモン、サイレント化用の樹脂製パーツ外せばいいだけだろって思う。
 TB302の明らかな改善点は、主軸にオシュレーションカムを固定する方法が”Cクリップ”じゃなくなってることで、写真一番下はNo.202のオシュレーションカムでCクリップ使ってる。Cクリップ嫌い。
 
 ローター抜いてローター軸のギアの方を見ていくと、写真はNo.202のだけど、どちらの機種もベアリングはローター軸に1個しか使ってなくてハンドル軸の受けはどちらも真鍮ブッシュ。ストッパーはローター軸ギアの直上のいつもの位置に鉄系のしっかりしたのが付いている。ベアリング1個でも鉄系の芯を鋳込んだ大森ハイポイドフェースギアは滑らかで軽いし、各部摩耗とかもみられない。最近ちょくちょく一つ小さいサイズの「マイコンTB301」を使う機会があったけど、回転は滑らかで軽いし、ベールの返りもハンドルリターンでカショッと軽やかにいくしで、今時のリールと比べても投げて巻いての機能に遜色ないのとちがうか?と思うところ。”遊びがない”っていうことのタメだけにどれだけ無駄なことをやってるかっていうのが良く分かった気がする。

 あとは簡易ロータブレーキが付いてたり、内蹴り方式も見慣れたのがついてたり、ハンドルはもちろんベールも折り畳みできたり、ラインローラーはルーロンスリーブ入りだったり、オシュレーションカムが乗っかる歯車の出っ張りには真鍮製のカラーが填まってたりと、いつもの大森仕様である。ドラグもTBシリーズと一緒で繊維の表面を樹脂で固めたようなドラグパッドを使った4階建て方式。ハンドルがいかにも大森小型機っぽい三角パドル型なのは嬉しいけど、ライン巻いてるときに思ったけどこの大きさになってくると、摘まむというより握るようになってくるのでT型とかマイクロセブンCシリーズの軸の細いウッドノブ型のほうが握りやすいかも。でもまあ悪いって程でもない。

 リアドラグなのでやや部品数多いけどそこまで分解整備も面倒ではない。

 例によって、容赦なく青グリスぐっちゃりでしあげてやった。元から巻いてあったラインを下巻きに、3号ナイロンを70m巻いて磯投げ竿で活アジ餌の泳がせでハモとか狙うのを想定。
 
 結局、No.202はどうなのよ?っていう話だけど、まだ実釣に使ってないのでなんとも言えん部分ではあるけど、分解整備していじった感触としては、かなり良さげ。発売当時は初代マイコンの単純廉価版ぐらいにしか思えなかっただろうからウケなかったんだろうと思うけど、今俯瞰的に見るとむしろベアリングを初代の2個から1個に減らして、スプールエッジの形状改善して、多分スプール樹脂製にしたぶん軽くなってて、と地味だけどかなり良い感じの叩き上げ方だったのかなと思う。思うけど時代は、なんかゴチャゴチャ説明がくっついてくる新機能がないと売れないような80年代真ん中頃で、悲しいことに評価はされなかったんだろう。けど、分かる人には分かるからの2万円超えなのかなと思いましたとさ。ワシャさすがにそんな大金突っ込む気はないけどな。「TB300」系シリーズ、ツイストバックは邪魔にはならん程度の機構なので気にする程じゃなし、減速オシュレーションじゃないのもライントラブル面では利点なので遠投しないワシにはあってる。そして何よりCクリップでオシュレーションカムを止めていないのがエラい。ということでワシ的には「TB300」系シリーズのほうが若干好みかなと思うけど、「200」系シリーズも悪くはなさそうな気配というか、多分コイツはヤる気がするので実戦導入が楽しみである。

 でもって、お次は外蹴り版「マイクロセブンNo.1」。
 昔、ジャンクを整備して、この時代の外蹴りアウトスプールの大森ダイヤモンドでは「タックル5」が好みなので、そっちを使うことにして”外蹴り版マイクロセブン”は手を出さないでおこうと思ってたんだけど、なぜかNo.3サイズを買ってしまい、気がつくともう一台、そしてNo.2サイズも入手しており、いまさら何を拒む理由があるというところに即決3000円で見た目綺麗っぽいこの個体が出てきたので思わずリアクションバイトでマウスをスルッと滑らせてクリッククリック。我が家に到着して、ハンドルの後ろ?の左右交換用ネジ収納部を確認するとちゃんと左巻き用のネジも残ってて、これで勝ったも同然と気を緩めたのがまず”苦戦フラグ”。ついでにネジの緩み止め剤がキツいとねじ切れてしまうラインローラーを固定する円錐状のナットも、過去1回ねじ切っただけだし大丈夫だろうと油断してまたフラグを立ててしまい。巻きが重くてゴーロゴロしてるのも、ベアリング交換で元通りさ!とフラグの追い打ち。ことごとく裏目に出て大苦戦で、もう何度も分解整備した構造も単純、部品数も少ない外蹴りマイクロセブンなど、鼻歌交じりで気持ちよく快調な状態に仕上げることができるだろうという目論見は、竹に流し込んだ水ようかんを節に穴をあけてツルッと吸い出す「竹流し」より甘かったのであった。ああ、今年も夏が来る。

 まずはハイ、やってしまいました。ラインローラー固定ナットねじ切り。
 充分注意はしていたつもり。ラインローラーは回っていたので、固着してたら外さなくてもいいぐらいの心づもりでいた。けどちょっと力入れたらちょい回って、大丈夫かと確認したら若干隙間ができていたので、回った回ったと喜んだら、その時点ですでにネジ切れかけて伸びてただけだったようで、そこからチョイと回したらポロッと逝きました。大ショック。ただ、過去にねじ切った「タックル5No.2」のラインローラー周りを再建する計画は準備していて、プランA及びBを既に立案済みで上層部(ワシ一人で現場と上層部兼任だけどな)のゴーサインを待っている状態だった。なので、コイツでそれをやっちゃっても良いけど、とりあえず整備待ちのリールが渋滞してるのもあって、後回しにできるなら後回しにしてしまえと、未来の自分に仕事丸投げで、別口の改造計画のために購入済みであった「タックルNo.1」から急遽ベール周りの部品を一式移植することでお茶を濁しておくことにした。ベール周りは外蹴りマイクロセブン、タックル5、タックルの3機種共通で互換性あり。「タックルNo.1」やっつけるときは改造と修繕の二仕事でエラいことである。まあ今は気にしないでおく。

 巻きが重いのは、ベアリングが死んでるのだけが原因じゃなくて、スプール上下のクランクの棒の部分がどうやったのか曲がってて、下に下がったときに本体の端に接触してつっかえ棒的に引っかかってしまっていて、たまに巻けなくなる始末。ペンチ2本で慎重に真っ直ぐに伸ばして填めて確認作業っていうのを何度か繰り返して、やっとまともに回るようになった。正直コレはダメかもと心折れかけたけど何とかなって良かった良かっただけど、この個体、海水に水没させて浸水した気配がある。写真の様に蓋開けたらあちこち茶色で外側が比較的綺麗なのにナンジャコリャな内部。これが思わぬ失敗を招く。幸いギアとかの腐蝕はなくて、ストッパーの錆が完全には取りきれなくてヤスリで削って不具合出ても困るので、ある程度錆落としてグリスシーリングで済ませて、そのへんはまあ大丈夫だったんだけど、逆転防止のスイッチを留めてるEクリップが錆錆でこれもある程度錆落としたら使えそうだったんだけど、パーツクリーナーで洗浄作業中にどっかで紛失した。パーツクリーナー液もティッシュも錆でまっ茶色でEクリップがどうも気づかないうちにそれらに混じって”廃棄処分”されてしまった、っていうと他人行儀だけどワシ捨てちまったらしい。配水管覗いてみたり指突っ込んだり、ゴミ袋からティッシュ引っ張り出して確認したりもしたけど、茶色い保護色のEクリップを見つけ出すことができず、いつも飛ばしがちなCクリップに引き続き「Eクリップおまえもか~!」と裏切られた気分である。仕方ないので在庫してるM3規格のEクリップを試したら、ちょっとユルかったのでペンチでキュッと締めて良い塩梅にしてしのぐことができた。
 グリスグッチャリで仕上げて動作確認で問題なしとなって心底ホッとした。

 ほんと、冷や汗タラタラの大苦戦で、仕上がりは快調で見た目も綺麗な状態なので結果は良かったけど、ラインローラー周りの再建は未来への負債状態で残ったし、楽勝どころかやや負け越した感すらある。”慣れてる道でも安全運転”、”人は見かけによらぬもの”、”勝負は下駄を履くまで分からない”気の緩みを戒める先人達のお言葉を噛みしめ反省するしだいであります。

 ジイサン歳食ってきて、明らかに手先も不器用になってきたし、注意力も落ちてきて、しょうもないミスをやりがちな今日この頃。今回この記事用の写真でも一番上と下はセイゴに飛沫かけられたのをレンズ拭いてなくて塩気でチョットボケてるこの有様。
 丁寧に注意深く、基本に忠実にというのを改めて自分に言い聞かせるのであった。

2023年6月10日土曜日

ラングレー社スピンフローの逆転防止機構の謎-パソコン椅子探偵スイッチ無し逆転防止機構編-

 エラい錆びてはいたので、固着がなく分解できるかどうかがまず第1関門だと思っていた。

 結果から書くと、分解自体は意外と上手くいった。というか、固着している部分は既に前の持ち主がねじ切ってやがったのが2カ所、その修繕はせねばだけど、他に一カ所ラインローラーの固着はどうにもなりそうにないので無理にいじらないでおく。

 錆がキツく見えたけど、掃除して磨いてやればそれほどでもなくて、そこはさすがにアメリールって感じの耐久性の良さを感じて好印象。ダムとかでも採用されている表面シワシワの塗装は錆には強いらしく、そこは全然腐蝕が見られないのは立派。

 でもって、このラングレー社「スピンフロー822」。ラングレー社がゼブコ社に吸収合併された際にも引き継がれてたくらいで、当時は人気のあった機種のようだ。当時っていうのが、れいのゼブコ狂氏の記事を読むと吸収合併が1962年のことなので、ラングレーのモデルだとそれ以前のリールのようで半世紀前の古いリールのようだ。でも別に使おうと思えば今でも使えそうな機能を有していて、なかなかにやりそうなリールではある。

 と同時に、このリールの逆転防止が独特で、切り替えスイッチが無くてゆっくり逆転させると逆転して、素早く巻いたり逆転したりすると逆転防止が働くという記事をネットで読んでいて、是非その仕組みを知りたいと興味津々だった。なぜその機構に興味があるかというと、現在春のシーバスシーズンをベールワイヤー無しのマニュアルピックアップ方式にした丸ミッチェル304を使ってるんだけど、これがストッパーは通常切って逆転できるようにしておいて、タモ使う時のような片手をハンドルから離すときだけストッパーを掛ける”ミッチェル式”で使うと、非常に投げて巻くのがやりやすいことが理解できた。投げるときは上の写真のようにラインを人差し指で拾ってから”逆転”でラインローラー(なのか?)からラインが外れて投げられるようになるので、通常マニュアルピックアップ方式と聞いて思い描く”投げる度にラインを手で外す”という作業は必要ない。ラインを拾って巻き始めるのもサミングした人差し指でラインを引っかけておいて、そこから巻き始めれば普通に巻ける。ラインをたまに拾い損ねたときだけ竿立ててラインを放出しつつ再度ラインを拾う動作が必要になるけど、慣れたら夜釣りでも苦にならないようになってきた(握りが基本の”サムオントップ”じゃないのは良い子は真似しないでね)。その話とスピンフローの逆転防止機構と何が関係あるのか?っていうと、ミッチェル式で逆転防止を普段切っておくのはシーバス相手ぐらいならなんら問題ない。いきなり魚が走ったところでドラグも付いてるしゆっくり手動で逆転してやってもいい。
 ただコレが例えばPENNの706zのような大型機で青物とか狙うとなると話が違ってくる。逆転防止切ってる状態で、ドカンと食ってきてバビューンって走ったときにハンドル持ってる手でささえきれるかどうか、怪しくなってくる。下手するとハンドルが手から離れてしまってハンドルノブで殴打されて怪我しかねない。その際に急激な回転で自動的に逆転防止が効くようになる逆転防止機構というのは好適なように思う。今の普通の逆転防止機構の706zで、投げたら空中にルアーがあるうちに逆転防止レバーを入れて魚に備え、巻き取ったら一回レバー切ってライン放出の準備と忙しく切り換える、っていうのはちょっと面倒臭いしだいぶ練習が必要な気がする。
 706zのような大型機だとさすがにワシの右手小指はレバーに届かず(スプールに人差し指がちゃんと届くところはさすがPENN)、ハンドル握ってる左手の親指ぐらいが一番使いやすそうなぐらいで切り換えムズい。とはいえ、ローター逆転させてラインを投げる状態にする手順に慣れてしまうと、いちいち手で摘まんで外すのはもう面倒臭くてやる気にならん。ということで、スピンフロー方式が単純な機構なら706zに追加して改造できないかというのが、今回の裏テーマとしてあり、そのためにどういう仕組みなのか解き明かすのがパソコン椅子探偵の今回の推理すべき事案である。

 ということでボチボチと分解整備していきます。

 スプール方面から行くと、ドラグノブを外すとまずはノブを回すとカチカチ音がするタイプで「凝ってるなー」という感じ。一番上は樹脂製のカラーで上面に音出し用のへこみ穴が掘ってある。樹脂製カラーは軸と同期して回らず、その下にバネが来てその下にもいっちょ軸と同期して回らないワッシャーが来る。ちゃんとドラグが分かって設計してあるのでバネにドラグパッドの仕事をさせるような無茶はしていない。回らないワッシャーと回るスプール底面の間に、黒い樹脂製のドラグパットが入っていて、スプール裏の座面に当たるところにも同じような大きさの樹脂製パッドが貼り付けられていて、1階建て方式っぽい実質2階建てという感じになっている。滑り出しや調整幅も充分で、ドラグなんぞ半世紀は前に実用充分なのがあったといういつものお話。ただ、せっかく良さげなドラグが付いているのに、ドラグの音出しが付いてたとおぼしきネジをねじ切った痕跡が有り、前の持ち主のやらかし項目その1である。これは後で何か対応策考えよう。

 本体蓋のネジを外しても蓋がポロッとは取れずにちょっと焦ったけどナイフを隙間に入れてパカッと開けたら、ギアは基本のベベルギアでスプール上下も至って普通で単純明快な設計。とこの時点では思ってた。まあ、ブレーキが本体内にはないので単純ではあるけど、実は普通ってほど無個性じゃなくなかなか面白いことになっていた。

 この時点ではグリスまみれで気がつかなかったんだけど、後ほど気付かずパーツクリーナーで洗浄してしまったローター軸のギアがなんと樹脂製。そしてハンドル軸のギアはアルミだと思うんだけど、やけに薄っぺらくて、軸もアルミ一体成形で強度を出そうとしてるんだと思うけど根元が太い円錐形になっている。ローター軸のギアはローターに鋳込んである鉄系っぽい主軸が入る芯に後付けで填めてEクリップで止めてある。組むとき順番注意でハンドル軸のギアを本体に填めて、その上にローター軸のギアを置いてからローターを本体に突き刺してEクリップ止めという順番でいかないと「あれっ樹脂製のギアが入らんがな?」ということになる。ちなみにローター軸の芯を受ける本体側には真鍮製のブッシュが填め込まれていてボールベアリング不使用機!

 でもって、今回の主目的である逆転防止機構なんだけど、ローター裏にあるドック的な部品がそれっぽい。けど、いまいちどうやって機能しているのか分からんので、後ほどじっくり推理することにしてとりあえず後回し。正直もっと複雑な、今の瞬間的逆転防止機構のようなややこしい機構を想像していたので、この単純な部品でどうやったら”早回しの時だけ機能する逆転防止機構”なんていう面倒臭い仕組みになってるのか意外な感じがした。瞬間的逆転防止機構の油ぎれのときとか、まさにゆっくり回すと逆転してしまったりするので、それを狙ってやらせてるようなものかな、とか妄想してたけど、そんなご大層な仕組みはどこにも入ってない。

 でもって次はベール周り。意外、それは外蹴り式のインスプールスピニング!って感じで、ローターの中とかが妙に単純でなんにも入ってないのは、ベール反転機構が内蹴りじゃなくて外蹴りだから。写真の左が起こしかけの状態で、青の矢印の板バネの山をベールアームの突起が越えると右の写真の位置でベールが起きた状態で止まる。でベールを返すには、ハンドル回すと本体の脚と反対側にチョリッと”蹴飛ばし”が突き出ていてオレンジの矢印で示したベールアームの角が蹴飛ばされてカションと返る。っていうのともう一つ方法があって、外蹴りなので構造見たら分かると思うけど、アウトスプールみたいに”手で返す”こともできる。そういえば針金ベールのインスプールスピニングも外蹴りで手で返せた。

 ベールアームにはベールスプリングを引っかける穴が最初から3カ所開けられていて、ワシのような「ベールワイヤーとか長持ちさせたいから”弱”一択で」な釣り人から、あちらさんの中には当然「力こそパワー」な思想傾向の持ち主も居るだろうから”強”バネでガシャンと返すようにすることも選択可能とわりときめ細やかな心配り。
 そして、固着しててどうにもならんかったのがラインローラー。ゼブコ版822のカタログを読むと「クロムメッキかけた鉄だぜ!」と書いてあるようなんだけど、これがメッキが剥げて錆錆なのは越えてきた年月考えれば仕方ないとして、じゃあ取っ払って”ルーロン樹脂製なんちゃってツイストバスター”に換装しちまうかと、小型万力で固定しておいて金鋸で切ろうとしても、表面ヤスリで擦って錆が落ちたような程度にしかならず切れん。ならばと鉄工用のドリルで地道に穴開けてニッパとかで崩していくかと、電動ドリルでドリドリと回してやるんだけど、コレもなんか穴があいていく気配がない。錆錆なので鉄なのは間違いなさそうだけど、鉄ってこんなに堅かったっけ?っていうぐらい堅い。そういう堅ーい鋼材なんだろうか?ワシのノコの引き方とかが悪いのか?諦めて表面の錆だけダイヤモンドヤスリで削り取って光らせておいたけど、こんなモン剥き出しの鉄なんてすぐ錆びるわな。そもそも回転式だったのか固定式だったのか?っていう疑問もあって、下の写真は”カラー”が外れたところなんだけど、カラーでローラー部分の端を覆う構造ってことは回転式だったんだろうなという気がするけど、これまた情報なかなか出てこなくて分からんかった。ネットでも関連情報上手く拾えずパソコン椅子探偵まずは軽く敗北。情報お持ちの方タレコミお待ちしてます。

 ベールアームの反対側支持部にいくとネジ二つで金属板を留める構造になってるんだけど、そのうち1つがネジ切れていて、前の持ち主のやらかし項目その2で一応留まってるといえば留まっているんだけど、不安なのでドリルでネジの芯の残ってた位置に穴開けて、堅いバネをグルグルと捻って細くしてから穴に突っ込んで、バネが元の太さに戻って穴に固定されてネジ山の役割をする”リコイル”という手法で一応ネジ復活させたけど、リコイルでガッチリと固定するのは難しくてネジ締めていくとバネが抜けてくるのである程度しか締まらないという締まらない修繕になってしまった。ワシの力不足であり無念。軽く2敗目。

 という感じで、分解洗浄はおわって、固着はラインローラーだけ、固着を前の持ち主がねじ切ってたのが2箇所と、最初見たときは錆錆ボロボロで一番上の作業開始時の写真でさえ、CRCぶっかけてブラシで磨いてから封印していた状態であり、分解できるのかずいぶん心配したけど、最初にも書いたように、このぐらい分解できればまあ上首尾かなという結果になり一安心。設計自体は単純で、ラインローラーが鉄系なのはいかがなモノかと思うけど、その他は腐蝕に強い素材で構成されていて、塗装も丈夫でそのあたりはやっぱり”アメリール”の質実剛健さかな、と感じるところ。
 
 でもって、後回しにしておいた、ドラグの音出し再建と、逆転防止機構の構造等解明に移っていきたいけど、まずは単純なドラグの音出しの再建からいってみる。

 まあこんなモンはドラグの乗っかる座面の歯車に適当に引っかかるように金属板でも、プラ板でもあてがえば良いだけの簡単なお仕事です。って始めたけど意外に難しかった。
 お手本は、すぐにスプールが出てくるという理由でPENN714zを選択。1の写真の左の金色のほうがそれ。右がスピンフローで714zで使われているような、リボン状のバネ的復元力がある薄板が手元に無いので、ステンレスのバネ硬線で良いだろうと曲げて作ってみた。先さえ曲げて立ててやれば歯車に引っかかって弾かれて音ぐらいたてるだろうという寸法。スピンフローの方もネジでスプール裏に留めているように見えるけど実はまやかしで、実際にはねじ切れたネジの残ってる所にドリルで穴を開けて、そこに単に押しこんだピンのようにしてネジが突っ込んであるだけなので後で接着剤で固める方針。最初①のように右側に長い部品を作ってしまったらドラグが出ていく方向に回るときは調子よくパリパリと音が出ているけど、逆に回すと歯車に巻き込まれて硬線が歯車の下に潜ってマズいことになってしまう。というわけで右に出る部分を短く作ったのが②で今度は巻き込まれはしなくなったけど逆転しなくなった。逆転は無くても良いけど手でドラグ馴染ませるときに前後にジコジコと捻ったりするので、どちらにも回せる方が望ましい。ということで、細い硬線使ったらどうか?と③ではタチウオ用単線ステンレス線でやってみたら上手くいった。ということで、そのままズレないように穴に突っ込んでるだけのネジを瞬着で固めて、その上からエポキシで固めてやって、まあ力がかかる場所じゃなし、こんなもんでいけるでしょ?という仕上がりが④。スプールがアルミでかつステンレス線が細いのもあってか軽やかにシャリシャリにちかいようなカリカリ音で鳴ってくれて良い感じにできた。まあ及第点というところだろう。

 で、今回の主題である逆転防止に手をかけよう。この案件を構成する要素はおそらく、「ローター裏のドック状部品」、「本体のローターが乗る面の側壁に儲けられた凸部分」「ちぎれてローターと本体の間に落ちていた革片」の3つが鍵だろうと探偵役としては考えざるを得ない。だって他にはストッパーになりそうな部品なんてねぇんだもん。特に「謎の革片」は重要な意味を持つのではないかと探偵の感が告げている。
 革片はドックの右上の方に切れ込みがあって、もともとはそこに挟まれていたのは、ドックの切れ込みに革が残っていることからも明らかである。探偵は見逃さなかった。
 急な回転時に遠心力がかかって、ドックが革の重さで外に開くと本体の凸部に引っかかって逆転防止が機能するとかだろうか?それだと普段から外に開きっぱなしで常に逆転防止は掛かる気がするけどどうなんだろう?回転がゆっくりだと革がローター底面に摩擦でひっついていてドックが開くのを妨げるとかだろうか?
 馬鹿の考え休むに似たり、で考えるより手を動かせってことで、実際にドック状部品に革片を挟んで実験してみることにした。
 写真一番上のように、ドック状部品の上部切れ込みにマイナスドライバーをねじ込んで新しい革片がはさめるように開ける。そして挟んでペンチで締める。
 で予想としては、正回転時には写真真ん中のような状態で 革が本体側の凸部に押されてドック状部品自体は”寝た”状態になりラチェット式のようなカリカリ音もなく正回転する。
 それが急激な回転を加えると、革の重さが遠心力に引っ張られて下の写真の様にドック状部品が”起きた”状態になり、そのまま逆回転すると本体の凸部に引っかかって回転が止められる。正回転すると凸部を越えるときに革ごと押されてドック状部品が”寝た”状態に戻り、そのまま正回転ができる。という推理なのだがどうだろうか?関係者を集めるにはまだ早いか?実際回してみてからだな。
 と回してみたら、全くそうはならなかった。簡単に言えば早く回そうがゆっくり回そうが、正回転はサイレント仕様の正回転。逆回転は確実にストッパーが効く。という結果になってしまった。
 どどどどういうこと?
 革の接触具合をローター底面だけに当たるようにして、本体上面に当たらないようにしなければならんとか、そういう細かい条件かなと思いつつも、公式ではどうなってるんじゃ?とゼブコ版のカタログをつらつら読んでみても「クイックに巻いたときだけアンチリバースが掛かるよ」的な記述が見つからない。逆に真相を究明するために重要な手がかりとして、”セルフセンタリングベール”機構が搭載されていて「ハンドルクランクを逆回転させると、自然にラインをピックアップするのに適切なところに来て止まるよ」的な記述がある。
 つまり、逆回転させると確実にローターが1箇所で止まるという状態で正解らしい。たしかにハンドル逆転するとベールアームが手前に来てベールワイヤーが左側にある位置で止まるので、すぐにラインピックアップしてベール起こしてキャストという流れに入れる。これあれだ、スピニングのベールアームをライン拾うと同時にレバーを引いて起こす”オートキャスト”とかの一歩手前ぐらいの機能だな。あれはベール起こすのも右手の人差し指でできるようになってるけど、ラインを指で拾いやすい位置である手前側にベールアームが来て止まるように、遊びがローター一回転分あるところは一緒。
 じゃあ何で、急に回したときだけ逆転防止が機能するとかいう記事があるのか?なんでだろうと推理してみると、2つ可能性があるように思う。
 一つは過去にそういうモデルが存在したというもので、実はスピンフローの逆転防止機構については「そんなモノは存在しない、ダイレクトのスピニングリールだ」という記事が何件か目について、実際にダイレクト仕様やら急回転作動仕様があったという可能性。単純に逆回転で1箇所で止まるだけにしては、ローター裏のネジ穴やら留め棒やらの数が多い。右巻機があった痕跡もあるんだろうけど、ラングレー時代にはローター1回転に止まるのが1箇所だけじゃなくて4箇所まで増やせたんじゃないかとも思う。というようないろんなバリエーションをやってておかしくなさそうな気配を感じる。
 もう一つが、多分こちらが現実的な推理で、革という変質しがちな素材で部品を構成してしまった結果、後年本機のようにちぎれてドックだけになってたり、固まってたり、ちぎれて短くなってたりして、確実に逆回転でベールアームが止まる機能を失っていて、急回転したときとかの遠心力で、たまたま上手く爪が起きてくれたら逆転防止が効いて止まる。という状態が生じていた可能性。コレ実証するにはもう一回革を外して試せば良いんだけど、革を挟んでるのは細かい部分なので何回も開け閉めしてると金属疲労で折れそうで怖いので芋引いて止めておいた。ただゼブコ時代のスピンフロー822の”セルフセンタリング”な逆転防止機構は新しい革装着で再現できているはずだし、実際に使用する場合を想定しても、効くか効かんか分からん逆転防止機能より、逆回転でいつもラインピックアップする位置にベールアームが来て止まる方が確かに使いやすく利点が大きいので、コレで今回は良しとすることにした。イメージとしてはラチェット式で薄い板バネ付きのドック方式の板バネでラチェットを挟んでサイレントに正回転して逆回転の時は挟んだ板バネがドックを起こすのを、板バネじゃなくて革がやってる感じか。

 引き続き、情報収集はしてみるけど謎はだいたい解けたかな?ぐらいで良いンとちゃうかな、といい加減なパソコン椅子探偵としては思うのである。引き分けぐらいでイイかなと。
 ラインローラーをできたら回転式に持っていきたいけど、とりあえず現状でも見た目的にはそこそこ綺麗だし、ドラグも良いし、大きさも手頃でシーバスにちょうど良いぐらい。巻き取りも3倍強ぐらいで低速機なのもシーバス向きか。
 くびれの無い樽のようなボディーラインも、ローター裏と本体上部の隙間に逆転防止機構を入れるための形状だと思うとなかなかに味わい深く可愛らしく見えてくる。ロボコンとかボスボロットとかの寸胴樽型ロボ的な可愛らしさ。
 ハンドル側から見たときのザラザラッとした風情もなかなか(オレンジの矢印の部分が例の外蹴りの蹴飛ばし部分)。
 しばらく手元に置いて愛でつつ、ラインローラーの件が”元々固定式でした”と判明したり、とっぱらって回転式にできる方法を見つけたりしたら、売りに出してもイイかなと。セカイモンで見ててもゼブコ版は安めだけどラングレー版はちょっとイイ値段してるので、日本じゃ弾数少ないしマニアが買ってくれる事を期待したいけど、まあ甘いんだろうな。なんにせよ急がないな。

 で、結局706zの問題は解決せずかと思うでしょ?”急回転で掛かる逆転防止”っていうのは結局よく分からんかったので、その方向での改造は無理だけど、比較的簡単かつ充分実用的な改造方法はキッチリ思いついたのは今回のパソコン椅子探偵のお手柄大勝利かと。「逆転防止なんて遊びがローター1回転分あったって私はいっこうに構わない」っていうことが分かれば方針簡単。706zの逆転防止機構はハンドル軸のギア裏に入ってるラチェット方式で歯が16枚ある。ギア比は1:3.8だから、ローター一回転に1回ぐらい止まれば良いなら約1/4のラチェットの歯の数にすれば良くて、4枚歯のラチェットに純正を削るか、真鍮製なので自分で作っても、金切りバサミと金鋸、ハンドドリル、ヤスリで何とかなる範疇だと思う。8枚で1/2回転でも指でラインを拾って逆回転でラインローラーからラインを外すのには足りるかも。ハンドル1/4回転や1/8回転では指は打撲せんだろう。いずれにせよ色々いじって考えてると、いい手が思い浮かぶものである。「博打でも良いから手を動かしておけ」と子宣わったようだけど、現物があってイジリながら考えるっていうのは大事だなと思いましたとさ。

 ということで、ゴミスピ5台なんとかかんとかイジリ倒して一応のカタがついて昨年秋からの懸案事項だったのでフーッっと一息つけた感じ。
 まだイジらなければならないリールは沢山ござるので、あんま暑いと作業にならんので秋までペースダウンを余儀なくされるだろうけど、ボチボチと片付けていこうかなとおもっちょります。
 今回の5台、それぞれ個性があって、なかなかに楽しかったです。

2023年6月3日土曜日

ZEBCO兄弟の弟「15XRL」の経済性展望とその再建

  メイドイン韓国ながら、国内で販売されたリョービ「222」と同型機という謎の機種ではあるけど、まあ「XRL35」と兄弟機であるのは見てのとおりだから、設計的にも同じようなもので、ぶっ壊れて上部が欠損してるスプールの再建だけがネタで、後は粛々とサクサクと済まそうと思ったけど、そうはいかんのでござるの巻。沼底の皆様「同じような機種で飽きた」と思わなくて良さそうなのでお楽しみに。

 見てのとおりスプールが上と下とで泣き別れになって、上部は失われている。残ってりゃあ心棒でも突っ込んで固定するなりなんなり修繕のしようもあるだろうけど、無いので”再建”っていう面倒くせぇのが端から分かってるような作業をせねばらなん。再建できたからといって、このリールが高い値が付いて”ナマジ家リール売り買い収支”の健全化に資するとか、まったく期待できない話で、かつギアもゴロゴロし始めているし、ラインローラー無しの針金ベールには糸溝つき始めてて実釣面でも活躍はあんまり期待できない。じゃあなんでそんなモンに時間と手間をかけるのか?なんか知らんけど我が家に来たリールは可能な範囲で稼動機にしてやりたい、そのためには全力を尽くしたい、という謎の衝動がワシを突き動かすからである。ちょっとイヤだけど心の底ではやりたいと求めている。

 まずパッと見てハンドルあたりからすでにツッコミ入れるべき代物で先が思いやられる。別に問題なさそうなミッチェルっぽいハンドルのなにがマズいの?と思われた貴兄、”ゴミスピ”と呼んで問題ないような安リールの実力を見くびってもらっちゃいけませんぜ。ミッチェルっぽくハンドルノブはクルッとひっくり返して収納時邪魔にならないようにできそうに見えるでしょ?できないのよコレ。今時の高級リール様のように一体成形で折り畳みできない仕様で、かつXRL35兄貴と同様六角芯入りネジ止め共回り方式なので、ハンドル外して袋に入れて持ち運ぶにしても邪魔。アメ人はリールロッドに付けッパで車やボートに載せッパでゲロッパなのでいいンかコレで?まあそれは良いとして、本家ミッチェル同様にハンドルノブにひねりが入ってるのは機種名に”RL”が入ってる左右両用のリールでマズいでしょ?ひょっとしてワシがまた頭の中で3D像回転できないのでマズいって思うだけで、ひっくり返しても摘まめるのか?試しに右ハンドルにしてみたらやっぱり角が指に当たるようになるので塩梅よろしくないけど、摘まめないって程でもなくて案外イケそうだった。意外。まあでもこの種の小型機(ッテほどでもなくて案外重くて280gちょいある)はルアーとか投げる釣り用だろうから、カーディナル33とかPENNの716zとか右巻仕様機が用意されてないメーカーとかも多かったから基本左巻き想定で、なんなら右でも巻けるよ、ぐらいのユルい感じなのか?こんな細かい所から突っ込んでたら終わらなくなるので、ラインローラー無しの針金ベールとかもミッチェルでも440とかで前例があるのでとりあえずは良しとしてスルー。

 まずはバラして、スプール以外を掃除して注油までしておくべく進める。パカッと開けると、35兄貴と同様ハンドル軸ギア上に逆転防止の歯が切ってあって、同じ仕様だなと思うんだけど、写真ですでにおかしいのに気がついた人が居たら立派なスピニング熱患者なのでお大事にしてください。普通蓋開けたら見えるハズのものが無いんだけどお分かりだろうか?本体下の方に妙に空間があるけどここに普通何があるのか想像いただければ「なんでそれがないんだ?」と頭の中にハテナが並ぶのではないだろうか。

 ハンドル軸のギアをヌポッと抜くまでワシ気づかなかったけど、主軸がハンドル軸の手前までしか来ないという驚きのメカニズム。ギアの形式はどちらも亜鉛の円筒と円盤のフェースギア。フェースギアは軸が直交するので、左右両用にはできないという常識を、主軸を短くして”直交させない”という強引な設計でフェースギアなのに左右両用なのである。主軸短いっ!片軸受けでこんな短いとスプール支える軸としてグラつかんのか心配になるぐらい短い。その短い主軸のお尻あたりから棒がでてて、ハンドル軸のギアのギア面の内側に掘られた円形の溝に沿って上下することでスプールが上下するというオシュレーション機構。
 ということはこの溝の直径がスプールの上下幅だな、とまた頭の中で3Dイメージを動かせない残念なオツムで考えて、ノギスで測ったら18mmだったので意外とスプール幅広めに作らなきゃならんなと思ったけど、後で実際にスプール上下させてみたら、どうやっても9mm弱しか上下してない。現物見ながら「アレがこうなるときはコウなって」とか考えたら、当たり前だけど棒がハンドル軸越えて向こうに行くわきゃなくて、当然スプール上下幅は、棒がハンドル軸から一番遠くなったときと一番近くなったときの差で、溝の主軸から最も遠いところと近いところの長さの差なのである。9mmは狭い。ここに来てなんで「ロディーマチック825RL」がオシュレーションのカムを部品2つ使ってるのか、そのせいで胴長なリールになってるのかやっと合点がいった。825RLも同様にハンドル軸のギアの面に円形溝が掘ってある。この円形溝を行ったり来たりする幅だけではスプール上下の幅が狭いので、一個目の部品は動きを”延長”して上下幅を大きくしているのである。名付けるなら”倍幅オシュレーション”という感じか。幅は増やしているけどハンドル一回転でスプール一往復は変わらないので減速、増速とかはしていない。という理解であってるだろうたぶん。

 一つ謎が解けて、あとは35兄貴と似たようなもんで、C型の金具を外してローターをギアごとヌポッと抜いて、主軸は一瞬ハメ殺しかと思ったけどお尻の棒は刺さってるだけで外すと抜ける。ローター軸のギアはなんかちょっと角が取れて削れてるような感じがするけど最初からこんな感じだったのか?そんなわきゃないよね。削れてるなこれは。
 ベール返しもスライド式で35兄貴と似た感じ。ベールスプリングが7巻もしてあって丈夫そうなのは、さすがゼブコはそのへんうるさかったんだろうな。ベールアームが薄いステンっぽい板を打ち抜いて折り曲げての板金で作ってる感じなんだけど、その薄くて堅いベールアームを受けるローターのアルミの出っ張りに真鍮製のカラーが填めてあるのも”意外に耐久性気にして作ってる”感がある。実際にはギアとベールワイヤーが先に逝きかけてるけど、心意気やよしという感じ。っていうか、ギアとベールワイヤはまだ形保ってはいるけど、そいういえばスプールが既に死んでいるよな。ハッキリいってこの種の安いリールとしての寿命は尽きているというかお役目はとっくに果たしていて、なにもいまさら棺桶から引きずり出してまた働かせなくても良いようにもおもうけど、まあワシに買われたのが運の尽き、もう一仕事ぐらいがんばってもらいたいところ。

 っていう感じで分解は35兄貴以上に部品数少なくて、さすがに15個ってこたぁないと思うけど、30ぐらい。そういうヤッスイ設計ではあるけど、左右両用だし、ドラグも調整幅極狭いけど付いてるし、グリス入れ直した状態でベール起こしてハンドル回してカショーンと返してクリクリ巻いてってやってみると、ギアゴロ感アリアリだけどそんなに感触は悪くないのよね。ちゃんと回ってるしベールも軽く返る。スピニングリールとしての当たり前の機能は失われていない。ならば、失われた上半分を埋めてスプールを再建してまた使えるようにしてやろう、という気にもなろうというもの。苦労はあるだろうけどやってやろうぜ。

 というわけで、今回ご用意いたしましたのはファイヤーラインが巻いてあったボビン(ボビンと言うには薄いけど書き分けのためということでご理解ください)。人力3Dプリンターで紫外線固化レジン樹脂使って35兄貴のスプールを型に直径小さくして作るというのも考えなかったわけではないけど、いかんせん紫外線固化レジン樹脂は強度面が不安でこういう力の掛かる部分には使いにくい。ということで金属の筒、あるいは竿のブランクスの余りのカーボンの筒とアクリルやらアルミの平板を組み合わせて作るかと最初考えたんだけど、糸巻き部分なんだからライン巻いてあったボビンは使えるんじゃないか?ボビンなら筒と円盤が最初からくっついているのでそこの接続方法と強度問題はある程度いけそう。ただライン巻いてあるボビンって意外に真ん中の筒が細いのが多くて、ドラグ入れることを考えると太さが足りない。と思ってたらたまたまファイヤーラインのボビンは、真ん中の穴が6角穴でドラグ作ってくれといわんばかりで、かつ元から入ってたワッシャーとかがちょうど入る穴の大きさで、コレで作れと”ゴミスピの神”が用意してくれたかのようなおあつらえむき具合で、コレを余計な部分は取っ払って高さとか直径とか調整して使うことにする。

 とりあえず大まかに土台になる部分を作っていく。
 スプールの上半分を作るので、ボビンの芯と糸の巻いてある部分とを繋ぐ梁の部分を金鋸とニッパーで大まかに切り取っていく。
 当初、梁を綺麗に取っ払ってボビンの円盤をそのままスプールの上面にするつもりだったけど、どうもどれだと強度がたよりなく感じた。おそらくプラグ作るのにも使われているABS樹脂とかだろうけど、一枚ぺらっとした状態ではそれほど強度があるように思えない。なので、強度の確保のため梁を2mmほど残してそれにCDを切って作った円盤を貼り付けて軽いけど丈夫な構造を目指してみた。

 ボビンの梁にCD成形した円盤を貼り付けるのは何でもくっつくコニシのSUでガチッとくっつけて、ハンドドリルの円錐形のヤスリアタッチメントにギュッと填めて回転させつつ円形に削りあげた。
 隙間を埋めてスプールの側面の形状を形作るのはティッシュでコヨリ作って隙間に詰めて瞬着を染ませてしばし乾燥。ティッシュを瞬着で固めるのは”繊維強化樹脂”の特性である、成形がし易くて丈夫という利点をちゃんと持っていて、ルアーの穴埋めに使えるというのを読んで真似していたけど、色々と応用が利くので憶えておいて損はない小技。
 ティッシュが瞬着で固まったら、凸凹しているところを適宜カッターで削ったりサンドペーパーで丸めたり形を整えて最後はエポキシを盛って回転させて固めてやる。
 形状的には下面が真っ直ぐで、エッジが引っかからないように滑らかであれば、上面はまあラインが絡むような変な出っ張りが無ければ何でも良いと思っている。

 再建するスプール上部の土台ができたので、残ってる下部との接続部分を整えていく。
 とりあえず残っている下部の一番上の面がドラグパッドの一番下が乗る面にになるので、割れて凸凹しているのをまずは金鋸で削ぐようにぶった切ってサンドペーパーで平面が出るように表面ならしていく。
 次に作った上部の6角形の穴に下部を突っ込んで固定できるように、6角形の穴を寸法どりして紙に落とす。角から直線引いて中心点も分かるようにしておく。
 そしてそいつを中心の穴に六角形の中心点が一致するように糊でスブール下部の上面に貼り付ける。
 金鋸で切るよりもうちょっと細かい切り出し方になるので、どうするか考えて、カッターの刃を熱して熱で大まかに切る方式でいったらある程度上手くいった。ただ溶けた樹脂がバリになってたりするのでアートナイフで削って、スプール上部がカパッと填まるように調整していく。

 で、スプールの幅はスプール上下が9mmなので完全平行巻きじゃなくて上下多少盛り上がるので12mm幅ぐらいで始めれば良いかなと試して、ベールワイヤーのラインが掛かる位置の高さの一番上と下を確認して、それだとやっぱり幅広すぎのように思うので、サンドペーパーで調整していって11mm弱ぐらいの幅で、スプール座面のテフロンワッシャーの枚数も調整して「このぐらいだろ?」というところに決めた。もともとのスプール下のほうは傾斜していて真っ直ぐじゃないので、下は多少崩れて前巻きになるような感じ。上は余裕は1mmあるかないかのキッチリ目にしたので真っ直ぐなスプール上面とあわせて崩れずトラブル少ないはず。

 これで基本的な構造はできた。ただ、このままだとドラグノブの隙間にラインが落ちるのでカバーを付けてやらねばならない。適当な輪っかを作ってスプール上面に固定してラインが引っかからないように盛って傾斜をつけてやるという基本方針。
 輪っかは樹脂の板でも金属板でも細く切り出して作っても良いけど、なんか愛猫のオモチャにしてるペットボトルの蓋にちょうど良さげな直径のがあるので試してみたらピッタリ。”ゴミスピの神”は今回協力的。おあつらえ向きの素材を用意してくれていた気がする。
 アートナイフで輪切りにしつつスプール上面に刺す脚を3箇所設けてやって、スプール上面に穴開けて固定。
 側面がなだらかな傾斜になるように、ここでもティッシュのコヨリに瞬着で大まかな形を形成してエポキシ盛って回して固める。そして回して黒く塗る。

 だんだんそれっぽくなってきて、いよいよ上下合体である。まずはコニシのSUで接着だけど、スプールが傾くとマズいので、上下の接着面にはみ出さないように接着剤塗ってカパッと填めてから、ドラグパッド等が入ってない状態でスプールを本体に刺してドラグノブを締めて、ドラグノブのツマミ下の平面でスプール上面を押さえてやって水平を確保する。まあズレたら色々と不具合生じるベイトリールのスプールと違い、スピニングのスプールは多少歪んでても使えなくなるようなことはないのでこのぐらいやっておけば上等でしょ。

 で、接着剤が固化したらできあがり、ってなわけなくていくらコニシのSUが強力粘り腰接着でも2ミリかそこらの高さの接着面ではライン巻いたら絶対もたない。もっと深く接着面設けたらいいようなもんだけど、そこはこのリールのスプール上下幅の狭さが仇になってて、さらに下まで削ると空洞の部分に到達してしまって、実際ちょっと貫通してしまってて慌ててエポキシで埋め直したぐらいで既に限界に達している。
 じゃあどうやって上と下とに泣き別れを防ぐのか?2案考えて、一つは横からネジなり釘なりを突っ込んで固定してやることだけど、重なった2ミリかそこらの狭い場所に穴開けてって言うのが難しいのと、穴開けるのが端ギリギリになるので割れそうにも思うので却下。結局採用したのはもう一方の”かすがい”方式。コレなら多少穴をあける位置に余裕がある。かすがいは当然こんな小さいサイズは売ってないのでステンレス硬線をペンチで曲げてニッパで切って自作。2箇所で止めてその上からエポキシかけてコーティング。

 一晩回してハイ完成!ってことでドラグ関係(また後で書きます)も入れてラインを巻いたところ、最初なんかスプール上面が斜めってるように見えて、ちゃんと水平にしてたはずなのになと思ってたら、見てる間に、まるで焼き網の上のホタテかなんかの二枚貝がクパァーッと開いていくように壊れていくのはとてもとても悲しかったです。
 ライン抜いてみたら、下の元のスプールに刺した方、熱で切ったスプールの樹脂が弱ってたのか樹脂を切り裂くようにして”かすがい”外れてしまってました。ガックリ。

 ただ、逆のかすがいはしっかり止まってるので、方向性としては悪くない感触。ということで、一本の矢は折れても、三本の矢は折れない方式で6角形の各辺ごとに計6本のかすがいで止めて、さらにかすがいをナイロンのセキ糸でグルグル縛って固定してからエポキシで固めるという力技でいってみた。
 もっと沢山かすがい打った方が丈夫になるだろうけど、一センチ強の幅の糸巻き部分にチマチマと折り曲げて作ったかすがいを、1ミリのドリルで穴開けて先の細いペンチでそっと摘まんで差し込んで、とりあえず作業中抜けてこないように瞬着で仮止めしようとしたら瞬着のブラシにくっついてきてやり直しとか、細かい作業が爺さん目も見えにくいし手も細かい作業だと震えるしで、これ以上は正直勘弁して欲しいのじゃ。関係ないけど”かすがい”って書く度に脳裏に「グリーン豆」って浮かぶのは東海地方出身のオッサンだけに特有の現象なのか?
 なんにせよこれは強度的に合格点までいったようでライン巻いても大丈夫だった。テンション掛けてラインをスプールに巻くときには意外と強い力というか圧力がスプールに掛かるようで、渓流でJOS師匠の愛機のカーディナル50シリーズの樹脂スプールが「ポンッ!」って感じで割れるのを2人で目撃したのが記憶に残ってる。ナイロンラインだとしっかり巻いていけば当然数%伸びた状態で巻かれていくことになって、何百巻とかの縮もうとするナイロンラインの力を受けているわけで、上下に割れたスプールは接着剤でくっつけたぐらいではどうにもならんのである。
  
 でもって書くの後回しにしてたドラグ関連。
 元々はフェルトのドラグパッドの一階建て方式でそれを踏襲すれば面倒は無かったんだけど、割れたときに凸凹してしまったドラグの底を再建時にはちょっと削って平らにしたのでドラグを入れる高さがその分増えている。増えた分フェルトを分厚くするだけでも良かったけど、せっかくドラグ入れる高さが増えたなら増築したくなるというもの。ただそんなに大幅に増えたわけじゃないので、3階建て6枚の円盤は入らない感じ。やっぱ無理かと思ったけど、4枚ならギリ入るので「そうだアレを試そう」ということになった。
 単純に2階建てにしてしまうと一番上のワッシャーがスプールと同期して回ることになり、ドラグノブが回って締まってしまう。でもそうならない4枚円盤のドラグを考えた先人がいるのである。スプールと同期して回るワッシャーをドラグパッドの素材で作ってしまえば、ドラグパッド、ワッシャー、ドラグパッドの3枚を1枚で代用できる。都合良くドラグの入る穴は今回6角形で金属ほど堅くない素材でもワッシャーとして働かせるブツは作りやすい。ということで一番底からフェルトパッド、主軸と同期して回らない欠いた円形穴のワッシャー、スプールと同期して回る6角形の1mmテフロン(3枚分の仕事をする)、一番上の主軸と同期して回らない欠き円穴ワッシャー、の4枚に加え主軸に填めるバネの代わりのウレタンゴム系チューブ輪切りという構成。ドラグノブの右上の透明な樹脂の輪っかは元のボビンが重ねて連結できるように填まるようになってるのを利用して作ったCクリップ的なもの。6角形の穴が下にいくほど狭くなってるので一番下から切り出すとちょうどワッシャーが落ちない大きさ。
 で、ちょうどギリギリ高さは収まる感じでバッチリなんだけど、テフロンワッシャーを6角形になるように端を切って加工するのはわけなかったけど、元からあるのに加えてもう一枚の欠いた円形穴のワッシャーを作るのに苦労した。最初薄い方がイイだろうとCD割って剥いだ薄いポリカーボネイトの板で作ってみたけど、すぐに穴が削れて円形になって回ってしまう。ならばとアルミの0.5mmの薄板でやっても同様で、1mmにしても同様、結局堅くて加工に苦労したけど真鍮板1mmを加工して作るはめになった。金切りバサミで丸に近く切り抜いてサンドペーパーで削って丸くして、穴はドリルで小さめの穴を空けてから必要な形にダイヤモンドヤスリで拡張して主軸に填まるか確認しながら微調整していく。金属粉をリールの方に持ち込まないようにいちいちティッシュで拭きながら。
 くっそ面倒くせぇけどなんとか作って、ライン引っ張り出してドラグの効き具合を確認してみたら、そこそこ良い感じに機能はしてるんだけど、やや安定してなくて微妙にウィンウィンしてる。ウィンウィンするのはスプールの主軸支える土台部分が短くなってしまったからか、主軸がそもそも短いからか。いずれにせよ安定して回ってない。前者ならドラグ収まってる穴の”底上げ”で主軸を支える長さを長くすれば改善するかもだけど、せっかく作った4枚円盤のドラグを1階建て2枚円盤に戻さねばならず、なんかヤだ。やれば必ず良くなるって話でもないし、まあ今回はこのぐらいで勘弁しておこう。実用上充分な性能は出せたと思う。

 ということで一応作業終了までこぎつけました。
 長かった。読むのも長かったと思うけど、書くのも長く、実際の作業はさらに長かった。面倒臭い金属削ったりする作業も時間かかったし、なにより接着、塗装関連は瞬着使う場面以外はだいたい一晩寝かしてしっかり固めてから次の作業になるので、とにかく時間はかかった。
 元々が設計見ても明らかなように安リールで、人気もなければ知名度も低く、最初にも書いたけど直したところで高く売れるモノでもなく、経済的にはまったく見合わない。
 スプール再建して直ったところで、それがどうしたって話で、売っても500円でも買い手がつけば御の字だろう。ワシなら買わん。”スプール再建済み”とか、素人がチョイチョイと直せるほど割れたスプールの修繕って簡単じゃないので”地雷”にしかみえんだろう。

 とはいえ、金にはならんけど”スプールを再建できる”というのは切れる手札が増えて良かったし、面白くて夢中になって作業してたのも事実。もともと5台まとめて二束三文で買ったゴミスピであり、これだけ楽しめれば重畳というもの。元なんてとっくの昔にとれているだろう。
 フェースギアがゴロゴロいってるのは仕方ないとして、ベールワイヤーの糸溝は瞬着でとりあえず埋めたし、自分で使って遊ぶのには悪くなさそうに思う。使ってみないと分からないところではあるけど、使ってて気色悪い使い心地にはならん気が、苦労して修繕したせいかしてきた。

 ゼブコXRL兄弟いじくって、安い設計のリールだけどなんというかそれなりにリールとしての形にはなってて、安リールとしてはどちらも悪くないようには感じている。リョービってメタロイヤルぐらいしか使ったことないけど、リール作るのわりと上手なメーカーだったように感じたところ。

 釣り具部門が上州屋に譲渡されてからも、地味にリールは作り続けていて、さすがに途中から国内生産じゃなくなったけど上州屋ではリョービのリールは長いこと扱っていた。最近はもう作ってないのかと思ってたけど、ちょっと調べたら海外で主に売ってるらしく、バリウスとかいう昔のバス用ベイトの名前だけどオフショアジギング用のベイトリールとかは日本でも通販サイトで買えるようだ。令和の時代にもしぶとく生き残っている様子。”中の人”が一緒なのかブランドだけ残ってるのかは怪しいところではあるけどな。ダイワ、シマノがいまさらワシ好みの単純な安リールを作ってくれるとは思わんけど、リョービならひょっとしてと思わなくもない。しぶとく生き延び続けたその技術力で瞬間的逆転防止もラインローラーのボールベアリングも無い安リールを作ってくれたなら、1台買わせてもらうつもりなのでリョービの人頑張ってリール作り続けてください。