金峰山関はワシの推し力士である。なにしろカザフスタンというワシ釣りに行ったこともあるけど日本ではあまり馴染みがない遠い国(冒頭写真のような草原と山脈の国です)からはるばるやってきて、裸一貫、締め込みいっちょで、厳しい勝負の世界で闘ってるんである。ワシが応援しなくてどうする。先場所まで古傷の首に加えて膝まで故障をかかえて幕下に落ちていたのが、今場所幕内に復帰すると、怪我の調子も良いのか、新たな武器となった恵まれた体格の長いリーチを活かした諸手突きが威力抜群で、首の故障に響かないように工夫を重ねた結果なんだろうけど怪我の功名とはこのことって感じで、足も良く動いててピンチになってもなんか投げも打ったりして気持ちの良い勝ちっぷりで、正直このまま優勝してくれと祈ってた。
ただ、本割りで負けて優勝決定戦となると、体力勝負になるので大型力士は有利な面もあるけど、経験の浅さはやっぱり補えなかった感じで、そこはここ一番に強く、優勝経験もある豊昇龍関に目の前まで来ていた幕内最高優勝をかっさらわれてしまった。でも金峰山関の成長と大活躍は誰の目にも明らかで、胸を張ってこれからも相撲を取っていって欲しい。っていうか本人も大いに自信をつけただろう。今回悔しくたって良いんだぜ、次のチャンスは絶対巡ってくると確信させるに十分でこれからも応援させてもらう。
で、豊昇龍関、本人嫌がってるぐらいに叔父さんの朝青龍関とは比較されて話題にされがちである。まあ、顔も似てるし投げが強いのも似てるので仕方ないところはある。でも大横綱の朝青龍関と比べると、投げは上手いけど、気迫と立ち会いは劣るかなと思ってたけど、今場所はこれまた覚醒して化けた感があった。小兵力士ではないものの決して大柄ではないんだけど、運動する物体の持つエネルギーは重さだけでなく、早さの2乗にも比例するわけで、出足鋭くしかも低く土俵をしっかり蹴って突っ込む押しの強さが今場所際立っていた。投げは相変わらず上手いんだけど、立ち会いで押し込んで一気に相手を土俵の外へというのが印象に残って、いよいよ相撲取りとしては完成形に近づいてきたとみな思ったはず。先場所同じ大関との相星対決に負けて相当悔しかったのだろう。研鑽と向上への渇望が見て取れた取り口だった。まあ、投げに特化して肩関節の脱臼が癖になっても投げにこだわった昭和の大横綱千代の富士関みたいな力士になってくれても良かったけど、なんにせよ強くなっていくのは見てて気持ちいいので大歓迎。で、2度目の優勝。まあ先場所準優勝で今場所優勝ならとうぜん横綱審議委員会が開かれたわけで、まあめでたく横綱誕生となったわけだけど、横綱になる一定の目安として「大関として二場所連続優勝かそれに準ずる成績」というのが言われていて”準ずる”ってところが難しい。過去に優勝したことない大関を横綱にしたら、大して活躍しないし、部屋で女将さんに暴力振るって廃業になるし、格闘家転向もパッとしなくて相撲が舐められる原因になるし、あげくスポーツ冒険家とか角幡先生に説教されるような怪しげな肩書きでナニやってるか分からんまま消えていった双羽黒みたいなのがいるので、横審もそのへん慎重になる。勝ち星の数が前回も今回も全勝優勝的なものではないのでネットニュースとかでは、すぐに「横綱確定」とかの記事も散見される状態だったけど、微妙っちゃ微妙だった。とはいえ、今場所の最後まで諦めずに優勝争いに食いついていった精神力の強さと、最後決定戦で2勝してるのは追加星でカウントして評価して、ここは横綱で問題ないんじゃないでしょうか?とワシも思ってたのも事実。綱取りってものすごい重圧らしく、あの強かった霧島関が綱取り失敗後ガッタガタになったぐらいだし、琴櫻関だって先場所の優勝見てたら今場所の崩れっぷりは想像できないぐらいにメンタルも強いと思う。でも今場所はあからさまに普通に取ってりゃ10勝やそこらは楽に勝てるはずの大関がたった5勝でっせ。まあ、その綱取りのプレッシャーに負けずに優勝したという事実だけでも心技体の充実ぶりは明白でしょ。
っていう真面目な話の他に、今年は大相撲はコロナ禍もあって久しく行われてなかった海外巡業を控えていて、横綱照ノ富士関が今場所途中で引退して、海外巡業で横綱土俵入りが披露できないってどうするよ?って協会関係者は頭抱えてたと思う。照ノ富士関満身創痍だったのは明らかで、巡業終わるまで頑張ってくれというのは酷ってモノで拍手で引退を送られてしかるべき立派な横綱だったと思う。まあそのへんの巡業でオゼゼも稼がないかんという大人の事情もあるんでしょ。それもあって、ここは二場所連続優勝またはそれに準ずる成績ってのにはバッチリ当てはまってるんだし、いっときましょうよという横砂審議委員のみなさんの思惑もあったんだったりして、と邪推している。豊昇龍関、足もよく上がるし横綱土俵入りも格好良く決めてくれまっせヨイショー、って気の早いことを考えてるワシ。
で、横審でよく審議の対象になるのが綱を張る「品格」を備えているかとかいう、実にくっだらねぇネタで、相撲が神に捧げる神事であるということを鑑みても、そもそも相撲の起源とされる野見宿禰と当麻蹶速の対戦は、野見宿禰がストンピングで当麻蹶速の腰をブチ折って殺しての完全決着であり、もう相撲の神様は”荒ぶる神”であるとしか思えないのである。お行儀良く優等生なのが力士の”品格”か?と改めて疑義を呈しておきたい。まあ、豊昇龍関はおじさんと違ってやんちゃなところの少ない好青年であり、そこは横審的には問題視しなかっただろう。でもワシ的に豊昇龍関には横綱になるにあたっては品格に注文を付けておきたい。もっと荒ぶってくれ、もっとやんちゃしてくれという要望である。それこそ叔父さんのようにである。それが力士に求められる品格だろとワシャ思う。豊昇龍関、アベマの取材で他の力士がインタビュー受けてるときに、後ろからつっついてじゃましたりという、年相応のお茶目な一面も見せる若者だけど、それこそ朝青龍の轍を踏ませるなと部屋の親方やらも厳しく指導したんだろうけど、土俵でも私生活でも一般的な品格を疑われるようなことの全くない好青年ぶりである。そこがワシには物足りない。
顔を張られて怒りに顔面紅潮させて、張り返したり相手をねじ伏せにいく怒りのこもった気迫、相手の痛めている膝に蹴手繰りを入れる非情さ、相手力士共々客席まで吹っ飛ぶような押し。時に土俵の上で垣間見られる、そういう荒々しさこそ相撲の神が求めるものであると信じる。お客さんもワシら中継視聴者も盛り上がるしな。
土俵の外の話としては、以前も書いたけど格闘技が盛り上がるには”良いヒール(悪役)”が必要だって話で、米国最大のプロレス団体WWEの中継を見るようになって、改めてその思いを強くしているところだけど、なぜ協会はそのことが分かってないのかって常々おもっている。分かりやすい強い悪役が居れば盛り上がるのである。白鵬関が横綱のころは当時の貴乃花親方と確執とかもあって盛り上がったし、それこそ朝青龍関なんてワイドショーネタ連発で大いに話題を集めてくれた。ワシこれまでで一番好きな力士は300キロに近い規格外の巨漢で「角界の黒船」と呼ばれた小錦関である。後年はあの体重ではむべなるかなだけど膝の怪我もあって痛々しかったけど、全盛期はもう止められないぐらいの強さがあった。でも品格が無いとか横審に嫌われて二場所連続優勝に準ずる成績でも綱は張らせてもらえなかった。あの巨漢力士のプッシュプッシュな突き押し相撲の迫力は見てて痛快だったし、「俺が日本人ならもう横綱になってたはず」とか言っちゃう、ずけずけとした物言いも気持ちよかった。
今の幕内幕下あたりの力士で悪役を務められそうな弾が見当たらない。モンゴル勢は総じて優等生になってしまって、ヒールと言うよりはむしろベビーフェイス(良いモノ)側である。千代翔真関は引き技多用で多少嫌われてるかもだけど、いかんせんヒールになるには迫力が不足している。ヒールとして大成することを期待していた、2m超の規格外の体でもろ差し食らってから相手の後ろマワシを肩越しにつかんでつり出すという、取り口も非常識だった北青鵬は、部屋で後輩に暴力振るったり金巻き上げたりといういじめで廃業となっており、実にヒールとして将来有望な力士だったので惜しい。まあ荒ぶってもらいたいけどそりゃあかんやろ。親方が白鵬だったので協会ももみ消さずに部屋ごと潰された感があるけど、まあ名選手かならずしも名監督たりえずってところか。私生活というか土俵外で面白いのは酒パワーで闘う錦木関とか酒豪の多い角界でも名をはせるとは、いったいどのぐらい飲むのか?と思うし、良くしゃべる一山本関はアベマのインタビューで「若隆景が推し力士」と公言するわけ分からん感性の持ち主で面白いってぐらいで、いずれにせよホノボノとした話題提供にとどまり「あんのクソやろう負ければ良いのに」というような強い感情を引き出すにはほど遠い。どっかの部屋が分かりやすい超ドレッドノート級のヒールになり得る新弟子引っ張ってきてくれることを期待するけど、いまの相互監視で足引っ張り合う社会情勢からして、そんな危ない弾を仕込みたがる部屋もないだろうから、豊昇龍関には横綱になったからには、是非これまでの品行方正な行いを悔い改めて、叔父さんを凌駕するような公私におけるハジケっぷりを披露して、大化けして欲しいと願っている。そうなれば、偉大な悪者横綱として、豊昇龍は朝青龍の甥っ子と言われることはなくなり、逆に「朝青龍関っていう豊昇龍関の叔父さんも横綱だったんだよ」と言われるようになるだろう。是非その方面でも頑張ってもらいたい。優勝明け会見に遅刻してたみたいだけど、イイゾその調子で行け!豊昇龍。なんだったら相撲協会上げて豊昇龍関を”悪の横綱”として売り出すアングル(対立を煽るようなシナリオ)を書いたって良いだろう。取り組みで八百長は勘弁して欲しいけど、取り組み外の売り出し方ならなんぼでも工夫してもらいたい。相撲協会の広報担当におかれましては是非そのへんご検討願います。
なにはともあれ、初場所豊昇龍関優勝、横綱昇進おめでとうございます。