2025年2月22日土曜日

バカと刃物

 魚料理するのに毎日のように使ってるのは、おかーちゃんが愛用してるようないわゆる文化包丁である。文化包丁っていうのは、ある程度幅広で菜切り包丁みたいに野菜はもちろん豆腐切って刃の上にのせて運んだりもできるけど、刃先はソレナリに尖ってて、魚もおろせる、もちろん肉切ってもいいという万能タイプで、魚肉野菜の3つが切れるので三徳包丁とも呼ばれたりする(文化包丁と三徳包丁の整理については諸説あり)。まあそれぞれの専門職である出刃やら刺身包丁なんかのような専用品ならではの使いやすさは期待できないけど、いちいち出刃で魚下ろしてから刺身包丁だしてお造りにする、とか飯の度にやってられるかよっていう主婦(夫)の為に作られたような便利な包丁で、魚さばくのに一番適した刃物はなにかという議論になると、小出刃最強説やらマニアックなところではマキリ(アイヌの伝統的刃物から派生した漁師御用達の小刀)やオルファのカッター大を推す釣り人もいたりするけど、毎日のように魚を捌きかつ魚以外も料理する主夫としては文化包丁一択である。小出刃じゃ刃渡りが短くて野菜が切りにくいし刃も分厚いので綺麗にキャベツ千切りとか決まらん。かといって刃渡りのある出刃は重い。しかも、出刃系始め鋼製の包丁は手入れが面倒で怠るとすぐ錆びる。じゃあステンレス製はどうだ?っていうと今度は研ぎが難しくて切れ味保持するのにやや難儀する。その点でも文化包丁は良くできている。刃の部分は鋼材で研ぎやすく切れ味も良いんだけど、錆びにくいようにその刃をステンレスで両側からサンドイッチしたような構造になっていて、錆びるとしても露出した刃の部分ぐらいで研げばすぐに回復可能。誰が開発したのか知らんけど、非常に良くできていて感心する。専門職じゃないけどなんでもできて手入れも楽な器用な便利屋的刃物。ワシ、普段のオカズ魚のアジ・カマスはもとより、70のスズキやら90の青物いただき物のカツオなんかも文化包丁一ッ本でさばいている。文化包丁で100キロのマグロ捌けと言われたら刃渡りが足りずに苦労するかもだけど、多少時間掛けて良いならさばく自信はある。出刃ほど刃が厚くないので骨とか切れないと思うかもだけど、太い骨は初めから切るのを諦めて、関節に刃を入れたりボキッと折ったりすれば良いだけなので、やり方知っていればプロが使うような日本刀みたいな刃渡りのある包丁でなくても、何度も刃を入れていく必要はあるけどさばけるのである。カブト割りとかも包丁が入る部分に刃を立てるのと押し広げてメリメリ刃物じゃなくて力で割っていくのとの併用で十分可能。逆にプロみたいに一刀両断にダンッ!と決めようとすると、素人だとカツオの背骨程度で出刃使っても刃が欠けるだけである。

 今使ってる文化包丁は、自分史的になかなかに歴史があって、学生時代からかれこれ30年は使ってる。大学に入るときに風呂トイレ台所共用の学生寮というか下宿屋さんにお世話になったんだけど、食費も外食だと掛かるので自炊するようにと、包丁一本持たせてくれた母心、っていうその包丁では実はない。盗まれることはないだろうけど、共用の台所に置いておくと勝手に使われたりはありそうなので、部屋に調理後回収していた。ところが、共用台所には誰でも使ってイイらしい包丁が1本あって、部屋からいちいち自分の包丁持ってくるのも面倒くさくなって、結局自分の包丁は最初の頃使ってたけど、大学在学中のほとんどの期間で共用包丁で料理していた。研ぎながら状態よく使っていて、卒業する頃にはすっかり愛着が湧いてしまい。”母の愛”のまだ新しい包丁と引き替えに、共用包丁をもらって就職先の東京に持って行った。銘を「白寿」という。今調べてみたら刃物どころ岐阜県関市の「正広」というメーカー製で、今でも作られているようだ。すげーロングセラーでワシが気に入るのも納得で、ながく主婦(夫)の友として愛用されてきたのだろう。まあでも正直どうっちゅうことのない普通の文化包丁である。3000円前後で購入可能。ただ、どうっちゅうことのない普通の文化包丁だけど、最初に書いたように手入れしやすく、何でもこれ一本で料理できる便利さから、いつもワシが料理するときには共にあった。30年から研いで使って数限りない料理を作ってきた。そうなると手に馴染んで単なる刃物の域を超えて愛着が湧いてくる。とくに近年は仕事やめて時間もあるのでじっくり料理に向き合う時間もあり、魚をさばくのを筆頭に出番が多く、調子が良いと切っ先ではなく、その後ろあたりのゆるいカーブを描く刃先に自分の神経が繋がっていて、魚の骨のすぐ上にその刃先がスッと入っていく感覚がある。そういうときは料理していて楽しい。30年からすると包丁も手の一部になっていく。包丁の手入れの仕方を参考までに書いておくと、とにかく刃先が鈍ったらすぐ研げってだけである。砥石に水を吸わせてっていうのがお作法だろうけど、そんなの待ってられないので水で湿らせてすぐ研ぐ。魚をなん10匹もさばいていると途中で刃の走りが悪くなってくる。その時はその場で速攻で研ぐ。切れの悪い包丁では綺麗に包丁入れるべき所に刃を走らせきれないし、切れが悪くて引っかかるような状況だと、思わぬ怪我につながりかねない。もちろん料理が終わったら、研いで終了。毎日のように研いでいるとそれほど時間を掛けて研がなければいけないほど刃がなまってしまうことはない。片面50回、反対側30回とか研いでやればOKで次も気持ちよい切れ味で使える。砥石は中砥ぐらいがちょうど良いと思う。学生時代和食チェーン店でバイトしていたけど、板さん達、しょっちゅう包丁研いでた。そしてまな板とか流しとかも常に洗って清潔第一で働いていて、見てて気持ちよかった。

 刃物で思い出深いのは、他にバックのフィレナイフとビクトリノックスの折りたたみナイフがあって、バックのフィレナイフは開高先生の「オーパ!」シリーズで最初和食の道具を山ほど持ち込んでた料理人の谷口教授が、旅慣れてきたらフィレナイフ1本でオヒョウとかもさばくようになって、ってのを読んで高校生の時にバスプロショップスでケン一と共同購入で送料節約して”個人輸入”した。当時はまだインターネットがなくて紙のカタログ見て手紙で注文する方式で、トラブって注文した憶えのない七面鳥の鳴き声が出せる狩猟道具とかが届いてしまい、英語のリンコ先生とかに助けてもらいつつ対応したのも懐かしい。魚さばくにはこれ一本で済ませられるのでキャンプとか行くときに愛用してたし一時期は家でも好んで使ってた。ビクトリノックスは釣り用のウエストポーチとかに放り込んでおいて、ひっくり返って死んだシーバスとか締めて帰るときやら、ルアーが絡んだロープ切ったりするの使ってる。昔は今ほど刃物の携帯にうるさくなくて、学生時代は自室の鍵を付けてポケットに入れて持ち歩いていた。こんなちっこいナイフでなんの犯罪ができるのかわからんけど、今日日ポケットにナイフ入れてると銃刀法の現行犯で捕まりかねず、いやな管理社会になったのもである。ナイフの刃と栓抜きが付いてるだけの薄っぺらいシンプルなのが邪魔にならずに使いやすい。「何で栓抜き?」と思うかもだけどこの栓抜きはマイナスドライバーとしても缶切りとしても使える便利な代物で、何かと言えば酒飲んでた学生時代、つまみにコンビニで買ってきた缶詰を前に「缶切りどこにある?」とかいう状況で貧乏学生の部屋にそんなもんないことも多く、当時は今ほどすべての缶詰がパッカンと手で開けられる方式ではなかったので重宝したモノである。栓抜きも缶切りも使わなくなったので樹脂のガワじゃなくてアルミ製のガワで刃が大小2枚のシンプルなヤツの方が薄くて良いかもだけど、昔からの習慣でたまに紛失したりしたときも同じヤツを探して購入している。コイツでおそらく4代目だと思う。

 それから刃物で忘れちゃならないぐらいお世話になりまくってるのが、オルファのカッターとアートナイフで、アートナイフは多分、シーバス用の”お手元フライ”とか作るような小細工するのに東急ハンズかなんかでちょうどいいやと買って、使いやすさ細かい作業のやりやすさ、替え刃を用意すればいつも最高の切れ味が保てる便利さで以来愛用している。最近替え刃が切れてちょうどおかわりしたところである。最近だとポリアセタール樹脂を削ってラインローラーを自作するときとかに活躍してくれた。部品やらルアーやらの自作、改良に、あると便利と言うよりはないと困るぐらいの名品だと思う。手作業好きな人なら一家に1本必携だろう。

 オルファのカッター、あえて限定するなら大きい方は、もう世界最強の刃物の候補の1つと言って良いだろうってぐらいで、世界中で愛されている傑作である。今更書くまでもなく、世界に先駆けて刃を折ることにより常に鋭い切れ味を確保できるという機能を備え、日常用途からプロの作業用途まで幅広く使われているのも、社名のオルファが「折る刃」から来てるのも皆様ご存じのとおり。意外に便利なのが「のこぎり刃」で本格的なのこぎりにご登場いただかなくてもオルファのカッターでだいたいカタが付く。オルファのカッターとの付き合いっていつに始まったのか記憶が定かじゃないぐらいで、小学校の工作の時間には既に使ってたように思う。

 で、切れ味鋭いオルファのカッターといえば自分の手を切るのはお約束で、小っちゃいのから大ごとまでワシの左手には何カ所かオルファのカッターが刻んだ傷跡が残っている。その中でも派手にやらかしたのが小指の付け根あたりの手のひらの傷で、手相的には結婚線のところに1本線が増えている。それは高校の文化祭の準備の時にやっつけたもので、ハッポースチロールの箱を切って貼って削って丸い玉を作ろうとしていて、丸くて持ちにくいのを手で持って作業していたんだけど、文化祭の”お祭りノリ”で密かに持ち込まれて”赤まむしドリンク”の瓶に入れて配給されていたウイスキーで多少酔っ払って手元が狂ったのか、持ってる左手ごと綺麗にスパンと刃を振り抜いてしまった。切り傷の深さからやばいなと思ったけど、刃物で手を切るぐらいは慣れてもいたので「ちょっと保健室行ってくる」って保健室に行ったんだけど、出血量が酔ってて血の巡りが良いのも手伝ってかドバドバで、手傷を負った抜け忍みたいに血が廊下に落ちて追っ手をまくことができず、保健室に怖いもの見たさでやってきた見物客がワラワラと湧いて保健の先生に怒られました。青春の想い出だね。酔っ払ったら刃物を触らないというのは刃物のプロである美容師さん界隈とかでは鉄則のようである。皆様お気を付けて。まあ酔ったら自分の手先から器用さが失われるってのを学べたのは良き教訓で、ワシャ飲んべえだった若い頃も、釣りに行く前の晩とかから酒断ちしてた。

 というぐらいで、刃物って日常生活やらに欠かせない代物だけど、痴情のもつれで刃傷沙汰っていうぐらいに、人を傷つける道具ともなり得る。それは人類が黒曜石から削り出した打製石器を使い始めた昔から、刃物が持つ二面性であり本質でもあると思う。今の危ないから何でも規制っていうなかで、刃物を遠ざけてしまうのは、この人類の生み出した偉大な文明の利器の有用性をも遠ざけてしまうことになりそうで、ワシャちょっと心配なのじゃ。刃物の手前に手を持ってきてはいけないということを学ぶのに一番確実なのは、刃物の手前に手を持ってきて、結果手を切って痛みで学ぶことだと思う。痛みも危険もなにもなしにナニかを得ることなどできないと、そう思うのじゃ。

4 件のコメント:

  1. 少し前に職場でカッターは基本的に使用禁止とか瞬間接着剤を使う際は保護メガネ必須というルールが出来ました。
    アホくさいですがそういう全体ルールが作られる時代なんですよね。

    一時期オルファカッターやデザインナイフでバルサをひたすら削ってましたが、加工中にミスって血がたっぷり染み込んだバルサルアーはメモリアルな魚を連れてきてくれた思い出があります。掌の傷を見る度にその魚を思い出してニヤニヤできます。
    釣り人の血肉を吸ったルアーには念的な何かが宿っているかもかもしれません。(呪い浮子的な…)

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    1.  ヤマアラシの棘のトップの呪い浮子!!

       しかし、カッター使用禁止とか、私が思ってるより世間は末期的ですね。
       死なない程度、後遺症が残らん程度の怪我ぐらいしといた方が良いのに、と思う昭和的思想は時代遅れなんでしょうね。
       社会全体がリスクを取らずに良いとこ取りができる気になってるような風潮が私には鼻について我慢なりません。

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  2. シーバス行くときは刃物要らないんですが、
    ニゴイ行く時は藪漕ぎするからネパールのククリ使ってますので
    職質されないように注意してます。

    ビクトリノックス、錆にも強いし刃物以外の用途、
    PENNのベイルスプリング交換くらいなら
    出来るから重宝してます

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    1.  ククリもそうとうにアレですが、仲間内で山に入って藪漕ぎするときに、南米のコカイン農場の見張りのチンピラが持ってるようなマチェットを使ってるヤツがいて、これがまた筋トレ好きのマッチョマンで、仲間内では現行犯逮捕されたとしても、警官の判断は妥当だろうな、と言われてます。

       ビクトリノックスのマイナスドライバーは確かにたまに出番がありますね。便利。

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