2023年8月26日土曜日

苦労をともに

  現実に絵描いたり、小説書いたりする人工知能(AI)が出てくる時代になって、人工知能は人の相棒たり得るか、もっと端的な例ならAI搭載形のアンドロイドを人は愛せるか?とかいう題材をあつかったマンガとか増えたように思うけど、そんなもんは古今東西あまたあるSF作品とかで”可能”と答は出ているように思う。「ナイトライダ-」のナイト2000(キット)とか「コブラ」のアーマロイドレディとか、「時間停止勇者」の岩吉・・・はちょっと違うか。

 根本的に人が他者を認め、愛するという行為において、他者の本質が機械仕掛けだろうと何だろうと結局のところあんま関係なくて、自分がどうその他者を認識しとらえるかの方にこそ根源的な理由というか原因があると思う、と書くとちょっと飛躍と皮肉が過ぎるだろうか?

 ワシャ釣り具は”相棒”だとモロに感じている。物言わぬ道具に過ぎないけど、それでも頼りにして特別な絆を感じたりもする。要するに自分と共に何かを為す、そのために自分が何らかの働きかけをして使うと、相応の機能を発揮して仕事をこなしてくれる。そういう入力と出力的なものが伴う点では人間相手と一緒と言えば一緒、自分と他者との関係という大枠では変わらんがなと雑に考えている。

 人間は、太古に生まれた生命から脈々と引き継がれた遺伝的な情報と、生まれて育てられ学んだ文化や知識的な情報を元に、何らかの働きかけに対して、その情報に拠って答を出しあるいは反射的にその時々の反応を返す。物言わぬ道具であっても過去から改良を加えられつつ作られ調整されてきた、様々な”情報”で構成されていると言える存在であり、その情報に拠ってこちらの働きかけに対して然るべき機能を果たすところは、蓄積された情報が対応を決めるという点で同様である。といえばもう少し丁寧な説明になっているだろうか?ちょっと哲学的というか屁理屈じみているかもしれないがご容赦願いたい。

 投げて巻くだけの簡単な機能しか持たないリールでさえ”相棒”だと感じるのに、思いっきり人間くさくなってきたAIが人間の相棒たり得ないわけがない。”愛”についても、人はピグマリオンコンプレックスなんて言葉があるぐらいで人形に恋することさえできる、いわんや人型で受け答えができるアンドロイドおや、というところだろう(”いわんや~おや”の構文なんて使う機会滅多にないけど使い方これであってるか?)。

 でもって、今年の春のシーバスシーズンを相棒として共に闘った丸ミッチェル「304」マニュアルピックアップ版と大森製コンパック「カプリⅡ」を、遅くなったけど、304は来期も使うつもりで分解フルメンテ。カプリⅡは蔵で眠ってもらうべく内部浸水させてはいないので分解は無しで表面塗装が腐蝕しないようにグリス塗ってドラグノブを借りていたオートベールNo.2に返しておく。

 この春のシーバスは苦労した。なにせ最大が40あるかないかでセイゴしか釣れんかった。304はコレからも使うのでまた機会はあるだろうけど、カプリⅡはボロさ加減からいってこれ以上使うのは難しいので最後に良い魚釣って”釣り具”として生まれた本懐をとげさせてあげたかったけど、不甲斐ない使い手でセイゴしか釣らせられずに申し訳ない限りである。でも2台とも苦しい釣りを共にしただけに、愛着も湧いたし、何というか戦友感がそこはかとなく漂ってきている。304は今後もしっかり働いてもらう予定だけど、カプリⅡは売れるような個体じゃないし蔵に眠ってもらってたまにクルクル回して、ワシが死んだら中古釣具屋にでも流れていくんだろうけど、釣り場に出ることはおそらくもうないだろう。静かに余生を送らせてやろう。

 でもって、304なんだけどワシ雨が降ると喜んで釣りに行くタイプのシーバスマンなんだけど、304は雨の日の釣りにはあんまり向いてない。あきらかにローターの下部の本体との隙間から水が入る。しかたないのでその辺りにもミッチリ青グリスぶち込んだけど、水と混じって白く濁ったグリスが雨の中釣ってるとドロドロッと流れ出てきたりして塩梅悪かった。来シーズンから雨上がりとか専用にしてザンザカ降ってる最中は避けて使おう。

 今年は思いっきり雨の中使ってたので浸水しまくりで、途中で一回グリス入れ換えたけど、丸ミッチェルの良いところは極めて単純で整備性がすごぶる良いところで、全バラしでグリス入れ換えてもたいした手間じゃない。

 ということでパカッと開けると、元々青かったグリスが真鍮の部品から出た緑青で緑に変色したうえに水が混じって白濁している。まるいベベルギアの外側に白濁していないグリスが残っているのがお分かりいただけるだろうか?

 ギア抜いたところに入ってる逆転防止関連も真ん中写真のようにグリスに埋まってて発掘してやる必要がある。これぐらいガッチリとグリスシーリングしてあると、グリスに水が混じったので長期的にはどうか分からんけど、わりと鉄系の部品も多い丸ミッチェルだけど、ほぼ錆びは出ていない。ほぼと書いたのは実はハンドルノブのネジが鉄にメッキなんだけど、そこはさすがにグリスが落ちて注油はそれなりにしていたけど頭のあたりが若干錆び始めていた。ということで、内部に錆は認められなかった。というわけで防水性は良くないけど、整備性の良さを生かしてグリスまめに交換してやれば腐蝕対策は充分できるように感じた。実用機として問題無い程度には塩水での使用に耐えると評価できるんじゃなかろうか。

 分解するとこんな感じだけど、部品数30個もない。

 ベールワイヤーやら反転機構を取っ払ったマニュアルピックアップ方式にしてあるし、あと取っ払って省略できそうな部分って、逆転防止ぐらいか?って感じで、逆転防止は指でスプール止めても何とかなるけど、それ以上はもう省くところがないぐらいに単純な設計である。待てよ、ドラグも省略してブレーキはハンドルで調整するという”ダイレクトリール”にしてしまうという手がまだあるか?さすがにそこまでやると手先の技術に頼る部分が大きくなりすぎてちょっと扱いきれる自信がなくなってくる。

 っていうぐらいに原始的で単純で、でも魚釣るのに不快な問題としては、雨の日にグリスが水と混じって漏れ出てくるぐらいで、あんまり生じず、使ってて非常に気持ちの良い、使い心地の良好なリールである。なんだろベベルギアの巻き心地ってザラついてるけど力強くて独特の良さがあるように思う。ひとシーズン使ってみてかなり気に入った。

 ということで、来春も頑張ってもらうためにグリスグッチャリで仕上げておく。

 中身も青グリスグッチャリだけど、外側もグリスチョイチョイとつけてティッシュで塗り伸ばして腐食防止策としてるんだけど、塗ってると指もグリスでヌラヌラになってくるので、最後の方は手でヌリヌリとリールにグリスを塗ったくってやった。カプリⅡにも感謝を込めて塗ったくってやる。ドラグノブ落っことしてすまんかったな。

 2台とも、春シーズンお努めご苦労さんでした。苦戦続きだったけど良い相棒と一緒だったから頑張れたよ。ありがとう。

2023年8月19日土曜日

失われたアジを求めて-ナマジのビンボメシ豆アジミキサー編-

 豆アジの酢締めにさすがにちょっと飽きてきた。

 豆アジ料理において”必勝パターン”だった、揚げ物からの南蛮漬けの流れは、健康診断でお医者さんにコレステロール値が高いので揚げ物控えるように指導を受けて、お客さん来るときとかを除いて封印、新必勝パターンとしてはちょっと”背ゴシ”で食って残りは酢締めというものになった。とはいえ5月後半から2ヶ月以上食い続けてると飽きてきたことは否めない。飽きて「また今日も豆アジ酢締めかよ」と思ったとしても、食い始めると旨い旨い!と食ってしまうにしてもだ。

 ということで、新たな豆アジ料理のレパートリーを増やさねばと知恵を絞ってみた。煮付けとか塩焼きは豆アジだとイマイチで骨が中途半端に気になって外すのは面倒臭いけどそのまま食うにはジャマ。そう考えると揚げるのも酢に漬けるのも、骨ごといくには理にかなってる。高温や酸で骨を気にならない程度に柔らかくしてしまってるわけだけど、その他になにか骨対策はないのだろうか?ちなみに豆アジ釣ってくると100匹とか料理することになるので3枚おろしするような料理法は無理。揚げるときは胸ビレのあたりに爪立ててムシッとむしると鰓と腸が取れるのでその後調理、酢締めの時は後頭部にハサミ入れておいて頭をむしると腸ごと取れるので、100匹下処理しても30分かかるかどうかである。

 頭取って骨ごとザクザク切って酢をかけて”背ゴシ”は旨いんだけど、2,3日持たせるような保存性がまるでないので、沢山釣ってきてまとめて料理するには向いていない。背ゴシから包丁2本でチタタプして”ナメロウ”状態にしてしまえば、ハンバーグ風とかに火を通して保存食化も可能だけど、100匹からの量を毎回一人でチタタプするのも手間食いすぎだよなと思ってたけど、現時点のワシにとってそれは全然手間じゃないということにハタッと気がついた。

 ワシ、そういえばアジの頭粉砕してコマセ原料にするためにミキサー(フードプロセッサー)買ったやんけ!アレ使えば酢締めの時みたいに頭と腹だけ取ってチョッパーモードのミキサーにぶち込んでギュィーンと回してやればいいだけやン。と気がついた。デカいエソを釣ってすり身汁というのは密かに狙ってたけど、豆アジでやっても絶対旨いはず。

 ということで早速やってみた。

 最初の写真なにやってるのかというと、水を入れて凍らせたペットボトルで流しを冷やしているのである。豆アジの時期は夏なのでというのもあるけど、小さい魚って温まってしまいやすく、それはほぼ痛みやすいことと同義である。なので、釣ってこれまたペットボトルの氷で冷やした海水の入ったバケツにぶち込んで”水冷式”でさっさと魚の温度を下げてしまったら、保存から料理までなるべく温度を上げないことに留意する。どこか途中で一回温度が上がるとその後再度下げたとしても、上がるときと下がるときの往復の時間高い温度にさらされることになり、鮮度低下の早い青魚とかでは、せっかくの産直トレトレのはずの魚がグズグズになってしまいかねない。なので神経質にも、流しに魚をぶちまける前に流し自体を冷やしているのである。

 で、下処理としては頭とハラワタを取っていくんだけど、今のところハサミが一番手早く作業できる。このときもなるべく触らないように、冷えた流しの上を滑らせつつハサミを入れたら魚を保冷剤のある方に移動させていく。ハサミ入れるのは切れ目が入ったら背骨まで突っ込んでパチンと切る感じで、あんまり大きく切りすぎると今度は腸が頭と一緒に取れてこなくなるので、良い塩梅、最小限のハサミの入れ方を手におぼえさせる必要がある。

 最後、後頭部の切れ込みに親指突っ込むようにしてむしると頭に胸ビレと腸がくっついて取れる。取れたら保冷剤やらペット氷の上に積んでいく。このとき手で握らざるを得ないんだけど、なるべく握ってる時間が少なくて済むようにと試行錯誤した結果、今のところ2匹掴んで連続でむしるのが早い。ってな感じでとにかく原材料があったまらないように時短を意識して、今回80匹だったけどそのぐらいは30分掛からないぐらいで終えたいところ。

 でもって、下処理が終わったら間髪入れずにミキサーにかける。今回80匹一気にはできそうになかったので、半分づつギュイーンとやってみた。

 スリ身に添加が必須なものはなにかお分かりだろうか?今回できるだけ素の豆アジスリ身の実力を知りたかったので、それ以外は入れていない。

 まあこのブログ読んでくれてるような玄人衆にはいまさら説明するまでもないかもだけど、塩である。

 すり身と言って想像する製品「カマボコ」だの「竹輪」だのの弾力は、塩が魚肉のタンパク質(アクトミオシン等)を溶かしだして熱でゲル状に固めることで生じるので、塩の添加は必須。

 ただ、魚の種類によって弾力が出やすい魚、エソ系やらスリ身の大正義スケトウダラやらもあれば、弾力でず元々まとまりにくい魚種もあったり、そういう魚種ならいざ知らず、鮮度が良くなくてアクトミオシン等が少なくなってるのをつなぎの澱粉添加やらでごまかした”粉っぽい”製品もあったりする。マアジはそれほど弾力性出ない印象だけどどんなもんだろう。一回目はジップロックに入れて冷凍保存。冷凍後の品質の変化も見ておきたい。”冷凍スリ身保存”は、それこそ鮮度落ちが早すぎてまともな売り物にならなかったスケトウダラが、一躍重要魚種に躍り出た北海道水試開発の”船上凍結すり身”が水産加工流通に革命を起こしたぐらいに有用な技術なので、豆アジスリ身が冷凍で品質落ちなければ非常に使えるので大いに期待。

 で二回目は一回目回したときに、頭と腸をミキサーにかけるのと違って身と皮と骨をミキサーに掛けるのはエラい粘りが強くて、ミキサーちょっとうなり始めるぐらいだったので、塩に加えて酒(焼酎甲類)をちょっと加えてゆるめてみた。で2回目はすぐにすり身汁にぶち込むつもりでいたんだけど、そういえば塩加減テキトーで全体に回りゃいいやぐらいでまったく味見してなかったので、塩気足らなかったら足そうかなとスリ身の状態で味見してみた。当然刺身にできる鮮度の魚なのでスリ身食っても食品衛生的には全く問題無い。

 塩味はちょうど良かった。どころの騒ぎではない。この状態で滅茶苦茶旨いんでやがる。

 ワシ高校出るまで実家暮らしで、とーちゃんカーチャン2艘曳き状態で共働きだったんだけど、食事はバーちゃんが作ってくれていた。そんなバーちゃんに生きている間に作り方教えてもらっとけば良かったと悔やんでる魚料理がいくつかあって、そのうちの一つに、なんか叩いたアジとかイワシとかに生姜すり下ろして酢をかけて食べているのがあって、当時育ち盛り肉食系男子だったナマジ君には旨そうに見えなかったので食べなかったけど、後年あれは旨かったんだろうなと思って、再現してみようと背ゴシの延長かなとアジを細かくチタタプして生姜と酢で食べたけど、塩が足りなかった気もするし、頭も入れた雑味がキツすぎたようにも思うけど今一ピンとこなかった。でも、たぶん正解はこれだ!頭とハラワタ抜きで骨ごとスリ身状態の魚に塩が入ってる”塩味ナメロウ”的なモノに生姜と酢で劇的に味が決まった。

 塩は魚のスリ身から弾力の元になるようなタンパク質を抽出し溶かしだす、と同時に当然旨味の元になるアミノ酸やらも抽出し溶かしだしているのだろう。マアジは味の良い魚で通ってるけど、その味が身の中に隠れてるんじゃなく染み出してきてしまって口の中に広がっていく感じといえば、多少は伝わるだろうか?料理の味と女性について書ければ物書きとして一人前だそうだけど、ワシの筆致では書き切れそうに思えない。でもあえて、一言で分かりやすく書こうとするならコレは”人間用のチャオチュール”である。これで少なくとも猫ッ飼いの人には伝わっていると嬉しい。

 思わぬ大収穫という感じだが、すり身汁も当然のように旨かった。サンマスリ身のようにボロボロと崩れるならつなぎに卵白とか入れた方がイイかなと思ってたけど、思いのほかしっかりとまとまって弾力もあり、つなぎは不要な気がする。スリ身の味付けに味噌入れたり、ネギ入れたりで変化つけてもまったく問題無さそうな感じ。ワシ、ちょっと骨が残ってるくらいの粗挽きが好きだけど、たぶんミキサーしつこく回してやれば気にならなくなる程度に骨も粉砕できるはず。すり身汁でこれだけイケるのなら、豆アジハンバーグ的な焼き物とかも充分イケそう。

 これで冷凍スリ身がイケるようなら完璧である。

 冷凍したスリ身を調理するときは、包丁が入る程度にちょっとだけ解凍してやって、ザクザクとサイコロ切りにしてグツグツ煮えてる鍋に投入でOK。へたに完全に解凍してしまうと自己消化とか始まって鮮度が落ちる方向に行くので凍ったままぶち込むぐらいの感じで良い。そうすると期待したとおり、弾力もしっかり出てまとまりも良く味も良く、合格という感じに仕上がった。

 ミキサーって以前も書いたかもだけど結婚式の引き出物とかにもらって、最初珍しくて使うけどすぐ飽きて、物置に放置されがちだと思うけど、料理に使うと意外に捗ります。って調理器具だから当たり前か?

 基本我が家ではコマセ用のマアジの頭と腸をミンチにする仕事を任せていて、もう包丁2本でチタタプには戻れないぐらい重宝しているんだけど、料理につかうとまたこれが良い仕事してくれました。

 ご自宅の物置に放置されたミキサー、フードプロセッサーの類いがございましたら、刺身にできる鮮度のアジとかで塩入れてスリ身作って”人間用チャオチュール”の美味を是非味わってみてください。アジはなにやっても旨いって話ではありますが、これはなかなか衝撃的に美味しいと思います。お薦めします。

2023年8月12日土曜日

プランBは時にプランAより良かったりする

  前回の「タックルNo.1」のネジ切ったラインローラー固定ナットの修繕においては、はからずしもプランAが成功してしまい、出番のなかったプランBだけど、わりと楽しげなプランではあったので、もいっちょ固定ナットをネジ切ってしまってた「タックル5No.2」については、せっかくの立案をお蔵入りさせるのももったいないし、同じこと2回やってもつまらんし、ということで最初からプランBのほうでちょっとした改造に手を染めてみたいと思ったしだいでございます。足の遅い台風のおかげでリールいじりが図らずも捗ってしまいました。
 この個体はネジ切った個体ではなく、ボロいのでいいからベール周りを”部品取り”できる安いのをということで入手してあった個体で、すでにベールワイヤー、ラインローラー、ローラーナット、反対側のバランス取りのオモリ兼ベールワイヤー固定部はもう一台に移植すべく正常な状態で一式取っ払ってしまっていて、ベール周りはベールアームが残ってるだけの状態。当然、ネジ切った方の一式は余ってるので、そちらをプランAでラインローラーの填まる軸に穴を掘ってリコイルで雌ネジ作って、というのもやれる余地は残っているけど、とりあえず今回はそっちは放置でプランBに邁進していく。

 今回用意する材料は少ない。写真の外径8mm、内径4mm強のジュラコン製スペーサー、4ミリの真鍮パイプ、M2.6のネジとワッシャーとナット、あとはスズハンダとアルミ板、セキ糸と接着剤のたぐいぐらい。
 ベールワイヤーの素材が見当たらないから察しの良い方なら見当が付いたと思うけど、今回の作業はベールレスというか”マニュアルピックアップ方式”への改造である。ベールワイヤーが折れるとか、折れたジャンク個体を入手したとかの場合に手っ取り早く使用可能な状態に戻す方法としてベールワイヤーを取っ払ってマニュアルピックアップ機にしてしまうというのはありっちゃありだと思う。特に普段ストッパーを外しておいて取り込みとかでハンドルから手を離すときだけストッパーを掛ける”ミッチェル式”とマニュアルピックアップ方式は相性が良いのはすでに紹介したとおりで、そのお作法さえ慣れてしまえば、いちいちラインを摘まんで外したりする必要もなく、実釣に支障を生じない程度には使えるので、ベールワイヤー折れて古いリールで部品の確保もままならん、というときには正直お薦めの方法である。今回はベールワイヤーじゃなくてラインローラー固定ナットが死んだのでいっそラインローラー一式再建してしまおうっていう流れだけど、単純にベールワイヤー折れた状態からのマニュアルピックアップ機への改造は、折れたベールワイヤーを根元から両側バチンバチンとニッパーとかで切って、多少絡み防止とかバランス調整とかしてやれば改造完了と簡単なはずである。

 とはいえ今回のラインローラー再建しつつマニュアルピックアップ化もたいして難しくない。

 ジュラコンスペーサーと真鍮パイプのサイズもピッタリだし、ベールアームの窪みにもジュラコンスペーサーの8mmの外径はちょうど填まるので、ラインが落ちたりすることはない。

 真鍮パイプを若干短くするのは、ネジの頭をジュラコンの中に収まるように4.5mmのドリルで穴を途中まで拡張してやるから。
 ネジの頭がジュラコンスペーサーの外に出ていると、糸落ち防止の”フリル”的な部品がないとネジ付近にジュラコンスペーサーとの間にラインが入る隙間ができてしまう。でも、ネジをジュラコンスペーサーの中に引っ込めてしまえばラインが噛んだり絡んだりする問題は生じないので、単純な設計だけど、ほぼ完璧な対策になるはず。

 ジュラコンにラインローラーの溝を掘る前に仮組みしてみると、ピッタリ填まって良い感じだけど、ネジと真鍮パイプの間に隙間がある分ちょっとガタが出るというかナット締めて固定したときのズレが気になるので対策必要かなぐらいで、問題なくいけそう。

 大枠は固まったので、ラインローラーの形状も調整して組み上げていく。

 ネジと真鍮パイプの間にはセキ糸を巻いてピッタリ填まるように調整して接着剤で固定。
 
 ラインローラーとなるジュラコンスペーサーの形状は、れいによって”空気銃弾型”でいくので、アートナイフで削り出して、電動ドリルで回しつつダイヤモンドヤスリをかけておく。

 実際に組んでみて、ギリギリ回るぐらいに拡張する穴の深さを掘っておいて、コンパウンド替わりの歯磨き粉をつけて一回組んでルーターと輪ゴムで接続して回しまくって当たりを取って滑らかに回るようにしておく。

 一旦バラして歯磨き粉とかを洗って落としてから、ネジの余分の長さを切断して、グリス塗りながら組んでナット側はラインが引っかからないようにエポキシ盛っておく。

 回転もスムーズで良い塩梅に組み上がってめでたしめでたし、ところがコレで終了にはならない。というか意外に難しい部分が残っている。ローターの回転バランスの調整である。

 もともとのベールワイヤーのベールアームと反対側には、写真一番上のバランス取るための錘がガッチリ填まっている。今回ベールワイヤーごと一式取っ払っており、ベールワイヤーの根元で切ってオモリ部分だけ回収して使うというのも手としてはあったけど、ネジ切ったラインローラーナットが付いてたベールワイヤー一式も、再生できるならそのうちやっても良いかなと思ってるので、新たにオモリを加えてバランスを取って巻いたときにプルップルにならないようにどうにかする。

 我が家に鉛線の類いは既に金属ゴミの日に出してしまって無いので、こういうときはちょっと不便。スズハンダで代用するけど明らかに軽いので元々オモリが填まってた場所に詰めこんで、アルミ板で蓋したぐらいでは全然まだ足りず横にするとベールアーム側がクルッと下に来る。

 仕方ないので、ローターの中、普段はスプールの下になる部分にもスズハンダぶち込んでいってウレタン接着剤でずれたり外れたりしないように固めて、どうにかベールアーム側との単純な重量的バランスは取れた。ただ、ベールアームは高さがあるので回すとどうしても完全にバランス取れているわけではなく、ややプルッてるかもだけどまあ許容範囲におさまった。

 同じようにベールワイヤー取っ払ってマニュアルピックアップ化した丸ミッチェルは特に調整必要なかったのは何でだろ?と思ったけど、あちらはそもそも回転バランス取るためのオモリは最初からローターにくっついているのでベールワイヤー取っ払っても、ある程度バランスはとれる構造。まあメーカー純正のマニュアルピックアップ化部品使ったのでその辺は問題なく作ってあるって話か。

 ついでにスプールエッジが腐蝕でザラついてたので、主軸ごと電動ドリルで回してサンドペーパーと歯磨き粉で磨いて、腐食防止に一応エポキシ薄く塗っておいた。
 ボロ個体で、ベールワイヤー一式持ってかれたダルマ個体だったけど、まずまず良い感じに改造により復活したんじゃなかろうか?ベールアーム自体から銅板とか加工して作るのも考えたけど、ちょっと金属加工は自信ない分野なので今回ありもののベールアームはそのまま使っている。なのでマニュアルピックアップで意味ないけどベール?を起こすことはできる。逆にベールアームを畳むことができるのはラインローラー部分が上に飛び出してて、雑に荷物に詰めると曲がりそうなベールアームの保護には役立つかも。

 こいつはせっかくなので、出番作ってやりたいところ。マニュアルピックアップ方式という単純で部品少なめな機構と、タックル5の外蹴りで部品数少なくシンプルな設計は統一感があって良い気がする。必要最小限でスピニングを作ったらこんな感じ、的な仕上がり具合に好ましさを感じる。
 ライントラブル防止重視なので、スプールエッジもいじらなくて良いだろうとライン巻き始めたら、No.1サイズは外周ギリギリまで巻くとスプール上下幅より糸巻き部分の幅が広くなってトラブルの原因になりそうだったけど、少なめに巻いてる分には糸巻き部分の幅とスプール上下幅はほぼ同じだった。でも、No.2サイズはわりと最初からスプール上下幅より糸巻き部分の幅が広い。糸巻き部分の下面に円盤追加で1~1.5mmも調整してやればちょうど良くなるハズだけど、面倒くせえので下側がグズグズになるのはそれほどドバッと出ていく原因にならないだろうから放置して、やや少なめの糸巻き量にしたときに上側は上面までキッチリ巻けるようにやや前巻きで巻いてやった。
 実釣で問題生じれば、糸巻き幅調整するけど、以前純正状態で使ったときに特に問題生じてなかったので大丈夫だと思う。

 今回は「ラインローラーが自作できる」と「マニュアルピックアップ方式のスピニングに馴染みがあって使える」の合わせ技一本な感じだけど、スピニングリール色々いじって身についた小技が役に立つようになってきて、なかなか楽しいことになってきたように感じてます。

2023年8月5日土曜日

大森補完計画

  ワシ常々釣り具と釣り人の関係は一期一会というか、それぞれの好みや道具の使い方とか想い出とかで、良いも悪いも変わってくるものなので、相対的なその釣り人にとっての最高の釣り具というのはあり得ても、全釣り人共通で絶対的な一番の道具などというモノはあり得ないと思っている。

 大メーカー様が、ヘッタクソでも問題なく使えるように技術の粋とボールベアリングをこれでもかと突っ込んで恐ろしい値段になってる高級リール様とかワシ金積まれても使わんぐらいに嫌悪してるけど、好きな人にはたまらん魅力があるんだろう。何が良いのかサッパリ分からんけど、おそらくそういう人には瞬間的逆転防止機構の搭載される前のPENNだの大森だのの良さは、ましてやボールベアリングすら入ってない原始的なベベルギア機の丸ミッチェルとか、それこそ何が良いのかサッパリ分からんだろうからおあいこである。お互い好きなモノを好きに愛でておけばいい話である。

 とはいえ、大森製作所謹製のダイヤモンドリールは古いスピニングが好きな人種には評判が良く、大森沼の住人はスピニングではミッチェル沼、ABU沼に次ぐ人口を誇っている気がする(当社調べ)。

 そんな大森スピニングだけど、ここがイマイチとイの一番にあげられるのが、スプールエッジの形状で、スプールの糸巻き部分上面がなだらかな傾斜になっていて、スプールいっぱいにラインを巻くと、端の方はスプール上下の幅を超えていてラインが崩れてグズグズになってラインがドバッと出ていくトラブルになりかねないし、ライン放出時に斜面に広く当たって出て行くのでラインの放出性的にも良くないという理屈である。右がその大森スピニングのスプールの例で「タックル5No.1」のもの、左が糸巻き部分上面が真っ直ぐの優等生の例でPENN「スピンフィッシャー4300SS」でPENNはやっぱり分かってるなっていう感じ。

 とはいえ、実際にはラインをスプールの直径ギリギリまで巻かず糸巻き量少なめで運用してやればトラブル自体はあんまり気にならず、実際の運用時は写真の「タックルオートNo.1(スプールはタックル、タックル5と同規格)」ぐらいの糸巻き量にしてるんだけど、ワシ遠投性とか気にしない近距離戦特化型の釣り人なので困ってはいない。いないんだけど愛する大森スピニングの欠点とされる部分が解消できれば、それはそれで気分が良いだろう。スプールの形状を変えるとなると、どっかの小工房にお願いしてアルミから削り出してもらうぐらいしか手がないように思えるかもだけど、そんな金のかかる人任せなことをワシがやるわけがない。

 じゃあどうするんだって話だけど、ゆうてワシZEBCO「15XRL」では割れて上部欠損したスプールを再建したぐらいで、なんなら日曜大工で樹脂素材主体にスプールそのものを作るのも不可能ではないと思っている。思っているけどさすがにそれは時間がかかるしめんどくさい。こんなもんスプールエッジの形状だけ真っ直ぐにしたいのなら、シャンプーハットみたいな輪っかを作ってスプールに填めて固定して、適当にそれっぽい形状にしてやれば良いだけじゃん。ということでおあつらえ向きにちょうどいじくって遊ぶのに良さげな「タックルNo.1」が送料込み1980円でネットフリマに出てたので確保、そのうちコイツでやっつけてみよう、と思っていたら先にいじくった外蹴りアウトスプール版「マイクロセブンNo.1」でラインローラー固定ナットが固着してるのをネジ切ってしまうという失態を犯してしまい、その時にとりあえず問題先送りにして、ベール周り両機種共通なのでタックルの方の正常なベール周りをマイクロセブンにとりあえず移植してその場しのぎしてあった。なので、ネジ切ったラインローラー周りの再建も今回やらねばならない宿題となっている。ということで、スプールエッジの形状改良と壊してしまったラインローラー周りの再建が今回のお題であります。

 それではスプール改良からいってみよう。

 まずは何はともあれ現状把握からだなと採寸から始めてみる。今回スプール上下幅にスプールの糸巻き部分の幅を合わせるのも重要なのでまずはそこから。単純クランク方式の場合、どう考えても主軸に刺さってる棒の上下の幅がスプール上下幅のハズなので測ると約11mmというところ。スプ-ルの糸巻き部分は上端まで測ると約16mm。ちなみに直径は下のスカート部分で47mmあるのにスプール上部では42.5mmと小さくなっていて、インスプールだと下がったときにライン放出がローターと干渉しないように下の方が直径大きい必要はあるけど、アウトスプールの場合は同じで良いはずなので、これも修正するとスプール直径大きくなって”直径大きめのスピニングは使いやすい”と思っているので良い具合の改良になるはず。高さ的には5ミリ、スプール上面からスプールエッジが下にくる位置に輪っかを填めてやれば良いことになる。5ミリって大きいけど実際には現状のスプールエッジは丸く滑らかに立ち上がってるので、スプールエッジと呼ぶべきラインが当たるカド自体は2,3ミリ下がる程度という印象。

 でもって、どうやって輪っかを填めるか色々悩んだ。輪っかを切らずに填めるのはワシ手品師でも何でもないので難しい。難しいということはできるのか?と聞かれれば、一旦スプールを上下に切って填めてからスプールをカスガイ使って上下くっつける方法がないこともない。ZEBCO「15XRL」のスプール再建したときの方法の応用である。でもスプールぶった切るのは強度面やら切ることで短くなるおそれやらなにやらで、あんまりやりたくない。かといって輪っかの方を何枚にも分けて貼り付けると今度は輪っかの強度面と水平の確保に問題が生じそう。妥当な落としどころとしては、輪っかに1箇所切れ目入れて捻って突っ込んでやるのが無難に思う。でもってその材料としては1mmのアルミ板でいくか、0.8mmのFRP板で行くかで検討して、捻って曲がった後の復元性が良くて水平が出しやすいFRP板で行くことにした。FRP板は薄くて丈夫なので一部ルアーのリップにも使われていて、この手の薄いFRP板は電子機器の基板に使われているので”基板リップ”と呼ばれている。我が家にあったのもまさに基板リップとして使うために買ったモノで、ハルコ「ソーサラー」の元のリップが薄くて弱くボックス内で割れてしまったのでその修理用だったけど、ほとんど余らしていたので出番があって良かった。

 作成手順としては、外周はスプール糸巻き下面の直径にあわせて47mmでいくので直接スプールおいて油性ペンでなぞる。糸巻き部分が11mmにする位置に填めるには内径は35mmぐらいなので、外周から6mmの位置に点を打っていって内周を手描きする。

 FRP板はわりと丈夫でカッターでは切りにくいけど金切りバサミやニッパーは使えるので金切りバサミで大まかに切り出していく。

 1箇所内側に向けて切り込みを入れて、金切りバサミで大まかに直線的な穴を開けた後、ニッパーでバチバチと3角形を切り取っていく感じで内周を円に近づけていく。

 大まかに輪っかの形になったら、サンドペーパーでひたすら削って円形に仕上げていく。

 ヨッシャできた!と捻ってスプールに填めてみたら糸巻き部分が1ミリぐらい狭い。FRP板の厚さを考慮してなかったというお粗末。まあ削り足りなかった分には追加で削れば良しで、幅5mm弱でちょうど糸巻き部分の幅というか高さが11mmになる仕上がり。

 ここでちょっと迷ったのが、1箇所切れ目を入れたんだけど、これはカスガイなり穴開けて縛るなりした方が良いのか?接着剤でくっつけただけでは開いてきてしまわないか?ということだけど、カスガイにしろ縛るにしろ出っ張ると引っかかって塩梅悪いので、0.8mmの板に0.4mmの溝掘って出っ張らなくするとか面倒くせえことこの上ないので、5mm弱の幅に巻かれたラインの圧力は外側ということもあるしたいしたことないだろうということで、とりあえず接着のみで行く。開いてきてしまったらまた考える。

 輪っかの水平を保つために11mm幅に切った厚紙で下支えしつつ、瞬間接着剤塗って最初は細いティッシュで作った紙縒りをグルッと巻いて、瞬間接着剤塗って、隙間に合わせて太らせた紙縒りをグルッと巻いて、外周まできたらサンドペーパーで形を整えてエッジの角が立たないようにFRP板の面取りもしてから、主軸に刺して固定してロッド回しで回しつつエポキシでコーティング。スプールとFRP板の段差も切れ目もエポキシである程度ならしておく。最後黒のタッチペンで色塗ってスプールはこれで完成。

 スプール共通のタックル5で試してみたら、上下幅ちょうどよくラインがキッチリと巻かれて良い塩梅に仕上がっている。

 よっしゃ、スプールは上手いこといった。次は懸案のラインローラー固定ナットをネジ切ってしまっているところの再建である。以前「ラインローラー周りを再建する計画は準備していて、プランA及びBを既に立案済みで上層部(ワシ一人で現場と上層部兼任だけどな)のゴーサインを待っている状態」と書いたところだけど、プランAは機能回復というか修繕に近いんだけど技術的には難しくて失敗しそう。プランBは技術的には難しくなさそうだけど、ちょっと元と同じような機能には戻らなくて”改造”の範疇になる。プランAで失敗してからプランBに切り換えることは可能なので、いっちょ難易度高いプランAに挑戦してみる。現状は写真の様にナットが填まってたネジが根元近くで折れて、折れた残りはナットの中で回収不能になっている。どうするねんコレ?

 って考えて、難しそうだけど寸法的にはギリギリできなくもない。とワシが立案したプランAが、流行の?性転換モノ的な方法で、もともとはローラーが填まる軸から伸びた棒が雄ネジになってて雌ネジ切ってある円錐形ナットで締めてたんだけど、雄ねじの部分、いうなら”息子スティック”にあたる部分がもげてしまった状態なので、もう雄ネジとしては機能し得ないので、逆に穴を掘って雌ネジ化しようというものである。っていうても、ローラーが填まってる軸は2.7mmしか直径がない。穴掘ってバネを利用して雌ネジのネジ山をつくる”リコイル”で2ミリのネジを使おうと思うと、バネを入れる関係から2mmの穴では足りず2.5mmの穴を開けなければならない。整理すると2.7mmの真鍮の丸棒に2.5mmの穴を開けなければならないという、ちょっとズレたら穴が横に開いてしまいそうな危うい作業工程である。

 まあ失敗したらプランBだよな、という逃げ道は作ってあるし、ローラーが填まってる軸がダメになったら真鍮パイプ利用で軸から再建するプランCも追加で試してみてもいい。

 ということで”ままよ”とプランAにまずは挑戦してみる。

 はじめに、余ってる雄ネジの部分を金鋸で切り落としてラインローラーの填まる円柱部分だけにする。

 そして、まずは細い1mmのドリルから穴掘っていくんだけど、最初のこの時に穴が真ん中に真っ直ぐ掘れるかどうかが、成功と失敗を分ける分水嶺なので、写真では電動ドリルが写ってるけど、ドリルでいきなりギュィーンッて回すと真ん中からズレることが多いので、まずはドリルの刃?単体で手で持ってキリのようにグリグリと回して、少しずつで良いので真ん中に真っ直ぐな穴の取っかかりを作ってやって、そこからは小型万力に固定して、真っ直ぐ上からになるよう気をつけつつ電動ドリルでドリドリと穴掘ってやったら上手くいった。最初で失敗したら修復はほぼ不可能。素材的には真鍮にクロムメッキなので金工用のドリルなら問題無く穴は掘れる。あとはドリルの太さを順に太くして穴を拡張する。

 で、穴拡張して仕上げていくときに2mmのドリルで軸の長さぐらい穴を掘って、2.5mmのドリルの時は、その半分ぐらいリコイル用のバネが納まるぐらいの穴で止めておく。リコイルのバネで作った雌ネジを越えて雄ネジが収まるので、穴の底に雌ネジ部分があるより雌ネジ部分全部使えて、突っ込む雄ネジの長さは雌ネジ越えていい余裕があるので大雑把で良くなる。

 リコイル用の道具でバネを巻いて直径小さくしてから穴に挿入して、中で巻きを緩めて2.5mm部分の底に設置。

 長さ調整していない長いネジで試してみると、しっかりネジとして機能してバネが抜けてきたりもしないようだ。樹脂とかに”リコイル”を使うとバネの引っかかりが弱くて抜けてきたりするけど、真鍮だと適度に堅いのでしっかり噛んでくれるようだ。

 最後、雄ネジの長さを切って調整して、ベールアームの穴よりネジがだいぶ細いので間を埋める仕掛け用パイプ切ったリングを噛ませて、ネジの頭の手前に緩み防止のワッシャー填めてネジ締めてみた。良い塩梅に締まって固定できて、ちゃんとラインローラーも回転してくれて問題なさそうで、思ったより上手くいった。なんでも試してみるモノである。

 ということで、今回の大ネタは無事成功したので、いつものようにグリス盛り盛りで組んでやるんだけど、ちょっと小ネタもございます。

 一つは逆転防止のスイッチが欠けてるので、ちょっとお化粧直ししておきました。

 まあ、欠けてても機能に問題ないっちゃないんだけど、見た目良い方がイイかなと、割れた面に2箇所1mmドリルで穴開けてステンワイヤーを刺して骨組みにして、れいによって、ティッシュを瞬着で固めてそれっぽい形に成形して、ナイフとヤスリで適当に形を整えて銀色のスプレー塗料で目立たないように塗装。雑な仕事だけどまあこんなもんで良いでしょう。

 もういっちょは、今回の「タックルNo.1」はありがちなんだけど、右巻でこの時代のハンドルネジは左右別で左巻きにするには交換が必要なんだけど、そんなもん付いてないって話で、いただきものの自作「大森No.1、No.2用左右別型ハンドルネジ左」を使っても良かったんだけど、ちょうど部品売りで「オートベールSS」のハンドルが手に入ったので今回そちらを使うことにして、”左ねじ”は温存した。で、オートベールのハンドルには「2ボールベアリング」とかシールが貼ってあるし、ボロくて塗装ハゲハゲだったりもしたのでタッチペンの黒で塗装して使った。

 というわけで、いっちょ上がり。

 今回いじったローラーを固定しているネジは念のため引っかかったり抜け落ちたりしないように、エポキシを盛ってツルンとさせておいた。ナットがなくなった分軽くなって回転バランス崩れてプルッたらオモリ追加で調整だなと思ってたけど特に問題なくクルクル回ってる。

 スプール上面は”アルミ感”を残すため輪っか状に塗り残した部分を設けたけど黒一色の方が表情は引き締まるか?そのへんの美的センスはワシには欠けてるのであまり気にしないでおこう。田舎ヤンキーの改造車みたいにケバゴテしてなければ見た目なんぞ何でもイイや。

 ハンドルノブの形が、大森三角パドル型になったのも案外違和感ない。ハンドルノブはどうせ”改造”するなら好みの形にしたくなるところだけど、意外にどんなハンドルノブが良いのかって難しくて、たとえば世間的に評判の良い”ミッチェルのひねりハンドルノブ”だけど、最初摘まみやすく感じて「コレがミッチェルの捻ったハンドルノブか!」と感動したけど、ワシわりとしっかり摘まむのか摘まみやすくて指の同じ所にノブが当たってると長時間の使用では痛くなってくる。たいした痛みでもないので丸ミッチェルのハンドルノブわざわざ換える気はないけど、ハンドルノブの形状は実際摘まんだり握ったりして使ってみないと評価できないもので、手の形や大きさもツマミ方も個性があるので、自分に合ったものがどういうモノかさえ難しい。とりあえず大森三角パドル型は摘まみやすく痛くもならないのでワシ的には合格なので換える必要はないだろう。

 さて組み上がったし、ラインも巻いてみる。

 ちょい後ろ巻きになってしまってる気がするけど許容範囲。しっかり糸巻き部分の上下幅一杯つかってラインが巻けている。

 ワシはトラブルの少なさ重視でラインはあまりいっぱいいっぱいまで巻かないので、この状態で直径42mmラインが巻かれている。上の方に写真がある、元のスプール形状で少なめに巻いているタックルオートNo.1の巻いたラインの直径が37mmなので、実質5mm糸巻き部分の直径が大きくなっている。スプール糸巻き上面を真っ直ぐにしたのでラインの放出性も良くなってるはずだ。スピニングリールの改造っていうと、世間ではボールベアリングの数を増やしたがるようだけど、そんなもん少なくとも飛距離にはあんま関係ないはずで、あれほど飛距離にこだわるのなら、スプール形状いじって然るべきだと思うけど、あんまりそういう改造は聞いたことがない。なんかご大層な高級リール様のようにスプールエッジには特殊な堅い素材とか使わねばならんので”いじれない”と思ってるのかもだけど、耐久性とかはともかく飛距離に関係してくるのは”形状”であって素材は滑りやすい方がイイだろうけどまあ普通に磨いた樹脂でもアルミでも上等のハズである。あとはスプールの直径、純テーパーか逆テーパーか、オシュレーションが密巻きか綾巻かとかでも放出性が違ってくるというところか?飛距離にこだわるなら純テーパーのスピニングだってあって良いのに、昔みたいな純テーパーのルアー用スピニングってとんと見なくなった。今回の改造は、ライン放出性を良くする”飛距離に直接的に効く”改良だったということは自慢できる気がしている。

 しているんだけど、スプールエッジの形状について、大森のアルミの時代と樹脂製の時代のを比べたりしているうちに、ちょっとワケが分からなくなってきて、本当に今回の”改良”は自分にとって必要だったのか?という気がしてきて、改めてもうちょっと頭を整理してみることにした。長くなってるけどもうちょっとお付き合い願いたい。

 ワシが大森製作所が存在した当時に愛用していたリールは「キャリアーNo.1」と「マイコン302TB」である、これらの機種は大森製作所の”黄金期”最後の方にでてきた機種で、キャリアーは本体も樹脂製だけど、本体金属製のマイコンTBシリーズもスプールは樹脂製で、これまでワシ「後の方に作られたこれらの機種はスプール上面の傾斜がきつくなくなってて改善されていて使いやすかった」的なことを書いてきた。スプールがアルミから樹脂に変わったときに金型新しく作る時に改善したんだろうなぐらいにボンヤリ認識していた。なので、今回傾斜きつめのアルミスプールのタックル、タックル5、タックルオートをいじりつつタックルのスプールを改造してみて、じゃあどのぐらい違うんだろうって、タックル5No.1、キャリアーNo.1、スプール同じだけどマイクロセブンC1、マイコン301TBのスプールを並べてみて、比較してみた。それが上の写真である。

 ナンジャコリャ?キャリアーもマイクロセブンCもタックル5と形状一緒やんけ!マイコン301TBのスプールだけスカートも長いし糸巻き上面の傾斜も微妙になだらかな気がするけど、キャリアーもマイクロセブンCもきっちり傾斜してるやん。どゆこと?またワシ嘘書いてやがったな!あいすんませんなぁ。堪忍したってくんなまし。

 マイクロセブンCシリーズもそこそこ使ったし、写真のキャリアーNo.1とマイコン302TB、301TBは若い頃の愛機なので散々使い倒した。その時に、飛距離的に別に困りはしなかったのはワシの釣りが近距離特化型だから参考にならんにしても、ラインがドバッと崩れて出たとかのトラブルもなかったと思うし、今もちょくちょく使ってるマイクロセブンCシリーズも使いやすいリールでトラブルとかは少なくて快適なリールだと感じている。スプールの糸巻き部分に対してスプール上下幅が狭いスピニングは、巻いたラインの上下が崩れてトラブルが多いという理屈じゃないのか?明らかにその理屈に自分の感触が反している。いかに理屈から言ってなさそうであっても、現実にそうなっているのならそれが正しく、かつ、そうなる理由が隠れているはずである。その理由は何か、ここに来てパソコン椅子探偵の推理の時間である。

 ひょっとして、とノギス片手にライン少なめで運用しているタックルオートNo.1の糸巻き部分の幅を測ってみたら、謎はたぶん解けた。すまないが大森沼の関係者を呼んでくれたまえ。

 写真では分かりやすいように、スプールが上がって下がってする1回分ラインの色を変えてあるんだけど、ワシが経験則で少なめに巻いているラインの状態で、ラインはスプール上下幅一杯11mmに巻かれているのである。それより幅が広がるところまで巻いてない。なので上下部分で崩れたりはしない。単純明快。本体タックル5だけど同じ単純クランク方式なので気にしないで欲しい。というか、ワシがさっき書いたタックルオート、タックル5,タックル、キャリアー、マイクロセブンC、マイコンTB、どの機種もハンドル一回転でスプール上下一往復の単純クランク方式で、ということは綾巻でありラインの放出性はイマイチでもトラブルは少ない方式で、かつ、少なめに巻いたラインが放出するときには斜めったスプール上面の傾斜に多く当たって出て行くのでこれもライン放出性は悪いけどトラブルは少なくなる要素。つまり、大森スピニングのような放出性の必ずしも良くない糸巻き上面に傾斜が付いているスプールに少なめにラインを巻いて運用するとラインがドバッと出ていくようなトラブルはむしろ軽減されるのである。って言うかワシはそういうトラブルは記憶にないぐらいで極めて少なかったはず。知っててそうしてたわけでも何でもないけど、自然とそうなっていったし、近距離特化型でトラブルなく使えるリールが良いリールと思ってるワシにとって、形状いじってない元の大森のスプール形状が実は合理的というか合目的的だったのである。

 ワシ、今回スプールの改造が上手くできた時点で、これから大森スピニング片っ端から糸巻き上面真っ直ぐに改造してやろうかと思ってたけど、むしろそのままがイイと理解した。飛距離重視の人には参考になる改造になったかもだし、ワシも勉強になって良かったけど、若干無駄骨臭がしないでもない。

 よく考えれば、今時の高級リール様でも、単に放出性重視なら必要のない、糸巻き部分の上にちょろっと斜めに出たひさしのような出っ張りが設けられていたりする。要するにスプール上下減速式にして密巻きにしてたりしていて、放出性が良すぎるとラインがドバッと出てしまうトラブルとかが増えるので、ライン放出時にわざとちょっと当てて、そういうのを防ぐ仕組みを設けているのだろう。減速式は巻くの軽くなるしで高級機種では入れたいだろうし、そうするとそのままだとトラブルが多い、なので逆テーパーつけたりスプールエッジに”ひさし”つけたりラインの放出性は悪くなるけどトラブルの減る仕組みを設けているということだと理解した。

 最近流行の釣りが、アジングだの管釣りの鱒だので軽いルアーを使って、かつ前者だとフロロだエステルだといったあんまりしなやかじゃないラインも使うので、放出性重視でカッ飛び仕様にしてしまうとトラブル多くて使いにくいっていうのも、今時のリールにやたらライントラブル防止のための工夫が多い背景なんだろう。まさにヘッタクソが、カッ飛び仕様までいかなくても、普通のスピニングでそういう軽い仕掛けの釣りをしたら不具合多くて困るだろうなと想像に難くない。メーカーさんある程度マッチポンプでそう仕向けてる部分もあるけど、ちゃんと釣り人の程度と釣りに合わせた道具を売ってるってことか?

 ただ、そう考えると、そんな極端な軽いルアーを使わないシーバスとかでは、今時の高級機種やその機構を真似した下位機種では、トラブル少ないのは良いけど放出性良くなくて飛ばんがな、って遠投派のシーバスマンは思ってしまうかも。そういう人は今の逆テーパーのスプールじゃなくて投げリール由来の純テーパーが付いてた時代のスピニング、たとえばダイワの革命機「ウィスカートーナメントSS」とか今こそ出番じゃなかろうか?そこまでじゃなくても、スプールエッジの角がキリッと立ってるミッチェルとか飛距離的には優秀なはずである。たしかに丸ミッチェルはプラナマチック入ってなくても良く飛ぶように思うところ。スプール径大きめも効いてるんだろうけどな。

 逆に、ライントラブル防止策で、ライン少なめに巻いた大森スピニングをライトタックルの釣りに使うというのもありではないかと思えてくる。なにしろ、さっき書いたようにスプールエッジに大きな”ひさし”が付いてる状態だし、綾巻でもありライントラブルに強いのはワシ実感してきたところ。

 ついでに、PENN4桁スピンフィッシャーでも4400SS以上のモデルはぬこさんが”原始A-RC”と書いてたように、真っ直ぐな糸巻き上面にちょっと”ひさし”が突き出てる形状になっていて、純粋なライン放出性よりトラブル防止をやや重視している感じ。まあ昔っからこの手の工夫はあったって話で、スプールエッジ、糸巻き上面の形状は各社各時代で想定する釣りやら釣り人やらによって適切と考える形状を選択してきていたようで、釣り人はそれらの違いを認識しつつ選べる程度には各種スピニングがこれまで世に出ている。まあワシ認識あんませずに経験則でトラブル少ないリールをトラブルおこさないように使ってきたわけだけどな。あと細かい話だけどラインの放出性の良さが即飛距離向上を意味しないっていうのもある。何じゃそれ?って話かもだけど、例えば固定重心のミノーとか投げるときに、ある程度放出性が悪くてラインの抜けが悪くてルアーがライン引っ張って飛ぶ形になると、ルアーの飛行姿勢が安定して飛距離が出るとか、そういう細かい例外もチラホラある。

 という感じで、まあ道具っていうのは、それを使う人の好みや技術はもちろん、使う状況や仕掛け、調整具合、重視すべき要素なんてのが種々絡んで、一筋縄ではいかず、最初に戻るけど「釣り具と釣り人の関係は一期一会」「相対的なその釣り人にとっての最高の釣り具というのはあり得ても、全釣り人共通で絶対的な一番の道具などというモノはあり得ない」って話で、少なくともどういった機能がどういう理屈で働くようになっているのか、自分の釣りに必要とされる機能はどういったモノか、というのをなるべく理解していないと、フォーミュラ-カーで山道登るようなアホな道具の選択になりかねないので、皆さんよく勉強しておきましょう。

 ワシも今回、スプール糸巻き部分上面が斜めってるのは必ずしもスピニングリールにおいて欠点だとは限らないってことを理解できて、蒙を啓かれる思いで大変勉強になりましたとさ。