2023年9月16日土曜日

日本のスイスで作られた枢機卿

  「アタック5000」とか「マクセル700RD」とか、クソマイナーな機種ネタにしてワシが書きたいから書くけど誰が読むねン、って感じだったけど意外に沼の底の住人の皆様方には楽しんでいただいてるのか閲覧者数少なくもないのよね。まあこのあたりの記事が楽しいって人は病膏肓に入ってるハズなのでお大事にしてください。

 そんな当ブログには珍しく今回はABUでっせ、カーディナルっすよ。まあ人気のインスプールやC3、最後のスウェーデン本国製カーディナルの50シリーズじゃなくて、マイナー味のきいた750系ではあるけどな。でも赤いガルシアフラッグもEFマークも誇らしげな名門の血統を、なんでナマジが買ったのかというと、ひとえにTAKE先生の「リール興亡史」が悪いんです。そそのかしやがってからに。

 「リール興亡史」でミスター・ハラが、我らが愛する埼玉の小さなスピニングリール工場である大森製作所の「マイコンシリーズ」とかと、かたやホンダにも部品を納めるような長野の大手ダイキャストメーカーである松尾工業製の「カーディナル753」等とを比較して語っておられて、表紙にもこの2台があしらわれている。

 曰く、松尾のカーディナル750シリーズは、大森製「Σシリーズ(=マイコン)」同様の仕様で価格が60%、軽量で脚の細さなど外観の軽快さも持ち、生産性も良く、品質も整っていて、US市場空前とも言える大ヒットとなる。しかし、業界内での評価はイマイチで、カーディナルとしてはあまりにも安作り、また組み立て部分にガタが多すぎ歯車の隙間を多く取ったギアはいただけない。等と評しており、一方で「ホンダの最新技術をこなす彼社は明らかに違った存在であったはずです。」と開発力の無さと、そういった認識を発注元のブランドが持ってなかったことを嘆いてもいるところ。

 大森に関しては、根っから機械屋的で下請けでも見えないところにもコストをかける。でもシェイクスピアありきで依存しすぎ自ら世界を見ていなかった。との評。で「「大森は・・・・・・」などと私がここで書き始めるのも無意味なほど、その名は良く通っていました。」とも書いているように、大森評はそれこそTAKE先生のような識者の熱のこもった記事から、当ブログのようなマニアックで怪しげな記事、ネットのあちこちで書き殴られている便所の落書きみたいなモノまで多種多様に語られてきている。対して、松尾工業については、ABUも件の750シリーズや怪作860シリーズ、ミッチェルも少々、ゼブコはリアドラグが本体みたいなQMDシリーズとあちこちのリールを作ってるけど、語られることが少ないリール製造元である。国内での販売がオリムピックの下請けで始まってて、自社ブランド品が少なくOMシリ-ズというのがあるようだけど超マイナーってことも相まって、注目も浴びなければネットで探って出てくる情報も限られている。

 そんな、影の実力者の松尾工業の、米国でヒットしたスピニングリールとなれば、米国人好みのリールと聞くと欲しくなる悪癖もあって、欲しくてたまらなくなってしまったのである。アタイ病気が憎いッ!

 でも、ABUだしお高いんでしょう?って安い出物がないか相場調べがてらネットフリマとかチェックしてみると、これが安い。渓流サイズの753とかはまだ値段がついているけど、バスとかシーバス用ぐらいの中型機(実測315g)の754とか3,4千円で買える。同じ日本製カーディナルでも瑞穂製C3、C4のほうが倍近くしている。3千5百円送料込みの出物があったので、ついマウスが滑って確保。仕方ないよね。

 ということで我が家に来てしばし整備待ちだった754、おそらくそのままでも使えそうなぐらい快調だったけど、我が家に来たからには分解整備のうえグリスグッチャリで仕上げてやらねばである。

 ちなみにこの整備前の写真だと、樹脂製スプールが風化しかかってるのか、白く粉を吹いたような表面になってしまっている。この時代の樹脂製パーツにはありがちな現象だと思うけど、これそれなりに見えるようにお化粧可能です。上の2枚目写真とかわりと写真写り良いと思うけどお化粧あとです。そのへんも含めて分解整備、グリスシーリングの様子をいつものように行ってみよう。

 まずは外回りから、スプールはリアドラグなのでワンタッチ付きで樹脂製、主軸に填めるのに裏に十字が切ってある特にどってことのない作り。ハンドルは四角の穴の共回り式でこれまた特にどってことのない作り。ただアルミダイキャストの本体と蓋、ローターはさすがに綺麗にできていて、塗装も良くて見た目は確かにシュッとしてて格好いい。

 そしてパカッと蓋を開けていくと、ギアと逆転防止、スプール上下あたりはほぼ大森マイコン同様で、ローター軸のギアは真鍮製、ハンドル軸のギアは亜鉛鋳造、そしてハンドル軸に軸受けの真鍮ブッシュが填めてある。これは、もともと松尾がガルシアに納めていた750シリーズの元になった機種ではアルミ本体直受けだったのをABUの担当者が真鍮ブッシュ入れさせたとか。ギアのある左の蓋側だけかと思ったら、よく見ると右側の本体にもハメ殺しで入れてあって、黒く塗装されているので最初気付かなかったけど穴を覗くと黒い塗装が剥げて真鍮が顔を見せている。

 逆転防止機構は、大森方式のローター軸のギア直上に設けるタイプで歯車も爪もステンの打ち抜きで丈夫そうなのは良いんだけど、マイコンみたいに静音化の仕組みがないので巻くとカリカリ音がする。別にこの時代のスピニングなので鳴っても良いんだけど、これが薄くて均一で質の良いアルミダイキャストボディーのおかげかやたらと響く。管釣りで隣の人に「カリカリうるせぇ」と怒られるタイプのリールである。ワシうるさいのはあまり気にならん人種だけどさすがにこれは気になるぐらいで、あとで音量落とせるかも試してみよう。

 でもってスプール上下のオシュレーションスライダーが忌まわしき”Cクリップ”で留められているのはワシ的には減点対象。

 リアドラグも外から見ると大森マイコン方式に見えるけど、ドラグワッシャー、ドラグパッドはドラグノブ内ではなく本体内に位置していて、ここは大森が特許押さえてたからってのもあるだろうけど日吉スピードスピン系にむしろ似ている。

 ローター周りに移ると、まずはローター軸に1個のボールベアリングを留めているクリップが、先っちょに穴があるオリムピックでよく使われていたタイプで、リール製造をオリムの下請けで始めたころの癖が残ってるのかなとか想像すると面白い。

 ラインローラーはステン無垢の直受けっぽいけど素材ちょっと自信なし。内側に真鍮が見えてたりしないので無垢素材かな?ぐらいしか正直分からん。

 ベール反転機構は4桁PENN中型機とかと似た感じの2つの部品で連携する方式。そして、蹴飛ばしの方が銅製の”簡易ローターブレーキ”付きなのはこの時代の日本の中小リールメーカーの特徴か?まあ松尾工業自体は大っきなダイキャスト部品会社で中小ではなかったようだけど、そのへんは”OEM(相手先ブランド生産)”という名の下請け仕事が多かったから、発注元ブランドの要望ということだったのだろうか。

 でもって最後にリアドラグ。

 やっぱり本体内にドラグパッド等は入ってて、赤い繊維製のパッドが2枚、テフロン製のパッドが2枚の4階建て構造。ドラグノブで締めるネジの付いたアルミか亜鉛の円筒状の部品には中に調整幅を出すための太いバネと、外側に謎の細いバネ、脱落防止にはコの字のクリップが填められている。

 本体内にドラグの本体が入ってるのは日吉的だけど、ドラグノブ締めるネジ付き円筒状の部品のあたりは大森っぽくもあって両社の混血のような感じになっている。日吉方式のバネを弾力のある樹脂で代替する方式は部品が小さくて優秀だなと改めて感じるところ。

 今回も、ドラグ値はしっかり締まるより低い値での安定と調整幅を重視して赤い繊維製のパッドはテフロン製のに換装した。赤い繊維製のパッドは腐ってボロボロになったのを見たので換装したくなるというのもコレあり。

 でもって、グリスグッチャリで組み上げつつ、宿題になってた「かしましいストッパーを静かにさせる」「白く粉を吹いたようになってる樹脂製スプールの表面のお化粧直し」をやっつけるんだけど、どちらもいつもの青グリスでどうにかする。
 
 ストッパーのかしましいカリカリ音は、本体に響くのを少なくするという方向性で上の写真の様に特にグリス多めでグチャッとさせる。ストッパーの爪の動きも遅くなるだろうし、グリス詰まってれば音も響きにくくなるだろうという読みだけど、結果としては、若干音がくぐもったかな?程度にしかならんかった。まあワシ的にはこのぐらいなら許容範囲だけど、隣の人にカリカリうるせぇって怒られたら、逆転防止を切って”ミッチェル式”で使うか?

 樹脂の表面が白くなってるのは、それ用の”磨き剤”が市販されているけど、塗布して拭いた瞬間綺麗になってオッとなるけど、乾くと元の木阿弥で、ならばしっとり湿った状態を保ってやれば良いんじゃないか?という発想でグリス塗ったくってティッシュでベタ付かない程度に拭き取ってやったところ、これは上手くいった。樹脂製スプールに防錆グリス塗る意味はないと思ってたけど、表面の粉拭いたようになってるのはごまかせるし、酸化か加水分解かしらんけど腐蝕しつつあるのが原因だろうからそれを防止するにも意味あるかもしれん。まあ見た目綺麗になるだけでも塗っておくべきだろう。

 という感じで仕上がって、ドラグもまずまずだし機関も快調、出番作れるかリアドラグ機も増えたので2軍待機だけど使えないリールではなさそうに思う。ガタが大きいかどうか?は正直クルクル回しただけではワシには分からん。普通に滑らかに回ってるように思うけど、使い続けると耐久性とかに差が出るのか?まあ実用上不具合があるぐらいに耐久性に難があると米国では評価されないから、それなりに大丈夫な性能なんじゃないかと思う。

 リアドラグ機を何台かいじくって、ブッコミ泳がせとかで実釣にも持ち出して、それなりに使えるし、面白くもあると感じている。リアドラグの後に樹脂製ロングスプールの流行が来て、その後本体金属製に戻って諸悪の根源”瞬間的逆転機構”の搭載がスピニングリールの歴史的流れとしてはあったんだろうけど、リアドラグ機の流行った時代には、すでに近代的なスピニングリールの基礎技術はとっくにできていて、快適に釣りができる性能は備えていたんだと感じるところ。

 リアドラグ機に限らず、古めのリールでも魚釣るのに問題はなく、バス釣りはベイトリールが主体なのでアレだけど、シーバスとか道具ぐらいもっと遊べば良いのにと思う。シーバスに使うようなスピニングで実釣に関わるような性能なんて、差があるとしても、どっちが良いって話じゃなくて得手不得手の範疇であり、たとえばリアドラグ機のドラグ性能が多少劣るにしても、釣ってるときにドラグいじって楽しもうと思えばそこは利点と”行って来い”の関係であり、その違いを楽しんでしまえば良いのにとつくづく思う。シーバスマンはもっと遊ぶべきだと思う。特に今時のキンキンの高感度の竿に伸びないPE、整備性が悪い雨の中で使うのをためらうようなリールというシーバス釣るのにまったく向いてないような道具を使わされている多くのシーバスマンにそう教えてあげたい。ぶっちゃけ騙されてまっせ。

 あと、マニア筋にも苦言を呈するなら、誰でも知ってるような評価の高い機種をありがたがりすぎ。相変わらずキャリアーSSとか何万円もしてるし、インスプールのカーディナルとかもお高くとまってる。特定の機種しか知らんのかマイクロセブンCSとかシェイクスピア2052とか得手不得手的なところはあるにしても劣ってると思えんけど、安っすく買えまっせ。まあ、ワシらみたいな”スピ熱患者”みたいに片っ端から自分で試してたらえらいこっちゃになるけど、他人の好みをアテにしすぎ。自分の好みぐらい自分で決めろとお説教しちゃう。やだやだ昭和のジジイは説教臭くてって自分でも思うけどな。

2 件のコメント:

  1. 遂に松尾カーディナルに手を出しましたか
    懐かしいですね、80年代中頃に1年程753のグリーンボディのモデル使ってました。
    まだ実家の箪笥に残ってるかな

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    1. 思わず手が出てしまいました。
      赤や緑もあったようですね。
      松尾というとカーディナル800系にゼブコQMDというリアドラグが行き着くところまで行ったヤツの印象が強くて、安く出てたら手が出てしまいそうです。

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