2023年9月23日土曜日

針金ベールリールの系譜ーパソコン椅子探偵オリムピック「MOVADO」編ー

  ベールがなんか折り曲げた針金でできてて、針金の弾力でベール反転もおこなうような”針金ベール”のリールについては、大森製コンパック「バンタムⅢ」「シエラⅣ」をいじくって、一回実釣でどのぐらい使えるモノか試してみたいと思ってた。

 ただ、バンタムⅢは借り物でシエラⅣは程度が良すぎて使いづらいので、多少ボロい出物がないか探してたんだけど、これがなかなか出てこない。針金ベールのリール自体は珍しくも無いんだけど、昔の日本市場のスピニングは右巻仕様が多く、左巻きがなかなか出てこないのである。やっと出てきて値段も手頃だったので、このオリムピック「MOVADO」を入手したのはこれもだいぶ前の話である。そこそこ錆も出てたのでCRC「666」をぶっかけて、他の整備待ちリールと共に封印してあったのを打順が回ってきたのでいつものように分解清掃し青グリスグッチャリで仕上げてみたんだけど、このリール実は大森製作所製の”オリムピック”リールなんじゃないかと疑っていたので、そのあたりも検証してみた。

 オリムピックについては、国内では一時圧倒的なブランド力と販売網を持っていて、大森や日吉といった埼玉勢はもちろんのこと、長野の松尾工業にも下請け仕事でリール作らせていたようで、そう考えると同時期のリールでも妙に味の違うリールがあったりして、製造元が違うならそらあたりまえか?と納得するところである。ワシ、オリム製インスプールスピニングでは「トゥルーテンパー727」はしっかり作ってあって好みのリールなんだけど、ヘドンにも同型機をOEMで提供していた「エメラルド350」はなんかスカスカした感触で今ひとつピンとこなかった。作ってた工場が違うならそういうこともあるだろう。まあ、この2機種についてはなんの裏付けもないので案外同じ工場で作ってたのかもしれんけどな。

 というオリムピックのお家事情のなかで、大森製の”オリムピックリール”はどれなのか?というのには興味があった。以前コメント欄で教えていただいたオリムピック「83」のフルベールモデルはコンパック「キャデラックⅢ」と同型機でかつ大森製作所作成の最初の機種なのではないかとパソコン椅子探偵としては推理しているところではある。

 そのほかの大森製”オリムピックリール”の容疑者として、以前から「MOVADO」には疑いの目を向けていて、今回そのあたりもパソコン椅子探偵としては検証してみたいと思っている。ローター周りの処理が写真で見ただけでも似ているし、ハンドルの軸方向への丸い出っ張りとかも大森っぽい。バラしてシエラⅣと比較していけばさらに証拠は集まるだろう。写真右のアズキ色ボディーのがシエラⅣ。

 どちらも針金ベールのスピニングだけど、その針金の”ベールアーム”に相当する部分の曲げ方が直線的ではなく、「7」のように曲線をえがく形状に曲げられており、非常に”癖”が似ている。このことだけでも、疑うには充分であり探偵としてはマークせざるをえないところだろう。どちらかがどちらかを見本に真似したという可能性も充分あるけど、まあここ以外もしっかり隅々までみて真実をあきらかにしていこう。真実はいつも分かったような分からんようなモノでしかなかったりするにしてもだ。

 まずはスプール周り、スプール外すと両機種の板金ローターの形がそっくりなのが見て取れる。これ同じ型じゃないかと思ったけど、微妙に大きさが違っててスプールの互換性とかはない。でも色こそ違えど、本体に乗っける部分が盛り上がってる形状とか、ベール基部の金具を留める処理方法とか癖が一緒。

 ドラグが、シエラⅣともバンタムⅢともまた違う構成で、シェイクスピア「2103」で見たのと同様に一番下にフェルトパッド、その上に曲げワッシャー、一番上が1方向切り欠きありのワッシャーとなっている。曲げワッシャー一番上に持って来たいところだけど、2130でもそうだったけど、なぜかこの単純な構成でいちおうドラグとしての機能は生じさせており、パッドの直径も小さく良いドラグとは言い難いけど使えと言われれば使える程度ではある。まあ使うつもりなんだけど、シーバスならいけるでしょ?って感じ。

 でもって本体パカッと開けてまずは、ハンドル軸のギアが樹脂製じゃなくて亜鉛製なのに安堵する。芯に鉄系のが鋳込んであって丈夫そう。逆転防止のストッパーはギア裏に入ってる。

 樹脂製ギアはギア自体は何とかなるのかもだけど、ストッパーが過去2台見たどちらも潰れたりしてたのでもたない気がしている。亜鉛ストッパーも削れた例は見てるけど、普段はストッパー外してミッチェル式の運用なら何とかなるだろう。

 ロータ軸のギアも亜鉛っぽくてここはシエラⅣ同様の真鍮にして欲しいところ。亜鉛亜鉛の組み合わせは若干不安。

 ギアの素材自体は違うけど、シエラⅣと設計自体は似ているというか、ほぼ一緒なんだけど、微妙に違うところが今回突破口につながった。

 スプール上下(オシュレーション)のピンが主軸に刺さってるんだけど、シエラⅣではハメ殺しっぽくて抜けず、ローターを外すことができなかったけど、MOVADOでは填まってるカラーを外したらピンの頭がマイナスネジになってて、外すことができた。外せば主軸は抜ける。

 すると、次に外せそうなのは写真一番上の矢印の位置の小さなネジで、これを外すと真ん中写真でちょっと浮き始めてる一番上部に襟が付いてるスリーブが、主軸が刺さってた部品なんだけど、ローターとギアごと抜けてくる。このスリーブの上部の襟とロータ軸のギアの上端ローターにナット留めされている部分に隙間ができるように、小さなネジで留めて、ローター軸のギアとスリーブとが接する形で回転している。というわけで、あたりまえだけどボールベアリング不使用機。

 ローターからスリーブを抜けばローターにギアを留めているナットも外せるので外せば分解終了。ちなみにローターにギアを留めているネジが逆ネジなのは地味だけど大森っぽい癖だと思う。オシュレーションのピンもなぜか逆ネジ。

 ここまで分解して、シエラⅣにもスプール外すと上部に襟付きのスリーブが見えているし、小さなネジでそれを留めているのも見えるので、構造ほぼ一緒と思う。これハメ殺しだと思ってたオシュレーションのピンもペンチで摘まんで回したら外れるんじゃないかと試したら外れた。

 そして同じようにスリーブを留めてる小ねじを外せばスリーブ抜けてギアごとローターも抜ける。

 一番下の写真はスリーブがどんな感じに入ってるか、ローターを外して本体にスリーブ刺してみたところ。見えている小穴が本体の穴のあるところまで差し込まれて、小ねじで留める構造。

 ここまで設計が似てる、というか同じだと、製造元は同じと考えるのが自然というモノだろう。

 そんな複雑な設計じゃないので、ミッチェルのフルコピーを高精度でやっちまえるぐらいに技術力があったオリムピックなら真似するの自体は簡単だったと思うけど、自社の海外販売先でもあるブランドで出てたシエラⅣを真似する意味がないというか、シエラⅣをコンパック側(コマースパシフィック社)に納入してたの自体はオリムのはずで、大森は孫請けという関係だっただろうから、他にネタ元があるとかもあり得るけど、少なくとも この2機種においてどちらかが模倣されたとかいうことは考えにくい。普通に考えて同じところで作ってるんだろう。となるとシエラⅣについては大森公式が「うちが作ってました」って言ってたので、どちらも大森製というのが今回のナマジの推理。

 他にも細かい所だけど、足の裏が三本線入ってるとか、大森沼の皆さんなら「ああこれは確かに大森臭いな」とご納得いただけるだろう。

 ということで、大森沼の関係者を集めてくれたまえ。

”オリムピック「80MOVADO」は大森製作所製です”

 ここのところ、パソコン椅子探偵ナマジ、迷宮入り案件続いてて負けが込んでたけど、久しぶりに探偵らしい仕事したかなと。まあ、実際にどうだったかはわかんないもんだけど、状況証拠的には、なんか真実に近いようなところまでこぎつけたかなと思っちょります。

 ということで、分解整備も済んで青グリスグッチャリで仕上げたし、3:1ぐらいの低速機なので、使うならシーバスなということで、2号ナイロンで運用の予定。

 針金ベールは削れて糸溝できそうではあるけど、そこはそれ複雑な部品じゃないのでステンレス硬線でも曲げてたわめて自作できるんじゃないかと思うので、とりあえずどっかで余裕ができたら、今年のシーバス戦線の不調具合を鑑みると出番作れるか不透明だけど、一度どんなもんか使い心地を試してみたい。

 使ったらまた、釣行顛末記とかでご報告いたします。

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