2019年6月15日土曜日

薬石効なく

 病気っていうのはこの21世紀の進歩した医学をもってしても根本的にどうにも制御できない時もあって、そういった制御不能な病とは上手いこと付き合っていくのが得策で、ゆめゆめ完治させてしまおうとか思わんぐらいの方が良く、ましてや精神力でどうにかしようなんて思ったところで、どうにかなるなら医者もクスリもいらんわけで、例えば糖尿病患者は気合いでインシュリン分泌量を増やすとかできやんから注射打つんである。
 そういった現代でも治療の難しい病にいわゆる「スピニング熱」というものがあり、これに罹患すると「大森が欲しい!」「この年代のギア方式は」「回転の滑らかさが」「スプールエッジの形状の違いが」などと意味不明なことを口走るようになり、ネットオークションサイトや中古釣具屋での散財が家計を圧迫し、山のように積み上がるスピニングリールを前に途方に暮れるという症例が報告されている。
 現代医学を持ってしても治療法が確立されていない不治の病である(「不治の病」って打とうとしたら「Fujiの病」と予想変換される我がATOK)。まったくもって痛ましいことである。

 かくいう私も昨年秋ぐらいから潜在的保菌者だったのが発症し、インスプール熱や急性大森症、慢性的PENN症候群などに日和見感染するという苦しい闘病生活が続いたモノの、リール管理台帳作成による「リールは一家に90台まで!」という治療方針が効をそうしたのか、四月以降はその症状は顕在化しておらず、当ブログにおいても”スピネタ”は4月20日以降ご無沙汰であった。
 ただこの間も症状が表に出ていなかっただけで、確実に病は深く静かに進行していたということを告白せざるを得ない。最後の記事から4台買ってしまっている。

 オレは悪くないんや!!大森にいつも変な値段付けてるTベリー○×店が悪いンや!!
 と、とりあえず人のせいにしておこう。中古釣具屋に街に出かけるたびに足を運んで掘り出し物がないか確認するという行動は釣り人なら多かれ少なかれやると思うけど、この店だけ異様にマニアックなリールがワゴンに転がってる率が高い。手が出たのだけでも「マイコンNo.6」、「キャリアーNo.1」、そして今回の「ポスカ1」と3台もあって、他にも逆回転している時代のカーディナルやら松尾工業の赤いボタンをポチッと押すとベールが戻るヤツやら、台数制限なければ手が出てただろう良い出汁のきいたスピニングが転がってたりした。
 写真のポスカ1なんて216円ですよ、おつり4円もらって小銭入れふくれるのいやなので1円出しておつり5円にしてますよコイツ、ワシ意外に細かい性格。
 大森熱もややおさまっていて、もうスプールやらギアやらのパーツの予備にもなるような機種以外買わないでおこうと思ってても、216円には思わず手が出たですよ。
 ポスカは大森晩年の生産拠点韓国に移した時代の製品で、フットにもKOREAの刻印があり、多分アクションMとかタックルAとかみたいな樹脂ボディーの安リールなんだろうなと思ってたけど、手にしてみると意外に作りもしっかりしていて悪くない。アクションMのような”チープ大森”的なリールではない。
 どうも、大森製作所の伝統あるリール名「マイクロセブン」の名が付く最後の機種であるマイクロセブン「V」シリーズと「C」シリーズのうちカーボン樹脂ボディーの「C」シリーズの方の後継機的なリールだったようで、多分本体の金型は一緒。
 これが、大森ファンには不評で「大森が大森らしさを捨てた時代のリール」と一刀両断されているけど、分解清掃しながら見ていくと、なぜそうしたのか、せざるを得なかったのか、大森製作所の苦渋の判断が浮き彫りになってきて、なかなかに味わい深いモノがあった。
 ワンタッチ折りたたみのウッドノブが付いたハンドルなんていう当時の流行も真似してる。だってそうすればハンドルネジ込みやめて亜鉛一体成形のギアに多角形の心棒入れる方式で良いから経費削減できるし、日本の釣り人はそっちの方が買うんだもん。
 スプールをワンタッチボタンで着脱可能にしたのも、スプールのハマる軸を太くしてドラグの効きを安定させるためというのもあったかも知れないけど、なんか見た目に分かる機能を付けて差別化しないと日本の釣り人買わないんだもん。
 一番驚いたのはドラグ。まあ大森なので基本の三階建てドラグなんだけど、これがエラい締まる。ギュッとドラグノブ締めると完全にラインが出なくなる。ドラグパッド見てみたら写真じゃ灰色っぽく写ってるけど実際には白と薄緑の斑模様の硬めのザラついたパッドで、どっかでこの素材見たことあるなと思いだしてみると、これライギョ用のアンバサダーの改造パーツとして売ってる”ドラグをフルロックするためのドラグパッド”と同じ素材だと思う。たぶんこれは石綿代替品系の素材かと。
 たかだかナイロンの2号とかで釣りするリールでこんなにドラグ締まるようにしてどうするんだと思う。正直アホのような設計だと思うけど、そうしないとドラグをしらない日本の釣り人には売れなかったんだろう。「ダイヤモンドリールはツマミ締めてもラインがズルズル出ていく」とか言われてたんだろうことは想像に難くない。
 「流行や釣り人の好みに迎合せずに良いモノを創り続けるべきだった」っていうのは評論家が後から言える台詞であって、当時自社製品が思うように売れなくなっていくなかで、生産拠点を人件費安かった海外に移したりもしながら生き残りを暗中模索していた当事者の苦悩をポスカに見てしまうと、そこまで言うたらんでもエエやんか、と思うのである。
 良いもの出しときゃ売れるんならマイクロセブンCシリーズが売れてなきゃおかしい。ポスカなんて作らんでも良かった。

 などということが書けるのは「マイクロセブンC1」買っちまったからである。
 ポスカ買ったジャン。悪くないリールだったジャン、じゃあその前身のマイクロセブンCも欲しくなるジャン。我慢できないジャン。仕方ないジャン。←急性大森症再発!!
 スプールが同じ樹脂製のキャリアーと互換性あるだろうから欲しいなと某ネットフリーマーケットで眺めてた個体、キャリアーそのものがもう一台手に入ったしいらんなと一旦心から追い出せてたんだけど、一回でも欲しいと思ってしまうと何かのきっかけで再発するネ。ジリジリと値を下げてきていたのもあって3900円でワシが購入させていただきました。箱入り取説付きでこんな値段でいいんかい?
 大森ダイヤモンドで樹脂製のリールといえばキャリアーが人気でワシも大好きだけど、マイクロセブンCもなかなかどうして悪くない、っていうかすんごく良い。
 キャリアーがボールベアリング1個で単純軽量設計のタックルオートの樹脂版で、マイクロセブンCはボールベアリング2個のアウトスプールの系統であるマイクロ7(アウトスプール)→オートベールの樹脂版的なリールかなと思ったけど、分解してみるとどうも、割と新機軸の気合いの入った機種だったようだ。
 ハンドルノブこそ日本風のウッドノブ付きだけどねじ込み式のハンドルで、当然ギアには堅い素材を芯に鋳込んだ大森得意のハイポイドフェースギア。
 ラインローラーも大森らしい樹脂製スリーブの入ったもので長く使える仕様。同じ樹脂製リールでもキャリアーとポスカは樹脂製スリーブなしのセラミックラインローラーを直受け方式だけどセラミックは滑らかで摩擦が小さいのかハードに愛用していたキャリアーNo.1でも摩耗した感じはまだない。とはいえスリーブ入りの方が安心ではある。
 音出しとサイレント、逆転の3段階切り替えはまああって困るもんじゃない程度だけど、蓋を開けてギアを見るとちょっと驚く。
 多分、ギアがマイクロセブンC用に新しく金型起こしたモノっぽい(マイコンとかと共通の可能性はある←追加註:マイコンと共通はないことに後から気付いた。理由はまた書く予定)。

 大森製作所はギアとかは変更が必要なければだいたい同じのを使ってるので、部品の共有使い回しが効くのが蒐集して使うにはもってこいの特徴だと思ってるけど、キャリアーとパーツ交換どこまで可能か調べようとしたら直径からして違ってた。左がC1でちょっと小さい。
 ちなみに予想どおりにキャリアーとスプールが交換可能、ついでにハンドルも交換可能ってことはギアに鋳込んでいる心棒は共通っぽい。
 細かい点だけど、蓋のネジが樹脂に直接ねじ込むタップネジじゃなくて、金属の雌ネジを埋め込む方式なのは他にはPENNの4桁スピンフィッシャーぐらいでしか見たことない丁寧な作り。ポスカではタップネジになってて経費削減したんだなと思う箇所。
 という感じで、大森製作所の最高傑作は何か?という問いにはいろんな回答があり得るんだろうけど、”大森アウトスプールの最終進化形”としては樹脂製でありつつねじ込み式ハンドル、堅い材を芯に鋳込んだハイポイドフェースギア、テフロンパッドの三階建てドラグ、樹脂スリーブ入りのラインローラー、ベール折りたたみ機構といった大森らしさを備えた「マイクロセブンCシリーズ」であると言っても良いんじゃないだろうか。
 その後のタックルシルバーとかはちょっと路線が違うので、対抗馬としては個人的にはマイコンTBシリーズかなと。大森アウトスプールの大きな流れであるマイコンシリーズの中でも終盤の機種で良い塩梅にマイナーチェンジが効いてて使いやすく良いリールだと思っている。でも他にもアウトスプールならキャリアーとタックルオートの単純軽量も一つの方向性だし、ってまあそのへんまた迷うヤね。でも現時点ではマイクロセブンCをワシゃ推す。
 マイクロセブンC1は実釣がまだなので、本当の意味での道具としての評価は現時点ではできないんだけど、まあ間違いないリールだと確信している。

 とかやってたら、ネットオークションで安いアグリースティックが手に入るようなら欲しいと「釣り具」「シェイクスピア」を検索条件として登録して定期的に見てるんだけど、ガツンと写真のリールが目に飛び込んできた。ハイ買っちゃってます。
 シェイクスピア「アルファ2260-030」である。
 ご存じのようにシェイクスピアは大森製作所にスピニング作らせてた時代が長くて、タックルオートとかはシグマシリーズの名前で売られていてたまにネットオークションにもかかってたりする。
 でも、このアルファのシリーズは金属製のがフルーガーメダリストと同じ機種だったりというのは目にしてたけど、樹脂製のは初めて見たうえに「030」は大森なら人気の「SS」サイズである。ちなみに「035」が「No.1」、「040」が「No.2」サイズと対応。
 ▲型の可愛いハンドルノブといい、マイクロセブンC系の造形といい、これは大森製作所の製造で間違いなさそう。あとは中身がマイクロセブンCかポスカかというところで入札に使える金額が違ってくる。コイツの正体がマイクロセブンCSなら即決価格の3980でも安いぐらい。大森人気最近落ち着いてきてるけどこのぐらいなら買いだろう。ポスカSなら開始価格の2980円の価値も正直ないかも。216円は安すぎるにしても、そこそこのデキの割に不人気だし中古本体のみなら千円台が妥当なところかと。
 写真見るとアメリカ仕様であちらでは需要のないウッドノブやベール折りたたみ機構は省略されているようだけど、ドラグノブはワンタッチボタンじゃなくて、ハンドルもワンタッチじゃなさそうということで、外れてポスカSでもまあ悪くないかと3200円で入札するも開始価格2980円でそのまま落札。

 手元に届いて”とにかくハンドル”と外してみると、ねじ込み式で「当たり引いた!」と喜んだんだけど、外してハンドルのねじの部分をみるとなんか違和感が。大森式で交差してネジ山が切ってあるんじゃなくて、PENN方式の根元と先とで太さを変えてあるネジ。
 ねじ込み方式ならマイクロセブンCS確定だと思って、入札中も質問したくて仕方なかったけどバレると即決で持ってかれそうなので我慢したけど、ねじ込み式でマイクロセブンCSじゃないっていうのは予想外だった。っていうかどこ製なんだこれ?
 でも、ねじ込み式なら丈夫な軸を鋳込んだハンドル軸のギアが入ってる実用的なリールなはずで、それならどこ製でもまあいいやと分解清掃に入ったんだけど、蓋を開けたらどう見てもハンドル軸のギアが亜鉛一体成形の鋳造もので、真鍮のブッシュで軸を受けてるのも亜鉛の軸が削れそうで怖いけど、それよりなにより、亜鉛の軸にハンドルのネジねじ込んだらダメでしょ?亜鉛そんなに堅くないんだからねじ込んで力かかり続けると軸太っちゃうでしょ?ねじ込みで太る軸を真鍮のブッシュで削るので一定の太さに、ってわきゃないよね?
 他にもローター軸のギアが強度が欲しいストッパーの歯車まで含めて亜鉛一体成形だったり、逆転のスイッチを切っても行き過ぎてちょうど良いところで止まらず逆転上手くできないとか、ラインローラーのメッキが甘くてライン巻いてたらハゲちょろげてきたとか、全体的に安っぽい作り。
 マイクロセブンCでもなきゃポスカでもなく、大森っぽい見た目にしてくれとシェイクスピア側が発注したのか、それとも大森が潰れた後に金型引き継いだ工場が作ったとかか、とにかく大森製作所じゃないところが作った安リールのようである。
 ドラグの安定性がイマイチなのを調整したり、メッキ剥げ剥げのラインローラーの表面がざらついているのをサンドペーパーでならして瞬着で表面コーティングして、逆転スイッチちょうど良いところで止まるようにカーボンの芯で止めを作って、と使えるようにするのに手間暇かけたけど、使ったら数年でどっか壊れるかも。ポスカの方がカチッとしていて数段モノが良いように感じた。
 シェイクスピアのブランドは好きだし、見た目も可愛くて良いんだけど、中身だけなら正直500円のワゴン行きだな。ハズレ引きました。でもまあこういうのも楽しいとは思うので2980円(と送料)は授業料込みということで文句はあまり言わないでおこう。

 とまあ、3台も買ってしまったわけだけど、マイクロセブンC1はキャリアーNo.1とスプール共用体制組めるしシビれる良いリールだしで手元に置くんだけど、ポスカ1とアルファ2260-303は正直単品で持ってても出番がない。かといって売るにしても値段が付くようなリールじゃないと思ってたら、ケン一が「余らしてて子供らハゼ釣るのとかに使えそうならもらうよ」とのことだったのでケン一へ業務連絡です、そのうち送るので待っててね。ラインもナイロン2号巻きました。

 リール文字通り売るほどあって、必要性が薄いのは売れるモノは売って、もらってくれそうな人には押しつけて、なんとか90台以下を保っております。
 スピニングネタもうちょっと仕入れてあるので、連投か休み休みか分からんけどあと2、3回書きます。お好きな人達はお楽しみに。


○オマケ「ギア交換」
 以前から、たぶん我が家の蔵にある、キャリアーNo.1、タックルオートNo.1、タックル5No.1はギア一緒じゃね?と思ってたんだけど、マイクロセブンC1とキャリアーNO.1のギア比較したついでに入れ替えできるか試してみた。
 キャリアーNo.1とタックルオートNo.1は交換可能。まあタックルオートの樹脂版がキャリアーなので当たり前かな。
 で、あたりまえにタックルオートNo.1のギアもタックル5No.1に入りそうに思ったんだけど、入りそうで入らない。逆は入った。
 昔のアンバサダーとか、組み立て段階で職人さんがピッタリ合う部品同士で組むので隙間とかがなかったと聞いたことあるけど、たぶん同じようにしてたり削って微調整したりもしてるんだと思う。
 大森製作所のサイズ同じリールはギア共通の場合が多いけど微妙にハマらないこともあるよ!ってことだと思う。
 ご参考まで。

8 件のコメント:

  1. スピニング熱なる病気は感染症で私も感染して厄介な事になってます。
    左投げ右巻きの体質で症状の進行に歯止めが掛かってますがこれが無かったら大変な事になってるでしょうw

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    1. おはようございます

       伝染してしまいスイマセン。
       一緒に深い沼の底に沈んで楽しみましょう。

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  2. ありがとう��楽しみにしてます

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    1. 次回ネタの撮影に使うのでもうちょっとまってね。

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  3. こんにちは。

    シェイクスピアの古いリールに興味がお有りで?
    http://shakespearman.freepage.cz/nova-stranka-243926/

    こちらのサイトでシェイクスピアのヨーロッパ法人、ノリスシェイクスピア60~80年台カタログがフリーダウンロード可能です。
    大森っぽいけど大森じゃない謎リールが満載です。

    自分も互換性スプールを求めていくつか買いましたが、ほぼ地雷でした(笑

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    1. ハイ!おありです。
      ていうか今まさに大森製(のはず)シェイクスピアが配送されるの待ってる状態です。

      カタログ公開してくれてるってメッチャありがたいですね。
      しばらく楽しめそうです。ありがとうございます。

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  4. はじめまして、おはようございます。

    「マイクロ7C1」の記述ですが、大変共感を持って読ませていただきました。

    何台かの大森リールを所持して使用していますが、このマイクロ7C1は、地味ながら総合的な使用感としては私はかなり上位にあります。

    特に「軽さ」、「ドラグの性能」に関しては実釣してみてなかなかのものであると感じています。

    私は、とある工房にお願いして、このダイヤモンドリール用のベアリング入りラインローラーを作製してもらい使用していますが、その使用感、巻き心地はなかなかのものですよ・・(笑)

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    1. はしどいさん はじめまして

       共感していただき嬉しいです。やっぱり良いですよね。
       実釣でも実力充分とのことで自分のみたてがそれほど的外れでなかったことに安堵しています。

       コレはぜひ使わねばと思うのですが、シーバス用にはちょっと小さいな、といらんことを思ってしまい、さらに病状悪化させてます。
       そのへんまたじっくり書きますのでお楽しみに。

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