2022年11月12日土曜日

秋の大森祭り!柿は甘いがリールは渋~い!!

 ちょっと前の話になるけどコロナ禍で法隆寺が拝観料等の収入減で維持管理費等経費が間に合わなくなって、クラウドファウンディング(ネット上で出資者やら寄付やらを募る集金方法)でお金を集める、という話題を目にして、何千何万という日本中のオヤジどもがおそらく思いついたであろうクソしょうもないネタを、恥ずかしながらワシも思いついてしまったことをここに告白しておく。

 柿食えば、金が無くなり法隆寺

 あっ痛い、モノを投げないでください、オッサンだから仕方ないんです。赦してください。

 というようなしょうもない枕で始まっております、今日のナマジのブログ、お題は冒頭写真の様に”柿”ではなくて、季節の果物に偽装してレクエル堂さんから送られてきた怪しげなリール達四台。一発で紹介し切れなさそうなので2週にわけてお送りしてみたいと思ってます。ご用とお急ぎでない方はごゆるりとお楽しみくださいませ(レクエル堂サン柿美味しゅうございました!)。

 今回、リール4台が我が家に来た経緯は、ちょっと前に当ブログで「大森製作所が、スピニングリール以外にもクローズドフェイスリールや太鼓リールを作っていたらしいというのはどっかで目にした記憶があるんだけど、それらを目にする機会は実物でもネット上でもこれまでなくて、例によって”OEM”という名の下請け仕事で、海外のブランドやらもしかしたらオリムピックとかの国産リールとして売られてたのかなと想像していた。」とボヤいてたところ、レクエル堂さんから「参考に必要でしたら大森のダイレクトリールとスピンキャストをお貸しします。」とのありがたい申し出を受けて、夏場たまってたジャンクリール達の整備を涼しくなってきてやっつけてから、今回お借りすることとあいなりました。改めてレクエル堂サンには感謝申し上げます。

 ブツは小型スピニングのコンパック「バンタムⅢ」、クローズドフェイスリールのコンパック「クリッパー」、小型ダイレクトリールは紅白ともモデル名はコンパック「モデル33」といずれもコンパックブランドで出ていて、なかなかこれらが大森製作所製だとは気付かないところである。なぜそれが大森製と分かったのかというのはまた後ほどにして、とりあえずあからさまに異形なスピニング「バンタムⅢ」が気になりすぎるので、分解してどんなモノか見ていきたい。

 見ていきたいんだけど、その前にまずこのリールの異様な小ささを皆さんにお示ししておきたい。今回の4台のうち後ろの方にうつってるクリッパーはごく普通のサイズ感なんだけど、他の3台は攻めッ攻めに攻めた小型機なのでイマイチ集合写真ではその小ささが伝わってないと思う。

  右の写真の比較対象の茶色いのは「デラックススーパー730」ではなく、ましてや「デラックススーパー777」でもなく、200gを切る軽量で通産省グッドデザイン賞も受賞の大森を代表するような小型機、茶色い方の北米版名コンパック「89アトラスⅢ」こと「マイクロセブンDX」なのである。マイクロセブンDXはかなりコンパクトで可愛い機種なんだけど、それより二まわりがところ小さく、でもリールが小さいからといって使う人間の手が小さいわけじゃないということから、ハンドルと脚が相対的に長く、脚と反対側に長く突き出した外蹴り式ベールの”蹴飛ばし”も併せて、脚の長い蜘蛛のような異形を感じさせる外見となっている。

 そして、このバンタムⅢその重量はなんとライン巻いた状態で実測約124g!ライン抜いたらおそらく120g強しかないというその軽さ、これだけでいかに面白いしろものか伝わるだろうか?

 でもって、分解に入る。

 ドラグは、写真だと見分けがつかないかもだけど、要するに一階建て方式で、ドラグパッドとワッシャーがそのわりに多くみえるのは、実は右から2枚目がバネの代わりの湾曲したワッシャーなのである。丸ABUのハンドルの根元に入ってるやつと似たような機能と言うと分かる人には分かるだろうか。で、右端がバネワッシャーの下に敷いてあるワッシャーで左2番目がフエルト製ドラグパッド、1番左が片側欠いた主軸と同期するワッシャー。という構成なので、欲を言えばバネワッシャーをスプールに固定化して、バネワッシャーの上に底のワッシャー1枚を持って来てこれまたスブールに固定した方が、ドラグパッドの作動時に摩擦する面積が増えて安定するはずだけど、現状でもそれなりにドラグとして機能していて、ドラグ締めていくにつれドラグパッドの接触面積が増えていくというのは案外良かったりして。なににせよドラグというモノがある程度分かった設計になっているのは確か。ドラグがまとものモノが付いているっていうのは大森製の特徴と言って良いのかと。

 そしてメチャ軽の要因の一つが、ローター周りで、ローター自体が鋳造じゃなくて薄いアルミ板をいわゆる板金加工したもののようで薄くて軽い。そしてベール関係がベールワイヤーの”バネ的力”を利用して外蹴りで反転する方式で、ベールアームも単純だし、ラインローラーは固定式どころかベールワイヤーの一部でしかない。

 左写真の様に、ベールアーム部?は斜めに切り込まれた円柱状で、ベールアームは常時ローターを挟むバネっぽく働いていて、投げるときはベールを起こすと写真真ん中のように傾斜の頂点越えて最後のところにきて窪みに填まるようになっていて止まる。ベール反転は脚の逆側の本体から伸びている”蹴飛ばし”がベールワイヤーの糸が掛かるところあたりを蹴っ飛ばして反転する。通常のベールアーム、ラインローラーが担当する機能の多くをベールワイヤー自体が担っていて、あからさまに単純な構造になっている。ベールスプリング、ラインローラーが少なくとも”無し”であり、それらを固定するネジだの支持する構造だのの必要性が生じない。さすがにベールアーム部の円柱のアルミとみられる金属はステンレスっぽいベールワイヤーに削られつつあるように見受けられるけど、素材の選定なり表面加工なりで強度確保するとかしたら、ラインローラーは固定式でも使えないほど糸ヨレ酷くないし、硬質クロームメッキのラインガイドは今でもフライロッドでは使われている程度には丈夫で、糸溝も砂っぽい場所で使うとかじゃなければ掘れないだろうし、軽さに振るならこれはこれでアリかもしれん。とか思うと一度このタイプのベールアームの機種を使ってみたくなって、ちょうどバンタムⅢ含む一山いくらの出物がネットオークションにあったのでマウスが滑ってしまったけど、競り負けて命拾いした。どこに沼は穴を開けて待ち構えてるか分かったモンじゃない。皆様もお気をつけて。

 そして、本体をご開帳といくと、これがビックリ玉手箱!ちょっと目を疑ったけど、いくら見てもドライバーでコツコツ叩いてみても、ハンドル軸のギアが黒い樹脂製(芯は真鍮製)です。ありがとうございます。そりゃ軽いわけである。

 マジかよ?強度的に大丈夫なのか?っていうのはギアに関しては大丈夫だったようでローター軸のギアは真鍮製のかさ歯車同士のベベルギアなんだけど特に摩耗もしてなくて充分滑らかに回ってる(当社比)。ただ、さすがにストッパーは持たなかったようでギア裏に設けられてるんだけど1枚歯が欠けていた。これは使用時ストッパーを切って使っておいて、取り込み時とかハンドルから手を離すときだけストッパーをかける”ミッチェル方式”で使った方が良さげなリールである。でもまあ120gちょいの超小型機に強い糸巻いて堅い竿でガツンと大アワセするわきゃないので、ミッチェル式採用のうえ繊細な釣りを楽しむ分には実釣可能ではなかろうかと思う。だって、ちゃんと糸巻いて投げるのはデキるように作られてるもん。

 でここから主軸を抜いてローターを抜いてと思ってたら、スプール上下用のピンが主軸にブッ刺さってて外せず、主軸が抜けないことが判明。構造的にローターにボールベアリングとかが入ってることもなさそうなので、分解ここまでで終了。

 でもって、このリールが大森製作所製である根拠は何ぞや?って話になっていくんだけど、今回の4台ともワシ、外見では大森製作所製とは判断つかん。今回のバンタムⅢについては、かろうじてハンドルの形が古い大森っぽいといえばぽい。ハンドル折り畳みじゃない時代の大森スピニングのハンドルは、リール側からハンドル軸のギアの芯の先が出てきててそこにネジが切ってあり、それが収まるハンドルの方には当然雌ネジが切ってあって、その上部がポコッと丸く飛び出している。昔触ったことあるリールでは「スーパー99」とかがそうだった。とはいえその程度の特徴は他のメーカー製のリールでもまま見られるものであり決め手にはならないだろう。

 ワシも初見で、バンタムⅢは「オリムピック製か?」と思った。事実オリムピック製として紹介しているネットの情報もあった。しかし、決定的な証拠としてレクエル堂さんが海外のサイトで見つけてきたという資料を見せてもらったら、大森製作所の80年代末ぐらいまでの代表的な機種を並べて歴史を振り返る的な、パンフレットかカタログかの抜粋で、その中に、今回お借りした4機種はしっかり発売開始年やらも含めて出てくるのである。大森製作所公式の資料のようなので、大森製作所が製造したリールで間違いないのだろう。ちなみにバンタムⅢは1954年発売。

 ただ、色々と周辺情報を総合していくと、単純明快にはいかないような臭いもしてきて、調べれば調べるほど混乱してくる。

 ちょうどタイミング良く、TAKE先生がサイトの方で元日吉産業の原氏のお話を紹介していて(2022/10/28の記事)、それを読むと当時力のあったオリムピックは埼玉の小さいリールメーカー各社に下請け仕事を発注していた様子がうかがえる。当然大森製作所もオリムの下請けはしていたとみるのが自然で、例えば、バンタムⅢもオリムピックがコンパックブランドのコマースパシフィック社に収めてた形だけど、実際には孫請けになる大森製作所が作ってた、なんてことがあり得たんじゃなかろうか?って思うし、オリムピックブランドで売ってた「NO.15 HI-STAR」なんていう機種を見ると、大森製作所作成と”大森公式”が書いている、コンパックプランドのバンタムⅢやシエラⅣと形式とか細部とか良く似てて、大森製のリールを「オリムピック」の名の下に売ってたのも当然あったのだろうと思う。大森がオリムのOEMという名の下請けしてたのは”ベルセカ”でもチラッと触れられてたので、どのあたりの機種がそうなんだろうと思ってたけど、ローターが薄いアルミ板金でベールワイヤーがベールアーム・スプリングの役割をするタイプはそれっぽいのではないかという気がしている。他にもあるのかも。

 オリムの製品は必ずしも自社工場生産だけじゃなかった。っていうと過去に感じていた、オリムの製品はしっかりしてるのと、そうでもないのと混ざってる。っていう感覚もナルホドナと納得するものがある。ワシが初めて実戦導入したインスプールスピニングである「トゥルーテンパー727」はカチッとしっかりした作りで、ボロかったけどメンテしたら実釣問題ないものだった、でも同時期の「エメラルド350」はイマイチ、カスカスした感触というか個体差もあったのかもだけど、使ってて「大丈夫かこれ?」っていうしっくりこない感触のモノだった。同じところが作ってるにしては違う気がしてたんだけど、気のせいではなくて実際の製造元が違っていたのかもしれない。それは必ずしもオリムピックの方がデキが悪い的な話ではなくて、埼玉の小さいメーカーには大森や日吉のような今でも評価が高いところもあれば、名も残ってないようなショボいところもあったんじゃないだろうか?っていうのが、今回推理でも何でもない、想像というかワシの妄想である。

 そのあたり、原氏のお話をまとめた本を企画中なのをTAKE先生サイトで匂わせていたので、当時の現場を見てきた人の語る内容は読まねばなるまいと思っちょります(たのまれてもおらんけど宣伝しておきました)。

 とはいえ、分からんからミステリアスな魅力が出てきて、沼にズブズブ沈んで行くっていう側面もあるので、何でもかんでも分かりゃ良いってモノでもないのかもしれない。でも知りたいノ。面倒くせぇぜ複雑なオヤジ心。

2 件のコメント:

  1. ナマジさん、おはようございます。

     テンション高めで掘り下げて下さり嬉しいです。まさかナマジさんに持ってるやつをレビューいただける時が来るなんて(感涙)。
     私は資料の情報を大部分そのまま信じてるんですが、調べられると単純ではない感じなんですね。
     しかし下請け説、HI-STARで物証をおさえられてましたか。
    私の場合、左巻きシエラと右巻きオリム・ハイスターの酷似とホーネット2のノブが型割まで大森の物と同じ点から設計と部品の共有を疑い、
    資料中の名前を伏せられている“第一号機”がコンパックとハリケーンで共にOlympicJapanとフットに浮彫で入っている機種ということで大森製造がごく初期にオリムに供給されていたと思うようになりました。

     埼玉リール連合王国は、長い期間協業してた最中ギスギスのピリピリだったんですね。相当うまい事立ち回って大王に潰されずに独立したんでしょうか。
    このつながりがあったからフェースギアをオフセットさせる考え方が早く行きわたったんでしょうね。

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    1. レクエル堂さん おはようございます
       楽しんでいただけたのならなによりです。
       ハイポイドフェースギアは確かに、オリムも大森と同じような時期に採用し始めてて、大森が開発したと言われてるけど、各社大森と同時期ぐらいに開発してたノか?とか疑問に思ってましたけど、連合王国だったから技術の共用があったと考えると納得です。

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