2022年10月15日土曜日

パソコン椅子探偵ー「スーパースターNo.2」製造元迷宮入り編ー

  ええ、箱入り娘を買うてしまいました。基本ジャンクを買って使えるようにするというのが方針のハズなのに、「初期の大森製作所製」との説明に思わず見入ってしまい。写真で見ただけでも、大森っぽくはないなと思うけど、じゃあどこかというとオリムピックっぽいとは思うけど確証はない。箱と説明書が付いているので、買えばそのへん分かるだろうと興味が出てしまい、送料込み3300円と高くもないので、マウスが滑らかにすべることに対する抵抗は少なくダブルクリック。

 しかしながら、届いてみると箱にも取説にも、どこで作ったかの製造者名がない!これは難事件の予感。孤島で密室で因習の残る孤立した村の謎めいた女の気配がする。

 取説も日本語だし、”小売正価¥1450円”とあるので国内販売用で、国産だろうなというのは分かるけど、この時点では製造元の特定につながるような情報は少ない。「No.2」とあるので、No.1か無印の「スーパースター」があってもおかしくないかと、ネットで探ってみたけど、このNo.2自体はちょくちょくネットオークションとかには出てたようだけど、他にスーパースターと名の付くようなリールは見当たらなかった。商標権の関係とかもあって名前は同じ名前を使い続けたりするものだけど、それがないということは、これ作った後は自社ブランドでリールを売ってないとかも想定される。取説によると、ボールベアリング、ワンタッチスプールを採用、”歯車比”1:3、自重330gとなっていて、「中型スピニングリールでは理想的な最高級品です。」と高らかに謳っている。

 ということで、箱書きも取説も製造元特定には用をなさなかったんだけど、リールそのもの見てオリムっぽいと思ったのは、全体的な雰囲気とお尻に油差しのキャップが填まってる感じからそう思ったというのもあるけど、細部でもベールアームにベールワイヤーを固定する方式が、マイナスネジに覆い(カラー)を付けている点で、真ん中の写真の左が比較対象のオリンピック「アトラス」で、最初この固定方式どっかで見たことあるけど、なんだったっけ?と思い出せなくて、あちこちのサイトを見て回ったり参考文献である「ベルセカ(ベールアームは世界を回る)」をみたりして悶絶していたけど、何のことはない自分ちにあるリールだった。出品者さんは「大森製」を信じていたようだけど、大森っぽい要素はハンドルノブの摘まむところがえくぼのようにくぼんで絞ってあるところだけだと思う。一番下の写真で同じような大きさのマイクロセブンDX(右)のハンドルノブと比較したけど、同じようでいて明らかに形状が違う。マイクロセブンDXのほうがハンドルノブ根元が絞られている。スーパースターNo.2のハンドルノブ根元は寸胴。金型の違いは明らかでこれをもって大森製とは言い難く、このハンドルノブの形状はむしろオリム製「コンパック ホーネット」のそれに似ているのもオリム製説を強化するところ。

 とはいえ、分解していくとむしろオリムではない、いわんや大森ではないような、特徴的な”癖”が見えてくるので、どうもワシが知ってる既存のメーカーのモノではないとみるのが適当かなと思えてくる。

 ハンドルは左専用ネジ込み式で、たためないので外して送付されてきた。話脱線するけど、どうも最近の国産高級リールもねじ込み式でたためなくなっているらしくて「ガタつきが生じない」とか「壊れにくい」とか言ってるようなんだけど、普通にPENNや大森のたためるねじ込み式のハンドルでガタついた記憶がないし、ねじ込み式のハンドルが壊れるのは、スピニングリールの構造上本来やっちゃいけないゴリ巻きするからで、そういう特殊な”力こそパワー”な脳筋釣り師に合わせて商品作ると、遠征時とか持ち運びするのにいちいちハンドル外さなければならなくなる。汚れるし面倒くせえ。特殊な使い方する人間はマニアックな小工房の社外品でも付けて対応しておいて欲しいものである。最新のスピニングリールのこの迷走ッぷりはどうなのよ?とワシャ買わんので関係ないけど、スピニングリールがどういうモノか分かってない釣り人達がクソみたいなリール買わされてるのはさすがに不憫に感じる。

 スプールの方から分解してみていくと、まずワンタッチの先が針金バネで独特。初めて見る方式。ちょっと華奢で壊れそうには思うけど、これなら自作バネで修復できそうで、悪くない方式かなと思う。良くあるタイプの金属板のバネはさすがに自作は難しい。

 スプ-ルを主軸の台座に固定する方式も、台座の穴にスプールのスリーブ座面の棒を刺す方式で独特。普通主軸の横棒にスプールのお尻の溝を填めるのが多いかと。

 ドラグが、久しぶりに見るドラグのことが良く分かってないドラグ。

 右の写真をみるとパッと見、ドラグパッドが写ってないのかなという気がするかもだけど、ドラグパッドは、ワンタッチのスリーブに填まっている赤い繊維製ワッシャーです。一応こいつがドラグパッドとして機能するのが正しい形のハズ。ただ、実際には真ん中へんに写っているバネがドラグパッドとしても機能してしまっていて、当然バネの上下なんて平面でも何でもなくて滑らかには回らないので、ドラグは作動時引っかかり引っかかりギクシャクとろくでもない挙動になる。バネはドラグの調整幅を出すのに必要なんだろうけど、今時の普通のリールのようにドラグノブの中に配置されておらず、スプールのドラグが入ってそうなところに入れられていて、かつ上面がスプールと共に回ってはドラグノブが回って締まったりするので、バネ上面は主軸(に填まってるスリーブ)と同期する片方切り欠いたワッシャーでスプール回ってもドラグノブ回らないようにしてるのに、バネの下面はスプールの中仕切り?に接していて、スプールが回ると当然回ろうとして摩擦が生じる状態。せめて、バネの下にも切り欠きワッシャーを入れてバネの上面と下面でスプール回転時ねじれた方向に力が掛からないようにしておけば、下の切り欠きワッシャーの下に適当な滑る素材のパッド入れれば、スプール中仕切り上面とスリーブの座面の間でドラグパッドとして仕事してる赤ワッシャーと合わせて2階建て方式のドラグになるのに、良く分かってない人間が作るから変なことになっている。切り欠きワッシャー作るのは金属加工は得意じゃないので面倒臭いなと、次善の策としてバネ下面が平面になって滑りが確保できるように、硬質フェルトワッシャーで輪っかを作ってバネの下に敷いたら、だいぶマシな挙動にはなった。ただドラグ値が高いところで安定する感じだったので、ギチギチドラグで使うような大型リールでなし、赤ワッシャーを二枚のうち一枚、ちょうど良い大きさのがあったのでテフロンワッシャーに換装しておいた。それでも及第点とまではいかないけど、何とか最低限のドラグらしきものにはなったと思う。

 ローターカップは見えているナットを外すだけでは抜けてこなくて、回して外す方式で、外すとなんか重ねられた金属ワッシャーと赤い繊維製ワッシャーが出てくる。赤ワッシャーに穴ぼこが空いてそこに玉を填めてあり、ちょっと安っぽい作りに思うけど玉の填まった輪っかを上下の板で挟み込む”スラストボールベアリング”のようだ。

 ギアは単純なフェースギア。作るの簡単そうだけど、グリス盛り後も滑らかとは言い難い巻き心地。ただ低速だし、まがりなりにもボールベアリングも入ってるしで巻きは軽い。上等だろ?

 ローター軸のギアやお尻の油差しのキャップには真鍮のスリーブが噛ませてあるのが特徴で、なんかアルミ鋳造の本体の強度とかに不安があるんだろうか?アルミ直受けは極力避けている印象。

 唯一のアルミ直受けはハンドル軸のギアの軸受け部。って、そこは一番真鍮のスリーブ噛ますべきところと違うのか?という疑問が湧くのはワシだけだろうか?ちなみにハンドル軸のギアは亜鉛鋳造で軸に真鍮を鋳込んである。

 逆転防止のストッパーはハンドル軸のギアの裏にラチェットの歯が切ってあるタイプで、特に可も無く不可も無くだけど、形状とかでどこかに似ているとかの情報は引き出せなかった。

 ラインローラーは固定式で、使用時にラインが当たってた面が溝できかかって錆びており、錆びた面を上に向けると見た目悪いが使用を前提として整備するならこれは仕方ないところ。まあ使うあてないけどな。


 パーツ数は真鍮のスリーブがやや目立つけど、それほど複雑じゃないので少なめ。投げて巻くだけの機械に複雑な機構突っ込んでもジャマなだけで、必要な機構をシンプルに備えた設計がスピニングリールとして良い設計だと常々思うところではある。釣り場でトラブるような機構は蛇足。ジャムったら命に関わるような銃器の世界でコルトガバメントみたいな100年前の古くてシンプルな設計の銃が現役なのをみても、ミスったら後がない場面を任せる道具に求められるモノは何かというのが知れるというもの。とはいえウクライナに行くロシア兵にモシンナガンが配給されたってのを読んだ時は笑ったけどな。名銃だろうけどロシア帝国時代の銃でっせ。戦況が長びけばそのうちマズルローダーやらまで出てきて長篠の戦いまで後退するかも?もういっそ素手で殴り合っとけ!CQC(徒手近接戦闘)はプーチン閣下お得意のはずだろ?

 閑話休題。組むとき、スラストボールベアリングはローターの締め具合で適切な圧を掛ける必要があるけど、締める方向に回すとハンドル軸のギアが回ってしまう。外すときはストッパー掛ければ良かったけど、締める際にギアを無理矢理固定するとギアの歯を痛めそう。なんとかならんかと考えてオシュレーションスライダー用のギア上の突起を利用する方法を思いついた。さすがにこの突起は折れんだろう?オシュレーションスライダーをつっかえ棒にして、とりあえず締まるところまでしっかり締め気味で、どんなもんだろうと塩梅をみたら、ガタつかず回転は軽くちょうど良かった。

 整備していつものように青グリス大盛りで、軽く回るし、ベールの返りも良い感じに仕上がったんだけど、ごらんのように本体蓋の面がのっぺらぼう。蓋にブランド名や商品名が本来貼られていたのでは?そういうOEM用のリールで発注元に収めなかったのを、無銘で国内販売したものとかか?とか思って、同じ形の海外メーカーの製品とかないか、ネットで探ってはみたけど見つけることはできなかった。どなたか「同じ形のリールで名前が付いてるの見たよ」という方がおられましたら、情報提供よろしくです。

 という塩梅で残念ながら大森とは関係なさそう。ひょっとしたらオリムとは下請けなどで付き合いがあったとかで、ちょっと似た部分があるのかもとかも考えたけど、特に関係なく、海外からOEM(相手先ブランド名生産)請け負ってた工場で、歴史に名の出てこないようなところの製造なのかもしれない。まあ、オリムは部品普通に互換性があるぐらいのフルコピーが得意だったから、コピー先にこういう仕様のリールがあったという可能性も無きにし有らずだけど、オリムピック製だとすると、本体もとより箱にも取説にも社名がないのが不自然であり、その線もないのかなと思う。なにせミッチェル300系のフルコピー品に堂々と自社名を掲げてたぐらいである。そういうユルユルな時代もあったのさ。

 というわけで、今回”パソコン椅子探偵”としては、この子のお家はどこですか?という謎は迷宮入りで、どなたか何か情報をお持ちの方がおられたら、タレコミお待ちしております。あと使う予定もないので実物いじってみたい方とかおられればご相談下さい。

※情報提供いただき、初期のダイワ製と判明しました。捜査協力ありがとうございました。

4 件のコメント:

  1. オリムが8枚ギアをコピーしたのって、当時最先端ですしウォー厶ギアみたいな高度な技術力が必要で生産性の悪いパーツが無いってのも大きかったようです。

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    1.  当時のミッチェル300系は、量産機で手に入るのは他にないぐらいだったんでしょうから”スピニングリール”という概念ものそのものに近かったんでしょうね。

       しかし、キビレ釣りまくられてますね。バングオ一一発退場とか、まさかの展開で楽しく読ませてもらいました。サバもなにげに楽しそうでシーバスはお互い苦労してるようですが釣りの幅はそういうときに広がるのかもですね。

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  2.  ナマジさんもこっちの沼に足を滑らせましたか…
    これはノーマンとカルマン系統の祖先でダイワ製だと思います。
    この頃のダイワは外観イタリア風の低速ウォームギア機を乱発していて、一方に象徴的な三角ボディーのフェースギア機をこまめにアップデ―トしながら製造していたようです。
     
     自社ブランドらしいものを持たずに、小規模なアメリカの商社の名前だったり単発のシリーズ名だったりシアーズ・ヒギンスやロディ―に紛れてたり神出鬼没な感じです。
     
     この時期の銘は主に商社Jorgensenとシリーズ名?Columbianで、やたら細部に凝った作りのわりに機能しない箇所があったり、板物の形がとっ散らかっていて仕上がりも汚いなどの特徴があります。個人的にダイワはこの少し後の合理化前ものが最高だと思います。

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    1. おはようございます
       ダイワは予想外でした。ためしにJorgensenでイーベイの出物を見てみたら「NO.9」というウォームギア機のワンタッチスプールの台座の方式が”完全に一致”です。ほかの細かい所や雰囲気も似てたりします。かなりスッキリしました。情報ありがとうございます。

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