2022年9月3日土曜日

密告「魔改造の夜」

  「ここで見たことは他言無用です」とその夜会の案内人から口止めされる。しかし、私はこのような悪魔の所行を黙って見過ごすわけにはいかない。いかなる報復、あるいは禍々しい祟りがあろうとも、今ここに勇気を持って告発したい。

 その夜会は「魔改造クラブ」という秘密結社が密かに開催しており、参加者は驚くような大企業の技術者をはじめ、最高学府の学徒、技術力の高い中小企業の職人などで、私もTヨタだのRコーだのT大だのといったそうそうたる面々をみて戦慄を覚えたモノである。まるでマンガ「グラップラー刃牙」の”地下闘技場”の技術者版を見るがごとき胸の高鳴りを、私は止めることができなかった。

 夜会には生け贄が捧げられる。夜会には生け贄を納めた者も同席することもあり、「魔改造」と呼ばれる、本来の姿をとどめぬほどの異形と化してしまった”我が子”らの”晴れの姿”を時に恍惚とした表情でもって礼賛している。

 ”魔改造”とはなにか?クラブでは「家電やオモチャのリミッターを外し、えげつないモンスターに改造する行為」と定義している。太鼓を叩く可愛いクマちゃんの人形が、魔改造を施され恐ろしい膂力で瓦を何10枚も叩き割り、トースターは会場となった古びた倉庫の屋根に届かんばかりに焼き上がったパンを打ち上げ、イジェクトされたDVDは高速回転しながら射出され25m先のボーリングピンをなぎ倒す。挙げ句の果てにはペンギンちゃん人形が人間とともに縄跳びに挑む。

 こんな狂気の夜がこれまであっただろうか?私は恐ろしい。

 こんなとち狂った、”あたおか(「頭おかしい」の略)”の夜のために、集いし猛者どもは己の技術・能力の限りをもって、魔改造にいそしむ。H技研は宗一郎イズムを継承した挑戦者魂でお掃除ロボを炭酸噴射によって空を飛ばしめ、Tヨタは大人げなく足をタイヤに履き替えたワンちゃんの人形を爆走させ、町工場がボウガン方式のDVD射出装置で、車産業界裏番長Dンソーの高精度なローラー射出装置と真っ向勝負を挑む。

 この狂気の宴に私も心奪われずにいられなかった。焼けたトーストが空高く飛ぶことに何の意味が?クマちゃん人形が瓦割る腕力を得たら危ないだろう?これらの魔改造は何の意味も実用性も持たない。にもかかわらず、参加者は力一杯最高の仕事をやってのけ、我々を興奮の坩堝に叩き込む。そして難事に挑戦して失敗し涙さえする場面もまま目にした。ただ、この夜会の大切なルールとして各種のレギュレーションの他に「失敗してもかまわない」というものが設けられている。実に素晴らしいことである。参加者は、もちろん己が組織の名にかけて、己の矜持にかけて、成功を勝利を求めて夜会に参加する。にもかかわらず、失敗が、全力を突っ込んで攻めた先に待ち受けていた失敗が、時になまなかな成功よりも崇高に輝く瞬間を私は目にした。失敗を恐れず挑戦することのみが次の高みへと我々を導くという、そのことを私は改めて知らされた思いがするのである。

 

 「魔改造の夜」NHK制作のアホな企画番組でふざけてるんだけど、大の大人が、それも一流の知性と技術を誇るひとかどの大人達が、大まじめにふざけているのがとても素晴らしい。彼らは本質的に、こういう”面白い””挑戦的”な試みこそが技術開発や発展につながる、あるいはそのために必要な力を育むということが良く分かってて、真剣に手抜きなく力一杯ふざけているのが実に素晴らしい。こういう企画に社名を揚げて(一部伏せ字だけど)気合い入れて挑戦してくる企業があるというのは、科学技術予算や教育関係予算がドンドンショボくなっていく日本でも、まだ現場は根性あって、工業国としての底力はまだ残ってると実感するところである。国としては落ち目で景気悪い我が国(今は円安で輸出は好調なのか?)だけど、技術力ある企業は自前で生き残るだけの蓄積と先見性と挑戦する心意気をまだ持っているというのが知れて、頼もしく感じたところ。

 って感じで今回サイトの方でやってる「アニメ・映画など日記」の出張版でいかせてもらいました。NHKのこういうネタ番組はけっこう攻めてて好きだったりする。

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