2022年2月26日土曜日

君の名は?パソコン椅子探偵見慣れぬアジ科魚に苦戦する

  ワシ基本的にブログの記事とかは、自分が書きたいから書くっていうののほかには、どっかにいるであろう、ほとんどの人にとって全くぜんぜん必要ない情報をまさに欲しがってる超限られた人、に届けば良いなと思っている。なので設定いじったら可能なのかもしれないけど、検索エンジンに引っかかりにくいと感じているフェイスブックにはあんまり興味がなく、仲間の書いた投稿が読みたくてアカウントだけ作って読んでるけど、あいもかわらず読む人も少ないブログ形式で寒さこらえて書いてます。っていうかいまだに個人でウェブサイトも運営している人間ってほぼ絶滅危惧種じゃなかろうか?でも情報を階層状に整理して置いておくにはウェブサイトのほうがブログよりもさらに便利で、少額ながらもお金払ってサーバーのスペース借りて安くないサイト作成ソフト買ってでも続けていくつもりではある。自分の記事を備忘録として使うにはサイト形式が使いやすい。

 でもって、そういうサイトの記事がまさにご縁になって知り合った、香港釣行時にお世話になった村田さんのフェイスブックを覗いていたら、村田さん現在は中国本土廣東省におられて現地発の情報を発信されているんだけど、新規開拓で行った釣り場で息子さんと御友人の釣られた魚の名前が分からないので教えて欲しいとの投稿があった。

 まあ、ワシこれでも水産の世界でメシ食ってきた男やし、同定はそこそこ自信あるのでいっちょ軽くやっつけたろうかと、写真の2種の同定作業に入る。

 左の写真の1種目はわりと簡単。ヒメジの仲間だろうというのはすぐ分かるので、とりあえずウェブ魚図鑑であたりを付けようかなと、みたらば尾鰭の上下共に黒帯有り、体側の褐色帯は目の前方まで届く、ヒゲが白くないということで同定完了。信頼を置いて使ってる検索図鑑「日本産魚類検索」を引っ張り出すまでもなくヨメヒメジと同定。

 もう一種の右の写真のアジの仲間が、まあアジの類いも結構な種類釣ってきたし、記事にもしたしでなんとかなるだろとタカをくくって調べ始めたら、これがどうにも難問。というか独力で同定しきれなかった。クサフグとコモンフグを混同していた件とか、ワシの同定能力もたいしたことがない。常に精進せねばとの念を新たにするところである。

 パッと見た瞬間、ゼイゴ(稜鱗)が胸ビレ後端の前まで来ているので、ヒラアジ系を除くとそういう特徴を持つのはマアジとオニアジぐらいなのは前回マルアジ同定したときの知識が頭にあったので、マアジだとゼイゴは頭の真後ろまで続くので、オニアジだろうと見当を付けたんだけど、どう見ても体型が違うのとゼイゴの幅と胸ビレの長さも違う。オニアジは豪州ケアンズの港で同行の”釣りの上手い人”が釣ってるので現物も見たことあるけど印象的にも違うように思う。小型の時はこんなのかなとも思ったけど違うようだ。色的には黄色い帯が目まで達してて鰓蓋に黒斑があるのでウェブ魚図鑑で見るとホソヒラアジが似ているけど、ゼイゴが胸ビレまでぜんぜん達しないのであり得ない。色は嘘をつくけど骨や鱗はあまり嘘をつかない。これは写真写りが悪いだけでゼイゴが頭の後ろまでつながってて、色は違和感あるけどマアジかな?と思うも写真拡大してもゼイゴは見えない。再度「日本産魚類検索」を紐解くも、ゼイゴが胸ビレに達するヒラアジ系じゃないアジ科魚となるとやっぱりマアジとオニアジしかなくて、残る可能性は日本での報告のない種ということになるけど、同じ大平洋の、底魚ならともかくある程度回遊もするだろうアジの仲間でそれはないよなと、悩みまくった。結果としては村田さんの投稿に対して「テルメアジ種ではないか、と思いますきっと」と書き込んでる人がいて、そんなアジいたっけ?とWEB魚図鑑で調べたら、まさにゼイゴが胸ビレに達しているという特徴にビンゴ!かつ最近報告された種だと知り、謎は全て解けた、多分。

 なぜ自分が同定できなかったのか?その理由は、ワシの使っている「日本産魚類検索」は1995年出版の第1版の改訂稿バージョンなんだけど、テルメアジは2011年に日本では初報告された魚で日本産魚種を対象とした手元の検索図鑑に載ってなかったのである。よく探偵モノで言われる「いくらあり得ないように思えても、可能性を潰していって最後に残ったモノが真相である」っていう、まさにそのパターン。一応海外の種ということで、まさか南から黒潮に乗って房総半島まで各種メッキがやってくるぐらいなのに、中国沿岸のアジ科魚が日本未確認ってことは無いだろうと思いつつも、英語版のウィキペディアでマアジ(Trachurus)属の種ぐらいはザッと見てはいたけど、まさかのメアジ(Selar)属、なまじメアジは釣った事あって、ゼイゴが尻尾の方にしかない印象があったので違うと外してた。不覚に深く反省するとともに、書き込みされていた方のご慧眼に感服したしだいである。

 でもって、パソコン椅子探偵的には恥ずかしい敗北ではあるけど、探偵モノにでてくるクンロク通りの真相で面白かったので「コレはネタにしたろ!」と村田さんにも快諾を得て写真使わせていただいたところである。村田さん改めてありがとうございました。良い勉強させてもらいました。

 WEB魚図鑑は以前も指摘したように間違いもけっこう見受けられ、基本はその道の大家である中坊先生がが責任持って編纂した検索図鑑を信用しているのだけど、新しい報告に基づいて随時アップデートできるというのはネットの図鑑ならではの強みで、今回そのことを痛感してどちらも得手不得手を踏まえつつ使いこなすべきなんだなと反省したところ。「日本産魚類検索」も第3版まで更新されているけどネット図鑑のようにはいかないのはいたしかたない。

 あと、手順通りお作法通りに同定作業をしていけば、分からないモノは分からないという答がちゃんと出るっていうのも、なかなかの学びで、曖昧模糊としてて変化していく生物の世界で100%正解に辿りつけるなんて考えなくても良くて、今回の同定結果も9分9厘ぐらいの回答だと思ってる。けど”子のたまわく、知らざるを知らずとなせ、これ知るなり”っていうのはやっぱり大事な事だなと思ったりしてます。魚の同定でその手の話で一番感心したのが、魚の仲買人がマサバかゴマサバか分からんのがいるので調べてくれって、水産試験場に持ってって、水試の研究者が真面目にDNAとか調べたら、そもそも天然の水域でも交雑個体が低い割合(1%に満たない)ながらいることが明らかになって、同定の基準となる背ビレの棘数やら、体高に対する体幅の比率やらを使っても100%の両種同定には当然なり得ないっていうのが報告されてて、目利きのプロである仲買人が、恥を忍んで専門家に聞きに行ったその姿勢こそ、知らざるを知らずとなしている好例だなと、思ったのを憶えている。

 知らないことは恥ずかしいけど恥ずかしくなくて、知らないのに知ったかぶりをするのが恥ずかしいと、ついつい見栄張ってしまいがちなので、自戒を込めて書き記しておこう。

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