2020年2月1日土曜日

枢機卿も時代とともに


 知人から「カーディナルⅡっていう今時のABU(ピュアフィッシング社)のスピニング買ったんだけど、4千円ぐらいで安くて調子良いので2台買って一年ぐらい経ったら、ルアー引いてるときにたまにカツカツッて感じのアタリと間違えるようないやらしい振動が出るようになったけどどうにかならん?」と相談を受けた。
 2台とも同じだそうで、不規則にしか症状が出なくて再現が難しいらしいので原因特定できる自信がないけど、同じような症状が2台で出てるなら設計的な問題があるのかもしれず興味が湧いたので1台預かって修理に挑戦してみることにした。
 ついでに彼はアウトスプールになった時代の「カーディナルC4」を当時愛用していて今でもたまに使ってるのを知ってたので、不具合生じてないそうだけど是非分解させてくれとお願いしてこれも預かって分解清掃注油を行った。
 預かってしばらく放置していたけど、しばらく前の大時化の日に釣りに行かず時間ができたのでやっつけた。

 名機「C4」はさすがという感じで勉強になった。
 C3とともにABUの黄金期の歴史的傑作機のカーディナル33や44の機構やデザインをある程度継承しつつ当時主流となっていたアウトスプール版で左右両用化しているんだけど、33とかが中古屋の陳列棚に並んでいると、本体がスッキリと薄型で昔のボルボを思わせるようなカクカクとした北欧系デザインで格好いいのに惚れ惚れするんだけど、C4も同様に本体は薄型でスッキリしている。
 なぜ薄型なのかはパカッと本体蓋開けてみれば一目瞭然で、巻きは重いが耐久性と感度の良さでは定評のウォームギア方式なので、ローター軸のギアとハンドル軸のギアが重ならず、平面的に横に配列されるので薄くなるのである。
 同じウォームギア機でもPENNの714Zとかではハンドル軸のギアの部分モコッと丸く出っ張らせてあって、アルチェードではさらに極端におもいっ切りギアの形が分かる形状でそこにカワセミの意匠の丸いレリーフがあしらわれてて各国のお国柄がしのばれるようで面白い。
 ABUの場合、ハンドル軸のギアの隣にオシュレーション(スプール上下)のためのギアも並べて、ついでに空いたスペースにドラグも入れて、濡れたらいかんような部品が全部本体内に入ってて、おかげで何十年と使われてきても腐蝕もなければ摩耗もしておらず改めて分解清掃する必要もないぐらいの感じだった。ローター軸のギアはステンレスでストッパーが一体成型されててクソ丈夫にできてるし、他のギアも真鍮製で耐久性高いのが見て取れる。ベールスプリング交換だけで死ぬまで使えるはず。ベアリングも浸水したら交換かもしれないけれど、グリスシーリングしておいたから通常の使用ではまず錆びないだろう。ハンドルねじ込み式で軸が鋳込んだステンレス製で摩耗に強いからか、ハンドル軸は銅製のブッシュで受けていて、ボールベアリングはローター軸に一個だけである。銅製のブッシュは錆を心配する必要はないだろう。
 ラインローラーは樹脂製スリーブの入ったセラミックっぽい素材のものでなんならPEライン使っても大丈夫かも。
 分解清掃も蓋のネジ3本はずせばギアにグリス注入できて整備性が良く、全バラしもドラグを外すのにドラグ押さえの曲げた金属板の内側のスペーサーを抜いてからドラグを斜めにして外すところだけコツが要りそうだけど、基本的には単純明快でかつよく考えられてるなという設計配置で他に似たような設計のリールを見ないだけにABUがいかに凄かったかというのが改めて理解できる。
 ドラグがユルいと話してたので、チョット強めにできるように調整した。ドラグの後ろについている曲げた金属バネがへたってくるとドラグ締まらなくなってくるはずなので強く締まる塩梅に曲げておいた。ドラグパッド自体がツルツルになってるだろうからパッド交換すればもっと良くなるだろうけど、そのままでも充分釣りにはなりそうだった。

  敬意を表してグリスはいつもの海用の青いのではなく昔アンバサダーに付いてきたABU純正グリスをグリグリと塗りたくっておいた。ドラグだけドラググリスでラインローラーとベアリング、主軸にはダイワのリールオイル。
 ネジ1本なくしてしまっていたので、この時代は名古屋の”瑞穂機械製作所”が作ってて日本製なのでひょっとしてJIS規格の普通のネジでいけるんちゃうか?とリールに使いそうなステンレスネジは在庫してるので試してみたら3mmのでビンゴ。良い感じに快調に仕上がったと思う。
 C3ではベールスプリングが耐久性なく割とすぐに折れるのが玉に瑕という意見を散見するけど、このC4はベールスプリング交換なしでこれまで使ってきたそうで、大きい分スプリングの強度にも余裕を持たせることができたのかもしれない。
 日本が世界の工場だった頃の技術力の高さをまざまざと感じられて誇らしい気がする。C3、C4は人気もあったので中古で弾数も多く、消耗品的な部品であるベールスプリングも須山スプリングさんに注文すれば良くて、それ以外に壊れるような部分も見当たらないので、リール買い変えるの面倒臭くて釣り具メーカーのしょうもないモデルチェンジに付き合うのもウンザリだ、という向きにはまずは4桁スピンフィッシャーをお薦めするけど、C3、C4も弾数の多さに加えて修理だの調整だのを請け負ってくれる業者の豊富さからもお薦めできるなと思ったところ。
 持ってる人達は大事に使ったってください。
 昔のABUが”FOR LIFE”と謳ってたのは嘘じゃないって話。



 一方、カーディナルⅡの修繕ほうは難しくって、結果的には特定の状況でカツカツいうのは無視できる程度に治まったけど全体的にスムーズさは失われてしまった感じ。新品同様には直らんかった。スマン。面目ねえッス。
 樹脂製の軽いリールで巻きも軽くて滑らかで今時の安いリールはけっこう立派なもんだなと感心する。
 分解していくと、まあこの価格帯のリールはハンドル軸のギアは亜鉛鋳造製なので、ハンドル共回り式。小型リールではとくに問題ないと思っている。チープ大森も共回りだけど魚釣れるし。
 お尻の蓋を外すとギアに注油する穴が開いてるのはナマジ的には高評価なんだけど、いくつかのネジがえらくネジ山の”薄い”タップネジで外すときにネジ山舐めそうで怖かった。組み付け段階でも苦労した感じでネジ山若干削れてた。ネジがイマイチな品質ってところに安い工賃の工場で作ってるんだろうなというのが見て取れる。
 ナマジ的に減点対象が、諸悪の根源”瞬間的逆転防止機構”がついてて、かつローター内部の浸水しそうな部分に既製品の一方通行のベアリングを逆転させる仕組みを積んでるんだと思うけど、バネが剥き出しのチョット見たことない機構が乗っていて、今回ここは不具合生じてないので見えてるバネにグリス塗っただけで”ソッ閉じ”しておいた。

 カツカツ言うのは2台ともそうだということで、設計的な部分から来てるんだろうなと想定して、音がするときとしないときがあるってことはおそらく、スプールの乗ってる主軸が遊びの分ガタがあるはずだけどその遊びでスプールがあがってるときと下がってる時で違うんだろうと、スプール押さえて回転させてみたらスプールが上に来たときにカツカツ音がすると判明。
 どこか当たってるのかなと、各部品外しながら回して確認していくと、ローター外しても鳴ってるのでギアかオシュレーションかでオシュレーションの形を見たらカムがS字型の最近のダイワ方式?で、この方式は上に来たときだったか下に来たときだったか1箇所軽く引っかかるような動きをするとか読んだことあるのでどうも緩んで精度が落ちたのでその引っかかりが大きくなってるッポイ。

 なので、グリスグッチャリで粘らせてがたつき押さえてネジ締め直して緩みを減らす方針で整備したんだけど、音は静かになったんだけどアタリが取れてそれなりにスムーズになってたのがギクシャクしてしまった感じで若干もとより回転が”ノイジー”になってしまった。
 元に戻らないのは、イマイチなネジが締め込みにくいのとそもそも樹脂製なのであんまりきつく締められないってのもあるのかも。
 なんちゅうか、安価で売るために安く作ってるはずなのに、インフィニットには殺して逆転する機構もつけてあるし、オシュレーションなんて普通に往復する方式で巻き上がりフタコブラクダで何が悪いって感じだけど平行巻にするためダイワ方式にしてたり、安い樹脂製のリールには合ってない設計なのかなという感じ。

 C4の名機ぶりも感動モノだったけど、カーディナルⅡの、このデフレでモノが溢れてて新品が売れない時代に何とか売ろうとして、ダイワシマノに負けんようにインフィニットも平行巻も全部乗せでオマケに替えスプールも付けちゃうってあたりに、無理難題を突きつけられてる労働者の哀愁的なものを感じて味わい深かった。ある意味今の時代を象徴している気がする。他人の仕事を正当に評価せず、無理難題を押しつけるようなことをやってると、アンタの仕事も正当に評価されずに無理難題を押しつけられるゾって話。
 縁あってやって来たからには、多少ノイジーでも気にならない釣りにでも使ってやって欲しいと思う。

 安いリールは、瞬間的逆転防止機構は今時ついてないと店頭で回したときに買ってもらえないからつけるにしても、逆転させるスイッチなんて省略でも安価なリールを買う層は気にしないはずで、そこはPENN430ssgみたいに割り切っても良いンじゃないかと思う。
 ボールベアリングはドライブ軸のギアが亜鉛鋳造なら摩耗対策でドライブ軸に2個、主軸には逆転防止兼用で一方通行のを1個の3個でラインローラーにはなし。
 オシュレーションなんて単純なカム方式で何が悪い。スプール短く径を大きくすればクランク方式でも行けると思うぐらい。
 軽くて安い樹脂製で、ネジはすぐに穴がスカスカにならないように、雌ネジを金属製に、とかは経費かかるからせめて余裕を見て大きめ長めのタップネジで強度を確保、ぐらいの単純な設計で今時の安くて精度の出せるどっかの新興工業国で作ったら、何の問題もないものができると思う。っていうか既にそういうのは作られてると思うけど、わかりやすい”売り”がないと話題にもなんないし売れないんだろうな、物を売るのが難しい時代だなと思う。
 なんにせよ、どんな時代でも名作の影には数多くの駄作、奇作、失敗作に普通作があったはずで、今の時代には今の時代の名作が作られることを願うしかないンだけど、それがアホみたいな高額の機種ではなく普通の釣り人の手の届く価格帯に現れてほしいものだと願うのみである。

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