2018年6月11日月曜日

YOUはシャック!


 愛で空は墜ちてこないけど、梅雨で雨粒が落ちてくる。

 さすがに川はかなり増水するぐらい激しく降ってるので、昨日今日と釣りには行けずに大人しくせざるを得ない。
 ただアユを求める熱い心を鎖で繋ぐのは今は無駄であり、この機会に毛鉤のストックを増やしたり、新しい毛鉤の試作をしたりと意外に忙しく、没頭していたら昨夜はブログ書いてる暇もなかった。

 先日、小雨の中の鮎毛鉤釣り。雨降ったら水生昆虫の羽化はないだろうしライズもないかなと思っていたけど、意外にライズしていて、釣れた鮎をナニ食ってるんだろうと腑分けして胃内容物確認してみたら、これが5ミリ以上ある大きめのユスリカの蛹の抜け殻で「シャックかよ!」と驚いたともに、おそらく晴れてた朝の時間に静かな魚の少ない上流の水域で羽化したユスリカの抜け殻が長時間にわたって流れてくるので、その日に限らず羽化が収まるマズメ時以外でもずっとライズしているんだなと合点がいった。
 フライフィッシングの世界では、抜け殻食いのマスの存在は話題になることがあって、どっかでマスが浮上して水面の餌を咥えるのに要するエネルギーと、抜け殻から得られるエネルギーを比較して、抜け殻のタンパク質とかから得られるエネルギーの方が大きいので、個々の重量は微々たるもので腹ふくれなさそうだけど、沢山食べると充分食料として価値があるとか報告されてたと思う。
 抜け殻をフライマンは「シャック」と呼び習わし、その透明感やカシャカシャッとしているだろう食感などを再現すべく、種々フライパターンが開発されている。

 シャックは羽化した成虫のように飛んで逃げないし、蛹や幼虫のように泳いで逃げたりもしないので、大量にシャックが流れてきて偏食していると、あんまり毛鉤を活発には追ってくれないように思うので、そこそこデキの良い毛鉤が必要とされる。
 ということで、いくつか作って実戦投入しているところだけど、とりあえず簡単なのはカシャカシャッとしてて透明な繊維「ズィーロン」を束ねて捻って縒って体節っぽくして尻尾の部分である「角」とした「借苦角ズィーロン」。カモの毛の縞々を生かして角にした「借苦角鴨」、スーパーでもらえるビニール袋を加工した角を付けた「借苦角ビニール袋」は一番カシャカシャして抜け殻っぽいかなという感じ。
 今のところ、角ズィーロン版はそれなりに良い感じで釣れている。
 
 角鴨はまだ釣れていないけど、角ビニール袋はいきなりコイに持ってかれて、そういう時に限って1つしか作ってなくて、昨日増産かけていた。多分コイもよく水面で餌拾ってるのは目にしてるので食ったんだと思う。だとすれば魚の目から見て捕食行動起こす程度の毛鉤になっていて、ならばアユにも効くんじゃないかと期待している。
 スーパーにロールで置いてあって無料でもらえるビニール袋の間に腰をもたせるためズィーロン挟んで、熱した鉗子で摘まんで溶着させて角の部分を作る。縞々の凸凹ができるのでマジックで適度に汚して拭くと、体節っぽい縞々模様ができる。
 人間の目から見ると、透明感といい一番抜け殻っぽいんだけどはたしてどうだろうか。意外に見た目「リアル」なこの毛鉤より単純なズィーロン角版が優秀だったりというオチはありがちだとは思っている。

 他にも、高活性時に市販の鮎毛鉤に負けないような派手な毛鉤が欲しいなと、いくつか巻いてみた。
 いろんな色や素材を組み合わせて技巧を凝らした職人さんの作る鮎毛鉤と同じ方向性では勝負になるわけがないと痛感しているけど、ワシゃルアーマンじゃけん、派手で魚の反応が良くて単純な配色とかなんぼか脳裏に染み着いてるのがあるけんネ。
 というわけで左から2番目のシルバーヒルトンを元ネタにしたもの以外は、ルアーのカラーを参考に巻いてみた。どれがどんなカラーから鮎毛鉤に落とし込んでいるか分かるだろうか?
 左から「白黄」は目立つカラーといえば蛍光黄色ということで、蛍光は無理だったけど、角と蓑毛を白に、胴を白と黄色に染めたガチョウの羽の筋で巻いてみた。雨後の濁りとかにどうだろうか?
 2番目の元ネタであるシルバーヒルトンは、多分私が初めて巻いたフライだと思う。安いフライセット買って、さあフライも巻くぞとなってバイスもホームセンターで買ってきた小型万力という状態で、ハックルだの鳥の毛もなかなか買えない貧乏学生は、大学で飼育されていた白黒鹿の子斑の鶏に目を付けて、担当の先生にお願いして首の毛抜かしてもらって巻いたと思う。尻尾もウイングもハックルも鹿の子斑の鶏の毛でボディーが黒に銀を巻いてあるというシックな1本である。銀を黒の上から巻くんじゃなくて、今回は銀を底に巻いておいて烏の毛の筋を荒巻して底の銀がチラチラ見える感じにした。金玉は樹脂製の真珠色。黒銀はルアーでは地味な配色だけど、黒はくっきりして結構目立つし銀の反射もあって毛鉤全体として目立つ配色だと思う。すでに活躍している「幻影底烏荒巻」が割と使える感じなので、烏の濃い焦げ茶っぽい黒の鉤を他にも試してみたかったのもあって巻いてみた。
 3番目はルアーの世界では夕まずめや夜に大人気の「赤金」。角赤、胴は底に金のフラッシャブーを巻いておいて、オレンジに染めたガチョウの羽の筋を荒巻して、蓑毛はオレンジに染めたウズラ。コレはなんか理屈抜きにルアーマンの本能が釣れそうだと直感する。「底」に光り物の素材を巻いておいて上に羽毛の筋をユルく巻いて底の光り物がチラチラ見えるという「荒巻」はいかにも鮎毛鉤っぽく仕上がって釣れそうで、巻くのも難しくなく良い塩梅だ。
 最後の「火虎」が、オレンジに黄色と緑に黒ということでファィヤータイガーカラーを鮎毛鉤の色に落とし込んだつもりである。
ただ、胴はオレンジのスレッドを底に巻いた上に黄色と緑のガチョウの羽の筋を交互に綾巻きしたという、この程度の色使いですら、今回鉤18番と大きめにもかかわらず難しく、最初のオレンジのスレッドが次の黄色を巻いていると抜けてしまうということが2回あって、またイィーッ!とさせられた。
 何しろ、バイスも学生時代に買った安物で、小さい鉤にはやや使いにくい。
 最後に糸をとめる用のウィップフィニッシャーとして使っているボールペンの芯や割り箸に縫い針を挟んで固定して自作したニードルとかも学生時代から使っていて、四半世紀来の愛用品である。

 今回、ニンフフライの脚の本数とか数えて巻いていそうな几帳面なフライマンがみたら卒倒しそうな私の毛鉤巻き作業場の写真を公開したのは、高価なバイスとかがなければ「釣れる毛鉤」が巻けないってわけじゃないんだよ、高度なテクニックで美麗な毛鉤を巻かなければ魚が釣れないってわけじゃないんだよ、というのを伝えたくって、あえて恥ずかしい実状をさらしてみた。もうちょっと整理整頓しろよと自分でも思う。
 ネット上でも自作のフライとか公開している人のフライはどれも綺麗に作られている。バイスも高級品である。それをみて私のような不器用な人間はフライや毛鉤を巻くのに不安を感じる。「完璧」な毛鉤じゃないと魚が釣れないのではないか?と。
 ご安心ください。安物バイスで巻いた、この程度のいい加減な毛鉤でも魚充分釣れてます。
 フライの世界ではマッチザハッチは魚を効果的に誘う手段であると同時にそれ自体が大きな楽しみであり、水生昆虫を観察して、その見た目から質感から動きまでを再現していくというのは、それ自体が目的化していることもあり、その面白さを否定するものではないけれど、虫に近づけば近づくほど釣れるかというと、実際にはそうでもなくて、魚が虫を選ぶときの肝になっているであろう要素を押さえたり強調したりして、余分な部分を排除した単純明快な毛鉤の方が、見た目スゴいことになっている「リアルパターン」より釣れるのが世の常であると思っている。その辺りのさじ加減をどうするかあたりもフライマンは楽しんでいて、絶対の正解もないけど案外いい加減なフライや毛鉤で良く釣れるものなんである。綺麗に巻かれているのに釣れない毛鉤もあれば不細工でもなんでか釣れるフライもあるのである。
 魚が脚の本数そろってない毛鉤を食わないとかがあるのなら、それはおそらく左右非対称になったことによるバランスの崩れとかの問題で、昔のエサ釣り師は川虫の脚はもげていると魚が食わないと真剣に主張していたものだけど、そういうことだったのかもしれない。脚欠けたぐらいで魚が食わなくなるのなら昆虫は喜んで脚ぐらい自切するだろう。
 水生昆虫に直接似せていない、時に派手な目立つ色に巻かれている鮎毛鉤の世界でも、あんなに複雑な手法で巻かれた毛鉤が欠くべからざるモノかというとそうは思っていない。
 良く派手なカラーのルアーをみて素人が「あんな派手な魚は自然にはいないので不自然だ、釣れそうにない」とか言っちゃいがちだけど、不自然だからこそ目立つからこそ喰われるのは、アルビノや金魚が自然界では生き残りにくいことを考えれば当然である。
 そういう不自然で派手に目立ちかつ嫌われにくいような配色を膨大な時間の試行錯誤の中から導き出してきているであろう、それでいて時に縞々の配色に妙な本物の虫っぽさを感じたり、水生昆虫が羽化時とかにまとう気泡の煌めきなんかを再現する反射系の素材使いなんかにフライとの収斂を感じたりもする鮎毛鉤について、本当に良くできていて綺麗だと感心すると共に、様々な思いを込めて巻かれてきて親しまれてきたその歴史に敬意を感じざるを得ない。得ないんだけど、ぶっちゃけ「魚釣るだけならもっと単純でいいやね」と思ってしまう不敬な私もいるのである。
 
 本物らしさや派手さを演出する精緻な技巧も、あって邪魔になるモノではないだろうけど、自分が持ってないなら仕方ない。あるもので作れるものでも充分楽しみながら魚が釣れる。
 そういういい加減さも含めて、やっぱり釣りは自由だと思うのである。

4 件のコメント:

  1. アユ好釣で何よりです。
    ご推察の通り、磯の作法は面倒で放置していました(笑)
    この機会に読まねばと思い、スマホ用のアプリをDLして読み始めています。
    まだ読み始めたばかりですが、めちゃくちゃ面白いですね。
    お気遣いありがとうございます。

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  2.  「磯の作法」最高ですよね。くだらねえ釣具屋の提灯記事ばっかりの釣り雑誌なんか読まずに釣り人なら四の五の言わずにコレを読め、と思います。

     アユ絶好釣です。昨日は3時間で束釣りでした。いつまで群れが居るのか他の誰かか鳥にバレるか、ヒヤヒヤしながら楽しめるだけ楽しんでみます。

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  3. 鮎の束釣り…。その束10じゃないですよねw
    こうなると塩焼きには向いてないサイズの鮎の行方が気になってきます。
    琵琶湖まわりではつくだにみたいな濃煮食べたことあるけど、関東じゃどうなんでしょ。

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  4. kazuさん おはようございます

     濃い味で炊いたのは関西じゃ好まれますよね。京都で食べた「ホンモロコの炊いたン」が美味しかったのを思い出します。今度アユでも試してみようと思います。

     私は、食べるのも目的の釣りでも、その日か次の日ぐらいに食いきれる分以上は持って帰らないようにしているので、10匹ぐらい釣れたら後は飲まれ気味とか以外はリリースしてました。100釣っても食べたのは20くらいで全部天ぷらです。
     持って帰らない理由は、資源の保護なんてのはぶっちゃけ稚魚段階の魚は減耗見越して数が多いので関係ないと思っていて、単に沢山美味しく食べきろうと思うとそれなりに手間が掛かって面倒くさいからです。かといってせっかくの天然活魚のアユを冷凍にするのも馬鹿臭いですからね。もっと食べたきゃまた釣ってくりゃ良いぐらいに思ってます。その結果が茄子の天ぷらになってたりしますが。

     そのへんアユは持ち帰りの数の調整が楽で良いです。温度上昇による酸欠には弱いみたいですが、網とかへのスレにも小さい鱗は剥げず、さすが岩にぶつかりながらも上流を目指す魚の丈夫さだと、持ち帰ってブクブクで生かしておくと半日経ってもほとんど死なないのを見て感心してます。
     ワカサギとか触ったら鱗剥げてリリース難しいですし、シーバスは1匹が食べきれないぐらいの量だしで持ち帰り量を調整などできません。
     ワカサギは小さいので二束ぐらいは2日で食い切りましたが、70アップのスズキ様が血を吹いてひっくり返ったときは味噌漬けや干物までくり出して1週間はかかりました。旨かったので良かったですけど臭い個体だったら悲惨な目にあってました。

     アユなら美味しいので多少余っても唐揚げから南蛮漬けの数釣り獲物の定番の攻め方で行けば食いきれる気はしますが、釣り師の心構えとしては「いつでも欲しいだけ釣れるから魚の在庫は持たない」というのを目指そうかなと思っています。

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