2018年12月31日月曜日

2018のベスト3(釣り編)


 釣りのこととネコのことだけ考えて生きると、一年の計はガンタンクな感じだったのがつい先日のことのように思い出されるけど、月日は百代の過客にして行き交う年もまた旅人なり、人もまた過去から来て未来に去るけど、過去は過ぎ去りもうなく、未来きたらずまだない。
 脳の言語野の変なスイッチ入ってしまって何を言いたかったのか分からなくなってしまったけど、要するに今年も仕事もせずに釣りのことばかり考えて、たまにネコと遊んで暮らしてて、アタイお天道さんに恥ずかしいっ!恥ずかしいけど釣りには結構行ったので楽しい一年だった。とブログには書いておこう。
 でもって年末恒例となりましたベスト3「釣り編」、はりきっていってみよう。

○釣り:一位「ヒラテテナガ」、二位「自作毛鉤一匹目のアユ」、三位「友釣りのオイカワ」
 一位いきなり無脊椎動物でスイマセン。魚じゃないってどうよ?な気もするけど、久しぶりに手が震えてハリ外せんかったぐらい嬉しかったからしょうがない。太くてたくましいハサミ脚に心ときめいちゃったのアタイ。
 二位は、自作の流し毛鉤仕掛けではたして釣れるのか?頭ではまず間違いなく釣れるはずと分かってたつもりだけど、実際釣れたときは感動した。まだ自分の中では仮想現実より現実そのものの方が価値がずいぶん高いと思わされる。釣ってしまえばそんなもん釣れるに決まってるし当たり前だと思うけどそれでも実際に一匹を手にするまでは、自分の中で確定しえなかった。流し毛鉤の釣りは慣れ親しんだ西洋式のフライの釣りともまた違った文法で、打線考えたり伝統的鮎毛鉤の模写に苦戦してみたりコレはコレでメチャクチャ楽しめて、オイカワ釣るのにも有効でなかなか良い技術を身につけた気がする。
 三位、友釣りでアユが釣れるよりある意味良い結果だった。体ぶつけて喧嘩するような魚なら”友釣り”成立するだろうという、これも考えたら当たり前のことだけど赤い婚姻色の雄が2匹に増えてあがってきたときに素直に驚いて嬉しかった。オイカワの追い星は伊達じゃないゼ。
 という感じで、大きくいえばアユ釣り関連で占めてて、鮎初挑戦で苦戦もしたけどその分初めての体験が多くてわななくような感動を何度も味わえたと思う。誘ってくれて鮎毛鉤釣りの聖地への遠征では至れり尽くせりの案内をいただいき正治さんには改めて感謝を。釣れないときには胃が痛かったと思いますが、あの程度の苦戦は屁でもネエです慣れっこですよ。

○残念だった釣り:一位「ちびソイ根に潜られる」、二位「落ちハゼ」、三位「コイのタモ入れ失敗」
 残念っていうほどの釣りはあんまりなかった気がする。と思ってたら最後の最後で東北で下手くそなことをしてしまった。またそのあたりは年明け顛末記に書きます。落ちハゼは今年は狙おうと密かに竿まで買ってあったのに出番なかったのが残念っていえ残念だったけど、なんで落ちハゼやれなかったかっていえばシーバス忙しかったからで、ワシ一人しかおらんから仕方ない。三位は「そういうこともあるさネ」って程度の話。

○ルアー:一位自作シンペン、二位ラパラJ9、三位フッコスペシャル
 一位は、昨年秋にボイル用に作ったのが、今年の秋にハマってくれていい仕事を何度もしてくれてたよりになった。水面直下引くので出方が派手で最高に気持ち良い。バシュッ!
 二位は、今更ながら大昔から釣具屋の棚に並び続けている実力の程を思い知った。れいによって飛距離はイマイチだけど、動き出しの良さとかキビキビっとした所作とかイカしてるぜ。あまり潜らないので水面直下に杭とか障害物が多い過ちポイント周辺で、地味目なルアーで反応得られなかったときにコイツで勝負決まるときがあって痺れた。
 三位は抜群の安定感。秘密の主力兵器。灯りの下では任せて安心。

○釣り具:一位「トゥルーテンパー727」、二位「水の女王」、三位「ゆるふわ玉浮子」
 一位、今はなきオリムピック社製のコイツのおかげで沼にハマってえらい目にあいました。いちおう「ました」と書けるぐらいに”スピニングリール熱”は治癒してるけど、ぶり返さないように気をつけていきたい。インスプールのリールなんて自分が使うとは思ってなかったけど縁とは不思議なモノである。リールなんて投げて巻けりゃ何とかなるって良く分かった。投げて巻くぐらいは40年前のリールでも、っていうか40年前のリールの方が余計なモノがついてなくてまともなんじゃないかと思うぐらいにしっかり作ってあるリールで、表面のハゲ具合とか割と使った形跡あったけどギアはすり減ったりしてなくて快調に回ったし、ベールスプリングもまだ持ちそうな感じだった。さすがにドラグパッドは劣化しててちょっと改造したけど40年前は充分な性能を発揮していただろうと見て取れる設計。70年代の、日本が工業力で経済発展した時代の道具なんだなぁという感じで感慨深かった。
 二位、魚の釣り方に洋の東西細かい違いはあれど良いものは良いってことで、東西融合させて遊べたのが実に面白かった。自分の予想とある意味全く違う釣れ方で、派手な伝統的フライパターンをということでオレンジの胴に白黒鹿の子の鴨の毛をあしらった「クイーンノブザウォータース」の毛鉤風ナマジ解釈版をなにげに選んで”バカ当たりか三振か”と打線に入れたけど、堅い仕事っぷりで実に頼りになる。ナマジ軍不動の4番。
 三位は、特許取って売り出そうかというぐらいに良くできた。たまたま穴の大きい木の球しか入手できなかったので、隙間埋めるのにシリコンゴムのパイプ使ったら、竹串でしっかり位置に止められるし、ラインにも傷がつきにくい仕上がり具合。少々の流れには負けない安定感のある浮子で大きくて見やすくて重さもある程度あって振り込みもしやすい。渓流釣りとかはミャク釣りがほとんどだと思うけど、これで餌流したら古くて新しい「玉浮子の渓流釣り」になりそうだとか応用も効きそう。

○PENN:一位:「4400ss」、二位「430ssg」、三位「706Z」
 一位、二位は主力機なのでいつもと一緒。706Zは残念ながら初陣飾れなかったけど、思ったより使いやすい。ギア比それ程大きくないのでスプールの直径を大きくとっているせいか飛距離も素直に伸びるように思う。コイツに似合う良い獲物をいつか釣りたいモノだ。

 ということで、今年も総じて良い釣りしたなと思うんだけど、逆に今年はダメだったなというような年ってしばらく経験してなくて、病めるときも健やかなるときも、釣りとともにあれば、とりあえずだいたい幸福である気がする。健やかじゃなくたって釣りは楽しめる。来年も良い釣りできるだろうと楽観的に思っている。

2018のベスト3(エンタメ編)


 今年は当初「活字の本が読めんっ!」という危機的状況だったけど、再読モノから始めてリハビリしていき何とかいい塩梅に復活して、今は活字もボチボチ楽しめている。
 マンガやらアニメも相変わらず面白いのが多かったし、今年はNetflix契約したのがきっかけでドキュメンタリー映像をたくさん観たのもなかなか楽しく時間がつぶせて良かったので今年はドキュメンタリー部門も新設。
 楽しく面白いのだけじゃなく、心の固くなったカサブタをがりがり引っかかれてはがされ血が流れるような作品もあってそれもまた良し。

○活字本:1位ジャック・ロンドン「火を熾す」、2位角幡唯介「漂流」、3位竹中由浩「アキ」
 1位は、「荒野の呼び声」が有名なジャック・ロンドンの、っていうかそれしか読んだことなかたった米国の作家の短編集。すごく良いから読むべしとお薦めされて、読んだらすごく良かったパターン。なんというかいろんな味わいの作品が収められてたんだけど、表題作を筆頭に乾いた筆致で感情表現少なめの硬質なキリッとしたかっこいい文章のやつがどうにもこうにも実に良い。訳者もいいんだと思う。
 2位、角幡先生本はピンチの時のためにとっておいた「雪男は向こうからやってきた」も良かったけど、本作もくそ面白かった。瞬間的に消費されるような、作ってる側も瞬間的にしか時間をかけてないような安デキの情報が氾濫していて、なおかつそんなのがもてはやされるご時世に、何でこの人はここまでしつこく丁寧に、文献や人にアタって真実に迫ろうとするかな?とあきれるやら感心するやら。結局真相にはたどり着けないんだけど、本自体の面白さはきっちり高いところにたどり着けている。沖縄のカツオ・マグロ漁業の歴史なんていうのも水産業界人としては興味深く楽しめた要素。
 3位のTAKE先生の小説は、先生新しい小説「フィッシングライター陽子」をご自身のサイトでしつこく宣伝しておられたので、小説としては前作にあたる「ユキ」は、正直まあまあかな、先生が全然売れないと卑下するほど内容は悪くないよぐらいの感想だったので、今作「アキ」は後回しにしていたんだけど、先生のリール本を教科書にしている生徒としては新作も含めて読まな義理が立たんな、と北へ向かう新幹線で読んでみたら、これがめっぽう面白いっていうか、「あんたはオレか?」っていうぐらいに、例えば外来魚を’’駆除’する番組の気持ち悪さとか、表現の自由に対する無粋な締め付けとか、過ちを犯した者をよってたかって吊し上げることの不気味さとかを小気味よく切って落としてくれてる感じで、胸がすきましたよ先生。あと「キンタの大冒険」懐かしすぎる。
 TAKE先生のリール本は出たら即読むことにしているけど、これからは小説も出たら即反射食いさせていただきます。
 ついでに再読モノで面白かったのベスト3は中島らも「今夜、すべてのバーで」、石橋宗吉「一本釣り渡世」、夢枕獏「鮎師」でいずれも人生最高の1冊の候補にあげるぐらいで面白いのが分かり切ってて読んだので、あたりまえだけど半端でなく面白かった。「今夜、すべてのバーで」と「鮎師」は当ブログでもすでに紹介済みなので省略して、「一本釣り渡世」なんだけど、戦前から戦後にかけての一本釣り漁船の漁法の開発・発展に大きく寄与した房総の伝説の漁師の半生とその漁法についての聞き語り。聞き取って解説も書いた記者の人が出版社からの「釣り人に興味を持ってもらえるような内容にしてほしい」という要望にお応えできていなくてすいません、と後書きで謝っているけど、なにを謝る必要がある。これを読んで興味がわかない、面白いと感じないような釣り人なら、それは釣り人が間違っている。
 確かに業としての一本釣りは産業として効率的に経済性高く釣るという側面があり、「釣り味」「釣趣」を楽しむ趣味の釣りとは異なる側面もあるけど、そんなもん、釣れれば配りきれないぐらい何でもかんでもクーラーに突っ込む下品な釣り人から、オールリリース水面の釣りのみのお上品なフライマンから、釣り人みんな違うその差の範囲内であり同じ釣り人である。カジキの曳縄で散らしバリで顔にハリをかけるのを良しとしなかった美学とか、自分の中にしっかりとした線引きがあって、周りが良いと言ってれば真似して下品な釣りでも何でもやるような節操のない輩とは次元の違うきちんとした釣り人だと見て取れる。
 大型船にガンガン灯り焚かれてせっかく集めたサバを持ってかれて煮え湯を飲まされてたのを、下品に船を大型化して光量合戦に持ち込むんじゃなくて、操船と灯の使い方で大型船が集めたサバを奪い取るなんていう逆襲の仕方とかも、創意工夫と矜持が見て取れて、誉められるような行儀の良い操業方法じゃないからこそ胸がすく。
 ある程度以上の経験や知識を持つ釣り人なら、この本の中から様々な技術的な着想を得ることができるだろう。例えばイシナギをかけてからのヤッタトッタの時に、根と魚の間に船を入れると魚は引っ張る逆に走るから根を切ることができるなんていうのは、この本を初めて読んだときに、渓流のルアーでJOSさんが目の前で43のイワナを釣った際、掛けるまで岸際の葦に隠れるような立ち位置だったのを、魚がデカいと見るや下流の瀬に下られないよう流心に入ってトウセンボするようににして上流に向かわせ続けて仕止めたのと一緒だなと、渓流のルアーと沖の根のイシナギ釣りとにあしらい方の技術的な共通点があるなんて「変われば変わるほどいよいよ同じ」なんだなと思わされたものである。新しい釣り道具売るための流行の技法なんてのを学ぶぐらいなら、この本から同じ潮など二度と流れない自然環境を相手に、腕で魚を釣っていくというのはどういうことかというのを学んだ方が良いとお薦めしておく。ちなみに名人本人が選ぶ一番の技術的な工夫は、あまたある釣りの仕掛けの工夫などではなく小型の漁船用のスパンカーを開発したことだとのこと。スパンカー今でも釣り人がお世話になっているのはご存じの通りで実に偉大な我らの先輩なんである。

○マンガ:一位「銀河の死なない子供たちへ」二位「堕天作戦」三位「月曜の友達」
 年の始め頃に岡本倫先生の「パラレルパラダイス」の新刊を読んで「やばいこんなに面白いと年末この作品を紹介する羽目になるぞ」と戦慄を覚えた。同作は奇才岡倫先生の才能がビュルビュルッとほとばしるファンタジー系冒険活劇のまごうことなき傑作なんだけど、分類するならどう考えても「エロマンガ」であり格調高い当ブログの品位を汚しかねずゆゆしき問題であった。
 でも心配は杞憂だった。今時のマンガは面白いのいっぱいある。ベストスリーに選んだほかにも「少女終末旅行」「南国トムソーヤ」「レイリ」「ハコヅメ」あたりは、正直順位つけたけど、甲乙つけがたくそれぞれに違った良さがあって面白かった。
 一位「銀河の死なない子供たちへ」は永遠の命を持つ者の悲哀というマンガに限らず表現物におけるある種の王道ネタを施川ユウキ先生が力一杯書ききった。結末の描き方とか、なんかきな臭い方向に右へならえな感じになってきてるからこそ重要になってきている「多様性」について、正しい答えなんてありゃしないと同時に幾つもあるんだよっていうことについて、今の時代だから描ける、描かなければならなかった大事なところをバチンとド真ん中外さず射抜いてくれていた。同じ主題では「ポーの一族」が長く心の中で絶対的王者として君臨していたけど、その王座を脅かす作品だ。これから幾度も読み返し心の中でもっと消化して行くことになるだろう。
 二位の「堕天作戦」は、あんまり話題になってないようで、ひょっとして自分の好みに合っているだけなのかも?とも疑っているけど、とにかくどうにも好きだ。高度な文明が滅びた後の遺伝子操作されたような魔人やら怪物やらが跋扈する世界での戦乱の物語って書くと、いままでSFで佃煮にするほど多く描かれてきたような物語だけど、これが独特の感性でシュシュッと上手に格好良く、かつギャグもいい案配で描かれていてなかなかにヤル感じなのである。本作にも不死者も出てきたりするんだけど、他にもSFで扱われるいろんな要素がてんこ盛りになった群像劇で、それぞれのキャラクターが魅力的で物語が複合的に絡み合って紡ぎ出す抜群の面白さでグイグイ引き込まれる。
 三位「月曜の友達」の阿部共実先生が天才なのはマンガ読みには周知の事実であり、いまさらワシごときが褒めんでもいいんだろうけど、さすがに今作を読むとまた褒めずにいられない。少年少女の心の機微をこんなにも詩情豊かにマンガで描きあげることができる才能を私は他に知らない。何度も書くけどこの人と石黒数正先生がマンガの未来を切り開く特別な才能だと断言する。

○アニメ:一位「B:The Beginning」、二位「3月のライオン第2シリーズ」、三位「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」
 「ゲゲゲの鬼太郎6期」もくそ面白いけどまだ最終回まで見ていないので外す。そのほかベスト3以外にも「シュタインズゲート0」「ハイスコアガール」「邪神ちゃんドロップキック」「うちのメイドがウザすぎる」「ダーリンインザフランキス」「デビルマン クライベイビー」「宇宙よりも遠い場所」あたりがお好みな作品だった。
 一位の「B」は、Netflixオリジナルで「デビルマン」の次に本作がきて、これはネット配信アニメがすごいことになるぞ、”アニオタ”向けのアニメの売り方が変わっていくぞという衝撃を受けたら、その後はやや小粒な作品ばかりになっているけど、それでもDVDやらの「円盤」が売れなくなってきても制作される深夜アニメとかの本数は減らず、有料ネット配信というのが変化をもたらしている状況になってきてはいるようだ。そういう「革新」の先陣を切った作品としての評価も加味して一位とした。内容は超能力ありの刑事モノで主人公の一人が渋いオッサンでなかなかいい。続編作られるような最終回の引きで次も待ち遠しい。
 二位「3月のライオン」は、もうNHKはアニメとドキュメンタリーだけ観とけばいいってぐらいに素晴らしいアニメ。
 努力すれば結果がでるなんていうご都合主義の通用しない「将棋」の世界の勝負を描く厳しい筆致で、いじめ問題を真っ向から描きまくっていて、正直観るのが苦痛なぐらいに胸にきた。程度の差はあるかもだけど生きていればいじめる側にもいじめられる側にもなったことがあるってのが普通で、そう思わないのなら、よっぽど幸運か鈍感かどっちかだと思うけど、そういう心の傷的な部分に容赦なく爪を立てられた気分。
 結局いじめてた側は反省の色なしで、先生も人の心の中までどうこうできるわけでなく無力感に苛まれるような描写で、実に現実にもありそうで嫌な気持ちになる。
 だからこそ、友達のためになにもしてやれなかったと流す涙や、あんな奴らに負けて学校に行けなくなるなんて嫌だと立ち向かう姿に心打たれて私も観ていて滂沱の涙を禁じ得なかった。
 よく釣りに行くあたりの川辺の風景が美しく描かれているのも高得点。
 三位の「青ブタ」は、いかにも深夜のライトノベル原作アニメという感じで「涼宮ハルヒの憂鬱」のようにSF要素のある学園モノで「化物語」のように次々と出てくるヒロインの抱える問題を解決していく。主人公は当然キョン君やアララギ君の正統な系譜に連なる”やれやれ系”の主人公で騒動に巻き込まれていく。という思いっきりベタな設定と展開だけど、これがなかなかどうして面白く仕上がってるんだから不思議なものである。視聴する前は全然期待してなかったけどとても楽しめた。恋愛要素とかはオジサン観てて恥ずかしくなっちゃう感じだったけど、それも含めて学園モノ独特の”青春感”がバッチリ出てて実に良くできた作品だった。素直に脱帽。

○ドキュメンタリ-:一位NHKスペシャル「アウラ 未知のイゾラド最後のひとり」二位BBC「デイビッド・アッテンボローの自然の神秘」三位BBC「氷点下で生きるということ」
 一位は、年末にこれ一本で受信料払う価値があると思わされた。NetflixでBBCのクソ面白いドキュメンタリーをいくつも観て、NHKもがんばってるのは認めるにしてもBBCはまだ先を行ってるなと思っていたけど、なかなかどうしてヤル時はヤルもんである。NHKスペシャルではロウニンアジが海鳥を食うシーンが衝撃の「ブループラネット」も良かったけど、あれはBBCとの共同製作でやっぱりBBCなのかと思ったけど、世界がグローバルスタンダード色に染められていき多様性を失いつつある中で、経済的・文化的侵略という悪いんだか良いんだかにわかには分かりかねる問題を象徴するような「北センチネル諸島の先住民による宣教師殺害事件」なんてのが起こったドンピシャの時期の放映は偶然以上の必然を感じる。彼らが彼らでいるためには異文化に飲み込まれないために外との接触を断たざるを得なかっただろうし、異文化からのひどい接触で煮え湯を飲まされてきた過去もあったんだろうことぐらいは、宣教師の側にも自身の信じる信仰に基づいて、彼らを幸せに導かねばならないという強い使命感があったのだろうことと共にニュースの見出し読んだだけでも分かる。いろんな意見があるんだろうけど双方にそうしなければならない背景があったことぐらいは理解したうえで論じてほしいものだ。
 NHKスペシャルではアマゾンのとある先住民族の最後の生き残りに注目して、現在先住民の保護施設で暮らす彼への聞き取りを中心に丁寧に関係者への取材を重ねている。何しろ永年彼を研究対象にしている言語学者がわかった単語が800ぐらいしかない、受験英語の基礎編かよってぐらいに特殊な言語らしく、一緒に発見されて既に亡くなっているもう一人以外には彼の言葉を正しく理解できる者はもういないので、彼の語る内容も単語の並びから類推するしかなく、番組でも断言するような表現は避けていた。だとしても、最後彼が通訳もいない中、誰に聞かせるともなく語り出した言葉に<子供><みんな><死> <矢><血><大きな音>なんてのが出てくれば、彼の部族になにが起こったのかなんてのは想像がつくというものである。
 アマゾンの密林の悲劇としては、日本人なら日系一世がとんでもない土地に入植させられてっていうのも知ってても良い。まあワシも垣根作品で知った程度だけど。でももっと数が多く普遍的だったのだろう悲劇は、その入植者よりさらに弱者だったかもしれない先住民に降りかかったもので、欧州からの入植者である農場主や鉱山主が、元々住んでた先住民(しまった馬から落ちて落馬してる)を「平和に暮らしていると突如襲撃してくる野蛮人」として、私兵を雇って”駆除”していったなんていうのが、俯瞰してみれば「お前らが先に先住民の住んでた密林を焼き払ったんだろうが!」って盗人猛々しく思うんだけど、当事者にはそんな視点はなくて、実際に番組でも最後の二人が保護されたときにその地に入植していた鉱山主が当時を振り返って「コレで土地がオレのものになったと思った」とさも当然のように語っていて気分が悪かったけど、多分多かれ少なかれ直接的でないにしても、そういうひどいことをした上で便利な暮らしをしているだろう自分も五十歩百歩なんだろなと苦い気持ちになる。
 自分の悲しさを共有することさえできない最後の一人になったその悲しさを思うとき、やっぱり涙が止められなかった。死ぬのなんてあんまり怖くない。だって誰でも死ぬんだもん。でも本当にたった一人になってしまうことを想像するとオシッコちびりそうなぐらいに恐ろしいし想像するだにさみしくて悲しい。
 「語り」が町田康先生っていう弱者や虐げられた者、少数派の側の悲しみを語らせるならこの人だろうという納得の配役で、細かいところでも良くできた番組だった。自分の幸せや楽しさは、誰かの不幸や悲しさの礎の上にあることを知っておかなければと肝に銘じる。
 二位は以前にも取り上げたので、詳しくは書かないけど、デイビットアッテンボロー先生の老いても衰えない知的好奇心旺盛さに敬服すると共に、ダーウィンを産んだ英国の文化的・歴史的底力を感じさせるに充分な力作でかつ文句なしに面白かった。素晴らしい。
 三位は、Netflixオリジナルだと思って観ていたけど勘違いでBBC制作だった。アラスカでいろんな方法で自分たちの生活を自分で切り拓くような古き良き米国流開拓者魂を思わせる人々を追った作品で、それぞれの力一杯の”フルライフ”な奮闘ぶりにアタイあこがれちゃう。誰にも文句は言わせず好きなようにやるけど、失敗も危険も全部自分で責任を負うっていう生き方に、ワシも死ぬまでにはたどり着きたいものである。他人に文句ばっかり言って、そのくせ義務も責任も負おうとしないような好都合な頭の悪さの輩が目についてうざいご時世なので、そういう生き方が眩しく見える。
 Netflixオリジナルのものも米国の薬物汚染を追った「ドープ」とか危険生物72種シリーズとか面白く、危険生物は南米編、豪州編、アジア編と来たのでアフリカ編も楽しみに待っている。

 今年は、有料動画配信サービスのNetflixとDAZNを契約したんだけど、金払うだけの価値がある面白い作品や中継放送があってとても満足している。NHKを除くと企業様のご意向で番組作ってるテレビ局が、私にとってはアニメ以外は観るだけ時間の無駄程度の番組しか作れなくなってるので、金払って観る方式は多分良いんじゃないかと感じている。
 表現媒体やら配新方式やらは変わっていくんだろうけど、物語やらの表現物を創り出す情熱やらそれを楽しむ人の心やらは少なくとも千年前から変わってないわけで、これからもいろんな作品が間違いなく創られ続けるから、そこから良いのをめざとく見つけて楽しんでいけばいいんだと思っている。来年はどんなのと出会えるのか楽しみである。

2018年12月27日木曜日

安物のダイヤモンド


 706Zに端を発し、トゥルーテンパー727から感染発症したスピニングリール熱のおかげで、この秋から冬にかけての間ずいぶん楽しませてもらった気がする。
 とにかくスピニングリールが欲しい、触りたい、分解したい、使いたい、というやっかいな症状は落ち着いてきている。このまま年内いっぱいで峠を越して生還したいモノだ。
 インスプールのスピニングも面白そうだなぐらいの軽い気持ちで、歩を進めたら、思わぬ深い沼にはまった形だけど、おかげでスピニングリールについて再度学んで考える機会を得ることができた。
 興味深かったのは、自分が使ってきたスピニングリール達を改めて眺めてみたら、その場その場で流されてたまたま手にしたリール達だと思っていたけど、結構、そのリールを手にしたのは必然の出会いだったのかもしれないということ。
 ろくなドラグも搭載されていないけど安くて少年の味方だったダイワに始まり、流行のリアドラグも使いつつ、日本で作られていた晩年の頃の大森ダイヤモンドを選んでいるのも、当時費用対効果を考えれば貧乏学生には当然の選択だったように思う。
 海のルアーの流行に乗っかって、往時は名前書いておかないとシイラ船の竿立てのところで迷子になりそうなぐらいの標準機だったPENN5500ssでPENN初体験。
 その後、小型機種について大森キャリアーが使用不能になった後の後継機選びではウィスカーSSトーナメント600とスピンフィッシャー4300ss(+430ss)で迷ったけど僅差でスピンフィッシャー勝利。その後のおそらく今後も死ぬまで続くだろうスピンフィッシャー偏愛体制に繋がっていく。でも革命機SSトーナメントを選んでいても米国では兄弟機が00年代半ばまで売っていて、この2機種に絞られたのも当時種々悩んだんだろうけどこれまた必然だったんだろうなと思う。
 大型機種で丈夫なリョービメタロイヤルに一票入れているのも、ワシまんざらPENNを盲目的に信仰してるだけってわけでもなかったんだなという気がした。よい子のNAVIも買ってるし。
 でも、それ以降で次にPENN以外のスピニング買ったのが40年前のインスプールスピニングであるトゥルーテンパーだっていうのが、なんといっていいのか。ぶっちゃけ買いたくなるリールがまったく出てこなかったということだと思う。
 耐久性やら手入れのしやすさ部品の入手しやすさなんかを除いて、小型スピニングであれば、15年以上前に買ったワゴン売りのNAVI程度でも一般的な釣り人には4桁スピンフィッシャーよりは使いやすいし、丈夫さも実用上問題ないことぐらいは承知している。定価で3千円ぐらいから1万円台ぐらいの日本製の実用機を買って、モデルチェンジのサイクルにでもあわせて古いのは売っぱらって買い換えていけば、故障もまず出ないだろうし費用対効果も高くて賢い方法なのだろうと思う。道具的にはそれで問題なく快適に釣れるはずだ。
 それでもその快適さよりも、自分のような同じ道具を愛着持って使い続けることに執着する人間が、それを放棄して手を出したくなるようなリールなど出てこなかったということである。
 自分がかたくなにPENNにこだわっていて、凄く良い製品が既に出ているのに不便を強いられているのに気付いていないんじゃないかという恐れは心の端にあった。でも、40年前のインスプールのリールでも投げて巻くのに問題ない性能は既に備えていて、シーバス釣るのに必要なぐらいの機能なら問題なく果たしてくれることを知って、さらには今に繋がる90年代後半のシマノのそれなりの高級機も別に完璧でも何でもなくて、だったら今現時点の良くできたリールも所詮今流行ってるだけのモノでしかなく、その程度の微差を産むためにどれだけの試行錯誤や時間や熱量やその他諸々が費やされたのか、そこに敬意を払う必要は認めるにしても、別に流行を追っかけて慣れ親しんだ機種やその管理体制を捨てる程の利点なんてなくて、アタイ一生PENNについていくノ、と改めて思うのであった。

 思うんだけど、逆にインスプールの単純なややこしくないスピニングに触発されて、本当にスピニングリールに必要とされる機能って突き詰めれば何なのか?あるいは技術的に習熟して補うことによって、どこまで単純な機能のスピニングで釣りを楽しむことができるのかということには興味が出てきた。
 その疑問に一般的な解答を得ることはおそらく不可能だろう。個々人の技量や好み考え方によってスピニングリールに求めるモノは千差万別だろうから「完璧なスピニングリール」とかはあり得ない。
 ただ私個人の中ではそういう1台が”オレがそう思うんならそうなんだろう、オレん中ではな”的にあり得るのかもしれない。特に、とにかくぶっ壊れないことが優先になる大型スピニングじゃなくて、余裕を持って遊ぶ余地のある小型スピニングにおいては、別に第3世代と第4世代のスピンフィッシャーで困ってるわけじゃないけど、もっと自分の釣りに最適化したリールとか逆にもっと削れる機能を取っ払って単純化して技量で使いこなすようなリールとか、そういうのを探っていくのもまた楽しいんじゃないかと思う今日この頃。
 後者の単純化の方向では、多分インスプールでベールアームなしというのが当面の目指すところで、来年からスピンフィッシャー714Zを使いながらその辺意識してインスプールのリールについて習熟していこうと思っている。
 前者の自分の釣りに最適化したリールについては、今一方針が良く分からんかった。今使ってるリールで多少不具合あることもあるけど、そんなもんどってことなくて特段機能的にはこれといった具体的要望があるわけじゃないのに最適化っていってもな?というところだけど、根本的なところで自分がリールにナニを求めているかとつらつら考えていくと、酷い不具合が生じないのは前提として、楽しく面白く気分良く釣りができたら重畳じゃ、っていうのはやっぱりあると思う。
 じゃあナニが楽しく面白く気分良くなることかって考えたら、まずは魚が釣れることだけど、それは今のリールで自分の欲する程度なら充分できてるはず。そう考えると自分の天邪鬼で底意地の悪い性格からいって、人様の思いつかないことができたり、裏をかけたり、素人に理解不能で馬鹿にされるけど玄人衆が「そんな手があったか!」と舌を巻くようなことができれば、心の中でグフフと下卑た笑いを禁じ得ないだろう。
 ということで普通スピニングリールに求められるだろう性能や要素のなるべく逆を行くような天邪鬼なリールを目指せば良いんじゃなかろうか。
 極端にいえば、性能が悪くてすぐぶっ壊れて見た目が格好悪い安っぽいリールである。
 さすがに天邪鬼を自認する私でもそれをそのまま体現したリールで釣りを楽しめる自信はない。
 でも、今時の高級リール様の宣伝文句に踊る「高強度軽量な金属素材」「スムーズで遊びのない逆転防止」「滑らかな回転を生む沢山のベアリング」「精度が高く効率の良いギア」「何かわけわからん横文字の機構」「ご大層なデザイン」「溢れる高級感」あたりなら、あえて「逆に考えるんだ」っていう遊びはできるように思う。ンなもんなくても魚ぐらい釣れらぁ。
 というか、最初の3つに関してなら逆の方が良いんじゃないかと割と真面目に思って書いてきているのは、このブログの読者の皆様ご存じのとおり。

 例えば自分の好きな小型ルアー用スピニングで能力的に優れている3台を選ぶとすれば、4300ss、キャリアーNo.1、ウィスカーSSトーナメント600がベスト3になるだろう。こいつらみんな本体樹脂製でラチェット式逆転防止、ベアリングはラインローラーにも入ってなくて3個か2個と少なめである。
 今の主力機である430ssgは、油が切れたりするとたまに不調になる一方通行ベアリング方式の遊びのない逆転防止機構と錆びそうなラインローラーのベアリングが数少ない気に入らない点であるってぐらい(でも小型リールなら突然逆転しても大事には至らないし、ベアリング錆びたら交換すりゃ済むしなんなら樹脂製ブッシュの大きさあうの探してきて入れてもいいので気にするほどでもないし、理屈じゃないところで好きなので良いんである。)。
 樹脂製の本体とか塩水で使っても絶対錆びないっていうのは、金属では金でも使わない限り塩の腐食から完全に逃れるのは難しいので、そんな大げさな強度が必要されるってわけじゃない小型スピニングでは良い選択だと思っている。
 逆転防止機構については前回書いたとおりでラチェット式とかの方がどう考えても良い。ベアリングについても、なくて良いところに値が張って錆びる部品入れる必要性なんてない。断言するけどない。ローターの所に1個が必須で、後はハンドル軸に1個入れるか2個入れるか、それともブッシュとかで必要な耐久性を確保するかどうかお好きなようにという感じだと思う。

 その3つの要素以外も、ギアは耐久性と精度は良い方が良いんだろうけど、別に普通でいいって話で小型リールならそんなに重くならないし、巻き上げ効率も気にする程じゃないしで、普通でいいよ普通で。1シーズン持たずにギアの歯が飛ぶような粗悪品じゃなきゃいいって程度だと思う。
 何かわけの分からん作った側ですら日本語で必要性や客観的な優位性を説明できない機構なんて故障の原因が増えるだけだからいらんのです。
 デザインはウームという感じ。見た目は重要だけど、コレばっかりは好みもあるからどうともいえん。使ってるうちに最初嫌いでもだんだん惚れてく、なんてツンデレ的事例は良くあることだからどんなのが良いとは言い切れないけど、明らかに減点したくなるのは、なんか見たことあるあるような流行の型に似せたような見た目。
 高級感とか上質感とか、正直ケッて思ってる。あんまりピカピカしてると恥ずかしくって使えねぇって。
 ていう風に考えていくと、今時の高級リール様の逆を行くような天邪鬼リールは充分実現しそうというか、実在しただろう。
 たぶん、一般的な釣り人の感覚で今一番古くさく目に映るあたりの時代のリールがそれなんじゃなかろうか。
 多分今のスピニングリールの軽量金属製高級路線ってダイワのトーナメントEXやシマノのステラあたりからのハズだから、それから金属製が主流になる以前の樹脂製本体の行くところまで行ったあたりの”樹脂製スピニング爛熟期”の80年代終盤から90年代前半あたりに、腐りかけの果実のようなお汁タップリの美味しいスピニングがひっそり実っていたに違いない。

 ということで例によってネットオークションで色々物色して、結構いい加減にホイホイと、3台まとめて買えば送料も安くていいやと聞いたこともないような安パッチいスピニングを落札。一応大森とダイワなら安物でもそれほどアホなリールじゃないだろうと選ぶあたりは、アバンギャルドな無頼派を気取っても結構根元では小心者で保守的なナマジであった。なかなか完全にブランドイメージとかまで払拭してまっさらな気持ちで選ぶってのは難しい。
                   
 でもって1台目は、大森製作所のダイヤモンド「アクションM」という樹脂製の多分ワゴン売りされてたような安パッチい1台。結構ボロくてネジとかも錆びてる、中古で1000円の品。80年代終わり頃とかの製造だとおもうけど当時流行のロングスプールで四角いお尻の造形が、今見ると中途半端に古くさくてかつどこか大森らしい垢抜けない感じもあって今回の趣旨にぴったりで実に良い。
 大森製作所のリールは、日本で作られてた最後の頃のと会社潰れて釣り具量販店J屋グループに吸収された後の時代の「ロングマイコン」というワゴン売りの安リール以外の何物でもないどうにも評価もしようがない代物を購入していたけど、その間の時代、大森製作所最晩年には生産拠点を韓国に移した韓国大森製のリールが存在していたことは知っていたけど手にしたことはなかった。その頃のリールのようである。
 この頃の韓国大森のリールの評判は最悪といって良い。TAKE先生はじめ往年の大森ファンからは総スカンで酷評の嵐である。曰く「大手の真似に成り下がった」「大森の真面目さを捨てた単なる安物」「これは大森ファンの愛したダイヤモンドリールじゃない」等々。
 普通ならそんな酷評を目にしたら買わないんだろうけど、人がダメって言えば言うほど逆らいたくなるのが天邪鬼の困ったところで、地雷踏むの覚悟でいきなり2台も買ってみたところである。
 回転性能だの飛距離だのにこだわるような”うるさ方”が仰ってることなんて自分にとってはあてにならんことが多いし、腐っても大森製作所だし良いところ見つけて楽しめるだろう、ぐらいに考えた。
 さて、手元に来たのをまずは分解清掃だなとバラしていくと、まず本体蓋を留めているネジとかが錆びている時点で全体のデキを察して然るべきだったかも知れないけど、なかなかの安物ッぷりを発揮。
 ドラグは安物なりに苦労の跡が見て取れて味わい深いものが入っている。一番底に皿のような湾曲した金属ワッシャー2枚を向かい合わせて入れてあり、コレが普通ドラグノブに入っているバネの代わりに弾力を備えてて調整幅を稼いでいるんだろう。おそらくABUアンバサダーのハンドル軸に同じようなワッシャーが入っている所からの着想だと思う。おかげでドラグノブが単純な造りで済んでいる。ドラグパッドも1階建て方式だけどテフロンのドラグパッドが入っていてそれなりにドラグとして機能している。ただ、耳付きワッシャーがこれでもかというぐらいに錆びててテフロンと固着していたのはいただけない。写真のどれがテフロンのドラグパッドか分からないと思うけど、一番黒いのが錆がこびり付いたドラグパッドである。
 パカッと本体蓋を開けるとハンドル軸のギアの上には海水侵入したっぽい水玉模様が見て取れる。ハンドル軸で重要なギア側の軸受けはベアリングじゃなくて樹脂製のブッシュかなと思ったら、芯の部分に真鍮っぽい金属のリングが入ってたけどやや頼りないか?ギアは軸だけ堅い金属を鋳込んでた往年の大森の設計とは異なり、安いダイワ製とかと同じくハンドルから伸びる6角形の軸を挿入する方式。
 平行巻機構はさすがにロングスプールなのでクランク方式じゃ往復激しすぎちゃうので減速ギアのカム方式採用。逆転防止はローター軸のベアリング直上の歯に爪を掛ける往年の大森方式でこのリールの数少ない大森っぽいところ。
 ローター軸のギアはベアリングで受けているけど、ベアリングを穴に填めて上からネジ3個で押さえつけているというやっつけ具合。
 オイオイ大丈夫か?と心配になったというか、コリャダメだと思ったのが、本体側のハンドル軸を受けるのにベアリングは入ってるわけないにしても、ブッシュすら見当たらず樹脂製の本体でノーガード直受け。普通ベアリングがないと亜鉛鋳造(ダイキャスト)とかのギアの場合軸が削れていくらしく、だから往年の大森製作所は堅い金属を軸に鋳込んだ真面目な設計を採用してたって話だけど、さすがに本体樹脂の場合は本体削れるでしょ。耐久性とか大丈夫か?
 もちろん、ラインローラーにも樹脂製スリーブとか噛ませてなくて直受け。
 3台もスピニングリールが届いて楽しめるとウキウキだった心が、この時点でどんよりドヨドヨと曇ったのはご想像いただけるだろう。

 もう一台の大森製は、買う時点で多分表面のプリント変えただけの同型機だろうな、という感じだったダイヤモンド「タックルA SS」なので、同じのもう一台もあるのか・・・ハァ。と既に後悔先に立たずな感じになっているが、仕方ないのでバラしていく。ちなみに1500円と予算オーバーだけどまとめ買い送料分を言い訳に買った。新品で売られてたときの価格もそんなモンだろうけど割と美品なので目をつぶる。
 なぜか全くの同型ということではないようで、スプールが微妙に違っていて、替えスプールが手に入る算段すらご破算になりそうな感じ。よく見ると糸巻き量表示が違っててタックルAが2号150mに対しアクションMは2号80mとなっている。
 ローターと本体の大きさは一緒なので浅溝なのかなとスプール交換してみると、スプールの底の出っ張りの高さが違っているようでうまく高さがあわない。糸巻きの部分の幅自体はタックルAの方が若干狭いぐらいの微差で、ワッシャーとかで高さ調整してやれば替えスプールにするのはなんとかなるかもと若干の希望。

 どちらが先に作られたのか分からないけど、タックルAが後に作られたのだとしたら改良の跡が見て取れる。逆なら手抜きの跡であり少し悲しい。
 ドラグがテフロンのドラグパッド3枚の3階建て方式になっていて、ドラグは何の問題もないだろう。スプールの糸巻き部分の幅が若干狭くなって平行巻機構の上下動幅分キッチリ道糸が巻けるようになっているのもライントラブルの防止には効いてくれそう。ローターと本体はバラした結果多分一緒だったけど、スプールは明らかにこっちの方が良い。
 どうも他にも同じような型の「プロフィット」「POSCA」というのがあるようで、スペアスプール確保がてら大森でいう「SS」の大きさの見つけたら毒くわば皿までで入手してみるか。このあたりの大森スピニングについてはさすがにネットにも情報少なくて、何か知ってる人いたらタレコミ情報よろしくです。

 次に、ダイワの「スプリンターマックスST600」というのに取りかかる。
 コイツはどうにもならなかったら「スポーツラインST-600X」用にハンドルだけでも取れればいいやと1000円も出してゲット。
 フットの裏には「JAPAN」とだけあるけど、メイドインなのか企画設計なのかなんなんのか。昔愛用していた緑の救命胴衣に「国産」と表記されていて、そりゃどっかの国で作られたんは確かだろうけどさ、というトホホ感でウケを取る鉄板ネタだったのを懐かしく思い出したりした。
 このリールが、ダイワが生き残って釣り具界を牽引するまで成長した鋭さを彷彿とさせるモノで、なかなかに良い勉強させてもらいましたという感じ。
 同じようにワゴン売りで初心者やら普段釣りをしない客層に売っていただろう安物でも、生真面目な大森製作所が「スピニングリールにはきちんと作動するドラグが必要である」って考えてたんだろうってのが見て取れるのに対し、この頃のダイワは「安リール買う層はドラグなんて使わないでしょ」とばかりに、調整幅も滑らかさもクソもないワッシャー2枚を樹脂製スプールにハメ殺して、ある意味ダイワの安リールの伝統である”ドラグノブ=スプールを固定するためのツマミ”方式を樹脂製本体の時代になっても貫いているのである。平行巻機構もクランク式、ベアリングも1個でハンドル軸両側直接本体受けでブッシュすら噛ませてない。薄っすいワッシャーは多分ガタ調整かなにかで耐久性向上には役立ってないだろう。
 この消費者の求めるモノはなにかということに寄り添い、削れるモノは徹底的に削る姿勢が、弱肉強食の資本主義経済自由競争社会で生き残る強さかもしれないなと思わされた。資本主義って厳しいネ。
 と同時に、この手のリールを普段我々釣り人が使っているリールと単純比較するのは間違いだなとも気付かされた。多分新品でも千円台とかの箱にも入ってないようなリールで、夏休み海に行くから釣りでもするかと買ってみて2度と使わないとか、そういう客層が買う道具に、年間100日釣行とか当たり前の玄人衆が求めるような耐久性なんて求めても意味ないじゃん。だったらその分安くって、それなりにリールっぽい見た目なら上出来ってもんでしょ。
 今回の大森スピニング2台はそういう意味で、道具としてのデキとしては安ダイワより良かったけど、安リールとしての洗練度的には負けてるっていうのが、評価するとしたら一つの評価の仕方かもしれない。安ダイワはその辺エグいぐらいの領域にギリギリまで切り込んでる。多分今の安ダイワも今時の消費者はネットとかで要らん知識ばっか増やしてて耳年増だから、オモチャみたいなデキでは売れんと把握してるだろうから、エグいぐらいに良くできたモノを突っ込んできてるんだろうと想像に難くない。
 もし、韓国大森製スピニングの実力を知りたいなら、その時代の実用機であるタックルシルバーあたりを見てみないとなんとも言えないのかも知れない。
 ダイワやシマノが技術的にも力をつけて、リールとしてはどうなんだ?っていうような安リールも売りさばきながら大きくなっていった時代に、中小企業でしかなかった大森製作所が生き残りを賭けて真面目に経費削減のため生産拠点をまだ人件費も安かっただろう韓国に移して、らしくない安リールも作ったりして努力したけど、広告が今以上に効いた90年代初めとかにTVで番組持って宣伝して大量に売りさばけたダイワやシマノには勝てなかったっていうのは「大森が大森らしい真面目さを捨てたのが悪かった」って決めつけできるほど簡単な話じゃなかったんだと思う。正直真面目に良いものつくり続けてたって、宣伝文句にホイホイ踊らされる日本の釣り人を相手にしていたら遅かれ早かれ潰れてたと思う。かといって世界市場で勝ち抜くには、韓国やら台湾でもリールが造れるような時代にもなってきてたし、もう中小企業の市場戦略程度じゃどうにもならなくなっていくなかで、どっかに吸収されずに生き残れたとも思えない。ABUやらPENNでさえ世界的な企業統合の流れに飲まれて今やピュアフィッシング傘下の1ブランドである。死んだ子の年を数えても仕方あるまいて。タラは北の海だしレバは焼き肉屋である。
 ダイワ「スプリンターマックスST600」にはハラホロヒレハラという感じに正直毒気を抜かれた。タックルシルバー買おうとかいうやる気ももう正直なくなった。まあスピニングリールもそろそろお腹いっぱいだ。

 とはいえ、せっかく我が家に縁あってやってきたリール達。いじくって遊んで楽しんで可能なら使えるリールに改造してみたい。
 まずは、スプリンターマックスから行く。っていってもたいした技術があるわけじゃなし、ドラグをいじるぐらいが関の山である。
 とりあえずハメ殺しのドラグパッドを取り出さなければどうにもならないので、樹脂製スプールをカッターで削って、後刻填め直すときに抜け落ちにくいように対角線上に2カ所だけ削り残す。
 入っていたのは金属と滑りにくい赤い繊維のワッシャー2枚の構成で、ドラグとして機能していたのはむしろスプールの裏側の音出しの赤い樹脂製の爪で、クリックブレーキのフライリールのようなけたたましい逆転音を響かせつつバックラッシュが起こるような回転数上昇をドラグノブ緩めた場合には防いでいる。要するに滑らすか止めるかの2択しかないドラグである。
 この手のドラグの改良はスポーツラインSTで経験済みなので、余ってた中華製カーボンパッドを適当に切って、テフロン仕上げガラス繊維の自作バッドを乗っけて元からあった金属ワッシャーで押さえていっちょ上がり。ついでに抵抗が大きすぎる音出しも先を切って調整しておいた。
 6ポンドナイロン巻いてコイ釣って試したところ、調整幅が狭いのはいかんともしがたいけど、ちゃんとドラグとして機能するようにはなっていた。ただ切って調整した音だしの爪が最初は鳴ってたんだけどそのうち曲がって鳴らなくなってしまって、巻けてるんだかドラグ出てるんだかわからんようになって茂みに突っ込まれたりしたので、帰ってきてからペンチで摘まんで引き延ばして応急処置しておいた。曲がるのも計算して切るか、曲がりにくい素材を接着して補強すべきだったけどまあいいや。

 大森2台の方はとりあえずアクションMの方を使うことにして、アクションMの1階建てのドラグの調整幅はもうちょっとあれば良いのにな、とあれこれ試してみて、一番下にフェルトを敷いて調整幅を稼いで、耳付きの錆びた面にテフロン仕上げガラス繊維のパッドを敷いてやると大分改善した様に感じる。
 コイツはそこそこ”良いドラグ”になった気がするのでナイロン0.8号5LBというこれまで使ったこなかで最も細い道糸を巻いて、コイさんに引っ張り回してもらって試験したところ、まずまず良いドラグといって良い感じなんだけど、ちょっと滑り出しが引っかかり気味かなという感じだった。
 帰ってきて色々考えて、スプールが乗っている座面の赤い繊維製のワッシャーの滑りが悪いのが、直径は小さいけどテフロンとかの良く滑るドラグパッド使う際の低いドラグ値では余分な摩擦力を生じさせてドラグの挙動に効いてるのかもと、とりあえず例によってテフロン仕上げガラス繊維のワッシャーを敷いてみたら良くなったような感じがしたけど、いじってるうちにイマイチな感じになって安定しないなと思ったら、ガラス繊維の縦横に編んだ繊維がほつれたようになって切れてしまっている。
 714Zもスプールの高さを下げるため同じ位置に入れていて部屋での試験段階では問題なかったけど、ドラグパッドみたいな面積大きいのはほつれにくくて大丈夫そうでも、幅の狭いワッシャーとかは強度的に不安になってきたので「モノタロウ」で近いサイズのテフロンワッシャーの薄いのを買って穴の大きさ調整して交換しておいた。
 アクションMにも同様に座面には元のワッシャーの上に薄テフロンワッシャーを重ねておいた。良くなった気がする。
 ドラグも良くなったし、ギアや逆転防止などの機構自体は単純で故障しにくそうだし、ロングスプールで直径も大きいのでライントラブルも少なそう。回転バランスとかも問題ないし、樹脂製の小さいリールなので軽さも充分。防水なんて樹脂製なので金属部品だけグリスシーリングでいける。なかなか使いやすそうなリールなんだけど、いかんせん樹脂ボディーで直接ハンドル軸のギアを受けてるのは削れそうだし、ラインローラーも直受けなんだよな、耐久性はどうにも期待できないなと惜しがっていたら。またも頭に浮かぶお決まりの台詞。

「逆に考えるんだ」

 削れちゃってもいいんだと考えるんだ。
 ワシ別に機械屋でも何でもないので金属加工するような技術を持ってないので、リールのギアやらなにやらを直すような手段を持っていない。
 でも、樹脂ならハンドドリルで削れるし、接着剤も各種あるので、ある程度の単純な加工はできる。やったことないけど多分できる。削れるような強度なら削ってサイズの合うブッシュを探してくるなりブッシュ自体を近い大きさのから削り出すなりして加工してはめ込んで固定するとかできるんじゃないだろうか?ラインローラーは金属で受けてるけどライン噛むぐらい隙間できたらこれも薄いシートか何か突っ込むとか工夫はできるだろうって気がする。
 と思うと、この安っぽい紛れもない”ごみスピ”を使うのが楽しみになってきた。
 まああんまり無茶はさせる気はないけど、いざとなったらスズキでもコイでもあがる範囲の”細糸”でセイゴ釣って遊ぶのに使って、不具合出たらその都度工夫して直していき、直す度に強度が上がって良いリールに仕上がっていくなんていうのは面白いかも知れない。
 なにも遊びの釣りで、ガッチガチの高性能な最新鋭機やら人がうらやむような歴史的名機を使わなきゃならないって決まりなどない。ルアーでもB級ルアーの楽しみがあるように、リールでもちょうど時計の世界でやっすいデジタルの”チープカシオ”なんてのにもけっこう人気あったりするように、ちょっとダメ系の二流の安物を楽しむという遊び方があっても良いし、まあ実際にそういう楽しみ方をしている御仁がいることもネットで知って影響を受けまくってるわけだけど、釣りの場合遊びが自分だけで完結するわけじゃなくて魚も巻き込むので、あんまり程度の低い道具だと道糸切れたりして魚大迷惑だったりするのでどうかとも思ってたけど、この程度のデキの道具なら充分釣りになりそうでかつ不具合にも対処する方針が立ったので、実際に使い始めれば想定外の難問とか出てくるだろうけど、それも含めて面白がってしまっても良いんじゃないかという気がしている。ダメでゴミ箱にぶち込むしかなくなったとしても別にたいしたこっちゃない。


 ということで、スピニングリールについて座学はこの辺でいいやという気がしてきた、後は実際に釣り場に持ち出して、使って釣って行く中で失敗して試行錯誤して考えて学んでいく実践に移っていきたい。釣り道具だもん魚釣ってナンボよ。
 来年は430ssgを使う場面では714Zを使ってインスプール修行を引き続き進めてクンフー積んで、タックルMでセイゴ釣って遊んで学ぶというのをやってみたい。

 いくつかまだ買っただけで放置しているリールもあるけど、また気が向いたときにでもいじることにして、ひとまずスピニングリールネタは終幕。お付き合いのほど感謝。

2018年12月22日土曜日

島のもありマス



 我が家の蔵にもシマノの2つや3つは転がってるんです!
 右から「NAVI3000」「95ツインパワー4000XT」「メタロイヤルVS3500ZM」って最後しれっとリョービを紛れ込ませてるけど、今回一緒にバラしてみたのでついでということで堪忍してつかあさい。
 ネットオークションや中古屋で古めのスピニングリールなどほじくり返しつつ、それだけでは”スピニングリール熱”の症状が治まらないので「悪いズビニングはいねが~言うこと聞がねズビニングはいねが~」とユネスコ無形文化遺産風に蔵を漁ってたら、コレまで発掘した古いスピニングとは海で使うので別にしてあったこいつらが出てきたのである。
 そういえばこいつらもいたよなとは思うモノの、メタロイヤルはともかく、シマノのスピニングはこの時代90年代にはすでに瞬間的な逆転防止機構を搭載していて、正直今まで一度も分解清掃などしたことがない。
 だって面倒臭そうなんだモン。
 シマノについてはあんまり興味がない。まあ天邪鬼なので大手っていうだけで興味の対象からほぼ外れるし、ダイワのようにガキの頃からお世話になってたわけでもない。
 でも、今日に繋がる、噂じゃ高性能らしい妙にご大層な高級スピニングリールに関していえば大っ嫌いで、ステラ系列がその先陣を切ってダイワのEX以降のトーナメント系列と覇を競い、私からみれば不毛な争いに消費者である釣り人を巻き込んで、高級リール崇拝の度合いを深め、釣り具の”金のかかるカルト化”を招いてしまっている元凶だ、ぐらいに苦々しく思っている。

 じつは我が家の蔵にはもう一台「98ツインパワー2000」が眠っていて、コイツが私の高級スピニング嫌悪に拍車をかけた一因である。
 今回98ツインパ2000をバラさなかったのは、一度釣り場で全く回らなくなってメーカーに修理に出したら”ギアの摩耗”という「何万もするリールが5年もせんうちにギアすり減るンかよ!」とあきれる原因でギア交換でメーカーメンテされて帰ってきてから、不信感もあってあんまり使わせてなかったので分解清掃する必要もないな、ということで放置したからである。
 2000年から主力で使ってる4400SSがまだギア交換必要でないという”PENN使い”からしたら、鼻で笑っちゃう耐久性である。当時もギアは高強度だの高精度だのを謳ってたはずで、今のも洗剤の「驚きの白さに」と同様に新型はより良くなってます的な宣伝しか書いてないけど、10年単位での耐久性が実地で証明されていないという意味では今現在も状況は基本的に同じで信用できないと皮膚感覚で思ってしまっている。耐久性向上なんていう10年以上も同じ道具使うビンボ臭いごく少数の釣り人の要望にあわせるより、「軽く」とか「回転性能」とか店頭でクルクル回したときに釣り人がホイホイ釣れる性能を向上させた方が、そら儲かるからナ。そっちが重視されてるのは当たり前でしょ。
 一事例を基に、ほぼ思い込みで鬼の首を取ったようなことを書く傲慢さや不確実性、今の高級リール様を好きで使ってる人に嫌な思いをさせることの配慮と品のなさを考慮に入れたとしても、いまや世界の釣り具の趨勢に影響し、業界を牽引する立場に成り上がっているシマノ(とダイワ)には責任があると思うし、無批判に盲信する信者どもも多いので天邪鬼の務めとして厳しくお小言は書いていきたい。姑のようにネチネチとクドクドと。

 じゃあなんでシマノのリール持ってるんだよ?って聞かれると、3台とも我が家の釣りの上手い人のリールでオレのじゃないんである。ツインパ2台はどっかでもらってきたやつで、私にとっては興味も愛着もないリールだったのでたまにラインローラーとハンドルノブの根元に注油するだけでろくにメンテもしてやんなかったけど、そこはさすがシマノという感じでそれでもギア壊れるまでクルクル快調に回ってた。っていうのがあって、釣りの上手い人用のリールとして、安売りされてたNAVIを、ツインパ様に慣れてると泥臭いPENNの使い心地とか違和感あるだろうからというのもこれあり買って持たせたというのが3台の入手事情である。

 ただ、NAVIについては素直に褒め称えたい。15年以上昔にサンキュッパーぐらいで買ってから今まで一度も分解清掃などしていないのに、蔵からほじくり出してきたら普通に使えそうな回りかたしていて立派としかいいようがない。同時に発掘した95ツインパが油が揮発したのかなんなのか、逆転防止が効かなくなっててムカつくのと好対照。ツインパ旗艦機じゃないけど二番艦ぐらいの高級品でっせ。初心者用のNAVIに負けるなや。NAVIマレーシア工場製だけどマレーシアの工業力も侮りがたしだな。
 ただ、90年代のシマノは表面処理がいまいちで腐食が進みやすいように思う。NAVIもツインパも等しくベールワイヤー支持部の先っちょとか白く粉吹いて腐食してた。当時ジギングもやってたケン一が「何万もするようなツインパワーが、ちゃんと海から帰ってきたら水洗いしてるのに表面塗装ボコボコになるってどうなんや!」と憤っていたけど、今時のは大丈夫なんだろうか。

 お小言はいったん終了してNAVI分解清掃。
 コイツにも瞬間的な逆転防止機構が搭載されているので、逆転スイッチ省略で一方通行のベアリングが入ってるだけのスピンフイッシャー430ssgと違って、逆転とかどうやってしてるのか、ローラーベアリングの一種なんだろうと思うけど実際にはどんなもんが入っているのか一度見ておきたいところではあった。
 NAVIは素直な良い子で、本体横の蓋を開けてハンドル軸のギアを外して、平行巻機構は普通な感じのカム方式なので主軸を抜いてローター外してと、普通にサクサクと分解が進む。
 ちょっと水が入ったのか、お尻の金具は内側緑青出てるけどギアとかにはポチポチッと水滴がついたような痕跡は見られるものの、シマノの白いグリスがガッチリガードしていて腐食等無し。ドラグは問題なく優秀なので今回放置。なにも特別なものはないけど、問題生じさせてなくて、あまり「余計なモノがついてない」という良さがあるように思う。
 思うんだけど、瞬間的な逆転防止機構は思った以上にデカいのが、ローターの中にコレしか入ってないってぐらいにデデンと鎮座していて、こんなもんラチェット式なら写真上の右の方の石臼のごとき灰色の樹脂の部品は丸々削って残った台座部分ぐらいで済むって話で、クソ邪魔。
 下の写真、すでに開けた段階で1つローラーのブロックを落っことしてるんだけど、逆転時6個を右側のへこんだ壁に押しつけるようにしつつ中心のスリーブを締めて回転をキュッと止める仕組みのようで、逆転スイッチ切ると良く分からんかったけど全体的にユルっと緩んでスリーブを締めなくなるようだ。
 これが、細かいパーツで止められていて外からのバネが小さいし細い。その細いのをローラーの右に持ってくるのか左に持ってくるのか、細くてどっちに入れて良いのか年寄りには見えなくて、バラしたリールを持ったまま、コケてぶちまけないようにビクビクしつつネットで検索して、右のへこんだ壁に押しつけるんだからバネは左に持ってくると判明して何とか組み上げた。油も追加して軽く注しておいた。
 本体の方は、せっかくのシマノグリスだけど塩が結晶して残ってたらまずいので拭き取って、例のブルーのグリスでグリスシーリングですよ。シマノだからってオレは容赦しないゼ。

 で、95ツインパ様。まずはお尻のカバーを外すとパッキンが固くなっててたぶん防水の用をなさなくなっている。
 20年もたてば樹脂が固化するのは当たり前だろうけど、そのときにパーツ入手しようとしても、製造中止から3年ぐらいしか修理用部品保管してないようなので、防水性に問題を生じさせかねないんだけど、そのへんシマノさんはどう考えてるのかね?もちろん20年も経ったら新しいリール買ってくれって考えてるだろうけどさ、公式見解としてそういうこと恥ずかしげもなくいえるのかって話。リール大事に長く使いたいという客のことなんて微塵も考えてないという設計思想が見て取れる。まあワシャ組むときにシリコン接着剤で防水しておいたけどさ、どうなのよそれって。
 そしてまたこれがムカつくことに、分解するのがめんどくさい。あっち引っ張りこっち外してと、ばらしていくけど、主軸がローターから抜けずに悩んでたら主軸に付いてるスプールが乗る台座が抜けるというちょっと変わった設計で主軸抜かずのままでやっとローターはずれた。ややこしめの機構としては平行巻き機構がベイトリールと同様の軸を行ったり来たりする方式で、その関係のが一本入ってるぐらいで、やってることはNAVIとたいして変わらんだろうと思うんだけど、やたらと複雑になってる。投げて巻く以外に何か副業でもしてるんとちゃうか?

 逆転防止機構はNAVIと同じ方式ででかくて邪魔。逆転防止が効いてないってのは、油が切れたか、逆に油が進入して油が多いかぐらいだろうと思ったけど、油の進入はなさそう。
 お尻の防水パッキンもそうだけど、とにかく逆転防止機構に海水はもちろん、リール内のオイルやグリスも進入しないように、主軸にも樹脂のパッキンがはまってたりする。なのでギアとか内部機関は改めてグリス塗り直す必要ないぐらい綺麗なまま。
 なんでこんなに神経質になってるのかと、PENN使いは海水侵入ぐらい後で本体開けてギアとかそのまま水洗いして必要なら(シーズン中ならワシ内部水洗い後放置乾燥してそのまま使えそうなら使う人)グリスも交換すりゃ良いじゃんと思うんだけど、こいつら逆転スイッチも付いてるような”瞬間的逆転防止機構”はそうはいかなくて、海水入ったりしたらもちろん、自分でメンテする人の書いてる記事とか読むと、油が多すぎても少なすぎても油の粘度が不適切でも動作不良起こすような繊細な機構らしい。
 分解清掃時はローラーを丁寧に拭き拭きして汚れ水分油分を除去してから、油注さずに組んで、締め付ける方のスリーブに適量油を垂らして差し込んで、ローター回したりして油をなじませると上手くいくことが多い。上手くいかなければまたふき取ってやり直し、だそうだ。幸い一発で決まって復活したけどつくづく面倒くせぇ。
 そんな面倒な機構を水辺で使う道具の中に入れるから、各社躍起になって防水性なんてのを求めなきゃならんわけで、仮に水中で使用して完全に浸水したとしても正常に作動するはずのラチェット式の逆転防止機構が搭載されているリールなら防水性なんて気にするほどのことやないやんケ。アホくさ。
 「逆転がピタッと止まって遊びがない」ってガチャガチャうるさいってだけで実害ってあるのか?あるにしても例えば4桁スピンフィッシャーにはラチェットの歯の数が多い改造パーツが売られてたように、ラチェット式の改良工夫で何とかなる部分も多いし、なんか他にもいい方法あるだろうと思う。だいたいガチャガチャいうのってジギングだのエギングだのしゃくりまくる系の釣りだけで、巻物系のルアーの釣りとかなら関係ないだろ。ジギングするならガチャガチャいわない方が良いかなと思わなくもないけど、そのための値段の差とかを聞いたら「あっ、それならガチャガチャいう方で結構です」ってワシなら尻込みするね。
 しかも欠点としては、デカくて重くて不具合起きやすくて、値段が高くなるほかにも実害だらけ。
 予言しておくけど何十年か後に今の逆転防止の方式は笑いのネタになるだろう。その時になってアホなことみんな揃って何でやってたんだろうって不思議に思うだろうけど、今はそれが当たり前だとみんな思ってるだけで理由などないのである。過去のリアドラグの流行とかと一緒。瞬間的な逆転防止をやめるか、やるにしても430ssgに入ってるような油多い分には問題ない系の小型で丈夫な一方通行のベアリングにしたらリールは単純で不具合が少なく安くできる。ラチェット式ならもっと軽いし確実で丈夫。たぶん他にも一方通行のベアリング方式以外の現実的な解決方法は出てくる。今のデカくて不具合の多い瞬間的逆転防止機構は、残るとしてもエギング用リールとか限られた用途に限られていくだろうと思う。

 今、単純確実な逆転防止機構を搭載して、丈夫さとか精度とかを最新技術で追求して作ったら売れるのに、と思ったりするけど、実際には作っても売れない可能性が高い。
 なぜならまさに、そういうややこしくなくて丈夫なリールとして売り出されたのがリョービのメタロイヤルだからである。売れてたらリョービは釣り具事業から撤退していないだろうって話。
 写真見て分かるように、ダイワが提唱する前からドデカコンパクトな感じで機械の部分が小さくて糸巻きの部分が大きい。
 平行巻き機構も、ギアの上で小さい衛星状の部品がはまって回ってるなんかよく分からん形のカム方式で機構は小さくかつ道糸は真っ直ぐきれいに巻けている。
 逆転防止はラチェットじゃなくてローターの裏に歯がある方式で歯の数が多くできるので遊びはあるにしても充分小さい(個人により感じ方に差があります)。ラインローラーも普通だけど十分なようでライントラブルなんてPEでもナイロンでも気にせず使えていた。ビワコオオナマズ狙って一晩投げ続けても特にトラブルもなく快適。後年は釣りの上手い人がシイラロッドにつけてライギョ釣ってたけど、ドラグの締まりも逆転防止機構の強度もきっついアワセでも問題なく対応していた。
 その他にも今見ると主軸をカムに止めるネジが2本になってたり本体カバーのネジの横に位置を固定し補強する軸が入っていたりと、細かいところにも「丈夫に作るぜ」という設計思想が見てとれて良いリールだったんだなと感心する。
 スピンフィッシャーもいつまでもパーツが手に入るわけじゃないだろうから次世代の主戦力機をと採用検討していたのに、4桁スピンフィッシャーの生産停止より先に景気悪くなって釣りブーム縮小したらリョービが釣り具から手を引いてしまうとは予想外だった(釣り具ブランドのリョービは釣り具量販店J屋グループが引き継いでいる)。

 
 っていうぐらいに、日本の釣り人のみなさんは釣り具を見る目がない。と正直思っている。主体性が無く付和雷同的で、他人が良いと言ってるもの、まことしやかに大仰な小理屈の付いてるものなんかを、必要性の考慮とか、ましてや実践の場での有用性とか試したりはせず、鵜呑みにしてありがたがってるめでたさよ。
 私の釣り具の趣味が偏狭で凝り固まっていることを認めるのはやぶさかではないけど、正しいつもりで堂々と間違っててその間違った馬鹿面をヌケヌケとさらしているよりはなんぼかましだよな、と口汚く罵りの言葉を書いておく。テメエの趣味だの好みだのぐらい自分でキッチリ育てあげて他人にクチバシ突っ込ませるな!!

 まともな道具が選ばれなくて、大森製作所やリョービがなくなって、スピニングリールについては大手2大巨頭と外様のピュアフィッシング系と台湾メーカー系ぐらいしか買った後の面倒もある程度みてもらえる製品の選択肢がなくなってしまい、中古市場を除くと似たような道具しか売ってないというつまらない状況は、日本の釣り人の犯かした間違いに起因する結果の一つだと思うけど、まだそんな間違いならかわいいモンである。別に逆転防止機構がどんなだって魚釣れりゃ良いといえば良いし、釣り具業界の衰退は釣り人以外の景気の要因とかも大きいだろうし。大手製でもNAVIとか良いリールだし。
 でも、日本の釣り人が、特にルアーマンが、生分解性のラインを選ばなかったのは許し難い間違いだと実は恨み骨髄に思っているし、今でも鉛のガン玉とか鳥を死に追いやりそうなものがいろんな釣りで平気で使われている間違いも、いい加減どうにかしていかなければと思っている。
 生分解性のラインは確かに性能的には太くて伸びがあって今一だったかもしれない。でもそれを逆手にとって太くてショックを適度に吸収するショックリーダーとしてルアーマンなら生かせたはずである。使われ続ければ性能なんていくらでも上がっていく。
 それをメーカーもがんばってモーリス社なんて「RTE」を2世代に渡って開発し発売してくれたけど、選ばれずにもう生産されなくなって久しい。
 こういう間違いを続けていると、日本の釣り人はいつかなにかで「不合格」の烙印を押されて釣りができなくなると、これも予言しておきたい。

 スピニングリールについていろいろと学んだおかげで、自分が必要としていない大げさな逆転防止機構とそれを機能させるための防水やらに手間暇かけてあるような製品を大枚はたいてまで買うという間違いは犯さなくてすみそうである。
 まあ、他に山ほど間違ってるから、そんなところまで間違ってる余裕はないってことで。

 次回たぶん自分でも正解ではないんだろうなと思いつつ、挑戦して自分で確かめずにいられなかったことをネタにして、一連のスピニングリールネタをとりあえず終了する予定。
 クソつまらねぇ正解なんて地平の彼方までブッ飛ばすような、イカしててイカれてる不正解にたどり着いて天を仰いで呆然としてしまいたいんだヨ。

つづく

2018年12月15日土曜日

くらえッ!エメラルド350スプラッシュをーッ!


 ”千円縛り”でぶっ壊れたようなスピニングを買って修繕して楽しむという方針で、一時は症状が治まりかけていたように思えた”スピニングリール熱”だったのだけど、すぐに熱がぶり返してきた。
 なんというか、ぶっちゃけ千円縛りではなかなか欲しいものが買えん!アタイもーイヤッ!!
 前回の記事を読んでもらえば分かると思うけど、誰でもホイと買ってしまえる千円以下で買えるようなリールって、ネットオークションではオレにしか価値が分からないたぐいのものを除くと、買う気にもならない”ゴミ”ぐらいで、ワシがゴミだと思っても欲しがる人はいるのかもしれないけど、ワシがいらんものを買わなきゃならん理由はない。そうでないような代物はよほどの幸運でもないと巡り会えない。トゥルーテンパーもオートベールも幸運な出会いだった。
 オレが欲しいものは他の人も欲しいってのは当たり前で、日本語読めるネットに繋がった人間全てに入札資格がある国内のネットオークションだと、なんぼワシが特殊な性癖の持ち主だったとしてもそんなモン、広いネットの世界には似たような趣味の人間はいくらでもいるモノで、”部品取り”にしかならないような一部破損とかのゴミ回収寸前の個体でも千円程度ならそれこそ部品取りにと入札する輩はいるのである。
 2,3人で競って、惜しいところで競り負けて落札価格が千”数百円”とかいうのを繰り返すと、メチャクチャ頭にくる。アタイ悔しいッ!!
 他にも、この前などソ連製インスプールスピニングなどというモノが出品されていて、ソビエト時代に彼の国で生産されたリールは、寒い国から来たリールらしく発泡スチロールの箱に入ってて替えスプールまでついてるときた日にゃ、今時の高性能なメイドインジャパンにはピクリとも物欲チパカシさせられなかった我が輩も、心のフォックストロット型潜水艦が核魚雷装填して発射寸前のキューバ危機ってなもんで、おもわず前屈みになっちゃう感じで危ねえ危ねぇ。
 終了日時まではだいぶ間があるうちから好き者どもが群がって入札してて5千円は超えてたので、最終的には万単位だろうなと冷静になってあきらめて、なんとか全面核戦争は回避できたものの”沼”はどこに口を開けているか分かったもんじゃないと恐ろしくなった。
 そもそも、これまで避けてきたインスプールのリールを勉強しようというか、いじくって遊びまくろうというのが最初の趣旨だったはずで、トゥルーテンパー727以降、実際に使う本命機であるPENNの714Zと予備機714はしっかり予算つけて既に確保したモノの、もう1台2台は安くて遊べるぐらいの気安いのを入手して、どんなモノかなと楽しみたいと思っているので。共産主義思想に基づき製造されたリールについての考察とか、そっちの深い沼にはまって散財する予定も余裕もないはずである。

 ということで、ミッチェルやカーディナルのような名機でもなく、妙に人気があって高騰している(今の状況でもだいぶ落ち着いたぐらい一時値が上がってたらしい)大森ダイヤモンドでもない、弾数多くて値段もそれなりのインスプールを狙ってなんとか千円縛りでいけないものかと奮闘していた。
 候補としてはトゥルーテンパー先生と同じオリムピック製の「エメラルド350」、ダイワの「8300A」「7250HRLA」あたりが、未使用箱入りとか除くと5千円前後が相場で、ボロボロの”部品取り”程度の個体なら運が良ければ千円縛りでも買えそうな気もする。
 こいつらは3機種とも”熊の手”対策でベールを開いたときに引っかける部品にローターから保護する”棚”が張り出していてインスプール初心者向き。かつ、エメラルド350においては、PENNでは引っかける部品を縦にして高さを稼いでいるのを、カーディナルのように折り曲げて高さを稼いでいて、ベールスプリングの負担が減って長持ちしそうな設計である。
 TAKE先生の著書ではオリムピック製インスプールとしては「シャルマン」が紹介されていて、現在の中古市場の弾数の少なさや設計などからみて、ベールスプリングが弱いンじゃないかという推論だったけど、シャルマンより後に作られたエメラルド350においては、そのあたり改善されているように思えた。

 で、そのエメラルド350が2台まとめて”ジャンク”扱いでオークションにかかった。
 1台はハンドル無し、1台はドラグノブが固着していて外せない。見た目も腐食が見られてショボいという立派な”ごみスピ”具合で、これなら1台千円として2千円で入札すればいけるかもと、まずは2千円で入札。とりあえずは最高入札額だったけど、ぶっちゃけこの2台の良いところ取りをしていわゆる”ニコイチ”を作ってしまえば、稼動する1台と上手く傷つけずに外せば替えスプールも手に入ると想定できる。あとはどの程度ギアとか本体とかが傷んでいるかだけど、それは買ってみないと分からない。となると、壊れ具合の不確定要素が値引き要素だとしても替えスプールで相殺で、ボロい稼動品1台ぐらいにはなりそうで、相場観からいって3千円前後が落札価格だなとうすうすは感じていた。
 でも、最初に決めたことだし制限取っ払うと収拾つかなくなって”収集”になっちまうからなという冷静な思考は、終了日にあっさりと高値更新された時点で溜まった欲求不満も爆発して吹っ飛んだ。
 面倒くせぇ、コイツはもう買っちまおう。どうせ同じような懐具合で3千円ぐらいまでしかこの程度で不安要素のある物には突っ込めないのは皆一緒だろう。だったら3000円に上げたときに高値更新できずにあきらめるのを狙って3,100円ってのを誰でも考えるだろうから、もいっちょダメ押しで3,200円ぶち込んで、それ以上は払うような価値のある品じゃないからオークション終了まで放置と決め込んだ。
 オークション終了時刻になって携帯にメールが来て落札の通知。ヤレヤレだぜと最終的な落札価格みたら、3,200円ドンピシャでハンマープライス!薄氷を踏むような勝利。
 だいたいネットオークションって自分が参加すると相場よりちょっと高い値段でしか落札できないように感じるけど、考えたら当たり前で”相場”の落札結果の時にもし自分が参加していたら落札するにはもう一段階値段を上げてなきゃ落とせてないっていう話。
 入札者少ない不人気商品ほど、自分が参加するとその分如実に落札価格が上がる。 
 
 なんにせよ、目的の物は入手できた。あとはどこまで修繕して使えるようにできるかである。
 エメラルド350はアメリカではHeddon281」の名で売られていて、右側の銘板の表記が違うだけの同型機である。大きさはトゥルーテンパー727より一回り小さい、ちょうど714Zとかぶるような大きさで、バス釣りはじめ内水面の釣りを想定しているのだろう。渓流にはやや大きいかという感じだけど使えなくもなさそう。シーバスにもちょうど良さそうだけど、この大きさは既に714Zを使ってみる予定があるので、まあ遊びで使うかもだけど、そもそも使う具体的な予定があって入手したものでもない。あえて想定するなら、フローターで野池でプカプカ浮いてザラパピーとかタイニーラッキー13とかスピニングっぽいルアー投げたら、ヘドン繋がりで気分でるかもなっていうぐらいか。

 なにはともあれ、分解清掃なんだけど2個体のうち、ハンドル無しの個体は見た目ボロいけど機関はそれなりに程度良くてローター手で回すと、古さ相応にシャリシャリしてるけど滑らかには回ってる。

 もう一個の方が見た目はマシで銘板も残ってるんだけど、回転は引っかかって重くてまともには回らないし、外れないというドラグノブは固着しているとか無理にはめ込んで堅くハマってるとかいうのではなく、ナニを考えてか接着剤でガッチリ固めてある。思ったより程度が悪いし難モノである。
 見た目マシな方はガワだけ生かして、中身は全部ボロい方から移植する方向で、とりあえずは見た目マシな方のドラグノブが外せないと移植も一部しかできないし替えスプールが手に入らないので、まずはそこからいくのにサイドカバー外して、主軸に填まっている平行巻機構のピンを抜いて主軸ごとスプールをひっこ抜く。
 回転が固いのはグリスが固まっているのなら拭き取ってグリス再度塗布で解決なんだけど、ローター軸のギアに傷いってるし、固着したドラグノブをスプール本体にはめたまま無理矢理捻って外そうとして曲がったのか平行巻機構のピンも曲がってしまっている。
 前の持ち主か、それ以前の持ち主か、接着剤で固めた輩もアレだけど、ちょっと乱暴が過ぎるんじゃないですかい?とムカついた。

 こういう接着剤を剥がすのの定石は剥離剤とか溶媒使って溶かして剥がしてやるんだろうけど、ドラグノブ自体が樹脂製なのでちょっと一か八かになるので奥の手にとっておき、まずは暖めて緩める方針で行く。
 小鍋に湯を沸かして、主軸付きの状態でスプールをドラグノブごと小鍋に放り込んで5分ほど茹でる。あまり茹ですぎると当然ドラグノブも溶けて変形のおそれがあるので湯加減注意。
 茹であがったモノが下の写真でございます。
 茹でたら接着剤柔らかくなってメリメリと剥がれてくれた。
 残念なことに、ドラグノブは壊れた後に接着剤で固められていたようで、無事救出とはいかなかった。
 でも土台は残ってるし、スプール本体とドラグパッドその他はなんとか救出。これでスペアスプールは確保できたし、見た目ボロい方の個体は機関は生きてるのでとりあえず、1台稼動する個体に加えてスペアスプールという最低限のアガリは確保できた。あとはどれだけ稼動する個体を良い状態に持って行けるか。

 2台とも分解して、グリス拭き取って新しいの入れて見た目マシな個体に動いているボロい方の個体のギアと主軸を移植したら、これがイマイチ重くてシャンとしない。主軸だけ交換とか色々試したところ、どうも見た目マシな方の本体とローターの間でゆがみが生じてて、動かなくなるほどではないけど滑らかには回ってくれないようだ。ただ、グリス塗り替えて主軸のムキを裏返したら元の主軸でも回らないって程ではなくなった。主軸も歪んでる。
 結局色々試して、中身はローター軸のギアだけ交換して他は元のままが、見た目マシな個体もちょっと重いけど使えなくない程度になって、ボロい個体は快調に回るというところに落ち着いたので、見た目ボロい個体を実釣用にして見た目マシな個体は予備機兼部品取りという整理でいこうということで、とりあえず最低限の目標は達成できた。
 2台ともベールスプリングは健在で、ベールスプリングだけ交換済みってことはあまり考えにくいので、ボロくなるまで使っても大丈夫なぐらいにベールスプリングの耐久性は良くなってたんじゃなかろうかと思う。けど、2台じゃなんともいえんか。
 これで良し、と思わなくもないんだけど、なんか当たり前すぎて面白くない。予定調和などぶち壊してしまえ。

 ということで、ブッ壊れたドラグノブの再建とハンドルのでっち上げに挑戦してみたい。せっかくだから3,200円分みっちり楽しまなきゃね。
 
 まずは割と簡単そうなドラグノブの方から。
 ドラグノブの中の調整幅を確保するためのバネが残ってるので、バネを剥き出しのまま残ったドラグノブの土台で締め付けるというのをベースに、バネを押さえつつ収まるように円筒形の素材で覆いを作ってやるというのでいこうかと思ったら、ドラグノブの土台に残っている雌ネジが主軸の頭と太さがあってなくてスカスカで締まらない。どういう状況なのか良く分からないけど別の時代のドラグノブを無理矢理接着してたとか、雌ネジがバカになってるのか何にせよ使えない。
 ドラグ締めるだけなら、写真2枚目のように寸法の合うナットで締めるだけというのも手としてはある。あるけどちょっといくら何でも見た目がアレである。
 ということで、バネは手抜きで間に剥き出しで挟む方向で、主軸が真ん中通るようにフェルトを噛ませて、前後にステンレスのワッシャー、その上にナットを持ってきて、ナットを残ってたドラグノブの土台に、高さが締めたときにちょうどスプールとの隙間が小さくなるように調整して、隙間に割り箸削ったのを突っ込んでエポキシで接着固定。一応金属はエポキシ剥がれやすいからそのうち剥がれるだろうけど、ドラグを押さえる面が凸凹してると安定しないだろうから、ステンレスワッシャーを乗せて平らにして固めた。
 まあ、現場でスペアスプール交換するときにワッシャーとか部品落とさないように気をつけなきゃだけど、ドラグの調整自体は問題なくできるので及第点かと。
 ついでにドラグもトゥルーテンパー先生と同じ構成の3階建てだったので同じように、ドラグパッド3枚それぞれにテフロン仕上げガラス繊維製の自作パッドを敷いておいたのでドラグ性能も問題なし。
 あと、回収したスプールにはドラグ作動時の音出しのクリックがなくて、追加しようとしたらこれまたネジが折れてネジ穴潰れているという有様だったので、ドリルで穴をちょと掘って、ペットボトルの蓋とポリカーボネイトの板を使って”音出し”も再建しておいた。音が出ないと意外とドラグ出てるのか出ずに道糸巻けてるのか分かりにくいので作ってみた。大丈夫だろうとあんまり丈夫に作らなかったけどどんなモンか試してみたい。

 難しそうなのがハンドルのほうで、ドラグなんてナットで締めときゃ充分ってかんじだけど、ハンドルは小型スピニングでそれほど丈夫じゃなくても良いとはいえ、直接力を掛ける部分なので単に右と左からナットで締め付けて留めました、では緩んで空転しかねない。
 なので、普通のリールは締め込む方向にネジを切って”ねじ込み式”になってたり、6角形や、4角形の軸をハンドル軸のギアに貫通させてたりとガッチリ力が伝わる方式になっている。
 エメラルド350においては、上下を切り欠きした円柱のパーツを被せて固定する形式で、この接続パーツが上手く丈夫に作れないと用をなさない。同時代の同じパーツを使ってるオリムピック製のリールを見つけてきて引っぺがして流用するのが妥当だろうけど、探すのが面倒臭いうえにハンドルのないスピニングがまた1台生じるので堂々巡りになる。
 でもこの切り欠きした円柱の直径といい欠け具合といい、なんかどっかで見たことあるなという既視感があるので、脳内検索掛けて「ABUアンバサダーのハンドル軸に入ってるパーツや!」と思い至り、「こういう風に表面がへこんで壊れます」って見本でF師匠が新品と一緒にくれた、瞬間的な逆転防止機構の一方通行のベアリングに填まるスリーブがちょうどあったので試してみると、あつらえたようにピッタリはまる。
 このパーツを接続部品に、ステンレスの軸にナットで位置決めして余ってる竿のブランクをぶった切って填めて固定してで何とかなりそう。
 回す部分は、とりあえず蔵に転がってたアンバサダーのハンドルでどうかな?と試してみると、軸に留めるところは一工夫必要だけど、ちゃんと機能しそうなれど、なんだろう?どうにもこの時代のスピニングにダブルハンドルは違和感がある。ナット剥き出しとかは手作り感あって許せても、ダブハンはネェだろという気がするので、安い小型スピニングのハンドルをネットオークションで探してきてシングルハンドルにすることにした。
 ちょっと良さげなのを見つけるのに時間がかかってしまって、その間既存のハンドルを見た目ボロい方につけて実釣に持ち出してフッコ釣れたりしたけど、黒いハンドル送料込みで700円で確保。
 買った中古ハンドルを軸から外して、新しい軸を多少緩んでも止まるように先っちょ曲げて突っ込んで、隙間を固い樹脂とガイド用のせき糸で埋めつつエポキシでガッチリ固めて、切り欠き円筒型の接続金具との間はギチッと填まるようにカーボンブランク切って削って軸にもせき糸巻いて太さ埋めてエポキシで固定した上に、上からもせき糸巻き巻きしてエポキシ塗装仕上げ。
 ナニが苦労したかって、古い軸からハンドル回す部分を外すのが面倒臭かった。ハメ殺ししてあるピンを釘でもあてがってトンカチでどやしたら抜けるだろうと安易に考えてたけど、固くてかつ釘が滑って上手く打撃できずに、ドリルで時間掛けて固いステンレスのピンの頭削ってある程度釘が収まる穴を穿ってから短いボルトを立てて気合いで叩き込んでやっと外れた。ステンレスって固い固い。アルミ系とかならハンドドリルでも穴あけるのそれ程難しくないだろうけど、ステンレスは全然削れなくってPCの前で格闘技見ながら5分のラウンド終わる毎に穴の深さ確認してたけど、ボルト立つぐらい削れるのに2時間ぐらいかかった。
 隙間を埋めるための固い樹脂は、アクリル板でも買ってきて切るかと思ったけど、そういえばCDとかDVDってポリカーボネイト製だよなと思って、要らないDVDをアクリルカッターで切り出して使った。DVDは2層構造でギラギラの面の方がポリカーボネイトっぽい、印字側は単なるプラっぽくてすぐ割れた。


 外側のエポキシも固化して無事完成。ハンドル折りたたみ式にはできなかったので、袋に入れて持っていって差し込んで留める方式にして、右側には摘まんで回せる金具をつけて、隙間への埃やら海水やらの進入防止にスピンフィッシャーみたいに油染みこませたフェルトを入れて、銘板のところにはまたカモメのシールを貼っておいた。
 摘まむタイプのハンドルノブで軽く巻けて、見た目も、派手な本体の個性を邪魔しない感じに落ち着いててなかなか良いんじゃないでしょうか。と、自画自賛。
 まあ、苦労して修繕したリールには当然思い入れが生まれるよねってことで。

 これで、1台と替えスプールが手に入れば良し、という当初の目標を超えて、まあお金も手間暇も追加してかかったし、1台はちょっと回転重いし、1台は見た目かなりボロいしだけど2台稼動する個体が手元に残って、楽しんだ分も含めて上々の首尾だと思う。
 この2台で”インスプール熱”は結構治まってくれて、といいつつダイワ「7250HRLA」と大森「ダイヤモンドスーパー99」の2台がまとめて2千円で落札できてしまい配送待ちだったりするけど、インスプールのリールはまあ満足したかなという感じになってきた。
 でも、インスプール熱から始まってスピニング全体に興味が広がっていった過程で、他にも実は買ってしまっているし、いろいろと思うところもあったので、年内いっぱいぐらいはスピニングネタで行く予定。自分の中での”スピニングリール論”が再整理できてきたような気がする今日この頃。快方に向かってます。多分。
 さらなる沼の深みに沈んで年開けてもやってたりして。まあそんときゃそん時で。 

2018年12月9日日曜日

ごみ☆すぴ

 さあ始まるザマスよ!という感じで今週も引き続きスピニングリールネタ。

 来年使う予定のPENNは確保したし、部屋にあるPENN以外のスピニングも壊れてたのは直し尽くしてしまった。
 にもかかわらず”インスプール熱”の症状は悪化するばかりで、アタイもうスピニングリールなら何だっていいノってぐらいになってきてスピニングリール症候群的な病状になってきた。病膏肓に入る。
 具体的症状を端的に書くなら、スピニングリールが欲しい。触りたい、分解したい、使ってみたい、という物欲が止まらなくなってしまっている。
 欲しいんなら買やあ良いジャンというところだけど、何というか使う予定もない道具を買うのにはどうにも抵抗がある。PENNだけで40台ぐらい所有しておいてなんだけど、私は蒐集家ではないつもりである。PENNが蔵にゴロゴロ転がってるのも基本的には使用を前提にしていて、同じ型のものを予備にと何台も確保しているから多くなってるだけで、集めること自体を目的にはしていない。
 既に書いているように、自分の腕に不相応な名機を買って悦に入るような行為は恥ずべきだとも思っている。カーディナルにしろミッチェルにしろ買おうと思えば買ってしまえるからなおさら自制が必要だと思っている。名機と呼ばれるようなリールって中古の弾数多いから、多少外見がくたびれてる個体なら意外に安くて、ネットオークションとかで5千円も出せば買えそうな場面も何度かあったけど、その度に何とか思いとどまった。ワシが買ってもベール手で起こして壊してしまい現存する稼動している個体の数を減らすだけで、それはやっちゃいけないという思いが変わることはなかった。まあ、最近インスプールの扱いにも習熟してきたので実際には壞さんだろうけどもだ。

 「足ることを知る」というのが幸せに生きるために重要で、このモノが溢れつつも資源の枯渇が危ぶまれているという時代に、なんでもかんでも欲しがるクレクレタコラで、手に入らないことを不足と感じるのは愚かであり、前時代的な感性だと蔑む。
 蔑むんだけどモノが欲しいという欲求って、およそホモサピの根源的な欲求で、なかなか人はそこから逃げられないというのを身をもって知る今日この頃である。
 ああっもっともっとスピニングリールが欲しいっ!!ともだえ苦しみながら一つの答えに達した。

 「逆に考えるんだ」

 今使えるリールをわざわざ壊してゴミにするのに心理的抵抗があるなら、逆に稼動していない壊れたようなリールを入手して直して堪能すれば良いじゃないか。
 直して気に入ったら使うも良し、中古市場に還元するも良し、モノを大事に使うもったいない精神にも合致してて、これなら心理的抵抗感がほとんどない。
 ということで狙うは数百円で入手できるような「ごみスピ(©きゃさ連)」である。
 そう、中古釣具屋のワゴンのガラクタコーナーやネットオークションにジャンク扱いで”売れたらめっけもの”と出品されているような中から”捨てたらゴミ、直せば名機?”をエグリだす。コレしかないだろう。
 何のことはない、今回の熱病発症の感染源となったトゥルーテンパー先生の事例に倣えば良いだけのことであった。

 という方針でここ数週間、朝起きたらまずヤ○オクのスピニングリールの新着を確認し、外出時にはマメに中古釣具屋をチェックし、入手したら手入れして修理して磨いてという”沼”にずぶずぶ沈みつつある現状と活動の成果を報告したい。

 ごみスピ達よ、お前達に生命を吹き込んでやる!! お前達に魂があるのなら…応えろ!!

 てな感じで、まずトップバッターは海水かぶって納屋にでも放置されていたのか、白く粉吹いて見た目サビサビのボロっちいリール。
 落札価格は490円とまさにごみスピ価格。送料がかかってしまうのはネットオークションの難点だけどまあ800円かそこらだし、送料込みで”数百円縛り”の上限に設定した1000円以下(本当なら未満だろうけど堪忍してつかあさい)に収めるとなると実質200円で、さすがにいかんともしがたい。
 こいつがなんと、大森製作所の「オートベールNo.1」である。これが他のワシから見てもこりゃゴミだなというリールに混じって、即決価格で出てた日にゃワシゃ反射食いで確保したったですばい。
 出品者は総合リサイクルショップで、おそらく倉庫の整理かなんかの依頼を受けてガラクタ扱いで値段付けずに引き取って、ハンドルもろくに回らんようなゴミを買うバカがいたら儲けものと投げ売り価格で出品したんだろうけど、こんなもん大森のリールが潮かぶって放置したぐらいで使用不能な状態になるわきゃなくて、本体あけてみたら案の定グリスが古くなって固まってるだけでギア等に腐食はみられない。さすがにサビサビの外側は場所によっては塗装も浮いてハゲてるしだけど、気になるなら塗装し直せばいいし、陽極酸化処理(いわゆるアルマイトのことで弁当箱のあれね)してある地金露出したままでも使用上は問題ないはずで、オラ見た目なんて気にしねえダ。

 というわけで、分解清掃。
 分解して改めて感じたんだけど、大森製作所のこのオートベールやタックルオート、樹脂製のキャリアーあたりのスピニングはアウトスプールのルアー用小型スピニングリールの一つの完成形といって良いかもしれない。
 生産性に優れて性能もよいハイポイドフェースギア方式、確実な内蹴り式のベール返し、錆びないし小型軽量な樹脂製スリーブの入ったラインローラー、3階建てのドラグ(こいつはフェルト製ドラグパッド)、単純で確実性の高い逆転防止機構(こいつはローター軸のギア直上のラチェットに歯をかける方式)、ハンドル軸とローター軸に各一個のベアリング。手入れもなしに放置しても塗装が多少やられる程度の耐久性のある素材。これ以上の性能がどうして必要というのだろうか。平行巻き機構も小型リールなら単純クランク方式で充分だろう。
 もちろん正解は一つじゃないだろうし、いろんなリールがあった方が楽しいと思うけど、機構が大きく重くなって確実性にも劣る一方通行のベアリングを使用した瞬間的な逆転防止機構を「遊びがなくてガチャガチャいわない」程度の利点でなんで採用する必要があるのか、遊びの大きさが気になるならラチェット方式とかでも歯の数増やせば十分遊びは小さくできるのに。ベアリングにしたって2個も入ってりゃ滑らかに回るっての。
 っていうのが、清掃終わって快調に回ってくれるこのリールを触ってみれば実感できる。きわめて満足。これは手放さずにいつか使おう。

 二番手は「SLS2」っていっても、さすがにこのブログの読者諸氏でも知らんやろ。心配いらない。ワシも知らんかった。



 ではなぜ私が、知りもしないぶっこみ投げ釣りに使いそうなサイズの、塩でラインローラー周りが完全に錆びまくっているこのリールを買ったのか。
 答えはこのリールがD・A・M社製だからである。あとぶっちゃけ開始価格も安かったというのも大きい。入札ワシだけで480円でハンマープライス!
 独逸のD・A・M社といえば、古いバスマンには両軸のダムクイックの印象があると思うけど、実はアウトスプールのスピニングを最初に販売しだしたのはD・A・M社説もあるぐらいスピニングも伝統的に得意なメーカーで、当ブログでも、現在進行形で生産されているウォームギア搭載機「ダムクイックレトロ」が話題にのぼったりしていて、いっぺんキッチリいわしたらなあかんけんのぅ、と思っていたのである。

 西独がなんぼのもんじゃい。と正直古い時代の日本製リールみたいな見た目だったこともあり舐めてかかってた。
 ドラグノブを外して蓋のような部品を外してもドラグパッドが見えてこず、ひょっとしてドラグノブ=スプールを固定するネジ系のリールかと不安になったけど、スプール外したら、スプールの下からロータの上に大きな土星の輪っか状のドラグパッドを樹脂製の台座に乗せたドラグが出現してなかなかやるなと感心して、次に本体の蓋を外して目を疑った。
 何じゃこのギアは?ローター軸のギアが単なる縦溝やンケ!
 一番単純なフェースギアのローター軸ギアみたいな感じだけど、このリールはハンドル左右に付け替え可能で、ということはローター軸とハンドル軸は直交せずズレてオフセットしているので、フェースギアではない。かといって斜めの傘状のベベルギア系でもなく、平面と平面で接しつつ、ハンドル軸のギアが斜めに切ってあるという見たことない形式。リールには使われてないだけで機械の世界では普通に名前のある方式なのだろうか。名前を予想するならオフセットフェースギアとかか?ちなみにローター軸のギアがローター側にくっついてくるのも独特だ。ドイツのリールは世界一ィィーッ!!ではないにしても、とっても個性的。

 でもって分解清掃。
 本体やらは何の問題もなく、使うとしたら海での投げ釣りっぽいのでグリスシーリングして、ドラグも乾式だったのをドラググリス塗ったらなかなか良い効き具合になって問題ないんだけど、やっぱりラインローラー周りが難モノ。
 そもそも使ってるときからラインローラー固着したまま使ってたみたいで、ラインローラー削れて糸溝ができてる。
 仕方ないので割り箸にはめてハンドドリルで回してサンドペーパー掛けてメッキごと錆を削り落として糸溝もならしてしまおうとしたけど、さすがに地金の真鍮は堅くてそこまで削れンのでほどほどにしておいて、ティッシュ詰め物にして瞬間接着剤でラインローラー全体コーティングして滑らかに磨いておいた。ベールアームの錆も金属ブラシ回転させて落とせる範囲で落としてグリス塗ったくっておいた。金属の加工技術を持たない素人ではこのぐらいが限界だろう。

 西ドイツ製リールなら、とうぜんラインはアンデでしょということでアンデ20LBを巻いて、極東の地での邂逅気分を味わっていたのだけど、実はこのリール調べてみると日本製。シマノが作ってた。
 シマノがD・A・M社と技術提携して製作とからしいけど、まあ相手先ブランド名製造(OEM)やろな。シマノのOEMといえばベイトリールのルー社スピードスプールがシマノの出世作でもあり有名だけど、こんなんも作ってましたとさ。
 当時のドイツの設計なのかまでは分からなかったけど、今時のリールとは全然違ってるのは確かで、分解してて面白くってそれだけで元は取れた感じだけど、使うかっていうとあんま出番ないような気がする。かといって売りに出しても480円でも売れる気がしてこない。だれかもらってくれんだろうか?実物見てみたい欲しいという奇特な方はご連絡を。

 3番手は、某中古釣具屋のワゴンから540円で確保。
 いかにもな80年代風味満点の、リアドラグの樹脂製スピニング。
 ダイワ社「カーボスピンGS700ーRD」。
 なんでまたこんな今現時点で中途半端に古くて、ちょうど一番ダサめのリールを買ったのか?なぜならば、高校生から大学生の時分にワシこのリール使ってたんですワ。
 それ以前に使ってた、度々登場している同じダイワ製の「スポーツラインST-600X」が故障して、次のを探してたときにケン一から、新しいの買ったからかなんかで余らせてるから竿とセットで買わんか?と持ちかけられて、樹脂製のリールって軽薄でイマイチ好きになれないなと思ってたけど、ケン一の営業話術に押し切られて結局買った。
 このリールの欠点をあげるのは簡単である。まずリアドラグはリールが大きくなるしドラグの精度も落ちる。このころのダイワ方式の逆転防止機構は純正部品でもやっぱりラチェットの歯を掛けそこなってガガッとなったりもする。ラインローラーがセラミックなのは良いとしてスリーブ噛ませてないのは軸が摩耗しないか心配になる。ベールの反転も重くてまあワシャ手で返すからええねンゆうてもハンドル回して返そうとすると結構な確率でベールワイヤー真上で止まってしまってフィギュアスケートみたいにクルクル回ってるのを見ると、さすがにどうにかならんかったのかと思う。ギアや平行巻とかの機構もいたって普通で「カーボン製」と「リアドラグ」という目を引く要素で飾り立てただけの凡庸なリールと言っても過言じゃない。
 でも、使ってみるとこれが何の問題もなく調子よく使えたのである。スプールまで樹脂製で軽いのは使ってて確かに”軽やか”な使い心地で、ドラグも当時はバス釣りに使ってたけどしっかり締まってくれて、竿はカーボンのリボンが一番上に交差して巻いてある時代の「ファントム」という、それまで使ってたダルいグラスのジェットスピンに比べればシャッキリとこれまた軽快な調子でライトキャロライナリグのワームのアワセもビシッと決まってくれた。
 今でも樹脂製のリールが割と好きなのとか、ダイワのカーボンのリボンが交差する仕上げのブランクスの竿とかが好きなのとか、この時のリールと竿に刷り込まれたンだと思う。
 この頃の日本の釣り具会社は、既に高級機種でなくても実用充分なモノは造れるようになっていて、普通のリールで充分なところを何か特徴付けなければ売れないので、色々試行錯誤して売れるリールを造ってた時代で、リールの基本機能はそんなに悪くなかったんだと思う。ぶっちゃけ日本の淡水で使う分には充分だと思う。もうちょっと耐久性が欲しいとかは値段考えれば贅沢ってモンだろう。そのへんのダイワの安い価格帯の製品の潔さてらいのなさは実用性の高さもあって高く評価したい。
 カーボスピンも沢山の魚を連れてきてくれた良いリールである。文句があるヤツぁコイツより良い魚釣ってからぬかしやがれってんだチクショウめ。結局リールの良し悪しなんて使って魚が釣れるかどうかで判断するよりないという一面もあると思う。
 例によって、ベールスプリングが壊れるまで使ったんだけど、捨ててないハズなんだけど蔵から発掘できずにいるところにポンッと出現したのでこれまた反射食い。

 清掃する必要もないようなキレイめの個体で、回転も滑らかで軽いし、ドラグもやっぱりギチギチに締めなければ充分に使える感じ。どんな感じのドラグなんだろうと見てみると2階建てで、大森マイコンとよく似てて特許技術の関係で問題なかったのか?という感じだけど、まあその辺は今よりはおおらかだったんだろう。
 ライン巻いてみたらやっぱり若干後ろ巻きで、このリールの場合リアドラグなのでスプール裏の座面には主軸を固定する10字が切ってあってワッシャーとか填まってないので、スプール裏のワッシャーを薄いのに交換してスプールを下げるのの他の方法で上下調整できないかなと分解していじりつつあれこれ考えていたら、このリールの場合ローターを乗せている座面にワッシャーを噛ませればローターを上げることにより後ろ巻きが解消できそうだったので試してみたら上手くいった。上下の端が薄くなって緩やかなフタコブラクダの背中状にこんもり盛り上がるのが80年代風(嘘、単純なクランク方式で往復幅がスプール幅に対して少なめならこうなる)。ローターに負荷が掛かるときに傾くとまずいだろうから、とりあえず余ってたテフロンのワッシャーで感触を見ておいて、いけそうなら堅い金属のワッシャーを買ってきてはめ直そうと思ったけど、ライン巻いてるときも特に問題なさそうだったのでこのままでも大丈夫かもしれない。ちなみに回転しながらズレる場所じゃないので滑らかさとかその逆の止まりやすさとかは考慮しなくて良いはず。
 今の主流の軽金属製でフロントドラグのスピニングリールだって何10年も経てば古くさくなるんだろうし、逆にいま古くさい樹脂製リアドラグのリールが懐かしがられて格好良くなる時代も来るような気が、マイコンやらこのリールやらを触ってみてしてきたところである。
 またリアドラグブームが来るとしたら、その時の進化したリアドラグを見てみたい気もしたりしなかったり。
 

 という感じで、概ね好調なスピニングリール生活を送っており、物欲は上手く手なずけて節度あるお付き合いができている。
 などと無邪気に思っていた時代もあった(感慨)。
 書いている時点でこの3台はすでに数週間前の話になっていて、このころはまだ”スピニングリールの沼”の浅いところでチャプチャプと遊んでいたのだけど、ハッキリいって私は人間の物欲というモノを舐めていた、沼の深さを完全に見誤っていた、と思い知らされることになるのである。

 そのあたりはまた次回。今宵はここまでに致しとうござりまする。