2017年7月28日金曜日

アリとコオロギ-侵略的外来アリ オマケ2-


 日本じゃおもしろおかしく歌い暮らして冬になってアリに助けを求めたのはキリギリスということになってるけど、欧州のオリジナルのお話では、セミが歌って遊び暮らす役だとか。
 そのお話について、ファーブル先生が昆虫記のセミ話の冒頭でボロカスにけなしていて、曰く、セミにはセミの一生があり夏の間にちゃんと卵生んで死ぬので冬に物乞いする必要などないとか、アリの野郎はセミがせっかく樹液を吸うためにあけた穴を無理矢理奪いやがるし、まだ命が残っている地面に落ちたセミをさっさと解体しはじめやがるし、ろくなことしやがらんとご立腹。まあ、おっしゃるとおり。
 ファーブル先生はハチでは単独で狩りをするジガバチ・ベッコウバチの仲間やハナバチの仲間を調べてたけど、大きな社会を作るタイプのハチはあまり趣味じゃなかったのか、さらに複雑な社会性を持つアリも昆虫記では脇役扱いであまりでてこなかった気がする。
 社会性昆虫の複雑な生態の謎とか、今時だからDNA鑑定的な分子生物学的手法とかが使えるので明らかにすることができるけど、ファーブル先生の時代にはそういうのがなかったので、昆虫らしくない「利他的」な行動とか意味不明で興味をそそられなかったのかも?でも、複雑怪奇な謎でも興味があればしつこくつっこんでいった人なので、単に好みじゃなかったということなのかもしれない。
 アリとキリギリスの寓話でイメージするような、勤勉だけが取り柄でコツコツ貯め込みやがって、芸術に理解もなく、困っている他者を理屈こいて見捨てるような冷酷な輩には「おまえなにが楽しくて生きてるんや?」と反感を覚え、キリギリスのような一芸に秀で短い命を燃やし尽くす生き方に共感してしまうのはファーブル先生含め天の邪鬼というものか。でもこんな寓話で「真面目にコツコツ働こう」なんて思ってしまう人間は、まず間違いなく体制側に搾取されると思うので気をつけましょう。
 でもそういう悲しい働きアリ的イメージと違って実際にには、働きアリもあんまり働いてない奴がいるとか、子孫を残すために、女王と雄アリの駆け引きは当然、女王とその娘である働きアリとの間にも実に興味深い駆け引きがあったりして、アリも結構コツコツやってるだけじゃないというのが最近の社会性昆虫の研究から明らかになってきている。実に面白い。
 タイトルがセミでもキリギリスでもなく、コオロギとなっているのは、古くは日本ではコオロギをキリギリスといい、とかはあんまり関係なくて、オマケで書くよ、と予告していた「好蟻性生物」に蟻の巣に住むコオロギがいるので、今回そのあたりの話だよということである。
 
 アリが外来種として入ってきたときにやばい理由として、関係する生物種も多くかつ個体数自体も多くて生態系の中で果たす役割が大きいから、それが外来アリによって在来アリが駆逐されるようなことになれば影響が大きいということが想定されると思う。
 よく「移入種による生態系の破壊」と表現されることがあるけど、多くの場合実際には外来種が在来種に置き変わったくらいでは、水や有機物の流れや気象など環境といった大きな「系」は壊れたりしない。実際には在来種を中心としていた生物群集が混乱して、在来種を餌に外来種が優先したり、いなくなった在来種を天敵としていた種が増えたりということはあっても、川は流れるしなにかしら花も咲く。私は場合によっては、一部外来種に置き変わってもよしとすべきことも実際あるのではないかと思っている。世界中から物を持ってきて便利な暮らしをしておきながら、そのことに起因するリスクを一切負わないとかあり得ないし、外来種の利用なんてのも稲作からしてそうであり一律に否定するべきでもないと思っている。
 ところが、外来種の中には本当に系までぶち壊すレベルの影響を与える生物がいて、さすがにそれは入れちゃまずいだろうと感じる。
 たとえば小さな島に移入されたヤギなんていうのは、島の植生根こそぎかじってしまって、草木も生えない雨が降ったら土壌が流れ出してしまうような環境に島の生態系を壊してしまうという例が知られている。全自動の草刈り機扱いで放流したソウギョが池の水草壊滅させたなんてのも割と聞く。

 アリの生態系での役割は、およそ土とかがある地面なら何らかの種類が歩いているぐらいで、個体数の多さから量的にも重要だと思われるのとともに、その役割の多様さ、関係する生物種の多さからいっても重要だと思われ、人的経済的被害を抜きにしても入れちゃまずい部類の生物であろう。特に植物との関係は場合によっては、植生を変えたりといった生態系の大きな混乱を伴う可能性があると思う。
 植物の種にはアリによって運ばれるものも多いし、アリは植物を食べる害虫を時に捕食し、逆にアリマキの場合のように保護したりもする。
 
 自然界に量が多いアリを餌として利用している生物も多く、アリクイ、アリスイ、アリジゴク(ウスバカゲロウの幼虫)なんていうアリ食らいのエキスパートもいる。アリスイはキツツキに近い鳥で、そういえばベランダから観察してたときにアオゲラもアリを拾っているような行動をしていた。トカゲやカエル、クモや他の肉食昆虫など小型の昆虫を餌とする生物ならアリも食べるだろうし、フライフィッシングでアントパターンなんてのがあるぐらいで、水面に落ちれば魚も餌とする。

 そんなアリたちと特に関係が深く、アリの巣に潜り込んで生活していたりする生物を「好蟻性生物」というそうで、図書館でのお勉強でも、アリヅカコオオロギとシジミチョウの仲間については詳しく解説されていて興味深く読んだ。アリは同じ巣の仲間どうしを体表の炭化水素で識別している。出会ったアリさんとアリさんがゴッツンコして触覚でコショコショしているのはその臭いを確かめあっているのだろう。
 なので、基本的には同じ種であっても違う巣のアリは巣に入らせないし、どこの馬の骨ともわからないコオロギやらチョウやらはアリの巣に入れない。
 でも、体表の炭化水素をアリと接触して自分に移して擬態してアリヅカコオロギなどはアリの巣に侵入する。他にもアリの巣に潜り込むのはある種のハネカクシ、アリヅカムシ、アリスアブ、アリシミなど結構いるそうで、アリの巣が、入ってしまえば外敵から守られて餌も豊富なことなど利用価値の高いことがうかがえる。
 アリヅカコオロギは、日本には実は何種類もいて、最近の研究で、1種類のアリに特化したスペシャリストとある程度潜り込む巣の種が幅広い何でも屋とその間のいろんな段階のがいるようで、同じようにみえるアリヅカコオロギなんていう地味な虫にも戦略の多様性が見て取れることが面白い。
 何でも屋は巣に潜り込むアリの種に幅があり、アリは近くにくると何でも屋を威嚇したりするので何でも屋はさっと逃げて難を逃れる。餌は巣の中で貯蔵してあったり捨てられた物を拾って食っている。
 スペシャリストはそのアリに警戒されずに口移しで餌までもらうぐらいの騙しっぷりで巣に潜入する。
 スペシャリストのアリヅカコオロギもなかなかの詐欺師っぷりだけど、この手の昆虫で究極なのはやっぱりシジミチョウの仲間だろうか。

 アリとの関係が深いという意味では、アリマキの仲間も深いけど、アリの社会に潜り込んで利益をむさぼる詐欺師的な行いということではある種のシジミチョウが一番だろう。
 シジミチョウの幼虫って、アリの巣の中で育つ種でなくてもアリに蜜を与えて護衛させたりするものが多い。いずれにせよアリと暮らすためなのか、シジミチョウの幼虫はふつうの芋虫とちょっと違う変な見た目をしている。プランターとかにカタバミという抜いても抜いても生えてくる日陰のクローバーのような雑草が生えてくるときがあるんだけど、抜いていると楕円の饅頭をつぶしたような緑のスライムっぽい生き物がひっついていることがある。これがヤマトシジミの幼虫らしく、頭も足も体の下面にあってパッと目見えず厚めの背中に守られている様はちょっとチョウの幼虫には見えずウミウシとかを思い起こさせる不思議ちゃんな生き物。
 おそらくそういう見た目になったのは、アリと暮らすうえで攻撃された場合の防御なのかもと思うが、その背中にはアリをたぶらかすための蜜線を備え、キューポラ器官なんていう溶鉄炉みたいな名前のアリを騙すための化学物質を分泌する器官とかも備えているのを知ると、そこまでやってアリに攻撃なんかされるのか?と疑問に思えてくる。目の悪いアリの触覚を騙すために触られるとアリと違う部分を隠すとかかも?
 解説を担当した研究者はシジミ類の幼虫を「最新鋭の化学兵器を備えた化学戦車」に例えていたぐらいである。
 解説では、ゴマシジミの仲間について詳しく説明されていたが、ゴマシジミ類がアリの巣の中で育つ場合にも大きく分けて2パターンあって、巣の中で働きアリに餌をもらって育つのと、恐ろしいことに巣の中でアリの幼虫やらをムシャムシャやってしまうというのがあるらしい。
 シジミチョウとアリの関係においては、シジミチョウの幼虫が蜜をアリに与えて、アリは外敵から守り餌を与えるというお互いに利益のある共生だと思っていたけど、ゴマシジミあたりになると、たちの悪い「巣」全体に対する寄生虫という感じである。
 しかも、直接幼虫を食うタイプより、巣の中で餌をねだるカッコウのようなタイプの方がアリ側の被害は大きいらしく、一つの巣で育つ成虫のチョウの数が多いそうだ。その分のしわ寄せでアリの幼虫たちが育つ数が減るという。
 巣の中では、化学物質で巣のアリの臭いを真似して偽装、かつ女王アリが餌を催促するときの音まで真似して、給餌を促す。さらにはアリに与える蜜にはアリが夢中になるような成分が入っているというような念の入れよう。人の家に乗り込んで、家族になりすますとともに悪いオクスリでいうことを聞かせて奴隷のように奉仕させる。シジミ・・・恐ろしい子!

 とまあ、アリとその社会には、いろんな生き物が関係していて、侵略的外来アリにより在来のアリが駆逐されると、それらの「関係者」が困っちまう可能性がでてくる。
 その場合、既に海外で報告があるアリマキ類をヒアリが保護することによる農業被害なんていう直接的な物から、駆逐された在来アリとそのアリに特化して関係を結んでいた種がいなくなることによる遺伝的資源の多様性喪失ということも起こってくるだろう。
 アリの巣に寄生している生き物の1種や2種消えたぐらいでなにも困らないだろうというのは、ある程度そのとおりだけど、今後利用できるかもしれない遺伝的資源の永遠の喪失というのは、避けられるなら避けておいた方がよいのは当然だろう。
 アリの巣じゃなく恐縮だけど、ハチの巣に寄生するハチノスツヅリガの仲間が「ポリ袋を食べる」という衝撃の報告が最近あったばかりである。プラスチック類ってゴミとして環境中にあふれまくっているけど、なかなか分解されなくて困りものである。環境中の残存量が予想より少ないので海の底のバクテリアとかが食ってるんじゃないかという推定は耳にしていたけど、まさか釣り餌としてお馴染みの「バイオちゃん」の類にそういう能力があったとは驚きである。まあプラスチックゴミでバイオちゃんたくさん養殖してゴミ問題解決というわけにはいかないようだけど、プラスチック類を効率的に分解している消化酵素とかが見つかれば、ゴミ処理に応用していけるのかもしれない。
 大腸菌に遺伝子組み替えでプラスチック消化酵素を生産させてたら、研究室からその大腸菌が流出。町をいく女性の化繊の服とかが分解されて「まいっちんぐ」とかちょっと落ちとしては見てみたい。
 そんなまいっちんぐな未来に役立つような可能性を秘めた生き物がアリの巣の中にもいるかもしれないのである。
 まあ、そういう損得勘定抜きにしても、シジミチョウとか足下チョロチョロ飛んでくれなくなったら寂しいじゃん。

 失われてしまうことの心配の逆に、侵略的外来アリを駆除したり生息数のコントロールをするための手段となりうる「好蟻性生物」に注目するということもありかなという感じで、実際にアメリカでは通称ゾンビバエと呼ばれるノミバエの一種をヒアリ対策で導入しているとか先日のNHKの番組でもやってた。まあ、捕食者や寄生虫は対象を全滅させると自分も生きていけないので通常は駆逐するまではいかないのだが、数量コントロールには役立つだろうし、人間が積極的に生産して大量に放つなどすれば生物農薬として機能するかもしれない。

 まだ、ヒアリは国内定着していないし、今なら間に合うかもしれないので、防除しっかりよろしくねと思っていたら、専門家たちはこれまでアルゼンチンアリでかなり侵略的外来アリに対抗する方法を磨いてきたようだ。
 防除が進むにつれて狭まっていく等の、働きアリの行動圏の変化に合わせてベイト剤を設置する防除エリアなどを見直して、防除済みのエリアでは在来アリを定着させていく「順応的防除」で、在来アリと人間の薬剤投与との協働により、なんと、数年以内でアルゼンチンアリの地域個体群を根絶。という実績をひっさげて、既に侵入しているアルゼンチンアリを他の地域でも根絶をめざし、ヒアリの防除を進めるゼ。という心強い感じになっている。

 この手の問題って、防除できたら問題が生じないので注目されずに誉められない。防除できなかったら問題が生じて無責任な非難にさらされるという、実に理不尽に難しい仕事である。
 でも、専門家たちはマスコミがアホみたいに騒ぐずっと前から、やるべきことを着々とやってきたようなのである。

 勝負は時の運もあり、下駄を履くまでわからない。っていうか半永久的に防除し続けなければならず、いつになったら下駄を履いて良いのかどうかも定かではない。でも、ヒアリシャットアウトは期待していいのかも知れない。
 もし、そうならずに河原に釣りに行ったときにヒアリに刺されるようになったとしても、それは世界中からモノを買ってきて豊かな暮らしをしている自分たちが自ら呼び寄せた災いであり、おとなしく刺されておこうと思うのである。
 無責任に専門家を批判するような愚かな人間にだけはならないようにしよう。

2017年7月21日金曜日

最強のムシは、俺かお前か。-侵略的外来アリ オマケ1-

 世間のヒアリに関する報道は相変わらず的外れで、だんだん飽きてきたのか、ネット上でも「セアカゴケグモの時と同じで、定着してもどうせ実害無いんじゃないの?」とか「在来アリがヒアリの定着を防ぐというデータもあるし、日本でも在来アリに期待」とか、危機感のないタカを食った意見が目立つようになってきた。
 環境省が「海外での死亡例が確認できなかった」ということで、そのアタリの表現を一段ユルく下方修正したりして、明らかに「ヒアリ報道あきたし、どうせ騒ぐほど大変でもないだろう」という受け止められ方に変化してきており、ヒアリ対策の重要性を伝える報道が狼少年状態になっている気がする。

 セアカゴケグモと侵略的外来アリでは人間と接触する機会の多さがまるで違うって!

 セアカゴケグモは日本で言えばオオヒメグモとかの公園のトイレの端とか使ってない倉庫の下の方の隅に巣を作っている地味な蜘蛛のような生態をもつ仲間である。セアカゴケグモも見つかるのもやはりそういった場所や側溝外したU字溝の中とか同様に暗い乾いた空間の隅の下の方である。
 ハッキリ言って、オオヒメグモとかヒメグモの仲間に刺されたことある人間が日本にどれだけいるか?ほとんどいないはずである。だから、そもそもセアカゴゲグモについては、移入先で生態が変わって積極的に人間を噛みまくるような変化が生じない限り人的被害が生じることはあまり多くないと予想できたし、実際被害は生じていない。同じゴケグモの仲間には悪名高いブラックウィドースパイダー(黒後家蜘蛛)がいるぐらいで毒性自体は強いにもかかわらずだ。
 一方、在来のアリに攻撃されて噛まれた人間なら日本にもいくらでもいるだろう。ヒアリやアルゼンチンアリによる刺されたり噛まれたりの被害は当然想定されるべきものである。それもヒアリは庭やら公園やら田畑やらの開けた人間が利用するような場所に営巣し、アルゼンチンアリに至っては人間の家に入ってきて屋内でも営巣する。人間活動と重なる営巣地の傾向から接触機会は在来アリより大きくなると警戒した方が良い。

 「在来アリがヒアリの定着を防ぐ」というのはある程度期待できるだろう。

 これまで、定着してこなかったのも人知れず在来アリが定着を防いできたのかも知れない。
 ただ、多くの人がその期待の根拠としているのは、兵庫県立人と自然の博物館の解説にもあるアメリカでの実験結果で、
 「最新のフロリダでの野外実験の結果は示唆に富んでいます(Tschinkel & King 2017)。Tschinkelらは、「撹拌区」、「在来アリ除去区」、「無処理区」を設置して、交尾した有翅メスの新規加入からの生存率を比較。有翅メスが定着して120日後の生存率は0.5%(5/980)、初期コロニーを形成してから30日後の生存率は1.3%(5/400)。最後まで生存していた5サンプルは、すべて「在来アリ除去区」でした。また、初期コロニーを移植した操作実験でも、在来アリを除去した区ではヒアリが増え、108個のうち在来アリを除去した区では21の大きな巣が形成され、逆に無処理区では2コロニーだけが生き残りました。」
のうち、特に交尾したヒアリ有翅メスが最後まで生き残ったのが「在来アリ除去区」なのを引用して、逆に「在来アリがいればヒアリは定着できない可能性が高い」と主張しているように見受けられる。

 だーかーらー、侵略的外来アリは結婚飛行後の単独女王じゃなくて家来をひき連れてやってくる複数女王性の「分巣」がやばいんだって!

 だとすると実験結果前半の「交尾した有翅メスの新規加入」ではなく後半の「初期コロニー移植」の結果をこそ見るべきで、「無処理区」でも全滅じゃ無くて2コロニー生き残ってて「在来アリ除去区」ならボコボコと大きなコロニー作るという結果を頭に置いて、危機感持たないと、と思うのである。
 日本のような移入先でまず考えるのは、多女王性のヒアリの女王と働きアリを含んだ「分巣」によるコロニーでの侵入である。
 そういう視点で見るとフロリダでの実験結果は「コロニーでの侵入なら在来アリがいても全滅しない」というデータが示されていることになり。ヤツらの侵略性の高さが示されていることがご理解いただけるだろうか?
  基本的な認識が間違っていると、データがしっかり読めない。人は自分に都合良くデータを読みがちである。割と識者っぽい人まで在来種に過剰な期待をしているようで困ります。

 とはいえ、在来アリがヒアリなど侵略的外来アリの侵入を防ぐ効果はあるていど期待できるので、在来アリを無駄に殺すことの無いように、という識者の意見を踏まえて、毒餌は外来アリが見つかった場所のみにして、トラップによるアリの種類の監視に舵を切ったのは妥当な判断だと思う。在来アリをむやみに殺すなということは浸透しつつある。
 この辺の舵切りは、国立環境研究所の五箇公一氏も入っての決定のようで、信用して良いように思う。五箇さん、見た目はワイルドな感じだけど、書かれる言葉は分かりやすく正直で丁寧で理解し腑に落としやすい。原理主義的な極論に走らず、予防的な慎重さを持ちつつ現実的な対応策を進めてくれるものと期待。

 NHKにもちょっと期待で、明日22日(土)19:00~19:45「地球ドラマチック 増殖中!アリ!大地を支配!毒針の脅威」と過去のヒアリ回を再放送するようだ。NHKの生き物番組は要チェックでしょう。

 
 でもって、予告していた ジャスティン・スティミッド博士が主に北米大陸の昆虫に「刺させて」痛みをレベル1~4に分類しつつ選出したトップ10の主なところの、
 「ちなみにミツバチが5位でレベル2.0。
 ベストというかワースト3は、3位アシナガバチでレベル3.0。
 2位オオベッコウバチのレベル4.0は「電気ショックが駆け巡るようなすざまじい痛み」。
 堂々の1位はサシハリアリのレベル4.0+「純粋な激痛」だそうである。」
あたりについてのオマケ。ゴリゴリ書きます。

 サシハリアリは現地名のパラポネラや二つ名のバレットアント(弾丸蟻)の方が生物好きにはなじみがあるかも。南米のある部族では通過儀礼としてこの蟻をいっぱい入れた袋に手を突っ込んで我慢するというチビりそうな儀式が行われてきたとかで有名。

 オオベッコウバチは二つ名の「タランチュラホーク」がめちゃくちゃ中二で格好いいのだが、二つ名のとおりオオツチグモを狩る狩り蜂でその獲物の中には世界最大の蜘蛛の一種、ルブロンオオツチグモも含まれる、という生態もめちゃくちゃ格好いい蜂。日本のベッコウバチもオニグモとか狩るけど刺されるとめちゃくちゃ痛いという噂で蜂の仲間で世界最大を誇るオオベッコウバチが「電撃的な痛み」というのも納得である。脱線だけど無脊椎動物で二つ名が格好いいのって結構いて、個人的にはベストスリーは今出たタランチュラホークとジェリーフィッシュライダー、デスストーカーかなと、ルブロンオオツチグモのゴライアスバードイーターもなかなかにイイ。興味のある人はウィキッたりしてみてね。

 3位のアシナガバチ、5位のミツバチは経験あるので割と納得。アシナガバチは幼虫を食べるために巣を襲撃したりもしてたので結構刺されたけどズキズキに痛む。心臓の鼓動が響くようなズキズキ感。5位のミツバチは丸っこくてかわいらしい見た目で、クローバーの草むらでお茶して休憩するときとかに花の蜜を集めてたりするのを、ある時手の上に乗せてもちょこちょこと歩くだけで攻撃してこないので、どのくらいで攻撃してくるかと摘んでみたら刺された。刺されたのも痛いけど、ミツバチの針は返しがついていて刺した針が皮膚に刺さったまま残って、抜けた毒袋的な器官がドクドクと脈打って毒を注入し続けてくるのが恐ろしい。引き抜くのも痛い。温和なミツバチを怒らせて死の一撃を使わせてしまったことも、無口でおとなしい村娘に抵抗されないからとちょっかい出してイタズラしたら刃傷沙汰になったような罪悪感。

 アシナガバチのクビレたセクシーなボディーラインは「危なそう」と感じて、ミツバチやらクマバチの丸っこい体には「可愛らしさ」を感じていたんだけど、これって実は重要な視点だったようで、社会生の蜂や蟻が含まれる狩り蜂から進化したグループがハチ目細腰亜目となっているように「腰が細い」、ついでに首も細いというのが、他の昆虫などを狩るのに、毒針と顎を使って攻撃するときの関節の可動域を大きくするための適応、と図書館でのお勉強で学んだ。
 首が細くなって固形物がのどを通らなくなって、肉団子を与えた幼虫から液体状の食料を吐き戻してもらいながらも、アシナガバチやスズメバチは狩りをするためにキュッボンキュッボンなボディーラインを誇っていて、刺すのは最後の手段であまり使わず餌は蜜と花粉なミツバチなどはグループの中ではクビレの目立たない丸っこい体型なのだと思う。意外に人間のカワイイという感情は経験則なのか文化なのかDNAに刻み込まれているのか、意味があるように思うこのごろ。

 スティミッド博士の作ったランキング、アメリカの昆虫中心なのでだろうけど、スズメバチとかがランキング低いのでやや不満。アメリカのホーネットとか呼ばれるたぐいのスズメバチはたいしたことないのか?だからキラービーの侵略とか許してるのか?とか思ってしまう。
 日本のスズメバチ達はエグい気がする。最大の蜂こそオオベッコウバチに譲るけど、最重量とか最凶の蜂なら日本のオオスズメバチなのではないだろうかと個人的に思っている。クワガタ取りに行った森の中で昼間樹液にたかっている働き蜂サイズの2まわりぐらいはデカい女王蜂が、ガサゴソ音しているのでカブトかなと近寄っていった地面から顔を出したときのオシッコちびりそうになった衝撃は忘れがたく記憶に残っている。
 オオスズメバチの他にも、茶色というより赤と黒という邪悪な色をまとったチャイロスズメバチとか、女王が他の種のスズメバチの女王が作っている巣を女王同士の一騎打ちで殺して乗っ取るなんていう生態から、女王からして戦闘用に分厚い外骨格で武装していたりする武闘派なんだけど、こいつがオオスズメバチより刺されると痛い説もあったりして、スティミッド博士には日本のオオスズメバチとチャイロスズメバチも是非試して評価してほしいところ。
 スズメバチ刺されたことないので評価できないのがちょっと残念である。初心者向けっぽいキイロスズメバチぐらいに刺されておけばよかった。スズメバチも世間で思うほど攻撃的じゃなくて割と巣の下から観察してても襲われなかった。

 あと個人的に刺されて痛かった虫はコバンムシ。ちっちゃなコオイムシが穫れたなと思ってふつうに摘んだら即刺しやがって、これが蜂とはまた違う痛さで毒じゃなくて火箸とか突っ込まれたような物理的な直撃の痛さ。同じカメムシ系では陸生のサシガメの仲間もやっぱり痛いそうで、そのあたりも博士にはお勧めしておきたい。
 世間で言われているほど痛くなかったと感じたのは、イラガの幼虫とムカデ。どちらもしばらくヒリヒリした程度。この辺の痛さの感じ方は個人差とか「相性」もありそうで絶対的な評価って案外難しいのかもしれない。
 どれが1番か?単純な毒の強さなら、単位あたりどれだけのネズミを殺せるかで示す「MU(マウスユニット)」に一回に注入される毒量を掛ければある程度示せる。
 でも「毒の強さ」=「刺された痛さ」ではない。痛くもなく麻痺して死んでいく毒もあれば、三日三晩苦しみ抜いた末に死ぬような毒もある。

 
 「最強は何か?」は、どんな分野でも熱く語られがちなネタである。
 最強の動物は何か?虎かライオンか、いやいやアフリカゾウやカバのほうが大きくて強い。大きければ強いならシロナガスクジラだろう、いやシロナガスはシャチに狩られるからシャチだろう。
 そんなもん、シロナガスクジラとアフリカゾウがどこで戦うっていうんだ?陸上ならシロナガスは自重を支えることさえできずに死ぬだろうし、海の中ではアフリカゾウは長時間は戦えまい。波打ち際ででも戦わせるか?どちらも戦いたがらないだろうし決着なんかつくのか?シャチがシロナガスクジラを狩るといったって、群れで狩るので1対1の強さの比較にはならないだろう。ちなみにシャチがクジラを狩るときには、多数でクジラの上にのしかかって息継ぎをできなくさせて溺死させるという戦法をとるらしい。溺死したクジラの口に突っ込んで舌から食い破り、辺り一面文字通りの血の海に染まるとか聞く。

 戦わせる場所やらの条件にもよるし、戦わせる個体がその種の中で強いか弱いかの違いもあって、直接戦わせることができたとしても、必ずしも最強がどの種かなんて決定できないはずである。
 勝負は時の運もあり、下駄を履くまでわからんのである。

 にもかかわらず、人は最強を知りたがる。格闘技の世界でも「最強の格闘技は何か?」は永遠のテーマである。
 総合格闘技の世界では、打撃にあまり付き合わず関節技絞め技で絡め取るグレイシー柔術が一世を風靡したと思ったら、ヒョードルやヴァンダレイのように立った状態で殴りまくる打撃の強い選手が盛り返し、最近の傾向としてはレスリング技術の高い選手が上手く有利なポジションを確保して相手の攻撃を抑えて勝つ、というように生物の進化と同じように、常に追いつ追われつ変化していっている。
 最強の格闘技、最強の格闘家なんてものは決定し得ない。その時々の勝者と敗者のみが存在するだけである。
 それでも人はそれを知りたがり、8月にも総合格闘技団体「UFC」の現2階級王者コナー・マクレガーとボクシング元5階級王者のフロイド・メイウェザーが闘う。
 ボクシングルールでやるならマクレガーに勝ち目なんてないんじゃね?と分かったふりしてややしらけた態度を取りつつも、実は正直たのしみでならない。

 「最強の虫」は何か?

 この問いも、ムシ好きならずとも男の子ならガキの頃には誰しも抱く疑問だろう。図鑑とかにはカブトムシが最強のようなことが書いてある。
 でも、少年はカブト・クワガタを飼い始めると、カブトムシ最強説に疑問を持つようになる。
 夜のうちに何が起こったのかは分からないが、朝になるとカブトムシが胸部と腹部がちょん切られた状態で死んでいる。どうもノコギリクワガタが犯人(犯虫?)のようだ。
 なぜ最強のはずのカブトムシがノコギリクワガタに負けるのか?
 疑問に思って観察していると、確かにカブトムシは木の上や金網など足場がしっかりしている場所ではノコギリクワガタを引っぺがして裏返す。でも日中潜って隠れられるように飼育箱に敷いてあるオガクズの上やグジュグジュのスイカの皮の上では踏ん張れる足場がなく、ノコギリを容易にはひっくり返せず、逆にガッチリとノコギリの湾曲した大顎で挟まれることが結構ある。
 挟んだとしても通常はそのうち離して事なきを得る。
 でも、せまい飼育箱で一緒に飼っていると、そういったケンカが発展して挟み切ってしまうところまでいくこともあるようだ。
 ひっくり返して落とせば勝負がつき、殺しあいまでする必要のないクヌギの木の上では、カブトムシ最強かもしれない。でも、せまい飼育箱の中ではノコギリクワガタに殺されてしまうのである。

 とりまく状況が「ルール」が違えば結果が違う。

 じゃあルールを決めて闘わせよう!というのは当然の成り行きで、田舎の男の子なら誰しも経験しただろう、カブトクワガタをけしかけて1対1で闘わせる遊びから、本格的に金を掛けてやる中国のコオロギ相撲とかまで各種ある。

 その手ので、記憶に残るぐらい面白かったのがテレビの「トリビアの泉」で視聴者からトリビアの種を募集して実験するコーナーで「世界のカブトムシが闘ったら一番強いのはホニャララカブトムシ」という「ホニャララ」部分を決めるために、世界各地のカブトムシを闘わせた回。
 切り株に2匹を乗せて闘わせ、ひっくり返すか切り株から落としたら勝ちというシンプルなルール。
 選手紹介からの煽り映像とかリングアナウンスとか完全に当時人気だった格闘技団体「PRIDE」のパロディーで馬鹿臭い企画に力一杯手間暇かけてて笑ったけど、勝負の行方は素晴らしくドラマチックで興奮した。
 世界の大型カブトムシのほとんどが2本の角で相手を挟みつけて持ち上げて投げるというなかで、日本の「カブトムシ」は長いのは1本の角だけなので挟みつけることはできないけど、その分角を下に突っ込んでひっくり返す闘い方に特化している。なんで日本のカブトムシだけ1本角方式なのか、たぶん自然の妙でアッと驚くような理由はあるんだろうけど誰か知ってる人いるだろか?
 とにかくこの1本角方式が、切り株の上から落としたら勝ちというルールにはマッチしたのか大善戦。大人と子供ほどの体格差がありカブトムシ界最強説もあるインドネシア産コーカサスオオカブトに、小さい体を潜り込まして押し切って勝利。決勝の3本勝負では惜しくも2-1でカブトで世界最大のヘラクレスオオカブトに負けてしまったが、1勝は得意の潜り込んでからの1本角でひっくり返した、という目を疑う勝利にスタジオもテレビの前も大ウケ。
 この時の日本産カブトムシがたまたま闘争心旺盛で大型カブトにも向かっていくような個体だったのかも知れないし、コーカサスオオカブトは噂では喧嘩っ早くて闘争的という話だが割とおとなしい個体だったり、逆に大きいけどおとなしい性格のはずのヘラクレスオオカブトは対ゾウカブト戦では切り株から落とした相手を追撃して挟みつけるぐらいの闘争心を見せていたりもした。
 カブトムシ最強を決めるだけでも、条件、個体の調子、偶然で毎回違う結果になるだろう。

 ましてや、全然闘争方法も違えば体のつくりからして違う蜘蛛や蠍、百足まで含めた「蟲」の最強など決めようがないはずである。
 毒虫を一つの瓶に閉じ込めて最後まで生き残ったヤツの毒を暗殺に使う「蟲毒」なんてのも呪術の世界ではあるようだけど、じゃあ生き残ったのが最強かというと、バトルロイヤル暗闇マッチでたまたま強かっただけで、1対1ならまた違うのかも知れない。

 でも、どいつが最強か知りたい。と思う虫マニアに、実際に一つのゲージに2匹を入れて闘わせた映像をDVDやネット配信で提供している業者がいる。
 片方が戦意喪失した時点で勝負アリとするのだが、カブトやクワガタはともかく毒虫や肉食昆虫の場合、相手が戦意喪失した時点で死んでるか食われてるかしてたりして、映像としてはかなり残酷で陰惨なもので、あまり趣味の良いものではない。
 でも、その陰惨なまでの闘いっぷりは暗い喜びを孕んでいて、見ていて目を離せないぐらいに、おもしろいのも否定できない。剣奴と猛獣を闘わせたような血生臭い見世物の系譜か?

 カブトクワガタの中では、パラオ産とかのオオヒラタクワガタやトリビアでも出てたコーカサスオオカブトが強くて人気。
 人間の格闘技の興行と全く同じだと感じるのが、主催者側が明らかにスター選手として売り出そうとしているのが目に見える選手がいて、そういう中でそれまで見たことも聞いたこともない昆虫が出てきたりして世界の広さを思い知ったりもした。
 「肉食昆虫界のラストエンペラー」のキャッチフレーズはヒョードル選手の「ロシアンラストエンペラー」のパロディー。5センチを超えるような大型種でまるでクワガタのような大顎で相手を噛み切るオオエンマハンミョウは南アフリカから。
 「インドネシアの悪霊」のキャッチフレーズで登場したリオックは、噛ませ犬になったオオカマキリやタランチュラの類いが可哀想になるぐらいの衝撃的な闘いっぷり。とにかくいきなり組み付いて食い始める。紹介当時はなんの仲間か学名もハッキリしない状態で「お化けコオロギ」とかも呼ばれていたけど、コロギスに近いようで「お化けコロギス」と最近は呼ばれているようだ。
 人間の格闘技でも体重差は大きな要素であるように「興行的」にはつまらないかもしれないけど、30センチを越えるような大型のムカデとかはやっぱり強い。
 でも、酢酸を吹き付けるという「化学兵器」で闘うビネガロンが意外な伏兵ぶりを発揮したりして、最強のムシの答えは無いのかも知れないけど、興味深く心引かれてしまうところだ。
 ちなみにビネガロンは和名をサソリモドキとつけられているぐらいで奄美沖縄に何種か棲んでます。ちなみに世界3大奇虫の1つで、残りはキャメルスパイダー(ヒヨケムシ)とウデムシ(カニムシモドキ)。


 話をアリに戻して、「最強のアリはどの種か?」を考えてみよう。
 
 まずルール設定だ。アリの場合1対1でタイマン張る場面は重要では無いので、1対1でもサシハリアリのような殺傷能力に長けた種もいるし、ジバクアリのような化学物質で爆散して敵を倒す猛者までいるのだが、アリの闘いといえば群れと群れ、コロニーとコロニーの団体戦での強さを評価するべきではないかと思う。
 ただ、実際には同じような地域に棲んでいるアリは、それぞれ棲み分けして棲んでいたりして、そういう意味では現存するすべての種が「勝者」というのが正しいのかも知れない。
 ある者はヒアリのように水没したりもする環境にあわせて、コロニーを「分巣」して環境変化にあわせて素早く空いた土地を利用してコロニーを拡大していく戦略をとり。ある者は、植物と共生し丈夫な城で敵から身を守る。またあるものは巣を持たずさすらいながら大群で獲物を狩っていく、中には農耕をして巨大なコロニーの食欲を安定的に満たすのもいる。
 単純に毒が強ければ、攻撃性が強ければ程度で他を駆逐するほど強くなれる訳ではない。

 南米の密林では、大群で動物を襲いながらさすらう「グンタイアリ(グンタイアリ亜科のアリ)」の仲間が生態系の頂点に君臨する最強の捕食者として恐れられている。密林の王者ジャガーも「グンタイアリ」には関わりあいたくないようで出会うとケツをまくるらしい。
 それでも、最強のアリの呼び声高いグンタイアリを団体戦で退けるアリもいるようだ。ハキリアリである。ハキリアリは木や草の葉というどこにでもあって入手しやすいものを集めて、巣の中でキノコを栽培することで、安定して増え、大群を維持することができる。団体戦では強固な巣の防御とグンタイアリにも負けない大群による物量戦でグンタイアリを打ち負かすとか。
 単独女王で巣にガッチリ投資して安定的に群れを維持するという方法が良いときもあれば、季節等で変化する環境にあわせて、多女王性で分巣して素早く分布域を広げていくのがマッチすることもある。自然は多様な環境を持ち、生物は多様な戦略をとる。どれも一長一短ある。
 相互の関係においても、それぞれが得意な戦術を駆使しており、1つの種が他を滅ぼしてしまうようなことにならないように、天敵となる他のアリに対する対抗手段を長い進化の歴史で得ている。

 逆に、移入先ではその種にたいする特別な対抗手段を持たない場合、在来種が駆逐されてしまうようなこともあり、そのことが原産地では水没するような川岸の木の上においやられて細々と生きているアルゼンチンアリを最強の侵略性外来アリとしていたりする。

 アリの闘いが団体戦だとすると、コロニーの巨大さ個体の多さは「強さ」に直結するので、アルゼンチンアリは最強のアリの候補の一つにあげて良いかもしれない。全滅するまで闘うルールで物量戦で押し寄せてくるアルゼンチンアリの超巨大コロニーに勝てるアリなどいないだろう。

 日本で特定外来生物に指定された4種は、いずれも北米から南米の南米中心に原産地を持つアリなので、南米のアリがどうも強そうな気がしてしまうが、同じように生物多様性が豊かで生存競争が厳しいだろうアフリカや東南アジアのアリもまたやばいのがいるのではないか?と世界の侵略的外来生物ワースト100を調べてみるとアリとしては「侵略的外来アリ四天王」のほかにアシナガキアリ(アフリカorアジア)、ツヤオオズアリ(南部アフリカ)というのがいて、なんかわからんけど、アフリカにもやばいのいるんだなと思って、ちょっと調べてみた。この2種はすでに南西諸島で定着している。それもずいぶん昔からのようで、今更駆除すると今の生物群集のバランスが崩れるんじゃないかという懸念もあって、特定外来生物入りから外したようである。
 アシナガキアリなんて原産地がアフリカかアジアかも分からなくなるぐらい古くから人間の移動と共に分布を広げていたようで、たぶんアフリカからの移入種はアフリカ-ヨーロッパ間とか陸路つかってた大航海時代以前から移入が進んでたんだろうと想像する。
 日本への移入も、東南アジアとの船での貿易の時代に入り込んで、元いた在来種との混乱をへていまの生態的地位に落ち着いたのだろう。
 移入種が、他を圧倒して爆発的に増える、増え続けて他の種を駆逐する、あるいは優占種となる。という結果になるか、定着できずに在来種にシャットアウトされるか(日本のスズメバチ類はセイヨウミツバチの野外での定着をシャットアウトし続けている)、それとも移入はしたけど地味に隙間産業的に生き残るか、最悪生態系を引っかき回すだけ引っかけ回して在来種に対抗策取られて激減するか、なんてのは結果を見てみないと分からない。
 だから、ショボそうな移入種であっても予防的に慎重に対処しなければいけないと考えられているのである。
 勝負の結果は下駄を履くまで分からないのだから。
 
 結局、既に定着しはじめているアルゼンチンアリが今後どんな影響を与えるのか、ヒアリは日本に定着するのかどうか、そのあたりは偉そうにご高説を垂れる識者様が現時点でなんと言おうと結局どうなるのかは分からないのである。

 未来予想は不可能。そう思っておかなければいけない。
 ゆめゆめ都合の良いデータの読み方で「在来アリが何とかしてくれる」なんて楽観視をしない方が良いと思うのである。

2017年7月15日土曜日

私が死んでもかわりはいるもの

 っていう綾波レイの台詞を、少なくとも2人のアリの研究者が使ってるのを目にしたことがあるってくらいで、前回触れた「多女王性」の意義を象徴するような台詞である。
 というわけで侵略的外来アリ問題について、前回に引き続いて今回は侵略的外来アリ四天王と勝手に私が書いている、アルゼンチンアリ、ヒアリ、アカカミアリ、コカミアリについて紹介しつつ。多女王性のアリって実際どんなの?何でそんな性質が発達してきたの?あたりについてなるべく簡潔にとは思いつつもネチネチと書いていきたい。

 侵略的外来アリ問題のやばさの本質について、ネット上で誰も書かないんならワシが書くか、と書き始めるにあたって、過去にヒアリについて調べた香港行き直前に読んだ新書の内容がうろ覚えで、「一つの巣に沢山女王がいるっていっても、赤の他人同士が協力しあうような利他的なことって、自己の遺伝子を残そうとする生物の常からして無くって、女王が自分のクローン作って「私が死んでもかわりはいるもの」っていう感じになってるんだっけ?ヒアリとアルゼンチンアリもそうだっけ?」とか、よく分からん状態だったけど、図書館で「アリの社会」を読んでいると、同じように見える「多女王性」といっても実はいろんなパターンがあって、読んであまりの面白さに鳥肌が立つような思いだった。

 もともと、多女王性で「分巣」によって巣が増えていき、その各巣間のアリ同士が行き来するような多巣性の巨大コロニーを作るアリは、日本のエゾヤマアカアリで知られるようになったのが最初らしい。
 石狩湾一帯の海岸線が丸ごと該当するような巨大コロニーで、女王が沢山いて、同一コロニー内の隣あったぐらいの別の巣のアリ同士で喧嘩が起こらないどころか、働きアリの融通のしあいなども行われるとのこと。
 同じ種でも、自らの遺伝子を残すために、別の巣のアリとは殺しあいも含む喧嘩になるのが常識だったアリの社会において、別の巣のアリどうしで協力しているような事例は、生物の戦略の多様性上とても興味深い発見とされたらしい。
 エゾヤマアカアリの事例では、比較的高緯度の寒冷な地域でのことであり、そういった厳しい環境では、女王が死んで群が終焉するリスクなどに対して、ある程度血縁関係のある集団間で協力しあって、働きアリはおろか女王すら融通しあう事によるメリットが大きく。結果全体として自らの遺伝子を残すことに貢献すると解釈されているようだ。
 実際には巨大コロニー内でも隣あった巣同士の緊密さと遠く離れた端どうしの巣の緊密さでは差があって、「近所の近しい親戚とはより仲良くする」というような繋がりでできている社会らしい。
 いずれにせよそこまで血縁関係が濃くない沢山の女王をかかえるコロニーが作られることもあるようで、多女王性といっても、女王がクローンを用意するような「私が死んでもかわりはいるもの」的に、女王が確実に自らの遺伝子を継ぐものを増やしていくという形のものだけではなく、生物の戦略の多様性に驚くところである。

 ここで、侵略的外来アリ四天王の多女王性がどのようなものか簡潔に整理したい。
 まず、血縁関係がもっとも濃くなる女王がクローンを作るのがコカミアリ。
 クローンは作らないけど、近親交配を繰り返すような繁殖形態で濃い血縁関係をたもつのがアルゼンチンアリ。
 多女王性と単独女王性が遺伝的に決定され、種としてはどちらの戦略もとり、多女王性のコロニーでは新たに生まれた女王が近くに巣を作りコロニーを大きくしていくヒアリ。
 アカカミアリは残念ながら調べきれなかったので不明。
 という感じで、分かった範囲ではいずれも血縁度の濃い複数の女王を持つコロニーが分巣したり、条件がよいところではコロニーが複合していき巨大化したりするようだ。

 このような血縁の濃い多女王性は、これら4種が、比較的気温の高く雨季乾季など環境変動が大きい地域を原産地としていて、その原産地の環境に合わせて他の生物との関係とかから生き延びるために得てきたのだと思う。

 4種とも南米または北米南部から中米という生物多様性の豊かな、視点を変えれば生存競争の激しい環境で、時に雨期には元の巣が水没するような場所でも生きていけるように、水没してもアリの群でできた筏を作ったりする能力などを持って生きている。また、逆にそういった環境変動によって「空き地」ができたなら素早く侵入して占領してしまえるように、女王をを複数持つ群で、分巣した小さな群をダメもとで送り込んで新しい環境への進出に挑戦し続けることができるようになっているのではないかというのが私の推論。

 個別の種ごとに少し突っ込んで紹介してみよう。
 ネットの情報はあてにならないのが多かったけど、「兵庫県立人と自然の博物館」のサイトの解説は丁寧でよくまとまっていいて参考になった。あと基本情報としては「国立環境研究所侵入生物データベース」というサイトが網羅的で便利。これらの情報も参考に図書館でお勉強したことやらなにやらをまとめてグチャグチャ書いてみたい。

 ヒアリは、南米ラプラタ川上流亜熱帯原産で、赤土が露出したような川岸や林縁の開けた環境にアリ塚を作って地中に巣を作る。というまさに、密林のような安定した環境ではなく、水没したりする開けた川岸などに適応している生態。
 そういう環境で、単独女王性、多女王性の2つのタイプを使い分け、遠くへの拡散には単独女王性の新女王が飛んでいき、近場の繁殖では、条件がよいと多女王性の新女王が次々生まれて、多女王性の新女王は遠くまで飛ぶ能力が無いらしく新しくできた巣も複合していってスーパーコロニーと呼ばれる大規模なコロニーを作ってしまう。
 移入の歴史は、アメリカで始まり1930年代アラバマ州を皮切りに分布を広げ、かの地では「悪夢」とまで呼ばれる。健康被害や農業被害、電源設備の障害、在来アリ群集への影響を介して生態系全体に影響が及ぶことなどが報告されているのは各種報道されている通り。
 特に、開けた環境に素早く侵入して定着する性質が、人間が切り開いた環境に適応的とみられ、公園やら農地、庭などが生息地になることが被害に会う機会を大きくしていると思う。
 逆に、移入先であっても在来アリの多くいるような安定した環境では定着しにくいというような報告もあり、ネット上で話題になっている「在来アリがヒアリをシャットアウトするんじゃないか?」という期待もあながち根拠のないデマというわけではないようだ。ただ、移入種が移入先でどのような行動をとり結果どうなるかというのは、結果として後からどういう要素が働いてどうなったのかというのを説明することはできても、事前に予測することは全くできない。未来予想は不可能である。
 定着できないかもしれないし、爆発的に増えて生態系を一変させてしまうかもしれない。
 よく、ラージマウスバスやブルーギルについて、日本の淡水魚にはない卵を守る生態から敵が少なく爆発的に増えたとか言ってる識者?がいるけど、後出しじゃんけんもはなはだしい。じゃあ同じように卵を守るサンフィッシュ科のウォーマウスとか淡水真珠の幼生の寄生先候補として導入しようとしたけど定着しなかったのはなぜか?最初の赤星鉄馬氏による放流時に一緒に放流されたスモールマウスバスがその時は定着せず近年になって定着できたのはなぜか?とか、そもそも日本の淡水にもオヤニラミとかドンコとか卵を守る魚もいるのになに言ってんだ、そんなことはムギツクでも知ってるぞという感じで、識者だかなんだか分からん人間のいってることもあてにならない。
 ヒアリについても今後の結果は現時点ではよく分からない。でもよその国をみるとやばい可能性が高い。だからこそ慎重になって予防的に振る舞うことが大事だと、ちゃんとした識者の方が言ってるんだと思う。

 でもって、すでに結構日本に定着しつつあるアルゼンチンアリ。広島の木材港から始まって、神戸中心に大阪から山口の瀬戸内海の港町、名古屋から東京にかけての大きな港を中心にした都市部などに進出中。
 体が大きいわけでも、ヒアリのように刺すわけでもなく、原産地を調査に行った研究者の報告によると、ブエノスアイレスの街中では他の種と棲み分けているのか地味な目立たないような種だそうだ。
 それが、世界各地の移入先では、在来のアリを攻撃、餌にして駆逐し、この種が侵入した場所では他のアリがみられなくなってしまうという暴れっぷり。おそらく原産地での地味な生態から移入先での破壊的な猛威を予想できた人間はいないだろう。移入先でどんな化け方をするかは予想できない。日本のマメコガネがアメリカとかで猛威をふるう農業害虫になるとはマメコガネ知ってる日本人には想像もできなかっただろう。向こうでの被害写真とか、葉っぱに群れて食い荒らしているのをみると、自分の知ってるマメコガネだとはどうにも信じられない気がするぐらいだ。
 山口県の岩国での現地調査の報告を読んだけど、アルゼンチンアリのいるエリアにはまったく他の種類のアリがみられなくなっているそうで、被害先進国と同じようなことが起こりつつあるようだ。
 また、この種がやっかいなのは、水没するようなところでも棲むせいか、巣を割と高い位置の木の隙間とかに作るうえに移動性が高く、家の中まで入ってきて食料をあさるという人間生活に土足で突っ込んでくるようなタチの悪さがある。ヒアリのような刺す針は持っていないけど攻撃性は高いそうで、家の中に巣を作られて、寝てたら群に噛まれたとかありそうで怖い。車なんかにも巣を作ったりするようだし、ヒアリでも指摘されているけど電源施設の油にひかれるのかそういった設備の損傷も引き起こす。
 そういった厄介な性質に加え、なんといってもこの種について「最悪だ!ヒアリよりまだ悪い!」と私が思うのは、とてつもなくでかいコロニーを作ることである。他の在来アリを駆逐するような厄介なヤツがものすごい広い範囲にわたるコロニーを作ったときの影響の大きさたるや。

 どのくらい大きいかって?

 ポルトガルからイタリアまでの海岸線一帯にかけての超巨大コロニーが確認されている。と書いたら、驚いていただけるだろうか?

 メチャクチャである。ちょっと信じられないが事実のようで戦慄を覚える。
 何でそんなことになるのか。そんなことができるのか。
 最初の方で同じ多女王性といっても多様であることに言及した。女王が遺伝的に全く同一のクローンの場合から、北海道のエゾヤマアカアリの例にみるように「親戚」程度の血縁度の女王どうし巣どうしで協力関係にあることまで様々である。
 アリの仲間は体表面の炭化水素、簡単にいえば臭いで仲間を識別しており、その臭いは血縁度が近ければ近く、血縁度が近いものの方が強い協力関係を築くことが容易。
 血縁の薄いものどうしで協力することは「裏切り」を食らったときに自身の遺伝子を残せなくなるリスクが大きくなることもあり、そういった協力は発達しにくいように思う。
 エゾヤマアカアリの場合は、厳しくても安定した環境下なので「親戚」どうしの「近所づきあい」が永く続くので「裏切り」には何らかの制裁を加えることが可能であり比較的薄い血縁度の多女王性が発達したのではないかと推測する。逆に雨期のたびに離散集合を繰り返すような侵略的外来アリたちの故郷では「裏切り」による逃げ得が発生するので「他人」とは協力できず、血縁度の高い多女王性が発達してきたのではないかとこれまた推測する。
 血縁度が高い多女王性のデメリットもある。集団内の遺伝的多様性の低下がおき、環境変化に対応できなくなったり、同じ病気で全滅するようなリスクが増える。
 しかしながら、移入種において遺伝的多様度が低いデメリットを移入先に天敵がいないこと等のメリットが上周り個体数を増やすということがあることも報告されている。最初の導入時の個体数が少なかった日本のラージマウスバスにみられる現象である。
 これが、アルゼンチンアリにはイヤっていうぐらいにあてはまったようだ。
 アルゼンチンアリの婚姻形態はほとんど近親婚しか生じ得ない形をとっている。
 普通、アリの婚姻形態は羽の生えた新女王と雄アリが巣から飛び立って交尾する結婚飛行という形をとる。このときに他の巣同士で交わるし遠くへも分布を広げられる。
 しかし、アルゼンチンアリの、少なくとも原産地以外へ侵入した個体群においては、新女王は羽を持たず巣から出ずに雄アリと交尾する箱入り娘。雄アリは羽を持ち別の巣へ飛んでいくことはできるが、血縁度の高い同一コロニー以外の巣の奥にいる箱入り娘な新女王と交尾しようとしても巣の働きアリに殺される。
 アルゼンチンアリは、女王アリが1匹で巣を立ち上げる結婚飛行による分布拡大を捨てて、コロニー内の近親婚により「分巣」のみで、最初から女王をバックアップしなかがら新しい巣を増やしていく方向に特化している。「新婚旅行にかけるコストなんて無駄」って感じでスープの冷めない親元近くの新居と子作りにコストをかけるイメージか。結婚旅行して新たなコロニーを単身で作り始める新女王は他の生物に食われて死ぬことも多い。数うちゃ当たるで多くの新女王を大空に羽ばたかせるには相当なコストがかかる。分巣方式なら新女王の生残率は高く同じコストでより多くの巣が増えていく。
 この方法では、安定した環境なら巣を広げる範囲は元の巣から遠くはないはずだが、木の上に巣を作り雨期に水没するような環境下では、木ごと流されることなどで分布を広げることができたのではないだろうかと想像する。
 それでも原産地では、数あるアリの一種として地味な生態的地位に甘んじているこのアリが、増水で流される流木という危険な乗り物から、人間が船、鉄道、トラックなどで運ぶ木材やカーゴといった安全に確実性高く新天地へ連れていってくれる乗り物に乗り換えたとき、全世界への侵略が始まったのであろう。
 現在、アメリカ南東部、オーストラリアやハワイなどオセアニア全域、ヨーロッパ、南アフリカなどに生息が広がっている。恐ろしいことにヨーロッパの超巨大コロニーと日本で繁殖している系統の一つが同じ遺伝子集団とみられ、そういった観点でみると、地理的には不連続ながらも全世界を飲み込むような超々巨大コロニーが出現する可能性さえ否定できないようだ。遺伝的多様生が少ないがゆえの「世界のアルゼンチンアリ皆兄弟!」的な数の猛威が恐ろしい。
 人間がグローバルに物資を動かすという時代にドハマりし侵略的に分布を広げ、遺伝的多様生が少ないが故に別の巣同士であっても連携しやすく超巨大なコロニーを作り、人の家にずけずけと上がり込むやっかいな性格と他のアリ含め何でも食っちゃう食いしん坊。
 遺伝的多様生が少ない状態での爆発的な増加は病気のリスクとかの増大をまねくので、外来生物としてのアルゼンチンアリは滅びへ向かっているのではないかという見方もある中、「アリの社会」でアルゼンチンアリの項目を担当した研究者は、とても今の状況では滅びるようには見えず、今後どうなるか全く想像がつかないと書いている。よしんばいきなり病気が流行って一気に全滅ということになったら、それはそれでアルゼンチンアリが在来アリから奪って担っていた生態系での役割もあったはずで、その後のアリ達の国取り合戦含め生物群集に大混乱を巻き起こすだろう。
 ヒアリのように刺すわけでもない、地味なちっちゃなアリがとんでもなくやばい生き物だということがご理解いただけたであろうか。
 人は毒を持っていたり肉食だったりする生物により恐れを抱く。でもそうでもない地味な輩がホントにやばかったりするのである。いかにもマンガとかのラスボスでもありそうな設定。
 ヒアリもやばいけど、それ以上にクソやばいやつがいて、すでに日本にも生息しているということを多くの人に知ってもらいたいところである。
 ラスボスはアルゼンチンアリ!

 四天王の3番目はアカカミアリ。
 実はこいつも国内で既に生息している。
 こいつはヒアリに近い仲間だそうで、アメリカ南部や中南米が原産地。アメリカとかではファイアーアント(火蟻)の一種として扱われ、アメリカでのヒアリ被害の数字とか出てくると、こいつとかも含めた数字のようである。
 分けて呼ぶ場合は”トロピック(熱帯性)”ファイアーアントと呼ぶようで、その呼び名のとおり暑い地域に生息する。ということで、世界の熱帯から亜熱帯に侵略し分布を広げていて、日本でも沖縄と小笠原諸島に生息。
 とりあえず温暖化進めばやばいのかもしれないけど、本州は大丈夫そうだなとホッとして、我がことながら反省した。そうやってかえりみられず切り捨てられてきた沖縄をはじめとした離島や地方の歴史を、暑い夏には特に忘れちゃならないような気がする。
 日本への進入経路は、米軍の物資経由だろうとみられていて生息地も沖縄では米軍基地中心とした地域。「アメリカさんちゃんと検疫してよと」沖縄に次ぐ基地県である神奈川県民としても苦情を書いておきたい。
 生物の話として特に書いておきたいのは、島諸の生態系は移入種に弱いということ。日本自体が島国なので「ガラパゴス化」って言葉があるぐらい島では独自の生態系が発達して固有種とかが多いというのは理解しやすいかと思うけど、沖縄や小笠原などの小さな島では、よりその傾向が強く出て、微妙なバランスの生態系は外からやってきた「強い」侵略種にやられてしまう「弱さ」を持っている。なので侵略的な移入種の持ち込みにはよりいっそうの注意が必要だと書いておく。
 象徴的な出来事として、インド洋のクリスマス島(私が行ったのは太平洋のクリスマス島)のクリスマスアカガニが、固有の天敵であったクリスマスクマネズミの絶滅にともなって、島の森で敵もなく優先種として、産卵期にはカニが溢れる島として有名なぐらいの繁栄を謳歌していたのだけど、近年アフリカから移入してきたアシナガキアリが爆発的に増え脅威にさらされているとのこと。
 南の島の楽園も、楽園たるには相応の理由がある。外敵も来ない絶海の孤島は変化はなくても安定した日常をもたらす。島に宝をもたらす船には島の平穏を脅かす病魔や害悪も乗ってくる。
 都合よく良いものだけを島に入れようとしても「良いもの」が何であるのかさえ、立つ位置が違えば違ってくるぐらいで、そんな都合のいいことは不可能であることをよく認識しておかなけらばならないと思う。
 カーゴや木材から、蟻一匹漏らさず検査することなんてどだい無理で、グローバルにモノを動かすなら、そういったリスクは当然有ると織り込んで、なるべく予防的な措置をとりつつも、いつでも想定外のことは起こるのだから、その都度一所懸命考えながら最善手を模索していくしかないのだろうと思う。
 
 ラストはコカミアリ。まだ日本には生息していないけど、熱帯亜熱帯のアメリカ南部から中米、アフリカ、太平洋諸島に分布を広げていて、いつ侵入してきてもおかしくはない。
 アメリカではこいつも火蟻の一つとして数えているようで”リトル”ファイアーアントと呼ばれているようだ。ちっちゃいけど刺します。あと昼夜問わず働くワーカホリックのようで餌をとる能力は高いという情報あり。
 こいつについては、やばさよりも面白さが正直目について困ってしまう。現実の生物というものは、時にSF作家が想像の限りを尽くして創造した奇怪なクリーチャーよりも想像を絶するぐらいに不可思議。
 長くなってきたので既に忘れているかもしれないけど、最初の方のまとめで書いたように、この種は、交尾後の女王蟻が自分と全く同じ遺伝子をもつクローンを生んで増やすことによって、100%遺伝的に同型という血縁度の極めて高い沢山の女王を有するコロニーを作る。女王が同一コロニーの他の女王のために命を落としても、他の女王も遺伝子に着目すると自分と同じなのだから「自分」のためということになり「裏切り」によるリスクを考慮しなくてよい強い連携関係が作れる。
 しかも、働きアリには雄との交尾で交配した結果の卵を使い遺伝的な多様性を確保する。働きアリは卵を生まない。
 雄は次世代を残さない働きアリの品質向上に使われるだけという仕打ち。
 意外とこのタイプのアリはいるようで、ほかにもウマアリ属がこの手の繁殖方法をとることが知られている。
 というところまででも正直お腹いっぱいな感じの面白さで、前回香港行きの前にヒアリの勉強しててそういうアリがいることを知ったときにも感動したもので、今回もその話を書いたろと、おさらいのつもりで調べ初めて、そのさらに続きがあったことにうれしい驚きと興奮を禁じ得ない。

 コカミアリ、雄もクローン。

 ンッ?なにいってるんだ?と思うかもしれない。雄が卵生むわけあるまいし雄がクローンってどういうことだと疑問に思うだろう。誰だってそう思う俺だってそう思う。
 ここでマシジミ(蝶じゃなくて貝のほう)を思い出した人は相当な生物オタクか水産業界人。
 マシジミは「受精卵は雌性前核も放出して雄性前核のみでクローン発生する極めて特殊な繁殖法、すなわち雄性発生をする。」んだそうだ。そういえば聞いたことある。
 ようするに雌の作った卵は使うけど、雌の遺伝子は捨ててしまって雄の遺伝子だけつかって雄のクローンを作るってこと。分かっていただけただろうか。
 日本語版の「ネイチャー」のサイトには「女王アリに雄が「クローンの逆襲」」というタイトルが踊る。自分の遺伝子を次代を生まない働きアリにしか使わない女王に対する反逆という、雌雄の対立を表していて「実際には、このアリの女王と雄は別種として分類すべきなのかもしれない」と解説する記事も紹介されている。たしかに交尾してもそれぞれのクローン作って遺伝的に交わらないのなら別々に進化が進んでいく「別種」なのかもしれない。
 ホエーッすんごいことがあるもんだな。このネタどっかで書いたろと思っていたら、図書館でのお勉強でさらに驚きの展開が。

 全部女王のたくらみでした。

 もうね、後ろで糸引いてたのは実は「女」だったとか、推理小説並の大どんでん返し。
 実は、雄がクローン作っているのは移入先だけのようで、原産地ではクローンじゃない雄を作る繁殖形式をとっているということが調べたら判明。
 で、研究者は移入先の雄が原因でクローン作ってるのか女王が原因なのか、原産地のと掛け合わせてDNA調べてみました。結果、女王が原因。遺伝子抜けた「空の卵」を女王が用意してるんじゃないかという予想。
 移入先では遺伝的な多様性が不足しがちなので、雄にまで自分の遺伝子が入って血が濃くなりすぎるデメリットを防いで遺伝的多様性を保つためとか、そんな感じの理由なのだろうか?いずれにせよ雄なんて有性生殖で遺伝子シャッフルして多様性確保するためだけのモノでいい、というオスとしては切なくなる話。
 村上龍先生がエッセイのタイトルにしていたように「すべての男は消耗品である。」ということなのだろうか。ガックシ。

 血縁度の高い多女王性の場合、遺伝子の多様性の確保はどの種でも同様に問題となるようで、結婚飛行の時はクローンじゃない交配した遺伝子を持った新女王と雄を送り出すとか回避策はなにかしら持っているらしい。どうやっても近親婚にしかなりそうにないアルゼンチンアリでも、日本に入ってきているのはは5タイプぐらいのコロニーに分かれる遺伝的集団に分かれるようで(ということは5回は侵入許してることになる)完全に均一にはならずにシャッフルする方法を持っているようだ。
 その方法が、思いもよらぬ奇想天外な方法でも、実は原産地からの供給だけで移入先では一切シャッフルなしで、ウイルス感染かなんかでドカンと全滅しても、もうこれ以上驚かないようにしたい。でも驚くんだろうな。生物は人間の予想できないようなキテレツなことをやってのける。生物は常に変化し続ける。今日の正解は明日には誤解だと明らかになるかもしれない。
 社会性昆虫の「生存戦略」なんてのは、今時のDNA解析とかの分子生物学的な手法とモデル作ってでっかいコンピューター回してシミュレーションしてとかいう数理モデル的な手法を併用することが功を奏する複雑な分野で、まさに今時の科学が切り開いていくのをリアルタイムで接することができるということを暁光と感じる。


 今回、長々と書いてきた理由も、一つにはいい加減な報道情報、なにがホントか分からないネット情報をみるにつけ、ちょっとまとまった情報を分かりやすい言葉で面白くまとめておくのは必要なのかなと思ったのと、純粋に自然科学の知識として侵略的外来アリの生態やらが面白すぎて止まらんようになったからである。

 正直自分でも文章が長すぎると分かっちゃいるけど、このくらいは書かないと面白いところまで突っ込めない。さらにオマケを2回分ぐらい書くつもりでいるので長いのはご容赦願って読んでほしい。


 最後に極力言葉を削って言い換えて、これまでの内容を3行にして筆を置きたい。筆なんて使ってないけど。

○「多女王性」を持つ侵略的外来アリは女王が家来ひき連れてやってくるのでやばい

○アルゼンチンアリがグローバルスタンダード仕様で特にやばい

○アリとか社会性昆虫の「生存戦略」は面白すぎる

2017年7月14日金曜日

いまだ日本侵略を果たせていないヒアリなど我ら侵略的外来アリ四天王の面汚し!!


 と、ラスボスっぽいアルゼンチンアリが言ってるかどうか知らないけど、なんか今になってマスコミとかが、「ヒアリ危険!危険!」と騒ぎまくっているのをみると、その騒ぎ方のなにも分かってないバカさ加減というか浅はかさが鼻につく。

 まあ、一般の人々が関心を持って監視して、侵入を早期発見できれば、NZでは侵入早期段階での駆逐に成功したらしいので、大げさに書き立てて関心を煽る記事も悪いことではないのかもしれない。本格的に定着されてっしまってからの駆除はいまだどこの国でも成功していないらしい。
 でも、それアルゼンチンアリの時やっとけよ、と正直思う。アルゼンチンアリはすでに国内定着しつつあるけど、たぶん「なにそれ?」と初耳の人の方が多いだろう。後ほどのけぞるようなこのアリの実態も紹介したいと思う。

 ハチのように刺すという分かりやすい人間への攻撃性の印象が強いのでヒアリが「最凶」の「侵略的外来アリ」と騒がれがちで、事実そういう意味でたちの悪いアリというのは間違いではないと思うけど、ぶっちゃけスズメバチがブンブン飛んでる日本では外にでれば男には7匹の敵がいるぐらいで、毒虫、毒蛇、毒植物など珍しくなく、ことさらヒアリだけが危ない訳じゃなく。刺すから、毒があるからというだけで、ヒアリを語るのは恐がり方としても不十分だし、なぜこの手の侵略的外来アリがやばいのか、なぜ「侵略的」に振る舞えるのか?という根本的なところが全く抜け落ちていて語られていないと思う。そここそ「ヒアリ問題」のキモだろうに、と思う。
 そのあたりは、今の生物学を見回してももっとも熱い分野の一つとなっている「社会性昆虫の生態学」というクソ面白い話になっていくので、なぜそういうオツユたっぷりな部分をマスコミでもネットでも突っ込んでいって分かりやすく書いている人が見あたらないのか、誰も書かないのなら不肖私めが書いてみようと思ったところである。
 ネットの情報は玉石混交だけど、今回、ネットで調べようとしてみて、ヒアリの巣に手を突っ込む海外のユーチューバーの映像とか「ヒアリ怖い」的な情報があふれすぎていて、まともな情報が極めて得にくかった。結局、以前読んだアリ研究者の新書を探しに本屋に行って見つからず、図書館まで行って「アリの社会-小さな虫の大きな知恵-」坂本洋典ほか著という、アリ研究者たちが最近のアリ研究の話題や、まさにヒアリやアルゼンチンアリについても解説されているすばらしい「アリ本」を見つけて、あまりの面白さに時間を忘れて午後一から夕方までかかって一気読みしてきた。誰でも無料で利用できる、本という形での情報の保管・提供施設としての図書館のさすがのありがたさを改めて感じたところである。
 これから、「侵略的外来アリ」の問題を中心にちょこちょこと面白いところをつまんで紹介していくけど、私の理解は所詮素人の一夜漬けでしかなく、面白さ重視で間違ってることも書いちゃってるかも?というところもこれあり、分かりやすく書かれていて生物好きなら間違いなく楽しめると思うのでネタ元の「アリの社会」も是非一読されることをお勧めしておきます。
 それでは、ご用とお急ぎでない人はお立ち会い。

 ヒアリ、実はそれらしいアリの実物を見たことがあって、香港にアフリカンクララを釣りに行ったときの川岸でだけど、パンを餌に小物釣りをしていたら、そのパンにたかったアリが「たぶんヒアリですよ」と案内してもらったはまさんから教えてもらった。上の写真のアリがそれである。座ってパシフィックターポンのテーリング待ちをしていると結構刺されるそうで、その日もお腹を刺されたとかで赤く腫れているのを見せてくれた。痛いとはいってたけど、はまさんあんまり気にしてないようで、なかなかの剛の者だなと頼もしく思ったものである。
 巣を踏むと大量のアリにまとわりつかれて刺されるし、ズボンの裾から侵入されると何度も刺すらしいので、釣り場ではハイソックスにズボンの裾を突っ込むゲートルスタイルで防衛策をとっていた。っていうぐらいに居たらめんどくさいし刺されたくもないけど、割と香港の釣り人たちは気にしてないようで、ヒアリが居ると聞いてたので事前にお勉強してちょっとビビっていた私としては、いささか拍子抜けする初めてのヒアリ遭遇であった。

 刺されたらいやだし、アナフィラキシー症状も怖いしで舐めてかかってよい代物ではないにしても、巣を作るのがまさに河原の草むらとか田畑の畦とかの開けた環境なので、居そうな場所にいく場合には対策練って行けば、刺されること事態はそれほど怖くないように思う。繰り返すけど舐めていいわけじゃないけど、この程度の毒虫いくらでも他にいるだろうと思う。

 世の研究者の情熱には正直言って尊敬を通り越して、「こいつキ○ガイやろ」と思わされる事例が散見されるけど、生き物情報紹介系サイトで何度か紹介されているのをみる、そういう研究者であるアメリカのジャスティン・スティミッド博士が実際に147種の主に北米大陸の昆虫に「刺させて」痛みをレベル1~4に分類しつつトップ10を選出しているのだが、その中でもヒアリはランキング9位にかろうじて入っている程度で、痛みレベル1.2刺「されたときの痛みは鋭いがいたって普通のレベルで、ヒリヒリ感が残る程度だ。」となっていて、そんなに刺されて恐ろしい虫ではないように感じる。
 ちなみにミツバチが5位でレベル2.0。ベストというかワースト3は、3位アシナガバチでレベル3.0。
 2位オオベッコウバチのレベル4.0は「電気ショックが駆け巡るようなすざまじい痛み」。
 堂々の1位はサシハリアリのレベル4.0+「純粋な激痛」だそうである(オマケ1有り:痛い虫ランキング関係ネタを別途まとめる予定)。

 というぐらいで、単純な個体のあるいは巣の群ででも「刺す毒虫」という怖さだけなら、それほど怖くはない。じゃあ、侵略的外来アリとしての評価が痛さランキング1位のサシハリアリの方が危ないかといったら、全くそんなことはなくてヒアリの方が圧倒的にやばいはずである。

 なぜやばいのか?キモになる重要な要素として「多女王性」というのがあると見て間違いないだろう。多女王性がどのようにして発達したのか、どのような実態なのかをひもとけば、自ずとヒアリをはじめとした侵略的外来アリのやばさ、なぜ侵略的なのか?あたりが見えてくる。
 報道などでは「ヒアリの女王アリは1日の産卵数が多いので繁殖力が強く危険」というようなまったくの的外れな説明が散見される。産卵数がほかの種と比べてどのくらい多いのかも全くわからんちんな上に、本質的に一番重要な多女王性に触れている報道は皆無である。マスコミの役割って何なんだろうねと薄ら寒くなる。
 
 世界的にみて侵略的な外来生物として危険視されているアリは他にもいるようだが、我が国で外来生物法による特定外来生物に指定されているアリは、アルゼンチンアリ、ヒアリ、アカカミアリ、コカミアリの4種で、この「四天王」のうちアカカミアリだけ明確な記載を見つけられなかったのだけど、他の3種は一つの巣に多くの女王が存在する多女王性を持つ。アカカミアリもヒアリに近い種だそうで間違いなく多女王性だと私はみている。

 多女王性を持つアリこそが、グローバルに人が物資を動かす時代に生息地を広げる侵略的な生物足り得る、とちょっと考えれば納得する。
 一つの群に女王が沢山いる場合、「分巣」といわれる行動で女王ごと群から少数の分派したアリ達、が木材やコンテナに紛れ込んだときに、発見されずに遠くまで運ばれて、運ばれた先で即座に新しい環境で「群」として繁殖活動を開始し生息地を広めることができる。
 女王アリが一つの群に1匹しかいないアリではこうはいかない。群の「単独女王」は死ねばその群の終焉を意味するぐらいであり、まずはおいそれと女王みずから新天地開拓にのぞまない。ふつうは巣の奥にしっかりと兵隊アリにガードされながら鎮座している。決まった巣を持たず女王ごと大群で「さすらう」軍隊アリの仲間もいるが、その場合さすがに女王を含む何万の大群ごと見つからずに密航できるとは思えない。逆に働きアリだけの群の一部が船に乗れたとしても、船が着いた先では繁殖できない。ハチ・アリの雄雌の性決定システムからして多くのアリでは雄と交尾しない働きアリは産卵できても雄しか生めない。
 結婚飛行で交尾をすませた単独の女王なら密航はできそうだが、単身新天地での王国創立は難易度が高いのか、侵略的な外来アリは、家来を引き連れてやってくる多女王性のアリばかりと見受けられる。

 進化というのが、環境に適応したものだけを淘汰し選ぶものだとすれば、多女王性を持ったアリは、人がグローバルに物資を動かすという環境に適応的であるといえるのかもしれない。
 この、人が動かす物資にくっついて、素早く広く分布を広げる「侵略性」こそが、侵略的外来アリの真のやばさの根元だと断言する。
 ヒアリの侵入による悪影響として、まずは刺すことによる人的被害、そして電源設備を故障させることや農作物への被害など経済的損失、在来のアリの駆逐や生態系の攪乱といった自然環境破壊の危険性の3点があげられていて、それぞれ間違いではないし、特に3点目とか数の多いアリという生物が生態系で果たす役割は大きく、アリの巣の中に棲む「好蟻性生物(オマケ2あります:おもしろいネタなので事例を別途まとめて紹介予定)」なんていうアリなしでは生きていけない生物をはじめ、死んだ生き物の掃除から、植物の種の拡散、他種の餌としてから様々な役割を果たしていて、それがいきなり外来種に置き変わったときの影響は「まずいことになりそうだ」と想像できる。
 でもそれらそれぞれの影響は、他の外来生物にもあてはまるけど、たとえばセアカゴケグモのように、定着したけど誰も刺されてもないし、生態系にもそんなに影響があるのか疑問に思うぐらいの事例と本質的には変わらない。だからセアカゴケグモみたいに大したことないのではないかと思ってしまうかもしれない。
 全く違うのである。侵略的外来アリについては、それらの悪影響が、港について侵入した後にも国内の物流に乗って迅速に広く「侵略」していくことで拡大する。しかもアリは個体数も多く関係する生物種も多く人と接触する機会も段違いに多い。その事こそが、侵略的外来アリのやばさの本質である。
 グローバルな物流時代の申し子的なやばい生き物だということがおわかりいただけただろうか。
 学者はじめ専門家がこぞって「水際で何とかくい止めろ」と必死になっているのもうなずけるやばさなのである。

 じゃあ何でそいつらは多女王性なんて生態を持ってるの?それがいいのなら他のアリはなんで単独女王性なの?あたりを調べていくと、実に興味深いコクのある話に突っ込んでいくことになる。
 これから、特定外来生物に指定された4種の侵略的外来アリを紹介しつつそのあたり語ってみたいと思っているけど、個別具体的な話は枝葉といえば枝葉なので、興味のない人は「侵略的外来アリのやばさは多女王性に起因し、物流による広く迅速な拡散で影響が大きくなることが本質」とだけ頭にひっかけておいて欲しい。
 続きが気になる方は引き続きおつきあいを。

 と書いたところだけど、既にだいぶ長い文章になって読む方もそうかもだけど、書くのが疲れてきた。最初に大事なところをサクッと書いて、後はおつゆたっぷりなアタリをネチネチ書くかと思って書き始めたら、大事なところを書いただけでけっこう時間がかかって、このあとどのくらい長々と書くことになるのか分からん状態である。
 ということで続きは次回。という「ナマジのブログ」初の「引き終わり」となることをご容赦願いたい。しばらくこのネタ引っ張ります。

←to be continued

2017年7月9日日曜日

君の名は。超難問フナ編


 ヘラ釣り始めると、雑誌でもネットでもあちこちで「半ベラ」とあるのを目にする。
 ヘラブナとマブナの交雑種とされていて純粋なヘラに比べると「ハズレ」扱いで、記録ものの大型でも半ベラは記録認定してくれない。でも、じゃあ半ベラってどう見分けるのよ?って調べても誰もどこにも決定的な方法を示せていなくて、記録認定している雑誌とかでも「こちらで判断させてもらいます」というていたらくで、判断基準は明らかにしていない。
 だいたい、マブナっていうのがいわゆるギンブナのことなら、ほとんどが3倍体といわれているギンブナと普通に2倍体のヘラブナとの間に交雑が起こるとは考えにくく、一般にヘラ師がボンヤリと思っている「半ベラはヘラとマブの混ざったヤツ」というのは疑わしいことこの上ない知識である。
 だいたい「釣り師魚を見ず」で、釣り人って自分たちが釣ってる魚なのに、いい加減なことばかり言っているのはいかがなものかと思ったりする。
 一昔前の磯の底物師とかが、チャイロマルハタでもヤイトハタでもマダラハタでも「クエ」とか言ってたのには呆れるを通り越して怒りを覚えていたほどだ。
 まあ、そういういい加減な釣り師の言ってることの中にたまに学者も知らないような真実が紛れ込んでいたりするので油断ならないのだが、もうちょっと自分の釣る魚をはじめ魚についても勉強してもバチはあたらんのではないかと思う。
 私だって、知らない魚もいっぱいいる、同定しそこなうことだってあるだろう。でも自分の好きな「魚」について知ろうともしないというのはおかしいのではないかと思う。「無知は罪、馬鹿は罰」だそうである。罰は甘んじて受けるつもりだが、罪からは逃れられるものなら逃れたい。

 というわけで、当然ヘラ釣りを始めるにあたって、ヘラブナとは何ぞや、フナってほかにどんな種類がいるのか、それぞれの見分け方(同定方法)は?ということを勉強してはみたんだけど、勉強する前から「フナ問題」は数ある同定難易度の高い魚のグループの中でも、最高にややこしい問題だと知ってはいたので気が重かった。お気楽に「これは半ベラ」とか言ってくれるなよと言いたくなる。

 まず、ヘラブナっていうのが何か。これはそれほど問題ない。細かいところは諸説あるけど、琵琶湖原産のゲンゴロウブナを釣りのために体高高いのとかを選抜して育てたカワチブナと呼ばれるフナがもとになって、釣り堀文化や関東での天然湖沼への移入を経て全国に散らばったもので、現在でも食用に供されることは例外的で、ほぼ釣り用のためだけに増養殖されているという、世界でも他にはアメリカ南部のラージマウスバスやNZのニジマスぐらいしか例をみない特殊な釣り用の魚である。ラージやニジマスがあっちはキャッチアンドリリースのイメージがあるけど結構釣った後食べられることも多い中、ほとんど釣られてから食べられることが無いのも独特。歴史的には100年ぐらいは遡れるけどヘラ釣りは日本伝統の釣りと言われつつも、割と新しいハイカラな釣りなのである。まあ浮子を使ったフナ釣り自体は江戸時代ぐらいにはすでにあっただろうから、その流れで行くともっと古い釣りにはなる。
 生物としての種的にはゲンゴロウブナであり、釣り用に選抜育種しているのでその1品種として考えてもいいかもしれないけど、あまりヘラブナを品種ととらえるのは一般的ではないので、ゲンゴロウブナの釣り用に増やした「飼育型」のヤツがヘラブナぐらいの認識で正解だろうと思う。ヘラブナも種としての標準和名はゲンゴウロウブナで問題ないはず。

 次に「半ベラ」との関係もでてくるのだけど、日本には他にフナの仲間にはどんな種がいるのか?それぞれの同定方法如何というお話だが、今のおそらく最新の知見を元に出さざるを得ない答えを最初に書くと「日本にはゲンゴロウブナとその他に名前の確定していない1種類のフナがいる。」ということになるだろう。
 なにをナマジはトチ狂ったことを言い始めたんだ、また自分が同定できないものは同一種とか無茶苦茶言ってるんだろうと思うかもしれないが順次説明していく。

 まあ、3倍体で雌が生んだ卵が他のコイ科魚類の精子の刺激で発生を始め雌だけでクローンで増えているギンブナとされていた魚の存在と、北の方にはいるとも聞くギンブナの雄が本当にいるのかどうか、雄雌いるキンブナとの関係性はどうなのか、魚類学会でも答えがでていないようなことを聞いていたので、あらかじめ覚悟はしていた。
 とりあえずは同定するなら「日本産魚類検索(第1版)」をということで、全種の同定をうたっているぐらいだし、基本はここからだろうと紐解いてみる。
 同検索図鑑によれば日本にはフナの仲間はゲンゴロウブナ、ギンブナ、キンブナ、オオキンブナ、ニゴロブナ、ナガブナがいるようだ。ちなみにゲンゴロウブナだけ種レベルで違い、その他の5種は同じ種内の「亜種」の整理(なのでこの整理でも2種といえば2種である)。
 最初に分けられるのは、ゲンゴロウブナとギンブナの2つとそれ以外のフナで、同定の最初の分け方は体高と体長の比率で、体長が体高の2.1~3.0倍と体高高いのはゲンゴロウブナとギンブナ、2.8倍~3.6倍と体高が低いのは以外の4つのフナなので次のページへという感じになっている。愕然とする。
 いままで、「フナ」は沢山釣ってきたが、明確なヘラブナ(ゲンゴロウブナ)以外はまあギンブナなんだろうなということで、しっかり検索図鑑すら見ていなかった自分の不明と不勉強を恥じる。
 検索図鑑の最初の外見上の見分けるポイントで分かれないジャン。比率が2.8~3.0倍の間のフナはどちらもあり得るということである。かつ体高高いギンブナもいるということになる。よく言われる「ヘラは体高が違う」というのは傾向としてはあるかもだけど決定打にはなってない。
 九州で釣ってた「マブナ顔のフナ」はいつも、東海地方にある実家の近所で釣ってた「マブナ」より体高があるので「なんなんだろう、これが半ベラってやつか?」とか思っていたけど、ギンブナ自体がフナの中では体高高いグループに属していて九州の「ギンブナ」は体高が高いということなのかも知れない。
 写真は上が九州のフナ、体長は体高の約2.7倍でヘラブナかギンブナで顔からいってギンブナと思う、写真下は関東のフナ約2.8倍でなんとも言えないということになる。数値以上に体高が違うように感じるのがおわかりいただけるだろう。まあ、放流由来のヘラブナ以外どこのフナもそれぞれの地域にしかいないフナなんだと思って愛でておくのが正解なのかも知れない。

 他にもヘラブナは外見では右の写真ででも分かるように目が下の方向いてるとか、上唇があまり伸びないとか言われている
 けど、確かに典型的な個体を見分けるには役に立つかもしれないが、そんな数値化されていない基準、中途半端な個体がでてきたら通用しない。
 まあ厳しめに疑わしきは「ヘラ以外」とすれば、純粋なヘラを混じりなく抜き出すのには十分で、ヘラの記録認定とかの場合にはその方法を現実的にはとっているのだろうけど、じゃあその「ヘラ以外」とされたフナは何者なのか?多くのヘラ師にとってはどうでもいいことなのかもしれないが、私にとってはどうでもよくない。大型の体高高い「ギンブナ」なのか、それとも半ベラとよばれる交雑種(キンブナやオオキンブナと交雑?)なのか、それとも「ヘラ以外」判定を受けたけどやっぱりヘラなのか。
 
 幸いなことに、形態上の同定のポイントで第1鰓弓の鰓耙(サイハ)数は、ゲンゴロウブナとそれ以外のフナで明確に分かれる。植物プランクトンを水ごと吸い込んで鰓耙で濾し取って食べているゲンゴロウブナは鰓耙数が92以上と多い。魚を殺す必要がでてくるが、ゲンゴロウブナを同定することは可能となる。琵琶湖でヘラブナとゲンゴロウブナと区別は付かないし、鰓耙数多い半ベラがでてくる可能性は否定できないけど、生物について絶対の正解を求めるのが土台無理で鰓耙数で見て92以上ならヘラブナも含むゲンゴロウブナ、72以下ならそれ以外のフナ、72から92ならたぶん交雑種か例外的な変な個体ぐらいの整理しかないだろう。今時DNA鑑定すりゃ良いじゃん、というのは後で言及するけど、「3倍体のフナ」かそれ以外かを分けることができるぐらいで、従来のフナの仲間の分類通りの同定には今のところ使えそうにない。
 いずれにせよヘラブナ(ゲンゴロウブナ)については植物プランクトンを吸い込んで補食している魚だからこそ、釣り餌を吸ったり吐いたりする事によって、餌自体も釣りの技術も随分とややこしく特殊で面白くなっているなっているのだから、植物プランクトン食という生態に起因する鰓耙数の違いを基準に同定していく、というのは釣り人的にもしっくりくる。100%の同定が無理だとしても納得がいくのだがどうだろうか。

 さて、比較的すっきりしたゲンゴロウブナだが、じゃあその他のフナであるギンブナ、キンブナ、オオキンブナ、ニゴロブナ、ナガブナをそれぞれ同定するポイントはどこなのか、検索図鑑読んでも、ゲンゴロウブナ、ギンブナとその他のフナの見分けるポイント以上にカブリまくりで、中間的な個体が区別つかないというよりは、むしろその種の特徴が際だっている個体しか同定できない基準になっている。
 待ってくれよ、せめて琵琶湖で漁師が値段いいので明確に分けて狙って穫ってるニゴロブナぐらい形態的に違いあるだろうと思うのだが、ネットで検索図鑑に加え原著論文にもあたったらしいマニア氏が整理したカブリ具合の表をみても同じ結果で、マニア氏もこれじゃゲンゴロウブナとそれ以外のフナに分けるのに加え、特徴がよくでている個体は同定できることもあるかもぐらいと書いていて、同定お手上げに困惑しているようだ。
 ニゴロブナはなんで珍重されるのかというと、割と動物食が強くて内蔵が短いので琵琶湖名物「鮒寿司」にするときに歩留まりが良いのが好まれるらしい。ゲンゴロウブナは逆に植物食なので内蔵が長くて鮒寿司にされることはあっても自家消費やニゴロブナの代替品あつかいが多くて「高級品」にはならないようだ。なので、腸管の長さとかデータ取りまくったら違いがでてくるのじゃないかと思う、というかありそうな気がするけどどうなんだろう?鮒寿司自分でも漬ける鮎迷人にでも聞いてみたいところ。

 というわけで、形態で差がつかなければDNAだろと誰でも考えるところで、魚類学者も調べてぼちぼち報告されてきている様子。
 その今のところの報告によれば、ゲンゴロウブナ以外のフナ5亜種を分けるような遺伝的な差異は認められない。ということだったらしい。論文も色々出ているようだけど、マーカーとする遺伝子やら、たぶんサンプルの引っ張り方によっても結果が違うようでまだ最終的な答えにはなっていない感じ。5亜種と関係なく3系統に分かれるとか、それとも異なる結果が出たとか混乱に拍車がかかっている気がする。
 まあ、あたり前っちゃあたり前。内水面のような閉鎖的な環境では、それぞれの水系ごとに違った遺伝子集団がいて当たり前で、違うと言い始めれば水系ごとに全部違って5種類やそこらで済むわけがないし、でも現実としてちょっとずつ違っていて、5亜種に特徴的な個体を持ってくればそれなりに違っていたりする。でもその中間的なやつの出現を拾っていけば、全部が一つながりの「種」に整理するしか無いというのが基本的な分類学の整理なので、仕方なく最終的に「ゲンゴロウブナ以外の日本のフナは1種」に整理するしかオチどころがないように思っている。どのみち「種」とか「亜種」とか言ったって線の引けない自然の現象に線を引くための整理でしかないので限界はある。
 でも、商品価値が明らかに違うニゴロブナとなじみがないけど北陸、山陰とかにいるらしいナガブナは体型が細長いので「細長系」として、いわゆるマブナなんだろうなと素人目に見える「マブナ系」のギンブナ、キンブナ、オオキンブナの2つのグループ間の違いぐらいは形態でもいいので分けて亜種のあたりを再整理してほしいと思うのだけど、どうなることやら結果がでるのはまだ先になるようである(沖縄の在来のフナは遺伝的にもちょっと違いがありそうという結果もあるようで、そこは新たに分けられるかも。)。
 ちなみに半ベラに注目してDNA調べたような報告は今のところ目にしていない。いずれにせよDNAの違いはフナではよく分からんようなので、誰か真面目に本当に「半ベラ」とされているのが鰓耙数数えてどっちにあたるのか調べてほしい。鰓耙数が中間ならほんとに交雑してる可能性もでてくるだろうし、どちらかに判定できるならどっちかだと整理するんだろう。
 個人の主観的な判断に基づいて「半ベラ」とかいって、他人の釣果と魚自体を貶めるような姿勢は、たとえその判別方法が結果正しかったとしても気分が悪いので止めていただきたいものである。どうせ私も含めみんな分かってもいない癖して偉そうなこと言うなと。でっかいフナが釣れたら喜んでおけば良いじゃないのかという気がする。このことについては文句があるなら根拠を示せと書いておく。写真の個体、ちょっと上唇伸びてるけどヘラかそうじゃないか客観的な判断基準を持って判定できる人がいたら是非教えて欲しい。

 とかく「ヘラ釣り」を始めて鼻につくのが、他者を貶めようとしているとか思えない言動である。
 「半ベラ」しかり、安竿をけなす言葉しかりである。
 そういう輩が信望している「高尚なヘラ釣り」像について坊主にくけりゃ袈裟まで憎いで、唾吐きかけて雑菌まみれのクソを塗りたくりたくなってしまうので「それをいっちゃあおしまいよ」かもしれないが書いちまおう。
 「ヘラ釣りは日本の伝統的な釣りで・・・」なにをいけしゃあしゃあと、100年だかの歴史しかないくせに。餌木とかの漁具を除いても、20世紀初めの湯川へのカワマス放流とかの時代に始まっただろう日本のルアー・フライとどんだけ歴史に違いがある。
 「大自然とのふれあいが・・・」ほとんどの釣り場で釣り用に放流されてるヘラブナが「大自然」かね?意地悪な言い方だけど、自然環境を破壊する移入種じゃないの?

 とまあ、ボロクソ書いたわけだが、じゃあ3ヶ月ほどそれなりに真面目にかつ「ゆるふわ」にヘラ釣りをやってみて、ヘラ釣りが嫌いかというと、まあ顛末記読んでもらえば分かると思うけど、正直かなり好き。深い沼におもいっきり足がハマってしまった感じがする。

 ヘラ釣りの歴史なんて、今のヘラ釣りはたぶん、餌に水中で溶けてバラケるマッシュポテトを使い始めたあたりが大きな転機で、植物プランクトン食の魚に対するある種のルアーのようにヘラ餌自体が進化し始め、日本人ならではの凝り性でガラパゴス的に他の国ではあり得ないような、訳の分からないぐらいの多種多様な楽しみ方が生じているように思う。そういう先人たちの突っ走った取り組みを、文化を享受して楽しむことができることを釣り人として幸せに思う。

 ヘラブナは釣り人のために選抜されてきて放流されてきた極めて不自然な魚である。別に漁業のためとかのような産業的な意味は小さく、観光資源とかにはなるだろうけど、自然環境にとってその放流が善か悪かと問われれば、客観的にみれば悪い面の方が多いかもしれない。
 過去に放流されたっきりで後は自然繁殖しているような釣り場であっても、同じように放流されて自然繁殖しているラージマウスバスと同程度には悪影響があるだろう。
 でもまあ、ヤマメにしろアユにしろ日本の内水面の釣りなんて、放流無しなら成り立たないぐらいのことは分かる。
 それでも若い頃は、放流由来のヤマメより自然に繁殖している支流のイワナとかをできれば釣りたい、「大自然」を堪能したいという気持ちが私にもあった。でも年を食うとそのあたりは、どうせ自然環境もグダグダに変えてしまったのに、魚だけ昔のままにと願ってもどうしようもないだろうと考えるようになった。
 今でも残っている「大自然」や古き良き里山里川里池は大事にとっておくべきだろうと思うけど、自然環境破壊の代名詞的なダムだとか、三面護岸にしちゃって日本の魚たちの多くが産卵繁殖できなくなった池とか、散逸の問題を無視すれば別にバスがいても良いし、別にヘラがいても良い。そこを利用する人たちで決めればベストだし、そうならずに釣り人のゴミとか迷惑行為が原因で立ち入り禁止になるなら、それも自業自得と思っている。

 ラージマウスバスは随分釣ったので、割と良く知っているつもりだけど、バス釣りだって自然に親しむには悪くない方法だと思う。少なくとも私の感覚ではペレット食って育った成魚をガンガン放流した自然河川を「釣り堀化」してのヤマメ釣りより自然な釣りである。随分バス釣りから学んだ。正直もっと賢くバスを利用する方法が、特定外来生物法とかによるレッテル張りで閉ざされてしまった状況が歯がゆく思うが、未だに外来生物の投棄とかがなくならない状況を見ると、愚かな釣り人が「賢く」バスを利用するのもやっぱり難しく思えてくるので、バス問題の答えは私の中では残念ながらまだない。


 でもって、「釣り堀」で浮子を眺めるという場面を想像すると、たぶんそれはヘラブナであるというぐらいの釣り堀の代表的な魚であるヘラブナだけど、釣り堀のヘラ釣りが嫌いかというとそうでもなくて、ちっちゃなプールにごっちゃりヘラブナを入れて釣る「箱」の釣りも面白いと思ったし、「箱」の中で1mの棚規定で1m以浅では釣られないということを知っているかのようなヘラブナの学習っぷりとかには恐れ入ったし、「箱」の中でモツゴが増えて稚魚が湧いているのとか見て、閉鎖された「箱」の中であっても生物はどこまで行っても、多様性にとむ複雑で興味深い「生物」でしかあり得ないのだなと感動したりもする。「箱」の中にも自然は宿る。
 「箱」でのんびりと糸を垂れる爺様達の醸し出すユルい風情も「箱」の魚たちと共に癒やしの空間を醸し出していて味わい深い。


 「箱」でも「管理池」でもヘラ釣りはキャッチアンドリリースの釣りなので、結構ボロボロの個体も釣れてくるし、死んで浮いている魚も散見される。
 嫌でもイヤっていうぐらいに、釣り人が楽しみのためだけに魚を釣って遊んでいるということの罪深さを感じてしまう。
 シーバス釣りならまずあんまり釣れないのでそんな罪悪感は年に数度の大釣りの時しか強くは感じないし、ハゼ釣りやらテナガ釣りなら「食うために釣っている」という心の免罪符があるので、実際にはリリースしながら釣るときでもあまり意識しない。
 でも、食おうがなにしようが、釣られて死んだら魚にとっては同じで、別に楽しみのために釣っているという事実が違う訳じゃない。食ったら成仏するとか、釣り人側の信仰であり、そう思うのはご自由にだけど、それで自分だけ手を汚してないつもりで他人の釣りを批判するべきじゃないと思う。釣り人に限らず現代社会に生きてる人間は他の生物に酷いことして返り血浴びまくりながら生きていることに違いはないはずだ。そう思わないのなら想像力の欠如である。
 釣られた傷が治って、鱗が変な配列になってたり口がゆがんでいたり、あるいは目がなかったり、そういう魚が無言で訴えてくる、釣り人の罪に対する断罪を我々釣り人は忘れてはならないのではないかと思う。
 そういうことを意識させてくれるだけでも、ヘラ釣りは面白いと思う。ヘラ釣りは罪深いと思う。それでも、その罪で、死後の世界がもしあって地獄に堕ちて口にでかいハリをかけて吊されるとしても、釣りをやめられない釣り人の「業」を体現している魚が「ヘラブナ」だと思っている。

 そういう、水の中では地獄のような責め苦を魚が受けているのに、水の上では釣り人が長閑に(あるいはせっぱ詰まって)釣っているという対比の認識が、餌屋やらメディアの垂れ流す情報を鵜呑みにして「高尚な釣り」だと信じているような釣り人には欠けているのではないかと思うので、ヘラ釣り真面目にやってる人が読んだら気分を害するような文章を書いてみたところである。

 ヘラ釣りは残酷な釣りだ、他のすべての釣りと同じように。だからこそ私のようなあなたのようなサディストでありつつマゾッホであるという矛盾を抱えた「釣り人」の心に深く突き刺さって抜けないのだと思う。
 ヘラブナが植物プランクトン食という他の釣りの対象魚にはあまりない食性を持つことから、餌や釣りの技術が、凝り性な日本人の性格も相まって、特殊にマニアックに追求され続けていて楽しまれてきていて、その釣りの楽しみのためだけに生産されている魚がいて釣り場が成り立っている、というこれまた特殊な背景を持ちつつ、釣り堀から天然湖沼まで様々な釣り場で親しまれている、というのがヘラブナ釣りを俯瞰した全体像だろうか。

 ヘラブナの植物プランクトン食という食性から生じる「粒子を吸い込んで捕食する」という独特の餌の食い方は、ともすればバラけた餌だけ吸われたり、吸ってもすぐ吐かれたりということに直結して、そこを何とか口の中にハリの付いた餌を少しでも長く入れさせようとするところに駆け引きや多様な技術が生じて、ヘラ釣り独特の面白さの根本的な要因の一つになっていると思う。べつにマブナ釣っておけば極論餌はミミズで済んでいただろうし、マブナ釣りが面白くないわけでもないだろうに、なぜ先人はヘラブナをそうまでして釣ろうとしたのかよくわからないが、とにかくヘラブナを釣りたいと願った釣り人達がコレまで積み上げてきた多種多様な技術には、よく考えたものだと感心させられるし、そういった技術を一つ一つ練習していくのはとても楽しい。始めて3ヶ月の初心者だけど技術の基本を体に憶えさせて、ちょっとずつ魚が釣れるようになる楽しさを味わっている。憶えなければならない技術がまだ山ほどありそうなことにも楽しみを覚えるところ。
 
 炎天下の釣りは今の体力では耐えられそうにないので、秋までいったん小休止だけど、これからもゆるふわっと、でも真面目にいろんなことを考えながらヘラ釣りを楽しんでいきたい。