2017年7月15日土曜日

私が死んでもかわりはいるもの

 っていう綾波レイの台詞を、少なくとも2人のアリの研究者が使ってるのを目にしたことがあるってくらいで、前回触れた「多女王性」の意義を象徴するような台詞である。
 というわけで侵略的外来アリ問題について、前回に引き続いて今回は侵略的外来アリ四天王と勝手に私が書いている、アルゼンチンアリ、ヒアリ、アカカミアリ、コカミアリについて紹介しつつ。多女王性のアリって実際どんなの?何でそんな性質が発達してきたの?あたりについてなるべく簡潔にとは思いつつもネチネチと書いていきたい。

 侵略的外来アリ問題のやばさの本質について、ネット上で誰も書かないんならワシが書くか、と書き始めるにあたって、過去にヒアリについて調べた香港行き直前に読んだ新書の内容がうろ覚えで、「一つの巣に沢山女王がいるっていっても、赤の他人同士が協力しあうような利他的なことって、自己の遺伝子を残そうとする生物の常からして無くって、女王が自分のクローン作って「私が死んでもかわりはいるもの」っていう感じになってるんだっけ?ヒアリとアルゼンチンアリもそうだっけ?」とか、よく分からん状態だったけど、図書館で「アリの社会」を読んでいると、同じように見える「多女王性」といっても実はいろんなパターンがあって、読んであまりの面白さに鳥肌が立つような思いだった。

 もともと、多女王性で「分巣」によって巣が増えていき、その各巣間のアリ同士が行き来するような多巣性の巨大コロニーを作るアリは、日本のエゾヤマアカアリで知られるようになったのが最初らしい。
 石狩湾一帯の海岸線が丸ごと該当するような巨大コロニーで、女王が沢山いて、同一コロニー内の隣あったぐらいの別の巣のアリ同士で喧嘩が起こらないどころか、働きアリの融通のしあいなども行われるとのこと。
 同じ種でも、自らの遺伝子を残すために、別の巣のアリとは殺しあいも含む喧嘩になるのが常識だったアリの社会において、別の巣のアリどうしで協力しているような事例は、生物の戦略の多様性上とても興味深い発見とされたらしい。
 エゾヤマアカアリの事例では、比較的高緯度の寒冷な地域でのことであり、そういった厳しい環境では、女王が死んで群が終焉するリスクなどに対して、ある程度血縁関係のある集団間で協力しあって、働きアリはおろか女王すら融通しあう事によるメリットが大きく。結果全体として自らの遺伝子を残すことに貢献すると解釈されているようだ。
 実際には巨大コロニー内でも隣あった巣同士の緊密さと遠く離れた端どうしの巣の緊密さでは差があって、「近所の近しい親戚とはより仲良くする」というような繋がりでできている社会らしい。
 いずれにせよそこまで血縁関係が濃くない沢山の女王をかかえるコロニーが作られることもあるようで、多女王性といっても、女王がクローンを用意するような「私が死んでもかわりはいるもの」的に、女王が確実に自らの遺伝子を継ぐものを増やしていくという形のものだけではなく、生物の戦略の多様性に驚くところである。

 ここで、侵略的外来アリ四天王の多女王性がどのようなものか簡潔に整理したい。
 まず、血縁関係がもっとも濃くなる女王がクローンを作るのがコカミアリ。
 クローンは作らないけど、近親交配を繰り返すような繁殖形態で濃い血縁関係をたもつのがアルゼンチンアリ。
 多女王性と単独女王性が遺伝的に決定され、種としてはどちらの戦略もとり、多女王性のコロニーでは新たに生まれた女王が近くに巣を作りコロニーを大きくしていくヒアリ。
 アカカミアリは残念ながら調べきれなかったので不明。
 という感じで、分かった範囲ではいずれも血縁度の濃い複数の女王を持つコロニーが分巣したり、条件がよいところではコロニーが複合していき巨大化したりするようだ。

 このような血縁の濃い多女王性は、これら4種が、比較的気温の高く雨季乾季など環境変動が大きい地域を原産地としていて、その原産地の環境に合わせて他の生物との関係とかから生き延びるために得てきたのだと思う。

 4種とも南米または北米南部から中米という生物多様性の豊かな、視点を変えれば生存競争の激しい環境で、時に雨期には元の巣が水没するような場所でも生きていけるように、水没してもアリの群でできた筏を作ったりする能力などを持って生きている。また、逆にそういった環境変動によって「空き地」ができたなら素早く侵入して占領してしまえるように、女王をを複数持つ群で、分巣した小さな群をダメもとで送り込んで新しい環境への進出に挑戦し続けることができるようになっているのではないかというのが私の推論。

 個別の種ごとに少し突っ込んで紹介してみよう。
 ネットの情報はあてにならないのが多かったけど、「兵庫県立人と自然の博物館」のサイトの解説は丁寧でよくまとまっていいて参考になった。あと基本情報としては「国立環境研究所侵入生物データベース」というサイトが網羅的で便利。これらの情報も参考に図書館でお勉強したことやらなにやらをまとめてグチャグチャ書いてみたい。

 ヒアリは、南米ラプラタ川上流亜熱帯原産で、赤土が露出したような川岸や林縁の開けた環境にアリ塚を作って地中に巣を作る。というまさに、密林のような安定した環境ではなく、水没したりする開けた川岸などに適応している生態。
 そういう環境で、単独女王性、多女王性の2つのタイプを使い分け、遠くへの拡散には単独女王性の新女王が飛んでいき、近場の繁殖では、条件がよいと多女王性の新女王が次々生まれて、多女王性の新女王は遠くまで飛ぶ能力が無いらしく新しくできた巣も複合していってスーパーコロニーと呼ばれる大規模なコロニーを作ってしまう。
 移入の歴史は、アメリカで始まり1930年代アラバマ州を皮切りに分布を広げ、かの地では「悪夢」とまで呼ばれる。健康被害や農業被害、電源設備の障害、在来アリ群集への影響を介して生態系全体に影響が及ぶことなどが報告されているのは各種報道されている通り。
 特に、開けた環境に素早く侵入して定着する性質が、人間が切り開いた環境に適応的とみられ、公園やら農地、庭などが生息地になることが被害に会う機会を大きくしていると思う。
 逆に、移入先であっても在来アリの多くいるような安定した環境では定着しにくいというような報告もあり、ネット上で話題になっている「在来アリがヒアリをシャットアウトするんじゃないか?」という期待もあながち根拠のないデマというわけではないようだ。ただ、移入種が移入先でどのような行動をとり結果どうなるかというのは、結果として後からどういう要素が働いてどうなったのかというのを説明することはできても、事前に予測することは全くできない。未来予想は不可能である。
 定着できないかもしれないし、爆発的に増えて生態系を一変させてしまうかもしれない。
 よく、ラージマウスバスやブルーギルについて、日本の淡水魚にはない卵を守る生態から敵が少なく爆発的に増えたとか言ってる識者?がいるけど、後出しじゃんけんもはなはだしい。じゃあ同じように卵を守るサンフィッシュ科のウォーマウスとか淡水真珠の幼生の寄生先候補として導入しようとしたけど定着しなかったのはなぜか?最初の赤星鉄馬氏による放流時に一緒に放流されたスモールマウスバスがその時は定着せず近年になって定着できたのはなぜか?とか、そもそも日本の淡水にもオヤニラミとかドンコとか卵を守る魚もいるのになに言ってんだ、そんなことはムギツクでも知ってるぞという感じで、識者だかなんだか分からん人間のいってることもあてにならない。
 ヒアリについても今後の結果は現時点ではよく分からない。でもよその国をみるとやばい可能性が高い。だからこそ慎重になって予防的に振る舞うことが大事だと、ちゃんとした識者の方が言ってるんだと思う。

 でもって、すでに結構日本に定着しつつあるアルゼンチンアリ。広島の木材港から始まって、神戸中心に大阪から山口の瀬戸内海の港町、名古屋から東京にかけての大きな港を中心にした都市部などに進出中。
 体が大きいわけでも、ヒアリのように刺すわけでもなく、原産地を調査に行った研究者の報告によると、ブエノスアイレスの街中では他の種と棲み分けているのか地味な目立たないような種だそうだ。
 それが、世界各地の移入先では、在来のアリを攻撃、餌にして駆逐し、この種が侵入した場所では他のアリがみられなくなってしまうという暴れっぷり。おそらく原産地での地味な生態から移入先での破壊的な猛威を予想できた人間はいないだろう。移入先でどんな化け方をするかは予想できない。日本のマメコガネがアメリカとかで猛威をふるう農業害虫になるとはマメコガネ知ってる日本人には想像もできなかっただろう。向こうでの被害写真とか、葉っぱに群れて食い荒らしているのをみると、自分の知ってるマメコガネだとはどうにも信じられない気がするぐらいだ。
 山口県の岩国での現地調査の報告を読んだけど、アルゼンチンアリのいるエリアにはまったく他の種類のアリがみられなくなっているそうで、被害先進国と同じようなことが起こりつつあるようだ。
 また、この種がやっかいなのは、水没するようなところでも棲むせいか、巣を割と高い位置の木の隙間とかに作るうえに移動性が高く、家の中まで入ってきて食料をあさるという人間生活に土足で突っ込んでくるようなタチの悪さがある。ヒアリのような刺す針は持っていないけど攻撃性は高いそうで、家の中に巣を作られて、寝てたら群に噛まれたとかありそうで怖い。車なんかにも巣を作ったりするようだし、ヒアリでも指摘されているけど電源施設の油にひかれるのかそういった設備の損傷も引き起こす。
 そういった厄介な性質に加え、なんといってもこの種について「最悪だ!ヒアリよりまだ悪い!」と私が思うのは、とてつもなくでかいコロニーを作ることである。他の在来アリを駆逐するような厄介なヤツがものすごい広い範囲にわたるコロニーを作ったときの影響の大きさたるや。

 どのくらい大きいかって?

 ポルトガルからイタリアまでの海岸線一帯にかけての超巨大コロニーが確認されている。と書いたら、驚いていただけるだろうか?

 メチャクチャである。ちょっと信じられないが事実のようで戦慄を覚える。
 何でそんなことになるのか。そんなことができるのか。
 最初の方で同じ多女王性といっても多様であることに言及した。女王が遺伝的に全く同一のクローンの場合から、北海道のエゾヤマアカアリの例にみるように「親戚」程度の血縁度の女王どうし巣どうしで協力関係にあることまで様々である。
 アリの仲間は体表面の炭化水素、簡単にいえば臭いで仲間を識別しており、その臭いは血縁度が近ければ近く、血縁度が近いものの方が強い協力関係を築くことが容易。
 血縁の薄いものどうしで協力することは「裏切り」を食らったときに自身の遺伝子を残せなくなるリスクが大きくなることもあり、そういった協力は発達しにくいように思う。
 エゾヤマアカアリの場合は、厳しくても安定した環境下なので「親戚」どうしの「近所づきあい」が永く続くので「裏切り」には何らかの制裁を加えることが可能であり比較的薄い血縁度の多女王性が発達したのではないかと推測する。逆に雨期のたびに離散集合を繰り返すような侵略的外来アリたちの故郷では「裏切り」による逃げ得が発生するので「他人」とは協力できず、血縁度の高い多女王性が発達してきたのではないかとこれまた推測する。
 血縁度が高い多女王性のデメリットもある。集団内の遺伝的多様性の低下がおき、環境変化に対応できなくなったり、同じ病気で全滅するようなリスクが増える。
 しかしながら、移入種において遺伝的多様度が低いデメリットを移入先に天敵がいないこと等のメリットが上周り個体数を増やすということがあることも報告されている。最初の導入時の個体数が少なかった日本のラージマウスバスにみられる現象である。
 これが、アルゼンチンアリにはイヤっていうぐらいにあてはまったようだ。
 アルゼンチンアリの婚姻形態はほとんど近親婚しか生じ得ない形をとっている。
 普通、アリの婚姻形態は羽の生えた新女王と雄アリが巣から飛び立って交尾する結婚飛行という形をとる。このときに他の巣同士で交わるし遠くへも分布を広げられる。
 しかし、アルゼンチンアリの、少なくとも原産地以外へ侵入した個体群においては、新女王は羽を持たず巣から出ずに雄アリと交尾する箱入り娘。雄アリは羽を持ち別の巣へ飛んでいくことはできるが、血縁度の高い同一コロニー以外の巣の奥にいる箱入り娘な新女王と交尾しようとしても巣の働きアリに殺される。
 アルゼンチンアリは、女王アリが1匹で巣を立ち上げる結婚飛行による分布拡大を捨てて、コロニー内の近親婚により「分巣」のみで、最初から女王をバックアップしなかがら新しい巣を増やしていく方向に特化している。「新婚旅行にかけるコストなんて無駄」って感じでスープの冷めない親元近くの新居と子作りにコストをかけるイメージか。結婚旅行して新たなコロニーを単身で作り始める新女王は他の生物に食われて死ぬことも多い。数うちゃ当たるで多くの新女王を大空に羽ばたかせるには相当なコストがかかる。分巣方式なら新女王の生残率は高く同じコストでより多くの巣が増えていく。
 この方法では、安定した環境なら巣を広げる範囲は元の巣から遠くはないはずだが、木の上に巣を作り雨期に水没するような環境下では、木ごと流されることなどで分布を広げることができたのではないだろうかと想像する。
 それでも原産地では、数あるアリの一種として地味な生態的地位に甘んじているこのアリが、増水で流される流木という危険な乗り物から、人間が船、鉄道、トラックなどで運ぶ木材やカーゴといった安全に確実性高く新天地へ連れていってくれる乗り物に乗り換えたとき、全世界への侵略が始まったのであろう。
 現在、アメリカ南東部、オーストラリアやハワイなどオセアニア全域、ヨーロッパ、南アフリカなどに生息が広がっている。恐ろしいことにヨーロッパの超巨大コロニーと日本で繁殖している系統の一つが同じ遺伝子集団とみられ、そういった観点でみると、地理的には不連続ながらも全世界を飲み込むような超々巨大コロニーが出現する可能性さえ否定できないようだ。遺伝的多様生が少ないがゆえの「世界のアルゼンチンアリ皆兄弟!」的な数の猛威が恐ろしい。
 人間がグローバルに物資を動かすという時代にドハマりし侵略的に分布を広げ、遺伝的多様生が少ないが故に別の巣同士であっても連携しやすく超巨大なコロニーを作り、人の家にずけずけと上がり込むやっかいな性格と他のアリ含め何でも食っちゃう食いしん坊。
 遺伝的多様生が少ない状態での爆発的な増加は病気のリスクとかの増大をまねくので、外来生物としてのアルゼンチンアリは滅びへ向かっているのではないかという見方もある中、「アリの社会」でアルゼンチンアリの項目を担当した研究者は、とても今の状況では滅びるようには見えず、今後どうなるか全く想像がつかないと書いている。よしんばいきなり病気が流行って一気に全滅ということになったら、それはそれでアルゼンチンアリが在来アリから奪って担っていた生態系での役割もあったはずで、その後のアリ達の国取り合戦含め生物群集に大混乱を巻き起こすだろう。
 ヒアリのように刺すわけでもない、地味なちっちゃなアリがとんでもなくやばい生き物だということがご理解いただけたであろうか。
 人は毒を持っていたり肉食だったりする生物により恐れを抱く。でもそうでもない地味な輩がホントにやばかったりするのである。いかにもマンガとかのラスボスでもありそうな設定。
 ヒアリもやばいけど、それ以上にクソやばいやつがいて、すでに日本にも生息しているということを多くの人に知ってもらいたいところである。
 ラスボスはアルゼンチンアリ!

 四天王の3番目はアカカミアリ。
 実はこいつも国内で既に生息している。
 こいつはヒアリに近い仲間だそうで、アメリカ南部や中南米が原産地。アメリカとかではファイアーアント(火蟻)の一種として扱われ、アメリカでのヒアリ被害の数字とか出てくると、こいつとかも含めた数字のようである。
 分けて呼ぶ場合は”トロピック(熱帯性)”ファイアーアントと呼ぶようで、その呼び名のとおり暑い地域に生息する。ということで、世界の熱帯から亜熱帯に侵略し分布を広げていて、日本でも沖縄と小笠原諸島に生息。
 とりあえず温暖化進めばやばいのかもしれないけど、本州は大丈夫そうだなとホッとして、我がことながら反省した。そうやってかえりみられず切り捨てられてきた沖縄をはじめとした離島や地方の歴史を、暑い夏には特に忘れちゃならないような気がする。
 日本への進入経路は、米軍の物資経由だろうとみられていて生息地も沖縄では米軍基地中心とした地域。「アメリカさんちゃんと検疫してよと」沖縄に次ぐ基地県である神奈川県民としても苦情を書いておきたい。
 生物の話として特に書いておきたいのは、島諸の生態系は移入種に弱いということ。日本自体が島国なので「ガラパゴス化」って言葉があるぐらい島では独自の生態系が発達して固有種とかが多いというのは理解しやすいかと思うけど、沖縄や小笠原などの小さな島では、よりその傾向が強く出て、微妙なバランスの生態系は外からやってきた「強い」侵略種にやられてしまう「弱さ」を持っている。なので侵略的な移入種の持ち込みにはよりいっそうの注意が必要だと書いておく。
 象徴的な出来事として、インド洋のクリスマス島(私が行ったのは太平洋のクリスマス島)のクリスマスアカガニが、固有の天敵であったクリスマスクマネズミの絶滅にともなって、島の森で敵もなく優先種として、産卵期にはカニが溢れる島として有名なぐらいの繁栄を謳歌していたのだけど、近年アフリカから移入してきたアシナガキアリが爆発的に増え脅威にさらされているとのこと。
 南の島の楽園も、楽園たるには相応の理由がある。外敵も来ない絶海の孤島は変化はなくても安定した日常をもたらす。島に宝をもたらす船には島の平穏を脅かす病魔や害悪も乗ってくる。
 都合よく良いものだけを島に入れようとしても「良いもの」が何であるのかさえ、立つ位置が違えば違ってくるぐらいで、そんな都合のいいことは不可能であることをよく認識しておかなけらばならないと思う。
 カーゴや木材から、蟻一匹漏らさず検査することなんてどだい無理で、グローバルにモノを動かすなら、そういったリスクは当然有ると織り込んで、なるべく予防的な措置をとりつつも、いつでも想定外のことは起こるのだから、その都度一所懸命考えながら最善手を模索していくしかないのだろうと思う。
 
 ラストはコカミアリ。まだ日本には生息していないけど、熱帯亜熱帯のアメリカ南部から中米、アフリカ、太平洋諸島に分布を広げていて、いつ侵入してきてもおかしくはない。
 アメリカではこいつも火蟻の一つとして数えているようで”リトル”ファイアーアントと呼ばれているようだ。ちっちゃいけど刺します。あと昼夜問わず働くワーカホリックのようで餌をとる能力は高いという情報あり。
 こいつについては、やばさよりも面白さが正直目について困ってしまう。現実の生物というものは、時にSF作家が想像の限りを尽くして創造した奇怪なクリーチャーよりも想像を絶するぐらいに不可思議。
 長くなってきたので既に忘れているかもしれないけど、最初の方のまとめで書いたように、この種は、交尾後の女王蟻が自分と全く同じ遺伝子をもつクローンを生んで増やすことによって、100%遺伝的に同型という血縁度の極めて高い沢山の女王を有するコロニーを作る。女王が同一コロニーの他の女王のために命を落としても、他の女王も遺伝子に着目すると自分と同じなのだから「自分」のためということになり「裏切り」によるリスクを考慮しなくてよい強い連携関係が作れる。
 しかも、働きアリには雄との交尾で交配した結果の卵を使い遺伝的な多様性を確保する。働きアリは卵を生まない。
 雄は次世代を残さない働きアリの品質向上に使われるだけという仕打ち。
 意外とこのタイプのアリはいるようで、ほかにもウマアリ属がこの手の繁殖方法をとることが知られている。
 というところまででも正直お腹いっぱいな感じの面白さで、前回香港行きの前にヒアリの勉強しててそういうアリがいることを知ったときにも感動したもので、今回もその話を書いたろと、おさらいのつもりで調べ初めて、そのさらに続きがあったことにうれしい驚きと興奮を禁じ得ない。

 コカミアリ、雄もクローン。

 ンッ?なにいってるんだ?と思うかもしれない。雄が卵生むわけあるまいし雄がクローンってどういうことだと疑問に思うだろう。誰だってそう思う俺だってそう思う。
 ここでマシジミ(蝶じゃなくて貝のほう)を思い出した人は相当な生物オタクか水産業界人。
 マシジミは「受精卵は雌性前核も放出して雄性前核のみでクローン発生する極めて特殊な繁殖法、すなわち雄性発生をする。」んだそうだ。そういえば聞いたことある。
 ようするに雌の作った卵は使うけど、雌の遺伝子は捨ててしまって雄の遺伝子だけつかって雄のクローンを作るってこと。分かっていただけただろうか。
 日本語版の「ネイチャー」のサイトには「女王アリに雄が「クローンの逆襲」」というタイトルが踊る。自分の遺伝子を次代を生まない働きアリにしか使わない女王に対する反逆という、雌雄の対立を表していて「実際には、このアリの女王と雄は別種として分類すべきなのかもしれない」と解説する記事も紹介されている。たしかに交尾してもそれぞれのクローン作って遺伝的に交わらないのなら別々に進化が進んでいく「別種」なのかもしれない。
 ホエーッすんごいことがあるもんだな。このネタどっかで書いたろと思っていたら、図書館でのお勉強でさらに驚きの展開が。

 全部女王のたくらみでした。

 もうね、後ろで糸引いてたのは実は「女」だったとか、推理小説並の大どんでん返し。
 実は、雄がクローン作っているのは移入先だけのようで、原産地ではクローンじゃない雄を作る繁殖形式をとっているということが調べたら判明。
 で、研究者は移入先の雄が原因でクローン作ってるのか女王が原因なのか、原産地のと掛け合わせてDNA調べてみました。結果、女王が原因。遺伝子抜けた「空の卵」を女王が用意してるんじゃないかという予想。
 移入先では遺伝的な多様性が不足しがちなので、雄にまで自分の遺伝子が入って血が濃くなりすぎるデメリットを防いで遺伝的多様性を保つためとか、そんな感じの理由なのだろうか?いずれにせよ雄なんて有性生殖で遺伝子シャッフルして多様性確保するためだけのモノでいい、というオスとしては切なくなる話。
 村上龍先生がエッセイのタイトルにしていたように「すべての男は消耗品である。」ということなのだろうか。ガックシ。

 血縁度の高い多女王性の場合、遺伝子の多様性の確保はどの種でも同様に問題となるようで、結婚飛行の時はクローンじゃない交配した遺伝子を持った新女王と雄を送り出すとか回避策はなにかしら持っているらしい。どうやっても近親婚にしかなりそうにないアルゼンチンアリでも、日本に入ってきているのはは5タイプぐらいのコロニーに分かれる遺伝的集団に分かれるようで(ということは5回は侵入許してることになる)完全に均一にはならずにシャッフルする方法を持っているようだ。
 その方法が、思いもよらぬ奇想天外な方法でも、実は原産地からの供給だけで移入先では一切シャッフルなしで、ウイルス感染かなんかでドカンと全滅しても、もうこれ以上驚かないようにしたい。でも驚くんだろうな。生物は人間の予想できないようなキテレツなことをやってのける。生物は常に変化し続ける。今日の正解は明日には誤解だと明らかになるかもしれない。
 社会性昆虫の「生存戦略」なんてのは、今時のDNA解析とかの分子生物学的な手法とモデル作ってでっかいコンピューター回してシミュレーションしてとかいう数理モデル的な手法を併用することが功を奏する複雑な分野で、まさに今時の科学が切り開いていくのをリアルタイムで接することができるということを暁光と感じる。


 今回、長々と書いてきた理由も、一つにはいい加減な報道情報、なにがホントか分からないネット情報をみるにつけ、ちょっとまとまった情報を分かりやすい言葉で面白くまとめておくのは必要なのかなと思ったのと、純粋に自然科学の知識として侵略的外来アリの生態やらが面白すぎて止まらんようになったからである。

 正直自分でも文章が長すぎると分かっちゃいるけど、このくらいは書かないと面白いところまで突っ込めない。さらにオマケを2回分ぐらい書くつもりでいるので長いのはご容赦願って読んでほしい。


 最後に極力言葉を削って言い換えて、これまでの内容を3行にして筆を置きたい。筆なんて使ってないけど。

○「多女王性」を持つ侵略的外来アリは女王が家来ひき連れてやってくるのでやばい

○アルゼンチンアリがグローバルスタンダード仕様で特にやばい

○アリとか社会性昆虫の「生存戦略」は面白すぎる

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