2017年7月14日金曜日

いまだ日本侵略を果たせていないヒアリなど我ら侵略的外来アリ四天王の面汚し!!


 と、ラスボスっぽいアルゼンチンアリが言ってるかどうか知らないけど、なんか今になってマスコミとかが、「ヒアリ危険!危険!」と騒ぎまくっているのをみると、その騒ぎ方のなにも分かってないバカさ加減というか浅はかさが鼻につく。

 まあ、一般の人々が関心を持って監視して、侵入を早期発見できれば、NZでは侵入早期段階での駆逐に成功したらしいので、大げさに書き立てて関心を煽る記事も悪いことではないのかもしれない。本格的に定着されてっしまってからの駆除はいまだどこの国でも成功していないらしい。
 でも、それアルゼンチンアリの時やっとけよ、と正直思う。アルゼンチンアリはすでに国内定着しつつあるけど、たぶん「なにそれ?」と初耳の人の方が多いだろう。後ほどのけぞるようなこのアリの実態も紹介したいと思う。

 ハチのように刺すという分かりやすい人間への攻撃性の印象が強いのでヒアリが「最凶」の「侵略的外来アリ」と騒がれがちで、事実そういう意味でたちの悪いアリというのは間違いではないと思うけど、ぶっちゃけスズメバチがブンブン飛んでる日本では外にでれば男には7匹の敵がいるぐらいで、毒虫、毒蛇、毒植物など珍しくなく、ことさらヒアリだけが危ない訳じゃなく。刺すから、毒があるからというだけで、ヒアリを語るのは恐がり方としても不十分だし、なぜこの手の侵略的外来アリがやばいのか、なぜ「侵略的」に振る舞えるのか?という根本的なところが全く抜け落ちていて語られていないと思う。そここそ「ヒアリ問題」のキモだろうに、と思う。
 そのあたりは、今の生物学を見回してももっとも熱い分野の一つとなっている「社会性昆虫の生態学」というクソ面白い話になっていくので、なぜそういうオツユたっぷりな部分をマスコミでもネットでも突っ込んでいって分かりやすく書いている人が見あたらないのか、誰も書かないのなら不肖私めが書いてみようと思ったところである。
 ネットの情報は玉石混交だけど、今回、ネットで調べようとしてみて、ヒアリの巣に手を突っ込む海外のユーチューバーの映像とか「ヒアリ怖い」的な情報があふれすぎていて、まともな情報が極めて得にくかった。結局、以前読んだアリ研究者の新書を探しに本屋に行って見つからず、図書館まで行って「アリの社会-小さな虫の大きな知恵-」坂本洋典ほか著という、アリ研究者たちが最近のアリ研究の話題や、まさにヒアリやアルゼンチンアリについても解説されているすばらしい「アリ本」を見つけて、あまりの面白さに時間を忘れて午後一から夕方までかかって一気読みしてきた。誰でも無料で利用できる、本という形での情報の保管・提供施設としての図書館のさすがのありがたさを改めて感じたところである。
 これから、「侵略的外来アリ」の問題を中心にちょこちょこと面白いところをつまんで紹介していくけど、私の理解は所詮素人の一夜漬けでしかなく、面白さ重視で間違ってることも書いちゃってるかも?というところもこれあり、分かりやすく書かれていて生物好きなら間違いなく楽しめると思うのでネタ元の「アリの社会」も是非一読されることをお勧めしておきます。
 それでは、ご用とお急ぎでない人はお立ち会い。

 ヒアリ、実はそれらしいアリの実物を見たことがあって、香港にアフリカンクララを釣りに行ったときの川岸でだけど、パンを餌に小物釣りをしていたら、そのパンにたかったアリが「たぶんヒアリですよ」と案内してもらったはまさんから教えてもらった。上の写真のアリがそれである。座ってパシフィックターポンのテーリング待ちをしていると結構刺されるそうで、その日もお腹を刺されたとかで赤く腫れているのを見せてくれた。痛いとはいってたけど、はまさんあんまり気にしてないようで、なかなかの剛の者だなと頼もしく思ったものである。
 巣を踏むと大量のアリにまとわりつかれて刺されるし、ズボンの裾から侵入されると何度も刺すらしいので、釣り場ではハイソックスにズボンの裾を突っ込むゲートルスタイルで防衛策をとっていた。っていうぐらいに居たらめんどくさいし刺されたくもないけど、割と香港の釣り人たちは気にしてないようで、ヒアリが居ると聞いてたので事前にお勉強してちょっとビビっていた私としては、いささか拍子抜けする初めてのヒアリ遭遇であった。

 刺されたらいやだし、アナフィラキシー症状も怖いしで舐めてかかってよい代物ではないにしても、巣を作るのがまさに河原の草むらとか田畑の畦とかの開けた環境なので、居そうな場所にいく場合には対策練って行けば、刺されること事態はそれほど怖くないように思う。繰り返すけど舐めていいわけじゃないけど、この程度の毒虫いくらでも他にいるだろうと思う。

 世の研究者の情熱には正直言って尊敬を通り越して、「こいつキ○ガイやろ」と思わされる事例が散見されるけど、生き物情報紹介系サイトで何度か紹介されているのをみる、そういう研究者であるアメリカのジャスティン・スティミッド博士が実際に147種の主に北米大陸の昆虫に「刺させて」痛みをレベル1~4に分類しつつトップ10を選出しているのだが、その中でもヒアリはランキング9位にかろうじて入っている程度で、痛みレベル1.2刺「されたときの痛みは鋭いがいたって普通のレベルで、ヒリヒリ感が残る程度だ。」となっていて、そんなに刺されて恐ろしい虫ではないように感じる。
 ちなみにミツバチが5位でレベル2.0。ベストというかワースト3は、3位アシナガバチでレベル3.0。
 2位オオベッコウバチのレベル4.0は「電気ショックが駆け巡るようなすざまじい痛み」。
 堂々の1位はサシハリアリのレベル4.0+「純粋な激痛」だそうである(オマケ1有り:痛い虫ランキング関係ネタを別途まとめる予定)。

 というぐらいで、単純な個体のあるいは巣の群ででも「刺す毒虫」という怖さだけなら、それほど怖くはない。じゃあ、侵略的外来アリとしての評価が痛さランキング1位のサシハリアリの方が危ないかといったら、全くそんなことはなくてヒアリの方が圧倒的にやばいはずである。

 なぜやばいのか?キモになる重要な要素として「多女王性」というのがあると見て間違いないだろう。多女王性がどのようにして発達したのか、どのような実態なのかをひもとけば、自ずとヒアリをはじめとした侵略的外来アリのやばさ、なぜ侵略的なのか?あたりが見えてくる。
 報道などでは「ヒアリの女王アリは1日の産卵数が多いので繁殖力が強く危険」というようなまったくの的外れな説明が散見される。産卵数がほかの種と比べてどのくらい多いのかも全くわからんちんな上に、本質的に一番重要な多女王性に触れている報道は皆無である。マスコミの役割って何なんだろうねと薄ら寒くなる。
 
 世界的にみて侵略的な外来生物として危険視されているアリは他にもいるようだが、我が国で外来生物法による特定外来生物に指定されているアリは、アルゼンチンアリ、ヒアリ、アカカミアリ、コカミアリの4種で、この「四天王」のうちアカカミアリだけ明確な記載を見つけられなかったのだけど、他の3種は一つの巣に多くの女王が存在する多女王性を持つ。アカカミアリもヒアリに近い種だそうで間違いなく多女王性だと私はみている。

 多女王性を持つアリこそが、グローバルに人が物資を動かす時代に生息地を広げる侵略的な生物足り得る、とちょっと考えれば納得する。
 一つの群に女王が沢山いる場合、「分巣」といわれる行動で女王ごと群から少数の分派したアリ達、が木材やコンテナに紛れ込んだときに、発見されずに遠くまで運ばれて、運ばれた先で即座に新しい環境で「群」として繁殖活動を開始し生息地を広めることができる。
 女王アリが一つの群に1匹しかいないアリではこうはいかない。群の「単独女王」は死ねばその群の終焉を意味するぐらいであり、まずはおいそれと女王みずから新天地開拓にのぞまない。ふつうは巣の奥にしっかりと兵隊アリにガードされながら鎮座している。決まった巣を持たず女王ごと大群で「さすらう」軍隊アリの仲間もいるが、その場合さすがに女王を含む何万の大群ごと見つからずに密航できるとは思えない。逆に働きアリだけの群の一部が船に乗れたとしても、船が着いた先では繁殖できない。ハチ・アリの雄雌の性決定システムからして多くのアリでは雄と交尾しない働きアリは産卵できても雄しか生めない。
 結婚飛行で交尾をすませた単独の女王なら密航はできそうだが、単身新天地での王国創立は難易度が高いのか、侵略的な外来アリは、家来を引き連れてやってくる多女王性のアリばかりと見受けられる。

 進化というのが、環境に適応したものだけを淘汰し選ぶものだとすれば、多女王性を持ったアリは、人がグローバルに物資を動かすという環境に適応的であるといえるのかもしれない。
 この、人が動かす物資にくっついて、素早く広く分布を広げる「侵略性」こそが、侵略的外来アリの真のやばさの根元だと断言する。
 ヒアリの侵入による悪影響として、まずは刺すことによる人的被害、そして電源設備を故障させることや農作物への被害など経済的損失、在来のアリの駆逐や生態系の攪乱といった自然環境破壊の危険性の3点があげられていて、それぞれ間違いではないし、特に3点目とか数の多いアリという生物が生態系で果たす役割は大きく、アリの巣の中に棲む「好蟻性生物(オマケ2あります:おもしろいネタなので事例を別途まとめて紹介予定)」なんていうアリなしでは生きていけない生物をはじめ、死んだ生き物の掃除から、植物の種の拡散、他種の餌としてから様々な役割を果たしていて、それがいきなり外来種に置き変わったときの影響は「まずいことになりそうだ」と想像できる。
 でもそれらそれぞれの影響は、他の外来生物にもあてはまるけど、たとえばセアカゴケグモのように、定着したけど誰も刺されてもないし、生態系にもそんなに影響があるのか疑問に思うぐらいの事例と本質的には変わらない。だからセアカゴケグモみたいに大したことないのではないかと思ってしまうかもしれない。
 全く違うのである。侵略的外来アリについては、それらの悪影響が、港について侵入した後にも国内の物流に乗って迅速に広く「侵略」していくことで拡大する。しかもアリは個体数も多く関係する生物種も多く人と接触する機会も段違いに多い。その事こそが、侵略的外来アリのやばさの本質である。
 グローバルな物流時代の申し子的なやばい生き物だということがおわかりいただけただろうか。
 学者はじめ専門家がこぞって「水際で何とかくい止めろ」と必死になっているのもうなずけるやばさなのである。

 じゃあ何でそいつらは多女王性なんて生態を持ってるの?それがいいのなら他のアリはなんで単独女王性なの?あたりを調べていくと、実に興味深いコクのある話に突っ込んでいくことになる。
 これから、特定外来生物に指定された4種の侵略的外来アリを紹介しつつそのあたり語ってみたいと思っているけど、個別具体的な話は枝葉といえば枝葉なので、興味のない人は「侵略的外来アリのやばさは多女王性に起因し、物流による広く迅速な拡散で影響が大きくなることが本質」とだけ頭にひっかけておいて欲しい。
 続きが気になる方は引き続きおつきあいを。

 と書いたところだけど、既にだいぶ長い文章になって読む方もそうかもだけど、書くのが疲れてきた。最初に大事なところをサクッと書いて、後はおつゆたっぷりなアタリをネチネチ書くかと思って書き始めたら、大事なところを書いただけでけっこう時間がかかって、このあとどのくらい長々と書くことになるのか分からん状態である。
 ということで続きは次回。という「ナマジのブログ」初の「引き終わり」となることをご容赦願いたい。しばらくこのネタ引っ張ります。

←to be continued

1 件のコメント:

  1. ジャスティン・スティミッド博士、お亡くなりになったようだ。合掌。

    返信削除