2024年1月27日土曜日

わが家では酒ではなく米が盗まれていく-ナマジのビンボ飯酒盗編-

  釣り場で仲良くなった地元の釣り人から、ワシが魚料理する人間と知ってるので「友達がカマスで塩辛作ったら旨かったって言ってたよ」と教えてもらった、塩辛って、いくつかタイプがあってカマスの内臓ってたいした量じゃないから、切り身を麹とかを使って浅く漬け込んだものを想像したけど、どうもそうじゃなくて内臓の塩辛でいわゆるカツオとかで作る”酒盗”のカマス版のようである。


 「フッ、まだそんな手が・・・ 残っていたとはな・・・」

 カマス料理は様々試してきたけど、その発想はなかった。考えてみれば、カマス1匹1匹の内臓は少なくても、まとめて干物作るときとかにはそれなりの量が出る。右の写真で15匹分ぐらいである。ワシ、浮き袋のプルプルした食感とか好きなので、出汁が出ることもあって味噌汁にぶち込んだりしてきたが、その他の多くの内臓はコマセ用として利用していて、食用には回していなかった。塩辛というのはさっきもちょっと触れたように、麹を利用して魚介の身を分解してアミノ酸とか美味しい成分を引き出して作る、イカの”白作り”のようなものもあるけど、基本的には魚介の内臓の消化酵素(+場合によっては微生物)を利用して、魚介の内臓や身を分解熟成させて作る食品である。なので作り方は簡単で、後者の場合内臓ごとぶった切った切り身などに、腐敗細菌が増殖しにくいように10%以上とかの塩をぶち込んでその名の通り塩辛く仕上げた保存食である。保存食なんだけど、タンパク質が分解されてできた濃厚な旨味が感じられ、調味料として使えるぐらいの濃い味なのでしょっぱさと相まって、飯が進む代物であり、カツオの内臓で作ったそれは酒が進むアテであり「酒盗」と名付けられている。塩辛といえば「イカの塩辛」が各種地方色もあり代表的だけど、沖縄では藻を食い始める前の腹が綺麗なアイゴの仲間の稚魚”スク”を飽和食塩水で丸ごと漬け込んだ「スクガラズ」なんてのもあるし、三陸他で食べられる日本版アンチョビー、カタクチイワシに塩ぶち込んで置いただけの「塩イワシ」なんてのもあり、洋の東西問わず保存しようとして塩ぶち込んだら、なんかしょっぱいけど良い味に熟れたモノになったという食べ方が存在するっていうのも当然の成り行きだとおもうけど面白い。マニアックなところではアユの内臓を使った「ウルカ」そのなかでも精巣だけをつかった「白ウルカ」、塩鮭作る時にハラワタを出したあと、背骨にこびり付いている背ワタ(腎臓)をスプーンでこそげ落として集めて作った塩辛「メフン」もヒンナだし、ナマコの内臓の塩辛「このわた」、シオマネキの塩辛「ガン漬け」などなど色々ある。東北在住時、スーパーとかでホヤの塩辛とかイサダアミ(ツノナシオキアミ)の塩辛とかいかにも三陸っぽい塩辛も売っていたのも思い出される。てなかんじで各地で様々な材料で作られてきたのが分かる。要するに沢山取れて塩漬けにしてみた、とか内臓が余ったので塩漬けにしてみた、とかが各地でいろんな素材でやられてきたっていうことなんだろう。懐かしのホヤの塩辛はあまり熟成をすすめさせたものではなく、浅い熟れぐあいで、プレーンのに加えシソ味、キムチ味とかあって、ホヤ自体大好物だったけど、シソ味塩辛はあれば必ず買うぐらいに良い味だったのも懐かしく思い出される。で、塩辛自体調味料としても使えるんだけど、ちょっと発展すると東南アジア圏のナンプラーやニョクマムのような魚醤に繫がる。震災で能登で作られるイカ内臓の魚醤である”いしる”の熟成タンクが倒壊して仕込みができないとか聞くと心が痛む。魚醤文化は遠くローマ時代にも見られたそうで「ガルム」とか呼ばれていたそうな。

 ということで、沢山獲れた魚が余ったら、内臓とかが加工で沢山出てきたら、内臓ならそのまま切り刻んで塩ぶち込んで熟成させてしまえばいい、切り身を使うなら内臓も混ぜるか麹の力とかを借りるかして熟成させてやればいいって話で、何を使っても悪いってことはなく、アカカマスの内臓でも作りたければ作って良いのである。

 というわけで、カマスの干物を作って出てくる内臓を使った塩辛「カマスの酒盗」を作ってみた。

 カマスの干物作るときにワシの場合背中から開いて、鰓ワタ取って、残ってる⑥生殖腺、⑤浮き袋、④腸管をとって、最後に埋まってる心臓をつまみ出してって感じなんだけど、①の鰓は硬い骨があるのでコマセ用に回して、④の細い腸管は内容物をしごきだそうとすると切れてしまうのでこれもコマセ用にまわし、他の内臓を使う。

 特に重要なのは②の幽門垂と③の胃だとおもっていて、ここに消化酵素とかが含まれていて、その分解能力で塩辛として熟成させる。特に幽門垂は硬骨魚に特有な腸と膵臓の消化液分泌能力を合わせたような器官であり肝臓じゃないけどキモだと思ってる。

 ⑦の肝臓の右下に胆嚢(苦胆)が写っているけど、肝臓ごと気にせず使っている。魚種によってはこれ潰すと苦くてどうにもならんものもあるけど、アカカマスの場合ちょっと苦みが入ってむしろ味わいが深くなるぐらいだと思っている。

 胃袋は消化液を含んでいるのに加えて、食感も良い部位なので大事だけど、中に餌が入ってる場合があるので丁寧にしごきだして洗っておく。越冬群であり多くの場合空胃だけど、餌釣りの人が使ってる去シーズンから冷凍庫に入ってたキビナゴだのが入ってることはあって、それは食いたくないので手間だけど外せない工程。

 そうやって、チマチマと原料を集めると、15匹分で3枚目写真ぐらいの量が集まる。塩辛って塩分量考えるとそんなに大量に食っていい食べ物じゃないので、このぐらいの少量生産でチョイチョイと箸でつつきながら飯を食うぐらいで良いんだと思う。適宜ぶった切って、柚子の皮なんかも刻んで香りづけに入れて、塩を15%ぐらいになるようにサバッと振りかけて混ぜる。容器は雑菌が付かないように煮沸消毒したモノが望ましいけど、プラの容器を再利用したので煮沸はダメだろってことで焼酎をちょっと入れて蓋して振って消毒して使った。塩分濃度は、ちょっと舐めてみてややしょっぱすぎるかな?ぐらいで材料から水分とかが染み出すと薄まってちょうど良くなる。塩辛い分には大根おろしに乗っけたり、大量の飯や酒で相手するなど何とでも対処できるが、塩分濃度が足りなくて腐敗した場合は目もあてられないので、塩辛は塩辛く作るべきである。干物は今時風に保存食というより食味重視で味がギュッと濃くなれば上出来程度の甘塩で一夜干し風に作って早めに食べているけど、塩辛は昔ながらにしょっぱく作ってます。そういう食い物だと思ってます。3日ぐらいたまに清潔なスプーンでかき混ぜつつ熟成させたら食べ始めて大丈夫。

 できあがりの見た目は冒頭写真の様に魚屋のゴミ桶が腐ったような感じだけど、匂いに腐敗臭は無く、良い感じに塩辛っぽい香りになってきて食欲をそそる。

 ほかほかご飯に乗っけても、見た目は汚物っぽくてまったく”バエない”けど、味はまさに酒盗という感じで、浮き袋や胃袋のプニュコリ感といい、肝臓や幽門垂のドロッと溶けて濃厚でしょっぱい旨味も実にイイ味で飯が進むのである。

 貧乏でも珍味を食って良いンです。むしろ無駄なく食材を利用するという点で、実に真っ当なビンボ飯だなと、自画自賛しております。塩辛作りは難しくはないので興味があればいろんな素材を使って楽しんでみてはいかがかとお薦めしておきます。

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