2021年3月20日土曜日

君の名は?ムロアジ属編ー色気に騙されるべからずー

 先日アジ釣ってて、サバっぽい走り方して上がってきたアジがちょっと細長い感じがして、最初は痩せたマアジかなと思ったけど、違和感感じてムロアジ系かもと背ビレ尻ビレの後ろを確認したら、やっぱり小さな鰭が確認できてこりゃムロアジかクサヤモロあたりだなと、見当を付けて翌日現物を見ながら種同定を試みた。


 とりあえずインターネットの「WEB魚図鑑」で片が付けば楽で良いなと、ムロアジ属を見てみるとムロアジとクサヤモロがやっぱり近いといえば近いんだけど、釣った個体が小さいこともあって特徴が見にくく、かつ小さいと”体色”が成魚とは違うことが多くてあてにならないのもあって、これっていう決め手に欠ける。ムロアジとクサヤムロは”稜鱗(いわゆるゼイゴ)”は測線後方直線部分の全体を覆わないとなってるところが今回釣った魚と合致しないようにも思う。
 WEB魚図鑑は手軽だし、写真が多く紹介されていて目を養うにもとても良いんだけど、同定作業においては、条件を絞っていって種を確定していく使い方ができないのに加え、ウィキペディア同様素人も参加してみんなで作ってるという性質から結構間違ってたりというのもあって、結局は以前にも紹介しているけど中坊徹次教授編著「日本産魚類検索 全種の同定」東海大学出版会のような検索図鑑が同定作業には使いやすいと思っている。ちなみにワシが愛用してるのは第1版で、新しい知見とかに基づいて改訂版が出されて、いま第3版まで出ているけど、ウミタナゴとかカマツカとか新しく種が分けられたところがどこかを把握していれば基本今でも現役で使用可能だと思ってる。っていうか第3版に反映された分類は一部になんか異論もあるようで、分類って最終確定し得ないって、生物が進化して変わり続けることからワシ思ってるのであんまり最新の知見に安易に飛びつくのもどうかとは思ってる。論文でたからって絶対じゃないよ。科学ってそういうもんだよね。

 今回、せっかくなので検索図鑑を使った同定作業がどういうものなのか、ワシのやり方だけど紹介してみたいと思う。
 小離鰭が確認できているのでムロアジ属の仲間だろうなとは思ったけど、小離鰭があってムロアジ属じゃないのもひょっとしているのかも?と自分が知らないということを知るのも大事なので、さすがにアジ科じゃないってことはないだろうから、アジ科から始めてみる。さすがに見た目もろに”アジ”でアジ科以外はないとは思いたい。
 右に一部抜粋引用させてもらったけど、検索図鑑では条件で右左の枝に分岐していって、分岐を繰り返していくと最終的にどの種(亜種)かが特定できるという仕組みになっている。アジ科最初の分岐はなんと胸ビレがないという項目でクロアジモドキという変な魚が弾かれて、次に測線に稜鱗(ゼイゴ)が無いか有るかに分かれる。無いのはブリやらカンパチやらのブリ属が代表で、有るのはマアジ始めロウニンアジまでだいたいのアジ科魚はゼイゴがあって、むしろゼイゴがあるなら”アジの仲間”と分かりやすい。魚にそれ程詳しくない人にロウニンアジの写真を見せても「でっかいアジの仲間なんですよゼイゴあるでしょ」っていうと「ほんとだアジだ!」って納得してくれるけど、ブリやらヒラマサがアジの仲間って言ってもピンとはきてくれないと思う。
 でもって、分岐して稜鱗のある方は「4Bへ」進むとなっていて、検索図鑑には全体通してのページ数の他に、「4 ズズキ目アジ科」とか科内の通し番号も振られていて、その通し番号の振られたページに進むと写真下のように「B→(Aより)」っていうぐあいに続きが始まる。
 すると、こんどの分岐は稜鱗が測線全体にあるか、測線が上にカーブする手前の後半直線部より後ろだけかで分岐する。前者はマアジが代表で、今回釣ったのは前方にはゼイゴは認められないので通し番号の「5」のページの「A」に飛ぶ。
 すると次の分岐は「脂瞼がよく発達する」か否かとなっていて、脂瞼はボラに特徴的だけど目の周りの半透明な部分で今回釣った魚にもあるので、次に進むと今度は「小離鰭」の有無という分岐にさしかかる。釣った時に”ムロアジ系だな”と判断した分かりやすい分類上”使える”特徴である。
 写真の矢印のところにチョリッとした可愛い鰭があるのが分かるだろうか?上は背景と馴染んでしまって分かりにくいかもだけど下はハッキリ写ってると思う。サケマスやエソ類の脂ビレとはちがって軟条が入ってる。
 次の分岐がやや見極め難しくて、「背鰭前方鱗域は目の中央に達しない」か「達するか越える」となっていて、要するに頭に鱗がどこまであるかなんだけど、小さい魚では鱗自体が小さくて分かりにくい。
 こういうときデジカメのマクロ接写機能はありがたい。写真判定で色が違って見える領域が目の中央までは少なくともありりそうなので「達するか越えている」の方へ進む。
 ちなみに写真で右目の先の方が凹んでるけどこのあたりがちょうど半透明になっててさっき出てきた”脂瞼”に該当すると思う。

 でもって次が今回の同定の鍵になったんだけど、「稜鱗(ゼイゴ)は測線直走部の3/4以上を覆う」か否かで、どう見ても3/4以上を覆ってて、それ以下であるムロアジ、クサヤモロはここで弾かれるのである。
 でもって、次の分岐が最後で、判定基準としては①生鮮時尾鰭が黄色みを帯びるか赤みを帯びるか、②臀鰭軟条数が25~30+1か20~24+1か、③頭頂鱗は瞳孔の前縁付近に達するか、目の前縁を越えるか。となっている。どの条件も前者ならマルアジ、後者ならアカアジとなる。①の尾鰭の色はやや黄色っぽいかなとは思うけど、こんなもんアテになるほど色付いてないってのが正直なところ。色って婚姻色とかの特徴的な色だと、まさに魚同士が自分と同種かどうか判断して”生殖”を行うかどうかを決めることもあり得るので”生殖隔離”をもって”種”とみなすという生物の分類の大原則から考えても”使える”特徴ではあるんだけど、そうじゃない色目程度だと個体差の方が大きくてあんまり役に立たんと感じている。
 となると、②か③かだけど②は数えるの面倒なのでやだなと思うけど、③の鱗が頭のどこまであるかが、さっきも書いたけどマクロ接写でなんとなく色が違って見える程度で拡大していっても「瞳孔の前縁か目の前縁超えか」っていう微妙なところは自信がない。
 仕方ない数えるか。破れ傘みたいになってて上手く広げられないので写真判定使えず、根性で老眼シバシバさせながら数えた。
 数えたら28。多少数え間違えても25以下ってことはねぇだろの良い数字。

 ということでマルアジと同定。

 同定してから、WEB魚図鑑のマルアジを改めて見てみたら、例示されている個体がイマイチ例としては適切ではなく、和名が示すとおり体高低めで体幅があるので断面図的に”丸い”からマルアジのはずなのに、写真の個体は体高が高くて丸くない。検索図鑑は今回使ったのも、昔懐かしくかつ絵的に素晴らしい北隆館のものも、絵で表現してあるというのはそうする合理性があるのである。その種の同定に使えるような特徴的な個体って意外に実物では用意しにくくって、写真だとどうしてもその種を代表するような個体のバッチリ同定につかえる特徴を捉えたものって難しいのである。
 ただ、WEB魚図鑑の良いところは沢山写真が掲載されていることで、小型個体の写真は釣った魚と見た目の印象も合致する。

 ちゅうことでマルアジでめでたしめでたしなんだけど、頭の鱗のところだけちょっと自信が無い。ちなみに頭の鱗が目の中央に達しないと同定結果はどうなるかというと、インドマルアジかモロとなって、胸ビレの長さと臀鰭の軟条数からモロははじけるけど、インドマルアジは弾けない。ただネットで検索すると一般的にアジ釣りで釣れてくるムロアジ属の魚はマルアジらしく、市場でも”青アジ”の名で流通することもあるようで南方系のインドマルアジよりは状況証拠的にもマルアジの方があり得るかな、ということで総合的に判断して9分9厘マルアジで大丈夫かなとおもっちょります。まあ生物のことで100%を求めても仕方ないかなと、今回この辺で勘弁してやろうかなというところになりましたとさ。

 これでこの地で釣ったアジ科魚類はマアジ、メアジ、マルアジ、ギンガメアジ、ロウニンアジ、カスミアジ、ブリ、カンパチと9種でつ抜けまであと一歩となっている。次は何が釣れるのかも楽しみに釣りたい。

0 件のコメント:

コメントを投稿