2019年1月19日土曜日

銅・亜鉛・鉄



 オーリーハルーコーンッ!(©手塚神)

 っていきなり叫びたくなったのは、銅と亜鉛の合金である真鍮について調べてたら”オリハルコンの正体は真鍮”説がでてきて、家の鍵のキーホルダーにしているトビーも真鍮だし学生時代から愛用のマネークリップも真鍮だし、もちろんリールのギアとかの部品にもよく使われている真鍮が、伝説の金属オリハルコンだったのかと驚いて、知ることの感動が湧き上がったからである。確かに海中での戦闘で使う短剣が鋼じゃ錆びまくって手入れ大変だよねと妙に納得した。
 ワシのリール、オリハルコン製の部品使ってるねん、と思うと妙に格好いい気がしてくる。
 真鍮って多少緑青ふいたりはするけど錆びにくくて、キーホルダーなんかで使ってると表面が徐々に摩耗していって実に良い塩梅に渋い光沢を放ってくれて愛着の湧く金属である。

 なんで真鍮の勉強なんかしてるのかっていえば、当然ながらリール関係で、前回樹脂製のスピニングであるリョービ「サイノス」のハンドル軸のギアを受けるブッシュに真鍮製のが使われていて「真鍮ってそれなりに堅いはずだからコレだと亜鉛鋳造の軸の方が削れるんじゃないの?」という疑問が湧いたので調べていたのである。
 ネットでサクサクッと黄銅とも呼ばれる真鍮と亜鉛と、ついでにリールではよく使われる金属素材である鉄系合金のステンレスやアルミ合金なんかについても堅さや特徴などを調べてみた。高校の技術の時間に習ったようなおぼろげな記憶があるようなないような気がするけど、昔日の記憶はすでに霞の向こうにあり頼りにならんのでウィキペディア先生とかに教えを請うた。

 サクッと調べたところでは、硬さを表す「ブリネル硬さ」という指標だと、
・ステンレス180
・アルミ合金(7000系、超々ジュラルミン)155
・アルミ合金45~100
真鍮(銅と亜鉛の合金)黄銅80~150
・亜鉛 銅と同程度かややもろい 
ぐらいとされているようで、亜鉛が真鍮よりことさら弱いという数値は出てこなくて、自分の中の印象と違っているので違和感を感じた。
 真鍮はそれこそローター軸のギアには最も一般的に使われている金属なぐらい、強度や耐久性に優れ、かつ堅すぎずに切削加工でギアの山とか加工しやすく歯車系の金属部品には向いている印象があったけど、亜鉛はそれよりもろく柔らかく、融点低いので溶かして型に入れて固める鋳造(ダイキャスト)には向いてるけど、真鍮と摩擦するような使い方すれば亜鉛が負けて削れていくのではないかという印象を持っていた。
 亜鉛はヘタすると一般的にグラファイトボディーとか呼ばれている樹脂にガラス繊維やカーボン繊維を混ぜて強化した樹脂製の部品にも負けて削れるんじゃなかろうかという気が、写真の安ダイヤモンドのハンドル軸のギアをみてしていた。右が結構使い込まれていた「アクションM」のもので左が新品同様の「タックルA」のギアなんだけど、写真じゃイマイチ分かりにくいけど、右のギアの軸の樹脂ボディーで直接受けている部分がちょっと細くなって先端が削り残ってやや太くなってる気がする。
 真鍮相手ならもっと削れるんじゃなかろうか?と思ってアクションMのギア側の軸についている真鍮を芯にしている樹脂製ブッシュを外してみたらワシの過ち発見。
 真鍮が芯に入ってると思ってたら、実は薄っぺらい銅製のワッシャーがガタ調整かなんかで入ってただけで、このブッシュ樹脂製だ。
 嘘ばっかり書いててスイマセンと、またも頭を下げるナマジであった。堪忍してつかぁさい。アクションMもタックルAもギアの側の軸受けのブッシュは大きな樹脂製でした。
 やっぱり亜鉛の軸を真鍮のブッシュで受けると亜鉛が負けるから、大森製作所はブッシュを樹脂製にしたんじゃなかろうか?亜鉛も樹脂もある程度削れる素材なので、樹脂製で回転も少しするブッシュを噛ますことで軸と接する面積を増やして分散させ削れる速度を遅くして長持ちさせようという設計思想なんじゃないかと思う。樹脂の方が先に削れてくれるなら、まあこの手の安リールじゃ買い直した方が早いんだろうけど樹脂ブッシュの交換で使い続けることができる。

 しかし亜鉛が真鍮との摩擦で削れるとすると、ネットでお勉強した亜鉛が真鍮と比べてそんなに柔らかくももろくもないという記述とは反するので何でだろうと考えていたら、思わぬ所から答らしいところにたどり着いた。
 スピニングリールはもう買わないというのも、ありゃ嘘で、また性懲りもなく1台買ってしまったんだけど、今回は「スペアスプール確保がてら見つけたら買うかも」とか書いていた安ダイヤモンド同型機なのでこれまた堪忍堪忍。
 2台目のタックルAであるコイツが、新品同様だったにもかかわらず、とんでもないハズレ個体で、まあシールが剥がれるのは大森とPENNじゃお約束でそういう仕様なので仕方ないにしても、クルクルカシャカシャと逆転防止の確認中に何か囓ったなという感触があったと思ったら、逆転し始め「アッこれはヤバい」と慌てて分解したら、ローター軸のギアの直上に鎮座している逆転防止用の亜鉛のパーツがボロボロに削れて爪が掛からなくなっていた。
 ちょっと引っ掻いただけでもボロボロと崩れるぐらいにもろく、あきらかにスが入った不良品である。こんなモンを出荷しているような品質管理体制ではそら大森製作所潰れるって。生産拠点を人件費安かったであろう当時の韓国に移すなんてのはべつにどこのメーカーもやってたような話で批判の対象にならないと思うけど、そこで作られ出荷された製品の質についてはまごうことなく大森製作所の責任だろうと思う。マレーシア工場製のシマノ「NAVI」もインドネシア工場製のダイワ「早船」も同社の名を汚さないデキだったと買って感じたのと対照的である。製造業で不良品売るようなところが長生きするわけがない。別に安物売ったってかまわない。そこにも商機があるなら商売だもん売りゃ良いさ。でも道具として機能しない不良品を売ったらダメだってって話。樹脂製でも亜鉛のギアとの接点は負荷の掛かるギア側はボディー直受けじゃなくて樹脂ブッシュ噛ませてたり、ドラグがちゃんとしたの入ってたりと安リールでも設計に大森の生真面目さを感じるリールだけに頭にきた。たまたまこの1台だけをみて断じるのは間違いかも知れないけど、1台そういうのを出してしまうことが信用に関わる、という話だと。
 これが”答”とどうつながるのか?というと、要するに亜鉛が金属素材として同条件で比べたら真鍮よりそんなに柔らかくもないのに、なぜもろく削れる印象があるのかっていったら、おそらく円筒状の素材から切り出したり切削して作っている真鍮のギアやブッシュよりも溶かして鋳型に流し込んで作っている亜鉛鋳造のギアの方が”製造方法の違い”でもろく柔らかく削れやすいってことなんだと思う。
 よく高級リール様が鋳造(ダイキャスト)じゃなくてマシンカット(切削)や延ばして鍛造で作ってるんで丈夫なんですって宣伝してるけどその逆で、亜鉛を鋳造して作るとなると、どうしても製法上冷やす段階で縮んでムラができたり最悪スが入ったりして、もろくなるんだろう。
 もちろん亜鉛ダイキャストのギアは広く使われていてちゃんと作られていれば強度上問題ないハズなんだけど、製造において温度管理とかによって強度に差が出てくるなんてのは、これは鍛造の話だけど昔の刀鍛冶が焼き入れするときの水の温度を盗もうと水に手を突っ込んだ弟子の手を叩き切ったなんて逸話からも分かるように、微妙なさじ加減が必要なはずで、不良品も出てくる製法なんだと思う。と同時に鋳造じゃない真鍮やらステンレス系の部品より削れやすいし、ひょっとするとアルミ合金や樹脂製の部品にも負けて削れる場合もありそうだ。というのが今のところの私の整理である。
 ということは、亜鉛鋳造一体成形のハンドル軸のギアを使うスピニングリールにおいては、昔の大森のように堅い素材を軸に鋳込んだりはしていないので、亜鉛の軸が削れないようにするには樹脂製の柔らかいブッシュを噛ませて交換して使うというのもありかも知れないけど、今時それ程高価な部品でもなくなっているボールベアリングを右左に噛ませてしまえば軸が摩擦で削れることが防げて現実的な解決策なんだということが理解できる。実際には亜鉛の軸を真鍮で受けたって削れるには相当な時間が掛かるはずで幅とかの設定で摩擦面積増やして削れにくくして実用充分なリールに仕上げることはできるのかもしれない。それを実証するには試験だの何だの面倒臭く、かつ買い手はベアリングをありがたがるんだからベアリング入れときゃ間違いないって話で、亜鉛鋳造一体成形のギアならスピニングリールに必要なボールベアリングの数は3個が現実的なのかもしれない。と、思ったところである。

 思ったんだけど、じゃあ手持ちの安ダイヤモンドにボールベアリング2個突っ込むかというとそういう気にはならない。せっかくの樹脂製で軽いという利点を損ないかねないし”ベアリング数を増やす”なんていう改造は下品で頭が悪い印象があるので好みじゃない。
 以前アンバサダーの真鍮製ボディーでクソ重い「6500CSロケットクローム」という両軸リールをいじってたときに、軸を受けているカップ側の端が銅製のブッシュなので「飛距離アップ、巻き取りをスムーズに」を謳って交換するための適合するボールベアリングがネットで売られているのを見た。一瞬買いそうになったけど「まてよ、アンバサダーってウルトラキャストデザイン以降キャスト時には軸は回らないんじゃなかったっけ?」と思って分解してみたら、やっぱりキャスト時軸は回らず、当然回転するスプール自体には既にボールベアリングが2個入れられている。投げる時回らないところにボールベアリング入れても飛距離には関係ないし、巻き取りぐらいはブッシュで充分滑らかだ。アホかとおもうよね。
 ベアリングの数が増えればありがたがるベアリング信者のバカを狙った詐欺的商売と言って良いだろう。とはいえこういうのは騙されるのが悪いんであって、騙されても本人気づかなくて満足しているなら問題生じないので勝手にやってくれという感じだ。けど、そういうバカにはなりたくないので、ベアリング数増やすのは最後の手段としたい。

 ということで、アクションMのギア側の純正の樹脂製ブッシュは削れたらおいおい考えるとして、削れ始めてるようにも見える反対側の樹脂製本体直受けの部分を交換可能な樹脂のブッシュを入れて、削れたら交換して使う方式にしてみた。
 難しいことはやりたくないので、ハンドルをとめる蓋兼ネジを外して見えているハンドル軸のギアの端にきつめにジュラコン樹脂製の輪っかを填めて、ハンドル軸はこちら側ではどことも摩擦せずジュラコン樹脂と本体が摩擦してどちらかが削れる方式とした。ジュラコン樹脂が本体に負けて削れる場合は削れたら交換ですむし、勝っちゃったらまた考える。
 外側の直径はピッタリのが手に入ったけど、穴の径が狭くてギアの端が入らないのでハンドドリルのヤスリでドリドリと時間を掛けて穴を拡張してちょうどはまって動かない様に加工。
 ジュラコンかなり堅い樹脂でドリルで加工するのも時間が掛かったけどその分頼もしい感じがする。本体と接する外側はテフロンのようにつるつるしていて摩擦少なくて良さそう。
 ちゃんと真ん中に填まってくれたようで、組み立てたリールの回転も問題なく滑らか。
 
 ついでにと、スプールの方にも手を入れてみた。
 平行巻機構の往復幅に比べてややスプールの糸巻きの部分の幅が広いので、スプールの高さを座面のワッシャーを薄くすることで下げて上にラインを寄せるとともに、スプール下面にワンカップ蓋製の土星の輪っか状のスペーサーを噛ませて底上げしてみた。半透明のワンカップ蓋をウレタン接着剤でくっつけたのでやや見た目がアレだ。でも、スプールの上の端はラインが当たる場所なので抵抗なく滑らかにつるつるの美しさを保ちたいところだけど、下面はどうでも良いちゃいいので適度な”やっつけ感”が出ててよしとしておこう。
 もともとのスプールにはテーパーが付いているので、下巻きを座面のワッシャー抜いた上巻き状態で巻いてならしておいた。
 ついでにラインを留めるパーツが欠損していたので、ワンカップの蓋の余りを利用して成型してくっつけた。ワンカップの蓋ドラグパッドにスペーサーにライン留めにと万能の素材である。割り箸とともに使える身近な素材として評価うなぎ登りである。惜しむらくは酒飲まなくなって久しいので料理酒として使う程度では数が確保しにくいことか。
 まあタッパーの蓋でもペットボトルの蓋でも良いんだろうけどね。
 という感じでせっかく我が家にきてくれた安ダイヤモンド。しっかり使って楽しもうと着々と手を入れて改良だか改悪だかまだ使ってみないと分からないけど遊ばせてもらってます。

 こうやっていじくれる楽しさがあるだけでも、今時の、おまえは恩返しにきた鶴かってかんじの”開けちゃダメ”系の高級スピニング様より持ってて楽しい道具だと思うんだけどね。

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