2017年12月30日土曜日

2017のベスト3(エンタメ篇)

 まあ、1年働きもせず、リハビリで街に出てるにしても家でグダッてるにしても時間はいっぱいあるわけで、小説もノンフィクションもマンガもけっこう読んだしアニメも毎期10作品以上視聴していた。
 よく過去の名作を比較に出して「最近の○○は面白くない」と識者ぶる輩がいるが、そういうことをいう奴は老人だろうが年が若かろうが総じて過去にとらわれた「老害」といっていい人種だと思う。
 過去の名作の影響も受けて、積み重なってきた文化のさらに先に行こうと今まさに闘っている表現者達の作品の熱さに胸を焼かれずして、今を生きているといえるのかと問いたい。
 今年も素晴らしい作品、考えさせられる作品、感動、笑い、気持ち悪さ、しょうもなさ、怖さ、怒り、絶望、希望、様々な作品を楽しむことができた。これらは実体験、実生活と両輪をなし私の日々を形作ってくれている。表現者の飽くなき挑戦に最大限の敬意と感謝を記しておきたい。
 でもって、恒例となった今年のベスト3など紹介していきたい。

○活字本:1位「バッタを倒しにアフリカに」、2位「飼い喰い」、3位「ハーモニー」
 1位「バッタを倒しにアフリカに」は面白いし感動するしの文句無し。ファーブルにあこがれた昆虫少年はその情熱を抱いたまま長じて昆虫博士となり、アフリカの地ですべてを食い尽くす災厄として怖れられるサバクトビバッタの被害をなくすための研究に身を投じていく。滅茶苦茶熱い人間の情熱、研究者の探求心、崇高な志、にもかかわらず吹き出しちゃうような笑いを誘う楽しい筆致。人間は人間の上に爆弾を降らしたり、水を土を空気を子々孫々の代まで災いとなるぐらいに汚染したり、いっそ滅びてしまえばいいのにと思わせられるぐらいの愚かでクソなことを過去もやってきたし今もやっているしこれからもしていくだろう。それでも、人間の中には人々のためだったり自身の矜持や飽くなき好奇心や情熱のためだったり、理由はいろいろあるんだろうけど素晴らしいことをしてきた人がいるし、今もいるし、これからも現れるのだろうと思うと心に希望が残っているように感じることができる。人間は愚かで賢い。
 2位「飼い喰い」は、「スーパーに行けばパックに入った肉が売っていて、それが生き物の命を奪った結果であることは想像しにくく、食といった日々の生活と食べ物となる生き物の命の現場とが離れてしまっている」と嘆くだけの私のような賢しらな発言者の代わりに、体を張って自ら豚を飼ってみて屠畜場に連れていって肉にしてみんなで食べるということをやってくれた。四の五のいわずに「いただきます」という言葉に、それを言っておけばすべてが許されるわけじゃないだろうと違和感を覚える筆者の感性を信じて是非読んでみて欲しい。スーパーに行って買ってくればおいしい肉が食べられることの贅沢さとその素晴らしさについて、思わずにいられない力作。
 3位の「ハーモニー」は最終戦争的な戦乱により極端に人口が減ってしまった世界で、人々が健康を人工知能に管理され事故など起こらないよう安全に守られた中で、人は何のために生きるのかというような哲学的な問いにせまるディストピアもののSF。ニコチンやアルコールはおろかカフェインまで禁じようとする「優しい人たち」の押し付けてくる感じが、現実世界のやれタバコはやめろだの健康に良いことをしましょうだの、キケンなことは止めましょうだのと、全くの善意でそれが疑いもない正義だと信じて押し付けてくる様と全く相似していて、こういうディストピアものを読んだ時の「そんな極端なことは起こらないだろう」という予想があっさりと現実で覆される怖さに戦慄を覚える。現実世界ではそろそろタバコの次にアルコールの規制が始まりそうでっせ、嫌煙家で飲兵衛の皆さんは、今度は自分たちが魔女狩りの対象になる心づもりをしておいた方がよさそうでっセ。
 オレは自分の健康を害するための自由も尊いものだと思って、本作の主人公と同様流されながらも闘うつもりである。

○マンガ:1位「衛府の七忍」、2位「ディザインズ」、3位「絢爛たるグランドセーヌ」
 今年読んで面白かったマンガを単純に3つ並べると「それでも町は廻っている」「ベルセルク」「ゲノム」の3作品になる。この布陣をみて正直どうなのよ?と考え込んでしまった。こういっちゃ何だが我がブログは読者が少ない。特にエンタメ系の記事なんて基本釣りブログなのによっぽどマニアックな読者しかいないはずである。その読者様に向かって「それ町」とか「ベルセルク」なんてマンガ読みなら誰でも知ってるって名作今更紹介してみてどうなのよと思う。かといって「ゲノム」はばかばかしい下ネタばっかりで恥ずかしいし(でも大好きです古賀先生の下ネタ連発!)。
 ということで、選考やり直してこれからの展開も期待なちょっと知る人ぞ知る的な作品を並べて悦に入ってみたところである。どうですちょっとヤル感じになってませんかね?せっかく読んでくれてる人にはここにしかないぐらいの価値のある情報をお届けしないとね。
 ということで、1位「衛府の七忍」は鬼才山口先生の独特の感性がいたるところで小気味よく炸裂する、天下泰平徳川の世に仇なす「まつろわぬ民」として虐げられ殺された、豊臣がたの落ち武者やらアイヌやらやくざ者やらが、あの世のどっかにあるらしい衛府からの使者の力で怨身忍者として蘇り戦うという異能力歴史合戦モノ。山田風太郎先生の忍法帖と諸星大二郎先生の伝奇ロマンと昭和の変形ロボあたりを混ぜ合わせて、少年マンガのノリと今時の萌を添加して、美しいマンガ描写と暑苦しく時に面白おかしい山口貴由節で煮詰めて止揚(アウフヘーベンなんて古くっさい哲学用語つかって悦に入ってるアホはちゃんと漢字の置き換えがあること知らねえだろうナ)したような作品。といえばそのゴッタ煮感を想像してもらえるだろうか。まあ、カラ-ページの主人公の格好いいことだけでもカラーで読めるタブレット買った元がとれた。癖が強い作品なので読む人選ぶけど滅茶苦茶面白いです。
 2位の「ディザインズ」は、動物の遺伝子を人間に組み込むという禁断の生物工学的技術で開発された殺戮の得意なフレンズ達が跋扈するハードSF。動物の能力を取り入れた強化人間が闘う作品って、テラフォーマーズが典型例だけど「動物すごい」豆知識的なびっくり能力で闘うのが多くて、それはそれで面白いんだけど、本作は兵器として動物の能力を取り入れて強化人間を開発するならどうなるかというあたりが、生物と兵器とどちらも好きじゃないととうてい書けないレベルで描かれていてちょっと子供だましじゃない本格SF臭がたまらないんである。例えばイルカが音を使って餌を探したり仲間に情報伝えたりなんてのは、誰でも知っている動物に関する知識としてはありふれたものだけど、その能力を使ってイルカ人間が索敵、情報同期しながら闘うという描写を読むと、近代歩兵戦における情報端末を生体機能で強力に代替しているのとかが見てとれて五十嵐先生やりおるわい。と敬服するのである。面白すぎてゾクゾクくる。
 今たぶん、SFに慣れ親しんできた若い世代のマンガ家が実力を発揮していて、日本のマンガ界においてハードSFは密かに黄金期を迎えているのではないかと感じる。今年読んだマンガでは「堕天作戦」「アヴァルト」も実にいい塩梅のSFマンガだった。SFファンはマンガ読むべし、っていわれんでも既に読んでるか。
 3位「絢爛たるグランドセーヌ」はバレエマンガ。バレーマンガでもバレエマンガでも、こういうスポ根系の主人公が個性豊かなライバル達と切磋琢磨し友情努力勝利っていうマンガは佃煮にするほど描かれてきたはずである、それでも今現在連載されているこのマンガの少女達のバレエに賭けるひたむきな情熱がオッサンの心の中の乙女にグイグイと迫ってくる。アタイもトゥシューズ履いてみたいッ!今時のスポ根モノの流れの一つとして指導者とか親とかの主人公達を支援する者達の心理描写や実態やらを描き出して物語に深みや真実味を与えるというのがあると感じていて。本作でも才能があっても経済的な理由もあって辞めざるを得なかった少女について自責の念を感じる先生や、娘のために何とか家計をやりくりする親の愛とかも丁寧に描かれていてコクのある描写となっている。主人公が時につまずきながらも夢に突き進む中、夢をあきらめた少女もまた新たな自分の道を見つけ力強く歩み始める様も描かれている。そういう丁寧に積み上げた物語の熱はたとえオッサンであっても魅了してやまず、チャンピオンレッドという青年誌で本格バレエマンガという冒険も思い切ったことやるなと感心する。早く続きが読みたい。

○アニメ:1位「小林さんちのメイドラゴン」、2位「リトルウィッチアカデミア」、3位「宝石の国」
 アニメも面白いのいっぱいあって選ぶの苦労する。今年一番の話題作は「けものフレンズ」で間違いないと思うんだけど放送後の内輪もめでけちが付いたのが残念。2期が楽しみじゃなくなってしまった。「サクラクエスト」と「リクリエイターズ」はすんごく丁寧に練られた脚本で個人的には大絶賛なんだけど世間の評判は芳しくなかった。まあオレだけでも良い作品だって知ってればいい。「プリンセスプリンシパル」は放送中あんまり話題になってなかったけど、ふたを開けてみれば円盤の売り上げよかったみたいで世間の評判も獲得したようで、別に私が何かしたってわけじゃないけどうれしい。でもベスト3に入れてあげられないほど今年は良い作品多かった。「楽園追放」も良かったけど深夜アニメじゃない劇場版アニメはまた別ものだと思うので選からはずしてる。
 というわけで1位「小林さんちのメイドラゴン」は、異世界からやってきたメイドに変身したドラゴンが主人公のうちに居候して騒動を巻き起こすって感じの、ドラえもん型の物語なんだけど、日常系のギャグと萌の面白楽しさと、落差で心に突き刺さってくる哲学的な要素がどうにもオレ好みの原作マンガを、老舗製作会社京都アニメーションが実に丁寧な仕事で期待以上の良いアニメに仕上げてくれた。もう言うことなしで脱帽。
 2位の日本の魔法少女版ハリポタ的な「リトルウィッチアカデミア」も、よくできた作品で作中主人公が集める魔法の言の葉の一つが示す「夢見たものが手にはいるんじゃない、一歩ずつ、積み重ねたことが手に入る」を体現するかのように、動きの良いアニメーション、魅力的なキャラクター、主人公の成長と仲間達との友情、パロディーとか過去の作品へのオマージュとか細かいギャグの切れとか、伏線回収とかの凝った脚本とか、一つ一つまじめに積み上げて素晴らしい作品に仕上げている。テレビでタダで見せてもらってるだけでは申し訳なくて劇場版の方のDVDとスーシィTシャツ買って一票入れさせてもらった。
 3位の「宝石の国」は原作マンガが話題になったときにちょっと読んだけど、SFファンタジーな感じの設定とかがちょっと取っつきにくくて正直おもしろさに気づけなかった。それが、アニメ化で3DCG作画を生かした美しい映像にグイグイと引き込まれて視聴していくと、素晴らしい物語の世界に虜になってしまうぐらい良かった。宝石が、意志を持つ人型の存在となった遠い未来の世界で、強くてもろくて美しい登場人物達が、時に戦い、時に笑い、時に苦悩し、時に存在理由を問い、そして謎めいたまま続きを期待させ終幕を迎えた。円盤も売れ行き好調のようなので2期制作は堅い気がするが、はよ2期作ってくれ。アニメの良さって動く映像ってところがマンガや小説とは違う特徴の一つで、そのアニメ表現の時流として3DCGをつかった描写というのがあって、劇場公開版とかじゃない比較的低予算の日本の深夜アニメもとうとうここまでの表現にたどり着いたかと感嘆せずにいられない。アニメ表現の美しさにおける現時点での最高到達点の一つがこの作品だと断言する。

 てなぐらいで、今年も面白い作品目白押しでマンガだと既読の作品の新刊出たのを追っかけてるだけで手一杯な感じで、いつも私が知らないところで面白い作品が書かれ描かれ制作されているんじゃないかと心配である。なるべくいろんな作品に手を出してみんなが絶賛するような名作も、オレにしか分からないような個人的にツボなマニアックな作品も、逃さず楽しんでおきたいと思うのである。
 来年も今年以上に面白い作品に出会えると確信している。

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