2025年6月28日土曜日

伝統的なPENN

 釣れない釣りが続くと道具をいじりたくなる。 とはいえこの春の”釣れない釣り”のうちシーバスに関しては、もうさんざんいじり倒した分野で、ルアーもリールも新たに興味を引くモノなどいまさらあまり残っていない(よね?)。その点、根魚クランクに関しては竿は限界近くブチ曲げて使うので余裕などなく、ルアーは性能的な条件が潜行深度などで枠が厳しめにハマっててあまり遊べないけれど、リールはそもそもベイトキャスティングリールをバス釣りライギョ釣り以外であまり使ったことがなかったこともあって知識も経験も浅いので、いくらでも遊べて勉強しがいのある方面である。

 とはいえ、海でかつ雨の中で使うような使用条件なので、耐腐食性に優れて、手入れしやすく、かつデカいのがいつ来るか分からない海の釣りで安心して使える丈夫で信頼性がある機種が望ましい。ってなってくると今使ってて気に入ってるABU「ブラックマックス」を初めとしたABUアンバサダー勢はまず堅い安パイでぶっちゃけアンバサダー使ってればベイトキャスティングリールはまず間違いないってのは歴史が証明するところだとは思う。

左レベルマチック、右クァンタム
 そう思ってて、ベイトリールは今のアンバサダー勢にゼブコ1台の体制で満足してはいたんだけど、前回紹介したPENN「レベルマチック920」を実際に使ってみて、そして分解整備していじってみて、ベイトキャスティングリールというよりは”両軸受けリール”って感じのPENNの古くからある、両サイドがベークライト樹脂とかで、機種によってはそれを金属の輪っかで補強しつつ、リムやフットを両サイドにネジ止めしたPENNの歴史の最初の頃から製造されていたような伝統的というか従来型(コンベンショナル)な機種に俄然興味が湧いてきてしまったのである。PENN両軸機は日本では石鯛釣り師とかが愛用していた印象が強く、ルアーキャスティングに向いているような小型のモノは馴染みがないけど、当然ながらPENNのことなので各種機能や大きさの違う機種などいくらでも選べるだろう。キャスティングにどれだけ対応するか未知数だけど、PENNなので丈夫なのと、側板が樹脂製なのもあり耐腐食性に優れ、かつ整備性が良いのは折り紙付きであり、レベルワインダー(平行巻機構)が無い機種が多いのも、いつか対峙することになると嬉しい、”超弩級の獲物”との力勝負とかになったときに、レベルワインダーがクニャッと曲がるとかを心配しなくて良いとか妄想がはかどって悪くない。磯の底物狙いとかでアンバサダーとかでもレベルワインダーを取っ払う改造がされたりするけど、ドラグが出てラインの巻かれている位置とレベルワインダーの位置がズレたりして、ラインがレベルワインダーに横方向の負荷を掛けると、引きが強い海の大型魚の場合あっさりぶっ壊されると聞いたことがある。まあ細い針金みたいな金属棒だからそんなに丈夫じゃない(ゼブコ「クァンタム1430MG」では針金状ではなく板状で分かってる感じがする)。

 ということで、おもいっきり伝統的な”従来型PENN”方面に症状が出て悪化。とにかく片っ端から小型機中心に買ってみた成果が、一部蔵にあった大型機とかもあるけど冒頭写真のありさまである。アタイ病気がにくいっ!とはいえ、今の日本の中古釣り具市場では弾数は多いのに人気が無いようで、だいたい3千円も出しときゃ買えるので大いにお買い物を楽しめて気持ちよかったのも偽らざる事実。

 とりあえず、レベルマチックで火がついて、従来型PENN両軸機の小型機にはどんな機種があるのか?ミスティックリールパーツさんところのサイトで調べつつ購入を進めていった。


 まずは、買う前から我が家の蔵にも1台転がっててというか、実釣に導入していて「77シーホーク」は両サイドが最も初期に利用が始まった人工の合成樹脂素材であるベークライト樹脂でできていて、これでもかっていうぐらい単純なダイレクトリールで、キャスティングにはおよそ向いていないけど、1:3という低ギア比で巻き揚げ力があるので、岸壁泳がせ釣りに使っている。大きさは深溝スプールなのでラインキャパは大きいけど本体は小さめで、ABUだと5000番クラスかな。糸巻き量のカタログ数値が「125/36 (Linen)」となっていて、リネンって夏に着る麻のシャツとかのリネンか?とちょっと調べたら、やっぱり麻主体のブレイデットラインが当時使われていたようで、それもそのはずこのリール、PENN社がリール売り始めた最初のころの機種の一つで、1933年から1980年代後半ぐらいまでおよそ半世紀にわたって売られていたロングセラー機。ナイロン6,6がデュポンのカローザス博士によって発明されたのが1935年なのでナイロンライン以前から活躍していた機種、ってすごい歴史を感じるところ。PENN社の創業あたりの経緯をPENNブランドを傘下に収めたピュアフィッシング社サイトから拾ってみると、「ドイツ系移民のオットー・ヘンツェ氏がオーシャンシティー社で働いた後、1932年にPENNフィッシングタックル製造会社を設立、翌年シーホークとベイサイド、ロングビーチの3機種で一般販売を開始。1936年に同社を代表する名機「セネター」を発表、以下現在に至るまで途中でピュアフィッシング傘下になったけど堅牢なリールを作り続けております。」って感じで、TAKE先生のミッチェル本とか読むと、スピニングリールを”ミッチェル”と呼ぶ地域があったと紹介されていて、同じように従来型PENN両軸機のような両軸受けリールを”PENNリール”って呼ぶ地域があったそうで、従来型PENNはPENNが独自の機構を開発してって部分は少ないにしても、PENNならではの堅実、実用機路線で庶民にも手の届く価格で両軸受けリールを釣り人に提供したというのは素晴らしい功績だろうと思う。最初にスタードラグ付きのロングビーチとともに、とことん単純化して低価格にしたシーホーク77も売り出しているところに、PENN社、PENNブランドの良心が垣間見える気がする。シーホークには軸受けにボールベアリングどころかブッシュさえ入ってなくて、サイドプレートのベークライトの穴で直受けしている。数あるダイレクトリールのなかでも屈指の単純設計だと思う。でも、ちゃんとラインを繰り出してラインを巻き取る機能は問題なく、耐久性も堅牢性も充分確保されていて実用性は今現在でもある。まあまだカサゴぐらいしか実績上げてないけど、10キロの根魚が来てもオレのシーホークはやってくれるはずだぜ。ちなみにシーホークにはさらに小さい「42シーホーク」もあったようだけど、製造時期が短くかなりのレア機なので入手を断念。糸巻き量は「150/9 (Linen)」とかなり可愛い大きさだったようだ。機構はフリースプールになるクラッチ有りでむしろ次の「78シーズキャンプ」の小型版だったのだと思う。

 その「78シ-スキャンプ」だけど、こいつはダイレクトリールではなく、クラッチを切ると、ハンドルとスプールの連結は切れてフリースプールになる。投げやすさではかなり改善されただろうと思う。ただ、このリールにはドラグがなく、じゃあどうするかと言えば、クラッチを繋ぐとハンドルとスプールが”直結”してダイレクトリールト同様に、ハンドル握って根性で止めるか、親指でスプールを押さえるか、それだと火傷するので革パッドでスプールなりスプールエッジを押さえる工夫を追加するかという感じになるようだ。当然デカい魚が掛かって高速で逆転し始めたハンドルを止めようとすると指脱臼とか酷い目に遭いがちだったようで、この手の投げるときだけフリースプールになるリールの形式をして”ナックルバスター”リールとか呼んでいたようだ。この辺の両軸受けリールの歴史について、国内のネット界隈だと「Angler's Life ~浮かべ釣り道~」が圧倒的情報量で非常に勉強になる。ワシみたいな沼の浅場でピチャピチャ泥遊び程度とは潜ってる深さが違う。で、拳壊されてもかなわんなと思いつつも、サイズ的に「200/36 (Linen)」は手頃な大きさなので1台確保、PENNのナックルバスターはどんなもんかなといっちょ拝ませてもらうことにしている。 

写真下、上段78、下段左77、右85
 もいっちょ、シーが名前につくシリーズで小さめ機種に「85シーボーイ」があって、糸巻き量的には「400/20」とちょいお兄さんサイズだけど、シーボーイになると、クラッチ切るとスプールがフリーになるだけでなく、ドラグ機構がついてクラッチ繋ぐと逆転防止が働いて、ハンドルが魚に引っ張られて高速回転し始めて拳を壊すようなことがない設計になっている。写真上が85なんだけどパッと見ハンドルノブも白で似てるけど78と違うのはスタードラグがついている点で、今でも標準的と言える普通の両軸受けリールの機能がきっちり搭載されているシー軍団の出世頭機種という感じだろうか。ここで「勘違いしないでよね!」という大事な部分は、ドラグ機構とかをPENNが開発したわけではなく、PENNが創業する当時には既にそれらの機構は存在していたけれど、古いナックルバスターの使い心地に慣れている釣り人のために、ナックルバスターも作るし、より単純化して安価に提供するために究極の単純設計ダイレクトリールである「77シーホーク」もラインナップに加えて、シーボーイや、もっと主流になっていく「ロングビーチ」など金属で補強された樹脂プレートを持った両軸受けリールを設立後早い段階からラインナップに揃えていたということである。PENNはオリジナリティーも発揮するけど、繰り返しになるが、どちらかというと後発の利を活かして堅実に丈夫な設計に仕上げて、職人の手作りではなく工場で沢山生産して比較的手の届きやすい品として普及させたことが”さすぺン”だなと思う。では、その基礎を作った先発メーカーはどこか?というとドラグの開発が大きな技術的転換点になったと思うところだけど、そのメーカーは海外サイトの「ANTIQUE FISHING REELS」で調べると、フライリールでも有名な「ボン・ホフ(JULIUS VOM HOFE)」社で、要約して引用すると「1913年、ツナクラブ会員のウィリアム・C・ボッシェンは、リール設計史上最も重要な革新、スタードラグを発表。ボッシェンはこのプロジェクトをボン・ホフ社に持ち込み、実用的なプロトタイプが開発された。ボン・ホフ社はこのリールの市販版を「B-Ocean」リールと名付た。」とのこと。ボン・ホフなんざ小金持ちにしか縁のないアンティークフライリールメーカーの印象だったけど、スタードラグのついた、今時のすべての両軸受けリール(ベイトキャスティングリールを含む)を使う釣り人に多大な影響を与えているメーカーだったんだなと認識を新たにし、不明をわびるしだいであります。ナマジ反省。

 でもって、そんな側板が樹脂製の比較的安価なシリーズであるシー軍団以外の、樹脂製側板を金属枠で強化した機種が、コンベンショナルなPENN両軸機の本命だろうって話で、そのあたりも糸巻き量少なめの小型機をチェックしていきながらいくつか確保していった。

 それらの代表機種といえば、自分の中ではなんと言っても樹脂側板を金属枠でサンドイッチした構造の頑丈なセネターシリーズで、他にはPENN最初期からの機種であるロングビーチシリーズあたりなんだろうけど、「110セネター」は糸巻き量「225/20」となかなかの小型機で魅力的だけど、弾数少なく出てきてもお高めでちょっと手が出なかった。「ロングビーチ60」は昔の石モノ釣り師の標準機だったようで、弾数豊富で値段もお安いんだけど「275/30」とやや大きすぎる。 

左27、右180
 樹脂製側板を金属の輪っか1枚ずつで補強、クラッチ切るとフリースプール、クラッチ繋ぐと逆転防止が働きつつドラグも機能する、っていう”ロングビーチ型(仮称)”が従来型PENN両軸機の標準的な設計であると考えると、その設計で小型の機種をと探すと「27モノフィル」が糸巻き量「200/15」で多分最小クラス、「180ベイマスター」も「250/20」でかなり小さめでこの2機種は安く出物があったのでサクッポチッと確保。カタログ数値で見るほど手にした大きさには違いが無くいずれもABUなら5000番級ぐらいの大きさ。

左から140M、140、145
 ちょっと変わり種にも手を出すかと、投げるためのブレーキ機構が独特な「146スクイダー」「220/20」を探すも国内じゃあまり出回ってないようで見あたらず、「140スクイダー」「350/20」は石もの釣り師御用達だったようなので弾数多く確保したら、なんだかんだで「145スクイダー」「275/20」もにも手を出し、お土産で140スクイダーはもういっちょいただいてしまい。我が家のスクイダーシリーズは充実している。使うアテはあるのか?とりあえずその辺はまた考えれば良いだろう。まずは手に入れたい、中を見てみたい、投げて巻いてみたいってのが先。

 あと、レベルワインド(平行巻機構)がついた「9ピアレス」「275/15」も欲しかったけど、なんか値段が安くなくて、手を出さずに保留中。安い出物があったら追加しても良いかも。似たような見た目のレベルワインド付きの機種で「109ピアレス」「275/15」ッテのがあるんだけど、これが謎設計で、フリースプールにはならないダイレクトリールみたいな機構なれど、逆転防止はついていてドラグが装備されている。投げないけど、ドラグを使ったやりとりはするという使い方か?よく分からんがとりあえず不要だな。

 ということで、ダイレクトとナックルバスターとスタードラグ搭載のシー軍団のそれぞれの機種の中身の比較をして楽しんで、27モノフィルか180ベイマスターあたりで、従来のPENN両軸機の基本を学び、実釣導入を画策し、スクイダーの謎のブレーキの秘密に迫ろうかななどと考えておりますので、しばらく”従来のPENN”ネタはボチボチと続ける予定。

 なんにしても、”従来の”PENN両軸リールが、PENNそのものが世界の釣り人に受け入れられたと共に、その形式のリールがれいによってパクられまくって普及しまくったことにより、職人さんの手仕事の高級品だったであろう両軸受けリールを大いに大衆化したんだろうというのは想像に難くない。なにせ日本においても従来型PENN両軸機をパクっただろう機種は、昔の四天王を見ただけでも、ダイワ「シーライン」「ダイナミック」、リョービ「アドベンチャー」、オリムピック「DOUZUKI」 「ストロング」「ファイター」「ドルフィン」、シマノ「トライトン」とキッチリ揃ってしまう。他の小規模メーカーやら海外勢も見ていくと収拾がつかなくなるだろうってぐらいにジャンルとして成立してしまっている。

 そこまで影響を与えることができたのはなぜか?ひとえに手に入れやすい妥当な価格と、堅牢で確実な仕事をする機械的な部分と、釣り場で使う糸巻きとしての使いやすさとが、良い塩梅だったからじゃないかと思っている。

 ワシ、今更けったいな新型リール買う気はないけど、釣り具の歴史に大きな足跡を残した従来のPENN両軸機達の、その実力を楽しんでみたいと思うところだし、その潜在能力を発揮させることができたなら、100年近い昔から洋の東西を問わずPENN両軸機種で釣り人がなしえてきた素晴らしい釣りに、なんぼか近づくことができるのではないかと思っている。両軸受けリールはスピニングと比較して単純な機械であると思う。その単純さの中で、自分が必要とする機能はなんなのか、いらないのはなにか?おのずと見えてくるものがあるだろうし、この沼に潜っていけばそれ以上のナニカを見つけることさえできるのではないかと胸を踊らせているところである。

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