2022年12月31日土曜日

2022年のベスト3(エンタメ編)

©野田サトル ©トリガー
  今年も活字本は、「華氏451度」は年またぎで読了してその警句の鋭さに唸ったけど、それ以外はラノベ読んだぐらい。皇帝がいた時代の中国後宮を舞台に”薬屋”の少女が謎解きしたり陰謀に巻き込まれたりと活躍する「薬屋のひとりごと」はなかなかに面白かった。若い頃は年間に購入する文庫本だけで100冊はいってた”活字中毒”だったので、こんなに読まなくなるとは予想してなかった。まあ読まねばならん義務もないし読みたくなれば読めば良いだろう。ってことで今年も活字部門無しでいっときます。

○マンガ:1位「ゴールデンカムイ」、2位「ベルセルク」、3位「絶対可憐チルドレン」

 1位「金カム」は、堂々の大団円完結。一巻の時点で”こりゃ大ヒット間違いなし”と太鼓判押した作品が、予想どおりに大ウケして最後までその熱量を失わず完走してくれたので1ファンとして我がことのように嬉しい。何が面白いかっていうと色々と要素は上げ始めたらキリがないけど、登場人物が魅力的っていうのは外せない要素だったと思う。ヒロインであるアシリパさんの、アイヌの狩人としての凜々しく頼もしい面と、食いしん坊でお茶目な面の落差、そのアシリパさんに敬意を払いつつ大人として汚れ仕事は引き受ける”不死身の杉本”の誠実さは、物語の最初の方でアイヌに対する差別的な発言を受けたアシリパさんが「気にするな、私は慣れている」と言ったときに、そんなもんに慣れる必要なんてねぇ!と憤る場面で端的に表れていて、この場面で杉本に多くの読者は惚れ込んだだろう。他にも本作の裏ヒロイン阿仁のセクシーマタギ源治郎ちゃんと、敵も味方も差別せず騙す雌狐インカラマッちゃんコンビとか、女性にモテモテ柔道無敗ステゴロ無敵の大男でアシリパさんからも”チンポ先生”として懐かれていた牛山のラストバトルの格好良さにはワシも泣いたし、作中屈指のトリックスター脱獄王白石も良い味出してて忘れちゃならんし、なんと言っても”ラスボス”鶴見中尉の人たらしぶりと禍々しさその存在感の濃さよ!その過去の秘密を知る度にこの作品がよく練りこまれた筋書きに沿って展開していて、伏線やらパロディーやらの大ネタ小ネタを見逃さないように隅々まで読まねばならんと痛感させられたものである。本当はもっとマイナーな作品を挙げて”ちょっとやるオタク感”を醸し出したいんだけど、この面白さでは1位やむなしである。

 2位「ベルセルク」も、一応三浦建太郎先生の描く作品としては、先生の夭逝により未完ではあるけど、それなりにキリの良いところまできて一区切りとなった。三浦先生ありがとう、とまた書いておきたい。グッチャグッチャドロドロの魔が跋扈するダークファンタジーの世界で、それでもなお輝く美しい人間の魂が描き出されていたように思う。続きは先生の意思をついでアシスタントの人達が描き続けることになったようだ。それはそれで楽しみに読みたい。

 3位「絶チル」は、少年サンデーのベテラン作家「極楽大作戦ゴーストスイーパー美神」がオッサン世代には懐かしい椎名高志先生の長期連載作で、昔このマンガをネタに”マンガ論”を書いたこともあり思い入れのある作品で、美少女エスパー達が主人公の超能力バトルモノで、椎名先生昔っからおもいっきり萌えもバトルもギャグもシリアスもてんこ盛りで描くサービス旺盛な作風で、良い話しありバカネタあり、とにかく楽しめた。最後長期連載で敵がインフレしててどう決着つけるんだろうとハラハラ心配してしまっていたけど、ベテランマンガ家にいらぬ心配で、超能力バトルモノとしてなかなかに鋭く格好いい少年マンガらしい決着でこれまた大団円に締めてお見事と心の中で拍手した。2004年から2021年の永きにわたる連載で63巻で完結。途中アニメ化もあり(深夜アニメじゃなくて日曜朝アニメなのが笑える)、スピンオフ企画もアニメ化するなど地味に大ヒットしてる。椎名先生お疲れ様でした。

 という感じで今回は一区切り付いたマンガ縛りで3つ選んでみました。マンガはそこそこ読んでいて終わる作品があれば新しい作品も探しておかねばなので、ちょくちょくチェックしていて「虎鶫」「勇気あるものより散れ」「時間停止勇者」あたりは面白い作品が始まったという感じで楽しみにしている。その他では「ヴィンランドサガ26巻」が滅茶苦茶に良くて感動した。この作品では2度目だけど泣かされてしまい干からびかけてるジイサンの涙腺絞られてしまった。ネタバレすると面白くないので書かないけど老若男女問わず読むべき作品だと思う。NHKでアニメ第2期が来年放送されるようで、1度目泣かされた”農奴篇”まで行きそうでそっちも要チェックである。


○アニメ:1位「サイバーパンク:エッジランナーズ」、2位「アキバ冥途戦争」、3位「ぼっち・ざ・ろっく!」

 1位はもう、これでいいんだよ!っていう感じのSFアニメ。電脳技術が発展しそれを使った犯罪やらも存在する”サイバーパンク”な近未来の世界観、体をサイボーグ化して闘うという超能力バトルモノ要素、囚われのお姫様を悪の城から救い出すという物語の骨格、どれも手垢の付いたような今まで何度も描かれてきたし、今も描かれ続けているような要素で構成される作品である。主人公の得た超能力が”加速”ってのからして「サイボーグ009」からの伝統でなんにも目新しくはない。でも過去の名作と比べてもひけを取らないし、今年見たアニメの中ではぶっちぎりに面白かった。バトルシーンが格好いい、全編に漂う破綻への予感がやるせなくて良い、ハッピーエンドじゃない終幕がどうにも胸に来る。何が違うのか説明しきれないのがもどかしいけど、偶然じゃなくて狙ってやってる細かい積み重ねの累積で仕上がりが違ってきてるのかなと想像している。Netflixのオリジナルアニメで制作は「トリガー」。金かけて力のある制作陣が作ったのがもろに感じられる。ネトフリのアニメも金掛けたからといって全部が面白いわけじゃないけど、それでもチョイチョイと突き刺さるような傑作が作られているので、パトロンとしては来年も契約更新させてもらう所存である。いたく満足している。

 2位、3位は年末の最終回までオレの中でデッドヒートを繰り広げてくれて、もう甲乙つけがたかった。僅差2位の冥途戦争の方はアキバのメイドで任侠モノのパロディーをやるというヤッタケタな作品なんだけど、萌えあり笑いありドンパチあり不条理ありで良くこんなわけ分からんアニメ作ったなと感心する。楽しめる人間限られるけど分かる人間が見たらクソ面白い怪作。対して3位のぼっちざろっくの方は、王道の女子高生バンド青春モノで、その枠だと萌えアニメの歴史に燦然と輝く「けいおん!」があるわけだけど、個人的には今作の方が好み。コミュ障で一人でギターひいて動画サイトに投稿してた少女が、ひょんなことからバンドに参加して、不器用ながらも仲間と”THE青春”って感じの物語を紡いでいく。基本”コミュ障あるある”なギャグ多めだけどなんというか、白秋からそろそろ玄冬にかかる域にあるジ様の心に残る遠き青春の残り香を思い起こさせるような切なさも孕んでる。学校の体育館とかゴミ捨て場とか図書館とかが丁寧に描かれたシーンになぜか胸が締め付けられる。ぼっちちゃんが初めて路上ライブする場所がシーバス釣ってた高架下だったりして知ってる街並みが出てくるのも個人的に懐かしかった。こっちはコミュ障なオタクどもには受けたようで、ひょっとすると「スパイファミリー」「チェンソーマン」という秋のド本命ジャンプ勢より評判とったかも。なんというか”ぼっち”だって好きなことみつけてのめり込んで打ち込んだら、なんか沼の底の方で仲間もみつかるってのは人生の真理かもしれない。なんでも良いので好きなことを見つけて目一杯楽しむってのが重要だとジイサン若い人には言ってあげたい。君の旋律をかき鳴らせ!

 アニメは沢山観たので他にもいっぱい面白いのあった。もちろん「シン:エヴァンゲリオン」は最高の締め方で”庵野監督ありがとう”って感じだったけど劇場版アニメは別枠だと思うので外した。「パリピ孔明」「錆食いビスコ」あたりもクソ面白かったけど選には漏れてるってのが今のジャパニメーションの水準の高さを物語ってる気がする。他にも中国のコロナ禍再燃で外注してた作画が間にあわんくなったとかで2度目の放送延期に入ってる「異世界おじさん」が完走してたらベスト3に入ってておかしくない可笑しさで”異世界モノ”というもうネタ出尽くした感のある分野でもまだこんなにも面白い作品があるってことに驚きと喜びを感じている。


○ドキュメンタリー他:1位BBC「ワイルド・アラビア~神秘の王国~」、2位「魔改造の夜」、3位「さよなら全てのエヴァンゲリオン~庵野秀明の1214時間~」

 1位の「ワイルド・アラビア」はさすがBBCと唸らされる圧巻の映像美。アラビア半島の野生動物を追ったドキュメンタリーなんだけど、もうラクダの色っぽい眉毛から、トビネズミが跳ねるときに足の毛が砂をとらえるところまで、クッキリハッキリ魅せてくれる。ラクダと先住民の関係とラクダと石油長者の関係の対比とかも興味深く、そしてなんといっても夫婦共同で技ありの奇襲をかけるコシジロイヌワシのケープハイラックス狩りの映像が痺れる格好良さ美しさ。”西側”の我々が知らないアラビアの自然の美しさがそこには映し出されていた。眼福眼福。アマゾンプライムビデオで視聴可能なので生き物好きの皆様は是非ご覧ください。超お薦め。

 2位の「魔改造」はドキュメンタリーじゃないけど、NHKのバカっぽい企画番組で、モノホンの技術者たちが、しょうもない”お題”に社名に泥を塗らぬよう己が誇りに恥じぬよう全力全開で取り組む技術系バトル番組。太鼓を叩くクマちゃん人形は瓦を叩き割り、イジェクトされたDVDが射出されボウリングのピンを倒す。そこに何の意味があるのか?なくても技術者の魂が震えたならば、そして倒すべき強敵がいるならば、彼らは寝食を忘れて魔改造に没頭する。やってることは大の大人が本気で遊んでるだけなんだけど、そこにドラマも生まれれば感動さえ覚えるという事実。こういう真剣に遊びができる技術者たちが日本の”もの作り”の現場にいるということはとても頼もしく感じる。夜会のルールとして「失敗してもかまわない」というのが設けてあるところが、この企画を立ち上げた側が、人間の技術や知識の発達において失敗をおそれていては何も生まれ得ない。ということを良く分かってるというのがまた頼もしい。バカバカしいけど面白くて意義深い観る価値のある番組だとワシャ思う。

 3位の「さよなら全てのエヴァンゲリオン」は「シン:エヴァンゲリオン」製作現場の庵野監督に密着したドキュメンタリー。庵野監督伝説は奥さんのモヨコ先生や大阪芸大時代の同級生島本先生のマンガでも知ってたので、サッポロポテトバーベキュー味を口に流し込みながら作画作業する場面とか妙な既視感があって笑えたなんてのも楽しかったけど、アニメ製作の方法論からして凡百の監督とは違ってて、自分の頭にある範囲では限界があるので、それを破るために参加するメンバーにも限界まで”出力”してもらって、それらが化学反応起こして限界突破した作品にもっていく、っていうやり口に正直驚かされた。凡百の監督なら自身の理想が頭の中にあって、そこに向かっていくんだろうけど、庵野監督はスタート地点ではどこにも存在していない作品を、みんなの力を借りて顕現させるのである。天才だとは認識してたけど、やっぱりどうにも天才だと思う。できた作品が規格外なのは監督自身が規格外の天才だからだと納得した。NHK作成だけどこれもアマプラで視聴できます。

 てな感じで、今年もマンガにアニメにドキュメンタリーにと楽しめたんだけど、今年に入って、もう地上波民放TV局は大きなスポーツイベントの放映権料が払えなくなってきているという末期症状が顕著に表れはじめていて、ボクシングの「井上VSドネア」「村田VSゴロフキン」(敬称略)はアマプラ独占だったし、国内格闘技の何十年に一度あるかどうかの大イベントだったメインカードが那須川天心VS武尊の「THEマッチ2022」がアベマ独占でペイパービューで視聴権購入して観る方式、サッカーワールドカップもエラいぞアベマTVって感じでアベマTVで全試合無料配信ときて、地上波TV放送受信機が我が家に無くて唯一残念だった、格闘技やスポーツの生中継を視聴できないという不満は、むしろ”サブスク”と呼ばれる動画配信サイトを契約していないと生じる不満となりつつあり、視聴者舐めて馬鹿にした番組作りして、スポンサーにおもねって、くっだらねえバカのクレームに反発する気概もない腰抜けの地上波民放TV放送には、いよいよ”タダで見られる”っていう利点以外なにも残ってない状態になってきて、昔っからその視聴者舐めくさった鼻につく態度が気にくわんかったのでザマミロバーカと気分が良い。

 アベマTV、Netflix、NHKオンデマンド、アマゾンプライム、いずれも払った料金の価値は充分あった。来年もこの調子でよろしく。

 という感じで今年も、人様の作ってくれた作品で沢山の楽しい時間を過ごすことができた。微力ながらお金払ってパトロンとして応援していくので、これからも良い作品を力一杯創って欲しい。

 今年楽しんだ作品に関わるすべての表現者のみなさんに感謝。

※画像引用は野田サトル「ゴールデンカムイ」第31巻Kindle版、netflix「サイバーパンク:エッジランナーズ」第10話より

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