2017年11月3日金曜日

中小企業が作ったミノー

 私が勝手に「日本2大漁具系釣り具メーカー 」と呼んでいるのが、本拠地を佐賀から福岡に移した我々昭和な釣り人には変態バスルアーメーカーとしてもなじみ深いヨーヅリ改めデュエル社と我が地元神奈川県は横須賀のヤマシタ改めヤマリア社の2社である。
 今回、ルアー図鑑うす塩味第35弾はこの2社の主にミノーについていつものようにグダグダと書いてみたいと思う。

 ヤマリア社の前身、山下釣具は「ヤマシタ式」と呼ばれる漁法の代名詞である塩化ビニール製のいわゆるタコベイトを発明し普及したという、由緒正しい日本の釣り具メーカーである。開高先生もどっかで日本が誇る釣りの技術としてヤマシタ式を例にあげてたと記憶する。元々は漁業の世界での発明だけど今日トローリングヘッドのスカートからタコ釣りテンヤの飾りまで遊びの釣りの世界でももはやタコベイトは世界基準となっている。日本人の「遊びの釣り」における発明においてコレと比較できるぐらい世界に広まったのは、他にK-TENの二宮氏の「重心移動システム」ぐらいしかないと思う。
 今ヤマリアのサイトではその辺の会社沿革も紹介されているし、創業者の山下楠太郎氏の著作「新しい釣漁業の技術」も公開されていてなかなかに面白く興味深く拝読した。

 時代は巡って平成元年、日本でもずいぶんルアーの釣りが浸透してきて、当時ヤマシタだったヤマリア社もルアーブランド「マリア」を立ち上げた。その時、最初に作ったシリーズが写真のミノー「ザ・ファースト」。今書いててそういう意味の名前かと改めて気付いた。大きめの動きで特にファーストリトリーブ向けってわけじゃなさそうなのになんでファーストなんだろうと思ってたけど第1弾的な命名だったわけね。
 有名な話だけど、最初に出た14センチと11センチはK-TENのタックルハウスとの共同開発で、ウッド製のミノーを作ってたタックルハウスがプラスチック版を作るにあたって樹脂製品の製造技術持ってたヤマシタに協力を求めてお互いのブランドでそれぞれ売ることで合意して作ったらしい。だから、14センチ11センチは当時のK-TENと型は一緒。でも内部の重心移動機構は先発のK-TENの鉄球と磁石を使った機構は使わずに円柱状のオモリがスライドする方式をとっている。このおもりがスライドするっていうのが実は裏技的に使えるというのを怪魚ハンターの小塚氏が紹介しているというのは以前にも書いたけど、メガバスが狙って、重心移動機構のオモリがぶつかる慣性でルアーをダートさせるという意図で作ったグレートハンティングミノー90+5に先駆けて、飛距離増加以外にルアーの動きに干渉する働きをも持った重心移動機構を搭載したミノーが意図せず生まれていたのである。
 まあ当時はそんな使い方されてなかったけどK-TEN同様シーバスマンには人気が出て、私のようなCD7やCD9を使ってた湾奥系の釣り人の要望にもこたえるべく9センチと7センチも追加となった。このサイズからはタックルハウスとは分かれて開発していて、ザ・ファーストの方が丸っこくて可愛い見た目となっている。特にフローティング7センチはクランクベイトのような見た目と動きで、コイツの高浮力を生かした水面引き、今でいうウェイキングが濁った運河で良く釣れて良い思いをさせてくれた。右下の目玉の剥げた固体がその頃の生き残りでなんとも懐かしい。

 ヤマリア製のミノーといえば、もう一つナマジ的に忘れられないミノーがフライングダイバー。それも赤。
 カヤックシーバスで大活躍してくれて、その役目をFマグに引き継いで今は蔵に眠っているけど、今でも充分釣れるルアーだと思うのでたまに投げている。
 もともとはボートシーバスの船長に岸壁下が支柱で支えられているタイプの護岸攻め、いわゆる「穴打ち」に良いよと勧められたルアーである。
 穴打ちではそこそこ飛距離が必要だけどそれよりも穴の奥にぶち込んで、支柱に付いているシーバスをいかに短い距離で食わせるかというのが重要になってくる。立ち上がりがモタモタしていては食ってくる範囲を過ぎてしまう。だから固定重心で平行姿勢でユックリ沈んでいって、目的の深さで引き始めるとオフセットのリップがしっかり水を掴んですぐ動き出すという設計。障害物の際の短い距離で食わせるためにはとても適しているのだけど残念ながら廃盤となった。


 ヤマリアはお世辞にも大企業ではない。工場の製造ラインにも限界はあるだろうし、売れなくなったモデルは割とすぐに廃盤になる。昔から生き残っているのはマールアミーゴ、ポップクイーン、ブルースコードぐらいだろうか。逆に中小企業ならではの小回りの良さと伝統の開発力で、市場のニーズやらも踏まえて積極的に新製品をぶち込んでくる。
 写真の上はツーテンの虎ファンさんが気に入ってたエンゼルキッスで振り幅広い系、大きいサイズ残して廃盤、下の細身のプリンセスMも廃盤。っていうぐらいに廃盤製品が多いのは寂しいと言えば寂しいんだけど、新製品ぶっ込んでくる挑戦精神に免じてオレは許す。特に最近では、小難しいこと言いがちな輩がさも難しい技術のように喧伝してたダイビングペンシルの世界に簡単な動かし方の映像公開してぶっ込んできたローデッドが抜群で、プレミア付いて1万円以上するようなルアー買わんでもローデッド買ってヤマリアの人の説明通り動かせばワシでも10キロやそこらのマグロなら釣れたわい、ザマミロという感じ。
 ザマミロは100g超級のダイビングペンシルの釣りという今や大流行の釣りを切り開いたルアーであるカーペンター社ガンマに対して敬意がなさ過ぎかと反省するが、我ら技術もお金も限られる週末釣り師に、安価で性能の良いルアーを提供し釣り方含め普及してくれたヤマリア社には創業者からの伝統である釣り技術の普及に対する企業精神と伝統をひしひしと感じるのである。


 でもってもう一方、九州の雄デュエル社は、もともとのヨーヅリ(ヨー「ズ」リだと思ってましたスイマセン)っていえば伝説となった「アタックル」ブランドの変態バスルアーの会社というイメージの他には、餌木とか弓角とか潜行板とかスキップバニーちゃんとかとかのまさに「漁具系」のイメージかも知れないけれど、実はコレが世界的には一番知られている日本のルアーメーカーなんである。何を馬鹿なことを、ダイワやシマノの方が有名に決まってるだろ?と思うかもしれないけど、ダイワやシマノは外国ではリールメーカーという認識のハズでルアーはそれ程有名じゃない。
 何しろスポーツフィッシング市場におけるメジャーリーグとでもいえるバスプロショップスのカタログにルアーが出てくるのは現在、ヨーヅリ、メガバス、ラッキークラフトで、後ろの2社は新参者でサーフェスクルーザーやクリスタルミノーの時代からバスプロショプスのレギュラーメンバーの座を守ってきたヨーヅリこそ海外では日本を代表するルアーメーカであると断言する。なにしろヨーヅリブランドの知名度が海外では高いので海外向けブランドとしてはいまだ「YOーZURI」という昔の名前で出ていますなぐらいだ。
 ということで、デュエル社も中小企業ではあるんだけど、相手にしている市場が海外もあってでかいので、ヤマリア同様廃盤開発のサイクルは短いんだけど、廃盤製品復活やら名前を変えて出ていますやらな商品も多い。
 上から2個がトビマル、3個目がクリスタルミノーという懐かしのルアーだけど今復活してます。今時のぎらぎらしたカラーとかも出てるし、クリスタルミノーにおいては重心移動搭載形のマグクリスタルミノーなんてのも出ている。往年のファンの皆様におかれましては箱買いのチャンスでっせ。
 トビマルの一番上の個体はガン玉詰め込みまくった「超重量版トビマル改」でほとんどアクションしないのに釣れました。今思えばリップ付きのシンキングペンシルを作ってしまってたわけで「あまり動かなくても釣れる」んじゃなくて「あまり動かない方が釣れることがある」というのに気づけていれば一儲けできてたのかもしれない。
 4番目のアイルマグネット105(とかなんとかいうやつのはず)は拾いもの。これの大きいのは九州男児がヒラスズキ狙うときの定番だそうだけど、たぶん今も違う名前で出てる。
 で、下3つが今時モデルの「ハードコア」シリーズのミノーで下から3つめがハードコアミノーパワーSというワイヤー貫通の丈夫な対モンスター用とうたわれているミノー、別にモンスター狙いに行く予定もないのに思わず買っちゃった。下2つはハードコアTTリップレスS90でこれも思わず買っちゃったけどコイツは近所でも投げてます。 

 左の写真、一見すると同じルアーに見えるけど、実は上がフローティングで下がシンキング。一緒やないケ!と突っ込んだところ背中の表示の他に「目」でも見分けができて赤い目がシンキング黄色い目がフローティングだそうである。芸が細かい。
 芸は細かいんだけど、正直この手のスリムなリップレスミノーの元祖であるコモモや同じメーカーが作るサスケ、リップレスミノーとしてはそれより古いタックルハウスのTKMLとかに比べると、なんというかどこにでもありがちな今時のジャパニーズルアーっぽいというかオリジナリティーに欠けるという気がしてた。でも動き的には余り潜らずキビキビ動く系で、欲しかった動きなのでまあ良いかなと思っていたけど、こうやって書いていてまさにこのルアーは「今時のジャパニーズルアー」っぽく作られているんだと思い至った。ホログラフを使った精緻なカラーリングに凝った造形、高機能をうたった磁石とタングステンを使った重心移動機構などトッピング全部乗せ状態のジャパニーズミノーになっているのは、外国のお客さんを念頭においているからなのだろう。それがすべてではないにしても、外国版の製品名に「SASHIMI」とか付けちゃうぐらいにはあざとい戦略性を持って攻めてるデュエル社である、そういうことを考えに入れてないとは考えにくい。
 そう思ってみると、なかなかに味わい深さが増してくる。世界中で売りさばくのでその分コストも軽減できるのか値段が1000円ぐらいと安いのも大きな魅力である。
 大手のデキの良いルアーやらベンチャー的な小規模工房からの挑戦的な製品もいいけど、こういうしたたかな中小企業の作ってるルアーもやっぱり魅力的だと思うのである。デュエルのルアーが九州で、ヤマリアのルアーが相模湾とかで人気な地元密着型な一面も好ましく思える。とにかくいろんなルアーがあって選べる楽しさって良いもんだ。


 最近、近所ポイントの攻略に苦戦しつつ楽しんでいるところなんだけど、「もうちょっと動きの派手なルアーないかなー」とか「細長いのを試してみたい」とか思いついたときに、じゃあそういうルアーを買いに行こうかと思うと、ふと、待てよそんなルアー我が家の蔵にあったんとちゃうか?と思ってごそごそやってると、目当てのルアーもだいたい出てくるうえに、忘れてたような懐かしいルアーも出てきたりして、心は思わずしばし追憶の彼方に旅立ったり、なかなかに楽しかったりもしたので、そんな中で出てきたルアーを中心に今回は紹介してみました。
 オッサンどもに懐かしがっていただければ幸い。若い人にはオッサンの想い出話に付き合ってもらって恐縮。でも若い人が今使ってる最新のルアー達も10年経てば想い出のルアーになって若い人もオッサンになるというものである。今日は明日には昨日になる、何事の不思議なけれど。

2 件のコメント:

  1. ツーテンの虎ファン2017年11月10日 19:54

    この2社は好感が持てるなあと思ってましたが、マリアがヤマシタの1ブランドであったこと、アタックルもヨーヅリの1ブランドであったとは知りませんでした。知らなかったけど、このルアーは釣れそうという予感がして買ったルアーがいくつもあります。エンゼルキッスは買ってから10年以上たって日の目を見ました。
    釣り具を買う時にはメーカーの宣伝文句に釣られて買うことが多いけど、前知識のないものを直感で買って爆釣したときは嬉しいですね。
    この2社の製品はそういう「当たりルアー」が多いですね。

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  2. おはようございます

     釣れるし安いしは好感もてますよね。

     最近密かにシマノとダイワのルアーの値段の高さにムカついてます。なんか流行りのルアーの焼き直しみたいなプラのルアーのくせに2000円とかの値段付けくさって、ダイワさんもシマノさんも出世なさって俺らビンボ臭い釣り人はもう相手してくれへんのか?安いのピーナッツⅡしかないやンケ!とか思ってしまいます。
     値段が高くないとありがたがらない釣り人側にも大きく責任あるのかも知れませんが、高けりゃ釣れるってもんでもないんだぜってのをデュエルとヤマリアの2社には示し続けていって欲しいと思います。

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