2017年9月2日土曜日

ミミズの鳴く夜は恐ろしい


 録りためてあったNHK「ダーウィンが来た!」をみていたら、アメリカヤマシギという鳥の特集で、この鳥が脚でステップ踏むようにして進むのは何故か?という謎に迫っていた。どうも脚で地面に振動を与えて驚いて地上に出てきたミミズを食べているらしい。
 マジっすか?
 ニワトリなんかでも土をほじくってミミズを探すのはみたことあるけどそんな方法もあるんかいな、振動でそもそもミミズが地表に出てくるなんてあるのかヨ?
 と思っていたら、なんと彼の地では(米国北部)釣り人がミミズを採集する方法として、木の杭を打ってその杭をヤスリのような金属の棒で擦って振動させるというのがあるんだそうで、実演してみるとたしかにミミズがワラワラと出てきていた。
 初めて目にした方法で、興味深いしためになった。なんで日本じゃその方法が使われていないのか?日本じゃ栗の葉の渋を水に溶かして撒いて苦しがって地表に出てきたミミズを拾うんだったっけ?
 とか気になって、ひょっとして私が知らないだけで、日本でもミミズハンターな人々は土中に振動加えてミミズ採ってたりするのだろうか?とネットでちょっと調べてみた。

 まあ、今時のネットにはいろんな情報があふれている。ミミズの採り方も、主にウナギ釣りの餌として重宝されている「太いミミズのたくさんいるところはこんなところ」的な穴場情報中心にいろいろ書いている人がいた。
 中には、ドバミミズと一括りにされているなかには、何種類もの生態も異なるミミズが含まれていて、それぞれすむ場所が違えば採り方も違ってくるので「ドバミミズ」なんていい加減な呼び方でなく、分かるところまで同定しておくべきだと書いている人もいて、おっしゃるとおりと反省したしだいである。ドバミミズと一括りにしているミミズにはフトミミズ科のすくなくとも4、5種が含まれているようだ。
 この人が、側溝に浅くつもった落ち葉に潜んでいるミミズについて、掘り返さなくてもスコップをつっこんでガサガサ振動を与えるだけで出てくることがある、と書いていて、日本でも土の浅いところにいる種類のミミズが振動で土から出てくることは、知ってる人は知っているようなのである。
 ウナギやナマズ釣り用の太いミミズを得る場所として、斜面脇の側溝や、公園の駐車場の隅に落ち葉がたまったところなど、ミミズが逃げられなくて貯まっている場所を皆さんあげていて実によく分かってらっしゃる。学生時代ウナギの延縄に一時期こったときに校内の側溝とかでミミズ捕っていたのを思い出した。

 ただ、ネット上では栗の葉の渋の方法は出てこず、範囲広げても何かを水に溶いて撒いてミミズを採集する方法については出てこなかった。私の記憶もあやふやなので本当にそんな方法があったのかすら怪しいけど、ミミズについては土を耕し有機物を分解し肥沃にする重要な土壌生物とされているので、関係する文献には困らないだろうということで、また図書館にお勉強しにいった。
 
 何冊かあって「ミミズの雑学」渡辺弘之著というのが、濃いめの内容で面白かった。
 振動でミミズを土中から追い出すやり方はアメリカでは広く行われているようで、この本では南のほうフロリダはアパラチコラで、木の杭を木製鋸のようなもので擦って振動させる方法が紹介されていた。
 また「ダーウィンが来た!」のダーウィン先生といえば「種の起源」を書いた進化論の提唱者として特に知られているけど、実はミミズの研究がライフワークでミミズが土を耕す力を広く紹介する本を書いていることも、生物好きには割と有名な小ネタ。その本、日本語訳版もあるのだけど、その中でダーウィン先生、地面に向かって空砲ぶっ放して振動でびっくりして土からミミズが出てくるのを確認したりしているらしい。
 これは私の推理だけど、たぶんミミズが振動に反応して逃げるのは、ミミズ最大の天敵モグラ対策とみて間違いないだろう。そう考えると、ミミズがモグラから地表に逃げるという行動を進化させた後で、ヤマシギがそれを利用して振動で追い出したミミズをつかまえる行動を進化させたと考えられ、生き物の補食行動の進化の追いつ追われつな様がうかがえてなかなかに面白い。 
 
 という感じで、振動で土の浅いところに棲むミミズを驚かして採取する方法はこの本でも裏付けがとれたのだが、私の記憶の片隅の「栗の葉の渋」を撒く方法は出てこなかった。でも、惜しい感じ。藁を浸した水をかけてもミミズに変化はなかったけど、青草を浸した汁をかけたらミミズのたうったそうで、新鮮な植物の渋なのか灰汁なのか何らかの成分をミミズは嫌っているようで、栗の葉案外情報出てこないだけで正解かもしれない。どこで入手したネタなのかすっかり思い出せないボケ頭が腹立たしい。
 ミミズを土から分離するというのは、研究者にとって生息数やらを計測するために必要な作業で、どうすればそれが簡単にできるのかというのは切実な問題のよう。
 海外の研究者は、荒っぽく電撃とかホルマリンのような毒物とかを使うようだ。たしか大量のミミズが人間を襲う「スクワーム」とかいうパニックホラーな映画だったと思うけど、電撃で土からミミズ(といいながら映像はゴカイっぽかった)を湧かせて採取するシーンがあったように記憶している。
 電撃もホルマリンも、自然環境で使っちゃダメなのは紳士淑女の皆さんにはご理解いただけると思う。
 そこで、ミミズ研究者が目を付けたのがマスタードだそうである。水1リットルにマスタード7gぐらい溶いて撒くとミミズの鼻がどこにあるのか、あるのかどうかも分からないけど、とにかくツーンときてのたうち回って地表に出てくるそうである。この方法は自然にそれほど厳しくなさそうでウナギ釣りの餌確保の際にも使えそうである。粉ワサビでもいけるそう。まあ辛みの成分はどちらもアリル芥子油とかで同じだから当然といえば当然か。ちょっと脱線するけど刺身の薬味はそんなわけでカラシでも結構いけます。
 でも、研究者としてはなんかの水溶液で土からミミズを這い出させる方法は、それでも土の中に残るミミズがいるかもしれず、土掘り返して水で流しながら篩にかける力仕事が確実で信頼できるとのこと。
 
 ミミズの採取方法的な知りたかった部分はだいたいつかめたんだけど、ミミズネタもやっぱり知らないことだらけで、その他の部分も楽しく読んだ。

 ミミズって、半分に切っても両方完全に再生するとか思ってたけど、普通釣り餌に使うような大型種は、鉢巻のある頭側に重要な器官があるので、しっぽ側の半分は再生しないんだそうな。当たり前だと思っていたことが、もろくも崩れさる驚き。
 あと、地震のときに出てきて大量死するとかいわれているのは、相関関係よくわからんらしい。というか、たまに道路とかに出てきて大量死しているのの原因もはっきりとは特定できないらしい。
 釣り餌用の「キジ」として我々釣り人にはおなじみのシマミミズ、じつは外来種らしい。などなど。

 ヤマシギに限らず鳥とも切っても切れない関係のようで、特にトラツグミは夜地表に出て活動するミミズをよく狩るらしい。そういえばトラツグミといえば夜口笛の様な声で鳴く夜行性の鳥である。ヌエの鳴く夜は・・・のヌエがこの鳥。ミミズつかまえるために夜行性なんだ。
 ヤイロチョウという漢字で書くと八色鳥という美しい渡り鳥が日本に繁殖のために渡ってくるんだけど、このヤイロチョウがシーボルトミミズハンターで、雛のために日本最大級のミミズであるシーボルトミミズをセッセと狩るそうである。ちなみにシーボルトミミズは地表性のミミズで、体表のクチクラ層が構造色で青く美しく輝く。その美しさは鳥とか植物大好きな作家の梨木香歩先生曰く「まるでラピスラズリのような輝く紺碧の色」だそうだ。
 クチクラ層って我々も実は持っていて、髪の毛のキューティクルがそれ、っていうかクチクラとキューティクルは単に読み方の違いだと思う。

 筆者の先生は、釣り人が大物を求めさすらうのと同じように、大きなミミズをもとめてあちこち遠征していて、開高先生がブラジルでオーパ!と驚いていたミニョッコスーや南アフリカの世界最長6mだかに達する種やらはちょっと紹介した程度だったけど、東南アジアの河川産の数mになるのやらは実際に調査にいって報告されている。
 それ以上に先生が情熱燃やしているのは、日本で一番大きなミミズがどの種なのかということで、長さは琵琶湖周辺や河北潟あたりにいるハッタミミズだろうと書いている。けど、重さならシーボルトミミズというのが定説だけど、どうもそれ以上のがいるらしいということで、紀伊半島で大物ミミズを探索している。まだ日本にも何種類か未同定の大型ミミズがいそうな気配で、日本で一番大きなミミズの答えは出ていないようだ。

 ダーウィン先生が、その著書で「鋤は人類が作ったもののうちでもっとも価値のあるものの一つだが、土は太古からミミズによって耕されてきたのである。」と書いているように、ミミズには我々人間はもちろん自然界のいろんな生物がお世話になったり、お世話したりという関係を持っている。
 釣り餌にミミズを使うというのは世界共通のようで、我々釣り人とも切っても切れない愛すべき生き物であり、たまにはミミズについて勉強してみるのも、これまた楽しからんや。

 
 子供の頃、庭の隅で「ジィーー」っと鳴いている虫がいるのを指して父親が、あれはミミズが鳴いてるんや、と教えてくれたが、ミミズはどこで音を出してるんだろう?と疑問に思っていた。長じて「ミミズ」が鳴くというのは土の中でケラが鳴いているのを誤ったものだと知って。ケラならコオロギみたいだし羽とかで鳴くんだろうなと納得した。
 でも、土の中で鳴いている虫がいて、それが何なのか気になってほじくってみた昔の人の好奇心は正しいように思う。ときに誤ることはあっても、自分の目で納得するまで確かめるというのは大事な基本だろう。

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