2017年8月4日金曜日
飢饉に耐える作物として領主様からいただいた甘藷の種芋を腹減ったからといって全部食ってしまうとは!この薄馬鹿下郎どもめが!! -侵略的外来アリおまけのおまけ-
北杜夫先生だったと思うけど、ウスバカゲロウという昆虫について、ひどい名前を付けられたもんだとか同情していた。最初なにを言っているのかピンとこなかったが「薄馬鹿下郎」という意味にとるとひどい名前なのかなと何とか思いあたった。もちろん本来は「薄翅蜉蝣」の意味である。成虫が夜の自販機あたりに寄せられている姿を見たことあれば、華奢な羽をもった薄い翅の生き物だということは明白。ただカゲロウといっても、釣り人のお馴染みのカゲロウ目の昆虫とは遠縁で、薄い翅でヒラヒラと飛ぶ以外にあまり共通点はないアミメカゲロウ目の昆虫。
まあ、ウスバカゲロウっていえば幼虫の「蟻地獄」ですよ。
ア・リ・ジ・ゴ・ク
蟻関係のお勉強したついでに、この分野ネタの宝庫なので、もう少し追加で面白そうな本はないかと探していたら「砂の魔術師アリジゴク」松良俊明著という新書が目に入った。ロープ際の魔術師はジョー・メデル!
アリジゴクだけで1冊書くネタあるんかい!?と驚くとともに、逆にアリジコクだけで1冊書いてしまったような、マニアックに奥深くつっこんだ本が面白くないわけがないと確信して読み始める。
期待は裏切られることなく、装備を鞭から、アリジゴクをすくって砂から漉しとるためのスプーンと茶こしに持ち変えたインディジョーンズともいうべき筆者は、大学近くの海岸やらでフィールドワークを重ねつつも、アリジゴクの謎を説く秘宝種をもとめて、オーストラリアの奥地に分け行っていくのであった。
なにが最初にびっくりかというと、アリジゴクの仲間のウスバカゲロウ科は17種も日本にいるということで、かつあのアリジゴクとしかいいようのない砂のすり鉢状の巣を作るのはそのうち5種とされている。ほかのやつらはすり鉢作らず単に砂に埋まってたりするらしい。
カザフスタンのイリ川デルタの砂州の上に作られたキャンプ地には、日本だと神社の軒下とかの日陰にアリジゴクっているはずなのに、日向の乾燥した砂で、写真のように例のすり鉢状の巣を作っていて「中央アジアのアリジゴクは日本のとは違うんだな~」と感心しつつも穴から引きずりだし、ちぎって餌にして、小ブナを釣り、小ブナでコイ科の魚食魚ジェリフを釣り、ジェリフを餌にヨーロッパ大ナマズ(サイズ的には中ナマズだったけど)をというワラシベ釣果を堪能したものである。
でも、日本でもふつう我々がアリジゴクだと思っている、神社の縁の下の細かい砂や木のウロにたまった細かい土などに巣を掘るザ・ウスバカゲロウのほかにも、海岸の砂に巣を掘るクロコウスバカゲロウなんてのもいて、筆者は豊富なサンプルが得られるこの種で、実験などしている。
待ち伏せ型の捕食者は、どのくらい場所換えをすべきかというような捕食戦略とか、我々釣り人のポイント移動の戦略と全く同じような疑問について調べられていたりして興味深い。
砂浜の比較的変化に乏しい環境下で営巣するクロコウスバカゲロウの幼虫は、ほとんどと言っていいぐらいに巣の場所を変えないようだ。
たいして、木のウロとかに巣を作るウスバカゲロウの幼虫は、それなりに場所替えをする。
砂浜では、開けた環境で太陽も等しく降り注ぎ、場所を変えてもあんまり条件変わらないのであろうとのことであった。逆に木のウロとかでは雨が降った後、砂が適度に湿っている場所とかは時間の経過とともに変わるので、巣が作りやすく蟻をはめやすい湿り気の塩梅の砂を求めて移動するのではないかと考察していた。
まあ釣りでも、どこいっても釣れへんときに移動する手間暇かけるぐらいなら、じっと待って夕まず目にでも期待しろだし、雨の影響で刻々と濁りの影響が出始めているときとかに濁りはじめのエリアを追っかけていくなんてのは、アリジゴクでも釣り人でも待ち伏せ型の捕食者なら基本は一緒ということか。
そしてあのすり鉢状の巣。なかなかに恐ろしい罠になっているのである。
昔捕まえてきて、篩にかけた細かい砂をイチゴパックに敷いて巣を作らせたことを思い出すが、作り方はぐるぐる後ずさりしながら、アリジゴクが大顎で砂を巻き上げながら掘っていく。初めて知って感心したが、実は最後に真ん中の底でアリジゴクが上顎を開いて砂が崩れるのを止めているのである。
なので、アリなどの餌生物が入ってきたら、よく知られているように砂をかける前に、上顎のつっかえをはずしてまず砂を崩れさせつつ、追い打ちで砂をかけて獲物を地獄の底に誘うのである。
でもって、ヒアリとかの刺すアリでなくても、ふつうのアリでも顎で噛んだり蟻酸を飛ばしたりするはずで、あの砂からほじくり出すと大顎以外はヤワヤワとした毛の生えた体のアリジゴクに一矢報いることぐらいできるのではないかと思うのだが、そこが砂の魔術師アリジゴクですよ。大顎で獲物をとらえたら、砂の中に引き込むことによって砂の重さで相手の動きを封じてしまうのだそうだ。
アリジゴクの巣の中ではグンタイアリもアリジゴクに勝てないらしい。
その上、とらえた獲物には大顎とその下に沿うように位置する小顎とから形作られた溝から毒が注入されて、抵抗する力を完全に奪われチュッと吸われてしまうのである。
アリもただ漫然と食われているわけでは当然なくて、アリジゴクの臭いを避けているふしがあったりするのだが、人間からすると「穴ぼこみて避ければいいじゃん?」と思うのだが、アリは触覚や嗅覚に特化してて視覚が弱いので、どうしてもアリジゴクに落ちてしまうようである。というかアリが落ちなきゃ餌の半分ぐらいアリのアリジゴクの存在の危機。
落ちてからも、アリとアリジゴクの抗争は熾烈を極める。アリジゴクは大顎を背後にエビぞらせてイナバウアー的な格好で獲物をとらえるのが得意である。すり鉢にアリが落ちたときに自分の後ろに逃げさせた方が、必殺イナバウワーバイトを決めやすい。
前と後ろですり鉢の傾斜を微妙に変えて、後ろの方が緩くて登りやすくしてあるのである。
にもかかわらず、すり鉢に落ちたアリの多くが急斜面の方を登る。
永きにわたる生存競争の騙し騙されの抗争は今も続いているようなのである。
当然、アリジゴクが狩られる側に回ることもあって、普段砂の中に潜っていて鉄壁のガードを誇り襲うチャンスのないアリジゴクに対し、寄生バチであるウマヅラアシブトコバチの一種は、わざとすり鉢に落ちて、その太い後脚を挟ませておき、アリジゴクの首関節の柔らかいところに針を刺して産卵するという、死中に活を得るような狩りをやってのけるようだ。
ちっちゃな虫にも、生きるための能力がこれでもかってぐらい備わってて感動する。
ちょっと脱線するけど、すり鉢の傾斜を出すのに三角関数つかってて、「サインコサインなんになる~」とか歌われてたけど、身近な謎を解き明かすのにも必要で、まあそういう手段があるということ知っておくというのはやっぱり必要なんだろうなと思ったところ。
今の受験勉強の、詰め込んでテストでいい点数とればいいという中では、社会にでて役に立つような生きた知識にはなってないかもしれないけど、高校生ぐらいまでで習うようなことって、そういう概念があると理解するとか、やり方として何か本でもみながらやればできるというところまで分かっておく、なんてのはやっぱり大事だと思う。テストと違って現実では本みながらパソコンに計算させて答えにたどり着いても役に立つのだから。
そういう意味で、高校の物理を専攻していなかった私が若い頃覚えた「相対性理論をなんで義務教育で教えてくれなかったんだ?」という憤りは至極まっとうなモノだったと思う。この世の真理の一端と言っていい理論の、めんどくさい計算やら証明やらは抜きで、物質とエネルギーが交換可能とかあたりの大事な概念だけでも誰でも知っておくべきだと思う。受験で点数稼ぐテクニックじゃなくて、この世を知る手だてとしての科学知識って重要だと思う。
若き日のナマジ君もしかたないので「猿でも分かる相対性理論」とかいう本を読んで勉強して、とても大事なことを学んだ。オレって猿より頭が悪い!ってことを。
閑話休題。
で、なんでアリジゴクはあんなすり鉢状の巣を作って餌を捕まえるようになったんだろう?って茶こし持ったインディージョーンズである松良先生は疑問に思った。
ウスバカゲロウ科に近い仲間でクサカゲロウ科という仲間のクサカゲロウなんかは、幼虫はアリジゴクに似てるんだけど、草の上とか前進しながらアブラムシとか食べている。見たことある人いるかもしれなけど、偽装のためにゴミしょったちっちゃなアリジゴクという感じ。クサカゲロウの卵は隙間の空いた「毛先が球」な歯ブラシみたいな感じで「うどんげの花」とか呼ばれているので見たことあるかも。田舎だと自販機の明かりに飛んできてそのあたりに生んだりしてる。
アリジゴクの仲間も、もともとそういう歩いて餌を狩っていたものから、岩とかの壁面にへばりついて餌を待つのがあらわれて、次にその岩の下の半洞窟状のテラスの土の浅いところで潜って顎を開いて餌を待つのが現れ、その中からすり鉢状の巣を作って待ち伏せするのが現れたというのが先生の予想。今書いたタイプのアリジゴクはそれぞれ実際に現存種がいる。
で、単に潜って餌を待つのと、すり鉢状の巣を作って待つのの間に、後ずさって溝を掘って餌を自分の大顎開いたところまで誘導したのがいたはずだ。というのが先生の仮説。だけど、現存種でそんな巣を作るものは知られていなかったので、アリジゴクの進化における「ミッシングリンク(輪っかの失われた部分)」なんだろうなと思っていたら、オーストラリアで放射状に溝を掘って真ん中で餌を待つアリジゴクが見つかった。
これは、実物を調べねばということで、先生はオーストラリアに旅立つのである。
結果として、原始的なすり鉢の元になった形ではなく、むしろすり鉢に溝を追加した最新型?の巣で、ミッシングリンクの発見には至らなかったのだけど、乾燥した大地が続くオーストラリアはウスバカゲロウ科200種を要するアリジゴク王国で、先生は充実した旅と研究成果に満足するのであった。
こういう研究者が情熱を傾けて真摯に取り組んでいる様って感動するし、その語られる言葉も驚きや発見にあふれていて面白い。
ぶっちゃけアリジゴクのことが分かったところで、社会に何かすぐに役に立つのかといえば、役には立たないだろう。
でも、こういう真面目な研究者達の連綿と営々と積み重ねてきた研究が、明らかにしてきた事実が、積もり積もって、進化とは、生物とはとかいうとても大事で大きな謎を解き明かしていく礎となっていくんだと思う。
まあ、そんなこた後生の人間が考えることだし、研究者は己の情熱のおもむくままに力一杯研究すればいいんだし、最近では成果は公に知らしめるべきという感じにもなっているので、生き物好きとしては、この人類が生命の秘密に迫らんとしている時代に生きる喜びをもって、面白い研究結果を、すんばらしい成果を期待して待ちたい。
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