2025年7月19日土曜日

イカんちゅ

 従来型PENN両軸機にスクイダー(Squidder)という機種があるのは以前から知っていた。「アメ人もイカ釣りするンやな、そういやアメリカオオアカイカ釣ってる古い写真とかみたことあるしな」ぐらいに思っていた。まあ直訳すれば「イカの人」だから、船で使うイカ釣り用の両軸機種とワシが勘違いしていたのも仕方ないだろう。

 しかし、従来型PENN両軸機についてあれこれ勉強していくと、それはまったく見当違いであったと知ることになる。そのへんも「浮かべ釣り道」の管理人さんは、過去の雑誌記事やらカタログやら持ってきて解説しておられて、未熟者のワシとしては従来型PENN両軸機については大いに教えていただいているところでありネットの隅っこで勝手に感謝するところである。

 スクイダーはイカ大好きイカ野郎御用達ではなく、ストライパーを「スクイッディング」と呼ばれる手法で釣る東海岸のストライパー野郎達のためのリールだったのである。要約して引用させてもらうと、スクイッディングはスズと鉛の合金の比較的軽いジグ(あるいはジグヘッド)とウナギや鶏の毛を組み合わせた、サーフからのジギングであり、しゃくって落とし込みっていうのを繰り返してストライパーを誘う釣りのようである。我が国のドジョウテンヤのスズキやタチウオ釣りにも似た釣りで、洋の東西が変わっても、同じようなことを考えるモノだなと思うと面白い。我が家にきた東海岸ルアーセットの中にもスクイッディング用ジグが混じっていて、コイツはデザイン的にまさにそういう用途のジグのようだ。

 というわけで、イカ釣り用の胴突きリールと思ってたら、サーフでやや軽めのリグを扱うための機種だったわけで、そう考えると、コイツのちょっと特殊な機構や仕様に合点がいくというものである。基本の「140スクイダー」はなんと2個もボールベアリングを使用しており、ギア比は微妙に高いんだか低いんだかの1:3.3、糸巻き量は350ヤード/20ポンドとなっていて、細めのラインで軽め(1ozぐらいだった模様)のジグをぶん投げるためにスプール軸はボールベアリングで支持されており、そして、この機種の最も特徴的な機構である「エアブレーキ」を装備している。エアブレーキって半透明のカバーで囲って見える状態のプロペラみたいなのが特徴のダイレクトリールだったかの珍品の写真を見た記憶があるけど、コイツは軽量スプールの裏に羽が生えていて、外からはうかがい知れない仕様。となると、軽めのルアーを投げるには都合が良い性能ってならワシにも使いどころがあるか?っていっても1ozとか想定だろうけどエアブレーキの投げ心地だけでも味わっておきたいなと、スプール幅が狭く最も糸巻き量が少ない「146スクイダー」を探したけど、国内ではあまり流通しなかったのか手に入らず。逆に石物師にもPENN両軸の高級機種ということで140スクイダーは人気があったようで、こちらは中古の弾数豊富で安いのを苦もなく確保できた。できたんだけど140スクイダーにはスプールが大きく分けて3種類ぐらいあって、軽量樹脂スプールと、軽量アルミスプールと普通の?真鍮クローム仕上げスプールで、ワシが狙いをつけたのは真鍮クロームメッキスプールの「140Mスクイダー」のようだったので、軽量樹脂スプールに羽が生えているのは写真で確認できるけど、果たしてクロムメッキスプールにも羽はえてるのか?って疑問に思って、「ORCA」を覗きにいったけど、どうも羽無しのスプールもあるようだけど、どの場合がそうかまでは分からんかった。分からんけどまあいいやと値段も手頃なのもあって買ってしまったのには理由があります。同時期に安く140用の樹脂製スプールが売りに出されていて、そちらは羽が生えてるのが確認できたので、それも確保しておけば有り無し比較もできて替えスプール有り体制も整って万々歳、というお気楽モードでマウスをスルリのクリッククリックってなもんであった。それがあんなことになるなんて。ちなみに、ORCAでは140スクイダーは50ドルもあれば買えるよって相場観だったのが「300ドル超えで売れてやがる!」って驚いて投稿している人が居て、マニア2人以上が競ると値段が釣り上がるってのは万国共通のようである。救いようがないネ。

 でもって、いいブツが手に入ったぜヘッヘッヘってなもんで、早速スプールの確認。スクイダーはじめいくつかのシリーズでは、釣り場でスプール交換が簡単にできるように「テイクアパーツ」という仕組みがあって、ハンドル側に1個だけある摘まみを手で回してしっかり緩めて、ハンドルごと本体プレートをグイッとひねるとパカッと外れるという工具いらずの工夫。で、外してみるとクロームメッキスプールには羽が付いてない。羽が付いているのは色は様々だけど樹脂製とアルミ製の軽量スプールでクロームメッキ真鍮スプールは羽無しなのかな。まあ、写真右のように羽の生えた樹脂製スプールも確保しているので問題なしである。で、早速填めてみた。

 ありゃ!なんじゃこれ?

 スプールの幅が寸足らずでスカスカに隙間が空いてる。出品者間違えて145とかのスプール送ってきやがったなとムカついたけど、部品番号見ると写真右ではちょっと小さくて分かりにくいけど「29-140」となっていて、表示上は140のスプールで間違ってない。間違ってないけど実際填めたら合ってないってことは表示が間違ってるのか?いずれにせよこれは出品者さんを責めるのはお門違いだろう。

 仕方ないので、長さ的に「スクイダー145」の可能性が高いので、145の出物がないか調べたら「あるのが悪い!!」って感じでちょうど売りに出てて、だいたい従来型PENN両軸機って2~3千円ぐらいで買えるけど、140ほど球数も無いようなのでややお高い。コイツだけちょっと張り込んでしまって送料込みで7千円がとこかけてしまった。でも、届いたブツでスプール交換してみたらバッチリハマってくれて、スクイダー145は替えスプール有りの体制が組めた。あースッキリ気持ちいい。写真下と右のスプールが元から填まってたスプールで、部品番号の刻印は「29-145」となっていて、「29ー140」となってる145に適合するスプールは一体何なのか?って思う。

 140が最初に作られたあとに幅違いの機種を展開したらしいけど、おそらくそのときに金型流用で間に合わせたとかかなと想像している。というのも樹脂製スプールは軸を鋳込むかたちで製造してるのではなく、スプールの左と右のパーツを作ってから軸に填め込んでるような造りになっていて、合わせ目のところを利用して穴が空いててラインの端を結べるようになっている。新たに金型起こすより140用の金型で作ってぶった切って調整するか、もしくは片方のパーツだけ新しい金型で作れば当面の金型代は節約できる。PENNあるあるだけど、とりあえず使える部品在庫があればそちらか先に使って間に合わせるってのがあって、あっちのマニア氏もワシも困惑したりもするんだけど、たんに140用の部品在庫だぶついてたので長さ調整して使ったのかもしれない。いずれにせよ29-140という番号ありの紛らわしい145用の樹脂製スプールが存在するので、140スクイダーのスペアスプールを入手する際にはお気をつけください。っていう極めて限られた状況での情報を誰が必要としているというのか?でもそんな情報が当ブログの売りでございます。

 でもって、145でエアブレーキは体験できそうだし、140のほうはスプールの出物か軽量スプール付きの安い本体が出てきたら確保するか、いずれにせよ急ぎじゃないな、と思ってたら、遊びに来たひじさんがドンピシャのタイミングで「ナマジは最近PENNの両軸にハマってるみたいだから、家で糸巻き換え用とかに使ってたのが転がってたからお土産に持ってきたよ」といただきましたのが、140スクイダーで待ってましたの樹脂製軽量スプール版。道具との関係って一期一会であると同時に出会うべくして出会うもので、しかるべき時にしかるべきブツが手元にやってくるのである。それはもう避けられない運命であり、だからこそマニアな蒐集家は欲しいと思ったら買っておけば良いのである。どのみち巡り会う世界線なのである。ひじさんアザマス!

 というわけで、9フィートのアグリースティックの船竿だかなんだか分からんへんな竿も、まるでスクイダーと組ませよ!というおぼし召しとしか思えないタイミングで出物があって買う運命で手元に来た。やや柔くて16ポンドナイロンぐらいの細めの道糸が良さげなので145スクイダーの方を分解整備して、実釣に備えることとした。140スクイダーも2台体制整ったしそのうち出番が回ってくるだろう。

 PENNの凸凹ハンドルナット用のスパナも活躍して、サクサク分解整備は進む。テイクアパーツで本体外すと、さすが高級機種だけあって真鍮の金色じゃなくて、ステンの銀色多めなのはちと寂しいけど、機構自体はほぼコレまでいじってきた従来型PENN両軸機と一緒、違ってるのは逆転防止のオンオフスイッチがあって、ハンドル逆回転でラインを繰り出せる「ナックルバスター仕様」にできるらしいけど、ワシには不要だな。なんかハンドル逆回転を使う特殊なテクニックが東海岸のスクイダーどもにはあったのだろうか?まあ気にしないでおこう。あと逆転防止に爪を押しつけるバネが、爪から生えている。ぴょーんと跳んでどっか行ってしまわないのは良いけど、小さいので填めにくいのは変わってなくて、填めやすさ的にはシンプルな銅板板バネ方式が正直良かったように思う。

 ドラグが、出ました革パッド、こいつはまだバッチリ柔らかさも残ってて生きてるのでそのままグリスを新しくして使いました。7500ssとか用のHT-100のカーボンパッドが適合するようだけど、革が生きているうちは革でいっときましょう。耐久性がどうかは分からんところだけど、ドラグのスムーズな滑り出し、調整幅ともに素晴らしい仕事してくれます。ギア裏の赤ファイバーワッシャーだけジュラコンワッシャーに換装はお約束。で、今までハメ殺しで外せないものだと思ってた、メインギアがハマってる軸というかスリーブ。勉強してたらコレ外せるみたいで刺さってるピンを千枚通しの先ででも突いて反対側に出てきた端っこをつかまえて引っ張ると抜けて、スリーブも軸から抜けます、と判明。コレまでの機種では回しながらパ-ツクリーナーで隙間の油を飛ばしてから注油とかで実用上問題ない感じには仕上がってたけど、外せばなお良しだっただろう。まあそのためだけに分解整備やり直さないけど次の機会にでも。今回は外して綺麗にしてグリスアップ注油実行。逆に外し方が分からんかったのが、レベルマチックに引き続きボールベアリングで蓋が取れる構造に思えない。どなたか外し方ご存じのかたおられたらご教授願います。あとこの機種は本体側プレートの金属の輪っかはハメ殺しです。無理にはずそうとしないように。輪っか付きのパーツとして「1N-140ハンドルサイトプレート」として扱われてます。

 って感じで基本的には、従来型PENNの内部の設計は似たような感じで、道具としては単純明快で、機能的にはモデルごとに特徴持たせて拡散していっても基本は同じなので、使う技術的なところにおいてはそれほどグチャグチャ細かい違いを考える必要はなく、単純さの中に自分の技術や戦術を織り込んでいく感じになりそう。ま、なんにせよ楽しめそうである。で、このスクイダーシリーズを楽しむためには、せっかく特別に設けられている”エアブレーキ”がどんなもんか見てみないとイカンだろうということで、早速投げる準備をしてみた。

 用意した竿が先ほど書いた、謎のアグリースティック9fで、この竿妙にグリップが短くてリールシートが下の方にある。船で竿掛けに固定してグリグリ巻くのを前提としているのか、あるいはアグリースティック独特のいい加減な設計なのか判断に迷うが、いずれにせよこれでリールを上にして右手でサミングするにはリールシートが下過ぎる。逆に左手でサミングするにはフォアグリップが短かすぎる。ファイトするにもこのリールシートの位置ではきつすぎて、適当な位置にフォアグリップでっち上げて、投げるときは右手でそっちを握って、巻くときも力が要るときは左手でフォアグリップ握ってという形にするんだろうなということで、ロッドベルトとビニールテープ、ラケット用のグリップテープでフォアグリップでっち上げてみた。

 で、早速投げに行ってみた。

 いやこれ、なかなか難しい。左手サミング自体はカヤックシーバスやらでなんぼか練習してたこともあって、できなくもないんだけど、スクイダーのエアブレーキ、スプール側に羽が生えていて回転時空気をかき混ぜるんだけど、側板側に空気の流れを妨げるように仕切り板が立っていて、空気抵抗を生んで回転にブレーキをかけるって理屈なんだろうし、実際投げるとフィーッて遠心ブレーキの音をおとなしめにしたような音を発して効いてる感じなんだけど、効きが遠心ブレーキほど強くなく、かつマグブレーキのように強さを変更することもできないので、キャスコンは緩めて使うのが公式のお作法のようなのでゆるゆるで投げるんだけど、特に後半の効きが悪い感じで良く言えば抜けよく伸びるし、悪く言えば回転数上がりすぎてバックラッシュする。初速上げすぎるとろくなことにならないので、ユックリ振ることを意識して最終的に横回転系の入った投げ方でたまに綺麗に飛距離が出るようになったけど、ルアー投げるのに使うとしたら、毎回綺麗に投げられるようにならねばならず練習というか慣れが必要なように感じる。ぶっ込みなら多少のバックラッシュは投げた後に直している時間があるので、現時点でもぶっ込み泳がせとかなら導入可能な感じ。まずはそのへんから使って習熟していくのが妥当な手だろう。飛距離は思ったより出てる感じだし、竿は柔くて食い込みは悪くなさそうだし、クリックブレーキ付きなのであたりを待っていてギーッと鳴るのは楽しくて良い。

 エアブレーキがどんなモノか、試してみるだけで良いと思ってたぐらいだったけど、それなりに使いこなせるようになると、スピニングではやりにくい巻き抵抗の大きいディープクランクをベイトで青物も想定される状況で投げられるとか、切る札が増えそうな予感がしているので、ちょっと秋になったらコイツでまずはぶっ込み泳がせから始めて、安定して投げられるように習熟することを目指してみよう。

 昔の石モノ師でも、ABUの6500CSロケットとかでぶっ飛ばしてる今時の遠投カゴ釣り師でも、簡単そうに左手サミングで投げているので、その域まで行けば何かと使える技術になるのではないかと思うと共に、両軸の独特の単純さを楽しむのに従来型PENN両軸機は存外悪くないのではないかと思い始めている。

 従来型PENNで、気持ちの良い釣りができたら最高な気がするので、ちょっとクンフー積んでみたいと思ってます。こうご期待。

※空力ブレーキ搭載リール、コイツ以外に使ってたのはアリオン社「コマンダー」ですね。ダイレクトじゃなくて投げると勝手にクラッチが切れてフリースプールになるとか凝った変態リールだったようです。そういうのはアメ人の専売特許だろとと思ってたけど意外なことにスウェーデンのメーカー。

2 件のコメント:

  1. PENNの両軸受リール、Mitchellのコレクションより深い沼で
    日本より本国でのコレクターがかなりコアなのが居るみたいです。
    ナマジさんも両足の脛くらいまで沈んでるようですね

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    1.  歴史も長く、本国では親しみもある分野でしょうから、お好きなひとは深く沈んでいるようですね。
       実釣を想定して買っていかないと、深みにハマりすぎて2度と浮き上がれなくなりそうで怖いです。
       幸い実用性のあるリール達なので、今は早く実釣で使いこなしてみたい、という思いの方が蒐集欲よりは強いかなと思ってます。

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