諸星大二郎先生のマンガ「海神記」だったと思うが、主人公が「サイモチの神」と恐れられる怪物と対決することになり、海辺の洞窟でその怪物を待ち構えていると、現れたのは巨大なシュモクザメであったというシーンがあって、「サイモチ」とは「刀を持っている」とかいう意味らしいけど、そこに刀を鋭い歯になぞらえてサメを、しかもサメの中でも異形といって良いシュモクザメを持ってくるところの諸星先生のセンスの良さと絵的な迫力、不気味さ、格好良さが感動的だった。と思ってたらサイモチの神をサメとするのは「古事記」の海幸彦山幸彦にでてくる「その和邇(ワニ)は今は佐比持神という」あたりが元ネタのようである。
古来、人は海の底からやってくる鋭い歯を持った巨大なサメに恐れとともに神秘的な魅力を感じてきたのだろう。
現代においても、サメは恐怖の対象としてとともに魅力的な生き物としても認識されているということは、数々のサメ映画が作られていることからもうかがえる。まあジョーズとジョーズ2以外はB級以下のショボい映画だとしてもだ。
特に米国では、サーファーが襲われる事故があったり、ダイバーがシャークウォッチを楽しむ気風があったり、一部好き者釣り師が狙っていたりということもあり関心と人気があるんだと思う。何しろかの国の「ディスカバリーチャンネル」では「シャークウィーク」というサメを特集する企画が20年以上続いているという。
そんなディスカバリーチャンネルから流れてきたサメ映像などをアベマTVで見ていたので、ここのところ頭の中にサメたちが泳ぎ回っている。
ということで、3回ぐらいにわたってベスト3方式でナマジ的「サイモチノカミ」話を語ってみたい。初回はサメの中でも特に異形な奴らを選抜してみた。では第3位から行ってみよう。
○3位 ナヌカザメ
釣ったときに海中からトグロを巻くようにしてシッポを曲げたままヌボーッと上がってきたときは、魚かどうかも怪しい感じで、巨大なウミウシか何かのような奇怪な生物に見えた。船上に上げてみるとやっと正体がナヌカザメと判明したが、船上でもその奇怪さは衰えるところを知らず、どうも水をたらふく飲んで膨らんでいるようだし、こちらを噛もうと威嚇してくるしでなんとも強烈なヤツですっかり気に入った。
写真の個体がその時のヤツである、撮影後海の底にお帰り願ったが、実はこのサメ美味しいらしいのである。良く志摩あたりの紀伊半島でネコザメを湯引きや刺身で喜んで食べるという情報を目にするのだけど、てっきり標準和名のネコザメのことだと思っていたら、どうもあのあたりではナヌカザメを「ネコザメ」と呼んで「さめなます」は祝いの席に出すほど珍重するらしい。食っておくべきだったが惜しいことをした。機会があれば味も堪能してみたいところだ。サンショウウオのような見た目に似合わず身は綺麗な白身らしい。卵も親の見た目に似合わない美しいガラス細工のような外見で「人魚の財布」と呼ばれているそうな。
○2位 マオナガ
オナガ3兄弟の長兄マオナガ兄さんは弟分のニタリ、ハチワレとともに「オナガザメ」と呼ばれる中でも特に尾ビレが長い。全長の半分近い尾ビレは異形と呼ぶのに充分な個性的な見た目である。超カッコいい。
この尾ビレは何のために長いのか?生物の体にはいちいちそうなった理由がある。
その尾ビレで餌の魚を叩いて弱らせてから食うという話を初めて聞いたときは正直眉唾だと思った。
しかし、後年その現場を目撃することになるとは思いもかけぬ暁光であった。
シイラ釣りに出た船で、イワシの群れが捕食者に追い上げられて水面に固まってグルグル回っている状態を「イワシボール」と呼んだりするのだが、イワシボールを見つけて下に付いている捕食者がシイラかはたまたカツオかキハダかとワクワクしながらキャストを続けるも何の反応も無く、「何も付いてないんでしょうかね?」と確認のために船をイワシボールに寄せてもらったところ、水中のイワシボールの中で幅広のベルトのようなモノがうねっているのが見えた。一瞬何じゃこりゃと理解できなかったが、次の瞬間脳内検索ヒットで「オナガザメや!」と興奮して、慌ててジグを付けて放り込んで誘ってみたけど相変わらずシッポでイワシを叩いている影は見えるけどルアーには食ってこなかった。
オナガ3兄弟がその長い尾ビレで餌を叩いて捕食しているのはどうも間違いないようで、高知あたりにオナガザメ類を狙う延縄漁船があるらしいんだけど、針に掛かってくるオナガザメの多くが尾ビレにハリがかりするらしい。パラオのガイドさんもジギングで釣れたオナガザメはシッポにフッキングしていたと言っていたように記憶している。
その辺確定情報無いかとネットを徘徊してたら、youtubeにもろに投げ込んだ餌をシッポではたいてから食べる映像があった。TV番組の「飛び出せ科学くん」の映像のようで「オナガ捕食」で検索すると出てきます。痺れました。
ネズミザメ目という高速で泳ぎ回るために進化したサメの仲間でジャンプする様も目撃されているというから、かけたらさぞいい気持ちにさせてくれるでしょう。
○第1位 ヒラシュモクザメ
これぞ海神記の「サイモチノカミ」だろうというサメ。シュモクザメ類最大のコイツは最大6m超えるとかいう異形の怪物。
シュモクザメ類のあの特徴的な頭部に加えて、なんといってもコイツの特徴は他のシュモクザメと比較しても長い背ビレで、ピンと上につきだした様がやたらカッコいい。背ビレの長さは頭部前方の形状と合わせて他のシュモクザメ類との判別にもつかわれるけど、やっぱりコイツの背ビレが長いのにも理由があったのが最近明らかとなって、ちょっとビックリさせられた。
「国立極地研究所」の研究者が、ビデオカメラ等をそなえたタグを付けて調べたところ、このサメ、なんか横60度に左右交互に傾いて泳いでいるらしい。模型使った実験とかで確かめると横に体を傾けたときに背ビレが翼のようにはたらいて、効率よく揚力を発生させ省エネで泳げるんだとか。他のシュモクザメ類より外洋性だと言われているけど、広い海原を泳ぎ回るための進化の妙といったところか。海は、生物は、不思議な秘密に溢れていると感動せざるをえない。
アベマTVで見たドキュメンタリーの中でタヒチのランギロア環礁の外海側の斜面を三匹編隊で泳いできたシーンはやっぱり特徴的な背ビレがシャキンとしていてゾクゾクするぐらいカッコ良かったが、残念ながら横泳ぎはしてなかかった。他のサメを襲って食うと紹介されていたとおり、高次の魚食性のサメなんだけど、なんといってもシュモクザメ類は「エイ喰らい」として有名で、鼻先にある微弱な電気を感じ取れるロレンチーニ器官を駆使してるんだと思うけど、砂に潜ったアカエイとかをバリバリ喰っちまうんである。大型個体の口にはエイの棘が何本も刺さっていたりするとか。
ヒラシュモクザメはシュモクザメ類の中でも珍しい部類なのでなかなかお目にはかかれないだろうけど、アカシュモクザメは日本近海でも結構いて海水浴場に現れて恐れられたりしている。是非一度お手合わせ願いたいモノだ。
オナガザメ類とシュモクザメ類は釣りの対象になりそうな気もするので、機会があれば狙ってみたい。海中から上がってきた獲物が異形の怪物だったなら、きっとサメ好きとして最高の気分にひたれるだろうことは想像に難くない。
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