2016年3月19日土曜日

なにも考えてなければこうはならない


 しばらく前から、宿舎の川向こうの藪になってた崖が工事中になっていた。

 学校の敷地のようで、けっこうな広さの崖とそこに生える木々は、都会の生き物たちのオアシスとなっていた。
 しかしながら、写真一番右の方はアパートのすぐ上に崖が迫っていて、アパートの上側の崖は工事でコンクリで固めている。最近のゲリラ豪雨だとか台風時の大雨とかは崖の崩壊が心配されるような状況になることも多く、事実もっと左側の崖が崩れて補修工事も発生していたところである。
 アパートの直上にそんな危険な崖があったら、それは今にも命の危険を招きそうであり、コンクリで固めるのもやむなしかなと思わざるを得ない。崖の下になっているアパートの状態を見てそのままで良いだろうとか、生物群集のほうが重要だとかは流石に考えにくい。

 その流れでいけば、危険はなるべく避けるべきということで、写真の崖の区域全体に同様のコンクリで固める処理をするんだろうなとちょっと残念におもいつつ諦めていた。身近に迫るような人への危険対策と比べれば、草木が生えて虫や鳥がいることの重要さ、景観や安らぎなど、役所言葉にすると嘘くさくなってしまうが、自然のもついわゆる「多面的機能」などと呼ばれるモノは価値が小さいと判断されてしまうだろうなと思ってもいた。

 しかし、崖の下が住居では無く道と川になっている場所の崖については、土砂が崩れないように、生えていた草木を重機で抜いた後コンクリの井桁の枠を作りつつも、その枠の中には砂利を敷き詰めて、そこに草木が生えることが出来るような工法を採用している。
 よく見ると、これまで草木が生えていた今回工事しなかった一番左のあたりも、そういう工法で処理され、草木が生えた状態の藪であることが確認できた。

 昨今、豪雨が多くなっているように感じており、崖の崩落はいつ起こってもおかしくなく、その時に人の命を守らなければならないのは当然だろう。環境保護テロリストのように、人の営みよりも無条件で自然環境などのほうが重要だなどとは流石に私は思っていない。

 でも、人の危機がそれほどじゃ無い場合、今回のケースで言えば下にあるのが住居では無く道路の場合、植物に始まり、虫や小動物、鳥たち生物群集のことを考えて、そこに配慮した工事をするというのは、私はとても重要なことだと思っている。そういったことを十分考慮した上で、学校としての教育的見地も踏まえ判断が下されたのだと思う。素晴らしいことである。感謝に堪えない。学生さんにも分かるやつにはその意義が伝わるんじゃ無いだろうか。そこにある現実がまたとない教材となるのではないだろうかと期待する。


 アパートの上分はコンクリで固めたのでその分は全体として藪が少し狭くなるかも知れないが、砂利を敷いた工法の部分にはこれから草が生え、木が生えまた藪が戻ってくるだろう。
 元の崖の藪には、夏になるとやかましいぐらいのセミなど虫が生息していて、虫を食べるヒキガエル、カエルやネズミなどを食べるだろうシマヘビなんかもいたりするなかなかたのしい藪で、藪から出てきて道を歩いているカエルもヘビも確保して藪に返してやったことがある。
 私にとってはそういう「知り合い」が住む藪が一部守られて復活しそうなことに大きな喜びを感じている。

 鳥に目を向けると、この藪があるから虫などの餌も捕まえやすいんだと思うが最寄り駅にはツバメが毎年いくつか巣をかけて子育てする様を観察することができる。
 藪の鳥たちは川を越えてこちらにもやってきて、我々の目や耳を楽しませてくれる。ウグイスなんかもそろそろ鳴き始めてもおかしくない。家にいながら谷のウグイスの美声を楽しむ贅沢よ。
 更に贅沢な感じがするのが、宿舎の前のサクラ並木にちょくちょくコゲラがやってくることである。休日朝方の散歩を日課としている同居人は何度も見ているようで「キツツキ2匹いた、白黒まだらでひっくり返って木を突っついたりして愛らしい」と報告を受けていたが、この冬私も目にすることができた。
 シジュウカラが木の枝を突いて落ちた虫を道路まで拾いに降りてきたり賑やかな群れだなと思っていたら、「ギーィィィッ」「ギーィィィッ」という感じで交互に鳴き交わすようなコゲラの鳴き声。声の方を仰ぎ見てみると真上のサクラにちょっと離れてコゲラ2匹がシジュウカラの群れに混じっていて、枝をくるくる回って餌を探したりしていた。雀ぐらいの大きさの鹿の子まだらの可愛いキツツキ。なごみます。


 危なそうだからとりあえず全部コンクリで固めとけ!という雑な考え方では無く、こういうふうに可能な範囲で自然環境に気配りをする、それによって守られるモノは、既に失われてしまったモノが多い今の時代間違いなく大事になってきている。
 今回の工事については、そういうことが分かった人たちがちゃんといて、キッチリと仕事をしたということなのだろう。どうせ「予算を余分にかけてまで藪にして、蚊が湧くだけで無駄」とか言っちゃうような時代錯誤な間抜け野郎もいたはずである。そこを理論整然と押し返して必要な措置を確保した実行力に敬服する。

 コンクリート屋さんも固めるだけの仕事ばかりじゃ無くてこういう仕事もできるジャンよ!

4 件のコメント:

  1. 都市部ではまだこうした例もあるのですね。震災前は全国的にそういう流れにあるものとばかり思っていたのに、震災後のふるさとでのおそるべき逆行ばかりを目にしてきたので‥‥それはそれでなんとも遣りきれない思いがします。

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    1. あれ? 名前がUnknownになってしまった。
      スミマセン、carankeです。

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  2. carankeさん おはようございます

     復興の名の下に行われるコンクリ屋の横暴については12日にも書きましたが、叱ってばかりではコンクリ屋も育たないと思うので、良いことがあったら積極的に褒めていこうかなと思い今回の件は書きとめました。
     コンクリで固めるにしても、全か無かではなくて、いろんなオプションがあるんだから、よりよい手段を考えてくれというのが私の願いです。

     carankeさんに一度実地で手ほどき受けてから、鳥を見るのが俄然面白くなってきました。近所に鳥がいる環境があることの幸せを感じます。
     

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  3. おっしゃるとおりですね。ただ、よりよい手段を考えるという発想は心に余裕のある人や組織でないとなかなか難しいだろうと、かつての職場を見て思います。あのなかにいたら私はどうなっていたことかと。

    去年の春はホントに楽しかったです。鳥、また一緒に見て歩きたいですね!

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