2024年3月23日土曜日

最後の大物!シェイクスピア「2090EJシーワンダー」

 あれだ、シェイクスピアが大森とかにスピニング作らせる前の”20××シリーズ”は日本じゃ全然人気ないけど、今まで触った「2052」系「2062」系も素晴らしいデキで、本国ではフルーガー版とかテッドウィリアムズ版とかも出るぐらいの人気機種で、なぜ、日本じゃ鱒向きサイズの2052系はともかく、シーバス好適の2062系が全くといっていいぐらい人気がないのか?なにせ以前ネタにしたように3つぐらい入札しておけば1つぐらい落とせるだろうと考えたら、3つわが家に来てしまったぐらいである。でも、整備して干からびてた皮のドラグパッドだけフェルトに換装とか調整して整備してやれば絶好調で、80超のスズキ様も連れてきてくれたし、3台確保して(既にあった1台を含めて4台所有)まったく問題無かった、むしろ幸運だったと思っている。

 で、そんな日本じゃマイナーなアズキメタリック色の中小型機ではなく、さらに輪をかけてマイナーな600g超の大型機(PENNだと704とかに近い大きさ)が、れいの”謎のデカアメリール&マイナー大森大放出祭り!”で入手したデカアメリールの最後のお楽しみの1台、シェイクスピア「2090EJ」である。なんで、2台あるのかって?あれだ、日本の中古釣り具市場じゃ全く需要無くて、お祭りの時に落とした箱入り未使用品でさえ3千円しなかったんだけど、これがその後ヤフ○クで同時期に2台別の出品者から出てきて、片方は8千円とかの「そりゃ買う人おらんわい」っていう開始価格だったけど、もう1台は3千円というマウスの摩擦抵抗が軽くなる程度の値段だったので、どうせワシしか入札せんだろうと3020円で入れておいたら開始価格でアッサリ落札。まあ箱入り新品を分解するのはネジとか分解跡が残りそうで気が引けるので、ラインも巻いてあって使用済みの個体を分解整備することとした。正直2台もいらんなとちょっとだけ反省。箱入りの方は箱書きや取説は写真撮ってデータ化したので売りに出したいところだけど、3千円でも買い手が付くかどうかなので売っても仕方ないので、欲しい人は物々交換とか可能なのでご連絡を。

 なんで最後のお楽しみに残してあったのか?っていうと、これシェイクスピア製で”E”が付く機種ってことは60年代の発売(もっと書くならE=6、j=2で62年製)のはずなんだけど、ハンドル回してみると、思ったより軽く回ってくれる。巻きが重くなりがちなウォームギア機のハズなのになんで軽いんだろう?って考えると、たぶん一つにはギア比が低いからで、箱書きによると3.2:1と低速。同時代のPENNの700や704が3.8:1なのでそれと比べてもかなりトロ臭い。かわりに軽く巻けるというかパワーがある。もいっちょの理由がこの時代のウォームギア機には珍しくスプール上下(オシュレーション)が減速式で、1/2弱ぐらいの減速割合になってるのも巻きの軽さには貢献してるんだろう。どんなオシュレーション機構が入ってるのかお楽しみってところである。あとパッと見て独特なのが本体と脚が別々でボルトで固定されているところで、ちょっと個性的な癖のある機種であることは見て取れるのでバラすの楽しみである。

 ということで、早速分解していこう。いつものようにまずはスプール周りから。はい、台座から伸びるドラグを受ける部分の軸は亜鉛あたりの金属で太くしてあります。スプール座面のワッシャーは革、“6D(6枚円盤)”3階建てのドラグのドラグパッドも革製、比較的良い状態で残ってるので、実際に使用するとかでなければこのまま温存で良いだろうと思う。スプール裏のドラグの音出しは逆回転防止のタイプ。と今時のスピニングを知っていれば、何のことはないんだけど、このリールこの個体は”EJ”で62年製造のようだけど、「2090シーワンダー」自体はネットで調べたところ59年からあるシリーズの模様で、そのぐらい前に既に今の中大型スピニングのドラグの基本型はできていたということ。さらに遡るなら50年代の初めに登場したらしいミッチェル「302」がやはり3階建てなので、そのあたりまで溯れるし、いまだもってそこからたいして進化していないのが見て取れる。

 続いて本体蓋をあけていくと、入れ直したらしい白いグリスが劣化もしておらず滑らかな状態で、これも軽い回転の一因だろうなという感じ。まあ洗浄して青グリスぶち込んでしまうけどな。

 パカッと開けてハンドル軸のギアの上に小径のギアが付いてて、それが蓋側の棚の上に乗ってるギアを回転させるような構造で、一瞬「ナンジャコリャ」と戸惑うんだけど、本体蓋銘板の出っ張りのところに格納されているギアを外すと、あぁそういうことかと理解できる。棚に見えたのは実はオシュレーションカムで、写真右下のオレンジで囲った部品なんだけど、これがハンドル軸のギアの回転を使って回される”棚の上のギア”の凸部に溝を填めて上下させることにより後端で主軸とネジ留めされているので、スプールを上下させるという仕組み。この時代、まだハンドル軸のギアの下?には写真の様に逆転防止が入ってたので、この位置に歯車を入れて、その上に主軸に固定したオシュレーションカム設けてスプールをを上下させる方式は採られておらず、大型スピニングの減速には大森も「スーパーセブン」や「スーパー2000」で独特の方法を採用して試行錯誤していた。一方PENNは”ウォームギア機には単純クランク方式”という割り切りなのも個性があって面白い。PENNはスピニングにおいては堅実路線。確かにその割り切りには単純な設計で整備性良くトラブルが少ないだろうという利点もあり一つの方向性。あとウォームギア機はギアが重ならず横並びになるので本体が薄っぺらくなるのがカッコ良くて好きなんだけど、シーワンダーでは上の方の4方向からの外観写真を見てもらえば分かるように、蓋側からの見た目は棚のようなオシュレーションカムの分上下幅が出てるし、オシュレーションのギアの入ってる銘板の部分が凸ってしまって、ハンドル側からみたスッキリとした外観より、太って野暮ったく見える。重量もその分増加しているだろう。とはいえ重い仕掛けや魚を相手にする大型リールにおいては巻きが軽いのは売り文句にはなるだろう。

 ハンドル軸のギアは鉄系芯の真鍮というより銅という感じの色の素材、ローター軸のギアはステンレスなんだけど、ローター軸には1個ボールベアリングが填まってるんだけど、これが”Maid in USA”で60年代のアメリールには米国製ボールベアリングが入ってるんだなと細かい所でおもしろがったんだけど、もいっちょ細かい所でこのベアリング上の写真の様に片側シールタイプでギア側が開いてるんだけど、下の写真の様にテフロンっぽいワッシャーで蓋をして、ゴムリングで留めている。回転部分のシーリングなんて完全には難しいだろうから、このぐらいの接触型のシーリングで充分だと思う。っていうかそれで大丈夫な濡れてもこまらんような素材にしておけ、あるいは整備しやすくしておけ、ってしつこくしつこく書いておこう。細かいところも丁寧に作ってるのは、オシュレーションカムの溝に填まるギアからの突起に金属のブッシュが被せてあるのとか、ハンドル根元の給油穴を蓋するネジにゴムの輪っかのパッキンが付いてるのとかにも表れている。

 次にベール周りを見ていくと、まずは開いたときの角度が写真左のようにどこで開いてもベールが邪魔にならず投げられるぐらいにフルオープンなのが特徴。ラインローラーは直受けで軸に油溝。あとラインローラー導入部はステンのベールワイヤーにロウ付けで形成してあって、ベールの開放角といい、「オービス100」とか作ってたザンギ(コプテス)とかのイタリアリールを思い出させる。ギア方式も、先行していた海用大型のミッチェル302がベベルギアなのを、巻き心地の良いウォームギア機をということで、イタリアやドイツのスピニングあたりを参考にしたのかなと想像する。ABUもまだ「444」とかでベベルギアの時代だったはず。まあミッチェルの影響はモロにあったんだろうけど「302」の対抗馬として出すには、高級感のあるウォ-ムギア機にして、あっちにはプラナマチックな減速機構があるからってことで減速オシュレーション機構も頑張って搭載したのかなと。

 でもって、今回一番面白かったのがローター。
 塗装が同じ色なので全く気がついてなかったけど、こいつPENN「スピンフィッシャー700」と同じで、ローターは円筒部分だけで下のお椀部分とは分離されるタイプ。そしてベール反転機構をベールアームと反対側に持ってきて重量分散して回転バランスを取ってる所や、ベール反転レバーのローターの外に出てる部分が縦型なのも、まんまPENN「700」と同じ方式で、PENN710系(700系からアウトスプールと720と722を除いた機種)の元ネタはこれだったのか?とちょっと驚いて、正直ショックでもある。
 同じシェイクスピアの米国製インスプールでもアズキ色の中小型機ではローター形状もベール反転機構も違っていたので”アメリカンな感じの単純明快なウォームギア機”という共通点は感じていたけど、PENNのインスプールの近い元ネタがシェイクスピアである可能性には気がついていなかった。縦型ベール反転レバーはPENN710系に共通で採用されていて、むしろアズキ色シェイクスピアより直系の子孫のようですらある。ちなみに「2090シーワンダー」の発売が1959年、PENN「スピンフィッシャー700」の発売が多分1963年とのこと。いやはや買っておいて正解。PENNのというかスピニングの歴史においても重要な1台な気がする。
 さらに、ローター外して残ったカップには、なんか大森やら日吉やら古き良き日本のスピニングで目にするような”簡易ローターブレーキ”が入っている、写真左の緑の矢印の位置の、カップを本体に固定するボルトが頭がデコらせてあってベール反転機構の”蹴飛ばし”になってるんだけど、その手前にオレンジの矢印のあたりにステンの薄い板バネでやんわりとブレーキが効くようにしている。写真右が部品単体。この方式の元祖ってどこなんだろう?ってところまでは分からないけど、少なくとも大森はシェイクスピアに学んだっていう可能性が高いように思う。ついでに回転バランスをベール反転機構とベールアームを反対側に持ってきて取る方式もシェイクスピアの影響かも。ワシの好きなスピニング作ってる2大メーカーであるPENNと大森製作所がどちらもシェイクスピアの流れを汲んでいるってのはなかなかに味わい深い。どうりで2062系とか手にしっくりくるわけだ。

 で、脚がナット留めされてるのは、ハメ殺しかなともおもったけどちゃんと外せた。脚が外せるのはフライリールでは珍しくないんだけど、海で使うとそこの隙間に潮噛みして、腐蝕して固着したりするので、シリコンコーキング剤とかで防水したりするので、コイツにもせっかくなので防水処理を施しておいた。合わせる面に青グリスを薄く塗布してナット締めて留めてから、隙間にボンドスーパーXをヌリヌリして固める。なんで通常は鋳造一体成形するところを2回に分けてナットで固定なんていう面倒臭いことをしたのかな?まあ当時の鋳造技術では長く伸びた脚の先まで綺麗にアルミを流し込みきれない、とかの技術的な問題が、この大きさになってくるとあったとかか?マンガで美少女フィギュア作るのに、全身一発型取りでは樹脂が隅々まで行き渡らないので、髪とか手足とかは分けて作ってから接着した方がイイ、とか描かれてたのを読んだけど似たような話か?スピニングの脚をナット留めというと、ドイツのダム「クイック・スーパー」が思い浮かぶけど、ダムも戦前からスピニング造ってたような老舗中の老舗なので、参考にはしたんだろうなと思うところ。あと、しょうもない裏技として脚の向きを逆にしたらミッチェル500系みたいにリールフット指に挟まず投げられるようにできるなと思いついたけど、だからどうしたって話であんま意味ないな。


 ”Built like a fine watch(素晴らしい時計のように作られています)"と、この時代のシェイクスピアリールの箱書きには誇らしく記されているけど、時計ほど繊細には作られてないとは思うにせよ、確かに丁寧に作られていて古き良き米国の職人魂というかクラフトマンシップを感じる良い仕事だと感心した。
 先行者達の良いところを取り入れつつ後のスピニングリールに引き継がれていった工夫の数々。スピニングリールの生き証人的な一台だと、キワモノ扱いで入手したけど認識を改めたところである。
 ただ、こいつの実戦投入の場面があるかって想像すると、今一ピンとこない。このクラスのスピニングでは先に魚を釣らせたいリールがPENNだと「6500ss」「704」とか他に大森大型機とかも順番待ちなうえに、3.2:1という低速機の出しどころが想定しにくい。
 おそらくそれは発売されていた当時でもそうだったんだろうと思う。軽い仕掛けやルアーを遠くに投げるのがスピニング本来の仕事だとすると、このクラスのリールの出番は砂浜での遠投とかだと思うけど、遠投すると低速機なので回収がトロ臭い。あと凝った設計の分自重が重い。じゃあ糸巻き量の多さと巻き上げの力強さを活かして船からの底釣りとかか?と思うけど、それなら両軸使っとけって話だと思う。ウォームギア機の仕事じゃないだろ。
 実際、以前にも紹介したように東海岸とかのサーフでのストライパー狙いとかの光景ではインスプールのPENN「704」やミッチェル「302」とかはよく見かけるけど、シーワンダーはあんまり見ない。ミッチェル「302」は触ったことないのでなんとも言えないけど、PENN「704」については、後発で先輩達の良いところ取りをしつつ、余計なモノは取っ払って、オシュレーションをクランク方式に割り切ったように、単純化して最適化して堅実な物作りをしているという気がする。PENNは両軸の世界では偉大な開拓者として今日見られるトローリングリールとかを創造してきたんだろうけど、スピニングは先行者の技術を真似つつ、いらんものを削って丈夫な”海に強い”実用機に仕上げて、それが紛れもない個性になっているんだと感じている。
 単に同じ”アメリール”つながり程度に思ってたシェイクスピアとPENNが、1950~60年代のインスプールスピニングを見ていくと、シェイクスピアがあって、PENNがある、ついでに大森もあるっていうのが理解できて、今回の大物は物理的にも大きかったけど、スピニングの歴史においても大きな意味があったんではないかと思うにいたり、買ったことに一片の後悔もなくなったのである。実に面白かった。堪能しました。

 まだワシが知らんだけで、マイナーでも味わい深いスピニングはいくらでもあるのかもしれない。そう思うと”スピニング熱”は冷めそうにないのである。アタイ病気が憎いっ!

2 件のコメント:

  1. 自動車レースの世界で合衆国内での大会でフェラーリやらポルシェの欧州勢が席巻しているのが気に入らないフォードが
    欧州勢、特にフェラーリを打ち破るマシンを開発してフェラーリに勝つって映画がありますが、
    釣り具の世界でも同じ感情もって開発したのでしょうね。
    外観の個性と自国でどんな使われ方、壊され方を計算して設計したのが伝わってきます。
    60年代当時なら買うのも使うのも合衆国ですし
    サイズから見てお化けイシモチやターポンと言ったところでしょうか
    減速機構は意見分かれるところで
    糸の食い込みとライントラブル、
    飛距離と放出性を取るか
    釣り方、狙うサカナ次第でころころ変わりますからどっちが良いか答えれません。
    どっちの恩恵も受けてますし

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    1.  アメリールにはアメ車に通じるものがありますよね。
       他国じゃそれほど受けないけど、自国民のハートはガッチリ掴んでる感じ。欧州勢の影響は受けつつも米国流。
       何釣ってたんだろう?ボートからのサーモンとかレイクトローリング系なんてのもありか?なんてのも想像すると楽しいです。

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