2023年12月9日土曜日

パチモン?ゲットだぜ!

 ”大森熱”患者は三角パドル型のハンドルノブを見ると、思わずマウスが滑りそうになる。なるけど過去にシェイクスピア「アルファ2260-030」のような”なんちゃって大森”に騙されたりして経験積んでると、それなりに自制は効く。でもそれなりはそれなりで、欲しかったらマウスなんてスールスルのクリックリで軽く滑らかに滑ってしまうのである。
 まあ左はいいだろう(いいのか?)、「ブロウニング」ブランドで韓国大森あたりが作ったマイクロセブンCシリーズの後継機「ポスカ」の派生機種か余り部品で組んだバッタ臭い代物あたりで、それでもまあ大森スピニングには間違いないと思う。その名をブロウニング「SDX2」というらしい。
 右の”グリーニー”な色の可愛い白い三角パドル型ハンドルノブの一品は、なかなかのパッチモン臭さをごまかしきれない。その名をアビースペシャル「マイクロフィッシャートラウトUL」という、我々オッサン世代にはバスロッドとかで馴染みのあったアビースペシャルだけど、現在の「エイテック」のことである。ここは竿はそれなりにちゃんとしてる安い竿って印象で、エイテックのテイルウォークブランドの竿はワシも中古で一本買ったくらいだけど、ルアーとかはパチモン臭いのが多く、このリールもなかなかに香ばしい。
 そもそも韓国大森自体、ダイヤモンドキングミニあたりの色をグリーニーに塗り替えた「アルフォード」ってのを売ってて、グリーニーカラーをパクって売り上げに何らかの貢献が見込めるのかね?と首を捻らされるところだけど、このアビースペシャル製の小型スピニング、いったいいかなる層を狙って企画した商品なのか?PENN伝統の”グリーニー”カラーに大森お馴染みの三角パドル型ハンドルノブ、大森熱患者のPENNマニアぐらいしかこんなモン買わんだろう。あっそれってワシのことか。ということで買ってしまいました。
 まあ、あれですよ下世話な銭の話ばかりはしたくないですけど、「SDX2」は1000円落札送料780円、「マイクロフィッシャー」のほうなど送料込み1000円ですよ。マウスもなんの抵抗感も無くスルルのポチチですよ。

 まったく、一般的な釣り人の興味のありそうな機種ではなく、誰が読むねン?って話だけど、ぶっちゃけ当ブログにリールネタ読みに来る読者様が、人気のカーディナル33やらミッチェル408の記事などまったく金輪際びた一ペソも期待してないだろうという気もするので、これはこれで当ブログならではのネタということで良しと整理しておこう。いずれにせよ基本方針は”誰も読まなくても書きたいから書く”であり、読者様を置いてきぼりにしてでも書きたいことは書いていく所存。楽しんでいただけたらなお良しということで、お暇ならごゆっくりお楽しみください。

 まずはウチに来たら分解整備は珍品銘品パチモンバッタモン有象無象の差別無く平等に与えられた権利である。
 とりあえず「SDX2」から、パッと見まず形と大きさが「マイクロセブンCS」と金型同じだろうなってぐらい似てるので、スプール互換性があると、それだけでスペアスプール1個確保なのでありがたく、スプールから分解に入る前にサクッと調べてみる。ハイ合格、交換可能ですめでたしめでたし。ということで、バラしてさらに詳しく見ていくけど、基本的にマイクロセブンCSの金型を使って、あれこれ省略できるところは省略した”ダウングレード”モデルのように見受けられる。

 スプールはドラグノブのてっぺんにブロウニングの鹿さんマークがついているけど、基本マイクロセブンCSっぽい、と思って抜いてひっくり返すとドラグの音出しと糸留めの固定が樹脂部品を金具でか締めてあっていきなり安っぽい。ただこの樹脂製の音出しはパリパリしたかん高い音で安っぽいけど悪くない。
 ドラグは3階建てでマイクロセブンSCと一緒でテフロンパッド。当然何の問題もなく機能してくれそう。
 このへんブロウニングブランドで売るには、安物であっても米国市場に流すとなると、ドラグぐらいちゃんとしたモノがついてないとダメなんだろう。ポスカはワンタッチになってたけど安くあげるならワンタッチは無しってことか。同じマイクロセブンCシリーズのダウングレーディング版のような機種でも、国内向けのポスカがワンタッチノブとワンタッチスプールという素人受けする機能を足しているのに対し、米国向けは基本引き算方式なのが我が国の釣り人の素人臭さを表していて面白くて鼻で笑ってしまうところ。ポスカはかなり良いリールだとは思うにしても。
 本体もそうだけど、銘板じゃなくて樹脂製のスプールに直接ブランド名とか印刷?してるので、かすれて薄くなって読みにくくなってる。銘板にすると剥がれるし痛し痒し。「マイクロセブンDX」とかみたいに文字を凸らせてしまうのが一番長持ちするけど、まあ古いリールは年式相応に剥げたりかすれたりも味のうちか?

 本体方面にいくと、まずはハンドルが共回り式。ただワンタッチが付いてない共回りで捻って折り畳み方式なのでそれほどハンドルが重い感じはしない。ガタついてもないしワンタッチは重いのでアリャダメだという気がしてくるけど、共回りでワンタッチ無しはデキが悪くてガタが来てるとかならダメだけど、小型機ならそれで良いんじゃないのかなという気がしている。ただ、ハンドル軸が樹脂本体直受けなのは微妙に気になる。削れないのかどうか?というのは樹脂がマイクロセブンCシリーズやキャリアーのような堅い樹脂じゃなくて、ちょっと安っぽいテカリのある樹脂で素材もケチった可能性があるのでキャリアーはある程度大丈夫だと確認できているけどコイツがどうかは正直わからん。
 で、本体蓋がタップネジでこのへんは、形はマイクロセブンCSなんだけど、抜ける手は抜いてる感じの作り。ギアの素材はローター軸が真鍮でハンドル軸が亜鉛の一般的な組み合わせ。
 この方式は、韓国だと複数のメーカーが使う方式なのか、それとも大森、ダイワ双方の下請けをしていた企業があったとかなのか?まあ良く分からんところである。
 あと、生意気にも正転時消音化してあって、マイクロセブンCSは音出し、消音、逆転可の3段階だったけど、SDX2は音出しは無し。音出したかったらハンドル軸のギア裏についてる、樹脂製の消音化部品を取っ払えば良い。正回転時に回転の力で逆転防止の爪を浮かせる方式。大森はこの方式がほとんど。

 大森式の逆ネジのローターナットを外してローターをひっこぬくと、アチャーそこを省略しちゃったか、という感じで銅板でベール返しの蹴飛ばしも兼用していた”簡易ローターブレーキ”が省略されていて、樹脂で蹴っ飛ばしているのですでに溝が掘れている。ベール反転の方式はいつものL字の金具と眼鏡型のバネの内蹴り式。ボールベアリングはローター軸に一個。その下に逆転防止のラチェットが入ってるのもいつもの大森式。
 
 逆に、エラい!よくそこを残した、っていうのがベールアームとベールワイヤーのお尻の支持部。ローターの樹脂で直受けしてタップネジ留めではなく、前回ネタにしたマイクロセブンCやキャリアーのように、ローター側樹脂に雌ネジ埋め込んで、雄ネジの腹を軸にしてベールアームとお尻を受けている。樹脂で回転部分を受けていない。
 ベール折り畳み機構は省略で、真ん中の写真の様に単なるベールアーム止めの無骨な金具が填まってる。アメ人はリールは竿につけっぱの車やボートに乗せっぱで袋にしまったりしないそうなので省略は妥当か。ワシ的には予備リールとかを選ぶときに、場所取らないからベール折り畳める大森スピニングを、って場合がけっこうあるので評価している部分だけどお国が違えば好みも違うというところだろう。
 あと、ラインローラーはキャリアーと同じでセラミックのスリーブ無し直受け。

 という感じでバラして、部品数はもともとそれほど多くないマイクロセブンCSから省略してる部分もあるぐらいなので少なく、単純で整備性は良い。そして単純にして取っ払えるモノは取っ払った結果、重さが約177gとかるーく軽量に仕上がっている。
 なかなかの仕上がり具合で、樹脂が安っぽいのはいかんともしがたいけど、これは実釣能力高いんじゃないかと思う。
 ただ、ベール反転の蹴飛ばしを樹脂でやってるのは、すでに溝が掘れてるので何とかならないかと思ったけど、例のマジックテープをエポキシで接着するローターブレーキ追加改造方式は簡単だし、削れてきた蹴飛ばしの保護になる上にローターブレーキ追加で意図しないベール返りが防げて一石二鳥じゃん、と改造してみた。
 結果、手持ちのマジックテープでは分厚すぎてハンドル回してベール返すのが重くてどうにもならん状態になってしまいダメだった。もっと薄くて柔いのでないとダメっぽい。まあ急ぎ出番のあるリールでもないので”改良できる”っていうのが把握できてればまあ良いことにして放置とする。同様に樹脂で直に蹴飛ばしてる「ダイヤモンド2001SS」とか「ダイヤモンドキングミニ」もこの改造は有効だろうと思う。小っちゃいリールに合う薄っぺらいマジックテープなりその代替品なりが見つかると良いんだけど、なんか良いのがあれば活躍中のキングミニあたりから実装してやりたいところ。

 お次がお待ちかね、アビースペシャル「マイクロフィッシャートラウトUL」。
 まずはなんといっても小っちゃい。マイクロの名に恥じぬ小ささで、冒頭写真で大きさはマイクロセブンCSと同等のSDX2より小さいぐらいなのが見て取れるかと。
 ただ、そのわりに手にすると重量感があって「これひょっとして金属本体か?」と思うんだけど、スプールはアルミだけど本体は樹脂製。なんで持ち重り感があるのかはオイオイ書いていくとして、実際の重さは約183gとSDX2よりちょい重い。
 そしてバラす前に思うのはこいつもやっぱり直接印刷してるっぽい機種名やらブランド名がかすれて読みにくい。ちなみにスプールにかろうじて「madei n China」と残ってるので中華リールのようだ。
 スプールの方はまだマシなぐらいで、本体のアビースペシャルのロゴはせっかくちょっと小洒落た竿とリールの上にロゴが踊る意匠なのに風前の灯火状態。そんなの気にしてられないような安いブツだとしても、自社のブランドを大事に育てたいならもうちょっとどうにかならんのかなという感じ。リールのでき自体が思ったより善戦してる感じなので余計にそう思う。

 そう、見るからにパチモンなこのリール、わりと頑張ってるとワシャ思ったので、まずはスプールからいってみよう。
 おおっ、ドラグがすげぇまとも。湿式のフェルトパッド3階建て方式。
 そしてギア裏のドラグの音出しが、スプール裏からでた突起を、バネで音出しの爪部品と共に挟むという大森でお馴染みの方式。
 三角パドル型のハンドルノブだけ真似した”なんちゃって大森”かと思いきや、以外とちゃんと機能もパクってる。パクってるのが”ちゃんとしてる”のかどうかはこの際おいておこう。
 そして、写真では伝わりにくいと思うけど、このスプール滅茶苦茶重いのである。アルミ鋳造なんだろうけど一瞬南部鉄瓶みたいな鉄の鋳物かと思ってしまうぐらい重い。どのくらい実際目方があるのかと秤に乗せたら驚愕の数値をたたき出しよりました。
 180gがとこの超小型リールのスプールが約27gもあるってどういうことよ?
 南部鉄瓶とかナマジはまた面白おかしく書きたてよって、と思ったでしょ皆さん。でも27gは場違いに重いっす。ローターのバランサーもそこそこ重量増には寄与してそうだけど、それでも4gかそこら。いかにスプールが重いかとご理解いただけるでしょうか?
 これたぶんあんまり軽すぎると合う竿が無いっていう問題からというより、軽すぎると高級感が損なわれて安っぽくなるからわざと重くしてるよね?って思いましたとさ。全体で180gと軽量に収まってるのでまあ過剰ではあるけど丈夫なスプールだということで良しとして先に進みましょう。

 このリール、こんなパチモン臭い見た目で実はハンドルはねじ込み式で、左右の交換はハンドルの雄ネジ側の根元と先で太さを変えている方式。
 ちなみに最近、ねじ込み式のハンドルと、良く似てるワンタッチじゃない共回り式のハンドルの見分け方が分かってきたので参考まで、買うときに質問すればいいんだろうけど”ねじ込み式”とはなんぞやというのを知らない人に「左右交換するのにハンドル側がネジになってて回して止める方式です」とか説明しても「??よくわからないけどネジを回して外す方式です」って全く分かってない、大くくりでネジ留め以外の方法があるのか教えてくれっていう回答が返ってきたりしてラチが開かないので知ってると良いかも。ハンドルと反対側のキャップが、写真左のように本体から出てる筒状のハンドル基部より太くて被せてあるのが共回り式、同じ径で填めてあるのがねじ込み式でだいたい正解。そうじゃないと防水性モロモロあんばいが良くないはず。

 で、本体蓋をパカッと開ける。蓋を止めているのは長めのタップビスでまあしゃあないけど4箇所で止めてるのはしっかりしてて良し。
 で、ジャジャーンと出ましたハンドル軸のギアが亜鉛鋳造一体成形で軸も亜鉛とやっとパチモノ臭くなってきて調子出てきた。亜鉛そこまで堅くないからねじ込んで大丈夫なんか?
 でも、樹脂製の本体で直受けじゃなくて左右共に真鍮のブッシュを入れていて、そこは真面目な感じで好感が持てる。
 スプール上下はまあこの大きさのリールの場合クランク方式一択かなという感じ。
 ストッパーがハンドル軸のギアの回転を軸に填めた針金パーツでストッパーの爪のお尻に填める方式で、正回転で爪が浮いて消音で回転、逆回転で爪がローター軸のギアと一体成形のストッパーのラチェット?に押しあてられて掛かる。
 そう、このリールのギアはハンドル軸亜鉛鋳造、ローター軸もストッパーとまとめて亜鉛鋳造なのである。やっとパチモンの本領発揮。色々頑張ってるけど糸巻きとしての本体であるスプールと心臓部であるギアが残念な仕様ってのが味わい深い。
 耐久性的にどうなのよこのへんって感じだけど、それをどうこう言うべきリールじゃないのかも?まあこのリール使うような釣りではそれほど削れていかないか?

 でもって主軸抜いて、ローターナット外してローターをヌポッと外してやると、ベール反転の内蹴り方式はバネこそ眼鏡型じゃないけど大森に似たL字の金具方式で軽く返って良い塩梅。
 そしてそのベール反転の”蹴飛ばし”なんだけど樹脂製本体じゃなくて、ベアリングとローター軸ギアを止める部品と兼用の亜鉛一体成形の部品が鎮座していて、樹脂削りながら蹴飛ばすよりずいぶん耐久性良さげな感じになってて感心する。ボールベアリングがここに1個だけなのも好印象。
 と同時に、なんかこのギアの亜鉛鋳造一体成形、のくせにネジ込みハンドル、蹴飛ばし兼ベアリング押さえ部品、あたりに激しく既視感がある。これ方式としてはシェイクスピア「アルファ2260-030」がスゴく似てる。”なんちゃって大森”でこれだけ重要な部分の癖が似てるってのは、同じメーカーが作ってるんじゃなかろうか?という気が強くする。さらに言うなら、今回のマイクロフィッシャーはもともとシェイクスピアブランドで欧米市場で売ってたのがあって、それの色違いの可能性があるように思えてきた。そう思って両製品とも80年代真ん中から後半ぐらいの見た目なので、そのへんの欧州版のカタログとか覗いてみたけど見あたらず。イーベイでリールの「Shakespeare」では多すぎるので「micro」とか「UL」で絞り込みかけたらシェイクスピア「LX UL」というのが、本体の形状、ねじ込み式なところ、逆転防止のスイッチの形状とかが一致するのでかなり近い、ただコイツはスプール樹脂製版とアルミスプールでも若干ドラグノブが違う版もありのようだ。いずれにせよシェイクスピア「LX UL」の色違いアビースペシャル版で確定だろう。で、そうなってくると製造元なんだけど、「リール風土記」の下請け元請け関連図でみると、この時代80年代後半のシェイクスピアの下請けには韓国大森と香港シェイクスピアがあったようなので、中華リールであるコイツは香港シェイクスピアがアビースペシャルブランドの下請け製造したものである。いうのがパソコン椅子探偵ナマジの推理。ということでアルファ2260も香港シェイクスピアかなと思いましたとさ。というわけでパチモンもなにも、発注元のシェイクスピアが大森のリール持って来て「こんな感じでよろしく」って感じだったんだろうから”パクリ”っていうよりはシェイクスピア通じて技術的な交流があったと見る方が妥当なんだろうな。パチモン扱いして失礼いたしました。
 とまあスッキリしたところではあるんだけど、またぞろ病気が出てきて樹脂スプールの「LX UL」はちょっと秤に乗せてみたいのアタイ。ああマウスがツルツルしてきた・・・アアァッ!

 まあ煩悩を断ちきるためにも残りを急ごう。
 ベール周りがまたなかなかやりおる感じで、ラインローラーはステン無垢のローラーを直受けなんだけど、受ける軸に油溝が真ん中へんに設けけてあって、アルファ2260ではメッキの質が悪くてボロボロだったけど、その二の舞は舞ってない。
 そして、ベールアームとベールワイヤーのお尻の回転部分の軸が樹脂で受ける形になっていないのが立派。かつ大森みたいなローターの腕側に雌ネジを埋め込んでという手間の掛かる方式でもない。
 ダイワの革命機「ウィスカートーナメントSS600」が同じ方法だったと思うけど、ネジじゃなくて腕の裏まで貫通させた軸の尻を写真真ん中の矢印のところに見切れているけどEクリップで止める方式。これなら樹脂にネジが効きにくいという問題が回避できる。そして金属の軸で回転を受けているので耐久性は高い。
 その他にも、回転部分を樹脂で直受けにしないというのは徹底されていて、ギアもハンドル軸は真鍮ブッシュ受けでローター軸はボールベアリング受けというのは既に書いたとおり。さらに細かい所で写真下のように、ベール反転のL字の金具を止めているネジにもカラーが填まり、ストッパーの爪もカラーに填まってからネジ留めされる。

 全体通してみれば安っすいつくりではあるんだけど、丁寧には設計して作ってある。ギア周りの耐久性はやや不安ながら、ドラグはしっかりしているし、ベール反転も軽くて調子良いし、回転も重くなく、使ったら気持ち良さげなリールで、正直もっとどうにもならないゴミスピかと思ってたけど、存外悪くない。
 部品数も少なく単純で、ややプラスねじが多用されていて慣れない感じだったけど、整備性も悪くない。80点90点の高得点のリールじゃないとしても、性能としては60点でギリギリ”可”で、でも、可愛い見た目と短期的には使いやすそうな機能が備わってて、ちょっと使いたくなる程度に魅力的。

 今回の2機種はどちらもそんな感じで、経費削減しつつどう実用的なリールにするかっていう苦労が偲ばれるし、苦労の甲斐あってどうにかこうにかまとまったリールに仕上がっていると思う。
 ぶっちゃけ、そこらでお魚釣りするのに、高性能な100点満点のリールなんて必要ない。魚が釣れる程度の性能があれば足りる。なのにゴチャゴチャと余計なモノを付加していって逆に釣りにくくなってるリールのいかに多いいことか。
 このぐらいのちょっと足りないぐらいのリールの愛嬌の方が、そういう過剰なリールの傲岸不遜よりよっぽど好ましく感じる。
 こういう、情報もろくに出てこないようなショボいリールでも、分解してみるとなかなかに楽しめる部分を発見できたり、リールの歴史とかの知識に照らし合わせて考察したりするのもまた楽しい。
 これではマウスが滑るのを止めることは難しく、”スピニング熱”は一向に治りそうにないのでアタイ困っちゃうのである。アアッ!

2023年12月2日土曜日

あらためてキャリアー

 大森アナリストを勝手に自称してるワシではあるが、中古リールの値動きって正直読めそうで読めない。一時値段が落ちていたコメットがややまた値を上げて、逆にキャリアーは一時期4万とか5万とかしてた人気のSSサイズでも2万円台とかのが入札無しでさらされてたりする。そんなわけでここは”買い”だろうなと3500円スタートの「キャリアーNo.1」にダメ元でと入札しておいたら、入札ワシだけで落としてしまった。わが家には若い頃の愛機が1台、黄色い中古屋のワゴンでエグったのが1台と既に2台あり、もっと言うならスプール互換性のある「マイクロセブンC1」が4台もあり、なんなら大森スピニングのNo.1サイズは売るほど在庫しているので必要性は全くなかったのだけど、マウスが滑ったものは仕方ない。せっかくわが家に来たので分解整備しつつ、あらためてどんなリールか、マイクロセブンC1との比較なんかも交えてご紹介してみたい。

 ちなみに自称大森アナリストが今が買い時だと思ったのは、また値段が上がって高く売れると思ったからではない、単純に欲しかったから。それがたった一つの理由。

 でもって、C1と比較しつつ分解清掃なんだけど、C1の今使ってる個体は銘板片ハゲ個体で、そいつを出すとスカがほとんどないぐらい滅茶苦茶働く個体なんだけど、ハゲててもかまわんとは思ってたけど、なぜか買った記憶がない銘板が部品棚の大森用のジップロックに入ってて、耄碌ジジイどこでいつ買ったのか、まとめ買いとかしたときに入ってたのかわからんけど、とにかく働きに対して褒美をあげるのにちょうど良いなと、銘板を貼り付ける作業も同時進行で行った。どうせもう剥がれそうになってるだろうと、ついでにまだ剥がれてない側も針先で突いて隙間に突っ込んでペリペリ剥がして、残った接着剤のカスを爪でこそげ落としてアルコールで汚れを拭き取って、さらについでに整備するキャリアーの銘板も両側剥がして改めてコニシのSUで接着。C1はハンドルの塗装ハゲもタッチペンでごまかして綺麗に、とまではいかないにしても良い感じのお化粧直しになった。

 そしてキャリアーNo.1の分解整備に着手、いつものようにスプール周辺から。スプールはC1のとも互換性のある樹脂製スプール。裏面に音出しと、ライン留めがネジ留めしてあるごく普通のものだけど、ドラグはテフロン3階建てで、金属製ワッシャーのスプールと同期して回る1枚は、良くある耳付きじゃなく6角形で、2箇所だけで支える耳付きより樹脂のスプールに”噛み”にくくしてるんだと思う。テフロン3階建てのドラグの優秀さは「マイクロセブンCS」でボラ釣って身に染みて理解できた。ドラグが良いのは大森の伝統だなと改めて思う。必要充分で無駄なくデキが良い。今時安リールでもまともなドラグぐらいついてると思うけど、1980年代終わり頃にワシが買ったときは新品投げ売りで3千円台だったと思うけど、86年の発売で定価5300円と決して高級品ではなく、当時同価格帯のスピニングでこれほど実用性の高い使えるドラグがついてた国産品はなかったと思う。85年登場ダイワ「ウィスカートーナメントSS」はさすがにドラグも良いけど2万近い値段の高級品だしな。ちなみに86年の大森カタログには”CAREER”「カーボンボディを装い、伝説の名機復活。」とあり「軽快なフォルムと信頼性の高いメカニズムで、国内はもちろん海外でも圧倒的に支持された名機タックルオートが復活しました。」という感じで、樹脂版の「タックルオート」というのは公式見解でもあるようだ。

 本体は黒い無塗装系のカーボン樹脂ボディ、パカッと本体蓋を外すと、タックルオートNo.1同様に単純なクランク方式のスプール上下機構、ギアはローター軸真鍮そしてギア直上に綱系逆転ストッパー、ハンドル軸は鋼を鋳込んだ亜鉛鋳造の、これぞ”大森式”なハイポイドフェースギアと本体内逆転防止方式で、本体蓋止めているのは樹脂に直に穴開けて長めのタップネジで、ここはC1のほうが金属製雌ネジ使ってて丁寧。あと、ハンドル軸が本体樹脂を分厚くして受けてて、特にスリーブの類いは入れていない樹脂直受けなのはちょっと心配になるけど、実際に数年酷使した愛機はとくに削れてガタついたりはしてなかった。この樹脂丈夫な気がする。TAKE先生の「リール哲学」でミスター・ハラが「ポリブチレンテレフタレート。堅く成形時の流れも悪い。しかし「日本リール」が使ったポリアミド=ナイロンのように吸水性はありません。最初期大森が使い、私はローターのみに使いました。」と書いているのも、そのことを裏付けるかと。ちなみにC1はハンドル軸に1個ボールベアリングが奢られている。ギアの歯に力が掛かった状態ではハンドル軸のギアはローター軸のギアから逃げて”浮く”方向に力がかかることになるのでギア側に1個、というのは外蹴りアウトスプール版「マイクロセブン」、「オートベール」から引き継いだ大森の伝統か。

 ワシ的にはボールベアリングの数はともかくとして、C1みたいに補強入れるところは金属で補強してる方が、やっぱり丈夫で長く使えるように感じられるので好みではある。キャリアーの単純で軽く安価にという方向もありだとは思うし、実際に使ってて消耗品のベールスプリングぐらいしか壊れたことなくて充分丈夫だし愛着もある機種だけど、あえて好みを言えばという程度。

 左の写真は3枚ともC1で、蓋固定用ネジに金属製の雌ネジが使われているのと共に、ストッパーに掛ける爪が押さえつけられる部分に金属製のつっかえ棒的な”棚”が補強で入ってて、2枚目の写真の矢印の部分が爪をズラして棚を見えるようにしたところで、3枚目写真矢印は銘板の下に確認できる、棚に繫がる金具を本体に穴開けて固定してある、そのお尻が見えているところ。キャリアーでは樹脂本体から張り出した樹脂製の棚でつっかえ棒をしている。本体内で”補強を入れるならココ”っていうのが分かってるのが大森製作所のエラいところで、アワセの時など竿しゃくったときやら魚が突っ走ってストッパーがガチンと働いたときに、ココに爪が押しあてられて負担が来るはずなので納得である。以前にも書いたけど「エギングはしゃくりまくる釣りなのでヤワなギアだとすぐにダメになる」とか言っちゃうような、しゃくって負荷が来るのはストッパーだろ?フケた糸回収してるだけでギアに負担が来るかよ、なアホとは違うということである。

 ローター周りは、大森沼住民にはお馴染みの方式、というか後述するラインローラー関係以外はC1と共通だろという感じ。ローターナットは大森は逆ネジなのに注意して外すと、ローターナットが乗る部分は四角い金属ワッシャー?が樹脂製ローターにハマってて、間に樹脂製ワッシャーが入ってる。ローター外すとベアリングの蓋と銅製の”簡易ローターブレーキ”が入っていて蹴飛ばしになっているのもいつもどおり。内蹴り方式もいつものグルグル眼鏡型ネジとL字の金具を使ったもの。いつも”簡易ローターブレーキ”と書いてる部品は”トリセツ(学生時代買ったときのが残ってた)”の「部品見・部品表」で確認すると「ベール返しブレーキ」となっていて、「(2)オートベールシステム」の説明の中で「さらに投餌の際,回転してベールが返らないようブレーキ装置が内蔵されています。」となっていて、実際効果あるのか、ワシあんまり遠投しようと竿ぶん回したりしないからもあるかもだけど、大森スピニング使用時は意図しないベール返りは少ないように思う。ローターブレーキの付いてないPENNの4400ssとかだとたまにベール返りあったので適切に機能してる気がする。キャリアーの場合は樹脂製ローターの”蹴飛ばし”の保護にもなっている。

 樹脂ローターの”樹脂で直受け”については”蹴飛ばし”以外にも、ベールアームとベールワイヤーの支持部を直受けにしてタップネジで留めているリールについて大森「ダイヤモンド2001SS」とかPENN「パワーグラフ2000」とかで「大丈夫か?」と疑問を呈したところだけど、キャリアーはその点ローター部分は上位機種のマイクロセブンCシリーズの流用ぽいので、樹脂で受けてなくて、ネジの腹の部分で受けている。写真上の段がベールアーム、下の段が反対側のベールワイヤー受け、そしてそのネジ自体もタップネジじゃなくて雌ネジも金属製のを使ってしっかりしたものになっている。写真じゃちょっと分かりにくいかも。本体蓋は3箇所長いタップネジで間に合うだろうけど、起こして返してを繰り返す場所であり負荷のかかるベール周りはタップネジじゃダメというのがこの時代の大森製作所の整理なんだろうと思う。あと、ついでに写真右上でベールアーム取っ払った後に見えてるアルミの棒はなんだろ?と思うかもだけど、大森の場合ベール反転機構はベールアームと逆側に入れているのでこの時点ではなにコレ?だけど、蓋を外すとベールをたたむスライドスイッチにつながってて、普段はこの位置にあってベールアームを止めてるんだけど、スイッチで棒を左に倒すとベールアームの凸部が右側を通れるようになってベールアームがたためるという、電車利用やリュックに詰めて自転車乗ってっていう釣り人には収納性良くベールワイヤーが曲がったりするのも防止できてありがたい機構。マイコンシリーズからこの方式で、それ以前のタックルオートとかはバネ入りのボタンがポチッとローターの”腕”から飛び出ててベールアームを止めていた。そっちの方が単純な仕組みで組むときも簡単だったけど、新方式のメカメカしい感じも悪くはない。

 ここまで見てきたように、キャリアーはローターより上はマイクロセブンCシリーズの流用、本体はタックルオートの雰囲気とギア関係を残しつつ樹脂化して簡素に仕上げてるって感じなので、ラインローラーの素材がマイクロセブンCシリーズはルーロン樹脂スリーブ入りのクロムメッキ真鍮製だったのを、キャリアーでは当時流行だったセラミック製(おそらく酸化アルミ系)のモノをスリーブ無しで入れている。でもラインローラーが刺さる棒の径は同じだろうから、ラインローラーは樹脂スリーブごと交換したら互換性あるだろうと思ったけど、意外なことにセラミック製の方が若干長さが長く、径も微妙に違ってて互換性無かった。セラミック製ローラーが他社用とかの半既製品があってそれに合わせたとかだろうか?変える必要性が良く分からんけどとにかく互換性はなし。セラミックラインローラー直受けについては、キャリアーでもダイワ「カーボスピンGS700ーRD」でも削れてきた経験がないので、滑りが良いので金属で受けてる面を削らず問題無いのかも?ついでに互換性の確認でキャリアー関係ないけどマイクロセブンC1出したので、C1とマイコン301TBのハンドル軸のギアは互換性あるだろうと思ってたので、301TBボロ個体(2000円落札+送料780円)がちょうど整備待ちだったので整備しつつ確認してみたけど、写真下のようにクランクとギアのサイズ自体はあってて入るんだけど、軸の長さかなにかが違うのか、填めて蓋締めてハンドル回そうとすると回らない。調整可能かもしれないけど今回そこまで詰め切れなかった。

 って感じでキャリアー分解は余計な部品がない単純設計なのでサクサク終わって整備性はとても良い。

 スプール座面の赤い繊維性ワッシャーだけテフロンワッシャーに変えて、ドラグにPENN純正グリス、その他は今回樹脂製なので本体とかには盛らなかったけど、ギアとか金属はすべからくマキシマ青グリスでグッチャリ、あとは適宜ダイワリールオイルⅡで仕上げておいた。

 キャリアーNo.1には想い出も、思い入れもいっぱいあるけど、それを差し引いても、軽快で、単純明快で面倒臭いところがなく、樹脂製で錆に強く、整備性も良く、ドラグも良い、使ってて不具合を感じることなく使える非凡なリールだと思っている。ベールスプリングが折れるのはこの時代のトーション式スプリングでは仕方ないとして、他に不具合が生じた経験がない。でも、とりたてて特殊な機能や機構が付いてるかといえば、そういうものはない。カタログスペック的に誇れるのはこのサイズで220gという軽さぐらいだろうか?ゴッチャゴッチャ新機能を付加していってカタログスペックで釣り人を釣るようなリールの真逆で、自社のマイクロセブンCシリーズから引き算できるところは引いて、無駄をそぎ落としたようなリールだと言えるかもしれない。削りすぎて”ハンドル軸を樹脂製本体直受けで大丈夫か?”とか危うそうな部分もあるけど、樹脂素材の選定が丈夫なモノを選んであるので何とかなってるように見える。とか、これ以上削ったら破綻する際まで攻めているんじゃないだろうか。その結果、SSサイズだと200gを軽く切って170gという今時の小型軽量機と勝負になるレベルの軽さを得て、えらい中古市場で人気が出たんだろう。

 ただ、中古市場で値段がつこうとつくまいと、不人気実力派といつも書くマイクロセブンCシリーズも、最後の金属本体大森スピニングかもしれないマイコンTBシリーズも、使えば分かる良さがある。コレクターズアイテムとして値段がついたり逆に値が下げたりとかはあるんだろうけど、それとリールの使いやすさや”良さ”とはあんまり関係がない気がする。今時のスピニングに慣れていて瞬間的逆転防止機構がなければ手に馴染まないとか、釣具屋に洗脳されてラインローラーにもドラグにもボールベアリングが入ってないと不安になる、っていうかわいそうな人とかでなければ、大森スピニングは高かろうが安かろうが買って不満の出るようなリールじゃないと、自称大森アナリストとして断言してお薦めしておこう。

2023年11月25日土曜日

斜にかまえたNo.5

 なんでナマジは使うアテもなさそうな、大森大型機を2台も買っているのか、まあ「欲しかったんじゃー」という一言で済ませても良いのですが、れいによって説明の機会をば与えていただきたくぞんじます。

 左「マイクロセブンNo.5」、右「オートベールNo.5」、双方600gを越える、糸巻き量6号240mの大型機である。大森製作所のリール的にはNo.6サイズがあるので最大ではないにしても大型で、PENNなら糸巻き量的には6500SSぐらいの大き、見た目の大きさ的には糸巻き量考えるとコンパクトで5500SSよりちょい大きいかなってぐらい。

 大森の小型機は人気機種ではなくても、それなりに情報がネット上にも転がっている。でも大型機に関してはその人気の無さ、注目の薄さを反映してか情報たいして出てこない。むしろロシアのオッチャンが外蹴りマイクロセブンを激賞してたってぐらいで、シェイクスピア版で馴染みのあった海外の釣り師の方が詳しいかもしれない、日本語サイトの情報は限られている。

 そんな中、興味深い報告をされているのが、以前ギブスのルアーネタのときに書き込みいただいた、米国製海用ルアーを投げている方で、ブログを読ませてもらっていたら、「タックルオートNo.4」を愛用されていて、かのリールには「ストローク減速機構装置」というのが搭載されていて、スプール上下のオシュレーションカムが斜めになってるのがそれではないか?と書かれているんだけど、おそらくストローク減速機構装置自体は、ハンドル軸ギアの回転からギアを介して回転を持ってきて、ギア比によってハンドル1回転で1回スプール上下するのではなく、ハンドル数回転でスプール上下1回とかにスプール上下を減速するという、一般的な減速式のオシュレーション機構そのもののことだろうなと思う。このあたりの大森スピニング、外蹴りアウトスプール「マイクロセブン」「タックル5」はNo.3の大きさまで、「タックルオート」や「オートベール」もNo.2の大きさまでは、単純クランク方式でハンドル回転1回転でスプール上下が1往復で、使ってて特に問題は感じていない。それ以上の大きさになってくると、ハンドル軸のギアからギアを介して回転を減らしたいわゆる”減速オシュレーション”となっている(タックルオートNo.3はクランク方式ではないけど減速してないのかも?確かめたくてまた物欲が・・・)、減速オシュレーションにする理由としては、デカいスピニングになるとまずはスプールからなにから重いので、減速して軽く巻けるようにというのがあるだろう、ギア付きの自転車で坂道で低速ギアに入れるようなモノである。デカいスプールがハンドル1回転ごとにガションガションと上下してる様は迫力ありそうで見てみたくはあるけど、実釣的には巻きが重くてどうもならんだろうな。さらに、減速式にすると、巻きが綾巻気味から密巻き気味に変わるので、投げるときのラインの放出性は良くなるだろう。その分綾巻のトラブルの少なさは削られるのは行ってこいの関係で、そのへんは良い塩梅の減速比率で仕上げるのだろう。けどまあ、大型リールで減速無しはあんまりないぐらいでそれが使いやすい妥当な設計なんだろうと思う。

 なので、オシュレーションカムが斜めになっているの自体は「ストローク減速機構装置」そのものを指しているのではないんだろうけど、ここで興味深いのが、タックルオート(たぶんオートベールでも)でNo.3サイズではオシュレーションカムが水平なんだけど、No.4からNo.6サイズでは斜めになっている。これは何の意味が効果があるのだろうか?私気になります!

 ということで、自分でいじくってみんとあかんなということで、買いました。なんで2台あるねんって話は、れいによって予備スプール体制が組めるからで、実釣に持ち出す予定もないのに予備スプールもクソもあるかよ、という気もするけど気にしない。欲しけりゃ買うんです。

 マイクロセブンの方はクソ安くて1000円落札+760円送料、オートベールは出物が少なく、ちょっと高いけどコレ買わんと次がないかなと、3980落札+980円送料とボロ個体に張り込んだけど、その後綺麗なのが3000円即決で出ててジイさんちょっとガックリ。まあ綺麗な個体はコレクター氏の棚に、ボロい個体はワシのところで整備して良い状態に、ってことでこれで良かったんだと思っておこう。

 ということで、わが家に来たからには分解整備。

 先に見た目ボロいオートベールから、まずスプール周り、ドラグがちょっと面白い。この時代の大森スピニングはフェルトの湿式ドラグパッドが標準装備で、この大きさでも基本は一緒なんだけど、3階建てのドラグで3枚のパッドのうち1枚が赤いファイバーワッシャーになっている(写真上列右)。このあたりの大型リールの国内での用途としては、投げ釣りが主に想定されるのでドラグとしての性能よりもしっかり締まって、投げたときにドラグが滑って指を切らないというのが求められていたのかなと想像するんだけど、ドラグパッドを一枚摩擦の大きい繊維性のドラグパッドにしてそのへんの”締まり”を確保しているんだと思う。3階建てドラグでドラグパッドの材質やらを変えるとき、変える枚数に応じてドラグの性能が調整できるってのは以前実験したとおり。さすが大森製作所、わかってらっしゃるという感じだ。

 あとは、簡易ローターブレーキがついた内蹴り機構、真鍮のローター軸ギアに鋼を鋳込んだ亜鉛のハンドル軸ギアのハイポイドフェースギア、ローター軸直上の鉄系のストッパーあたりのいつもの大森方式なんだけど、さすがに大物用のリールという感じがするのは、主軸が5.6mmもあるステンレス系なのと、小型機だと樹脂製のベールアームがアルミっぽい金属製なところとかで、このあたりガッチリ強化すべきところは強化されている。ローター軸のギアもゴン太で、ギア比は4.2:1とやや低速だけどスプール径もデカいのでこんなもんでしょ。

 でもって、問題のオシュレーションカム、確かに主軸に対して垂直じゃなくてちょっと斜めっている。

 なんで斜めになっているのか?オシュレーションカムの形状をS字にすると、だいたいスプール上下が等速に近くできて、ダイワとか最近の機種は高級機種でも丸ABUの平行巻機構に使われているようなクロスワインド方式じゃなくてS字カム方式だそうで、オシュレーションカムの形状いじると、当然スプール上下に何らかの影響が出るはずで、なんのためにそうなっているのかは、後ほど考察してみたい。

 とりあえず、全バラしするとこんな感じで、ボールベアリングが2個も入ってる高級仕様だけど、無駄なモノがついてるわけじゃなく単純明快な設計になってて整備性は良い。

 ただ、デカいのでお盆にバラした部品が乗り切らないので、お菓子の箱を用意して適宜作業が終わった固まりからそちらに移したりして作業した。

 デカいリールは当然ながらグリスぶち込むにしても必要なグリスの量が多く、こういう海で使うしかないだろって機種こそグリスグッチャリにしておきたいけど、リール用高級グリス様ぶち込んでたらいくら銭があっても足りまへん。芋グリスでも良いぐらいにギアとか丈夫なので、まあいつものマキシマの青グリスぶち込んでおく。

 ただ、ぶち込む前に、ちょっとばかしお化粧直しはしてやりたい。ワシそっち方面苦手だけど、ちょっとずつ練習していこうと思ってるので、今回は塗装ハゲハゲで地金が見えてるところを、黒の車用タッチアップペンでごまかして、奇跡的に全部揃ってる銘板を、一旦剥がして貼り直しておく。

 銘板は、パーツクリーナーかけた後にマイナスドライバーで突っついたら、いとも簡単にペリッと剥がれる。この時代の接着剤に期待してはいけない。

 色は本当は黒じゃなくて濃紺みたいな色なんだけど、黒でもごまかせるだろうエイヤァという、やっつけ仕事。タッチペン付属の筆でペタペタ塗ると確実に塗ったところが段差になって物理的にも雰囲気的にも浮くので、いったん小皿に出して綿棒でポンポン叩いて乗せたり、シャッシャと薄く汚す感じで見えてる地金を隠したり、あんまり塗り直したところがあからさまにならないようには努力したつもりだけど、銘板もコニシのSUではりつけて仕上げたけど、まあ新品同様とはいかんのはいかんともしがたい。

 それでも、いつものことだけど、大森スピニングのギア等内部構造はまったくガタなど来ておらず、ベアリングも今回錆びておらず、機能的にはクルックルの絶好調に仕上がったので良しとしておこう。

 当時の国内では、大型のスピニングは糸巻き量が必要な投げ釣りが主な使いどころで、正直、キスだのカレイだの釣るのにこのリールの性能は必要ないというか、対大物用の性能が活かされていたのかはなはだ疑問ではある。そもそも大物用には両軸使えって話ではあるけど、このリールの想定しているナイロン6号、8号あたりって、ポンド換算でいえば22ポンド、30ポンドぐらいなわけで、PENNでいえば6500SS、7500SSで狙うような、必ずしも両軸にお出まし願わなければならんほどじゃない大物に使うなら、その実力を発揮しえるだろうなと夢想する。

 続いて、マイクロセブンNo.5の方も分解整備していく。古いリールなのでグリスがネットネトになっていて、最初エラい重いのでやや不安な立ち上がりだったけど、鬼門のラインローラーナットも固着しておらず無事外せて、グリスをパーツクリーナーで洗浄したら、ギアも当然健在でベアリングも錆びておらず、スプール裏とかに多少砂が残ってたけど、大事に使われていたのか、はたまたこの青い塗装は強いのか、見た目的にも表面塗装のハゲとかは少なく、小さな置き傷とか擦れはあるけど、比較的綺麗な個体で、外蹴りでオートベールよりもさらに単純な設計なのでサクサクとバラしてグリスグッチャリで仕上げた。

 うーんどうにも格好いいな。小型の機種については、最近も代打で登場願った「マイコン301TB」で感じたんだけど、ベール反転が内蹴り式で軽いのは使っててすんごく気持ち良いってのはある。ワシ、昔はスピニングは全部左手でライン放出調整してそのまま左手でベールを返す方式でやってたけど、インスプールスピニングも使うようになって、最近は小型スピニングは基本どおり右手人差し指でライン放出調整してハンドルでベールを返すようになっててベール反転が軽いことの重要性が腑に落ちてきてはいるんだけど、一方なぜもともと左手でライン放出調整してたのかといえば、デカいルアー投げると右手人差し指ではライン放出調整しきれないので、そっちにあわせてたんである。ということは内蹴り式でベールをハンドルリターンした時の感触はオートベールに軍配が上がるけど、大型機では左手で返すからハンドルリターン時の感触は関係なくて、となると単純な設計の外蹴りマイクロセブンのほうがワシ向きかなという気もしてくるのである。

 ドラグの方式は、オートベールと同じくパッドが1枚赤い繊維性のワッシャーで、スプールの互換性もあり。

 オシュレーションカムが”斜め”ってるのも同じで写真は引っこ抜いて溝が見やすいように裏向けたところ。基本オートベールは外蹴りアウトスプール版の「マイクロセブン」に内蹴り機構をぶち込んで、本体の形状をやや曲線を帯びたデザインにあらためた後継機だという認識で良いんだと思っている。

 マイクロセブンにも大型機ならではの強化が施されていて、ローターのベールが付く”腕”部分に斜めに張り出した補強部分が設けてあり、いかにも大物仕様といった雰囲気が醸し出されている(訂正:小型機でも補強されてました。嘘書いてゴメン)。やっぱり格好いいぞ。

 写真はベールアームと反対側のベールワイヤー支持部で左側にはみ出してる部分がそれ、もちろん向こう側のベールアーム側にも同様の補強部分がある。そして背景に見切れている主軸はこちらのも太ましい。まあスプール共通からして設計同じだろうからあたりまえか。

 でもって、今回の大きな疑問である”なぜ大型機でオシュレーションカムが斜めになっているのか”についてだけど、頭から煙噴くぐらいに考えたけど、コレっていうしっくりくる答にはたどりつけなかった。たぶんこうかな?という推定はしてみたけど、正しくその設計思想が読めた方がおられましたら是非、私めにも教えてください。

 まず、前提条件としてワシ頭の中でイメージ図を動かすことが苦手というかほぼできない。なので、そういうのが得意な人からしたら「なにやってんだコイツ?」かもだけど、そういう人なので四苦八苦してるところはお見苦しくともご容赦願いたい。

 とりあえず、疑ったのは”斜めにすると平行巻に近づくのではないか?”ということで、これはマイクロセブンNO.5に最初巻かれていたナイロンラインが、そこそこ綺麗に巻かれているようにもみえたので、きっとそうだと期待してしまった。

 なんだろ、オシュレーションカムの端まで棒が来て折り返す”死点”の前後で上下動のスピードが落ちるのが平行巻にならず端が盛り上がる原因だけど、斜めにすることで死点が上下動の一番上と下とズレるとかか?と思って、頭の中でイメージが動かせないので、現物でとりあえずと考えてる作業風景が、マイクロセブンの分解整備作業の写真でオシュレーションカムを溝が見えるようにひっくり返しているものである。正直斜めの角度も緩いので良く分からん。ということで、次にこれはTAKE先生がS字カム方式のときに書いてたような略図を書くしかないなと書いてみたのが、写真上の図なんだけど、適当にフリーハンドで角度を決めて点を打ってるので精度が全くアテにならず、死点を越えてから下がってるのか上がってるのか良く分からんかった。つぎにじゃあ実際に回転する時におこるイメージを視覚的に追えるようにしてみようかと円書いて、仮想の主軸位置(紫)と仮想の傾きを紙に書いて、その上に重ねられるようになんかの蓋だったプラのシートに仮想のオシュレーションカムの溝(オレンジ)+仮想の主軸(これも紫)を書き込んで、プラに書いた主軸を上下させて、死点を越えて主軸が上がったり下がったりするのか確認したところ、「しない」「速度が死点前後で落ちて、上下動は両死点の高さの間」だとワシャ判断した。誰か同じようなこと調べてないかなと思ったら、インスプールのカーディナル33とかは、クランク方式だけどクランクを回してるハンドル軸のギアの一番上と下から斜めにずれて死点が来る点で似ているようで、じゃあスプール上下の動きはどうなるのか?っていうのを考察されている方がいた。その方は、ワシみたいな”数学が苦手な理系”というアホとはちがって、三角関数つかってグラフ書いて同じような結論にたどり着いていた。彼我の理系的頭の良さの差を思うと泣けてきた。サインコサインは役に立たない数学的知識の例として歌にまで歌われていたけど、知ってると機械の働きとか理解するのに役に立ったりします。

 じゃあなぜ、オシュレーションカムを斜めにしているのか、死点間の高さでスプールが上下動するので、運動エネルギーがその分節約できる。っていうのはスプール上下幅減るのと行ってこいの関係で、それをやるならオシュレーションカムを上下させてる歯車の径を小さくすれば良いだけで、そのほうが軽量化にもなるだろう。

 って考えてって、スプール上下のためになにか寄与してる、っていうのではなさそうだなと思う。じゃあなんでって考えて、本体内の配置とか見ていると、どうもオシュレーションカムを真っ直ぐにしてしまうと、ハンドル軸と干渉してしまいそうに思う。単にそれを避けるためという配置上の都合であったのではないかというのが、今のところの私の考察。たぶん、No.4サイズから設計していったので、同じように設計しようとしたら、大型化するに際してカムの肉厚とかも増したら「入らんがな」ってなって、回転する歯車の上のカムに刺さる棒をもっと中心に寄せて回転する径を小さくするか、カムを斜めに下げて干渉をさけるか、どちらにしてもスプール上下幅が小さくなるけど”致し方なし”として後者としたのではなかろうか?これら2台より後発になってギア形式の違いから設計やり直しができた「スーパー7No.3」では素直にもう1枚歯車を入れてハンドル軸からオシュレーション上下の歯車を遠ざけている。その際にカムは斜めではなく真っ直ぐになっていて、斜めにすることでラインの平行巻に寄与するようなことがあれば、後発機でもそうしてそうだけど、スーパー7はまだNo.3サイズで直接比較にはならんのかもだけど、他に「マイコンNo.6」でも斜めではなく、やっぱり平行巻への寄与はなさそう。設計上スペースが無かった、っていうショボい理由が案外正解かなと思っちょります。「こういう利点があるんですよ」というのが分かった賢い方がおられましたら、是非とも教えてください。ワシのピンボケた頭ではこのあたりが限界でした。

 なんで、あんまり巻き上がりが凸凹してないのか不思議な感じである。れいによってスプール上下幅より糸巻き部分の幅を大きく取ってごまかしてるのかと思って、スプール上下にともなってどこまでラインが巻かれているか、ラインの色を変えて確認してみたところ、写真の様にわりとキッチリ上下幅一杯にラインが巻かれていて、なかなかヤる感じになっているのである(この写真で見ると真ん中へんが若干くぼんでて平行巻にはなってないなという気はする。ちなみに減速比はギア比4.2:1でハンドル一回転で4.2巻きと考えると、片道6巻きになってるからだいたい1/3弱ぐらいに減速というところか?)

 というところも含め、2台いじくって感じたのは、大森のこの時代の大型機はなかなかやってくれそうだということで、90年代ぐらいにルアーキャスティングの世界でPEラインが使われるようになり始めて、ロウニンアジとかが対象魚として注目されるようになったんだけど、当初国産の大型機はお話にならなかった。ほぼPENN一択。なぜならそれまで国内向けの大型スピニングは前の方でも書いたように投げ釣り用が主で、ドラグもろくなもんじゃなかっただろうし、強度も不足していたはず。なので、ルアー用の大型スピニングを、ってなっても作り慣れてないので、最初の頃はダイワのトーナメントもシマノのステラも、PENNユーザーが鼻で笑う程度のデキだった。ファイト中に瞬間的逆転防止機構が壊れる、ドラグはウィンウィンと音を立ててしゃくる、ハンドルノブのベアリングが錆びて潮かぶると一発でキコキコ鳴き始める。そこで反省してPENNみたいなスピニングを作っておけば良いのに、そうならずに逆転防止機構の改良やら防水、あつものに懲りてドラグにボールベアリングまでぶち込んで、ベアリングも防水してってやって、アホみたいな価格の高級リール様が誕生するに至っている。もし、あの頃に大森大型機を投入するという発想があったら、案外すんなりロウニンアジぐらい釣れたんじゃないか?っていう気がするのである。オートベールNo.5で”釣力”17kgとなってて、これは最大ドラグ値(あるいは耐破壊強度のほうか?)と同じような意味だったはずで、手持ちのスピニングタックルでドラグ値10キロ以上に上げて使えるマッチョな釣り人など希有なぐらいではあるけど、そのぐらいの負荷に耐えうる強度は確保してあるっていうことで、実際ワシを例に出すならPENNの7500ssでドラグ値6~7キロで運用してたんだけど、そのぐらいのドラグ値なら大森大型機はまるで平気な気がする。主な購買層が投げ釣りで、性能の良いドラグも、大物と渡りあえる”釣力”も必要とされていなくても、大型のスピニングリールならば大森製作所はそれが必要だと考えてたんだと思えてくる。

 ただ、大型スピニング用のドラグパッドとしてフェルトはどうなんだろう?とかドラグノブ樹脂製なのはドラグキツめで突っ走られたときに摩擦熱で溶けたりしないだろうか?っていうのは、ちょっと不安なところではある。ただ、ドラグ周りは難しい機構じゃないので好きにいじる余地はある。パッドはたぶんアクリルとかの化繊であるフェルトよりは、フライパンの表面加工にも使われるぐらいの耐熱性があるテフロンや、大型リールでは定番のPENN方式といって良いかも?なカーボンシートやらのほうが良さそうだし、ドラグノブの摩擦熱対策は、ドラグノブと一番上のワッシャーの間に、熱伝導率の良くないパッドを断熱材として挟んでやるとか工夫はできそうである。逆に言うと不安なのはドラグ周りぐらいしかなく、何しろギアやら本体枠やらはガッチリ作られていて頑丈で、設計も複雑なところがなく壊れる要素も少ない。90年代始めには大森製作所はなくなってしまったので、100g超の大型ルアーのキャスティング向けとしては誰も目をつける人はいなかったけど、もし使ってたら多少の改造でアッサリ必要な性能を確保できてたのではないかという気がしてくるのである。なので、遅きに失した感はあれども、この冬ちょっと手を入れた対青物仕様の大型大森スピニングっていうのを考えて、遊んでみようかなと考えている。実際の青物釣りは、この地で岸からだと試行錯誤して遊んでる余裕はないので、実釣はPENNで行くんだけど、魚掛けなくてもドラグテストとかは可能なのでちょっと頭の中に試したいことがいくつかあるので、暇をみて試してみたい。

 タイトルに使うにあたって”斜にかまえる”という言葉を検索して意味を確認したところ、実はこの言葉はもともとは剣術の用語に由来するようで、剣を斜めに、つまり中段にかまえて、相手の動きに即応できるようにかまえることから、本来「真正面から気合い入れ直してかかる」的な意味だったようだ、現代では逆に「正面からとらえず、皮肉な態度をとる」と反転している。

 大森製作所が、オシュレーションカムを斜にかまえたのは、まさに”斜にかまえて”設計上の問題に即応したんじゃないかと考察したところであり、適当に語感の良い言葉を並べただけのタイトルなんだけど、なんか意味深長な感じになってるやんけ、とほくそ笑んだところである。

2023年11月18日土曜日

アメ人も凝ったリール作るじゃん!オーシャンシティー310!!

 なかなかの珍品ではないだろうか、オーシャンシティーっていうとその名からも分かるとおり、海用の両軸とかが得意なメーカーだけど、日本じゃむしろバス用のダイレクトリールのほうが馴染みがあるだろうか?スピニングはあんまり印象無くて「350」という奇っ怪なリールぐらいしか知らんかった。しかしながら、PENNの創始者はオーシャンシティーで働いてリール作りを学んで独立したと聞いて、まあPENNの源流ならそのうちいじってみんとあかんな、と思ってたんだけど、幸いなことに物々交換でブローニング&ルー(韓国日吉釣具製)「ゴールドスピン」の換わりにわが家にこのオーシャンシティー「310」がやってきた。ちなみに「トゥルーテンパー」のシールが貼ってあって、オーシャンシティーは両軸でもちょくちょく同ブランド名で売ってるのがあって、トゥルーテンパーブランドはお得意様で、その販売網とかで売ってたのかも。

 カラーリングからして、古き良き米国な感じが醸し出されていてなかなかに味わい深い。350ほど奇っ怪な見た目ではなく、ちゃんとしたスピニングリールに見える。ただ、いざ分解していくとどうにも独特な独自路線でなかなかに楽しめたので、スピ熱患者の皆様にもお楽しみいただけるかと思っちょります。

 まずはどう分解していけば良いのか?ちょっと迷う。ドラグノブがネジ留めされていてスプールがどう外すのが正解なのかまず分からん。そして、本体は横にネジが無く、縦にネジが入ってて、どうも側面の蓋をご開帳する方式ではなく、本体を脚側と写真の様にネジの見えてる側の上下にパカッと割るしかなさそうである。

 まあ、そのへんおいおい進めるとしてまずは簡単にはずれるというか、送付時外してあったハンドルから外していくか、と外してハンドルの軸をいじると、いきなりそこからして初めて見る方式で笑えてくる。

 ハンドルが外されて送られてきて、つけるには本体から飛び出てる軸の先にハンドル側の穴をあててからハンドル側の横に出てる円盤状のツマミを回して填めてやるんだけど”ねじ込み式じゃ何でアカンのだろう?”って思ってたけど、なるほどそうなってるのかと合点がいった。ネジ込み方式でハンドル左右を付け替えるとなると、ハンドルのネジの山の切り方を左右で逆にしないと、片方側が巻いてるときにネジが緩んでしまうことになるので、4桁PENNならハンドル側を雄ネジにして根元と先でネジ山逆にして対応してるし、大森は最初ネジを右用左用の2種類用意してて、その後はごぞんじの同一軸上に左右のネジを切る方式にしている。ところがこのリールは冒頭写真でハンドルの無い側突き出した軸にキャップがハマってるのが見えてるのからも分かるとおり、左右両用でかつハンドル側が雌ネジである。雌ネジでも深さによって穴の径とネジ山を逆転させればねじ込み式にできるかもだけど、このリールは本体側の雄ネジの方が左右同じ向きのネジ山で当然同じ径になってる。なのでねじ込んでハンドルを固定するのではなく、ハンドル回すための固定自体は本体から出てる軸に填めた俵型の部品に、ハンドルの俵型の窪みをガタつかないように填めてガタ無く巻けるような構造になっていて、ネジはそのハマった俵型の凸凹部分を抜けないように固定する役割をになっている。なるほど左右両用のハンドルの固定方式としてこんな手もあるのか、という感じ。軸はこれまた本体内でギアに凸凹でハマるようでこの時点で抜けてきたので抜いておく。

 ハンドルノブの軸は鉄系の軸にノブが当たる両端の方に真鍮製のスリーブがハメゴロされてる感じでこまかいところも丁寧な作り。基本的に回転部には真鍮や樹脂製のスリーブやブッシュが入ってて仕事はとても丁寧で、古き良き米国の職人魂がそういう細部に感じられ、そういうところがPENNにも継承されていったんだろうなと歴史が感じられるところ。

 分解の方は、じゃあ次はスプールいってみるかと、ドラグノブは緩めていってもネジ留めされていて外せないので、そのネジから外していく。

 ネジ外すとドラグノブが外れて、ドラグノブの中に収納されるようにバネが入ってて、その下に軸と同期して回らない俵型穴の金属ワッシャーが入ってて、その下に革製のドラグパッド、その下に樹脂製の台座が来て、この台座にカパッとリング状のスプールを填めるカートリッジ式のスプールのようだ、で台座の裏にはドラグの音出しの金属パーツが飛び出ている金属スリーブのお尻がみえていて、この金属スリーブは台座を貫通してて、これにドラグノブをネジ留めしている。台座と金属スプールの間には繊維性のパッドと金属ワッシャーが入ってて、メインのドラグパッドは上の皮パッドだろうけど、こちらの繊維性パッドも多少ドラグの仕事はしている構造。

 一番下の写真がバラした部品で、上の方に写ってる輪っか状の部品は、糸落ち防止にスプール下部に巻かれているモール。で、今回モールもだけど皮パッドもそこそこ保存状態良くて、当時の状態を残すためにも交換せずに使った。

 お次はいよいよ本体割るかなということで、意外に長いネジをスポンと抜いて、パカッと割ると、なんか見たことのない違和感バリバリの構造が見えてくる。

 スプール上下どうなってんの?オシュレーションカムが縦に付いてるのは正しい位置なのか?それより何より、このとげとげしいビール瓶の蓋みたいなギアはなんなの?この時代にハイポイドフェースギアのような、軸をオフセットさせたギアは無かっただろうから、左右両用なので蓋開けるまでてっきりウォームギアが入ってるんだと思ってた。そのわりに巻きがジャーコジャーコと滑らかでないのも精度が出てないからとかだろうと思ってたけど、ウォームギアではなく、歯車の歯であるトゲトゲが突き出して、双方のギアのトゲトゲ歯同志が噛み合う方式。接触する面だけ考えるとトゲトゲの斜めの面どうしが接しているので、かさ歯車に切った歯どうしのベベルギアの一種なんだろうか?当然主軸とハンドル軸は直交するので、左右両用には交差する軸が重ならない工夫が必要なわけで、なかなかにそこは鋭い工夫がしてあるので見ていこう。

 まず上の写真は、本体から外してギア同士が噛んでる状態を見やすくしたもので、こういうギアです。王冠のトゲどうしで絡んでるようなギアと言うこともできるか?ちょっとネット検索したぐらいではなんというギアなのか出てこなかったので、ご存じの方おられたら是非ご教授ください。ちなみにローター軸のギアはステンかな?ハンドル軸のギアはアルミっぽいの、芯がステンっぽい堅いのを鋳込むというよりは後で出てくる写真のように継いであるように見える。

 そして、軸が直交するギアで左右にハンドルをつける方式、というとZEBCO「15XRL」が、主軸を短く、伸ばしていけばぶつかるはずのハンドル軸まで届かないようにする。という力技で解決している例は見たことあって、その時にその応用編で、主軸の真ん中をくりぬいてその中を通るハンドル軸にしてもイケるかもな、と思いついたけど、主軸であるステンレスや真鍮をそんな難儀な形状に加工するのは手間掛かって現実的ではないよな、と思ったんだけど、ステンや真鍮を加工しなくて良い。それらの素材でできた主軸に加工が容易な素材でできたオシュレーションカムを縦に接続して、そカムの中をハンドル軸が貫通してカムが上下動できるようにしてやれば良い、ってのがこの「310」の方式。写真下は見やすいように、ハンドル軸のギアに軸をブッ刺した状態で、主軸の縦になったオシュレーションカムがどう重なってるかを示したものです。カムのお尻からでてる棒がギアに掘られた円形溝にハマってギアの回転でカムが上下し、スプールを上下させるという仕組み。これだとカムは亜鉛鋳造で好きな形に作ればよいから楽だろう。ウーン独創的。

 ギアのところを見やすくするとこんな感じで、ハンドル軸のギア上に切った、スプール上下のための円形溝はこうなってます、偏心してるので真ん中の軸穴との距離が変化することでオシュレーションカムを上下させているというのがお分かりいただけるだろう。

 細かい所だけど、オシュレーションカムのギアの円形溝に突っ込む棒には真鍮のカラーが巻いてあり、ハンドル軸のギアには素材不明のブッシュがハマってるけど、これがハンドル軸とギアの継ぎ目の部分でギア側がやや太いのを軸の径まで絞ってる形に合わせて、カラーも曲線的に凹ませてある、等々は丁寧な仕事ぶりだなと感心する。ちなみにハンドル軸にもローター軸にもボールベアリングは入っておらず、ボールベアリングレス機です。エラい! 

 でもって、本体割った脚側にはナニも入ってってなかったのかというと、逆転防止機構(ストッパー)関係が入ってました。これが一見して何をやってるのか分からん謎機構。
 そもそも、ギアの裏とかにストッパー用の歯が見あたらない。填めてギアの位置とか確認してみるとローター軸のギアの歯に直接かける方式とまでは判明。
 ただ、写真上段の左がスイッチ切った状態で、ギアの歯に部品の右上端が掛からずストッパー掛からないのは良いとして、スイッチONで真ん中の状態になるとギアの歯に掛かってストッパーが働くのもまあ良いとして、ギアの歯が特に片方にしか回らないように歯が鋸の歯状になってるとかではないので、掛かりっぱなしで正転もできなくならんか?と疑問に思う。これ、下の写真の様にストッパーは2重構造になってて、スイッチON状態でも下の土台部分が動かないまま、上のギア歯に引っかける金属板の”爪”の部分はバネで緩くギアの歯側に押さえられているだけである。でギアの歯に円周に対して垂直に板を突っ込んでるんじゃなくて、斜めに当たってるので正転の時はカタカタ当たりつつも回転して、逆転の時にギアの歯にガシッと爪が噛んでストッパーとして働くという構造。ギアの歯自体にストッパーの爪掛けるのはミッチェル「300」でもやってたけど、あれはギアを痛めないように爪が樹脂性になってるところを、コイツの場合は緩いバネで柔らかくあててやるという方式。これまた独特。

 次にベール周りを見ていくと、ラインローラーが片側に覆いがかかったような形状の、金属を絞ってベールワイヤーに繋げたラインローラー周りの構造で、おそらく1950年代か60年代初期のリールだけど、ラインローラー回転式です。同じような形状のラインローラーはフルーガー「ペリカン」にもみられて、影響あったのかなという感じ。で、ラインローラーを留めるナットなんだけど、ラインローラーを填めてる部品にはネジが切ってあって、ラインローラーの填まる穴にグリグリとねじ込めるんだけど、完全に止まるまでねじ込むとラインローラー固定されてしまう。なので、ちょうど良い塩梅にローラーが回る位置で止まるようにナットを締めてやってそれ以上ネジが回らないように止めてやる方式。これだと回転するあんまり丈夫そうではない、良くてステン無垢かなっていうラインローラーが端から削れていってスカスカになったとしても、もうちょい締めて調整とかが可能で具合は良さそうに思う。

 そしてベール反転機構はというと、これがまた独特。
 インスプールのスピニングなんだけど、ベール反転の機構はスプールの下ローター内に収まってて、真ん中の写真で棒状になってるのが分かると思うけど、その棒の頭が丸まってて、一番上の写真の矢印部分のように、ローターを留めるナットの下から張り出した板の丸い穴にポコッと填まってベールが起きた状態で保持する方式。
 普通の外側にベールリリースのレバーが出てるインスプールスピニングだと、レバーがガッチリと填まってハンドル回転せずに”熊の手”で無理矢理ベール返そうとしても返らないし、下手すると壊れるんだけど、この方式だと、ポチッと穴に棒の先が引っかかってる程度なので、今時のアウトスプールスピニングみたいに手で返すことも可能。
 もちろん、ハンドル回転でベールを返すのも可能で、棒の穴に引っかかってる方と反対側の端がローターの下に突き出ていて、これが”蹴飛ばし”に蹴っ飛ばされてベールが返る。
 この蹴飛ばしがまた独特の発想のもので、一番下の矢印の部分は、本体パカッと割った脚側の突起で、本体ギア側にくっついてるローターを受けるための真鍮の円盤状の部分に填めて位置を固定する部分なんだけど、この突起がローター下に突き出していてベール反転の”蹴飛ばし”を兼務しているのである。細かい所だけど、米国の職人の独創性と合理的発想が表れた、いかにもらしくて面白い設計だなと感心した。ベール反転機構としての仕上がり自体も軽い力で止めて返して滑らか、というイイ塩梅でなかなかにヤりおる。

 で、ついでに分解方法なんだけど、ここはワシ的には減点せざるを得ないんだけど、ベールアームを支持している軸が抜けないように、一番上の写真の矢印の位置でCクリップで留められている。何度も書くようだけどCクリップ嫌い
 今回も、細心の注意を払ってローターの中にCクリップが落ちるようにお盆の上で慎重に外したにもかかわらず、外れた瞬間ピョーンと跳ねて胡座かいてる足下に落ちてしまった。足下には油汚れ防止とかのために新聞紙とか敷いて作業してて、その上に落ちたはずと血眼で探すも見あたらず、ひょっとしてと、スウェットのズボンの裾をめくったら、ありました!ってのが上から2枚目の写真。もうアタイCクリップなんて大っ嫌いなんだからっ!
 まあ見つかって良かった。
 でCクリップ外して軸を抜くと、軸の先の方は2段階の切り込みが入ってローターの真ん中に先端が填まってる設計になってて、抜いたらベール反転の棒とベールスプリングが外せる。でもって、軸とローターの間にはキッチリ樹脂製のスリーブが填まってて、ここでも抜かりなく丁寧な仕事っぷりに米国のリール職人さんの心意気を感じるところである。ちなみに、本体のロータ軸のギアが入る穴もハンドル軸が入る穴もアルミ直受けではなく真鍮のブッシュがハメゴロされていて抜かりなし。

 で全バラしすると部品数はこんな感じで、凝った設計もあってやや多め。
 今回、グリスアップして注油するに際して、グリスをどうしようかと迷った。いつもの耐腐食性重視の青グリスでは、あんまり見たことない、既にちょっと削れててジャーコジャーコという巻き心地のギアには不安がある。こりゃちゃんとしたリール用の耐摩耗性能の良いグリスの方が良かろう、となったんだけど、それじゃあ”繊細なギア”用にいつも使ってる透明なABU純正グリスでいくかとも思ったんだけど、ドラググリスは最近PENN純正グリスをドラグ用に流用してて、まずはドラグをと皮パッドとかにグリグリ塗った時点で、このPENN純正のこれまた青いグリスをドラグだけでなく機関にもブチ込んだ方が、”オーシャンシティー”という名の米国製スピニングには似合うように思って、今回贅沢にPENN純正グリスグッチャリで行きました。いつものマキシマの青グリスは一樽(約450g)2500円ぐらいと費用対効果抜群のお値打ち品だけど、PENN純正グリスは同じ大きさのを一樽日本で買うと7千円ぐらいする高級品である。ワシ貧乏なので小樽(約60g)しかよう買わんかったぐらい。今回オーシャンシティーの職人さんに敬意を表して容赦せずぶち込んだりました。
 組むときちょっとコツが居るのは、ギアの入れ方で側面の蓋をパカッと開ける方式じゃないので単純に最後にハンドル軸のギアを入れるという順番では入ってくれない。一旦ローター軸のギアを上に寄せておいて(下写真左)、ハンドル軸のギアを納めて、その後にローター軸のギアを所定の位置に下げてギアの歯同士を噛ませてから、ローター軸のギアが上がって空振りしないように、スペーサー的な真鍮の部品で隙間を埋めてやる(下写真右)という順番です。オーシャンシティー310の分解整備の仕方を知りたくてこのブログにたどり着いた奇特なお方は憶えて帰ってください。

 スプールは、前述したように金属の爪にカチッと填めるカートリッジ方式で、径の大きな樹脂製の台座の周りを取り囲むドーナツのような形状になっている。この設計はドラグの径が大きく取れると共に、オシュレーションの上下幅が小さいのをスプールの直径で補う形であり、フライリールでいうところの”ラージアーバー”的な設計で直径の大きめのスピニングは使い勝手が良いってのは、奇しくも2台あったうちの物々交換に出した残りの1台であるジャンクを復活させたルー「ゴールドスピン」を今期メッキ釣りとかで使って実感しているところでもあり、このオーシャンシティー310もギアがちょっとやかましい感じになってきてるのと、回転バランスがちょいプルプルなのはあるし、流石にドラグパッドの皮はペッタンコで使うならフェルト製にでも換装したほうがよさげだけど、使ったら案外細かい所は気にならなくて、釣り場で輝く類いのリールじゃないかという気がする。
 
 気がするんだけど、壊れた時に部品が部品取りの個体でもなんでもいいから入手できる状況じゃないと実釣に持ち出すのがためらわれる。コンパック「カプリⅡ」のドラグノブを紛失したときに、大森製ワンタッチスプールのNo.2サイズのドラグノブがなんとか流用可能で実釣に復帰させられたけど、大いに懲りた。
 このオーシャンシティー「310」はいくつか大きさ違いのあるシリーズのようで、基本型は「300」というもう少し大型の機種のようである(”300”っていうのはもろミッチェルの影響だろうか?)。この「310」はそれより小さくて、測ったら約300gだったけど、サイズ感はもうすこし小型の機種並でカーディナルのC4よりはC3に近いような印象。さらに小型の「320」もあるようだ。っていうのをイーベ○を覗いてて学んだけど、「300」はそこそこ弾数もあって、値段も買おうと思えば買えそうな即決価格のもあるけど、「310」「320」は弾数少ない、「310」に関しては見たときにはマニュアルピックアップのベールレス機しか出てなくて、コイツが1957年製とか説明されていて、そのちょい前ぐらいにハーディー社が持ってた”フルベールアーム”の特許が切れてその後各社フルベールアームのモデルを販売って流れだったと思うので、310も後からベールワイヤー付きのフルベール搭載機に変更したんだろうと思う。なので回転バランスはややプルッてるのかも。
 って具合で、壊れたら直せる目処が立ちにくいので実戦投入怖くてできません!
 道具としての評価は使ってナンボで、部屋でクルクル回しててもどうにもならんのは分かってるけど、この古き良き時代の米国の職人さんが独創的なアイデア盛りに盛りまくって仕上げた見た目も魅力的な1台を危ない目にあわすのは腰が引けて芋引いてしまった臆病者のナマジであった。

 とはいえ、分解整備してその独創的な仕組みを堪能するだけでも、蒐集家的な喜びは大いに満足させられたところであり、時期的には前後するんだろうけど、こういう独創性と職人気質に富むメーカーで修行した成果が”PENNリール”に繫がっていったんだろうな、とか想像すると歴史も感じられてPENN愛好家としても趣深かったです。なんというかミッチェルがスピニングリールを量産し始めて、ハーディー「アルテックス」のフルベールアームの特許が切れて、っていう大きな流れの中、1950年代から60年代ぐらいに、いろんなメーカーが参入して、ミッチェルのモロパクリから始めたところも多かっただろうけど、自社独自の工夫をと、まだスピニングリールの基本形式が固まらないなか試行錯誤が繰り返されていたという、スピニングリール黎明期の歴史の生き証人的な1台だったかなと感じております。

 改めて物々交換に応じていただいたレクエル堂サンには感謝を。ありがとうございました。ゴールドスピンも良いリールでこちらは実釣能力が売りなので釣り場で活躍してくれると思ってます。