2025年7月12日土曜日

マグブレーキが磁石で鉄をくっつける磁力でブレーキかけているのではないと知ったのは、大人になってずいぶん経ってからだった。

 まあ、ルアー投げる釣りで使えそうなサイズってなると、このへんだろうなって2機種です。

 「27モノフィル」は1950年代後半に登場。ミスティックさんとこで歴史のところを読むと、その名のとおりモノフィラメント(単繊維)ナイロンラインの使用を前提とした軽快なモデルで、糸巻き量は15LB300ヤードとなっている。ナイロン繊維の登場はもっと早く1930年代に遡るけど、釣り糸としてはしばらくはダクロン系の編み糸が主流で、細い単繊維のナイロンラインの活躍はナイロンを発明したデュポン社からかの有名な「ストレーン」が発売されてからとのことで、PENNモノフィルシリーズはストレーンに象徴されるライトタックルな新しい時代の釣りに対応して開発・発売された機種ということらしい。ストレーン、80年代のバス釣り少年だったワシにも懐かしい。蛍光黄色が好きだったけど白っぽい色のも視認性良くてルアー用のナイロンラインにナニが必要か、さすがナイロンを生み出したメーカーよく分かってるって感じだったのを憶えている。

 「180ベイマスター」 は、それより古い1941年以前の登場となっている。糸巻き量は20LB250ヤードとなっていて、モノフィルと同様に15LBを巻くと約333ヤード巻けるはずでほぼ同じような糸巻き量でこちらの方が古くからある小型軽量機なんだけど、モノフィルとの違いは細かく見ていけばあるんだけど、ぶっちゃけ似たような機種で、わざわざモノフィルを新たに売り出したのはPENNもまた「新型です!」って売らないといかんかった販売戦略上の都合なのかなと勝手に想像している。

 両機種とも、ベースになったのは「155ビーチマスター」らしく、部品番号とか見ていくと”155”流用のものが多い。155は1941年以前の登場時「ライトタックル キャスティング リール」という名だったようで、もともとライトタックルの155をベースにさらにスプール幅を狭くして、軽快でスポーティーなあるいは気軽な釣りに対応する機種として用意したのが27モノフィルと180ベイマスターの2機種なんだろうと思う。

 で、いつものように分解整備して紹介っていこうかと思ってたんだけど、おもいっきりはしょっておきます。というのも、上手くいってて大きな問題が生じないかぎり設計は変えないのがPENNのお約束で、マイナーチェンジで逆転防止の爪をラチェットに押さえつける小さいバネが、青銅製の板バネになってなんぼか扱いやすくなったとか、180ベイマスターではギアがメインは鋼系で磁石にくっつくので、ピニオンはステンかと思ったらこちらも磁石にくっつくので「同じ素材同士のギアの組み合わせは削れるんじゃなかったっけ、ピニオンのほうは磁性のあるステンか?」という仕様だったり、27モノフィルではステンのピニオンに真鍮のメインギアの黄金タッグになってて、後発機種では最適化されているのか?と思ったら、調べると結局180のギアには変遷があったようでよく分からんな?とかいうのを除くと、ほぼ機械的には前回紹介した「85シーボーイ」と一緒なので書いてもつまらんというか面倒くせぇだけなので省略。ついでにギア比も一緒で3倍速の低速機。 

 っていう中で、85シーボーイと今回の2機種で大きく違うのは、ベークライトの側板と本体を金属の輪っかで補強している点で、コレがあると”THE従来型PENN両軸機種”って感じになるのと同時に、ベークライトの部分がメチャクチャ薄くできる。両機種ともに平行巻機構(レベルワインダー)が無い機種なので側板側にはクリックブレーキが入ってるだけってのもあって薄っぺらい。本体側も、どうしても厚くなるメインギアの入ってるあたりだけ凸ってるけど、基本的に薄い。比較のために全体としては同程度の大きさになるABU「アンバサダー5000」と並べてみるとこんな感じで一目瞭然。アンバサダーはレベルワインダーのギアが側板側に入ってるし、本体側もメカプレートをカパっと全体覆う形なので厚みがある。と同時にPENNの2機種はスプール径がなるべく大きくなるよう設計してあるので、糸巻き量自体は非常に多くなっているのが分かると思う。リールは糸巻きなので機械部分を小さくっていうのはダイワ「トーナメントSS」あたりに源流を持つ”ドデカコンパクト”コンセプトだけど、それを体現していると言って良いかと。だからといってアンバサダーより従来型PENN両軸機が優れているとは一概に言えないけど、従来型PENN両軸機の無駄のない単純さは魅力ではあると思う。

左:180では革の柔軟性は失われ、右27では原型をとどめていない
 で、分解整備も慣れてきたもんでサクサクと、と分解までは簡単だし組むのも苦労はしなかったんだけど、えらく手こずったのがドラグ回り。革のドラグパッドはいかんせん寿命が短い。180の方は分解時3枚のうち2枚は一応形を保っていたので持つかなと、1枚はナニカあてがうとして、2枚はそのまま使おうとしたけど脱脂の段階でパキパキと割れた。革の柔軟性は既に損なわれていた。27の方にいたっては完全に腐っててネッチョリとした粘土状のものが金属のドラグワッシャーにへばりついている状態で「腐ってやがる、遅すぎたんだ」って感じだったんだけど、その状態で分解前、ドラグは普通に機能していたっていうのがなかなかに驚きの事実。虎は死して皮を残すけど、革は死んでもドラグ性能は生きていた。

 いずれにしても、ドラグパッドは都合つけねばならん。ついでにメインギア下の赤ファイバーワッシャーはボチボチ経年劣化してるだろうから、テフロンかジュラコン製のに換装しておきたい。
 両機種とも、調べるとドラグパッドはパーツナンバー「6-155」で多くの機種で共通の部品となっており、現行では革ではなく、れいのカーボン素材のHT-100製で、「スピンフィッシャー6500SS」にも使われているドラグパッドである。ただワシ抜かってて、6500SSのドラグパッドは7500SSか5500SSと共通のドラグパッド使ってると漠然と思い違いしてて、予備在庫が無い。無いけど6500SSの予備スプール自体は、現状陸っぱり青物狙いでたまに使うだけなので余らせてるのはなんぼかあるので、そっから引っぺがして使う方針を一旦立てた。
オレンジで囲ったのが新しいパッド
 まず革パッドが溶けていた27モノフィルについて、メインギアの下、ラチェットに挟まれていた赤ファイバーワッシャーは、内径が適合した1mm厚のジュラコンワッシャーの外径を爪切りニッパーで大まかに調整、サンドペーパーで仕上げたのに換装。6500SSから引っぱがしてきたドラグパッド3枚をメインギアのしかるべき場所に格納、しようとしたら微妙に外径が大きくて、堅めで加工しにくいHT-100をチアチマ削ってなんとかぶち込んで、手間は食ったけど効きも調整幅もまずまずで滑らかな作動の良い感じのドラグに仕上がって一安心。
 次に、108ベイマスターでは、どうせ6500ssのドラグパッド使っても削らなきゃならんのなら、最初から作るか、という方針でまずいってみた。最初から作るといっても、以前大森「タックルオートNo.3」用に作った、カーボン繊維で編んだ布を耐熱性のあるエポキシ系接着剤で貼り合わせた板状のドラグパッド素材が残っていたので、それをチョキチョキ外周を金バサミで切ってヤスリで整え、内径はアートナイフでちょっとずつ切り込み入れて切り抜いてから微調整。赤ファイバーワッシャーは27同様に1mm厚ジュラコンの外径調整して使う。
 で、グリス塗り塗りしながら組みました。結果、ドラグパッド・ワッシャー全体の厚みが増えすぎて収まりきらず、スタードラグがいっぱいいっぱいになっててギリ填められん。
 どれか薄いモノに変えなきゃならん、ということでメインギア下の1mm厚のジュラコンを0.5mm厚のテフロンに変えたらなんとか収まって、ヤレヤレだぜってドラグテストとかして、低負荷では滑らかにラインが出て行くなと合格出していたんだけど、高負荷でキュッと止めるぐらいにしてライン引き出すと、引っかかってからズルッと出て行く感じであんばいが悪い。しばらくドラグ回して慣らせばどうにかならんか?といじってたら、今度は逆転防止が誤作動し始めて、最終的に1回転に1回ぐらいしか止まらなくなってしまった。何が起こってるのか分からんかったので分解してみると、薄いテフロンワッシャーがメインギアとラチェットの間で押しつぶされてはみ出していて、ラチェットの歯を覆ってしまっている。テフロンワッシャーを新しいモノに変えても結果は同じようなことになってしまう。
 メインギアの中に収まっていれば外周方向にずれることはないだろうけど、ギアの裏だと高負荷掛けると逃げて外周方向にずれてしまうようだ。仕方ないのでとりあえずギア裏には元の赤ファイバーワッシャーを入れて、ドラグパッドを一枚自作カーボンパッドから0.5mmの薄いテフロンに変えて何とか全体の厚みを許容範囲内に収めてみた。一応ドラグとして機能はするようになったけど、エラいしゃくるし回転が安定しない。ナニがダメなのかわからんけどこれではイカンということはわかる。
 タックルオートNo.3では安定した性能を見せてくれているけど、今回は合ってないのか自作カーボンパッドはいまいち。
 厚みがあるとダメなのでフェルトはダメっていうか高負荷掛けるつもりなので熱に強い素材じゃないとまずい。薄くてもテフロンは滑りが良すぎて高負荷掛けにくいだろうからこれもまずそう。なんかないかな?と悩んで、そういえばアンバサダーのドラグが三階建て方式の機種用のドラグパッドはカーボン系素材の薄いシート状だったよなと思い出して、在庫していたので試してみる。
 これは上手くいった。薄いので加工も楽で外周はハサミで切って、内径はアートナイフで調整。メインギア裏のワッシャーはジュラコン1mmにして組んでみたところ、ドラグの滑らかさ、調整幅とも文句なし。もう少しキュッと締まるとなお良しだけど、実際に使うドラグ値ぐらいまでは締められるし、いざとなったらサミングで止めれば良いので上出来というもの。さすがはABU、老舗だけあってドラグパッドも優秀だ。

 これで2台とも整備が済んで、ラインも巻いて実戦投入の準備が整い、27モノフィルの方が入手時期が早かったこともあり、そちらから近所の港に持ち込んで投げてみた。結果、そのままでは使いにくいということが判明。
 まず、平行巻機構が無いとライン巻くときどっかに偏るんじゃないかという心配はあんまり気にしなくて良かった。30~40m程度のラインの出入りだと多少偏っても気にするほどでもなく、実際には真ん中へん中心にちょっと盛り上がる感じに巻けるので問題なさげ。 クラッチも、つい癖で繋がずにハンドル回し始めたりしてもクランクの場合プカッと浮いて待機してくれているので問題にならない。
 じゃあナニがだめかというと、ブレーキがスプールの軸を両側から押さえるキャスコン(キャストコントロール摘まみ)締めて恒常的に回転押さえつけるのとサミングで調整するだけだと、遠投しようとするとすぐに回転数が上がりすぎてバックラッシュ多発。ならばとキャスコン締めると飛ばん。遠投競技の人とか特別なブレーキは無しのベイトリールでキャスコンもゆるゆるでサミングだけでぶん投げるらしいけど、試技の一発だけ飛んでくれれば良い遠投競技と違って、ルアーの釣りはトラブルなく投げ続けられないと、いちいちバックラッシュ直してたら時合いを逃してしまう。
 昔の石物師とかが使いこなしてたのを知ってると鼻で笑われるかもだけど、ぶっ込んでおく釣りとも投げる回数が違うので、トラブルが少ないことの重要性はまた違うと屁理屈こねておきたい。
 ルアー投げるならなんかキャスコン以外のブレーキは欲しい。って思った人は多いようで、後付けで自作のブレーキを工作する方法はいろんな人が紹介していて、百均で買えるネオジム磁石(なんならピップエレキバンも使えるとか)と金属のスプールでなければアルミ板か銅板で円盤作ってスプールに貼り付けて電磁ブレーキ(マグブレーキ)をこさえてしまうというのが簡単そうなのでやってみた。
 磁石とスプールの距離をダイヤルとかで変えてブレーキ力を調整可能とかいう一般的な”マグブレーキ”の仕様にするのは難しいけど、自分の良く使うルアーの重量にあわせてブレーキ力固定で良ければ、サクサクで簡単にできる。
 アルミ板から円盤切り出してスプールの側板側に貼り付ける。側板側にスプールに接触しないけど磁界にアルミの円盤が入るぐらい近づけてネオジム磁石を貼り付ける。磁石を多く、近くすればブレーキは強く効く。貼り付けるにはエポキシ接着剤は意外にポロッと剥がれやすいので、フロッグチューンでお馴染みのウレタン系接着剤(商品名「パンドー」)で貼り付けたら上手くいった。ウレタン系接着剤はつるっとした表面の樹脂にベチョッと粘っこく接着するけど引きはがすとビヨーンと粘りつつも最終的にベリベリッと綺麗に剥がれるので原状回復や磁石の変更も視野に入れると最適かなと。
 で実際に投げてみたら、「マグブレーキすげえ!」って感じで格段に投げやすくなっていて、もうチョイブレーキ効かせたい気もするので、様子見て磁石追加しても良いし、投げてて多少慣れてきたら逆にブレーキ弱めるために磁石1個外すとかの調整も可能。
 接触型の遠心ブレーキとかだと自作するには相当な精度の技術が要りそうだけど、非接触型の電磁誘導とか利用したマグブレーキって、接触してないがゆえに、工作の精度が雑でも充分成立するので自作するならマグブレーキ一択だなと思ったところ。
 あと、レベルワインダー(平行巻機構)が付いていないリールを使ってよく分かったのが、スプールと連動するタイプのレベルワインダーは結構ブレーキとして働いてるんだなということで、レベルワインダー無しの従来型PENN両軸機がボールベアリングも使ってないのに、指で弾いたスプールがいつまでもクルクル回り続けるのは、そういう理由でブレーキ力が細い軸の先のほうに掛かる摩擦ぐらいのショボいのしか生じてないからなのである。前回の答あわせだけど分かったかな?
 レベルワインダーそう考えると、そこそこのブレーキ力があってかつ、回転・接触型の摩擦力で効かせるブレーキ機構で、効き方としては遠心ブレーキと同様に低速で弱く、回転が速くなるにつれ速度の2乗に比例するかたちで強く効く。てことは、結局店頭性能的に回転が良いリールっていったってあんま意味ねぇじゃんって思う。なぜなら、回転が良すぎると今回キャスコン以外のブレーキ無しの素の27モノフィルで回りすぎて投げにくかったというのを実感してその思いを強めたけど、かねてからワシ、結局ベイトキャスティングリールってさっきも書いたように遠投競技でもなければ、ある程度トラブルが起きないことを重視してブレーキ強めに設定して使うのが通常で、レベルワインダー固定にした機種で店頭でクルックルに回ろうが、実際に釣り場で使うときにはレベルワインダーのブレーキ力も込みでブレーキ力設定してたのを、レベルワインダー抜きでやるとなったらその分遠心ブレーキなりを強く設定しないとならなくなるだけで、回転数が上がるとか、競技的に一発の遠投能力が高いリールに釣り場で何の意味があるのかって話だと思う。ってのに気がついてからTAKE先生の「2500C」読んだら、連動式のレベルワインダーは遠心ブレーキ的に効くって同じようなことを書いておられて、答合わせで”正解”って丸もらった気がしたと共に、ワシより先にネタにされてしまったので、ワシがパクったように見えるやんけ!と思ってしまいました。パクってないんです「真実は一つ」なので同じ所にたどり着いただけなんです。信じてプリーズ。

 で、準備は万端、あとは実戦投入でバンバン釣って、釣ったらまた課題が出てくるだろうから、いざ釣り場へ!ってならない問題が1つ残ってて、気にせず放置してもちょっとやりにくいだけでなんとかなるとは思うけど、できたら細かいところも詰めて、そういう細かい工夫の積み重ねが釣りの技術の向上そのものだと思うので、なんとかしてしまいたい。
 なにが問題かというと”グリップ”の問題で、重心高めの丸アブと比較しても、ごらんのように”腰高”になっている。スプールが大きいせいもあってサミングすべき位置が高くてやりにくいのもあるけど、手前側の横棒(ピラー)の位置が高いのも親指にアタって握りにくい。親指の付け根が浮いていてグリップを保持できていない。
 リールの親指乗せる側を向かい合わせで置いてみたのが下の写真だけど、横棒の位置の高さの違いが分かるだろう。
 上の写真はどちらも、竿は一緒で実際に27モノフィルを使ったときの竿で、フェンウィックの「FVR66CMH-2J」なんだけど、この竿で27モノフィル投げられるかと聞かれれば投げられるし、実際投げてたんだけど「どうにかできんかなぁ」と気になる程度には気になるので、どうにかしてしまいたい。
 なぜ、こういう投げにくいことになるかという原因の一つに、今時の竿はブランクススルーで竿のブランクスがバットエンドまで貫通しているのが流行で、そうなるとリールはロッドの中心より上に来るのがあたりまえ体操。
 一方で、昔の竿はブランクスとグリップが外せて、グリップはオフセットしてリールが沈んだ形になる”ガングリップ”が多かった。27モノフィルも古い時代の設計なのでその時代の竿のグリップに対応しているのだろうと思う。
 で、家にあるグリップ着脱式でオフセットのあるグリップに装着してみたら、案の定良い塩梅。左がダイコー「スピードスティック1#ー26HOBB」で、グリップがシングルのトップウォーター系の柔い竿なので今回の用途には合わん。右はヘドン「パル#5123」のスペックは剥げてて読めないけど、グラスソリッドの短めのマスキーロッドで、ツーテンの虎ファンさんが「ナマジこの手の竿好きやろ」とくれた竿で、もちろんお好みであり丈夫で良い感じでコレを使うのは一つ手としてある。グリップがやや短めだけどなんなら延長手術してもかまわない。
 ちなみに写真の背景に竿が何本も見切れているけど、オフセットしてないグリップの竿は、試すまでもないかもだったけどFVR同様にリールが腰高問題が生じて塩梅悪い。
 もいっちょ、手として考えたのはオフセットグリップ中古の安いのでも買って、ブランクスもグリップもお好きな感じのをあつらえてしまうというもので、オフセットグリップ一応入手した。しかし、高かった。こんなショボい先端の締める部分が欠品の品で落札額3500円で送料入れて4000円がとこかかってしまった。基本2ピースにするので先端無くても突っ込んで接着してしまえば良いんだけど、程度の良いオフセットグリップの相場は軽く万越えだったりする。スピードスティックのグリップもグリップだけで7千円から1万円近い相場になっててビビった。水面系のバスマン道具に金かけやがる。とりあえずブランクスの候補はいくつかあって、手元に既にあるものを利用するか、新たに中古で買うか、いずれにせよ時間の掛かる作業になるので気長に行こうという感じで後回し。
 で、当面ヘドン「パル」と並行して試す竿として、FVRのグリップ微調整したのを試してみたい。FVRはさすがフェンウィック”さすフェン”という感じで、今時の竿だけどちょっとずっしり重いぐらいの厚巻きで、ミディアムヘビーアクションのこの手の竿が簡単に折れたら、バス釣っててもフラットヘッドとかのデカナマズだのマスキーだのが食ってくるのが想定されるお国柄、クレームものであり怖くて華奢にしては売れんのだろう。魚掛けてないけどディープクランクとか引いててしっかりした感じがして頼もしいので結構気に入り始めている。フェンウィックの下級グレード竿は正義。
 で、調整としては親指の付け根が浮いてしまうのを、そこにお座布団敷いてあげて楽にしてやろうという感じ。
 マジックテープが効かなくなった余らしてるロッドベルトを畳んで芯にしてビニールテープでグリグリ巻いて固定。テニス用のグリップテープで滑らないように仕上げていっちょ上がり。という雑い仕事だけどそこそこ良い感じ。あとは釣り場で実際に投げて巻いて掛けて釣ってどうか、試してみたいと思っている。

 ということで、従来型PENN両軸機は、「180ベイマスター」主軸に「27モノフィル」を予備機で、主に根魚クランク用としてしばらく運用してみようとおもっちょりマス。
 とにかく魚が釣れないと、従来型PENN両軸機方面の症状は治まってくれそうにないので、とっととこいつらでオトトを仕留めて治療に励みたいところ。またこれが値段が安いのもあってマウスが思わず滑りやすい分野なのよね。
 さてどうなることやら。

2025年7月5日土曜日

SEAが好き!

77シーボーイ、78シースキャンプ、85シーボーイ
 「やっぱハンドルノブはベークライトが良いよ。丈夫だし経年とかで変形しないし。」   

 釣り宿ナマジに集う、違いの分かるフライマンどもがそんなことをのたまっちょりました。高級そうなウッドノブとか吸水で膨らんで回らんようになるとか、木材に樹脂浸透させたのもあるけど、そんなしち面倒くさいことするぐらいなら最初から樹脂にして、その分安くしろとのこと。ベーク最高、次点でエボナイトも悪くないそうな。フライリール自体シンプルで、ハンドルノブもライン引っかけないようにってのもあって極力単純で必要最小限の小さいのがついている。小さいけどフライリールは増速してなくてギア比1:1なので、その小さなハンドルノブで意外と力強く巻けたりする。その分巻きが遅いので、たとえスプールの芯の部分の直径を大きくしてあるラージアーバータイプでも、200m下巻きしなきゃならんとかになると、結構うんざりしたりする。

 そんな釣り具オタどものベークライト談義を受けて、まあアニオタのワシとしては「ベークライトって言ったら、起動実験で暴走した零号機を拘束するのにラボ全体に特殊ベークライト注入して固めたぐらいだからな」などとワケの分からないことを口走っており、ってなもんだったけどベークライトって検索して調べてみると、最も早く実用化された人工合成樹脂で、フェノール樹脂というものらしいけど、商品化したベークライト社の命名に由来してベークライトの呼称が一般的に使われているらしい。電気的、機械的特性が良好で、合成樹脂の中でも特に耐熱性、難燃性に優れるという特徴を持つそうな。価格が比較的安価なのもポイント高いか。丈夫で安価で成形も容易な合成樹脂となれば、使い勝手は良かっただろうし、ハンドルノブのような常に摩擦熱がついてまわる部分には耐熱性に優れている点が向いているのだろう。熱で溶かして成形する樹脂じゃないので固化させてしまえば熱では溶けないってことか。ついでにエボナイトも調べて、あれって人工合成樹脂じゃなくて天然ゴム由来の樹脂だと初めて知って驚いた。

 当然、リールに使うとそれまでの金属素材に比べて、軽く、耐腐食性に優れ安価な製品を作ることができただろう。現在リールに使われる樹脂系の素材としては、やっすいナイロン系(ガラス繊維強化)の樹脂やらルアーでも使われるABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン共重合合成樹脂)、ブッシュとかに使われるジュラコンとかのポリアセタール樹脂なんかもあるけど、一般的には炭素繊維強化プラスチック(FRTP)のいわゆるグラファイトボディーとか呼ばれる樹脂系素材が一般的で、PENNでも4桁スピンフィッシャーの5500ss以下が”グラファイトボディー”になってるし、新しいセネターとかフレームがグラファイト素材のものもある。でもPENN社の黎明期の1930年代はじめとかには、まだそういう樹脂はなかったので、ベークライトが選択されていた。そういう合成樹脂のいち早い取り込み方、使い方の上手さがPENNの両軸の躍進を産んだ一因だろう。

 ちょっと脱線して、炭素繊維強化プラスチックについて、なんかイマイチどんなものなのかよく分かってなかったけど、今回ちょっと調べて、竿のブランクスが典型だけど、樹脂を含ませたシートを成形しつつ高圧下で”焼いて”樹脂部分少なく炭素繊維主体に圧着した仕上がりにした”ドライカーボン”と普通のFRP(ガラス繊維強化樹脂)のようにカーボンの繊維を樹脂で固めた”ウェットカーボン”があるということで、リールとかのカーボンボディーはウエットのほうなんだなと理解した。

 で話戻して、強度的にはさすがに金属には劣るベークライトを、PENNでは金属の輪っかで補強して丈夫なリールに仕上げたりもしているんだけど、今回紹介する、「77シーホーク」、「78シースキャンプ」、「85シーボーイ」達Sea軍団(冒頭写真の3台)は、金属の輪っかの補強無し、ベークライト直留め方式で実用的な強度のあるリールに仕上げてある。補強の入ってない単純な分、お値段控えめに設定できただろうし、整備性も悪くない。ぶっちゃけ小型機に求められる強度ってそこまでじゃないし、両軸受けリールはそもそも90度回転方向を変換するスピニングと違って、構造上丈夫に仕上がるのがあたりまえなので、コレで十分と言えば十分で、だからこそ使い込まれた固体を中古で買っても、整備してやれば問題なく復活するのだろう。 

 で、トップバッターの「77シーホーク」、バラして部品数たったこれだけ。どれだけ単純な設計かおわかりいただけるだろうか?ちなみに革製のサミング用パッドは自作で追加したもので、純正状態ではブレーキといってもバックラッシュしなければ良い程度のクリックブレーキしかついていない。ボールベアリング?アホかそんなもん熱に強いベークを使ってるんだから、ベークに穴開けときゃ充分(なのか?)。唯一贅沢しているのが3倍ぐらいに増速しているギアで、それでも歯が斜めじゃないストレートなギア。

左:フライリール、右:台湾リール
 もちろんもっと単純なリールがあることも知っている。例えばフライリールやムーチングリール、落とし込みリールのような”センターピン”型のリールは増速さえしていないギア無し1:1の単純さを持っている。ただそうすると巻き上げ速度が遅くて、さっきフライリールのところで書いたけど長尺のバッキング巻くのがしんどくなるぐらいトロ臭いリールになる。コレを回避するためにフライリールで言うところのラージアーバー化を押し進めてスプール直径を上げまくって巻きの遅さを改善しているリールもある。”台湾リール”とか”風車リール”とか呼ばれるもので、沖縄のオジイが昔艪を練りながら、あるいは船外機のスロットルを開け閉めしながら片手でスプールの根元を弾いて道糸の出し入れをしつつアオリイカとか釣ってた代物で、なぜか我が家にも1台ある。ただコイツはデカくて持ち運びが不便。その点、77シーホークは実に良い塩梅になっていて、3倍の増速はイライラせずに済む程度には素早く道糸回収できるし、3倍程度のギア比だとデカい魚が掛かったときには力強く巻ける。どれだけベアリングをぶち込んだり、工作精度をあげたりしたところで、巻き取りに掛かる力を決めるのは結局ギア比とスプール径、ハンドル長なので、ハイギアの最新の高級ベイトリール様とワシのシーホークで綱引きしたら、なんの問題も無くシーホークで勝てる。あたりまえの話だけど分からん釣り人多いのではないだろうか?分からんかったら”テコの原理”とかから勉強し直すように。スピニングならまだ本体の剛性の差で単純なゴリ巻き勝負だと、ゆがみが生じない高級リール様が低ギア比のリールに勝つなんてことがあり得るかもだけど(ポンピングありなら安物低速機で勝てる)、両軸受けは樹脂製の本体でも軸がたわむような素材でできてるワケじゃなし、ギア比以外に勝負を決める要素がないはずである。なぜ自分が護岸の足下を狙う”岸壁泳がせ釣り”でシーホークを使うのかといえば、ギア比が低くて力勝負で巻き上げるのが楽だからというのも要因の一つである。

 もう一つこのリールを使う理由には、繰り返しになるけど、このリールの単純さがある。心情的にも好ましく思い、整備性の良さや故障する箇所の少なさも利点と考えている。その単純さは両軸受けリールが生み出されてまもなく、まだ技術がなかったので単純な設計しかできなかったという理由でそうなっているのではない。1933年の発売時に既にPENN社自体が、クラッチも逆転防止もドラグも、樹脂を補強する金属の枠も備えた、後の標準的な設計になる「ロングビーチ」も同時に発売していることからもそれは明らかで、にもかかわらずPENN社としては、この単純なリールをなるべく安価で、でも実用性を十分確保して釣り人に提供しようと、削れるところをとことんまで削った結果の単純さなのだと理解している。増速するギアがなければ巻きがトロくて使いにくい、いっそクリックブレーキは無しでもいけるか?と思うけど実際に使ってみると、素早く仕掛けを落とすときにはクリックブレーキは邪魔になるけど、アタリを待つときや魚とのやりとりの時にクリックブレーキがないとスプールが回転しすぎてバックラッシュする恐れがあり、これは省略できない。逆転防止機構が無いのは根性でハンドルで止めるかスプール親指で押さえろって設計だけど、普通の釣り人が桟橋でオカズ釣るとかぐらいならそれで充分なのだろう。ワシャ親指火傷したくないので革パッド追加してるけどな。っていう、実に攻めた結果の単純化であり、実釣能力は低くないのである。それは販売年が1953年から1980年代後半にまでわたるロングセラーだったことからも裏付けられる。その研ぎ澄まされ無駄を省いた攻めた設計思想が分かれば、コイツでちょっと良い魚を釣って、魚釣るのにそんなご大層な道具なぞいらんのやぞってことは示してみたいと思うのである。なかなか難しいけどな。同じような性能のダイレクトリールには洋銀に彫金仕上げの豪華な逸品から素朴な真鍮製からけったいな迷品から”ケンタッキーリール”と呼ばれて多種多様に存在するけど、それらとはちょっと出自が違う77シーホークをワシの最初で最後のダイレクトリールと心に決めて、いつの日か岸壁でデカい根魚でも釣ってみたいと思っているのである。
 あとダイワにシーホークって名前のベイトキャスティングリールがあるみたいだけど、てめぇんとこ知財関係小うるせぇくせにそれはどうなのよ?と思うぞ、昔PENNの下請け兼代理店だったから了解取ってるのか?

 で、お次が「78シースキャンプ」。そもそもスキャンプ(Scamp)ってなんぞ?って調べてみると、「ならず者、腕白、お転婆」等の意味らしい。確かに、クラッチがあってフリースプールにはできるけど、クラッチ繋ぐとダイレクトにスプールとハンドルが繋がって、デカい魚の急激な引きに高速回転するハンドルに指打ちつけたりして、”ナックルバスター”とかこの手のドラグのないリールは呼ばれてるので、腕白っぽいと言えばそうかもしれない。そもそも既にスタードラグが付いて逆転防止機構の搭載された両軸受けリールを製造していたPENN社がなぜ、後からナックルバスターな機種を追加する必要があったのか?ワシにはいまいちピンとこんのじゃ。あっちの海系の釣り人には頑固なのが多い印象だから、使い慣れたナックルバスターなリールを求める声が多かったとかだろうかとは想像しているけど、両軸機種は最初からスタードラグがついているベイトリールとか使ってたワシとしては、ハンドル逆転する機能っていらんよね?と思ってしまう。スピニングでもまともなドラグがついてるリールならハンドル逆転はしなくて良いと思ってるぐらいで、ベイトでハンドル逆転があれば便利というか使い道があるのは、船釣りで底をとり続けるのに波で上下する船の動きに合わせてラインの出し入れをするような場合に、ハンドル逆転ができたら使うかな?ぐらいしか思いつかん。一回使ってみれば良さが分かるとかだろうか?あんまり優先度が高くないので出番はあんまりつくれない気がする。

 まあ、パカッと開けて中身を見るために入手したというのが実情なので分解整備してみる。
 パカッと開ける前に、フリースプールになって投げることも想定しているリールなので、スプールの軸の両端はベークライトで直受けではなく、キャップと一体化した金属スリーブで受けている。ハンドル側が6角ナット型で締めっぱなし、蓋側がキャスコン(メカニカルブレーキ)摘まみとして調整できるようにバネが入っている仕様。ちなみに工具無しで外せない締めッパ前提のハンドル側にはれいの小っちゃい玉の油差し口が設けられていて”さすぺン”なのである。
 でもってパカッとご開帳すると、そこはやっぱりPENNでオリハルコンな感じの金色に部品が輝いている。アンバサダーだとステンやアルミ、クロームメッキで銀色なのと好対照。やっぱり海で闘う”武器”はオリハルコン製じゃなきゃだぜ。
 クラッチの2本のバネを使っててクラッチ板の出っ張りがピニオンギアが填めてる部品を押し込むと、スプールがピニオンギアからハズレる方式は「レベルマチック920」にも「インターナショナル975」にも引き継がれていて、マイナーチェンジで改善は続けても、問題を生じず信頼できる方式はテコでも変えないのはこれまたさすぺン。
 ギアはピニオンが真鍮でメインが真鍮軸の亜鉛っぽい素材のもので斜めに歯車が切ってある。
 ベークライトは金属よりは脆いだろうけど、これだけ肉厚で仕上げていれば強度的な不足はないだろうというもの。
 逆転防止もないような単純設計なので、77シーホークほどではないにせよ全バラしても部品数もたいしたことはない
 で、PENN純正グリスでグリスアップしてダイワリールオイルⅡで注油してって、組み上げていくんだけど、今回メチャクチャ参考になる動画チャンネルを見つけたのでついでに紹介しておく。ユーチューブの「支度部屋」ってチャンネルなんだけど、従来型PENN両軸機のメンテナンス動画がいっぱい上がっていて、特に役に立ったのがクラッチレバーの取り付け方で、バネの力でクラッチレバーの先の凸部分が蓋の側面で止まるつくりなので、当然ながらレバーがついていない状態では止まらずもっと回ってしまっている。これにレバーを取り付けるためにワシこれまで指の皮剥けそうになりながら裏側からグリッと回してなんとか取り付けてたんだけど、目から鱗、レバーの凸部を表側にしておいてバネの力が行きつ戻りつで拮抗する所まで持ってきておいて、ササッとひっくり返してネジで留めてしまうという知ってれば簡単至極な方法を学んだ。あと、グリス塗るのにワシこれまで綿棒とか使ってたけど筆を使われていて、早速真似してみたら薄く広くまんべんなく塗れてグリスアップがはかどりまくり。ユーチューブっていつ頃からか広告が増えまくって見る気が失せて、チャンネル登録なんてnorishioさんのところぐらいしかしてなかったけど、これは登録した。お薦め。
 てな感じで、バッチリ整備できたんだけど、クラッチ切ってスプール指で回してエラい回転し続けるので感心する。まあお作法どおりフレーム組むときにゆるく締めてからハンドルグリグリ巻いて良い感じにしてから締めて組み上げているので歪んだりしてないにしても、ボールベアリングなんてなくてもスプール弾いて回すだけならなんの問題もない。軽いルアーの初速でスプール回さなければならないとなると、回り出しの慣性力突破とかにスプールの軽量化やボールベアリングは効いてくるんだろうけど、重めのルアーやらオモリやら投げるのなら気にしなくても良い要素であり、いわゆる”店頭性能”のこけおどしでしかないんだろうなと改めて思う。バカには分からん話だと思うけど、現物いじくって自分で考えてしてるとそのあたりがよく分かってくるので何事も経験だなと思う。最新鋭の旗艦機種買っておけばそれで安心できるバカはリールの歴史を紐解いてお勉強などしなくて済むので楽でいいやね。釣具屋も儲かるしダレも困らんけど、ワシャ基本的にモノ売ろうとしてるやつの言ってることが、洗剤の「驚きの白さに」とかなんも変わってないのに永遠に言ってるのと同じことで、どの方面でも嘘や大げさ紛らわしいのがあってあたりまえだと思ってるので、まずは信用せずに自分で基礎から調べる面倒くさい作業を楽しむことにしている。なぜボールベアリングさえ入ってない78シースキャンプのスプールが指で弾くと回り続けるのか、簡単に説明できる理由があるんだけど、種明かしはそのうちするのでまずは自分で考えてみましょう。

 で最後に「85シーボーイ」なんだけど、ベークライトの本体と蓋に金属枠の補強こそ入ってないけど、クラッチ切ってスプールフリーにはできるし、スタードラグ付きで逆転防止機構もついているという、従来型PENN両軸機同等というか、普通に船釣りにつかう両軸機に必要な機能は持っていて、正直「これれいいやんけ」っていう仕様のリールだと感じる。この感覚はあながち間違ってないようで「85シーボーイ」自体は1941年以降、1980年代後半までの発売となっているんだけど、同じような仕様で本体と蓋の樹脂がベークライト樹脂からグラファイト樹脂になった後継機「190シーボーイ」は1998年から現役のモデルということにミスティックさんところの整理ではなっていて、しぶとく支持されて生き残ってるようだ。190はギア比が初期3.5:1だったのが後期85と同じ3.1:1になったりとワケの分からん動きをしていて、どうもクソマイナーなリールのようで本場米国のマニア氏達も情報混乱しているようだ。ミスティックさんところの整理表の下の方にその混乱した様子が分かるタニさんところの関連スレッドにリンクが貼ってあって、「実際に数えたけど3.1:1だった」「PENNにはありがちな許容誤差」とか色々言ってるけど結論はでていない。でも「金属の輪っかもない飾り気のないリールだけど使える」「高すぎないギア比は良い、4:1を越えると問題が生じがち」とか評価している人はいて、ハタやら根からゴリゴリ引きはがしたり、淡水で大型ナマズをえっちらおっちら寄せきたりとかには低ギア比のパワーのあるリールには使い道があるようだ。3.1:1の低速ハイパワーを活かせば、太めのライン巻いて85シーボーイにも出番はつくれるかも。
 以前の持ち主の方は普通に船釣りで使ってたようで、今ではあまり見ることがないテトロン系(ポリエステル主原料)の編み糸を巻いて愛用していたようだ。今時なら伸びの少ない編み糸といえばPE(ポリエチレン)ラインが幅をきかせているけど、昔はテトロンもあればナイロンの編み糸であるダクロンなんてのも使われていた。そういう古い時代のリールだけど、なかなかにベークライトの優しい色合い風合いも伴って、良い味が出てきている気がする。
 ワシとしては雰囲気だけ楽しんでる場合じゃないので、使えるように分解整備していく。
 パコッと蓋を外すとスプールが真鍮にクロームメッキで、樹脂製に比べて重めだけど丈夫なのは間違いなさげ、箱の「85M」のMはメタルのMで金属スプールモデルにはMがついたんだと思う。
 で、この「85シーボーイ」はスタードラグ付き、逆転防止付きなのでハンドル回りを外していくと、スタードラグの下に、なんか既視感のあるぶっとい軸を中に通すかたちでドラグディスク達を押さえる筒状の金属スリーブが入ってるのはレベルマチック920と同様。
 そして本体ご開帳といくと、真鍮製半月板からクラッチ関係の部品が覗いているので1つ前の78シースキャンプと似てるんだけど、半月板を外すと、逆転防止機構があるのとメインギアにドラグが入ってるのが当然違う。ギアの直下に逆転防止のラチェットが挟まってて、そこに掛ける爪はギア刺さってる芯が生えている半月板を固定するネジを軸に使ってて、跳んでどっか行きそうな小っちゃいバネでラチェットに爪を押しつけている。基本的に半月板と本体を固定する4本のネジはなんかの軸にも使うという方針のようで、ピニオンギアに填まってる部品もそれを持ち上げるバネも、ネジが心棒として使われている。ちなみにギアはピニオンが真鍮、メインギアは亜鉛っぽい。
 ドラグは普通の顔して3階建て方式で、これがまたパッドは革素材。腐ってない革パッドが優秀なのはレベルマチック920で実感できたので、脱脂ののちPENN純正グリス盛って引き続き使用。ギア裏の赤ファイバーワッシャーは経年で腐りかかってたので、内径の合うポリアセタールのワッシャーの外径を削って換装しておいた。革パットはそのうちダメになるだろうけど、ABU純正のカーボンドラグパッドが外径一緒で内径ちょっと削ればいけそうなのでそっちに換装するか、自前でカーボンドラグパッドでっち上げるか、いずれにせよまたその時が来たら考えよう。
 ドラグと逆転防止関連で多少部品数は増えたけど、両軸受けリールってそんなに複雑化しないはずで、充分単純で整備性も良いと思う。填めるのちょっと苦労したのが、逆転防止の爪で、半月板を向こうに回しておきつつドラグの入ったメインギアを所定の位置に収めつつ、最後の方で隙間を使ってギア下ラチェットに心棒になるネジを刺した状態で爪を掛けて、半月板を回して蓋しつつ、隙間から小っちゃいバネを所定の位置に小さめマイナスドライバーで押し込むというパズルをクリアして、グリス塗ってオイル注して組み上げて無事整備終了。

 85シーボーイは、フリープール機能ありでドラグもついてるっていう普通に使えそうな機種なので、ちょい大きめなのをなんとかするか、それに似合う仕事を割り振れば出番はつくれそうに思う。見た目、蓋側のベークに「PENN」って文字浮かせているのとか、白いシングルハンドルノブとか昭和骨董な感じの良さがどうにもしびれるので、使って魚釣ってみたいモノである。低ギア比なので青物にはむかんきがするけど、根魚狙って根から引っぺがすにはワシも向いている機種ではないかと思ったりしている。ブレーキがスプールの軸を押さえるメカニカルブレーキだけだと、そのままではワシの腕では投げにくいので実戦投入するときにはそのへんもいじるんだろうな。まあなんにせよ現代でも使えそうな機種ではあります。

 100年近い昔の設計のリールだけど、ナックルバスターな78シースキャンプはともかく、77シーホークも85シーボーイも現代でもその単純、低速ゆえの力持ちな特性を活かした釣りはできそうで、なかなかに楽しくなってきたんだけど、他にも買っちまってる従来型PENN両軸機はあるので、そいつらも使ってみたいし、体は一つで寿命は限られていて、残された釣りの時間もおのずと限られているしで、どれから使おうかアタイ迷っちゃうの、な日々なのであった。

2025年6月28日土曜日

伝統的なPENN

 釣れない釣りが続くと道具をいじりたくなる。 とはいえこの春の”釣れない釣り”のうちシーバスに関しては、もうさんざんいじり倒した分野で、ルアーもリールも新たに興味を引くモノなどいまさらあまり残っていない(よね?)。その点、根魚クランクに関しては竿は限界近くブチ曲げて使うので余裕などなく、ルアーは性能的な条件が潜行深度などで枠が厳しめにハマっててあまり遊べないけれど、リールはそもそもベイトキャスティングリールをバス釣りライギョ釣り以外であまり使ったことがなかったこともあって知識も経験も浅いので、いくらでも遊べて勉強しがいのある方面である。

 とはいえ、海でかつ雨の中で使うような使用条件なので、耐腐食性に優れて、手入れしやすく、かつデカいのがいつ来るか分からない海の釣りで安心して使える丈夫で信頼性がある機種が望ましい。ってなってくると今使ってて気に入ってるABU「ブラックマックス」を初めとしたABUアンバサダー勢はまず堅い安パイでぶっちゃけアンバサダー使ってればベイトキャスティングリールはまず間違いないってのは歴史が証明するところだとは思う。

左レベルマチック、右クァンタム
 そう思ってて、ベイトリールは今のアンバサダー勢にゼブコ1台の体制で満足してはいたんだけど、前回紹介したPENN「レベルマチック920」を実際に使ってみて、そして分解整備していじってみて、ベイトキャスティングリールというよりは”両軸受けリール”って感じのPENNの古くからある、両サイドがベークライト樹脂とかで、機種によってはそれを金属の輪っかで補強しつつ、リムやフットを両サイドにネジ止めしたPENNの歴史の最初の頃から製造されていたような伝統的というか従来型(コンベンショナル)な機種に俄然興味が湧いてきてしまったのである。PENN両軸機は日本では石鯛釣り師とかが愛用していた印象が強く、ルアーキャスティングに向いているような小型のモノは馴染みがないけど、当然ながらPENNのことなので各種機能や大きさの違う機種などいくらでも選べるだろう。キャスティングにどれだけ対応するか未知数だけど、PENNなので丈夫なのと、側板が樹脂製なのもあり耐腐食性に優れ、かつ整備性が良いのは折り紙付きであり、レベルワインダー(平行巻機構)が無い機種が多いのも、いつか対峙することになると嬉しい、”超弩級の獲物”との力勝負とかになったときに、レベルワインダーがクニャッと曲がるとかを心配しなくて良いとか妄想がはかどって悪くない。磯の底物狙いとかでアンバサダーとかでもレベルワインダーを取っ払う改造がされたりするけど、ドラグが出てラインの巻かれている位置とレベルワインダーの位置がズレたりして、ラインがレベルワインダーに横方向の負荷を掛けると、引きが強い海の大型魚の場合あっさりぶっ壊されると聞いたことがある。まあ細い針金みたいな金属棒だからそんなに丈夫じゃない(ゼブコ「クァンタム1430MG」では針金状ではなく板状で分かってる感じがする)。

 ということで、おもいっきり伝統的な”従来型PENN”方面に症状が出て悪化。とにかく片っ端から小型機中心に買ってみた成果が、一部蔵にあった大型機とかもあるけど冒頭写真のありさまである。アタイ病気がにくいっ!とはいえ、今の日本の中古釣り具市場では弾数は多いのに人気が無いようで、だいたい3千円も出しときゃ買えるので大いにお買い物を楽しめて気持ちよかったのも偽らざる事実。

 とりあえず、レベルマチックで火がついて、従来型PENN両軸機の小型機にはどんな機種があるのか?ミスティックリールパーツさんところのサイトで調べつつ購入を進めていった。


 まずは、買う前から我が家の蔵にも1台転がっててというか、実釣に導入していて「77シーホーク」は両サイドが最も初期に利用が始まった人工の合成樹脂素材であるベークライト樹脂でできていて、これでもかっていうぐらい単純なダイレクトリールで、キャスティングにはおよそ向いていないけど、1:3という低ギア比で巻き揚げ力があるので、岸壁泳がせ釣りに使っている。大きさは深溝スプールなのでラインキャパは大きいけど本体は小さめで、ABUだと5000番クラスかな。糸巻き量のカタログ数値が「125/36 (Linen)」となっていて、リネンって夏に着る麻のシャツとかのリネンか?とちょっと調べたら、やっぱり麻主体のブレイデットラインが当時使われていたようで、それもそのはずこのリール、PENN社がリール売り始めた最初のころの機種の一つで、1933年から1980年代後半ぐらいまでおよそ半世紀にわたって売られていたロングセラー機。ナイロン6,6がデュポンのカローザス博士によって発明されたのが1935年なのでナイロンライン以前から活躍していた機種、ってすごい歴史を感じるところ。PENN社の創業あたりの経緯をPENNブランドを傘下に収めたピュアフィッシング社サイトから拾ってみると、「ドイツ系移民のオットー・ヘンツェ氏がオーシャンシティー社で働いた後、1932年にPENNフィッシングタックル製造会社を設立、翌年シーホークとベイサイド、ロングビーチの3機種で一般販売を開始。1936年に同社を代表する名機「セネター」を発表、以下現在に至るまで途中でピュアフィッシング傘下になったけど堅牢なリールを作り続けております。」って感じで、TAKE先生のミッチェル本とか読むと、スピニングリールを”ミッチェル”と呼ぶ地域があったと紹介されていて、同じように従来型PENN両軸機のような両軸受けリールを”PENNリール”って呼ぶ地域があったそうで、従来型PENNはPENNが独自の機構を開発してって部分は少ないにしても、PENNならではの堅実、実用機路線で庶民にも手の届く価格で両軸受けリールを釣り人に提供したというのは素晴らしい功績だろうと思う。最初にスタードラグ付きのロングビーチとともに、とことん単純化して低価格にしたシーホーク77も売り出しているところに、PENN社、PENNブランドの良心が垣間見える気がする。シーホークには軸受けにボールベアリングどころかブッシュさえ入ってなくて、サイドプレートのベークライトの穴で直受けしている。数あるダイレクトリールのなかでも屈指の単純設計だと思う。でも、ちゃんとラインを繰り出してラインを巻き取る機能は問題なく、耐久性も堅牢性も充分確保されていて実用性は今現在でもある。まあまだカサゴぐらいしか実績上げてないけど、10キロの根魚が来てもオレのシーホークはやってくれるはずだぜ。ちなみにシーホークにはさらに小さい「42シーホーク」もあったようだけど、製造時期が短くかなりのレア機なので入手を断念。糸巻き量は「150/9 (Linen)」とかなり可愛い大きさだったようだ。機構はフリースプールになるクラッチ有りでむしろ次の「78シーズキャンプ」の小型版だったのだと思う。

 その「78シ-スキャンプ」だけど、こいつはダイレクトリールではなく、クラッチを切ると、ハンドルとスプールの連結は切れてフリースプールになる。投げやすさではかなり改善されただろうと思う。ただ、このリールにはドラグがなく、じゃあどうするかと言えば、クラッチを繋ぐとハンドルとスプールが”直結”してダイレクトリールト同様に、ハンドル握って根性で止めるか、親指でスプールを押さえるか、それだと火傷するので革パッドでスプールなりスプールエッジを押さえる工夫を追加するかという感じになるようだ。当然デカい魚が掛かって高速で逆転し始めたハンドルを止めようとすると指脱臼とか酷い目に遭いがちだったようで、この手の投げるときだけフリースプールになるリールの形式をして”ナックルバスター”リールとか呼んでいたようだ。この辺の両軸受けリールの歴史について、国内のネット界隈だと「Angler's Life ~浮かべ釣り道~」が圧倒的情報量で非常に勉強になる。ワシみたいな沼の浅場でピチャピチャ泥遊び程度とは潜ってる深さが違う。で、拳壊されてもかなわんなと思いつつも、サイズ的に「200/36 (Linen)」は手頃な大きさなので1台確保、PENNのナックルバスターはどんなもんかなといっちょ拝ませてもらうことにしている。 

写真下、上段78、下段左77、右85
 もいっちょ、シーが名前につくシリーズで小さめ機種に「85シーボーイ」があって、糸巻き量的には「400/20」とちょいお兄さんサイズだけど、シーボーイになると、クラッチ切るとスプールがフリーになるだけでなく、ドラグ機構がついてクラッチ繋ぐと逆転防止が働いて、ハンドルが魚に引っ張られて高速回転し始めて拳を壊すようなことがない設計になっている。写真上が85なんだけどパッと見ハンドルノブも白で似てるけど78と違うのはスタードラグがついている点で、今でも標準的と言える普通の両軸受けリールの機能がきっちり搭載されているシー軍団の出世頭機種という感じだろうか。ここで「勘違いしないでよね!」という大事な部分は、ドラグ機構とかをPENNが開発したわけではなく、PENNが創業する当時には既にそれらの機構は存在していたけれど、古いナックルバスターの使い心地に慣れている釣り人のために、ナックルバスターも作るし、より単純化して安価に提供するために究極の単純設計ダイレクトリールである「77シーホーク」もラインナップに加えて、シーボーイや、もっと主流になっていく「ロングビーチ」など金属で補強された樹脂プレートを持った両軸受けリールを設立後早い段階からラインナップに揃えていたということである。PENNはオリジナリティーも発揮するけど、繰り返しになるが、どちらかというと後発の利を活かして堅実に丈夫な設計に仕上げて、職人の手作りではなく工場で沢山生産して比較的手の届きやすい品として普及させたことが”さすぺン”だなと思う。では、その基礎を作った先発メーカーはどこか?というとドラグの開発が大きな技術的転換点になったと思うところだけど、そのメーカーは海外サイトの「ANTIQUE FISHING REELS」で調べると、フライリールでも有名な「ボン・ホフ(JULIUS VOM HOFE)」社で、要約して引用すると「1913年、ツナクラブ会員のウィリアム・C・ボッシェンは、リール設計史上最も重要な革新、スタードラグを発表。ボッシェンはこのプロジェクトをボン・ホフ社に持ち込み、実用的なプロトタイプが開発された。ボン・ホフ社はこのリールの市販版を「B-Ocean」リールと名付た。」とのこと。ボン・ホフなんざ小金持ちにしか縁のないアンティークフライリールメーカーの印象だったけど、スタードラグのついた、今時のすべての両軸受けリール(ベイトキャスティングリールを含む)を使う釣り人に多大な影響を与えているメーカーだったんだなと認識を新たにし、不明をわびるしだいであります。ナマジ反省。

 でもって、そんな側板が樹脂製の比較的安価なシリーズであるシー軍団以外の、樹脂製側板を金属枠で強化した機種が、コンベンショナルなPENN両軸機の本命だろうって話で、そのあたりも糸巻き量少なめの小型機をチェックしていきながらいくつか確保していった。

 それらの代表機種といえば、自分の中ではなんと言っても樹脂側板を金属枠でサンドイッチした構造の頑丈なセネターシリーズで、他にはPENN最初期からの機種であるロングビーチシリーズあたりなんだろうけど、「110セネター」は糸巻き量「225/20」となかなかの小型機で魅力的だけど、弾数少なく出てきてもお高めでちょっと手が出なかった。「ロングビーチ60」は昔の石モノ釣り師の標準機だったようで、弾数豊富で値段もお安いんだけど「275/30」とやや大きすぎる。 

左27、右180
 樹脂製側板を金属の輪っか1枚ずつで補強、クラッチ切るとフリースプール、クラッチ繋ぐと逆転防止が働きつつドラグも機能する、っていう”ロングビーチ型(仮称)”が従来型PENN両軸機の標準的な設計であると考えると、その設計で小型の機種をと探すと「27モノフィル」が糸巻き量「200/15」で多分最小クラス、「180ベイマスター」も「250/20」でかなり小さめでこの2機種は安く出物があったのでサクッポチッと確保。カタログ数値で見るほど手にした大きさには違いが無くいずれもABUなら5000番級ぐらいの大きさ。

左から140M、140、145
 ちょっと変わり種にも手を出すかと、投げるためのブレーキ機構が独特な「146スクイダー」「220/20」を探すも国内じゃあまり出回ってないようで見あたらず、「140スクイダー」「350/20」は石もの釣り師御用達だったようなので弾数多く確保したら、なんだかんだで「145スクイダー」「275/20」もにも手を出し、お土産で140スクイダーはもういっちょいただいてしまい。我が家のスクイダーシリーズは充実している。使うアテはあるのか?とりあえずその辺はまた考えれば良いだろう。まずは手に入れたい、中を見てみたい、投げて巻いてみたいってのが先。

 あと、レベルワインド(平行巻機構)がついた「9ピアレス」「275/15」も欲しかったけど、なんか値段が安くなくて、手を出さずに保留中。安い出物があったら追加しても良いかも。似たような見た目のレベルワインド付きの機種で「109ピアレス」「275/15」ッテのがあるんだけど、これが謎設計で、フリースプールにはならないダイレクトリールみたいな機構なれど、逆転防止はついていてドラグが装備されている。投げないけど、ドラグを使ったやりとりはするという使い方か?よく分からんがとりあえず不要だな。

 ということで、ダイレクトとナックルバスターとスタードラグ搭載のシー軍団のそれぞれの機種の中身の比較をして楽しんで、27モノフィルか180ベイマスターあたりで、従来のPENN両軸機の基本を学び、実釣導入を画策し、スクイダーの謎のブレーキの秘密に迫ろうかななどと考えておりますので、しばらく”従来のPENN”ネタはボチボチと続ける予定。

 なんにしても、”従来の”PENN両軸リールが、PENNそのものが世界の釣り人に受け入れられたと共に、その形式のリールがれいによってパクられまくって普及しまくったことにより、職人さんの手仕事の高級品だったであろう両軸受けリールを大いに大衆化したんだろうというのは想像に難くない。なにせ日本においても従来型PENN両軸機をパクっただろう機種は、昔の四天王を見ただけでも、ダイワ「シーライン」「ダイナミック」、リョービ「アドベンチャー」、オリムピック「DOUZUKI」 「ストロング」「ファイター」「ドルフィン」、シマノ「トライトン」とキッチリ揃ってしまう。他の小規模メーカーやら海外勢も見ていくと収拾がつかなくなるだろうってぐらいにジャンルとして成立してしまっている。

 そこまで影響を与えることができたのはなぜか?ひとえに手に入れやすい妥当な価格と、堅牢で確実な仕事をする機械的な部分と、釣り場で使う糸巻きとしての使いやすさとが、良い塩梅だったからじゃないかと思っている。

 ワシ、今更けったいな新型リール買う気はないけど、釣り具の歴史に大きな足跡を残した従来のPENN両軸機達の、その実力を楽しんでみたいと思うところだし、その潜在能力を発揮させることができたなら、100年近い昔から洋の東西を問わずPENN両軸機種で釣り人がなしえてきた素晴らしい釣りに、なんぼか近づくことができるのではないかと思っている。両軸受けリールはスピニングと比較して単純な機械であると思う。その単純さの中で、自分が必要とする機能はなんなのか、いらないのはなにか?おのずと見えてくるものがあるだろうし、この沼に潜っていけばそれ以上のナニカを見つけることさえできるのではないかと胸を踊らせているところである。

2025年6月21日土曜日

PENN「レベルマチック920」はPENNが作ったアンバサダーじゃない!

 ワシ最近大森スピニング率が高くなってるけど、本来自他共に認める”PENN使い”である。 とはいえ、スピンフィッシャーこそ使い込んできたけれど両軸はみんな大好きアンバサダーを長く使ってきたから、PENN両軸はアメナマ釣りとかに使ってた「インターナショナル975」ぐらいしかあんまり使ってこなかった。蔵には「インターナショナルⅡ30SW」や「セネター9/0」といったトローリングリールも、ロウニンアジのキャスティングに使うつもりで用意していた「545GS」も転がってるけど、実釣で使いこなすところまでは至っておらず、いつの日か活躍させることを夢見て眠ってもらっている。

 という状況で、PENN使いなら1台ぐらい持っててもおかしくない、PENNの主にバスを釣るための(箱にもバスのイラストが描かれている)ベイトキャスティングリールである、レベルマチックシリーズには手が出ていなかった。まあ後発のインターナショナル975は持ってるしいらんだろと。ところがこれが日課のネットオークション・ネットフリマ巡回の時に、送料込み6500円というお安い値段でチョイボロ目の「レベルマチック920」が売りに出されているのを見つけてしまった。相場的には1万円チョイ切りぐらいなのでかなりのお買い得品である。正直いらんリールなので迷った。迷ったけど「迷ったら買っておけ」は蒐集家にとっての鉄則だといつも書いているし、いつものようにスルスルッとマウスが滑ってポチチであった。「ある」のが悪い!!そしてアタイ病気がにくいッ!!!

 まあ、PENNとかABUとかの実用機は買った値段ぐらいで売れるのでいらなくなったら売れば良いぐらいのつもりだったけど、このリールなかなかにというか相当に面白い。見た目ももろにアンバサダーっぽいし、平行巻機構とかもABUのパクリ(丸ABUはフルーガーの影響らしい)臭い。遠心ブレーキの効きが強すぎるのでもっと小さいブレーキブロックをと思うも、ミスティックリールパーツさん海外発送やめてしまったから、そもそもPENNの部品自体手に入れにくくなったんだよなと思ったら、丸アブのそれがそのまま使えて、さすがは丸アブのアフターパーツの豊富さよという感じであっさり解決したぐらいで丸アブの影響はもろに受けてるのは間違いない。

 1970年代の同じような時代に、日本じゃ丸アブ丸パクリのダイワ「ミリオネア」初代とかが作られてたぐらいで(訴訟沙汰になったんだっけ?)、PENNも丸アブっぽいリール作りたかったんだろうなと思って、見るからに似たような設計だろうし、だったら買うほどのこともないだろうと思っていた。でも買って良かった。見た目はアンバサダー、中身はPENN!予想外にメチャクチャ面白いリールだったので、いつものように分解整備しながら語らせていただこう。ご用とお急ぎでない方はごゆるりと楽しんでいってね。

 まずは、PENN両軸なのでハンドルナットは独特の形状で、凹った部分にねじ山をハメることで緩み防止になっている。このハンドルナット専用の工具がPENN両軸を箱付きで買うとついてきたりするので、我が家にもあって余裕の表情で持ち出してみたら、サイズが合わなくて結局モンキーレンチで回した。固着してるとかじゃなければモンキで回りますが、もちろん専用工具推奨。ネットフリマとかで売ってます。でハンドルとドラグホイールを外すとドラグホイールが回ってネジで締まっていくとメインギアの上にあるドラグワッシャー、パッドを押さえることになるスペーサーが引っ張り出せるんだけど、これが円筒形の筒状で、中に収まるメインギアを回す芯の刺さった軸が骨太い。樹脂製とワッシャーを重ねている、なんならインスタントアンチリバース(IAR)の逆転しないベアリングが入ってたりするアンバサダーと比べてエラい太くてさすがPENN”さすペン”という感じである。ちなみにハンドルは見てのとおりシングル。ギア比は4:1と低めで力強く巻ける感じ。

 でサイドプレート側から外して、スプールをすぽっと抜くと、遠心ブレーキもアンバサダー方式だし(アンバサダー用の社外品極小パッドに換装)、グルグル棒一本方式の平行巻機構も同じだし、ここまでだとアンバサダーっぽい。ちなみにフットは後期モデルではアンバサダーでいうと7000cみたいなプレート型のものになっている。こいつはプッシュボタンや逆転防止の形式を見ると後期型っぽいんだけど、フットは古い形式のがついているので古い個体に新しいパーツを換装してあるのかニコイチなのか、イマイチ年代特定しにくい個体。いずれにせよ長期にわたって同じモデルを売り続けマイナーチェンジで改良していくのは、これまたさすぺン。ちなみにミスティックさんところのレベルマチック仕様表で見ると登場は70年代中頃で、製造終了は2004というご長寿モデル。

 ただ、ここからが独特で、丸アブとかのメカプレート方式とフレーム構造に慣れていると、いきなり本体を外したら”本体蓋”の裏に直接ギアだのクラッチ板だの主要なメカがくっついていて、そもそも鳥籠型のフレーム構造じゃなくて、横棒のリムとフットをネジ止めして組み立てる方式になっているので驚く。これあれだ、ペンの旧型セネターとか樹脂製プレートを金属板で補強しつつリムとフットをネジ止めして堅牢な両軸受けリールに仕上げている、まさにその方式の蹈襲で、見た目はアンバサダーっぽいけど、構造やらの設計的にはペンの従来型の両軸機種の発展系であると理解した。出自が全く違うといっていい。ちなみにインターナショナル975はアルミ削り出しの一体フレームで、なんなら今の丸ABUにIARが入ってるのと同じようにハンドル基部に瞬間的逆転防止機構も入っているし、こちらはペンインターナショナルシリーズの系統に入れられているとはいえ、シマノ「カルカッタ」の流れをも汲むわりと今時のありがちなアルミ削り出しフレームの丸型ベイトキャスティングリールで、その印象もあってレベルマチックがこんなに独自色の強い機種だとは想定外だった。ちなみにミスティックさんところの部品販売上での仕分け的にリールは「コンベンショナルリールパーツ」「スピニングリールパーツ」「インターナショナルリールパーツ」「フライリールパーツ」に分けられていて、レベルマチックは”従来の”とか”伝統の”という意味の「コンベンショナル」に分類され、インターナショナル975は当然「インターナショナル」に分類されている。

 でもって、分解進めてメインのギア周りを分解。本体蓋?にネジ4本で止められている主要メカ部分をパカッと外す。

 メインギアも外してギア上のドラグを見ていくと、小型機だけど3階建ての多板方式なのはさすぺンで、これが70年代の設計とは思えないぐらいに調整幅もあれば、キュッと締めるのもできるし、滑り出しも良くシャクリもしない「PENNはドラグが良い」の定評を裏切らない良いドラグ。同時代のアンバサダーのドラグも実用充分に良いドラグだけど、レベルマチックのはバス釣るには過剰と思えるぐらいに性能が良い。どんなドラグパッドとか使ってるんだろうと思ったら、バネ的なモノは一番左端に写ってる金属製の曲げワッシャーのみで、ドラグパッドが革製で、こいつがどうも良い仕事しているようだ。革のドラグパッドは腐ってることも多いけど、コイツは健在でグリス塗り直してそのまま使うことにした。2000年のPENNカタログからの孫引きになるけど、ミスティックさんところのレベルマチックの仕様説明をグーグル翻訳して引用すると「Levelmaticベイトキャスティングリールは、コンパクトで効率的なファイターです。小型軽量でありながら、体躯の大きな捕食魚にも負けないパワーを備えています。頑丈なアメリカ製のこのリールは汎用性も高く、様々な釣り場や用途に対応します。レッドフィッシュのキャスティング、スヌークのプラッギング、パイク、マスキー、ウォールアイのトローリングなど、様々な釣り場に対応します。淡水、海水、汽水を問わず、Penn Levelmaticならどんな場所でも対応可能です。ヒラメをフラットにしたり、大型ブルーフィッシュを倒したり、レッドフィッシュと激しく競り合ったり、ラージマウスバスを水平に釣ったり。」となっていて、小型機(軽量は疑問?)だけどバスだけが対象じゃなくて、何でもイケるぜな心意気で設計したので、バス用としてはドラグにしろ塩水でも錆びにくそうな素材選びにしろ過剰なぐらいの性能を与えられているのだろう。ヒラメをフラットにするのが何を意味するのか良くわからんにしてもたいした自信だ。今まで革のパッドは腐ってカピカピになってるようなのしか経験してなかったので、本来の革パッドの性能はなかなかに優れているのだと理解した。メインギア下の赤ファイバーのワッシャーは滑りと劣化しにくさに勝るテフロン製のモノに換装。

 でピニオンギアとクラッチの関係、逆転防止の方式もバラしつつ勉強しておく。

 一番上の写真ではいま、ピニオンギアが下がって(使用時には引っ込んでたのが出てくるので上がるイメージ)スプール側の俵型した凸部が写真だとピニオンギアにガチッとハマってクラッチが繋がった状態。ここからカチッとボタン手前に引くと、右下の板が押し込まれて、板の上の斜め突起が、ピニオンを押さえている板を、真ん中写真のように矢印の方向に押し上げて、スプールとピニオンの連結が離されて、フリーに回転するようになる。で、ハンドル回し始めると、ハンドル軸の逆転防止のラチェットの下に2カ所蹴飛ばす突起が設けてあって、それが上の写真の上の方のバネで引っ張ってるグニャグニャ曲がった板を蹴っ飛ばしてカチッと元の位置に戻ってクラッチが繋がる。この方式はインターナショナル975でも似たような感じだった。

 逆転防止はインターナショナル957ではハンドル基部に一方通行のベアリングが入れられていたけど、レベルマチックでは一番下の写真のようにメインギア下のラチェットにオレンジの矢印のバネでドックを押しつける方式。水色の矢印のところがちょうどラチェットにドックが掛かってるところ。で、レベルマチックは逆転防止がそういう方式なので巻くときカリカリ鳴るリールだよってのを何度か読んだ記憶があるけど、この個体は鳴かないのでグリスかなんかで音がしなくなってるのかなと思ったら、消音化されていた。緑の矢印の青銅の板がメインギアの下面に当たるようになっていて、正回転時にはドックをラチェットに押しつけないようにしている。ABU方式だと青銅版でラチェットを挟むんだけど、こういう方式もあるのね。どうも、消音化したのは最後の方らしく、ミスティックさんところで展開図を見ると、該当部品は15-910DOGで消音化の板が付いてるイラストになってるけど、部品注文画面で確認すると消音化の板は付いていない。

 で分解終了すると、ベイトリールって多分今時のでもそんなに複雑化してないはずで、こんなもンかなという感じ。ただちょっと困ったのがこのリール2カ所にボールベアリングが入ってるんだけど、これが外し方が分からん。検索掛けたら外し方があるらしいということは分かったんだけど、具体的な方法までたどり着かなかったので、知ってる人が居たら教えて欲しいところ。展開図みてもCクリップ的な輪っかを外せば外せそうなんだけど、ベアリング自体のリングかなというのはあるけど、細かすぎてなんか違う気がするし外す自信もない。海外サイトの「アラン・タニのリール修理」でタイリー氏が詳細に整備方法紹介してくれているけど、「ベアリングは前回いじったから今回は注油だけにしておくぜ、ハッハッハ」って肝心なところを飛ばしててイーッとなった。あと、クラッチ切るボタンは力業で押して抜く方式のようなので今回はさわらないでおいたぜハッハッハ。

 分解したらパーツクリーナーでプシューとして歯ブラシでゴシゴシ、ティッシュでふきふきで、今回グリスはPENN純正、オイルはいつものダイワリールオイルⅡで仕上げておいた。表面のアルマイトが腐食してるところは、とりあえず見栄えより腐食の進行を止めるの優先で、瞬間接着剤で保護しておいた。エポキシやら車用タッチペン塗料とかだと、すぐ剥がれ落ちたりするので、多少白く粉吹いてみっともないけど機能に支障をきたさないようにという処置。今回、デジカメ写真で分解中バチバチ撮りまくってバネとか部品の配置とかを確認できるようにというのはいつもどおりやってたんだけど、慣れてない独特の癖の強い機種だったので、何度もデジカメの小っちゃい画面で確かめるのは、いちいち立ち上げて該当写真探してと面倒くさいので、PCに取り込んで画像ソフトを立ち上げたままでPC前で作業したら、画面大きくて見やすいし順番に写真遡っていけば良いしで作業しやすかった。とはいえ、ピニオンギアを押さえている板を2本のバネを縮めつつ他の部品とも重ねて填めるのはちょっと知恵の輪状態で手こずった。あと本体にメカ部分をネジ止めするとき、外側の2本は樹脂製のクラッチ関連部品を挟み込んでいるので、ネジをきつく締めていくと樹脂部品が変形していくのかいくらでも締め込める感じでやばいので、適当なところで止めておかないとよろしくなさそう。前述したようにフレームが一体型じゃないので、リムやフットをネジ止めしていくときは偏らないように軽く締めてからハンドルグルグル回して良い感じの位置に収めてからしっかり締める、というお作法を怠るとゆがんでどっか干渉してしまうことがあるやにも聞く。

 でもって、使ってみるとこのリール、多少癖が丸ABUとかとは違うので慣れるまでちょっと戸惑うけど、慣れてしまえば魚釣るのになんの問題もない性能を有しているのが分かる。30年にわたるロングセラーッぷりも頷ける感じで、丸アブのいまだに製造販売されている愛され方には負けるにしても、個性的で”さすPENN”な堅牢な作り、優秀なドラグ。一目でPENNと分かるアルマイトゴールドの存在感。すごく良いリールだと思う。

 写真でしか見たことなかったので、ABUだと5000番クラスの大きさだと勝手に思い込んでいたけど、写真でも分かると思うけど赤いアンバサダー5000より一回り小さい感じで、なのに重量は約335gとずっしり重く、イト巻いた状態の5000が約285gなのに比べて、軽量とは言いがたい重量になっている。でも、カップがアルミ以外はれいによってステンと真鍮使いまくりで、丈夫で耐腐食性に優れていて、そういう意図があって重くなってると理解すれば、丸アブより重いといったところで、しょせん小型のベイトキャスティングリールの範疇であり、どうってことはない。

 いつも書いてるけど、ハリとイトは大事でこだわらないといけない。こいつらに不備があると釣りが破綻するってのは、ちょっと前にトラウマになるぐらい痛い目みて思い知らされたところである。いつも書いてるくせにっていうお粗末な話。竿はまあ好みもあるだろうけど釣果を左右する部分もあり、弘法筆を選ばずで好きなの使ってもハリとイトさえ良ければ、最悪魚バラして終わるだけでよそ様に迷惑掛ける話じゃないので、クッソ使いにくそうな竿みんな使ってるけどご自由にだ。さらにリールまで来たら、投げて巻けりゃ十分で、もろに楽しんで自分の好きなリールで釣れば良いと思ってる。投げて巻くのがトラブルなくできるなんていうのは70年代のリールで既にできてたはずなのに、アホな釣り人に売らんがために変な方向に行ってしまってる今時のリールを”性能が良い”と優良誤認して使うぐらいなら、丸アブならもちろん信頼と実績充分だし、PENNのレベルマチックも悪くない選択肢だと思うのじゃ。まあ、レベルマチックはマニアな人は使ってるから、今更ワシごときが書くまでもないかもだけど、古ABUはお高いけど意外にレベルマチックお手頃価格でっせ、とワシが儲かるわけでもないけどお推めしておきます。