「お染二の字」、「白熊中金」、「八つ橋荒巻」、「黒三光」、「源氏車」、「八ッ橋赤底荒巻」、「新魁荒巻」、という新しい打順の鮎毛針浮き流し釣りの仕掛けをこしらえた。
今期、我が鮎釣りポイントのアユの遡上具合は”小当たり”ぐらいで、まあ夕マズメに頑張って10匹ぐらいは釣れるかなというぐらいの、夕涼みにはちょうど良い塩梅である。
てな話をしてたら、去シーズン当地で鮎毛針釣りも楽しまれたひじさんから、「閉店するっていってた古い釣具屋の閉店セールで入手した鮎毛針(デッドストックもの)をまだ送ってなかったので送ります。「へちま」と書いてあるのは、付属ハリスがナイロンでなく本テグスだそうです。天然のテグス蚕製!僕は初めて触りました。いつのだよwww おまけに同じ店で入手したこちらもデットストックの流し浮きも付けます。」と物資補給があった。ありがたいことである。特に鮎毛針はワシは自作するときフライフックの18番20番といった小さいハリにチマチマと巻いているので、ある程度巻き貯めた備蓄はあるけど、それだけだと心許ないので、ネットでそれこそデッドストックを投げ売りしてるようなのを探して、ちょくちょくと予備弾倉を補充していたので実にタイムリー。
ということで、いつもはフライパターンとかを独自解釈で鮎毛針に落とし込んだ、「仇虫(アダムス由来)」、「水の女王(クィーンオブウォーターズ由来)」、「借苦(シャック由来)」とかいい加減な毛針で打線組んでるけど、今回は買いためてあったり、自作したりも含めて伝統的な鮎毛針で組んでみた。ひじさんにいただいたのは大阪の「カク久」というところのもの、購入済みのは加賀の「秀峰」謹製となっている。右端の2本はナマジ謹製。
いただいた流し浮子はダンベル型にリリアン貫通のジタバグのように左右に揺れるタイプで、ひじさんが使ってみたところ、どうも仕掛けが絡むトラブル多い印象、ということだったので、まあそのへんは小物釣り師は絡む仕掛けにゃとりあえずパイプってなもんで、パイプ突っ込んでみた。リリアンのような柔らかい部分があると絡みやすい。逆に張りのあるパイプを使えば絡みにくくできるハズ。で、浮子の位置は前後に浮き止め入れてやれば好きなところにできる。場合によっては浮子上げ下げして、毛針を水面に叩きつけるようにして誘ったりもするので、浮子の位置は好みの位置に調整できるとベター。いつも使ってるのは写真の左端の棒状のタイプで、この単純な形状でも流れの抵抗を受けてジタバタとクロールするように揺れる。
で、仕掛けはハリを結ぶメインライン部分は0.8号ナイロンで、上の方の道糸部分は視認性重視で、ピンクGTRの1.5号を使った。仕掛けの上部に流し浮子、最後の方にシモリ玉の浮子、浮子の間に毛針が6本、シモリ玉の後ろに1本で、毛針は枝ス方式で0.8号のメインのラインに8の字結びを作って、締めずに隙間を空けたままにして、下に向いてラインが突っ込む穴に枝スになる毛針の付いたハリスを突っ込んでメインのラインに電車結び。ハリスの長さは、長すぎると絡みやすいので適当に。長さ多少ランダムにして動きに差が出るようにしてる。絡みやすさはラインの種類によっても異なり、ホンテロンのようなエステル系は堅めで絡みにくく、ナイロンの方がしなやかで絡みやすいけど、気持ちしなやかな方が掛かりが良い気がするので、絡むと面倒な上の方のハリにはエステル系ハリスのを使って、後半の食わせたいハリにはナイロンとか一応変えている。今回いただいた毛針には”本物のテグス”が使われていて、パリッと堅めの感触だったけど、この乾いた状態だと弱いらしく、結ぶときにも濡らしてから結ぶようにとのことだった。たしかに濡らすとちょっとシットリとしてパリパリ感が薄れて結びやすい。で、どのぐらいの強度があるのかと、余ったハリスで引っ張って切ってみたら、普段使ってるナイロン0.4号とは比ぶべくもない弱さで、全体が伸びるのではなく、ガムとかみたいに切れるところに近いあたりがミョーンと伸びつつボツッと切れる。10センチやそこらのアユに切られるおそれはないと思うけど、尺ウグイちゃんとかだとちょっと心許ないぐらい。でも竿も4.5mで柔くてためが効くし案外なんとかなるかも。今時の0.4号ナイロンの強さが異常なのかもとも思う。
という感じで、伝統的な鮎毛針をお題に1打線組むのを楽しんだんだけど、”へちま”と呼ばれた”本テグス”についても、ツーテンの虎ファンさんも交えいろいろメールでやりとりして、その歴史やら製法やらいろいろと興味深かった。その時のやりとりを、一部抜粋、改稿してのせてみると、
ナマジ:ありがとうございます。テグス蚕のテグスは私も触ったことないので、どんなのか触ってみたいですね。私の持ってる毛針で本テグス仕様を謳ってるのは、ホンテロンとかのエステル系のハリスでした。違うやんけ。絹もそうですけど、天然の繊維でも保存が良ければ長持ちするもんですね。
虎ファンさん:テグスという言葉自体久々に目にしましたが、こんな風に作られていたとは驚きです。知りませんでした。web.tuat.ac.jp/~kaiko/03/dissect/SilkenGut.html
ナマジ:クスサンからテグス作るのは三平君もやってたので酢で固めるとか知識としては知ってました。繭を作る前の終令幼虫は独特のシワシワ感が出てくるそうで、秋田ではその状態を指す言葉として「ひきってくる」というらしいです。養蚕用語かな?(正解でした)あと、誰だったか忘れましたが、引っ張って伸ばす伸ばし方で太さを調節するんだけど、片方だけ細く伸ばしてテーパーつけてテーパーリーダーのようなモノも作れたとか書いてました。文明崩壊後してナイロンラインが手に入らなくなったら、クスノキ蹴っ飛ばしてクスサンの幼虫捕まえねばならんですね。
虎ファンさん:三平がテグス作ってたっけ。覚えてないなあ。でも、面白いな。 ポテチやかっぱえびせんの袋が白黒になっている時代やし。
ナマジ:三平君じゃなかったかも?矢口高雄先生の子供の頃の想い出とかを綴ったエッセイかエッセイマンガだったようなおぼろげな記憶が蘇ってきました。と書いて、データ化して持ってるかもなと探してみたらありました。「釣りキチ三平の釣れづれの記」(「続・釣りキチ三平の釣れづれの記」もある)でした。イラスト付きのエッセイ集ですね。ちなみにクスサンじゃなくてヤママユガの幼虫つかってました。テーパーラインの話もこの本に出てました。
虎ファンさん:その本、我が家にはなかった。クスサンに限らないのか。三平の話になると、秋田県の「横手市増田まんが美術館」に行ってみたくなる。
ひじさん:盛況ですね。テグスサンは中国にいるけど日本には分布せず、日本ではクスサンを使うんですね。テグスとクスでややこしいなあ。 ところで、テグスサン・テグス・・どっちが先なんだろう。テグス=漢字だと「手繰糸」で、これが取れるからテグスサンだと勝手に思ってましたけど、ウィキの説明は、「天蚕糸」で「ティエン・ツァン」が「テグス」に転じ、テグスサンから取るからテグスだと。「糸」は読まない漢字(有名なのは鹿児島の頴娃(えい)の「娃」)てことかな。 じゃあハリスやエダスは?釣り人用語なだけ? ますますわからなくなってきました。
ナマジ:テグスの語源はネットで検索かけてみると、「天蚕子」中国語読みから説が優勢ですね。子が読まない漢字ではなくスーと読むのならティエン・ツァン・スーからテングス→テグスとなりそうな気もするし、ハリス、枝スのスも糸と同じ意味で使ってそうに思うのですが、ネットのお勉強ではそこまでたどり着けませんでした。推理としては悪くない気がしてますが。クスサンの繭はなんか雑なつくりでそんな穴だらけで大丈夫か?という代物ですが、ヤママユガの仲間のウスタビガの繭は拾ったときに緑色のオシャレな感じといい、パカッと上部の口が開いて成虫が出て行ったらしい良くできてる機能性といい感動して、子供の頃蛇の脱皮ガラとかと一緒に宝物箱に入れてました。ヤママユガの繭も薄緑の綺麗な色で後にヤママユガの繭から糸をとって布にするという雅な技術が存在すると知ったときも、あの美しい繭なら良い糸が採れそうだなと納得したモノです。今でも長野とかでは生産してるとか。https://oishii.iijan.or.jp/products/post-1880こちらも「天蚕子」と書くけど読み方はテンサンシだそうな。って考えると、テグスがとれる蛾からは繭から糸もとれたりする。逆に絹糸線がある大きな蛾の幼虫からは絹糸線引っ張り出して酢で処理してテグスが作れそう。お蚕さんでもできそうに思いますけどどうだろ?お蚕サン、韓国出張行ったときに、屋台でサナギの揚げたのが売ってるのを買って食べてる人が居たので(ひょっとしてひじサンだったか?)1つ2つ摘まんでみましたが、食べられなくはないけど、鼻から匂いが抜ける度に、「大ごい」の茶色のパッケージが頭に浮かんできて、美味しいというほどのモノではなかったように記憶してます。コイ様に食べていただくための餌を人間ごときが食べるのは分不相応なのかもです。
虎ファンさん: 嫁と長野旅行をした時に岡谷の天蚕博物館に行ったことがあります。「あゝ野麦峠」の世界の説明やトヨタだけでなく、日産までも自動織機を作っていたのかと感心したことよりも、ご自由にお食べ下さいとあって、反射的に口に放り込んだサナギの味と臭いの方が記憶に残っています。
ひじさん:なお、僕もまだ使ってませんが、本ヘチマは濡れてないと切れやすいらしいので、仕掛け作りの際は気をつけて。まあ大物釣る仕掛けじゃないからギュウギュウ結ばないとは思うけどね。
ナマジ:毛針と浮子届きました。ありがとうございます。本ヘチマのテグス、触ってみましたが乾いてるとパリパリしてて確かに結びに弱そう。張りがあるのは絡みにくいので、そこはホンテロンハリスと似たような性格か?「お染」は単純で自分でも作りますが名作です。透け透けに荒く巻いてお尻にオレンジっていう色っぽいハリです。打線組むの楽しんでみます。
って感じでした。
その後、引き続きお勉強してたところ、なぜへちまという呼び方になったのかとか、詳しく紹介されているブログ「長良川と郡上竿の世界」にたどり着きたいへん勉強になりました。勝部直建著「テグス文化史」というのが参考資料として優れているようで、孫引きさせてもらうと「中国でテグスが作られ始めたのはいまから800年前の南宋時代であるという。その元となる虫は、中国南部産の楓蚕(フウサン)と呼ばれる蛾の幼虫で、テグス蛾、天蚕とも呼ばれた。」という古い歴史のあるもので、中国で作られたテグスが江戸時代に持ち込まれ、全国各地に行商人が卸して回ったとのこと。
その後、「テグスの断面をまるく、太さを均一にするために輸入された”荒テグス”を磨く(金属板に開けた穴を通したりして削って整える)ようになり、明治の頃には各太さの磨きテグスが全国に流通するようになったとか。その中で輸入テグスにも産地により品質に差があり、ヘソ、アイス、ヘチマなどの名前をつけてランク分けされた。最初は中国湖西省産の最高級テグスがヘチマと呼ばれたが、終盤にはヘチマを名乗った様々な商品が出回った。」とのことで、ナイロンやエステルに取って代わられる直前のころには高級な本テグスに「ヘチマ」と名付けられていたようで、いわば”ヘチマ”は「高級テグスですよ」という宣伝文句のようなモノになっていたようだ。
「国内では、1800年頃から信州で、ヤママユガやクスサンの幼虫からテグスが作られ始め、輸入のテグスが希少で高価であったため、全国各地にも生産が広まった」とのこと。やはり、ワシが想像したとおりお蚕さんからもテグスを作る試みはなされていたようだけど、とれる長さも質的にもイマイチだったようだ。
輸入した荒テグスを、日本で加工した「磨きテグス」はその技術が高く評価され、戦前には世界中に流通したようで、淡路島が高級ブランド産地だったそうな。0.4号の細さにまで磨いた製品が流通していたようで、たしかに凄い技術だと思わされる。
で、その蛾の絹糸線から作った”本テグス”がナイロンやらの合成樹脂に取って代わられていったという歴史だと思っていたけど、今回お勉強して、その間に「人造テグス」という絹糸を芯にゼラチンで固めたような製法で作られていたと知った。長尺のものが作れるのは良いけど、製造できる太さがやや太く水を吸って弱くなっていくのが欠点だったのが、水を吸ってふやけて弱くなっていく難点を克服したのが、いまも小もの釣りの「ブラックラーヂ」とかに名を残す最初の人造テグスの「ラーヂテグス」で、日中戦争、第2次世界大戦の時代に本テグスの供給も滞ってしまったなか、お茶やタマネギの皮で煮るなどして当時の釣り人は長持ちさせて人造テグスを使っていたそうな。という人造テグスがあって、その次にお馴染み東レからナイロンテグスが現れるまで、人造テグスは道糸用だったのでハリス用には”本テグス”が使用されていたのだろうと推定している。
東レによるナイロンテグスは昭和20年前後、昭和17年にまず商品名アミランのナイロンラインを「東洋合成テグス」として販売開始。その後昭和22年に、ナイロンの透明化に成功し泣く子も黙る「銀鱗」ブランドの発売を開始している。その後輸入も含め他社製品も出てきて、ナイロンラインが本テグスに取って代わっていったのだろうと思われる。
つまり本テグスが付いているいただいた毛針は、ナイロンテグスが発売される前か、発売されて過渡期に本テグスがなくなっていくまでの幾ばくかの間に作られたデッドストック品かもと推理できそう。昭和20年とかで80年前、その後過渡期が長かったとしても20年も本テグスの生産、流通が持ったと思えず、60年よりは前かなと推理してます。ワシより年寄りの毛針。長さの単位の書き方がセンチが漢字で”糎”なのも、古さを物語っている。
と、ブログ「長良川と郡上竿の世界」の内容から引用、簡素化して、長々と他人のふんどしで書かせていただき、申し訳ないところだけど、あげられてる参考文献がなかなか手に入りそうにもないので、ご容赦願いたい。道具の歴史、発達の経緯って知ってると、なぜその道具が必要とされたのか?という根源に迫ることができ、自分にとって必要な道具を適切に選ぶためのベースとなる知識たり得るんだけど、なかなかそういうところにまで突っ込んでる情報って出てこないので、是非紹介したく書かせてもらいました。釣りで大事なのはハリと糸っていつも書いている釣り糸の歴史。
その釣り糸の歴史の源泉には馬毛、絹糸を処理したモノ、麻縄など植物の繊維から得たモノもあるけど、透明なハリスの源泉としては糸を吐いて繭を作る蛾の絹糸線から作り出した”本テグス”があったということは、今日日強力な合成繊維が普通に使われているのと対比してなかなかに”遠くに来た”感じがすると同時に、小さな虫の作り出すテグスが透明な繊維が他になかった時代、魚釣りにおいて決定的な仕事をやってのけていただろうということに痛快さというか面白みを感じるところである。早速、アユ釣りに行ってみたけど今でも”ヘチマ”のハリスは小アユぐらい問題なく釣る実釣能力を備えていた。経てきた年月を思うと、なかなかにものもちが良く、絹にせよ、漆にせよ、鳥の羽根飾りにせよ、適切な保存状態における生物由来の素材の長持ちする性能には感心するところである。漆とか千年持つからね。
って、本テグスについてお勉強してたら、「絹糸からケブラーに匹敵する繊維素材」カイコの糸を摂氏125〜215度、1900〜9800気圧で加工すると、絹本来の結晶構造を保ったまま繊維同士が融合し、透明で緻密な固体素材が生まれる。強度は防弾チョッキに使われるケブラーに匹敵し、弾道試験では炭素繊維強化ポリマー(CFRP)とほぼ同等の耐貫通性を示した。っていう報告なんかもネットニュースになってて、生物由来の素材の有用性、発展性ってまだまだあるんだなと思ったりもして、そういう色んなことを考えながら、本テグスで釣りすると、釣果がUPするとか下品な話ではないにせよ、釣りがちょっと楽しくなって、自分が今やってる釣りが、どういう歴史の流れの中で培われてきた道具や技術を用いているのか?自分の釣り師としての立ち位置が意識できたりして趣深いモノがあったりします。
とにかく強くて切れない糸を使っておけば良いっていうのは、適切に切れないと危なっかしかったりするという実害もありつつ、思考停止で適材適所を踏まえられていないことも多く、時に強くもなく切れもする、でも必要十分な面白い道具を使っておくってのは、楽しみの面で利する面が大きいのかなと思っちょります。


































