2018年10月27日土曜日

紡ぐ糸巻き


 頭の中をスピニングリールのローターがグルグル回っている。

 今年四十路後半にして初めてインスプールリールに手を出して使ってみたら、いろんな発見や新しく気付かされることが多くて、ものッすごく楽しめている。
 使ってみて率直に思ったのは「インスプールのリールって意外と実用的ジャン」というところである。
 今のところ使ってみているオリムピックがトゥルーテンパーのブランド名で作ってたトゥルーテンパー727も、PENNスピンフィッシャー706Zについても、道具としての熟成度的に洗練されていなくて荒削りな部分はあるとしても、使ってて不愉快な不具合とかは少なくて、むしろ40年とか50年も昔の設計なのに、使ってて心地良く感じる部分が多いのである。インスプールのスピニングなんて骨董的な価値を楽しんで「不具合も愛でるんです!」的な面倒くせぇものかと思ってたけど、ぜんぜんそんなじゃない。
 トゥルーテンパーについてはベールアームが当たる部分のクッションがだいぶへたって沈んでラインローラーに角度がついてしまっていたので最初糸ヨレが酷かったけど、ラインローラーが水平に来るようにクッションを自作してやったところ、糸ヨレは実用上問題ない程度に収まっている。
 両機種に共通するのは、なんというか投げたときのラインの自然な感じの抜け具合が快適に感じることである。
 おそらく、平行巻(オシュレーション)機構が単純だった時代に設計されたこともあって、スプールの高さがとれずある種の密巻きになってて、スプールの径は逆に巻き取り速度を稼ぐため大きく取ってあって、シンプルなギアとかの機構とあわさって、チョイ前のリールの「ドデカコンパクト」に近いような感じで「糸を放出して巻き取る」機械であるスピニングリールとして、なかなか使いやすいところに落とせているんじゃないかと感じたところである。

 これなら、706Zも「いつか使うことがあるだろう」的な備蓄というより実戦投入すべき戦力として数えることにして、いっちょグリスアップして「耐塩水仕様」にしてしまおうということになり、ついでにこれはアウトスプールのリールだけど、ブログでも取り上げて所在も明らかになった、初めてのバスを釣らせてもらったダイワのスポーツラインST-600Xを修理して調整しておこうということで、あれこれいじくってったら。自分の中で「スピニングリール熱」が加熱してきて、この2台に限らずうちの蔵(まあ押し入れなんですけど)にあるスピニングをいじったり、新たなリール(まあ古い中古なんですけど)を買ってしまったりと、ここのところ部屋ではスピニングリール漬けなので、そのあたりのネタをボチボチと書いていきたいのでご用とお急ぎでない向きはしばしお付き合い願いたい。

 とりあえず今回は706ZとスポーツラインST-600Xからハリキッて行っちゃうヨ。

 706Zを分解してみると「エッ!コレで終わりなの?」というぐらいにあっさり終わってしまう。部品数が、大きさ的には同程度のコレも決して部品多くはない4桁スピンフィッシャーとの比較でさえ半分ぐらいしかないのは以前も書いたように知識では知ってたけど、実際に自らの手でバラして目の当たりにすると驚いてしまう単純さ。ハメ殺しで外せないラインローラーとか既にグリスアップ済みのドラグパッドとかを外してないだけで、写真でプレートに乗ってるのがバラせるほぼ全てだと言えば、スピニングリールを分解したことがある人なら驚いてもらえるのではないだろうか。

 コレまで自分が所有してきたスピニングリールで一番単純な設計だったのは、第4世代スピンフィッシャーの430ssgだった。コイツは逆転防止機構を一方通行のベアリングにドンと任せてハンドル逆転オンオフの機構を省略するという割り切りで、普通逆転防止機構でゴチャゴチャとしがちなローター内部に一方通行のベアリングが鎮座しているのみという単純さ。経費削減の意味もあるんだろうけど、その単純さは壊れるパーツが少ないことにつながるだろうから、後は一方通行のベアリングの耐久性さえ良ければ合格だなと使い始めてはや十数年。壊れる気配もなく快調でとても気に入っていて3台確保してあるし我が人生の小型スピニングの主力として位置づけている。
 その430ssgより706Zの造りが単純な理由は、スピニングリールの標準装備といえるベールワイヤーを取っ払ったマニュアルピックアップ方式なのでベールアームがローターに固定されてたりして大幅に部品数が減ってるのが大きいけど、逆転防止機構もハンドルギアの裏に一体化させたラチェットにドックを引っかける単純方式で本体内の小さなスペースで済ませていて、ローターは単なるお椀からベールアームが伸びててその逆側に重さ調整の内側への出っ張りがあるだけの単純さとなっている。

 あと、地味に効いてくるのが平行巻機構の単純さ。スプールが長くないので特殊な形状のカムを使ったりしない機構で実用性充分だというのに加え、真鍮の一枚板を端をくるっと曲げて作ってある部品を主軸にネジ止めしてあるので実質部品がネジ含めても2個しかない。ちょっと感動を覚えるスッキリとした単純設計。PENNって真鍮が好きなのか切り削ってギアの山作ったりする加工が得意なのか、軸はステンレスの剛性のあるモノを使っていても、ギアやらなにやらは、軽い鋳造アルミ合金(ダイキャスト)系でも剛性のあるステンレス系でもなく伝統的に真鍮切削系で、それって重いかも知れないけど、加工の自由度や経済性、多少ゴロゴロいっても回り続ける耐久性とか総合的な実用性では実績に裏打ちされて優れてるPENNらしい個性なんじゃないかと思う。

 PENNのリールといえば、古くは渋いえんじ色や黒のセネターやら緑のスピンフィッシャーやらもあるけど、今なら、トローリングリールの世界標準機「インターナショナル」のシャンパンゴールドや金黒仏壇カラーのスピンフィッシャーに象徴されるように「金色」の印象が強いと感じている。その象徴的な金色は外見だけじゃなくて、本体パカッと開いたときにも真鍮の部品が渋く金色に輝いているのである。

 ベアリング数だってラインローラー、主軸、ハンドル軸の各1個。ラインローラーには正直いらん気がするけど「ベアリングなんて多くても回転する軸に1個づつ入っとりゃ良いんじゃ」と常々思ってるので3つも入ってりゃ贅沢ってモンだ。
 そういう重くても丈夫さ実用性重視のPENNの印象からすると意外だったのが、本体カバーのプレートが樹脂製だということ。確かにこの設計だと、ローターのついてる主軸だけじゃなくてハンドル軸の方も片軸受けになってて、カバーの方で軸の終わりの片端を受けていないので強度なんて必要なくて、キッチリ蓋して防水できれば事足りるので軽い樹脂の方が適材適所なはずだ。片軸受けで大丈夫なのかと若干心配になったけど、ギアの耐久性じゃ伝説的な定評があるABU社カーディナル33とかが同じようにウォームギアで片軸受けなので多分大丈夫なんだと思う。PENNだしアホなことはやってないだろという根拠のない信頼感もあったりする。
 ちなみに706Zにおいては蓋の端にグリスを盛る「グリスシーリング」はPENN社公式のようで始めから盛ってあったけど、今回グリスアップに伴って改めて盛大に盛っておいた。ベアリングにも前後にこんもりとグリス盛ると内部浸水してもある程度大丈夫だと言われております。ベアリングにグリスってどうなの?と疑問に思うのは、たぶん昔流行ったアンバサダーのスプールのベアリングのオイルをガソリンとかで洗浄して粘性の低いCRCを吹いてやる、という調整で回転が良くなって飛距離が如実に伸びるというのを経験した世代に刷り込まれた強迫観念かと。ベイトリールで投げるときは10gそこらの軽いルアーがライン背負いながら高速で飛んでく。その時には極小さい力でスプールを回転させなければならないけど、スピニングリールに入ってるベアリングの回転なんて人間様が手でグリグリ巻いてる程度の回転、大して早くも回ってないし充分力も込められるので「巻き感度」とかいうのを重視するような繊細な釣りでもなきゃ、全くもってベアリングにグリスが入ってても問題なし。特に重くなるようにも私には感じられない程度。

 ちょっと古くさい見た目で実際古典的といえるだろう古い設計。マニュアルピックアップなんて1932年登場の元祖フルベールアーム搭載機であるハーディー社アルテックス以前に遡るよな設計である。でもとても理にかなって合理的な、道具を知ってる人間が作ったリールというのがありありと使ってみて分かる。ハンドルノブ一つ取ったって、私の大好きなコーヒーミル型のが付いていて握りやすい。コーヒー豆挽くなんていう日常の中で、永い年月の中で落ち着いた形が握りやすいなんてのは言われてみればそうなんだろうなと納得するけど、なかなか思いつかないだろう。
 これは懐古趣味的なアンティークリールという性格だけで語れない立派な実用機だと、だから米国では望まれて復刻されてるんだと、まだ魚も掛けてないうちから気が早いけど、現時点で確信している。しかも自分の想定している使い方、具体的には「ドラグは6,7キロ程度で魚を無理矢理止めず、ファイト時ラインはポンピングで竿で稼いだ分巻いてゴリ巻きしない」で壊れそうな部分が、唯一気に入らないハメ殺しで特殊な工具とかないと交換できそうにないラインローラーのベアリングの腐食ぐらいかなという感じで、予備にもう1台持っておく必要もない気がしている。
 扱いに慣れて習熟する必要はあるかもだけど、使いこなせば荷物を減らしたい遠征とかにおいて有利で信頼できる強い味方になってくれそうな気がしていて、この大きさのリールについては、今後706Zを主軸に据えることも視野に入れて行きたいと思うのである。
 惚れたゼ706Z!!7500ssちゃん浮気してゴメン!


 というわけで、706Zや430ssgあたりの単純な機構のリールが私の最後のリールになってくれるのだろう。ただ、男にとって死に水とってくれる生涯の伴侶と同じぐらいに、筆おろししてもらった女性が大事な意味を持つんだとかなんとか読んだことあるけど、そういう意味で初めてルアーでの釣果をもたらし、ブラックバス童貞を切ってくれたリールであるダイワのスポーツラインST-600Xも私にとって大事な思い出深いリールである。
 確かF師匠から、マグサーボ買うから使ってたスピニングを安く買ってちょうだい、ということで譲り受けて、ダイワのグラスのルアーロッド、ジェットスピンでバスハンターDR投げて足下でバコンと食ってきたのが、ドキドキの初体験だったと憶えている。
 その後、ロッドもリールも違うのに買い換えていくんだけど、捨てずにテトラの根魚穴釣りに使ったり、竿自作してのワカサギ氷結釣りに使ったりと、超小型スピニングとしてたまに出番を作っていた。写真でも分かるように手のひらに乗るような可愛いサイズである。

 ここ何年も全く出番がなかったのは、たしかベールスプリングが壊れたか何かで使用不能になってるんだったっけ?とうろ覚えなので、蔵をほじくり返してみたらワンタッチで折りたたみできる「リフトアップハンドル」の爪が折れてハンドルが固定できなくなっていた。
 そういう基本的なパーツが修理不能な壊れ方するのとかが、なんとも道具としてはいかがなモノかな感じだけど、まあハンドルの固定はなにか外からグルグル巻きにするか、逆に接着剤で固めてしまえば折りたためなくなるけど釣りには使えるようになるかと、修理してみるついでにコイツも中を開けてグリスアップしつつ使えるように調整し再起動ということになった。

 まずはぶっ壊れているハンドルをテニスのグリップテープを細く切ってグリグリと巻いてハンドルがたためないように固定。持ち運びに不便だけど小さいからそのまま袋にぶち込んでもいけるだろうし、いざとなったら写真のようにハンドルだけ外して持ち運んで使う時に組み立てりゃいいか。
 この手の小型リールのハンドルはこういう変哲もない普通に”つまめる”形状が使いやすいと個人的には感じている。
 さっき、コーヒーミル型のノブがいいって書いてたやンけ、と突っ込まれそうだけど、リールのハンドルって長さで大きく2つに分かれると思ってて、短い方は当然小さいリールに付いていて、長い方はその逆。で、その分岐点になる基準が回すときに手首から先だけで回せるか、肘も使って回すかの違いにあると思っている。短いハンドルの小型リールはすき焼き食べるのにお箸で生卵をかき混ぜる感じで、ハンドルノブを軽くつまんでクリクリクリクリッと手首から先で軽快に回す。長いハンドルの大型リールはまさにコーヒー豆挽くようにガッシとハンドルノブ手のひらで囲むように掴んで機関車ごっこでシュッシュポッポ的に肘まで回して力入れて回す。
 でも中間的な大きさってやっぱりあって、シーバス釣りとかで使うリールは普段はゆっくり軽く回してるけど、魚が掛かると力入れて急いでグリグリ巻いたりもする。このぐらいの大きさのリールにはT型ノブが付くことが一般的なんだけど、これが手の形に合わないと、私の場合ノブの根元を挟んでいる人差し指と中指の間、特に中指側が痛くなってくる。かといってコーヒーミル型だと軽く巻いてるときに”つまみ”にくいし、小さいノブだとガッシと掴めないので力を掛けにくい。ので多分人によって手の大きさや形、握り方も違うのでノブについては好みの形に換装するキットとかも売られている。オシャレなドレスアップパーツとして買われているのかも知れないけど、本来使い心地をもろに左右しかねない直接人の手と接触する部分だけに好みや最適化の幅がある部分だから売ってるんだと思う。
 写真のノブは左から950ssmのラグビーボール型ノブ。隣の9500ssの円形コーヒーミル型を楕円形にして厚みをつけたような形でガシッと力を込めて握りやすい。右から2番目の4400ssのT型樹脂製のハンドルがイマイチ私の手には合わなくて、このサイズだとまだ我慢できるんだけど、コレより大きいのは根元が細い金属製である一番右の5500SS初期型ドングリ形ノブのほうが痛くなくて好き。 

 ハンドルノブ方面に脱線したのを元に戻して修理ネタを進めると、次に外蹴り式のベールアームが当たる”蹴飛ばし”部分の樹脂製パッドが取れてたので、ワシ熊の手でベール起こす人だし、ハンドル回してベール返してもパッドなくてちょっとうるさいだけで放置でもいいんだけど、せっかくの機会なのでそれらしく修繕してみた。ふっといショックリーダーを曲げて穴に突っ込みウレタン接着剤で固定しつつ盛っておいた。
 いい加減で外れそうだけど元々が簡単に外れちまうような造りだったので気にしてもしかたないだろう。
 こう言っちゃ何だけど、スプールのスカートやサイドプレートに浮き彫り施して高級感醸し出してる暇があったら、ハンドルぶっ壊れるなんて論外な部分はもとより、外蹴りの衝撃吸収用のパッドぐらい外れないように接着しておいてくれよと思う。この時代、80年代の日本製リールにありがちな感じだけど、同じ時代でも実用機としてしっかりした造りのPENNや大森製作所のリールが、サイドプレートのシールとか結構いい加減ではげ落ちたりするのと好対照だと思う。優先順位の付け方としてシールとか見栄えは後回しの方が正しいと思うんだけど、大森はなくなったし、PENNも既にピュアフィッシングの一ブランドになってて「釣り人の皆さんちゃんと良い道具を評価して買いましょう!」とオジサンお小言いいたくなっちゃうワ。
 とはいえ見た目格好いいっていうのは使う気にさせる重要な要素だとも重々承知だけどね。今見ると、このお世辞にも高級品じゃない小型リールに細かい浮き彫りとか、実に80年代っぽさを醸し出していて正直なかなかに昭和骨董的な味わいがあって好きだったりする。

 でもって、パカッと本体の蓋を開けてみると、この頃の日本製リールの標準的な感じだと思うけど、平行巻機構は単純なクランク方式でハンドルギアはハイポイドフェースギア、逆転防止機構はローターの方にラチェット式でカリカリと鳴るように入ってて、ベアリングもローターに1個でハンドル軸には樹脂製のスリーブという、高級とはほど遠い平凡な機構となっている。でもこの程度でも正直あんまり太いラインも使わない小型リールについて内部機構的には不都合感じたことはない。結構長く使ってたけどベールスプリングもまだ折れてないしハンドルの不具合除けば値段考えたら文句言うほどじゃないかなとちょっと反省。

 というわけで、当面の出番としてはこういう小さいリール使った華奢な道具立てでセイゴ釣って遊ぶのもイイかなと思うところなので、古いグリスを歯ブラシとティッシュで落としてから、新たにぎっちりグリスを盛って「グリスシーリング」を施して本体グリスアップ終了。
 ベアリング1個しか使ってないけど、今時のリールと比べりゃそりゃショボいにしても、普段からPENNとかつかってる人間からすれば別に重くもないし多分普通に使える。愛着のあるリールだしたまにはこういう小っちゃいリールで遊ぶのも悪くないだろうと素直に思える。

 と思って、ドラグもグリスアップしておこうとドラグパッドを取り出して愕然とする。あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!
 「ドラグパッド入ってないやンけ!」
 これが仕様なのか自分かF師匠が抜いたのかも定かじゃない。でも事実としては金属のワッシャーが2枚入ってて樹脂製のドラグノブで押さえてるだけという単純機構。上の方のワッシャーは平面で軸と固定されるように穴が円形じゃなくて、下の方のワッシャーは穴は円形で微妙に曲がっている。こんなモンでドラグ効くのかとドラグノブ締めたりゆるめたりしながらライン引き出してみたところ、かなり出だしも引っかかるし出てからもウィンウィンとしゃくるけど、最低限の働きはするようだ。
 うーんひょっとして最初っからこういう仕様だったのかもという気がしてきた。
 80年代の日本の釣りの現場において、ドラグなんてこんなモンで良かったのかも知れない。事実バス釣り少年だった私もこのリールのドラグなんて締めッパでいじった記憶がない。バス釣りは障害物周りを狙うことが多いので、ドラグ出して走らせて獲るなんてことは現実的でなく、ドラグは締めておいてラインが切れるギリギリでチョロッと出てくれれば良い的な保険の意味ぐらいしかなかった。いわんやぶっとい糸で遠投してカレイだのキスだの釣るような餌釣りの世界ではドラグなんて認識さえされてたかどうかあやしいモノだ。ドラグノブはスプールを止めるためのネジぐらいに思われてたんじゃなかろうか?滑らないようにしっかり締めておかなきゃギュッとネってなもんである。ドラグについては別の機会にもうちょっと書いてみたいけど、そういうわけで高級機種でもなければ、すでに70年代には今のドラグと同じような構造のドラグがあったにもかかわらず、釣り人も求めてないし使う人もいないしで安いリールはこんな感じだったのかも知れない。

 しかしながら、セイゴ釣って遊ぼうというときに、セイゴだけ掛かってくれればコレでも用をなすだろうけどフッコやらコイやらがかかると多分ラインが切られるかハリが伸びる。なんとかせねばと考えていると、なんか不自然にワッシャーを止めるリングとワッシャーの隙間が空いているのに気がつく。これ同じシリーズの高級機種にはドラグパッド入ってて安い版では経費削減で抜いてたんじゃなかろうか?
 入るんなら入れてまえということでドラグパッドを追加してやることにした。適度に滑るドラグパッド1枚入れてグリスアップしてやるだけでだいぶ違ってくるはずだ。
 といっても古いリールなので純正のドラグパッドが売ってるわけもなく、既存のドラグパッドでも加工して作るしかないかなと思ったけど「さよならアンバサダー」の人が百均の耐熱タッパの蓋で実用充分なドラグパットが自作できると紹介していたのを思い出して、百均行くのも面倒くさいので多分こいつもそれなりに耐熱性あるだろとカップ酒のポリエチレン製の蓋を切って加工して作ってみた。
 コレを含めてどの順番で重ねればいいのか、インドの山奥の3本の棒に刺さってるアカシックレコードの組み合わせほどではないにしても、曲面のワッシャーの裏表も換えてあれこれ試して、最初の状態のワッシャー2枚の間に自作ドラグパッドを挟む形が一番滑りが安定するので、とりあえずはこれで良いだろう。暇があればカーボンシートとか試したり枚数増やしたりも試してみても良いかもしれない。

 てなことをやってたら、むしょうに当時のことが懐かしくなってきて、思わず竿をネットオークションで落としてしまった。当時使ってた「M」より柔らかい「L」型だけど飾り巻きとかシートやガイドとか涙が出るほど懐かしい。ちなみに落札価格は290円という「ゴミスピ」価格で送料の方がよっぽど高かった。でも満足。眺めてるだけでもうっとりできちゃう。私だけが分かる価値のある道具なんである。
 リールの方は意外に昭和骨董的な見た目と渓流に使うのに良いような可愛い大きさが人気なのか2,3千円からはしててゴミスピ価格だったらハンドル買うつもりで買っちゃおうかと思ったけど諦めた。まあたまに思い出して遊べりゃイイ程度なのでこの1台あれば充分だろう。

 眺めてるだけでも楽しいけど、ワシャ道具は使い倒してなんぼやと思うねン。ということで、竿は携行性考えてパックロッド使うと思うけど、スポーツラインST-600Xは今夜にでも使おうかと思っている。そのあたりは顛末記で書くと思うし、他にも今いじくってるリールのことを来週以降書いていく予定なので、こういう道具話がお好きな人はこうご期待。書いてて楽しいのでお好きな人には多分楽しんでいただけるかと。

2018年10月21日日曜日

捨てるべきか捨てざるべきかそれが問題だ

 持ち家だったらゴミ屋敷にする自信がある。借家で幸いだ。

 とにかくモノを捨てるのが下手である。別にケチでもなければお金に困っているわけでもないけど、二度と使う機会はないであろう釣り具でも服でも何でもかんでも貯めておく傾向にあって、かつ捨てようとしても捨てられない。そこそこ転勤もあって引っ越しも何度か経験しているが、その度に捨てようかどうか迷って捨てずに引っ越し先について回ってきている、使いもしないガラクタの入った箱がある。開けもしないけど、多分また次の引っ越しの時に開けて捨てるか迷ったうえで「ソッ閉じ」して持っていくんだろう。
 ナニが入っているかといえば、救命ボートに入っている非常用食糧の箱と説明書とかお土産にもらった民芸風の筆入れとか、今書いていてもいつそんなモノが必要になるかまったく理解できないが「使うかもしれん」と取っておくのである。

 いわんやおや釣り具おやというところで、少年の日初めてバスを釣ったリールとか今でも我が家の蔵に入ってたりする。ちなみにダイワのスポーツラインST-600Xという可愛いスピニングで竿は同社アタッカーだと思ってたけど今調べるとジェットスピンというグラスロッドだった。これも実家で母上が捨ててなければまだあるはずである。


 基本的に壊れた道具も部品取りとかに取っておくぐらいなので、壊れない限りにおいてはおいそれとは捨てない。直せるものなら直して使う。
 鮎シーズン終わって、今年はいつものテナガ・ハゼに加えてアユでも活躍してくれたズック魚籠がだいぶ傷んできて、底のキャンパス地に大穴空いたのはさすがにすぐに縫い合わせて穴埋めしたけど、入り口の所の網を固定する針金の枠も腐食してボロボロになっていて限界近くなっていた。

 九州で平成16年にタナゴ釣りに使っているのが左の写真で確認できるので15年近く使っていて、そろそろ買い換え時かなと思わなくもないんだけど、構造見てみたら腐食している針金で網を通してその針金の枠を樹脂製のワッカに固定している。なぜ樹脂製のワッカに網を直接通さないのか、ワッカを竹で作ってた時代からの名残が製法に残っているのか、単に樹脂製のワッカより金属の枠の方が最後輪を閉じて接続するのが簡単だからか、いずれにせよ針金か何かで新しく枠を作り直して樹脂製のワッカに接続してやれば直りそうなので、サメ用のワイヤーリーダーでチャチャッとやっつけてみた。
 網にワイヤーぐるっと通して最後はスリーブ噛まして締めてワッカに細いステンレス線で固定。ついでに吊り紐も丈夫なナイロン編み糸のシーハンター25号に付け替えておいた。
 これで網自体はナイロンのようなので腐らないだろうし、キャンバス部分が劣化して崩壊しない限りは繕いながら使えるだろう。あと10年ぐらい持つだろうか。今年もハゼはもう少し釣る予定なので頑張って欲しい。


 しかしながらさすがの私でも捨てざるを得なくなる限度というモノがある。

 左の写真のボガグリップは壊れるもんじゃないと思っているので、今回主役は繋いであるいわゆる「スパイラルコード」である。
 左のボガに繋いであるのはボガグリップ使い始めたのが2001年らしいので、はじめはロープ結んでたのを「船釣りで道具の転落防止につかうスパイラルコードが便利だよ」と教えられて、なにげにヤマシタ製のを買ったのが生き残っているので、少なくとも15年は使っているだろう。その間前後に付いていたヨリモドシ状の金具は腐食してしまい、ハズして新たにステンレスのリングとカラビナを付けてあるけど、本体はまったく腐食もしなければ弾力も失われておらず、特にメンテナンスもボガと一緒に水洗いして陰干し以外していないのにとても丈夫で長持ちである。逆に金具が死んでも延々と生き残るような樹脂って、ゴミになったら最低最悪なんだろうなと”マイクロプラスチック”による環境汚染なんかも話題になってるので善し悪しだなと思わなくもない。
 でも、やっぱり丈夫で長持ちするのが道具としては好き。
 カヤックでタモ網を繋いでいた、量販店でヤマシタ製の半額ぐらいで買った安物が、金具が1シーズンしか持たなかったのは想定の範囲内として、5年かそこら使って、ここ2年ほど蔵に保管してあったのをだしてきたら接着部が剥げていた。ヤマシタのは熱で接着してあるのか剥げずに丈夫。
 まあこのぐらいは安いししゃああんめぇ、スリーブ買ってきて締めりゃいいやとスリーブにはめてトンカチでかしめて一丁上がりと思ってたら、しばらくすると先の輪っかのところが折れてしまった。完全に樹脂自体が紫外線劣化か吸湿劣化か弾力性も強度も失ってボロボロのようである。さすがの私めも諦めて気持ちよく本体は燃えるゴミに、スリーブは小物金属にとゴミ袋にぶち込ましてもらった。
 今時は樹脂製じゃなくてワイヤーが入ってるのが多いようだけど、あんまり丈夫だと水中で引っかかったりしたときにペンチのニッパで切って脱出とかが難しくなるので丈夫すぎないのも重要な要素だと思うので、モノなくさないようにぶら下げておくためのコードなら今後もヤマシタ製のちゃんとしたのを買っておけば間違いないのかなと思ったところである。さすがヤマシタ、実用性の高いモノ作りしてる。


 捨てるモノ関係で、今年挑戦しているのが野菜クズでのミミズの備蓄で、釣り用のシマミミズ(アカミミズ)って養殖できるぐらいに飼育が簡単で、生ゴミとか食べさせて肥料にする「コンポスト」にも使われているとは知ってたけど、職場の先輩が専用のコンポスト容器がなくてもプランターに土入れたのに野菜クズやってれば勝手に増える。と仰ってるのを聞きおよび挑戦せねばと思っていたのだけど、今年グリーンカーテン用に植えたベランダのプランターに釣りでミミズが余ったら放して、野菜クズとかを埋めて半信半疑で備蓄してみたところ、プランターなんて底にも穴空いてるし蓋もしてないし逃げ放題だと正直期待してなかったにもかかわらず、意外と好調で夏からで増殖するところまではいってないけど、野菜クズの周りの湿ったあたりには「おつゆタップリ」に肥えたミミズがワシャワシャとしていて養殖とまではまだ行ってないけど「備蓄」程度にはなっているようだ。既に何度か備蓄ミミズでハゼ釣りしている。水気の多い梨の皮とかがお好みのようで、そのあたりに集まってたりする。

 明日もミミズでハゼ釣りの予定だ。前日や当日に釣具屋に買いに行かなくていいのと余ってもとっておけるのはなかなかに良い。この調子でゆくゆくは産めよ増やせよしてくれるとなお良いので、引き続き野菜クズと水やりを続けてみたい。
 
 モノなど捨てちまって、なにものにも縛られないような人生にあこがれるが、どうにも貯め込む性分のようなので半分以上諦めている。

2018年10月14日日曜日

「鮎は河原で焼くのに限る」なんてのは鼻持ちならネエ鮎師のタワゴトってわけでもないのかも


 今期の鮎釣り最終戦を終えて、真っ白に燃え尽きました。
 顛末記などおいおい書いていきますが、なかなか最後に良い釣りでした。
 正治さんありがとう。

 で、正治さんの釣った分もだいぶもらってお土産にして、何十というアユを腐らせずに胃袋に収めるために、昨夜から今朝にかけてセッセと料理した訳なんだけど、いつも近所のアユは夕ご飯で食べきれるぐらいの匹数だけ布バケツで活魚の状態で持って帰って、天ぷらかたまに塩焼きだったので、全く気にしてなかったんだけど、アユってものすごく鮮度落ちが早い。
 流通する魚介類で最も足が速い(腐りやすい方の意味でネ)はたしかスケトウダラで、今じゃ冷蔵流通技術が発達して生鮮で韓国とかに輸出したりもしてるけど、昔はそんな技術なかったので獲ったそばから船上で加工して冷凍すり身にしてしまってから流通させるという方法が北海道水試によって開発されたという、革命的な技術開発の引き金になったほどの足の速さ。だけど、一般に釣り人にもお馴染みな魚ではサバやらソウダやらが有名か。でも、これはヒスタミン中毒との関係もあって、単純な「足の速さ」比較ならカタクチイワシが最も鮮度落ちしやすいんじゃないかと思っている。マイワシの刺身はスーパーで買ってきてつくるけど、カタクチの刺身は買ってきてはつくる気にならない。スーパーに並ぶには最速で朝取れが夕方に並ぶんだと思うけど、そのころには既にお腹のあたりがグジャッとなりがちである。

 アユもそのぐらいに鮮度落ちが早い。このことはちょっと予想外だった。イワナやヤマメはそこまで早くなくて、釣ってきたのは冷蔵庫で次の日ぐらいまでは死後硬直している。

 でも今回、保冷バックにペットボトル凍らせたモノと入れて持って帰ってきたものを、その夜何匹か塩焼きにしようとして、体は死後硬直中なのに、すでにお腹が柔らかくなりつつあるのを見て、慌てて何匹か食ってしまうとともに、小さいのは翌朝の「天ぷら→南蛮漬け」に回すことにして、干し網3段が埋まるぐらいを急いで背開きにして干物にした。干物って鮮度良いやつでつくらないと美味しくない。
 翌朝の天ぷらの時にはすでにお腹が割れて内臓出かかってるのがあって、そういうのは内臓出して天ぷらにしたけど、割れてなくても加熱中に割れてしまい内臓がはみ出したりするのもあって衣が焦げ茶になってしまった。
 せっかくの鮎の内臓なのにコレじゃ楽しめないなと、煮魚にもしてみたら、なんとかハラワタの苦みを堪能できた。アユの香りは飛んじゃうけど苦みが甘辛の煮汁に混ざってこれはこれでアユらしく美味しい。沢山アユがないとやらないだろうある意味贅沢な味。

 なぜこんなに鮮度落ちが早いのかと考えると、サケマスに近いような動物食の魚が進化して「苔」なんて呼ばれる植物プランクトンを食べるために、消化管があまり長くないなか植物プランクトンの細胞壁を溶かすためにとかで、消化液が多いかキツいかいずれにせよ自己消化もはやいんじゃないかと推理してるんだけどどうなんだろう。
 そう思うと消化液出してるはずの幽門垂も大きくて苦くて美味しいように思う。

 いずれにせよ足が速いのは確かなので、冷凍保存とかは味が落ちてしまってつまらないしで、アユを沢山釣ってきたらとっとと食っちまう方針で、干物やら揚げて南蛮漬けやら保存食作るのと同時進行で急いで料理してしまうに限ると思う。
 あながち河原で食っちまうのが一番というのも大げさじゃなくて、舞台効果差し引いても美味しく食べるためには理にかなっているのかも知れない。
 同居人の母方の実家でバーベキューしてると、道路挟んだ前の川から従兄弟達がアユ船ぶら下げてアユタイツのまま上がってきてそのまま炭火で焼いて食った、ってのは確かに最高に美味しかった。

 なんだかんだで今回のアユも美味しく食べきれると思うけど、釣りでクッタクタになってる時に、何十匹も調理するのは正直疲れる作業でもあり、まあワシャ釣り師であって美食家じゃないから、持ち帰るのはサッと食っちまえる10匹も確保すりゃ充分で、あとは放生会で良いんじゃないかなと思ったところである。
 そのへんも含め、アユ初めてのシーズンということでやらなきゃ分からないことをいっぱい学んで面白かったので、料理以外のこともおいおい書いてみたい。

2018年10月8日月曜日

僕の前に道はある僕はわきに道をそれる


 昔シーバス釣りでなかなか大きいのが釣れなくて、メーターオ-バーを釣っているS水の店員さんに、なんとはなしに「デカいの釣るコツってあるんですか」と聞いたところ、店員さん曰く「永く釣ってるとある時突然釣れます。」とのことで、続けて「僕はあえて師匠についたり人に教えてもらったりしなかったんですよ。人に教えてもらってると結局その人の釣りの範疇を超えられないと思うんですよ。」ともいっていて当時のナマジ青年はいたく感銘を受けて、効率的ではなく、手間暇もかかるだろうし、目的の場所まで行けないかも知れないけれど、自分も独自路線を貫こうと心に決めたモノである。
 当時、周りの手練れのフライマンにコテンパンにやり込められていて、彼らの後ろについておこぼれ頂戴していれば食いっぱぐれはないだろうけど、彼らを越えていくことなどできるわけはないと薄々感じてしまっていて、それでも釣れれば楽しいジャンと割り切らない程度の意地があったのだと思うけど、そこそこ釣ってたフライでのシーバス釣りを放棄してルアーに軸足を移し始めた時期でもあった。
 人の真似しても上手に真似できないという技術的な問題もぶっちゃけあった。

 ということで釣りに関しては、正直いって他人が開発したような流行りの方法とか割とどうでも良いとおもってるので、新しい釣り始めるなら独学我流で結局基礎から積み上げるという地道な作業をするのが常で、なんか雑誌とかで紹介されていた方法で「簡単爆釣!」なんてしたことないので、そういうのは自分には合わないと思って、ヘラ釣り始めるときも雑誌とビデオで基礎編のお勉強と困ったらF師匠の通信教育ぐらいであとは実地で試行錯誤という感じだったし、アユ釣りに至ってはアユ雑誌すら買ってなくて思いっきり好きなようにやっている。アユではむしろアユの生態、とくに餌の変化とかがキモだと思うので、そういうアユの生態学の基礎的な読み物は何冊か読んで勉強はした。でもほとんど釣り場で見て考えている。出たとこ勝負ともいう。

 でもって、この秋、ドングリ拾いを再開しドングリスト宣言するとともにキノコ狩りにも手を出したわけなんだけど、これも師匠につかず独学で基本やっている。
 さすがに最初の獲物を食べるときには、有識者に写真をメールで送って確認とったりもしたけど(お手数おかけしました)、場所も探し方も全くの我流で、近場の都市公園でもとりあえず発生するキノコはあるようなので、湾奥のシーバスのポイント探索と一緒で片っ端が基本だなと、電車か自転車で30分で行ける近場で林があるような規模の公園を片っ端から歩いてみた。
 30分もあればぐるっと一週回れてしまうような小さな公園でも、高低差のある林道を半日かかって回るような比較的大きな公園でも、どちらでもキノコは結構出てる。これは今年の夏が暑くて9月に雨が多かったのでキノコの「当たり年」だったのかも知れないと思っている。けど、なにせ初参戦なので去年以前がどうだったのか比較しようがなく事実かどうかわからないけど、そういう気がするぐらい9月は良く出てて、特に1カ所当面の獲物であったヤマドリタケモドキとタマゴタケが良くでる公園があって、3回ほど紙袋いっぱいの収穫を楽しんだ。
 他の場所でも何カ所かヤマドリタケモドキは出ているし、食べる対象としていないというか毒茸とかも含めればどこでも9月は出ていて、「動植物を許可無く採取しないでください」となってるのが「キノコって菌類だから動植物じゃないはずだけど植物扱いなんだろうか?」というような疑わしい公園では採らないことにして、3,4カ所を定点観測していく場所にしようかなと思っている。
 
 ヤマドリタケモドキは車の通る道に面した植え込みにまでボコボコでるぐらいだし、図鑑では10月ぐらいまでは発生するとなってるからしばらく楽しめるだろうと思ってたら、今日前述した我が一番のシロ(釣りでいうところのポイント)で1つも採れなかった。
 全体的にキノコ自体少なく乾いた感じで、ヤマドリタケモドキなんかはすっかり虫に食われて腐った痕跡のようなのしかなく、傘が高くてよく目立つテングタケ類も少なく、あっても干からびて破れ傘になってたりした。これがあのキノコだらけだった9月と同じ場所かというぐらいで、やっぱり天然の産物は採れるときは採れるけど、時期を外せばどうにもならんというのは魚釣りと全く一緒。
 
 これが一時的なもので、雨が降ればまた発生するのか分からないといえば分からないけど、たぶんテングタケ類とイグチ類は夏のキノコらしいので、今後は秋のキノコが発生し始めるのではないかという気がする。
 ヤマドリタケモドキとタマゴタケが採れるのであれば、正直この2種だけ狙っていれば良いやというぐらいである。見分けるのも難しくないし、何しろヤマドリタケモドキはモドキといっても高級食材ポルチーニ茸の仲間、充分美味しい上にデカくて収穫量が多い。傘の直径18センチが最大だったけど、虫に食われてて採ってこなかったモノにはもっとデカいのもあった。
 タマゴタケに関してはとにかく味が良い。適当に天ぷら油で炒めて醤油かけてご飯に乗っけて食ったら、その旨味の強さに感動したぐらいだ。
 旨味の強い茸としては栽培モノでもマイタケとか大好きだし、椎茸とか干したら良い出汁出て最強の部類だと思ってたけど、それらともまた違って独特の甘いような旨味で、野生のキノコには旨いのがあるとは聞いてたけど、自分で採ってきたり希少価値だったりが上乗せされてて、それ程でもないんじゃないかと舐めててゴメンナサイという感じだ。天ぷらも最高だった。
 ヤマドリタケモドキは旨味はそこまで強くないけど太くて大きくて食いでがあって、傘はプルプル、柄はしゃきしゃきだし、癖がなくてどんな料理にもあいそうだし、干しても良い匂いが強くなって保存もできて非常に優秀。採れなくなると分かってれば、多少虫食ってるのも採取してもっと大量に確保して保存食作っておくべきだったとも思わなくはないけど、素人が欲かいてあんまり採りすぎるのも下品だし、菓子折入ってた手提げの紙袋1つ分ぐらいが運ぶのにも重くなくていいんじゃなかろうかとも思う。
 残してきたらその分誰かが楽しめるかもしれないし、いわゆるキノコって植物で言ったら花に当たる「子実体」という部分だから、胞子飛ばして増えてくれたらそれに越したことはない。

 というわけで、もうこれら2種が発生しないのなら、また別の獲物を設定するのがキノコ狩りを続けるなら妥当なところだろう。
 まあ、なにもキノコにこだわる必要はなくて、体力作りで半日とか出歩く間に何かついでに拾えればいいのであって、もちろん椎の実でも良いし、ギンナンでもいい。台風のあとでとある銀杏並木の公園でギンナン拾い放題で、踏まれて果肉が取れたようなのだけ選んで拾っても30分ほどで小さめのビニール袋いっぱい拾えた。
 そのあたりを保険に、ちょっと秋本番のキノコ狩りの獲物をと、しばらく図鑑とネット情報でお勉強しまくっていたのだが、どうにもやっぱりキノコの判別は難しい。
 特に、普通キノコ狩りの獲物になるような、茶色とか灰色とかのいかにも食べられそうな見た目のキノコが難しい。
 例えば、これは食べられるナラタケなんじゃないかなと思う。傘にささくれがあるし縁に筋が見える。写真撮っただけだけど折るとポキッと折れるのも特徴だそうだ。でも猛毒のコレラタケとの差ってささくれなんて木屑でもついていれば間違えそうだし、ポキっと折れるってどんなのか「コレがナラタケ」って現物で学んだ訳じゃないので現時点で分かるわけがない。たくさんの個体を見て目がデキていたら分かるのかもしれないけど微妙すぎて素人には分からん。
 もいっちょ、これもある日大発生してて、食えたらいいのになと写真撮ってきて調べてみたんだけど、たぶん発生地域からもカヤタケっぽくてそれなら食べられるんだけど、根本に白く菌糸がまとわりつく特徴まで一緒で傘の上に白っぽい痘痕があるドクササコと似すぎていて、これまた素人には手が出ない。ドクササコそれなりにおいしいらしく、症状が出るまで時間がかかるので、ちょっと食べてみて試すこともできない上に、発症すると手足の先などに火膨れができて焼き火箸をつっこまれたような痛みが、ひどいと1月以上も続くという拷問のような毒キノコ。治療法は確立されていなくて、痛み止めのモルヒネさえ効かず、直接死ぬような猛毒ではないのに苦痛で眠れず衰弱死や耐えきれず自殺というのが報告されている、というのを知ってしまえばコレも素人が手を出すべきじゃない。と思う。
 という感じで、地味で旨そうなキノコはだいたい似たような食菌と毒キノコの両方何種類もあって、素人じゃどうにもならん。
 キノコに詳しい人からしたら、特徴ちゃんと押さえれば判別可能というモノでも、たとえば魚ならそれなりに詳しい私など「イワナとヤマメが似ていて違いが分からない」とか言われると、あれだけ違うのになにが分からないのか分からないのだけど、今のキノコ初心者の私の知識はまさにそういう低い程度にあるので、詳しい人が書いている、「この種とあの種の見分け方」とかいうのを見て、そもそもその2種以外にも似てるのが多いとしか思えないぐらい分かってなくて2種まで絞り込めず、その判別方法だけでは役に立たんのである。
 ツキヨタケとか中毒例多いらしいけど、割ったら黒染みがあるとかの特徴から判別できるジャンと思ってると、黒染みないのもあるとか、混ざって生えるとか、いろんな事例を知ると、間違うことは十分あり得るという実態が分かってくる。まあツキヨタケぐらいなら腹壊すぐらいですむけど、コレラタケとかドクササコとかアタったらシャレにならない。判別間違ったときの被害の程度は獲物を選定するときに考慮すべき重要要素。

 ということで、普通キノコ狩りの人達が狙う、地味ないかにもな見た目の食べられるキノコは、もうしばらく写真撮って目を鍛えてという作業を続けて、目がデキてきてから、しくじっても腹壊す程度のから狙うことにして、とりあえずは特徴的な「変なキノコ」を狙い撃ちしてみようと、いくつかねらいを定めた。
 シメジの仲間の、派手な色のムラサキシメジは東北で連れていってもらった初めてのキノコ狩りで出会った思い出のキノコ。我が初めての野生キノコであり、その名の通りムラサキ色してて間違えそうな種も食べられるのでコレが自分の「シロ」で生えてくれたら嬉しい。
 同じように色が特徴的な、コムラサキシメジ、サクラシメジ、キシメジも似た種が少なく、判別法も分かりやすいので、このあたりのちょっと個性派のシメジたちをまずは狙ってみたい。
 もいっちょはハツタケ系。アカタケ科の傘の真ん中がへこむようなキノコたちで、このうちハツタケ、アカハツ、アカモミタケ、あたりはヒダを傷つけるとそれぞれ特徴的な変色をするので、判別方法が分かりやすい。松林に出るのが多いらしいので、あんまり注目してなかった松林も今後は見てみよう。
 とりあえずこのあたりを狙いつつ、たくさん発生する種類があったら、その都度自分の力量で手を出して良いかどうかよく考えて判断して狙うかどうか決めていきたい。

 なんとなく、今年の9月は特別で、普段生えないような公園にボコボコ出てたのをたまたま見つけて採ることができたという、ビギナーズラックが起こってたのがコレまでで、味を占めて「キノコ狩り意外と簡単で楽しいジャン」とかヌルいことを考えていると、ここから苦戦続きの修行の日々が始まりそうな気がしてはいる。ありがちだよネ。
 とはいえ、私のような狩猟採集活動が好きな人間は遅かれ早かれ、キノコ狩りも始めることになっただろうと思う。
 いつかやるんだろうなと思ってた、ヘラ釣りもアユ釣りも始めたし、縁はないだろうと思ってたインスプールのリールにも手を出してしまった。
 
 昔、アメリカナマズ釣りをしてて、近くで鯉釣りしている釣り人と話をしてて、その後彼が数本並べてたゴツい竿を片づけ始めて1本だけにしてしまったのを見て「竿の本数が多い方が確率高くないんですか?」と聞いたら。「だいたい今日の食ってくるコースは絞れたので、竿一本でも食う奴は遅かれ早かれ見つけて食ってくる。竿が多いと絡んだりじゃまなだけ。」といっていてなるほどなとコレまた感銘をうけたものである。
 いつかヤル運命にあったことについて、どうせならもっと早く始めていればと思わなくもないけど、そんなこと考えてもせんないことで、むしろ「何かを始めるのに、遅すぎるということはない」とはよくいわれることだけど、まさにそのとおりと感じていて50前の手習いで始めたけど、なかなかに楽しめている。
 やりたいことやら興味があることがあるのなら、やっちまえばいいっスよ。