2019年4月27日土曜日

嵐に闘え反逆者

 潜在的な保菌者だったのかもしれないけど、直接的には中古屋のワゴンでオリムピック社トゥルーテンパー727と出会ってしまったことが原因の急性インスプール熱発症に端を発し、一時的な小康状態を何度かむかえつつも、その度に再発を繰り返してきたスピニング熱もやっと今度こそ寛解に向かいつつある。と思う。よね。たぶん。希望的観測をもって。だと良いな。どうだろうね?
 とにかく半年がとこ頭の中を常にスピニングリールのベールアームがクルクル回ってるクルクルパー状態だったんだけど、今は新しい主力機となりつつある720Zを使うのが単純に楽しいって程度で、一時期の、分解整備して遊べるならどんなリールでもかまわんぞッ!ぐらいの勢いは全くなく、台数も規制値90台を1台割り込んで89台となり「まあ、よっぽどの出物があれば買えば良いさ」ぐらいに余裕の心境である。
 苦しいところを乗り切って、私は生還したようだ。ヤレヤレだぜまったく。

 という状況に思わぬ所に落とし穴が待っていた。現在私は突発性ポッパー症候群に冒されつつある。
 久しぶりに往年の名作「BHポッパー」でフッコ釣ったら、シーバス釣るためのポッパーがどうしても欲しいッ!!アタイもう我慢できないの!ってスピニング熱治ったところでおかしな物欲はナニも治まっておらず、むしろ日和見感染状態でメバル用シンペン症も同時発症してしまいそうでヤバかった。

 そんなもんオマエ、いっつも使ってるチャグバグがあるやろが?という一人つっここみは発症中の人間には意味をなさない。
 ポッパーなんて正直シーバス釣るためだけなら何でもいいんだと思ってる。竿先でチョンチョンしながら巻いたら適当に飛沫あげてポコポコ音してくれれば充分で、そんなもん売ってるポッパーほとんどそういうルアーだっちゅう話。
 でも、世の中にはよりどりみどり選びたい放題の多種多様なポッパーが存在して、ちょっとずつ違っててお好きな人にはその違いがまた楽しめる汁気のある部分なんである。
 ポッパーを大まかに分けるなら、まずはポッパーとチャガーとダーターに分かれるんだろうか?ただ引きでは潜って泳ぐダーターはまだ分かりやすいけど、ポッパ-とチャガーは正直違いがよくわからん。名前からチャガーなんだろうなというチャガースプークやらチャグバグ(旧型)が水平浮きなので水平浮きがチャガーかっていうとズイールのチマチマサーブとか水平浮きでもあんまりチャガーって認識されてないので、そのへん曖昧なんだと思う。気にしないでおこう。
 写真の上からダーターの代表「ラッキー13」のベビーとタイニーサイズでポッパーとして使うとポコンと音させて潜った後に後ずさり気味に浮き上がるので小場所でネチネチと粘るのが得意。タイニーでは小バス良く釣った。シーバス釣るならむしろポッパー的に使うよりユルヨタな感じで泳がせるダーターとしての方が出番あるかも。
 真ん中はポッパー代表の「ポップR」でバス釣りの世界ではつとに有名。ワシもお世話になりました。
 一番下がチャガー代表の「昔のチャグバク」。水平浮きでペンシルベイトのようなきれいな首振りがお得意。

 っていうあたりは既に我が家の蔵に転がっていて、それで充分な気もするんだけど明確な目的があっての物欲でない病的な物欲は始末が悪く、なんか分からんけど持ってるのと違うのがとにかくほしいのである。
 そもそも「(旧型)」「昔の」と書いてることからお察しのとおり、っていうかこのブログ読んでる人たちには常識かもしれないけど、チャグバグには、ラパラ傘下になった現行ストームブランド版のもがあって、それは既に例によってごっちゃり買い込んで蔵につっこんであって全然ポッパーの弾数的には困ってないのである。
 ちなみに写真ので全部じゃなくて、あちこちのタックルボックスに入ってるのはメンドクサくて出さずとも新品在庫と普段のボックスに入ってるだけでこのぐらいはある。まあ、主力のポッパーとかどこのご家庭でもこの程度は在庫されていることだろう。サイズは6センチの小っこいのがフッコ釣るには出番多し。

 で、ほかにもクロダイ釣ろうかなとか思ったときに、クロダイポッパーの火付け役に敬意を表して買ったザブラポッパーの黄色スイカ色とかついでに中古屋で安かったのを買ったポップXとかもあるんだけど、もっと別のも欲しいのである。人間はその欲望によって万物の霊長として進化し、その欲望によって滅びの道を歩むって感じが、自分の物欲を省みて強く実感できる。足ることを知れば人は幸せに生きていけるはずなのに、なぜ愚かにも多くを欲してしまうのか。ああっ!そうだとしても、欲で滅びる運命と書いてサダメだとしても、オレの魂がポッパーを求めてやまないのである。
 
 ちゅうことで買いました。えぇ買いましたともたんまりと。
 ちゅうても、わし別に80年代のヘドンもののチャガースプークとか大枚はいたいて買い求める人種じゃないので、基本、ラパラ、プラドコ、デュエル系の人なんである。
 ラパラは傘下のストームブランドのチャグバグ買いまくってあるしスキッターポップも持ってるし、プラドコはポップR持ってるしでデュエル(旧ヨーヅリ)から行ってみました。今回漁具系ルアーメーカーもう一方の雄ヤマリアはシーバスというより名作ポップクィーンとかシイラのイメージなので中古屋で1個買ったのみ。
 シーバス釣る場合のポッパーは一カ所で粘るというよりタダ引きにところどころ竿先で”ポップ”させるぐらいで使うことが多いので、太めで一カ所で粘るの得意そうな3Dインショアポッパーは無視して、たぶん昔は違う名前で出てましたな感じの、シルバーポップ75と3DSポッパー65がネット状の評判もおおむね「安いけど釣れる」といういかにもヨーヅリっぽい好評だったので新品中古双方から攻めてみた。
 まあ、このぐらいあればとりあえずデュエル方面は良いかなと。
 試投もしてみて、まあこの手のポッパーで失敗作作れって方が難しくて、普通に”縦浮き系”で後方重心で飛距離も出るし適度に首振りながら音も飛沫もどちらもそれなりにという平均的に良くできた感じのバランスに仕上がってて流石世界のYO-ZURIブランド。
 でも、優等生すぎていまいちものたんない。

 もっとアクの強い個性派はおらんのか?と考えて、そういえば昔のチャグバグは今思うと灰汁が強かったなと年寄りは懐かしく思い出すのである。
 現行チャグバグは縦浮き(系の斜め浮き)ラトル入りの現代風な標準的なポッパーとして昔のチャグバグと見た目同じなのに機能は更新されてて全く別物になっている。
 昔のはラトル入りのラトリンチャグバグもあったけど、基本ラトルなしで水平浮きで今時のポッパーみたいに後方に重心がないので、飛距離が出しにくいっていうか、クルクル回って失速するのはまだしも、変な曲線をえがいてどこに飛ぶのか分からん感じでなかなかに投げづらかった、しかしながらオモリなんか入れてないだろう水平浮きの軽いボディーは水面で軽やかにポップ音を奏でて地味に飛沫飛ばしつつ、竿先一つできれいに180度近いターンを決めてくれたものである。
 でも眺めて楽しむのには昔のチャグバグも良いけど、実釣にはあんまり向かん。そこそこ良い値段してるし弾数そろえられん。
 ということで”水平浮き系”のポッパーぐらいあるだろうと探してみたら、意外に少なくてハンドメイドの高級品をのぞくと、プラドコのレーベルブランドからポップRの細長い版「スーパーポップR」をさらに後方のラトル兼オモリを小さくして横浮きにした「チャグR」というのがあったので中古とかで買ってみたら、そういえばこれ蔵にも新品があった。
 後は廃盤だけど日本製でスミスハトリーズのトレッピーというのとティファのスリックポップというのも買ってみた。
 しかし、アメリカンルアーの型同じでオモリだけ換えて違うルアーにしてみました。っていうのが合理的なアメ人らしくて笑える。チャグバグなんて典型的な水平浮きポッパーを斜めに浮かしたらあかんだろっ?と最初思ったけど、使ってみたらすぐ納得した。充分以上に縦浮き系ポッパーとして優秀なものになっていた。見た目一緒だけど実体は全く違うルアーとして新たなルアーが爆誕してた。ルアーなんて結局そんなもんで細かい外側の造形なんて些末な事項で、重心位置とか比重とか、そういう動きに直接大きく関係する部分がしっかりしていれば魚ぐらい釣れるものになるって話である。米国の釣り人は流石にそのへんよく分かってるんだろう。日本人釣るのにはまた別の要素があって”新開発”ですって見た目違う方が売れるんだろうけどね。その点世界のルアーメーカーであるデュエルはさすがの商売上手で、金型変えずに名前とか色とかパッケージとか変えて売り続けてる。昔からのファンは廃盤になっても同じような後継版が買えるので安心して愛着もって使えるし、新参者はなんか最新型っぽいルアーが安いって喜んで買ってくれる。誰も損してない。だから中古の弾数多くても一票入れる意味で新品も買う。千円しないしね。

 で、こいつらもシーバス釣りで日没待つ間とかに試投。
 投げてみるとチャグRは昔のチャグバグに近い。竿先で弾くとちゃんとクルックルと首振ってくれる。投げたときにたまにクルクル回って失速するのまで似てるけど昔のチャグバグほど酷くはなく結構遠投性もあって、いかにもレーベルなカラーでもありなかなか良い。だいぶ満足して症状治まってきた気がする。

 お次のトレッピーはやや小粒でサイズ的には現行チャグバグ小サイズでちょうど良いかなと思ったけど、これハトリーズだけあって結構芸達者で、ポップしながら頭水中に突っ込ませたりもできる。
 バス釣りとかで障害物際で小技効かせて楽しんだら面白そうだけど、逆に早め連続の動かし方では安定してポッピングしにくく潜ってしまったりして、ちょっと私がシーバス用ポッパーに求める性能とは外れるのでまた別の出番もあるだろうから蔵に入れておこう。

 最後のスリックポップがなかなかに良くできてて、後方にオモリが固定されていることもあって投げたときに姿勢が安定していて飛距離がかなりでる。
 しかも首振りがペンシルベイトのスケーティングみたいで、その動きが連続的に首振らせても破綻せず安定している。
 本体に入ってて転げ回るラトルがかん高い音なのだけは好みじゃないけど、そのぐらい目をつぶってやるのは問題ないぐらいに全体としてデキが良い。
 多分昔のチャグバグを意識して作ったんだと思うけど、改良されて上手に仕上げられているように感じた。日本人は”改良”が得意だというのが定説だけどさもありなんというところ。
 実際には使ってみて魚に判断してもらわないとだけど、まあ良い線いくんじゃなかろうかと思っている。こういう売ってた当時人気があって中古で弾数多く安く買える廃盤のルアーって流行が終わったってだけで釣る力は変わらないもんである。

 という感じで、それなりにポッパー欲も満たされて症状も治まりつつお届けした、久しぶりの「ルアー図鑑うすしお味」第40弾はシーバスに向かって投げてみるポッパーたちで行ってみました。
 それでは皆様連休中良い釣りを!!

2019年4月20日土曜日

PCチェアディテクティブ 「PENN101」編


 「PENN101」は日本製です!メイド・イン・ジャパン!!

 驚いていただけただろうか?
 私もネットフリーマーケットで2500円でベールスプリング破損状態のこの個体を見つけて「なんかシマノみたいな見た目やな、70年代から80年代にかけての日本製品の攻勢に対抗してそれっぽいの作ったンやろな」と思ったけど、届いてフットの裏に「MADE IN JAPAN」の刻印をみつけて、PENN社が日本でリール作らせてたことがあるという意外な事実に驚きを禁じ得なかった。
 考えてみればスピンフィッシャーも第4世代は中国製だし、日本で作らせててもおかしくない話だけど、見た目からももろ80年代のリールだけに、その頃のPENNはメイドインUSAだろうという先入観があった。

 マニアな方々にはナニを今更というネタかも知れないけど、面白いネタリールを入手したので、ついでにちょっと突っ込んで「はたしてこのリールを作ってたのは日本のどの会社か?」っていうのが今回のパソコン椅子探偵の推理であります。
 PENN好きの方々はじめ皆様にも楽しんでいただければ幸い。私も楽しく推理してました。

 まずは基本事項の確認から行く。ついでにベールスプリングも替えスプールも買わなきゃなのでいつものように「MYSTIC REEL PARTS」さんのサイトを参照する。
 このリール「PENN101」はPENNの「シルバーシリーズ」という一連のスピニングリール達の一番最初の一番小さい機種のようだ。想像通り製造されたのは80年代初頭から80年代後半にかけてで、その後は「C」の付く後継機種が出ていて最後の「CS」の付く機種は2006年まで製造と結構な長寿シリーズになっていて、「予算重視の釣り人に質の高い選択肢を提供」という感じでスピンフィッシャー等と比べて安めの価格帯で米本国ではそれなりに売れていたようだ。
 一方で日本製の安いPENNをわざわざ日本で買うなどという人間は、だったら日本のメーカーの買うよ、って話で想定しにくく、日本には正規に輸入されていないモデルかもしれない。私も初めて見て珍しく思ったので買ったわけである。
 ちなみに最初のモデルが日本製で、「C」以降は中国製。80年代終わりには安いリール作らせるなら日本じゃなくて中国ってなったようで、90年代日本は泡々とした景気の良さがあったけど、世界の工場の座はこのあたりから既に脅かされつつあったんだなとみてとれる。
 ただ、日本製とは記述があり明らかなんだけど、どこの会社が作ってたかなんてのは情報が無い。まあ、あたり前である。ワシもスピンフイッシャーの第4世代が中国製だということは知ってるけど、中国のどこで作ってるのか「○×公司」だろうが「△▼集団」だろうが気にしてないってのと同じだろう。”PENN使い”を自称するならそのぐらい知っとかんといかんのかしら?

 というわけで、ここからが探偵の推理のしどころになるわけだけど、まずは見た目から行くと「シマノっぽい」と最初感じたのは、最近こういう配色のスピニングとしてはシマノがD・A・M社と提携して作った「SLS2」を見ていたのでそう思っただけで、80年代当初は国内各社どこでも似たような黒銀のスピニング作ってたわけで、シマノっぽいと言うよりは日本製っぽい見た目というのが正しくて見た目じゃどうにもならないような
気がする。
 一応いろんなリールの写真と見比べて、ハンドルノブの形状とかオリムピックのランサーとかに似てるなとか、ドラグノブの作りがちょっとこれまたオリムピックのエメラルド350にも似てるなと思ったけど、金型一緒という程一致せずおそらく似たようなのどこでも作ってたんだろうなという程度。
 じゃあ、清掃がてら分解していって部品見てみましょ。
 ドラグは普通に3階建てでドラグパッドはテフロン製。当時やっすい国内向けのスピニングにはまともなドラグ入ってなかったけど、そこは依頼主がPENN社だけあってしっかりしている。

 ハンドルを外すと、共回りじゃなくて”ねじ込みハンドル”でかつ、ネジの切り方が先と奥で太さを変える方式で、この方式なら日吉産業か?と思ったんだけど、太さ変えてる境目にちょっとネジが切ってない隙間が空いているのが特徴的で、こういう細かい癖は重要だと思うんだけど日吉産業のスピードスピンのハンドルネジの写真を見るとそうはなっていないので違う可能性が高い。他のメーカーでねじ込みハンドルってどこだろう?と謎が深まる。


 でも、蓋をパカッと開けて逆転防止機構の歯がハンドル軸のギアの上に設けてあるのをみて、直感的に「アッこれダイワや!」と思う。吸収した稲村製作所の流れをくむらしいインスプールの「7250HRLA」が下の写真のとおりやっぱりハンドル軸のギアの上に逆転防止の歯を切っていた。
 ただ、ダイワがねじ込みハンドル作ってたってのも違和感あるけどそれ以上に、自社ブランドでアメリカでも勝負していたダイワがOEM(相手先ブランド製造)ってのは80年代にもなってなかったんじゃないかという気がして、一旦保留で他の部品とかも見ていく。
 細かいところで、蓋の位置決めのための突起がネジ穴の横に設けられているのを見てリョービの「メタロイヤル」を思い出したんだけど、この手の”位置決め突起”は日吉でもダイワでもやってたようで製造元を特定する決め手にはならないようだ。

 平行巻機構のクランクを主軸に固定する方式は、クランクの端を折り曲げて主軸の上下を包むようにしつつ、ネジじゃなくピンを貫通させてピンの上下は本体と蓋に切った溝に填めている。
 これは特徴的なうえに、どっかで見たはずだけどすぐには思い出せずに悶絶しそうになりつつここしばらくの分解清掃時のデジカメデータを見直して確定した。ダイワの安リール「スプリンターマックスST600」だ。ちなみに左の写真でも確認できるように、このリールには”位置決め突起”も認められる。
 
 ここまで来ると、違和感はあるけど”ダイワ製”と考えざるを得ない。謎は多分解けた。
 部品を全部ダイワの自社工場でまかなってたかどうかまでは怪しいけど、全体としては”ダイワ製”のPENNリールであるというのが、今回の私の推理である。
 考えてみれば、ダイワは昔一時期PENNの輸入代理店もやってたようだし、付き合いも深かっただろうからありそうな話に思えてくる。今では考えにくいけど、シマノは独逸D・A・M社のリール作ってたし、ダイワは米国PENN社のリール作ってた、そんな時代もあったんだってことだろう。

 あー面白いネタリールだった。で、終わらせても良いんだけど、それだけで終わらせるにはもったいないぐらい良くできてるリールだと感じる。ベールスプリングが長持ちしない消耗品なのは、この時代コイル式の特許が押さえられてたからいかんともしがたかったんだろうけど、その他の部分は、かなり使い込まれた個体のように見受けられるけど、不具合生じているのは固着したまま使われて溝が掘れてしまっているラインローラーぐらいで、それもベールスプリングと一緒にまだ在庫あったってぐらいで問題なく復活。実戦投入も想定してスペアスプールもゲットしたら箱の日焼け具合が時の流れを感じさせてくれて趣深い。
 ボールベアリングはローター軸に1個しか使ってないけど、ハンドル軸はステンレスっぽい丈夫な素材だし、それを受ける本体と蓋はアルミの本体で直受けしているんじゃなくて黒い樹脂製のブッシュがはめ込んであって、今でもガタなく滑らかに回っている。
 ベアリング数少なく、ハンドルノブとかも安っぽく全体的に安上がりに作っているにしても、だからといって耐久性やらをないがしろにはしておらず、ドラグもしっかりしたのが入っていて、同じダイワが作った安リールだとしても日本国内向けのがもう少し後の時代のモノでさえまともなドラグさえ入ってなかったのと比べると、リールという道具を”使える”釣り人達を対象にしていることが良く分かる。

 常々、市場に魅力的な道具が売ってないのは、あるいはろくでもない道具が売られているのは、買う側の責任が大きいと思っているし書いてきた。でもまた書く。
 もちろん作る側、売る側が良いものを作って提案して普及していくなんていうのも大事だと思うけど、そんなもん売れやンかったら商売にならんって話で、売れる物を売るのが商売の基本であるのは仕方ないと思う。
 バカみたいに高い道具をありがたがったり、すぐに飽きて新しくモデルチェンジした機種を欲しがったりという日本の釣り人が、今の道具を求めてきていて、それにメーカーが応えているというのが事実だろう。
 米国でも欧州でも、金持ちの買うトローリングタックルとか別だろうけど、日本みたいにはバカ高い釣り具は売れないと聞く。ガイドなんてSICじゃなくて酸化アルミ系の実用上問題ないのが付いているのが普通のようだ。
 そのかわり、すぐ折れたり故障したり、まともにドラグが機能しないとか、道具としてダメなのは市場からすぐ消えるそうだ(の割にアグリースティックのガイドが改善される兆しがないのはなんでだろう?)。

 米国では最新式のも売れるけど、ダイワのトーナメントSS(買ったんじゃねぇですダ、SUZUKIさんちの米国版SSトーナメントの写真ですダ)のように基本性能がしっかりした実用機は長く売り続けられてきたし、PENNの706Z、704Zの復刻のように古くても良いものを評価もしている。米国の釣り人は道具を使いこなしているし道具を見る目があると敬意を覚えるところだ。



 日本の釣り人も古くて良いモノを好む層は多くて丸ABUやらインスプールスピニングやらを好むマニアは一定数いる。
 ただ、最新式かアンティークタックルかの両極端でその間の実用機を好む層が少ない歪な市場だと強く感じる。日本の釣り人は釣り具を本当の意味で使いこなせていない気がする。多くは小手先の技巧でなんかクチャクチャやってるようにしか見えない。
 最新鋭、最高の道具を使うことなんて、魚が居る場所の魚が食ってくる時期に釣りに行くことに比べれば、てんで比較にならないぐらい優先度の低い事項のはずで、あんまりそんなしょうもないことにこだわるなよと、もっと他に考えるべきことがあるだろうと思う。別に釣り具ぐらい自分が気に入って使いやすければそれで良くて、そんな程度の機能であれば、半世紀は前の道具で既に備えていたんだから、あんまり極端に道具の”性能”にこだわってくれるなと言いたい。
 とんがった先鋭的な道具がそういう釣りを求める一部の層のために売られているのは良いと思う。ただ、そういう尖った方向性の道具を普及品にまでもってこようとするのは止めてくれといいたい。
 具体的に書くなら、リールはまあ良いといえば良い、べつに今の普及品のリール使えといわれれば私でも普通に使えるだろうと思う。竿がもうワシには使えん”軽量・高感度”なのばっかりになってる。そういう道具を使いこなせるほど日本の釣り人平均的に上手になったのかっていったらそんなわけなくて、実態として下手クソなんで、感度は良いけどその分アタリ弾きやすい竿使って「ショートバイトばかりで苦労する」とか分かったような口をきいてるんだと思う。バカくせぇ。感度多少悪くて重くて丈夫なダルめの竿なら勝手に掛かって釣れてる魚をみすみす逃してるとしか思えないんだけどどうなのよ?みんなが魚が吐くより早くアワセ決めまくってるわきゃないでしょ?って話。
 自動車の技術開発するのに自動車会社がF1参戦しても良いけど、買い物行くのにレーサーでもない人間がそのままのフォーミュラーカー使おうとするなよって感じだろうか?自分の技量がレーサー並だと思いあがってる素人が日本の釣り人には多すぎるんだと思う。
 まあ仕方ない気はする。釣り番組でも雑誌でも、たいして難しくもないような技術をさもおうぎょうに言い立てて煽って「このタックルなら簡単にできます!」ってな具合に宣伝してるんだから、”釣りの技術”自体がその程度だと思い込まされている釣り人が多いのは想像に難くない。
 ”釣りの技術”って上手な人はほんとに信じられないぐらい上手で、私のような技術は下手と自認している釣り人が一生かかってもできないようなことを平気でやりよるモンである。いうてもワシも40年から釣りしてきた人間であり、素人と比べれば技術もあると思うけど、上手い人はナニが違うって見た目地味な基礎の技術がだいぶ違う。投げる正確性と投げにくい位置から投げる方法とかの応用とか、キッチリ底をとるとかそういう40年もやってきてたら誰でもある程度デキてるはずの差が出にくいような所でなお明確に差が出てしまって釣果に差が出るという恐ろしさ。
 そういう恐ろしさを身に染みて知っていると、いわゆる”技術”でどうにかしようとする方向性は早々と諦めざるを得なくなる。ワシャ20年は前に諦めた。
 ”技術”でさえ、釣りにおいては一要素でしかなく、他にやることはいくらでもある、ましてや”道具”なんていうので安易に改善できる要素などたかが知れている。にもかかわらず悪いのが”自分の腕”じゃなくて道具のせいだと思いたがる釣り人のなんと多いことか。
 釣れてる人間が釣れているのはルアーやら竿やらが良いからってことじゃなくて、本質はその良い道具を”使いこなせている”からだっていうことを分からん間抜けの多いことよ。
 どうも日本人は真面目すぎて道具にも高性能とか高機能とかを求めすぎる嫌いがある。それが行き過ぎると道具に心理的に依存してしまい”最高”とされる道具じゃないといけないような強迫観念にとらわれる。道具なんて遊びの釣りにおいては、大事な要素ではあるにしてもむしろ”楽しさ””面白さ”の方が重要なはずだ。
 で、日本のメーカーは世界でも有数の技術を持ってて、日本の釣り人が求めさえすれば、どんな道具も作ることができるはずである。なんたってPENNリールさえ作れるんだから。
 だからもっと、特殊なマニア向けじゃない、実用的で長く使えて愛着が湧くような道具を選んで一票投じて欲しいと思うのである。

 軽く10年以上にわたってスピニングリールをスピンフィッシャーの第3第4世代だけで済ませてきた私が、ここ半年近く偏りはあるにしてもいろんなスピニングをいじってきて、魚を釣るための基本は40年前のインスプールスピニングでも既に備えていて普通に今の環境でも釣りが楽しめると実釣を通じて理解できた。
 実釣で問題生じるような悪い意味でのゴミスピは、むしろ日本のリール作りが試行錯誤を重ねる中で、日本の釣り人がスピニングリールというモノを良く分かっていないことから、その日本の釣り人の要望を反映した結果で歪んだ結果のものだというのも理解した。ドラグ使わない釣り人にドラグの良いリールが評価できるわけがない。
 でも、そういう失敗もあった試行錯誤の中からしか次の段階へは進めないというのもまた真実で、行きつ戻りつ遠回りをしつつも道具は進化してきていて、ナマジ的には小型のスピニングは樹脂製で瞬間的逆転防止機構が搭載される前ぐらいに完成の域に達したと思っている。
 その後の進化は蛇足で、値段が高くなって故障する箇所が増えただけだと現時点では思っているけど、それもまた必要な遠回りでそういう無駄を経て、今後素晴らしい傑作機が生まれるのかもしれない。
 430ssgの逆転スイッチさえ省略の単純さや、テイルウォーク”クロシオ”のマニュアルベールリターン機とかの発想なんていうのは、既存のスピニングリールの概念を取っ払って改めてナニが必要かを考え直さないと出てこないはずで、なかなかに鋭かった気がする。
 完璧なスピニングリールなど個人の胸の中にはあるにしても現実には存在し得ない。そうであったとしてもそこをめざし続ける限り、良いものが生まれるハズだとは思うけど、釣具屋は釣り人が求めるモノしか作れないんだから、釣り人がもっと釣り道具を理解し愛していかなければ良いものは生まれないと思う。
 正直、ベアリング数が”つ抜け”してるような機種は歪な道具だと思っている。そういう歪な道具を信仰しているような輩に冷や水を浴びせるようなことを書いて、書くだけじゃ説得力がないだろうから、ボールベアリング非使用のリールでも魚を釣っていかねばならんと思うのである。
 メーカー側のテスターやら雑誌やらが偏ったことを言ってくるので、バランスを取るためにも何者にも縛られることなく好き放題書けるお気楽ブロガーの務めとして、疑いもなく体よく騙されている釣り人達の顔を釣った魚のシッポでペチペチして目を覚ましてやらねばならんと思うのである。目が覚めてもそれでも好きなヤツがそれを求める分には勝手にしろだとは思う。

 スピニングリール熱は今度こそ快方に向かっていると信じている。だって、もう欲しいリール思いつかないんだもん。手を出すことはないだろうと思っていた往年の名機もアルチェードで経験したし、大森のインスプールもマイクロ2世を手に入れているし、何よりPENNの714Z、720Zがワシ好みの良いリールなのでしばらく他はいいかなという気がしている。中古屋のワゴンにもそうそう掘り出し物が湧いてくるわきゃないし、このまま完治を目指したい。
 また面白いブツを手に入れたら書くとは思うけど、それまでスピニングネタは一旦終幕ということでお付き合いいただいた皆様には感謝を、手元に残した90台のリール達はこれからもよろしくお願いネ。

2019年4月13日土曜日

すべてがZになる?


 以前、インスプール初心者にはベールを手で閉じようとする”熊の手”対策でベール反転レバーの保護のための”棚”がローター本体から張り出している機種が良いよ、とお薦めしたところである。
 まったく今でも「ワシ、我ながらイイこと書いてはるな」と思うところだけど、そういう”初心者用インスプールスピニング”の中でも、PENNスピンフィッシャーの714Zはダントツにお薦めできるリールじゃないかと感じている。
 ハッキリいってつまんないぐらい良くできていて、釣っててライントラブルだのが全くないとまではいわないけど、それはスピニングならどれでもそうって話で430ssgと同程度には気持ちよく問題生じずに使える。
 使えるから魚も何の問題もなく釣れる。少なくとも道具を言い訳にしなければいけないような不具合は生じそうにない。釣れてないのは腕が悪いせい。
 だって、初陣で仕留めたのが写真の80のコイだったんだけど、ドラグも流石PENNというかんじで安定して効いてくれるし、”投げて巻く”部分についても思いのほか調子が良い。とくに飛距離は直径大きな浅いめのスプールって実は有利なんじゃないか?って感じるぐらいに放出性良く飛んでくれる感じがあって投げてて気持ちいい。
 さすがにウォームギアは巻きが重い部分はあるけど4300ssや430ssgで慣れているので気にするほどのこっちゃない。ワシ、魚かかったらゴリ巻きせずに基本ポンピングで竿でよせた分だけ巻くから「重くて巻けない」とかいう、そう書いてる記事とか見る度に「ポンピングしろよ、それがいやならベイト使っとけ!」と心の中で突っ込まなきゃならんような台詞は吐かなくてイイけんね。まあコイの80問題なくあげときゃ春のシーバスならメーターぐらいまでは問題ないんじゃないの?釣ったことないから知らんけど。
 正直、もっと苦戦して、スペアスプール頻繁に交換して「ジャジャ馬乗りこなしてやってるぜ!」ってな達成感にひたれるモノかと思ってたけど拍子抜け。右手の人差し指でラインの放出調整して糸ふけ出さないようにしてハンドル巻いてベールを戻す、という古式ゆかしい”基本のスピニングリールのお作法”さえ手に憶えさせてしまえばどうってことない。憶えるまでには何度もベールを左手で起こしそうになるけど、トゥルーテンパー先生の”熊の手対策の棚”がワシの熊の手を何度も止めて教え込んでくれてたので、714Zでは既にベール手で起こそうとすることはなかった。
 さも「使うのが難しいインスプールのリール使ってる俺ってエラい」っていう雰囲気出してくるよな”ややこしいインスプール使い”は、多分ライントラブル防止のための、ラインローラーの水平を出すとかスプールの高さ調整でラインが後ろ巻きにならないようにとかの然るべき基本を押さえてないのでトラブル多発のリールを使ってて、それを喜んでるンじゃないだろうか。気持ちは分からんでもないけどウザいよね。
 まあ、そんなわけで714Zは”熊の手対策付きリール”でデキが良いのでお薦めできるっていうのに加えて、不死鳥のように復刻版が出るカーディナルを除くと、インスプールでは最後まで生き残った部類で、日本市場で90年代まで売ってたロングセラー機であり中古の弾数多くて、かつそれ程古くなってない程度の良いのも多い。値段も高くもなく安くもなくほどほどで7、8千円ぐらいが相場とお求めになりやすい。
 かてて加えて、PENNなので丈夫で部品もまだ結構手に入るということで、ダイワやオリムピックの古いインスプールより長期運用を考えると安心感がある。
 「PENNスピンフィッシャー714Z」ピュアフィッシングさん復刻してくれないかしら?米本国では一回復刻あったらしいような不確定情報あったけど日本でも是非。

 で、なんでワレ716Zまで買ってるねン?と責められると私も心苦しい。
 つい出来心でやってしまったんです。反省してます。って感じだけど、渓流もこれまで4300ss、430ssgの大きさで私にはちょうど良くて、4200ssは小っちゃすぎて巻き癖とかキツくてダメだと感じてたので、インスプールでも714Zで良いだろうと思ってたんだけど、正月に気仙沼に置いてあったフェンウィックHMGのGFS55Jが似合うんじゃなかろうかとこちらに持って帰ってきて付けてみたら、微妙にリールが大きく感じる。スプールの径が大きいのでちょっとバランスしない感じになってる。まあそのへん好みの問題という程度なので使ってれば目がそのうち慣れるんだろうと思う。思うんだけど、もう一つ小さい716Z”ウルトラライト”ならスプールの径はそれ程小さくないようだし、よく似合うんじゃなかろうかと思ってしまい、思ったらポチッとする手を止められなかった。病気が憎いッ!憎い憎い憎い!!渓流なんていつ行く予定があるっちゅうねんッ!
 でも、おかげさまで716ZはGFS55Jのリングシートにしっぽりと似合ってくれて、アタイ後悔なんてしてないワ。ちなみに相場は714Zよりちょっと高め。
 そして買ってみるとチマチマとした発見が。
 710系Zシリーズにはハンドルの根元に油差しの穴が開いている初期型と開いてない後期型があるというのは、714Z買ったときに気がついていて、写真の上の方が後期型の714Zで下が初期型の今回買った716Zなんだけど、じつは油差しの穴以外にも違いがあることが判明。
 下の写真をよく見て欲しい。銘板が714Zでは平らなのに対して716Zではリングが盛り上がっていて立体的、っていう細かい違いより実は大きな違いがあって、後期型714Zの蓋が樹脂製なのに対して、初期型716Zは蓋が金属製なのである。よく見ると金属製の蓋の方はのっぺりとしているけど樹脂製の蓋の方は枠っぽい出っ張りがある。
 714と714Zの違いについて書いたときに、714Zになった時に緑から黒金に色が変わったと共に蓋が樹脂化され軽量化が図られた旨書いたけど、謹んで訂正したい。ま~たまた嘘書いてました。度々スイマセン。
 スピンフィッシャー710系はZシリーズにモデルチェンジした時に色だけ黒金に変わっただけでしたとさ。ズルッとずっこけるけど、前回書いたとおり見た目って重要だからイメージカラーの変更は大きかったと思う黒金好きなナマジであった。
 でもって初期型が金属蓋で油差し有り、後期型が樹脂蓋で油差し無しかっていうと、どうもそれだけじゃないようで、中期型とでもいうべき樹脂蓋で油差し有りも普通にあるようだ。PENNの場合部品共有でマイナーチェンジしながら継続的に売っていくというのが普通なので、後期型に移行しようとしたらまだ油差しの穴の開いた本体が残ってたのでとりあえずそっちの在庫から樹脂蓋付けてさばいていったというのも充分あり得るけど、それにしては数が多いので、段階的に、軽量化でまず樹脂蓋になって、その後に経費削減か機械油の品質向上とかでいらんだろとなって油差しの穴が廃止ってなったと考えるのが自然か?復刻版が樹脂蓋で油差し有りという可能性もあるかも?いずれにせよ中古市場では3タイプがあるのでお好きな人はその辺の細かい違いも楽しんでいただければ幸いである。
 お約束で、また716Zもスペアスプールとか買ってるわけなんだけど、世のPENN使いな諸先輩方の記事とか読んでると、710Z系にはベールスプリング以外で壊れやすい部品が2カ所有るようで、1つはワンタッチスプールの着脱のための主軸の先端に付いた銅製の3本の爪で、これはハメ殺しなので壊れたら主軸ごと交換が必要なようだ。もう一つはベールスプリングが強いのでベールワイヤーに負担がかかって長期使用ではベールワイヤーかベールアームが折れるというのも目にした。これはベールワイヤー交換かもしくはベールアームのベールスプリングを引っかける穴をもう少しバネを絞らない方向にズラした位置に追加で開けてベール反転の衝撃を弱めてやるという改造も紹介されていた。なので、ついでに予備を買っておくかといつもの「MYSTIC REEL PARTS」さんに発注かけようとしたら残念ながら主軸もベールワイヤーも欠品だった。っていうのもあって復刻版出たら部品の欠品も解消されるだろうから期待しているのである。本体も1票入れるつもりで買うんだろうけどさ。
 現実的には、主軸については714,714Z、716Zで共通なので3本あれば足りそうな気はするし、ベールアームはまだ在庫していたので失敗した時用に確保して、穴開けて改造を試してみようと思う。いざとなったら中古一台追加して買えば良いっちゃいいか。

 さて、では最近の釣果写真にも出てくる冒頭写真の3台目の茶色いのは何なのか、そろそろ吐いたらどうなんだ?と取調室で刑事さんに凄まれそうなので白状します。
 「スピンフィッシャー720Z」ネットオークションで買っちゃいました。
 720系には他に720、722、722Zがあって、722と722Zが誤解を恐れず書くなら”PENNが作ったミッチェル408”で720、720Zはその低速巻き版なんじゃないかと解釈している。
 ミッチェルを真似して作られたリールなんてのは”オリムピック81”みたいな完全再現を始めいっぱいあって、むしろ世界的に売れた量産機であるミッチェルの各機種に同時代においては影響されたスピニングの方が自然というか、そういう流れがあったんだと思う。今のリールがみんな似たようなのばっかりで個性がないとかいうけど、昔も売れてるヤツの真似はとりあえずしておけってノリはあったんだと思っている。
 で、ミッチェル408は60年代に登場して、720系が作られたのは70年代中程らしいけど、その頃売れまくってた歴史的名機なんだけど、なにが特徴かという話は”ミッチェル大好きTAKE先生”がネッチョリ書きまくってるので詳しくはそっちを読んでもらうにして、簡単に説明するなら、「308譲りのスポーツフィッシングに対応した手に馴染む設計を引き継いで、力の伝達効率の良い”スパイラルベベルギア”を搭載し高速化を図った小洒落たフレンチリール」なのである。
 それを質実剛健、海にも強いぜなPENN社が「ギアを作るのは我が社も得意だし、うちもスパイラルベベルギア機作っちまおうぜ」と作ると、しちめんどくせぇ平行巻機構のロアナプラじゃなくてプラナマティックなんて省略で単純にギアの上にカム乗せて往復方式、ギアはローター軸のは真鍮切削もので、ハンドル軸のはステンレスを鋳込んだ丈夫なの、ハンドルノブはごっついアメ人の手に合うようにデカいけど、ちゃんと本家のように捻りの入った樹脂製で、なんとPENNにしては珍しく全体的な造形も本家とはまた違ったアメリカンポップカジュアルな感じでオシャレに仕上がってるスピニングが誕生するのである。
 特に、初期のZ以前のモデル(当時はスピンフィッシャーの名前は付いてなかったという情報有り)の青いやつで蓋の上に魚が二匹書いてあってその魚に「PENN」「722」とか書かれているデザインのは、なんちゅうか愛らしい見た目で素敵スピニングなんである。
 ただ、そういうオシャレな部分が逆にPENNリールとしては異質で異端でいまいちピンとこない部分もあって、「722Z良いっスよ」という書き込みをいただいたときも「ワシの使うペンのインスプールは710系じゃけん」と邪険なつれない態度を取ってたぐらいだけど、その実、喉から手が出るぐらい欲しくて仕方ないのを押し隠してツンデレっていたのである。
 屁理屈こねて遠ざけておかないと、古い時代のとか結構な値段もついてるのでエラいことになりそうで「あの葡萄は酸っぱいに違いない」と自分にいい聞かせていたのである。
 でも病気だから一度でも欲しいと思ってしまったら負けである。結局買うことになる。ブクブクと底の無い沼に沈んで行くのみである。

 とはいえ、90年代まで生産されてた黒金のZでも7千円ぐらいの実用機価格が相場だし、古いのは大1枚は軽くしているので使うアテもないのにおいそれとは買えず、程度悪い部品取り用とかの個体が出てこないかなと長期戦覚悟で狙ってはいたけど、そんな都合良いやつがそうそう現れるわけもなく、部品破損個体がオークションにかけられても、PENN使いどもは部品在庫有るかどうかぐらいすぐ把握できるので意外に値段が落ちなくて全然自分の入札額では落とせそうもなかった。
 ところがどっこい待てば海路の日和ありで、蒐集家が720系まとめて何台も放出するというまたとない機会が巡ってきた。さすがにまとめて全部落とせるほど潤沢な資金を持ってる入札者はいないだろうから、人気が割れて一台当たりの競争者が減るのは明白。
 箱入り美品から、ベールアーム折れてベールワイヤー無しのボロ個体まであって、どれに狙いを定めるか吟味を重ねて最終的に落札した個体に絞った。
 ベールワイヤーは「MYSTIC REEL PARTS」さんにも在庫がないようだったので一番ボロいのは回避して、2番目にボロい個体で「ハンドル回すとスプール上下することは確認、それ以外は不具合あり」という、どんな不具合かも良く分からないうえに銘板が剥がれていて720Zか722Zかも分からんという茶色い一台に決めた。
 茶色というのはメイシーズだかどっかの百貨店で売ってた色だとか何とか目にしたことある。PENNの青は薄い空色でなかなか合わせる竿が難しいし使う人間も選ぶ気がするけど茶色は無難かつ渋くて悪くない。っていうかイイ。
 不具合の状態やら、ハンドル一回転で何回ローター回るかとか質問したくなるのをグッと我慢して値段が釣り上がるのを回避し、開始価格3000円を例によって3200円で入札して見事3100円でハンマープライス。

 無事入手できて我が家に来て、ハンドルクルクル回してみると1回転でローターは4回転。ということはギア比1:4の720Zで確定。ちなみに722のほうは1:5。低速機なら同程度の糸巻き量の714Zとも使い分けできそうで結果的に正解だったかも。
 回転は重くもなく問題なさそうだけど”それ以外の不具合”がちょっと触った段階では酷かった。
 ベールスプリングは生きているようでベールは返るんだけど、反転レバーが機能していない。まあこれはレバーを押さえるバネの取り寄せで何とかなるだろう。でもドラグがまったく効かなくて締めてもスカスカなのにはちょっと何が起こってるのか分からなくて不安にさせられた。単にワッシャーはめそこなってるわけじゃない。
 ともあれ、分解清掃して購入必要な部品を洗い出していくしかあるまい。
 とりあえずスプール周りからかなとドラグノブをはずすと欠けててバラバラと部品が抜けてくる。ドラグが締まらないのはこのせいかと思ったけど、よく考えると欠けている樹脂製の部分は、ドラグノブのナットと調整幅持たせるためのバネとドラグに押しつける金属の皿とをバラバラにならないようにまとめているだけで本質的には部品さえあればドラグは締まるはずである。本格的に修復不能かなと不安になりつつ、とりあえずもう一方の不具合である反転レバーを押さえるバネを確認すると、取り付け方が間違っていただけでちゃんと組み直したら復活した。
 ドラグノブの方はあれこれいじるもドラグスカスカのままで、どうにもスプールとドラグノブ交換必要っぽいなと思って在庫あるか確認してみたらスプールはまだあったけどドラグノブは在庫がない。これはどうにかして直さないといかんなと危機感もってしげしげと眺めていたら、主軸のスプールが刺さってるところが、主軸そのものじゃなくて座面と一連の’’スプール刺し部"になってるんだけど、その上の部分がドラグの上面より先にドラグノブの皿状の部品と接触して皿がドラグをぜんぜん押さえていない。単純な話で皿の凸凹の面を逆に組んであったので機能してなかっただけだった。反転レバーのバネといいドラグノブといい壊した人間お粗末といわざるを得ない。おかげで安く手に入ったんだけど。
 たぶんスプールを填めてる主軸の部分にわざわざ太くした”スプール刺し部”を設けているのは、太くした分接触面積を増やしてドラグが効くときの摩擦抵抗を分散させて安定させるためなんだと思う。写真右のように4桁スピンフィッシャーでも同じような”スプール刺し部”が設けてあってかつスプールのほう軸が貫通する部分には樹脂製っぽいスリーブが入っていてベアリングなんていう錆びて経費がかかって過剰で下品なものをぶち込むより実用的な設計だと感じる。

 ドラグ締めるのは問題なくできるようで、とりあえず最悪の事態は避けられそうなのでドラグノブの修繕は後回しにして全体ばらしてパーツクリーナーで洗っていく。
 ドラグの構造はテフロンパッドの3階建て方式で何の問題もなさそう。
 スプールの裏についている音出しが欠損していたけどこれは在庫があったので注文。
 蓋をパカッとあけると鎮座しておりますどとらも傘状のギアが主軸上で直交するスパイラルベベルギア。歯も欠けてないし何ら問題なさそう。
 ただ、ギアを横?に配列できるウォームギアと違って重ねる形になるので本体の厚みが必要で本体内部スカスカな印象がある。本体自体は同じぐらいの糸巻き量でもウォームギア機の714Zの方が小さくまとまっている印象。714Zは8フィートのシーバス竿にはやや小さいと感じたけど720Zはちょうど良い大きさ。
 ギアは亜鉛鋳造かと思ってたけど、パーツクリーナーで洗浄したらピカピカしててアルミ(切削?鋳造?)っぽい。軸はステンレスで、裏に設けた逆転防止の歯は真鍮製。

 ローター外してローター軸のギアが本体にネジ止めされているのを外してもボールベアリングが見えてこないので、これはれいの開放式のボールベアリングで油断してると弾が飛び散って落ちるヤツだなと、お盆の上にティッシュ敷いて慎重に真鍮のスリーブをズラしていくと、なんとビックリ弾なんて入ってねえぜ。

 このリールはボールベアリング一個も使ってません!!”ブロンズベアリング”機!なんと素晴らしい!

 我が家ではダイヤモンドスーパー99についで2台目のボールベアリング使ってないスピニングリールである。漢らしいジャン。
 グリスアップする前から普通にローター回っててグリスシーリング後は全く快調という感じで重くもなくクルクル回ってくれる。
 展開図見て確認すると、720Zはボールベアリング無しの”ブロンズベアリング機”で722Zは途中から設計変えて入れたのかもしれないけどローター軸に一つボールベアリング入れている。
 要するに、力の伝達効率の良いスパイラルベベルギアでギア比が低いのであれば、力強く巻けるので、ことさら摩擦の小さいボールベアリングなど入れなくても実用上問題ないという設計思想のようだ。逆にギア比大きく高速巻き仕様だと巻きが重くなるのでボールベアリングが必要になるという判断なんだろう。
 PENNと大森というナマジ大好きなリールメーカーが、等しく低いギア比のスパイラルベベルギア機にはボールベアリングを入れていないというのは、それが妥当な機械的解答だからなんだと思えてくる。
 実際に使ってみて、ボールベベアリングなしでも720Zなんの問題もなくクルクルと回ってくれる。回転が特に重いということはなく714Zとかのウォームギア機よりは軽いぐらいである。
 以前、ローター軸のベアリングが錆びて金属製ブッシュに成り下がっている状態の4400ssを使ったことがあるんだけど、正直重くて巻くのが嫌になるぐらいだった。ハイポイドフェースギアも力の伝達効率は悪くないはずで、あのときはギア比が高いからそう感じたのか、もしくは回らないボールベアリングの幅だけで受けていると回転が不安定で、ちゃんと最初から適切に設計された”ブロンズベアリング”とかなら滑らかに回ってくれたりするんだろうか?
 いずれにせよ今時の高級スピニング様がベアリング数10ッコ以上とかを誇っているのを尻目に、ボールベアリング無しの720Zで普通に魚を釣るっていうのは密かに「あんないりもせんベアリングゴチャゴチャ入ったリール買わされてゴクロウサン」という底意地の悪い優越感が湧いてきて気持ちよく釣りができる。
 「リールにボールベアリング入ってなくても魚ぐらい釣れまっせ!!」

 ということで、分解清掃してハンドル軸やらブロンズベアリングにはオイルを注しておいて、その他はとにかくグリスで全面を覆うグリスシーリングでグッチャリにしてやれば、じつはこの時点で欠品はスプール裏の音だし機構のみであり、無いと困るような部品の不足やら修理不能の不具合とかはなく即実戦投入できそうな感じである。
 ということで、実戦向けて調整を施していく。
 まずは壊れているドラグノブの再建。そのまま部品を順番に並べただけでも機能はさせられるけど、スプール交換とかしようとするときに、ばらけてしまうようではやはり塩梅悪いだろう。一旦パ-ツクリーナーで脱脂乾燥後、順番に樹脂のノブに填めていってドラグを押す金具の”皿”を半分ぐらい残っている樹脂製部品の填まる土手に瞬間接着剤で固定。これだけだとずれたり外れたりしそうなので、樹脂の欠けたところに熱した針金で穴を掘ってそこにカーボンの心棒を突き刺して”皿”がズレないように瞬間接着剤で固定。欠けているところ全体にウレタン樹脂を盛って防水性を高めておいた。これで皿・ばね・ナットが抜け落ちてくることは当面防げるだろう。ドラグを締め付ける動作も問題ないようでちゃんとドラグ効いてくれる。
 ラインローラー水平に角度調整するのはベールアームが金属なのでゴツいペンチ2本でちょっとずつ曲げてやれば問題ない。
 ただ、ラインローラーが固着したまま放置してあったらしく、パーツクリーナーで漬け置き洗いしても腐食した錆のようなモノまでは除去できない。
 ラインローラーの左右面は平面なので目の細かいサンドペーパーで錆を落とせるけど、曲面であるラインローラーの内側及びラインローラーが刺さっているベールアームの軸は下手に削ると偏ってしまい回転を妨げることになりかねない。
 ということで、大まかな部分はサンドペーパーで落としつつも、仕上げはラインローラーに研磨剤を塗りつつ実際に高速回転させて”あたり”をとる方式でいってみた。研磨剤は金属磨き用のコンパウンドとかがあればそれに越したことはないけど、歯磨き粉が身近な品で研磨剤入りなので使える。学生時代昆虫の樹脂包埋標本作ったときにレジン樹脂磨くのに歯磨き粉持参するように指示があったぐらいで、クレンザーほど削りすぎて傷つける恐れがなくつるつるに磨ける。
 手で回すわけに行かないのでラインクリッパーの上に付いているルーターに輪ゴムをかけてもう片方の端をラインローラーにかけてアニメ見ながら半時ほど回してやったら良い感じに引っかかりも少なく実用充分な感じに回るようになった。
 これで準備完了。とラインを巻いてみると困ったことに写真のように、えらい後ろ巻きになっている。
 とりあえずスプール座面のテフロンワッシャーを薄いのに変更してスプールを下げてみたけどまだ足りないので、あれこれ考えて、ローターの下にワッシャーを噛ませて上げる方法はこのリールは使えなさそうな構造なので、ベールアームとベール反転レバーの位置と形をいじってちょい前巻き程度に調整した。
 具体的にはラインローラーの位置を高くしたいので、ベール反転レバーを下げることでベールアームのラインローラーの付いている側を上げてやる。そうすると当然ラインローラー自体は水平だったのがベールワイヤー側に傾いた状態になるので、水平に戻すためにベールアームのラインローラー取り付け部分をベールアームの反対側に反らして曲げて調整してやる。
 これでバッチリの調整具合と実戦投入したら、ベールワイヤーの付け根が若干ろう付け剥がれかかってささくれていて、そこにラインがかかってラインローラーにかかるのを妨げてるときがあったので、引っかかる段差がないように瞬間接着剤を薄めに盛ってサンドペーパーでならしてみたら問題なくなった。以降好調で8時間労働でも特にライントラブルも生じず快適に使えている。
 ここのところの経験が生きて、壊れた樹脂部品の再建とかラインローラー角度調整、スプール後ろ巻きの補正等が、基本が分かってきているのか多少リール毎に状況違うにしても慌てることなくすんなりできるようになってきている。

 ということで替えスプール、ベールスプリング予備とかも発注して無事届いてるんだけど、落札して届いた時点でも、なくても釣りにはなるスプール裏のドラグの”音出し”以外は最初からそろってる完品に近い中古品だったという、最初不安な滑り出しだったけど結局大勝利的な落札であったとさ。
 ちなみに他に確保しておいたほうがいいパーツあるかなと確認していたら、「720Z」の銘板もあったのでコレも確保したった。見た目的にもかなり良い塩梅のイイ個体に復活した。スペアスプールも用意したしライントラブル防止のための微調整も決まって、かなり実釣能力の高いリールに仕上がっていると自画自賛する。
 私にとって、初の”熊の手対策の棚”が付いていない”インスプール初心者用”じゃないインスプールスピニングだけど、トゥルーテンパー先生、714Z先生によくお稽古つけてもらった後なので、手でベールを起こそうとするようなこともなく快適に使えている。
 ボールベアリングさえ入ってない単純なリールで、そこら辺でフッコ釣って遊ぶぐらいなら何ら問題なく釣りができるっていうか、むしろ単純ゆえの使いやすさも感じているところ。ギア比が低いのも気が短くて巻く速度が速くなりがちなワシにはおあつらえ向きかもしれん。手を掛けて修繕したこともあり使ってて楽しく嬉しいのでしばらくこいつを使ってご近所のフッコたちに挑みたい。間違ってスズキ様なんか釣れちゃったらなお嬉しい。

 インスプールのリールとかいうと小難しそうなこと言う人が多いので敬遠するかもしれないけど、大したこっちゃないので興味がある人は、まずは”熊の手対策の棚”付きの機種で稽古をつけてもらって、そのあとは、人気のABU、ミッチェル、大森にいこうが、イタリアやら英国やらにいこうが、アメリカに行こうが旧共産圏に行こうが、温故知新で古い日本製にいこうが、それぞれの道にそれぞれのふかいふか~い沼が待っていてズブズブと沈んで楽しめることうけあいなので、ぜひそういう方向にも楽しんでみてはいかがかな?と、ともに病と闘う仲間を集めるために感染の拡大を狙うナマジであった。

 そろそろ手持ちのネタもつきそうで、来週もいっちょPENNネタ連投でしばらくスピニングネタはお休みの予定。リール予備機を売りさばいたりして何とか90台に収めたし、そろそろスピニング熱は快方に向かってくれていると信じておきたい。

2019年4月6日土曜日

PCチェアディテクティブ 「フルーガーメダリスト1626Z」編


 今回のスピニングネタは名門フルーガーのメダリスト。
 って書くと、多くの読者は「メダリストっていったらフライリールだろ?ナマジもいよいよウロ入って自分の愛用のフライリールのことも分からんようになったか?」と思われるかも知れない。
 確かにワシの3~4番用で使ってるフライリールはご存じのフルーガーのメダリストである。
 でも、冒頭写真のスピニングもメダリストなんである。正確には「メダリスト1626Z」。
 銘板でご確認いただきたい。
 商品の名前って、商標の関係で何でも好きなのが使えるってわけじゃなくて、良い名前は釣り具に限らず他の会社が押さえてたりするので、伝統の名前を継ぐ、っていう積極的な理由から同じ名前を使い続ける場合の他にも”おんなじ名前の使い回し”的なのって結構あって、最近知ったのでは、ダイワのスマックっていう船用の小型ベイトリールがあって、チョイチョイと道糸の細かな出し入れで棚がとれる機能が付いててその機構もダイワじゃ”スマックレバー”って言っちゃってるんだけど、実は古い輸出用のインスプールスピニングにもスマックってあって、昔の名前で出ていますな感じなんである。
 他にもリョービの”メタロイヤル”が実は上州屋に移ってからはチヌ用落とし込みリールに使われてたとか、ちょくちょくある話なんで、まあ名前だけなら”そんなリールもあったんだ~”っていうだけのネタなんだけど、コレが意外に突っ込んでくと面白いリールで、しばらくパソコンの前で情報の海に潜って暇がつぶせたのである。

 まーた暇つぶし程度のためにわけ分からんゴミスピ買いくさってからに、とお叱りを受けるかも知れないけど、ちゃうんですこれ。もう20年近く前に買ったリールで自分でもほとんど忘れてたんだけど、棚卸しの時に出てきてそういやこんなんもあったな、となったブツでとっくに公訴時効成立してる案件なので赦してつかあさい。
 見つけたのは例によって釣りに行った際に立ち寄った釣具屋のワゴンでって書くと「オマエは釣りに行っても魚釣らんと釣り具エグってばっかりやな」と呆れられるかもだけど、釣り場で潮待ちとか日没待ちとか、渋滞する時間をさけてとかポッカリ空く時間がどうしても生じるので、仕方なくじゃあ釣具屋でも覗いて暇を潰すかというごく自然ななりゆきなんです。ホントだよ。
 その時も初めて入る釣具屋に胸ときめかしたんだけど、なぜか他では見ないような米国関係のバッタ臭い品が多くて、アグリースティックのフライロッドとか他で売ってるの見たことないような竿とかもあった。今思えばアグリースティックのフライロッド買っとけばよかった。当時は「グラスソリッドティップのトップヘビーなブランクスでフライロッドってなんぼなんでも振りにくくて塩梅悪いだろ?」とインチキフライマンでも思ったので買わなかったけど、そんなのフライロッドとしてはダメでも、アグリースティックのブランクスが格安で手に入ると考えたら、いくらでもルアーロッドとして再生可能で惜しいことをしたモンである。買い占めときゃ良かった。
 リールのほうは当時のワゴンスピニングはロングスプールで本体樹脂製というのがお約束だったけど、そういう新品段階からゴミスピなヤツらの中でコイツだけがロングスプールじゃなくて、手に取ったら、名前がフライリールでお世話になってるメダリストっていうのも面白いと思ったけど、これがちょっと触った感じワゴン品質じゃなくて良さげだった。スプールも本体も金属でドラグもまともなのが付いている。箱も何も付いてない裸単機でいかにもなバッタモンっぽかったけど、とりあえず値段がワゴン売り価格で、いくらか忘れたけどたいしたことなかったので買ってしまった。
 手元に来て一応ラインも巻いて、まともなリールっぽいのでそのうち使ってみようと思ったけど、とりあえず蔵にぶち込んで忘れ去られていたという1台。

 でもって、今回せっかくなのでブログネタにしてしまおうということで、分解したりしていじってみた。
 いじってみると、どうにもこれ日本製の臭いがしてくる。米国製のを輸入して問屋の棚にあったのが問屋潰れて流れてきたとかかなと思ってたんだけど、そうだとしたら新品なのに箱にも入ってなかったのが不自然。製造元が潰れたりしてハコヅメ前のが流れたと考える方が自然な気がするってのがそう感じた理由の一つと、作りがどうにも大森製作所とかの日本の小規模リールメーカーっぽい気がするのがもう一つの理由である。フルーガーは大森製の640とかもあって、昔はペリカンとか自社工場で作ってたんだろうけど、シェイクスピア同様、アジア等他国のリール屋に自社ブランド名で作らせるOEM方式に早々に移行したブランドなので充分あり得る話(っていうか今調べたら割と早い段階でシェイクスピアに吸収されてる)。


 分解していくと、まずはハンドルがねじ込み式なのにオッとなる。安っぽい共回り式じゃないゼ。
 左右両用にする方式はPENNとかと同様で手前と奥で太さとネジ山の向きを変える方式で大森製作所の左右のネジ山を同じ軸上に切る方式じゃないので、大森じゃなさそう。
 と思って、蓋をパカッと開けるとハンドル軸のギアの歯のない側、クランクがのってる面の面取りが小さく角が立った感じと、逆転防止がローター軸のギアの直上にかける方式なのは大森っぽい。
 でも、ローター外すとベアリングを固定する輪っかを押さえるネジ山が片方円筒になっていて、これがベール反転の内蹴りの突起になっているのが初めて見る方式。かつ大森は今までみたのは全部ココのネジは3カ所で止めているけどコイツは2カ所で止めている。
 そんなに凝ったリールじゃないし、特別な機能もないけど、ねじ込み式のハンドルっていうことは、当然ハンドル軸のギアには固い素材の軸を鋳込んであってどうも見た感じ真鍮っぽいとか、安物では決してないのは分かる。
 じゃあどこが作ったリールなんだっていう謎を解くのが、今回のパソコン椅子探偵の推理なんである。

 まず、このリールが作られた年代は、リアドラグブームとロングスプール化の前っぽいので多分80年代前半か70年代終わりぐらいで、そのころスピニングリールを作ってた国内メーカーで自社ブランド以外の生産もしていたとなると、大手4社はフルーガー(エビスが代理店だっけ?)とは付き合いなかったはずなので外して、70年代早々にはダイワに吸収された稲村製作所も外してと考えると、みんな大好きダイヤモンドリールの「大森製作所」、隠れた実力派でABUとかルーとかゼブコのリールも作ってた「日吉産業」、チャージャーが代表作で今でも小規模生産なリール作ってる「五十鈴工業」、カーディナル700シリーズ作ってた長野の「松尾工業」、カーディナルC3、C4作ってた愛知の「瑞穂機械製作所」あたりに絞られるンだと思う。
 この中で私が実際に製品に触って馴染みがあるのは大森だけで、どうもさっき書いたような理由で大森は外してよさそう。他はどんなリール作ってたのか正直知らなかったので、ネットでいろんなサイトみて勉強した。
 日吉産業はTAKE先生も絶賛のルーのスピードスピンとか作ってて、ねじ込み方式のハンドルに軸は真鍮を鋳込んであるというところが合致。ってふうに調べていこうと思ったけど、分解画像とかのせてるサイトが他の会社のリールじゃ見つからなかった。
 でも、五十鈴「チャージャーⅢ-E」っていうインスプールのリールが2010年代になって作られてるのとか驚きで面白かった。金型作らなくて済む削り出しで少数限定生産の高級品。一般の釣具屋に並ぶリールと同じ扱いでいいのか分からんけど、日本で最後に作られたインスプールスピニングの座を大森コメットから奪ったっぽいな。
 あと、釣り具以外も作ってる松尾や瑞穂は普通に今でも生き残ってて、それでも瑞穂とか会社案内にリール部門とか残ってて取引先「ピュアフィッシングジャパン」とかなってるので、今でもABUの高級リールとか瑞穂で作ってたりするんだろうか?
 ネットで調べるのは限界があるなと”現物買っちまうか”とまたスピニング熱悪化して、カーディナルは高そうなので難しいにしても、スピードスピンやら、チャージャー(昔のね)とかなら買えるかなと、ちょっと中古の値段調べたら高い高い。カーディナルC3とかの方がよっぽど安い。
 ということで現物方面も手詰まり。もし、現物お持ちのかたがおられて、ギアの角こんなんですよとか、ベアリング押さえるのはこういう方式ですとかあったら情報いただけると嬉しいです。

 どっか他に手がかりないかなと舐めるように眺め回していたら、ラインローラーをべールアームに固定するネジの頭がちょっと変わってるのに気がついた。
 これネジの頭じゃなくて中心のラインローラーの軸に雄ねじ切って、それに被せる雌ネジというかナットの頭がマイナスネジの頭っぽく見えてるんである。
 こういう細かいところに癖が出るっていうのは推理の基本かと。
 ただ、こういう雌ネジを使ってるリールが思いっきりあった気がするんだけど、脳内検索に引っかかってこなくて七転八倒して、ネットで調べようとしたらいちいち個別のリールのページを立ち上げるのが面倒臭くなって、結局「ベールアームは世界を回る」をペラペラぺラッとめくって見つけた。
 見つけてしまえばなぜ忘れてたのか理解に苦しむぐらいの有名どころで、ABUのカーディナルのインスプール。
 分かってしまえばカーディナルを狙い撃ちで、主にヤフオクの商品紹介写真でネジが写ってるので確認していくと、カーディナルでも松尾工業が作ってた700系と瑞穂機械が作ってたC3、C4は普通のネジが使われている。
 インスプールの他にはアウトスプールの55もこのタイプのネジが使われている。55はインスプールみたいなベール反転機構搭載のABUの最初の方のアウトスプール機である。
 つまりは、ある程度古いタイプのカーディナルにしかこのタイプのネジは使われていないようだ。ということは、多分C3以降もABUとお付き合いあったであろう瑞穂機械でもなく、まして途中でシマノに釣り具部門吸収されたっぽい松尾でもなく、多分「BUILT BY ABU SWEDEN(ABUが組み立てました)」
となってる古いカーディナルに部品供給してただろう(と勝手に推定した)日吉産業が作ってたとみるのが、今回ナマジの推理である。まあ、他のメーカーが部品供給してた可能性もあるガバガバ推理だけどね。いかがかな諸君。

 とブログネタ一つできたゼ一安心、と思ってたんだけど、別の線から意外な事実が出てきて物語は風雲急を告げるのであった。
 実はこのリール韓国製のようだ。
 このリールにはフットにメイドインコリアとか刻印されておらず、生産国不明な状態なんだけど、実はシェイクスピアの「アルファ040」という同型機があり、そのこと自体はまあフルーガーもそのころにはシェイクスピア傘下だったようだし、大森製インスプールのような前例もあるしで驚くほどのことでもなく。シェイクスピアのΣ(シグマ)シリーズに大森製で樹脂製本体のってないかな?あればキャリアの替えスプール手に入るかも(キャリアーそのものが手に入るとはこの時点では夢にも考えてなかった)、と海外ネットオークション眺めててアルファ見つけて、おんなじリール色と名前変えて出してやがんの。と軽く失笑を漏らした程度なんだけど、紹介写真よく見るとアルファ040についてはフットに「MADE IN KOREA」の刻印が入ってる。アルファがベータをカッバらったらイプシロンした級の笑撃である。
 ナニが「いじってみると、どうにもこれ日本製の臭いがしてくる。」じゃボケ。コリァいかんわい。
 日吉産業も最後の方生産拠点を韓国に移していたそうなので、韓国日吉が作ったんで日本臭いという線はじつは濃いとは思うんだけど、ダイワやら大森やら日吉の下請けとかで力を付けてABUの部品も作ったことある韓国のメーカーが作ってたっていう可能性もでてきて、そうなると韓国のリールメーカーなんてシルスターぐらいしか知らない二ダってくらいで、日本じゃ情報手に入れようがなく、この事件は迷宮入りとなったのである。
 どなたか真相知ってたらご教授いただけると、私がとってもスッキリしまスミダ。

 たしかに、アメリカから工場流れでバッタモンが流れてくるのはなさそうだけど、韓国中国からなら船便でひょいと持ってくるだけですむ。東シナ海も玄界灘も太平洋ほどには大きくない。
 バッタモンってのも値段安けりゃ買ってみるのもオツというもので”当り”引いたら儲けモンだし”ハズレ”掴まされても失うモノはたかが知れてる。
 我が最初のベイトロッドはダイコー製のルースピードスティックのシール貼る前の横流しモノと堂々と店主が説明していたホントかどうかも定かじゃないバッタモノだった。黒くて太い良いダイコー竿だった。
 九州では実際に中国から流れてきたバッタモンに遭遇していて、中国の製造元が依頼元に収めなかったB級品とかのブランクスで勝手に組んだとおぼしき、全くブランクスとガイドやらシートやらが合ってない、リングシートのシーバスロッドとかギンバルに対応してないトローリングロッドとかが流れてきているのを見て腹抱えて笑ったもんだ。ちなみに安全ピン曲げたような品質のガイドの付いているフライロッドを買った。魚は釣れた。
 蛇足だけど、その店は釣り具に限らない総合中古屋でアダルトコーナーがあったので「九州男児がみてるような凄いエロビデオとかあるんやろか?」とワクワクしながら入ってみたら、女性の使用済みのおパンツだのセーラー服だのが売っててビックリした。当時の言葉でいう”ブルセラショップ”って風俗営業の許可じゃなくて古物商の許可が必要なのでついでにと併設していたようだ。ええんか?九州男児がそんなもん買ってて。ワシャ買わんだけどな。ホントだよ。

 ということで、韓国で作られて日本に流れてきて、今我が家にあるこのリール、せっかくだし使えるように整備しておこうといじくってみたら、さすがバッタモン、色々とやらかしてやがるゼ。
 まずはドラグの構造がおかしい、
 スピニングリールのドラグってドラグパッドの枚数を基準に考えて大体3階建てで、そうじゃなければ1階建てである。リアドラグとかでワッシャーが代わりに入ってて2階建てとかの例外はあるけど、基本奇数になる。
 しかし、このリールドラグが2階建てである。一番下のドラグパッドがスプール底面とスプールと一緒に回る耳付きワッシャーとで挟まれていて、ドラグ効いてスプール回ってる状況下では下のドラグパッド1枚スプールと一緒に回ってるだけで何の仕事もしていない。
 それでも2枚目のドラグパッドが耳付きワッシャーと軸と固定で回らないワッシャーの間でお仕事しているのでちゃんとドラグは効いていた。ドラグパッドはフェルトの片面を滑りの良い樹脂で固めた凝ったもので(下の列の白黒のがドラグパッドの裏表)、性能良さげなのにナニやってんだか?というかんじ。ドラグパッドと軸と固定されるワッシャーがあと1セットあれば3階建ての普通のドラグになるんだけど、ドラグを填める穴の深さに余裕がない。仕方ないので、一番下からスプールの底、ドラグパッド、軸と固定されるワッシャー、ドラグパッド、耳付きワッシャーという順番にした。この場合ドラグノブが締める面がスプールと共に回る耳付きワッシャーなので、ひょっとしてドラグが効くときにドラグノブ一緒に回ってしまいドラグが締まっていくんじゃないかという懸念が大当たりで、昔の磯の底モノ師のつかう改造セネターじゃないんだから使ってるうちにドラグ締まってってどうする?
 対策考えて、一番上にポリカーボネイトの薄板(DVD割って剥いだ)で軸に固定して回らない”ドラグノブ置き”をつくってみたら上手くいって、ドラグはもともと1枚でも効いてたのが、輪をかけてスムーズな効きになった。”ドラグノブ置き”と耳付きワッシャーは滑らかな表面なのでドラググリス塗っときゃドラグの作動を邪魔しないようだ。

 もいっちょ困ったのが、ローター軸のギアの頭のネジとローターを固定するナットのサイズが合ってないってこと。ほんと余ってた部品でとりあえず組めるだけ組んでみた感じである。
 一応締まってるんだけど、きつめに締めようとするとスルッと空振りしてしまう。ナットぐらい探せば合うのあるだろうか?
 でも、お次が致命的なので、ナット探す気にもならんというのが正直なところ。
 写真じゃ見にくいかも知れないけど、ベールアームの樹脂、ネジの填まってる上あたりでパッキリと割れてます。
 ドラグテストで負荷かけたぐらいしか力かかってないはずで、その程度で割れるってのは不良品なんだろうなとおもう。
 まあ、今回はハズレ引いてしまったってことだな。
 売るわけにもいかんので、もし同じリール持ってるとかシェイクスピアの「アルファ040」の方持ってるって人で、部品取りやスペアスプールのために確保したいって人はnamajipenn-ss@yahoo.co.jpまでご相談下さい。
 ていうか、ワシがまともなアルファ040なりメダリスト1626Z入手してもいいのか?という考え方はスピ熱病状悪化なので気をつけて避けておきたい。

 別に名機でもなんでもない、知られてないようなリールでも、突っ込んで調べてみると意外に面白かったりして、スピニング熱はなかなか思うように下がらないのであった。
 ネットで調べることができる情報って、やっぱり限られてるし偏ってるしで、こういうの、その筋のマニアの人に聞けば一発で分かったりするのかもしれない。特にカーディナルなんて深くまで潜ってるマニアの人居るだろうから、時代ごとにどのパーツがどこのメーカーで作ってたとか知ってそうで、そういう人から見たら今回書いたことあたりはオママゴトなんだろうなと思いつつ、次回スピニングネタは得意のPENNで行く予定。
 PENN好きの皆さんこうご期待を。PENNならワシも深く潜れまっセ。