先週ワシは「他にも、ワシが知らんだけで、瞬間的逆転防止機構が搭載される前の機種で実用性の高いのはあったんだろうと思う。(略)日本じゃあんまり見ないけど、ゼブコとか絶対アメリールらしい実用性の高いのを用意してただろう。」って書いた。書いたら欲しくなって、ワタシ気になります!って感じ。そして買った。という自然でスムーズな流れ。
アタイ病気が憎いっ!ということでいつものことですが、弁解と説明の機会を与えていただきたくぞんじます。なーに2台輿入れ先も決まってることだし、1台増えてもまだ勝ち越してる(嘘です。記録によると359,660円の赤字)。
まああれだ、ゼブコのクァンタム(量子)シリーズは一時期バレーヒル扱いで国内にも入ってたので、スピニングなら「クァンタムエナジー」ってのがわりと見かける機種で、ネットオークションにも出てたのでそいつでも良さそうなもんだけど、ハッキリ言ってなんか日本製リールっぽくて面白くない。かつどうも瞬間的逆転防止機構入ってそうでそこそこのお値段してやがる。もっとマイナー味の効いたワシ好みのもあるだろう?って米本国のネットオークションを覗いてみるとZEBCO縛りだとスピニングに限定できないのもあって多すぎて見てらんねぇ、クァンタム縛りでみるとなんかパッとしない感じ。って思ってたらメル○リでクァンタム縛りで調べたら、この「QSS2」というのが1700円(送料別)で出てた。”マグナムドラグシステム”たらいうのも気になったのでスルルのポチチで即ゲット、発送も素早く、届いて速攻決めて分解整備。どんなもんだったか報告させてください。
で到着して、ハンドル回してみると、まずはやかましい!逆転防止のカリカリ音なんだけど、カリカリ程度の可愛い音でなくカカカカカカカカッーというようなキツツキの高速連打みたいな音がして、ワシ隣でカリカリ音がするタイプのリール使われてもまったく気にしない釣り人っていうか自分でも使ってるけど、このリール隣で使われたらさすがにちょっと「うるせぇ」って思うかも。なんでこんなに喧しいのか理解しかねるけど、分解していけばそのうち明らかになっていくだろう。もいっちょすぐに、ここはイマイチ、と思ったのがスプールが本体に対して小さいことで、せっかくのエッジの立ったゼブコのスプールなのにスプール径が小さいと美点が活かしきれん気がする。ちなみに足の裏に「KOREA」とあり韓国製。
ということで、まずはいつものようにスプール周りから、といきたいところだけど、マグナムドラグシステムとやらが見たことない機構であり、スプール裏面にデカいのが入ってるようなんだけど、ちょっとお楽しみにとっておいて後で見てみよう。なぜか主軸の横棒にスプール裏に見えてる座面を填める構造なんだけど、そこまでやるならワンタッチ着脱式にすれば良いのにそうはなってないのも不思議な感じ。
で本体をいじっていくんだけど、まずこのリール、ハンドルはねじ込み式で、かつ、亜鉛一体成形のハンドル軸のギアに直にねじ込んでるんではなくて、ハンドル軸のギアは真鍮の軸を鋳込んだ亜鉛鋳造で、さらにはハンドルの方のネジが、大森方式で同軸状に左右用のネジ山を切ったれいの方式。だだ、韓国大森と微妙にネジの端の処理の癖が違うのは、以前ネタにした「
アタック5000」の時と同様で、ゼブコに主にリール収めていたらしい「ソウルフィッシング」社製なのか韓国日吉製とかの日本系なのかその他なのか、相変わらずこのへん80年代の韓国製品は、日本の中小メーカーの技術が混在しつつ継承されている感じで、どこで作ってたのか特定できません迷宮入り。いずれにせよ売りに出てる時点で”ワンタッチ式でなくてハンドルの反対側のキャップが被さってなくて根元と同じ径”だったので、わりとしっかりしたネジ込みハンドルの機種だな、ということがみてとれたのも購入判断の一因。
本体樹脂製で、タップビス抜いて蓋を外すと、ギアはいたって普通のローター軸真鍮、ハンドル軸は芯が真鍮の亜鉛鋳造のハイポイドフェースギアで、スプール往復は単純クランク方式。
ボールベアリングはローター軸に1個だけ。ハンドル軸を受けているのは左右どちらも黒い樹脂製のブッシュで、摩擦に強いポリアセタールかなと思ったけど、なんか本体樹脂と同じような素材に見えなくもない。もともとボールベアリング入れる予定が経費との関係でなしになって、急遽てきとうなブッシュ入れたとかか?いずれにせよ最悪削れても部品交換すればよく、悪くはない。規格品のブッシュやらチョイと加工したら填められるだろう。右写真の白い輪っかは銅かなにかの厚さ調整のシムリング。
でもって、今回一番の難問が逆転防止周り。
ハンドル軸のギアを抜くと、その軸にはギア側から、オレンジの矢印で示した爪が2つ出ている消音化カムのような部品、その下のアルミは部品位置決め用と思われるアルミのスリーブのハメ殺し、その下は本体に填まってた軸受けのブッシュとなっていて、消音化部品の爪が、正転時逆転防止の爪の矢印の突起を押して爪を押し上げることによりラチェットから遠ざけて消音化してそうなモノなんだけど、そうはなっていない。なぜなら見やすいように右の写真で拡大したけど、リールフットの基部から伸びているバネが、わりとしっかり逆転防止の爪の下の方を引っ張って、爪をラチェットに押し当てているので、消音化カムのギアの回転からちょっと借りてきたぐらいの力ではまったく爪がラチェットから離れないようだ。この辺は後ほど調整できるか試してみるとして、とりあえず分解整備を進める。
ローター周りを見ていくと、まずはボールベアリングとローター軸のギアを押さえている金具が独特。4つ穴が開いてて2つが本体の出っ張りに填まって、2つがネジ穴になってる。ベール反転の蹴飛ばしは、上下に動くレバーが本体の坂を登る方式で、
シルスター「CX60」で見た形式。で、樹脂製のローターにベールアームやらをとめるのには金属のビスをEクリップでとめるダイワの「ウィスカートーナメントSS」とかでも使われていた、樹脂で回転部分を受けない丈夫な設計で、このへんはしっかりしていると感じるところ。
でもって、スピニング熱患者なら「オオッ!」と盛り上がるのがラインローラーで、真鍮クロームメッキのどうということのないローラーなんだけど、バラしてみると、ちゃんと樹脂製スリーブ入りです。大森や日吉といった韓国に生産を移していった日本の中小メーカーの良き伝統を韓国メーカーが受け継いでるなと感心。白い素材だけどジュラコンとかのポリアセタールっぽいツルツルした素材でローラーの回転も滑らかで良い感じである。
ヨシッ!あと残ってるのは、楽しみにとっておいたドラグ周り!って言ってもそんなにややこしいモノではなかった。
写真上の左の方から、スプールやらドラグやらが填まる台座、でその上にまず鋳造の台座では平面が出し切れないからか、台座と同期して回らないステンレスの小判穴ワッシャー、その上に大口径のテフロンワッシャーがきて、スプール底面とで挟む。でスプール上部にはまた小さめのテフロンワッシャーが来て、その上に3枚も台座と同期する小判穴ワッシャーが来るけど、3枚必要な理由はよくわからない。1枚は横から板バネ状に立ち上がっててドラグノブを挟む形でクリッカーの役目をしている。最後は台座の頭にCクリップ止め。ドラグノブは普通にバネ入りの樹脂製。最初の方でも書いたけど、なぜ台座まで作っておきながらワンタッチ交換式にしなかったのかは謎設計。このころワンタッチって流行っとらんかったとかか?なんにしろドラグをスプールの下を使って直径大きいドラグパッドを入れるってのは80年代のリールらしいこのあたりから既にあるって話。スプール下を使うの自体は、構造考えたらあたりまえだけど、PENN「
スピンフィッシャー700」でもみられたように最初っからあるといえばある。あと、ドラグ作動時の音出しは台座裏に入ってて、スプールの裏に一瞬”
マルチポイントストッパー”かと間違うような凸凹が切ってあるけど、ドラグの音出し用で、音出しの部品が大森式でバネで根元側を挟むれいの方式、といえば大森沼の住人には分かると思うけど、大森の影響はこのあたりにも見てとれる。ドラグの作動は手で回した感じでは上出来の部類かと。
全バラし終了で、部品数はそんなに多くなく整備性は悪くない。樹脂製で錆びるところも少ないし、逆転防止とかも本体内なので耐海水性能も悪くない気がする。
樹脂製スリーブ入りラインローラーや、丈夫なネジ込みハンドル、回転部を樹脂でなるべく受けない設計とかも良い感じなんだけど、あちこち惜しい点も散見される。既に書いたとおり、糸巻き量4lb/100m、173gの小型機のわりには、本体が大きく、次のサイズと本体共有とかならこの「2」サイズより「3」のほうがしっくりきそう。あと喧しいカリカリ音。
消音化ぐらいはなんとかならんのかと、グリスアップしつついじくってはみた。
消音化のカムの上の写真で矢印で示した2本の爪のあいだに、下の写真の逆転防止の爪のネジの脇の突起を入れて、正回転時に矢印の方向に力がかかって、爪がラチェットから離れるという仕組みのはずである。
でもまったく爪が上がってる感じがしない。もっと消音カムの摩擦力を上げてみるかと、グリスぬぐって割らない程度にカムを締めてキツく軸に填まるようにしてもどうにもなってない。
あれこれ過去事例と比較して考えていると、これ本来はバネ無しで正転時は爪がラチェットから離れて、逆転時に爪をラチェットに押しつけるという、スズミ「
マクセル700RD」と同様の方式なんじゃないかと思いあたる。構造自体は似ている。というわけでバネ外してみたけど全く機能せず、ストッパーは気まぐれに掛かるときがある程度で不安定で役立たず状態。何でだろ?と「ここを下から押せば爪が上がるはずなのに」と矢印のあたりをペンチの先で押してみて分かった。この形状だと引っかかりがなくて押しても爪がラチェットから離れる方向にはなかなか動かない。斜めじゃなくてしっかり引っかかるように充分な長さで真っ直ぐ出っ張ってないとダメなはずである。そう思うと、なんで、取り付けるのも面倒な脚の根元にバネをネジ留めしているのかも推理できる。これ、最初”バネ無し消音仕様”のつもりで設計したんだけど、上手くいかなかったので無理くりバネでラチェットに爪を押し当てる方式にしてごまかしたんだろう。鉄系の板の打ち抜きってそんなに手間かかるのだろうか?手直しすりゃ良いのにと思うけど、実は手直しした版もあって、ひょっとしてこの個体はダメ出しされた版でゼブコに納められなかったのを、日本に流したバッタモンという可能性もあるのかも。というのはこの個体、ハンドル反対側のキャップに新品の時の透明なシールがまだ付いてて使用した痕跡がない。にもかかわらず箱入りではなかったので、そういう可能性もあるのではないかと推理した。「米国から買ったのは問題無く消音化されてましたよ」等どなたか真相を知ってる方がいたら是非タレコミよろしく。
しかたないので、せめてけたたましいラチェット音をどうにかするべくバネをなるべく緩く伸ばして多少おとなしくさせて、今回樹脂本体の小型機でありグリス使用量は少ないので高級なPENN純正グリスを奢って整備終了。回転具合が分かりやすいように逆転防止OFFにして回してみると、これが回転は良いのよ、ローターのバランスも良く素直な滑らかさ。ベール反転も軽いし基本性能しっかりしてて、このころの韓国メーカーがなかなかの力を持ってたのがうかがえるところ。ただ、まだスピニングのなんたるかは全然わかっちょらんかったんだろうな。今でも日本のメーカーも分かってないぐらいで仕方ないけどさ。ということで実に惜しい感じの1台でありました。
まああれだ、仕事でちょっと関係あった人達をみての感想だけど、韓国の人って失敗しても「いいじゃんこれで」って開き直る傾向にあるようには思う。ケンチャナヨ精神って呼ばれるらしいけど、”なるようになる大丈夫”とかそういうノリらしい。設計どおりの消音化仕様じゃないけど、バネ付けて釣りできるようにしたから大丈夫。って開き直られると発注元は頭痛いだろうな。ワシ、別にだから日本はエラいとか言うつもりはなくて、日本だと「仕様で正確に設計まで指定していなかった御社の責任もあるかと存じます。」って責任のなすりつけとか、発注元にゴネることまではさすがに少ないと信じたいけど、社内でやれ営業がデキもせん仕様で受けやがって、とか技術屋が設計ミスったのは誰が責任とるんだとか、生産性のない内輪もめで問題延々先送りってのが定番だろう。心当たりあるよね?どっちが良いって話じゃなくて違いがあるよって話で”みんなちがって、みんなダメ。”っていう逆みすず状態がこの世の常、そういう違いが、作り出すモノにも結構影響出るのかなと思ったりもする。日本製品のどうでも良いところへの異様なまでの細かいこだわりとか、右へならへの無個性さとかまさに国民性が出てる気がする。それがウケる場合もあれば、不利になる場合もあるので良いんだか悪いんだか。どっちもあるんだろう。っていうなかで今回の韓国製ゼブコは米国の実用主義と韓国のケンチャナヨ精神が出会って止揚した結果、微妙にズレてあと一歩な仕上がりになっております。ってのもまあ趣があるっちゃあるよね。何にせよ楽しめました。
ゼブコ「クァンタムエナジー」さえメジャーに思えるようなマイナースピニングの記事が読めるのは「ナマジのブログ」だけ。と、80年代少年ジャンプ枠横煽り風に締めて、それではまた来週。
クワンタムのエナジーの中に
返信削除面白いバリエーションがあって
ハイパーキャストってモデルがあります
重くなってますがスピニングとトリガースピンのいいトコ取りみたいなモデルで完成度は高かったです
さすがにクワンタムの名前入ってるとねじ込みハンドル、最適化されたスプールは絶対譲れないって
設計になってますね。
大森もこことコラボ出来てれば生き残れたかと考察します
キャスティングリールは
カリフォルニア州とネバダ州のダムでスピードスプールと双璧成してました
米国ではやはり人気あるんですね。
削除エナジーシリーズはジャンクが出てたので買おうかと思いましたが瞬間的逆転防止機構入りらしく買う気失せました。
もうちょっと良いのがないか探してますが今一ピンとくるのがないです。超小型機は良さげなのでてくるのですが使いどころが思いつかないので手が出ないです。