2023年6月24日土曜日

雑草という名の草はないが、ザコという名の魚はいた-ビンボメシ雑魚編-

 「雑草という名の草はない」云々の台詞は今の上皇陛下が昭和天皇時代に従者に言い聞かせたものとして有名だけど、今NHKのドラマで取りあげられてる、植物学者の牧野富太郎博士の台詞が元ネタだったのね。ドラマ関係で注目上がってて牧野博士の逸話とか紹介されてくるので恥ずかしながら初めて知ったところである。当代きっての気鋭の植物学者の台詞を借りて若かりし天皇時代の上皇陛下がドヤ顔でキメている様が想像できてほほ笑ましい。

 「ザコという名の魚はいた」なんだけど、これ前にもネタにした気はするけど、爺さんどこでどんな感じで書いたかボンヤリと霧の向こうのようで記憶の彼方なので、本人忘れてるぐらいだし、読んだ人いても忘れてるだろうという割り切りで、また書きます。

 オイカワの学名はZacco platypusでシーボルトが日本の生物の標本集めたときに、コレなんて魚?って聞いたら「そんなもんは雑魚だ!」という答が返ってきて、シーボルト氏メモ帳片手に「ザコね」、って感じでザコ認定、そして本国に帰って正式に発表するときにも、その名?が使われたっていうことで、雑草という名の草は無いけど、ザコという名の魚は「オイカワ」。というネタだったんだけど、じつはオイカワの仲間は最近分類の再整理があったようで、Zacco属はハスの仲間であるOpsariichthys属に移籍。Opsariichthys platypusという学名になったようだ(ちなみに写真の皿の一番下のがオイカワ雄でその他はオイカワ雌とウグイだったかな)。

 ということで、ザコという名の魚もじつはもういないのである。

 ちゃんとそれぞれの魚ごとに名前がある。分類上未整理で名前が確定しきれない場合もあるだろうけど、それでもザーコ、ザーコ!と馬鹿にして良いような魚など一つも無い。牧野博士も良いこと言った(でもまあ良くも悪くもザコキャラな魚は居るけどね、クサフグとか愛すべきザコだと思う)。

 にもかかわらず、魚を丁寧に扱って然るべき釣り人が、なんとぞんざいに雑魚扱いして気にも留めずにあしらってしまっている魚の多いことか。嘆かわしい。常々、魚が値札付けられて水の中泳いでるわけじゃないのに、釣り人が特定の魚種を”高級魚”とか言ってはしゃぐな!って思ってるけど、その逆にそれぞれの特徴を持って懸命に生き抜いている魚のその真価をろくに知りもせず、名前さえ知ろうとせず、十把一絡げに雑魚だの外道だのと貶めてくれるなと、これまた常々思っている。

 ということで、雑魚とか認識されがちで鼻で笑われがちな魚たちのいかに美味であるかを世に知らしめて「雑魚という名の魚はいない」ということを啓蒙していきたい。というのが今回のナマジのビンボ飯のお題である。

 ワシの釣り場において、雑魚として捨てられがちでも実は美味しい魚というと、ゴンズイ、アイゴ、ササノハベラマエソなんてのが代表例だけど、コイツらはちょっと先入観に犯された人々にたいする導入編としてはハードル高めだろう。

 ということで、最近食べた雑魚と呼ばれてしまいがちな魚2種を事例として紹介してみよう。

 とりあえずは、仔サバ。サバでっせ!そんなもんどうやったって美味いじゃん、って多くの人は思うだろう。当地紀伊半島でも「鯖子の炙り」なんていう塩した仔サバを桜とか良い匂いの木で燻製っぽく焼き上げた保存食的郷土料理があったりするぐらいで、型は小さくても味は良くとても優れた食材である。にもかかわらず、なぜか近所漁港でも、アジ釣りの釣り人の多くが、仔サバが釣れるとトンビやアオサギにくれてやったりしている。オレにくれ!と声を大にして言いたいところだけど、まあ仔サバぐらい自分でも釣れるから自分で釣る。

 でもって、食べ方はそれこそなんでも良い。定番の揚げて南蛮漬けでも、こんな小さくて脂が乗っていなくても、身が痩せていてカスカスではないので、鯖味噌とか干物にしても、ちゃんと鯖の味がして身離れも良く、っていうか骨ごと食えるので旨い。鯖っていうとエラそうなグルメ様は脂のノリにこだわるんでございましょうが、そんなもん脂の乗ってるのを選んで釣れるわきゃないから釣れたのを美味しくいただきゃいいわけで、脂なんか乗ってなくても旨い魚は旨いとフォントを大にして書いておこう。で、釣れたて新鮮な仔サバなら特に小細工必要なくて、頭と腹取って塩焼きにして生姜醤油で、とか、頭と腹とって出汁兼用で味噌汁にぶち込む、とかで充分以上に美味しゅうございます。今年はあんまり仔サバ回ってこなかったので写真貼ってて自分でよだれ湧いてきた。自爆飯テロである。

 でもって、お次がウグイちゃん。釣りモノが無いときに、本命にふられたときに、釣魚としてもいつも良いヤツなウグイちゃんだけど、食味もなかなかどうして悪くない。以前、綺麗な川のウグイは旨いということを書いて、長野県の人達が川を美しく保ち、ウグイの美味を愛する様に敬意を示させてもらったけど、長野の人ほんとウグイ好きで、先般の台風2号の大雨で獲れたてウグイを川辺で提供する「つけば小屋」の「つけば漁」漁場が被害に会って今期再開できないところもあるとの報がネットニュースでも流れていたけど、佐久漁協管内だけで8箇所でつけば漁が行われているとのことで、ウグイちゃん大人気である。写真はアユやんけ?と思ったでしょ、一番下がしれっとウグイちゃんなんです。アユの美味には負けるかもだけど、ウグイちゃんも川魚らしい味わいでこれはこれで乙な味。長野県の来年のつけば漁が豊漁であることをお祈りします。

 って感じで、毒とか限度を超える臭さとかがなければ、だいたいどんな魚でも美味しく食べられるんじゃなかろうかと思ってて、意外に雑魚あつかいで商品価値はない魚でも、商品価値がないのは数が集まらないからとか味とは関係ない原因だったりして、食ったら美味しい魚はナンボでもいるんです。最近海水温上昇の影響でか紀伊半島でもお馴染みになりつつあるカタボシイワシも、馬鹿な釣り人「コノシロ(あるいはサッパ)は小骨が多くて食えん」とか言って鳥やら猫に食わせてる、そもそもコノシロ・サッパぐらい食えるだろ?っていうのも別途あるけど、カタボシイワシはマイワシの七つ星無し版のようなイワシなので、マイワシほど脂のらないけど、脂なんか乗ってなくても旨い魚は旨いので、刺身で酢締めで干物でとオカズに重宝している。平べったくて独特の目つきのコノシロや薄っぺらいサッパと、見るからにマイワシ体型のカタボシイワシの見分けがつかん程度のお粗末な目利きだから旨い魚を食い損なう。っていうぐらいで、魚の名前ぐらいちゃんと調べて分からんと、食えるか食えないかから始まって、情報ネット検索して探るにしても探れねーじゃんって話。カタボシイワシは料理すると間違いなくマイワシに近いと分かる。手開きで中骨もある程度綺麗に取れてきて骨が似てるってのは、見た目云々より同定には重要な要素。(註:カタボシイワシは分類的にはサッパ属でサッパに近いそうでゴメンナサイ間違いありました。にもかかわらずマイワシ体型で手開きできるのは収斂なのかなんなのか?)

 いつも書いてるけど、自分の釣った魚がなんなのか?釣りたい魚は何という名前なのか、そこが知るための入り口なので、「君の名は?」って疑問を抱いてちゃんと調べて、正しく知ることができるようにしておくのは重要って話です。知らんから調べようもなく、知ろうともしないから新しい知識が得られず、新しい美味にも美味しい釣果にもたどりつけないっていう実例を近所の漁港で日々見ております。だいたい知的好奇心も探究心もないような釣り人は”ド下手クソ”と相場が決まっております。いつぞや釣れた方法を、いつまでたっても繰り返していて「あの時はクーラーいっぱい釣れたんや」とかズーッと言ってるたぐいです。一生ほざいてろ。と毒を吐いておこう。


<オマケ>

 料理ネタついでに、オマケを一つ。川尻こだま先生のエッセイマンガを読んでいたら、パスタとかの余りが出て次に買ったものとゆで時間が違うときの解決方法として、「気にせずまとめて茹でる。そして手打ちで太さが不揃いな蕎麦屋に行ったつもりで、その茹で具合の違いを楽しむ」という力技が紹介されていて笑った。

 自分のような小賢しい人間は、例えば8分と7分のゆで時間の麺が残っていたら、まず8分の麺を1分茹でてそこに7分の麺を投入して7分茹でて、それなりにメーカー様推奨のゆで加減に仕上げてしまうところである。

 家庭用の安ッスいスパゲッティの茹で具合に1分そこらが関係あるかよ、アルデンテ?煮えてないやんけ?よう煮とけ!ってぐらいで、オノレのせせこましさを恥じたしだいである。

 まあワシの方法も不正解ってわけじゃないだろうけど、一つの問いに一つの答があるってわけじゃなく、むしろそういった答にたどり着くことが大事なんじゃなくて、考えるなり調べるなりして、自分の納得いく方法で現実に対処していくことが大事なんだと思う。自分が納得できるならその方法は正しいのだろう。と、人様の正解が気に入らないことも多いワシャ思うのじゃ。


<オマケのオマケ>

 昔、「アルデン亭」というパスタ屋さんがあって、本格的なパスタ屋さんなんだろうなと入って食したところ、思いっきり麺柔らかーく茹でられていた。おそらくアルデンテという概念を知らないお客さんからの「コレ麺にが芯残ってるよ!」というクレームが多すぎて、店名にまでした志を曲げてお客さんの求める良く茹でたスパゲッティの麺に行き着いたのであろう。これまた客商売としては一つの正しい選択だったんだろうと、ワシャ思ったのじゃ。

2 件のコメント:

  1. ナマジさん
    ご無沙汰しております。

    こちらは相変わらず竿ではなく網とカメラを持って夜な夜な近所のキャンプ場に出かけて蛾を採ったり撮ったり報文を書いたりしています。最近では鱗粉が擦り切れて包装紙みたいになったのとか、図鑑で見ても全部同じに見えるようなのを持って帰ってきて、顕微鏡を覗きながら両手に持った待ち針で1mmほどの交尾器を分解しては18禁画像を量産してますが、実際にやってみると想定していた種とはかけ離れたものが出てきたり、交尾器を開けた途端に強烈なにおいを放つ種がいたり、外見では識別不能な2種が両方分布していることが分かったりと驚きの毎日を送っています。魚を食べた時に初めて得られる様々な驚きと同じですね、これ。
    で、キャンプ場の蛾はとりあえず817種、先人の報文と合わせて917種まで解明できましたがまだまだこんなものではないでしょう。

    魚でも蛾でも植物でも、「結局わからん」が答えであっても、目の前にいるのが何なのかを突き止めようとすること自体が純粋に楽しくて、最初から放棄するにはあまりにも惜しいと思います。まあ木を見る人も山を見る人もいないと何事も回っていきませんが、私はこの楽しみを存分に味わっていきたいですね。


    紹介されているカタボシイワシはまだ平面でしか見たことがないので、何となくサッパに近い感じなのかなと思っていました。実物を見ればそんな感想は抱かないんでしょうけど。
    いつか眼と手と舌で確かめてみたいものです。

    オイカワは釣りに行かなきゃと春から思っているのに未だに実行できてません。釣れても食べませんけどね。展示用なので(笑)

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    1. お久しぶりです。
      磯の方も復帰?したようですね。

      交尾器しか違わないって、間違いなく”生殖隔離”があるわけで別種なんだけど、見た目じゃ分からんので難しそうですね。

      魚だと、ウグイとマルタが婚姻色出てないとちょっと見た目じゃ判別しようがなく、生息状況とか総合判断でこの地で釣ってるのはウグイだと思ってますが、確定ではなく宿題案件です。

      コイツは何なのか?どんなヤツ?美味しいの?とか知りたく思うのは人の根源的な欲求でもあり楽しみだと私も思います。

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