2023年5月20日土曜日

稲村製作所は独特!

 

 稲村製作所のリールは過去「ロディーマチック825RL」をいじったことがあるけど、稲村製作所を代表するスピニングと言えばヘドンのOEM(相手先ブランド名製造)で作ってた「コンバーチブル234」と多分色違いの同型機ロディーブランドで作ってた「マイクロ2200」あたりで、そのへん一度いじくってみたかったけど、稲村沼の猛者ども結構張り込んでくるので、あわよくばと安値落札狙う程度ではどうにもならんかった。ので、同シリーズの一つ大きい機種であるヘドン「コンバーチブル246」がジャンク5台に含まれてたのは購入の動機のひとつであった。まあ足折れ個体なので市場価値的には”ゴミスピ”でしかないだろうけど、足折れてても中身の機構とかが残ってれば、バラして楽しむ分には問題無しだし、足も折れた部分尖らせてやれば、Fuji社のDPSシリーズとかのパイプシートなら付くようにできるはずで、なんなら実釣持ち出しても良いだろうっていう腹づもり。稲村製作所は70年代当初にダイワに吸収されたとのことで、60年代の製品なんだろうけど足裏見ると「部品日本製で米国で組み立てました」的なことが書いてあって、まだメイドインジャパンが価値を生じさせるようになる以前の時代だったんだなと歴史を感じさせてくれる。

 表面の腐蝕とかもそれなりにある歴戦の強者っぽい個体だけど、多少重いけど回ってるし、逆転防止やらベール返りやらも正常に機能していて、足折れ以外は問題なさそうということでサクサクとバラしていく。

 まずはスプール外してドラグあたりからなんだけど、いきなり独特で面白い。

 方式自体は良くある3階建て方式なんだけど、主軸と一緒に回るワッシャーが俵型穴じゃなくて、穴に1箇所凸部があってそれを主軸の溝に填める方式。けったいなことやってます。ドラグパッドは赤いファイバーワッシャーみたいな質感だけど赤くない繊維質のパッド。ドラグの効き的には普通にちゃんと機能している。

 ハンドルを右巻、左巻きコンバート可能なのは名前にも「コンバーチブル」ともろに謳われているけど、ハンドルの反対側の蓋的部品の頭はマイナスネジなっていて、ハンドル回すと回ってるので「共回り式か?」とこの時代のスピニングでねじ込み式じゃないのは珍しいなと思ったけど、何のことはない、蓋の方もハンドル同様に”ねじ込み式”で先と元で太さを変えて右用左用にしている方式。60年代なら大森製作所はマイクロセブンDX作ってたぐらいで、まだ左右両用は珍しく、ハンドルの反対側は蓋作って填めておくと防水性も確保できて良いってところがまだ知られてなかったということか。そういえばロディーマチック825RLでも「ねじ込み式の共回り」だったな。

 でもってパカッと本体蓋開けると、でましたTHE稲村方式といっていいだろうハンドル軸のギアの上に歯を乗っけて逆転防止をもってくる構造。「ロディーマチック825RL」でももちろんそうだったし、稲村の流れを汲むダイワでも「7250HRLA」がその独特な伝統を引き継いでいたし、PENN「101」にも引き継がれていてコイツがダイワ製とワシが推定した根拠の一つになっている。ただコレまで見た稲村方式だと、ギアの円盤いっぱいつかって遊びを少なくしてたけど、本機種ではやや小さめの直径になっている。

 でもってギアの方式は本体銘板に「HELICAL GEAR(ヘリカルギア)」と書かれていて、ヘリカルギアは斜めに歯を切った”はす歯車”のことなので、ハイポイドフェースギアのローター軸のギアのことを言ってるのかなと思ったんだけど、ローター軸のギア見るとヘリカルギアじゃなくて平歯で、ハイポイドフェースギアじゃなくてこれまたロディーマチック825RLでも採用されてた、軸の中心が交差しない”オフセット”したフェースギア的な作りのギアである。

 結局このギアの方式は、耐久性がいまいちとかで、ハイポイドフェースギアに駆逐されていくんだけど、まだそのあたりが固まってなかった日本のスピニングリールの黎明期のブツだと思うとなかなかに味わい深く感じる。この時代、60年代は稲村に限らず日本のメーカーが単なる模倣の時期を過ぎて、独自の技術を追求、試行錯誤し始めた時代だったんだろう。たぶん。

 でもってその古い時代のリールに、ハンドル軸から歯車で回転もってきてオシュレーションカムを上下させている”減速オシュレーション”がスプール上下の方法として採用されていて、事前にそうらしいという情報は仕入れてあったけど、仕組み自体がまさに試行錯誤中って感じで独特なので面白い。ハンドル軸にそれ用のギアが固定してなくて後から填める方式だったり、オシュレーションカムを真っ直ぐ上下して浮かないように押さえる後付けのアルミの細板が取り付けられてたり今まで見たことがない方式でまさに独特。あとギアの上?に逆転防止の歯を持ってくるのは、下にオシュレーション関係を入れる都合から始まったのかも?とかこのオシュレーション機構を見て思ったり思わなかったり。

 ちなみにハンドル軸のギア、真鍮が鋳込んであるとともに、どうも真ん中に銅板、その両面にギアの歯と逆転防止の歯が鋳造でくっついてるように見える。ギアの歯側から見ると亜鉛の灰銀色だけど逆転防止の歯側から見ると歯の下の外周に明らかに色の違う赤銅色が見える。なんでそうなってるのか分からんけど凝ってるし独特。

 逆転防止のスイッチも独特で、ボディー内側でEクリップ止めじゃなくてピン刺して止めてるんだけど、コレが外しにくい。ここは最悪外れなければグリス隙間にねじ込むようにして放置という手もあるんだけど、固着してるのかスイッチ上下にスライドしてくれなくて外さにゃならん。銅板をグイッと押して隙間作る感じでたわませてやって、やや力を掛けてペンチでピンの先を摘まんで引っこ抜いたらやっと抜けた。なんか単なる円錐形のピンだと思ってたら刺さってる部分が凹んでる特殊な形状。ってのも独特だけど、外してビックリ、固着してると思ってたスイッチ、とくに固着してなくて実は上下にスライドじゃなくて左右にスライドさせる方式だったでござるの巻。ここが今回一番のビックリどっきりメカかも?

 ベール反転は、反転のレバーがバネで前後スライドさせる方式で割と普通。蹴飛ばしの方が、蹴飛ばし自体は本体の金属側の出っ張りなんだけど、その前後にギアを押さえている円盤の端を切って坂状に起こした”簡易ローターブレーキ”というか、変なところではベールが起こせないようにするバネにしてある部分が設けられ、昔からそういった工夫とかあって、少なくともこの時代の稲村の設計者はスピニングリールの使い方とかちゃんと分かってたと見て取れる。稲村のダイワ吸収合併の際にそういう設計のデキる技術者も吸収されたハズだけど、そのわりに古いダイワとかにはあんまりな設計のリールがあったりするし、今でもリールのこと良く分かってるのか疑問に感じることがあるのはなんでだろう?方式とか設計とかが独特でも、ちゃんと機能すればなんでもいいけど、その設計の意図する目的がそもそもリールのこと分かってないような頓珍漢なありさまではどうにも奈良漬け。

 ちなみにお待たせしましたBBB団(ボールベアリングをボロカスにこき下ろす者の団)の皆様、このリールはボールベアリングレス機です。左右巻き替え”コンバーチブル”で死角なし!ブッシュは填め込んであるのか鋳込んであるのか?とにかくハメ殺しだけど本体アルミで直受けとかにはしていないのがちゃんとしてるところ。オシュレーションカムを上下させる歯車上の突起にも真鍮のカラー被せてあるし、そのへんの素材選定のあたりもしっかりしてて、この頃の中小の日本メーカーは真面目って言われてるけど、ワシもそう思う。先人達は真面目に一所懸命リール作っておりました。

 ラインローラーは固定式、ベールアーム側にベールワイヤーを留めるナットのカバーがついていて糸絡み防止で凝ってる、最初レンチとかで六角ナットを締めていって、最後はナットの頭の一文字の切り込みをマイナスドライバーで締める。ベールアームの内側がスパッと切り取ったようになってて、この位置を削る目的がイマイチ分からんけどなんか意味があるんだろう。ひょっとして軽量化して回転バランス取るためか?

 下の写真、通常は本体側にポコッと樹脂製のキノコ型の部品が突っ込んであるベールが閉じたときの”受け”がベールアームの側に設けられているっていう細かいけれど独特な箇所。

 足は溶接の技術があるわけでないので、やれることは限られていて、角をカナノコで切って、後はサンドペーパーでリールシートに突っ込めるように尖らせるぐらいしかデキることはない。削ってパイプシートなら何とか固定できるようになった。やっぱりFujiのDPSは優秀で足が長かろうが短かろうが入るのも偉いけど、削って尖らせた1cmも突っ込めばしっかりと樹脂が足を咥えて放さない感じに固定できる。フォアグリップを被せる方式のシートを試したら、まず足の長さが足りずに締めるところまで行かなかった。独占企業Fuji社の数の多いガイドシステムを売りつけようとする姿勢は気に食わんけど、モノのデキが良いのは認めざるを得ない。

 減速オシュレーションが搭載されているとはいえ、なんだかんだ凝った設計でパーツ数多めなのはややワシの好みには反する。

 パーツクリーナーで洗浄して綺麗になると、主軸とドラグのワッシャー2枚が真鍮なのが明らかになる。主軸はメッキかけてあるのが支持部とか擦れるところでは削れて剥がれて地金が出てきている。鉄系ではなく真鍮てのがまた独特。どおりで主軸に溝掘るなんていうステンレスなら堅くて面倒そうな設計になってるわけでアル。逆に俵型穴とかだと真鍮が削れて回りかねないとかあるのだろうか?

 あとは、組むだけなんだけど、逆転防止の填め方には注意が必要で、そのまま填めようとすると、ハンドル軸のギアの上に乗っている逆転防止の歯の上に、爪が乗っかってしまって、そのまま本体蓋のネジをギリギリ締めてしまうと多分爪が曲がるなど不具合が生じる。蓋に付いた爪ごと蓋を閉めるときに、途中でマイナスドライバーでも突っ込んで、爪をちょっと開かせて逆転防止の歯に掛かるようにしてから蓋を閉めるとうまくいくので、稲森のこの系統をいじる機会があれば憶えておいてください。

 で今回は、ギアが耐摩耗性にあんまり優れてない方式でもあり、青グリスではなくABU純正グリスを主体にグリス入れて組み上げた。

 回してみると各部正常に機能はしているんだけど、ややギアゴロ感があり、普通に回しているといいんだけど、回すのやめて惰性で回ってる状態で「ギヤーッ」って感じの嫌なギアゴロ感がある。なんか回して止めてってやってると手がムズムズするような気に障る感触。ワシ回転の滑らかさとか気にしない方だけど、さすがにコレは使えと言われれば使えんことはないけど、ちょっと使う気を削がれる。シム調整あたりでどうにかならんか?と試しに薄いテフロンワッシャーをハンドル軸のギアに噛ませてみたりしたけど、常時ギヤーーって鳴るようにしかならず断念。

 独特で興味深いスピニングではあるけど、色々試行錯誤している段階で複雑になってゴチャついている傾向があり、そのあたりはやはりちょっと好みじゃない。紆余曲折を経て、洗練されて本当に必要な単純な設計にたどり着いたような、そんなスピニングがワシゃ好きなんじゃ。

 とはいえ、売れそうな弾じゃない。なんせ足折れジャンク個体、表面腐蝕、小傷、ギアゴロ感年式相応にあり鱒。ではただでさえ、中型機で380グラムは、大きさ的にはカーディナルC4級なれど、やや重いし、常々書いているけどバスマンは骨董的リールならベイトにいくだろうし、シーバスマンは興味ないだろうしで需要が少ない。1000円スタートで買い手がついたら御の字というところだろう。

 古いパイプシートのグラス竿にも付くようになったので、雰囲気はあるし、歴史が感じられる趣深いリールなので、手がムズムズするのを我慢して使おうと思えば使える。とりあえず蔵で眠らせておくか、それとも安くて良いので売れるか試してみるか、まあ急ぎはしないな。もし、欲しい人が居たらご相談ください。例によって物々交換希望です。

 いずれにせよ当初目的だった、稲村製作所の代表的な機種をいじって楽しむということは達成できたので、独特で面白いリールだったし、その点は満足している。

7 件のコメント:

  1. ナマジさん、おはようございます。

     私の場合ロディ―8000で凶悪なギア鳴りを経験しました。
    810のハイギア1BB版で直交軸の斜歯フェースギアです。
    しかし8000でも仕様の異なる個体や同型205Rではノイズはあるものの心地よい音で、回していたい感触のものもあり、改良によってかモデル内でもスムーズなのとガラガラなのと混在することもあるようです。

     ちなみに234はピニオン受けに1BBですサイズによって仕様が違うんですね。気になるところとして234と類似機のバークレイ440は設計上か型起こす段階の不良かスプール軸がガイドと逆の方向に角度が付いてる不具合があります。

     この時期の”ヘリカルギア”の耐久性に関する事とか興味深いのですが情報元とかあれば教えてほしいです、お願いします。

     

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    1. おはようございます
       稲村沼の住民がここに、って感じでいろいろいじってますね。にしても品質なのか設計なのか安定しない印象ですね。
       オフセットさせたフェースギアの耐久性にかんしては「リール風土記」(4)でシマノの会議風景の一場面で「ストレート歯ピニオンのオフセット、つまりハイポイドストレートフェース!?それは他社で散々だったと告げる」という記述がありました。あと825RLで実際に削れていたあたりが、この方式が廃れた理由の推定根拠です。参考まで。

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  2. ありがとうございます。

     本を読むのがダメで風土記読めてませんでした。
    稲村の”ヘリカル”は確認できる限りでは825が63年頃と早く、初のハイポイドフェースがいつか分かりませんが、大森にかぶせてくるぐらいの早い時期から出してたようです。
    続いておそらく64年以降どこか、ロディ―は小型スピニングをダイワに委託していて、7250直系の祖となる824が続きます。
     他に早期の物として知る限りでは時期は不明ですが、オリムによる大森丸パク輸出用、比較的ロングセラーのパーフェクタが”ストレートピニオンのオフセット”として出てました。(…多分)
     新機軸になるなんて知れないながら、直接交流があって理論を見聞きしていたからその道を信じて、未知のややこしいデザインに挑んだのでしょうか。
     オリムが本格的に”へリコンギア”を出してくるのが70年代入ってから、商売人ダイワはこの時期ノッテきてながらデザインに関して保守的。に対して稲村はイノベーターであり2000系とスプリンターでも継続して取り組んだ印象です。

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    1. おはようございます
       
       60年代とか半世紀以上前の事情を追うのは難しいですね。でもさすがの知見です。興味深いです。
       稲村は気風としてやっぱり挑戦的だったんだな再認識しました。

       次のネタのゼブコが意外と稲村臭がしてちょっと面白いです。お楽しみに。

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  3. ナマジさん
    こんばんは。
    こいつの内部構造やパーツ構成が長年気になっておりましたが、入手が叶わずモヤモヤしておりました。
    分解整備のレビューありがとうございます。

    減速オシレーションは先進的なのに、メインギア&ピニオンギアがハイポイドフェースに至る前時代のものなのが勿体ないですね。
    デザインや配色は抜群にカッコよいと思うのですが…

    レクエル堂さん
    自分も中大型の稲村製スピニングを何台か持ってますが、どれも丁寧に洗浄や磨きを行ってもギアごろつきが酷いです。
    たまたま自分が状態の酷いものを引いたと思っていましたが、元々ギアの素性が良くないのかもですね。
    ギアの欠けやメインギアに亀裂が入っていて真っ二つになっていた物もありました。
    大森やオリムピック、ダイワのフェースギア系でも同レベルでギアが駄目になった個体には滅多に出会えないレベルでした。

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    1.  やっぱ見た目って大事ですよね。こいつの人気はヘドンブランドってのもあるけど、なんといってもルックスがイカしてるところによるのかなと思います。
       中身ちょっと見てみたいぐらいではおいそれと入手できないですよね。ボロ個体が手に入って中身紹介できて良かったです。

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    2. 匿名さん、
      気づかなくて返事遅くなりました。

      極上仕様の8000に感動して、追加で確保した個体が極悪仕様でまいりました。
      稲村は設計の質からバラつきが大きく、分かってるのか分かってないのか怪しい感じがありますね。
      2000とジャイロ、時系列含めて同じメーカーだと思えないです。
      下請け外注複雑なオリムピック、分かってて品質を抑えたダイワとは違う事情を感じます。

      しかしスプールは一貫してカッチカチです。


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