2015年6月7日日曜日

狼王ロボの嫁





ルアー図鑑うすしお味第8弾はメタルジグ編一応の最終回。

ナマジ大好き佐賀の漁具系釣り具メーカー「ヨーズリ」製メタルジグ3点盛り。


 上から、超ベストセラーのブランカ、次がややマイナーなLジャックジグ、一番下は前回も出ましたがメタリックサーディンの60グラムとかの普通のサイズのもの。

 メタリックサーディンは今でもハイパブライトとかいう蓄光塗料で塗装されたタチウオモデルとかもあってよく見かけますし、ブランカはもはや定番なのでいろんな新色も出ていますが、今でも私はピンクの28、40グラムぐらいをカヤックシーバス用ボックスとかには入れてます。

 Lジャックジグが、東京湾ボートシーバスジギングでだいぶお世話になったんだけど、よく使ってた青が使い切ってしまったのか見あたらず。無いと分かると欲しくなる切なさよ。という感じですが、今もう売って無いようです。良いジグだったのに人知れず消えていったようで残念。

 これら、ヨーズリメタルジグ3兄弟は、なんといっても値段が安くて入手も容易で、かつ良く釣れるということで愛用していました。
 メタリックサーディンとLジャックジグは似たような感じでLジャックの方がややスリム。どちらもホロシートをボディーに貼って、剥がれないように熱収縮チューブでコートしてありました。



 とはいえ、自分の中で、絶大な信頼を置いて投げていたのは、ブランカです。これのピンクと青はメッキ釣り用の小サイズから、カンパチ狙いの200グラムまで各種持っていますが、特にショアジギングでシーバスやヤズ(ハマチ)を狙うのに、28グラム40グラムを多数使った記憶があります。特にピンク。

 10年ほど前の九州在住時、北西の季節風の中玄界灘のサーフで釣り人が投げるのは、地元九州は佐賀のヨーズリが作る御当地ルアー、ブランカのピンクと黒。秋から初冬のシーズンには釣具屋の店頭から、これらのカラーが消えるぐらいの人気でした。


 何が良かったのか、正直よく分からない部分がありますが、両サイドを平面的なデザインにして魚っぽい曲面を持つジグに貼るよりホロシートを貼りやすく剥がれにくくして、そこに様々な角度から見てランダムに光を反射して目だつであろう「クラッシャブルホロ」と一般的に呼ばれるホロシートを貼って、安く作って大量に供給したところが爆発的ヒットと、釣り人に「使われた」からこその、実績や安心感を生み、このジグを名作たらしめているのかなと思います。
 ちなみにヨーズリではクラッシャブルホロは「クラッシュレーザーホログラムシート」と表記されます。
 メタリックサーディンやLジャックジグのようにホロシートの剥がれ防止に熱収縮チューブをかぶせたりはしていませんが、接着剤も良いのが使われているのかペタっと貼ってあるだけにみえるのに剥げたことがありません。
 アクション自体はやや後方重心のキャスティングしやすいバランスのスタンダードなジグのフツーの動きで特筆すべきようなモノではありません。

 クラッシャブルホロのように、水中で様々な角度から見てランダムに光る素材としては、アワビの貝殻などの天然素材が知られていて、ルアーの素材としては破格の「お高い」モノにもかかわらず高く評価する釣り人も多いですが、ブランカにベタッと貼られているクラッシャブルホロは同様の効果を、まあ全く同じとはいいませんが、超安価で実現してしまった地味に極めて優秀な素材だと思います。
 釣り人ってなんか値段が高くて小うるさい屁理屈が付いていないとありがたがらない傾向にありますが、こういうのを安く実用レベルで供給してくれたヨーズリさんには、もう最高レベルの評価をしてしかるべきだと思うのです。
 最近のブランカとメタリックサーディンのタチウオモデルに塗られている蓄光塗料のハイパブライトも、部屋で夜蛍光灯を消灯するとボヤッと光っていたりして、メタルジグの蓄光塗料に蓄光するためだけのフラッシュを焚くライトを持って行っていた苦労がバカ臭くなる高性能。技術の進歩って素晴らしいネと感心する。

 今では、クラッシャブルホロに限らず他の反射素材を貼り付けているジグも多種出ていて、昔ほどの優位性がブランカにあるとも思えないんだけれど、私はもうキャスティングで使うジグはブランカさえあればいいやというぐらいに思っている。

 ブランカが出たころの抜きんでた実釣性能を示すエピソードとして、NZ武者修行時代の同居人の釣果を紹介しておきたい。
 同居人ワーキングホリデーの制度を利用して1年強ニュージーランドに行ってたのだが、当然トラウト釣るだろうということでフライロッドは持たせて、ついでに海も何気に凄いらしいからとシーバスロッドも持たせて、ブランカピンクもいくつか持たせておいた。
 
 あるとき、シャチが追い込んできたと地元の釣り人は言っていたらしいが、数日間にわたって河口のエリアにカウアイというハマチに歯を生やして縞模様にしたような魚がボイルしまくっている状況があったらしく、最初の方は釣り人みんな大爆釣祭りでエラいことになっていたのだが、日を追うにつれスレだして反応しなくなり、シビアになっていく中、ブランカ投げている同居人だけ釣れ続けて、地元の釣り人に「キミ、どんなルアー使ってるの?」と聞かれまくったらしい。「日本のブランカ!」とジャパニーズハイテクルアーを誇らしく自慢したとのこと。
 同居人曰く「ブランカ最強!地元の釣り人の投げてる「ダダの鉄」みたいなのには負ける気がしなかった。輝きが違う!」とのこと。
 タダの鉄みたいなジグってたぶんお隣オーストラリアのハルコツイスティとかコレまで紹介してきたクリップルドヘリングやスティングシルダーのような金属片に鱗模様切った程度のローカルジグかなと想像している。
 ルアーの釣る能力って、単純なリアルな形状とかには案外関係無くて、形的にはブランカも単なる金属片の域を出ていない。でも、あのギラッギラのクラッシャブルホロはジモチーが投げる地味な「タダの鉄ジグ」とは別格の煌めきを持ってカウアイを誘惑し続けたんだと思う。

 その辺の、「きらめき」とか水中での色とか見え方について、ブランカのクラッシャブルホロが実に優秀だと納得したのは、ワニマガジン社から98年に出版された「メタルジガー」というムックの特別付録を使って、50m水深の海の底でメタルジグがどういう風にみえるか疑似体験してみた時であった。

 「特別付録」って大仰な書きぶりだが、実物は青いビニールシート1枚である。しかしコレが実に面白い付録だった。
 ようするに、水深が深くなるにつれ、太陽からの光は減っていく。その減り方も光の波長によって異なり、波長が短くエネルギーが高い青い光は深くまで届きやすいけど、赤は波長が長くエネルギーが低くすぐに海水に吸収され届かなくなるというヤツを、赤をシャットダウンして青が見えるように受験生が暗記モノの時にマーカー引いてシートかぶせてってのをやるときに使うような青いシートをつかって再現するという理屈である。シートかぶせるとだいたい50m水深の赤色光の少ない海底の見え方、シート重ねると100m、150mとイメージできると書いてある。


 当時の実験を再現すべく、ヨーズリ3兄弟と、金属片代表ダイヤモンドジグ、金属片に鱗切った代表クリップルドヘリングにも登場いただいた。 








 こんな感じに、かぶせていくと、ホロシートは結構光を反射して光っていて、クラッシャブルホロのあちこちギラついている感じも分かる。
 だがしかし、角度を変えたりして写していると、意外にLジャックとメタリックサーディンのホロシートは光が弱い、写真では全く光ってないように見えるが実際にはボヤッと光っている。ブランカのクラッシャブルホロは、どの角度からもどこかギラギラッと強く光っている。このどの角度からもギラギラというのが、それまでならアワビとかの高価な天然素材にしかできなかった光り方だと思っている。角度によっては意外にただの金属片のダイヤモンドジグがギラリと光る。あと、金色とオレンジは黒く見える。深海魚の体色の赤いのやオレンジのは赤色光が届かない深海では黒と同じとよくいわれるが、なるほどなと思わされる。水面直下引いてくるキャスティングだと色の微妙な違いも意味があるのかもしれないが50mとかの深さに沈めるバーチカルジギングでは青とピンクなんてのさえ同じなのかもしれない。でも銀と金、ピンクとオレンジは明確に違う色でホロシートとの組み合わせや配色で、めだち方とかも違ってくるというのは知っているべきなのかもしれない。なかなかどうしてダイヤモンドジグのギラつきもクリップルドヘリングの地味めナチュラルな感じも釣れそうに見える。
 
 当然我々の目に映るのは、赤から紫までの我々人間にとっての可視光であり、実際には魚の目にどう映るかという問題もあるが、かなり参考にはなる面白い付録だったと思う。
 まあ、本読んであーだこーだと推論しているのも面白いが、結果は釣り場にしか無いので、とにかく「ルアーを水中に入れてこい」ということだとは思う。

 ブランカについて、どこかで書いたネタだがその名前の由来について再度。

 同居人とも「白くもないのになんで「ブランカ」なんだろう」と言っていたのだが、今思えばもうブランカが「白」だと知ったのが何時何からかを思い出せれば、それが答だった。スペイン語で白の意味らしくイタリア語のボンゴレビアンコのビアンコに近い感じではあるが、そこから「白」と類推するまではいかないだろう。
 あるマンガを読んでいて、シートン動物記の「狼王ロボ」が伴侶としたメス狼が、その白い体毛から「ブランカ」と呼ばれていたというエピソードを思い出して、ブランカの名前の由来はコレしかないと、ハタと思い当たった。
 ロボは強く賢い狼で、家畜を襲い人間の仕掛けたどんな罠にもかからず、銃の射程には入らず、伝説的な狼だった。
 このロボを仕留めるために、最後に使ったのがロボの伴侶のメス狼ブランカ。ブランカを仕留めて、「ブランカの死」を「餌」にロボを仕留める罠を張ったのである。
 ロボは、ブランカが敵の手に落ち死んだことを知って冷静さを失い、罠にかかって仕留められるという割とビターテイストな結末。

 どんなに賢く警戒心の強い獲物でも弱点がある。ロボにとっての「ブランカ」のように。というのが命名の由来だと勝手に私の中では確定している。

 そういう、名前の由来も含め、ブランカは釣り人が想いを込めて投げるに値する名作ジグである(断定)。

 クラッシャブルホロシートという、安くて効果的な素材を、平面の多いボディーデザインにしてコストを抑えながら剥がれにくく貼って安い価格帯で売って、沢山の釣り人に多くの獲物をもたらした。
 日本のジギングの歴史の中で、地味だけど評価しておかなければならないジグとして、ここに書き記しておきたい。

 日本型の海のバーチカルジギングの世界は、釣り人とメーカーが共に「ハマって」ここまで技術体系も道具も特殊に、時に先鋭化しながら進歩してきた。
 でもまあ、バーチカルジギングの原点は、なんか金属片を魚の居るところに沈めてしゃくってやると魚が食ってくるというヨーロッパのタラ釣りなんかが原点にあって、どこまで行ってもその延長線上でしかなく、あまり難しく考えすぎずに気に入ったジグをしゃくっておけば良いんだと、あまりにいろんなことが言われすぎてこの釣りに迷っている人がいるなら、そういってあげたい。
 たぶん、クリップルドヘリングやダイヤモンドジグでも最新鋭のジャパニーズジグでも、とにかく水中にルアーがあれば釣れる確率は発生してくるので、まずは釣具屋の棚の前で悩んでいるよりも、水中にルアーを沈めてこいとアドバイスしておきたい。

 実際に釣りの現場に出れば、あなたにしか知り得ないコツや真実が現れてくる。それは必ずしも他人のコツや真実とは異なるかもしれないが、あなたにとってはあなたのコツや真実こそが重要なモノになるはずである。
 魚釣りでは、釣具屋の棚の前での逡巡やネット上の評判は、1回ジグを魚の居るところに沈めてしまえば無意味なモノに成り下がることが多い。

 ジギングなんてのはジグを沈めてしゃくるだけのシンプルな釣りである。それでもそのしゃくり方からジグが後方重心かセンター重心か、反射板系かグロー系か銀貼りかアワビ貼りかカラーの明暗、タックルはスピニングかベイトか、種々悩むことになり、これからももう出尽くしたと思えるジグの種類さえまだ新作が提供されるだろう。
 そういった、釣り人の飽くなき欲カキの部分が釣りの「お汁たっぷり」な楽しみの部分だと思うので、もうジギングはあまりしなくなっている私でも手に取りたくなるようなジグが出てくることを期待している。

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