今回、サイトの方の「アニメ・映画など日記」の出張版でお送りいたします。
日本の深夜アニメにおいて、女子高生になんかやらせるっていうのはすでにある種の様式となっており、女子高生にオッサンの趣味をやらせるというのももはや定番で驚くには値しない。例をあげると女子高生がキャンプする「ゆるキャン△」、女子高生がエアガン使って”サバゲー”する「さばげぶっ!」などである。まあ「さばげぶっ!」の原作マンガが少女マンガ誌の「なかよし」掲載だったていうのは、今時の女子はなんちゅうもんを読んどるんじゃ!と驚いたけどな。
そんな中で、前期に始まったけどコロナ禍で製作が一時止まってて今期続きが始まった「放課後ていぼう日誌」は女子高生が主に”釣り”をするというマンガ原作のアニメで、正直あんまり期待しないで視聴し始めたんだけど、コレがなかなかどうして面白いっていうか、ハッキリ言って「釣りキチ三平」以降最高の釣りマンガ・釣りアニメだと現時点で確信している。
釣りマンガとかって、一般的な釣り人レベルの作者が描いたところで、内容が浅すぎてつまんない。それは、技術的なレベルの話では全くなくて、何というか釣り人の精神的な部分の高い低いの問題だと思っている。プロの釣り師が技術監修したところで、細かい釣りの技術なんてのは時代と共に変わっていくような表面的なもので、あんまりそこが細かく詰められていたとしても本質的な面白さには関わってこないと感じている。逆に作者の釣りの技術がそれ程ではなくても、釣りという世界にドップリはまり込んでいて、沼の底から書いているような作者の作品は多少技術的に荒唐無稽な描写となっていようがどうしようもない面白さが湧いてくる。マンガじゃないけど開高先生も技術的には”職業釣り師”的な上手さはないし、夢枕漠先生も映像見る限り自己流で失礼ながらあんまり上手ではない。しかしながら両先生共に”釣りっていうのがなんなのか”っていうそれぞれの哲学がしっかりとしていて、かつドップリと沼に沈み込んでどうしようもなくなっているのが手に取るように分かる作風で、読んでいて身につまされるし面白い。
釣りマンガでコレまで読んで面白かったのって「釣りキチ三平」を除くとあんまりなくて「おれはナマズ者」「釣り屋ナガレ」あたりがまあまあ面白かったなというぐらいしか記憶にない。多くは作者があんまり釣りのこと分かってなくて、適当なグルメマンガ要素でお茶にごしているにすぎず、まあ日本の釣り人の一般的なレベルってそんなもんなんだろうなっていう感触で、沼の底に沈んでるような釣り人を対象とした作品書いたところで読んで理解できる人間が少ないから仕方ないって話だろうと諦めていた。マンガは描くのに特殊な技術が必要なので沼の底の釣り人が直接描くのは難しいけど、文章はそれなりに誰でも書けるので沼の底からの濃厚な出汁の出た報告とかは書籍でもネット上でも読めるのでそういうのを楽しんでおけば良いと思っていた。
ところが「放課後ていぼう日誌」は例外的なぐらい面白い。海辺の高校に通う女子高生が堤防で釣りしたり干潟であさりを搔いたりという活動を部活として行う”ていぼう部”に入って釣りを楽しむっていう、設定聞くだに駄作っぽい香りが漂ってくるんだけど、これがなかなかに鋭い鋭い。釣りの技術的には「釣りキチ三平」のような奇想天外な策略も出てこないし、釣りのプロ様が監修したような今時の技も出てこない。初めて釣りをする主人公に部員達が教える形で技術的には基礎の基礎的な部分の解説とかが割と多い。ただ基礎っていうのは一番大事な部分だから”基礎”たりえるわけで、そこがしっかり押さえられているのはむしろ好感度が高い。部活モノのアニメで”プール回”があるのはお約束としてもそれが”着衣水泳”の練習回だなんていうのは最も大事な基礎である”安全第一”っていうのが分かっている釣り人じゃないと描けないはずである。それを堅苦しくなく女子高生のキャッキャウフフな部活風景の中で描いているのである。鋭いぜ。
その鋭い作品のなかでも、原作者分かってらっしゃるなと特に感心した話を上げるとすると、主人公の相棒が、釣りって同じようにやっても釣れないことがあってそれも含めて面白いと思うんだけどね、っとか言っちゃうところとかも大きく頷かされたけど、直近2話の”アオサギ回”と”のべ竿回”が著しく鋭くてほとほと感心、脱帽である。
アオサギ回では主人公がリリースしようとしたガラカブ(カサゴのこと。言葉遣いで九州熊本あたりが舞台と分かる)をアオサギにかすめ取られてムカつくんだけど、その足に釣り糸が絡まっているのを見つけていたたまれなくなって、結局そのムカつくアオサギを捕獲して釣り糸を外してやることにする。それだけならありがちな陳腐な描写になるのかもしれない、ただ今作では、救助目的でも野鳥の捕獲には許可が必要なので先輩が役所の許可を取ってからとっ捕まえて糸を外してやる。コレって実際にやったことある人間かやろうとした人間じゃなければ知り得ない知識であり、原則的には狩猟免許が必要なのかな?ぐらいに思ってたけど、ワシも恥ずかしながら正式な手続きはそういう段取りなんだと初めて知った。救助目的の特例的な許可があるんだな。勉強になりました。ちなみにワシは過去無許可で勝手に捕まえている。鳥の足に釣り糸が絡まっている。可哀想だなと思う。多くの人がそう思うだろう。ただ面倒くせえ手続き取ってまで捕まえてでもどうにかしてやろうと思える人は少ないだろう。それだけで尊敬するに値する。釣り場に平気でゴミを捨てていく輩と真逆の高潔さを感じたと言ったら大げさだろうか。自分も根掛かりで釣り糸を釣り場に残すことがないわけじゃないので、その罪深さを改めて認識させられたお話しで、やっぱり”根掛かり覚悟”なんて釣りは下策で避けなければだし、釣り場のゴミは拾いきれないくらいだけれど、明らかに釣り人が原因で下手すると100年単位で環境に悪影響を与え続ける代物であるラインゴミぐらいは回収できるだけ回収していこうと、ここに新たに誓うぐらいに心に訴えるものがあった。
のべ竿回では、アジゴ(小アジ)をのべ竿に浮子仕掛けで釣る。アジゴはコマセサビキで主人公が初めて釣った魚であり、その後も何度も釣ってるので最初他の魚が良いって言ってたんだけど、いざ釣ってみると柔くて良くしなって直接的な手応えの延べ竿の釣り味にすっかり魅了される。”のべ竿の釣りは独特の面白さがある”っていうか超面白いっていうのはワシ40年から釣りしてきて割と最近になってやっとたどり着いた境地である。まいりましたと言わざるを得ない。原作者ものすごく心根のしっかりとした程度が高い釣り人であるとお見受けする。それは技術的に上手とかそんなことよりずっと価値のある素晴らしいことだとワシャ思う。
っていうのべ竿回であからさまな間違いをみつけてしまいオッサンちょっと安心した。あんまり完璧すぎるのも何だしまあご愛敬ってところだろう。小さい緑色のベラが釣れて逃がしてあげる場面があり、そのベラがキュウセンの雄だとされてたんだけど、普通の釣り人なら「ベラの仲間は性転換する種が多くてキュウセンは小さいうちはみんな雌」っていう突っ込みを入れるところなんだろうけど、それでは突っ込みとしては甘くて間違っている。キュウセンには実は小さいときから雄の個体が少数ながら存在する。ならアニメの描写は正しいのでは?となるけど、そうはならないのがキュウセンなんていう身近な魚の実は面白い生態。小さいときから雄の個体は緑の”アオベラ”じゃなくて、小さいときには色は黄色オレンジに黒ラインの普通は雌の”アカベラ”の色をしているのである。だから正確には「小型のキュウセンには雄であっても”アオベラ”の色をしたモノはいない」と突っ込むのが正しい。小さいときから雄の個体は、雌の体色で雄が引き連れる雌ハーレムに紛れ込んで産卵行動に参加すると聞いている。アカベラの見た目の雄は人間の目には外見上雌と見分けが全くつかないのだけど、同種の雄には一緒に飼育して産卵させようとすると追い払おうとする行動が見られるので、どうもじっくり時間を掛けると理由は分からんけどバレるらしく、ハーレムの主に隠れてバレないうちに卵に精子をかけなければならないとかの都合上か、コイツらの精巣は大きく、大型化して本来の雄の体色である”アオベラ”化しても精巣が雌からの性転換組と比べて大きいので最初からの雄だと区別ができる。ついでに雄に性転換せず雌のままの一生の雌個体もいる。「キュウセンなんて外道」とか言って食味の良さも知らないような釣り人はこういう面白い話にたどりつけないだろう。どんな魚でもつまらない魚なんていないんである。
なんにせよ放送終わったら原作マンガの方も買わなければならんなと思っている。釣りする人もしない人も楽しめる作品だと思うので超お薦めしておきます。
ちょうど今、11話までの一挙公開をしてますね。(27日まで)
返信削除https://gyao.yahoo.co.jp/player/00998/v01202/v0000000000000009540/
私も正直期待はしてなかったけど、ここまで裏切られるとは。
キス釣り回も驚きの連続でしたねえ。
この手の作品でバリが釣れても「危ないから気を付けよう」で終わるんじゃないのか、普通。
それなのに毒棘の処理方法どころか、あの体表のにおいと味のギャップとか、脂が巻いたゼンマイとか、釣って食べたものにしか分からない(というか、慣れた人には当然になってしまっている)感覚をリアルに蘇らせてくれるなんて・・・。
それどころか、釣り雑誌や解説書でも数回しか見たことが無く、磯釣りをする人間どころか鮮魚コーナーの店員ですら知らない人も多い「隠し棘」にふれてくれるアニメって何なん?
のべ竿回で描かれたフグとのファーストコンタクトが、ヤツらの凶悪さをまだ知らなかった頃の私自身も含め、釣り場で何度も見てきた光景そのものだったし、
キス釣りの最後も、諸事情を鑑みて部長か誰かが人工エサでも釣れることを証明して見せるのかと思いきや、初心者が本当の意味で釣りの沼に引きずり込まれる瞬間を描いて見せてくれるし、見かけによらずとにかくリアルの一言。
本当に、こんな作品を作ってしまう原作者の鋭さに感服しきりです。
次回が早く見たいような見たくないような・・・。
まあ終わったら原作を手に入れればいいか^^
風雲児さん こんにちは
返信削除多分、それなりに酸いも甘いも知り抜いた釣り人なら、この作品のデキの良さは多いに楽しめるんじゃないかと思っていましたが、風雲児さんでその感触が正しかったことが証明されたように思います。
今お客さんが来て釣りまくり中でまだ11話も見られていないので、残りの視聴も楽しみだし、原作も買っちゃうだろうなと思ってます。
最終話今視聴し終えました。
返信削除疑似餌でのキス釣り、最初上手くいかなくて動画とかを参考に調べて「結果釣れました」においそれとはならないところが実に分かってらっしゃる。それを自分の釣り場や釣り方に当てはめて工夫を加えてモノにした”技”が釣り人としての財産になるっていう、まさにその通りですよなお話。
素晴らしい!!
近年”釣りのプロ”の多くがただの釣具の広告屋になりさがり、釣りの楽しさを伝えて広めてくれるような”釣名人”の不在を感じていたんだけど、マンガ・アニメでそれをやってのける人が出てきたところにマンガ・アニメという表現が成熟の時をむかえていることをまざまざと感じさせられて感慨深いです。