
ルアー図鑑うすしお味第30弾は、この変なスプーンが何者か推理していきたい。
108円でも売れ残り、黄色の特価札を貼られて86円の見るからに安物のスプーンに、ナマジは何を大仰なことを言い始めたんだと思うかも知れないけど、次の写真をみていただければ、おわかりいただけると思うが、このスプーン、日本のルアーフィッシングの源流の一つである銀山湖で1967年に「忠さんスプーン」の常見忠さんが、初めて58センチという大イワナを釣ったスプーンと同じルアーに見えるのである。
右の比較写真は地球丸「忠さんのスプーン人生」の写真と現物を並べた物である。
こうして並べてみると、鱗の書き方や2重丸になっている目など特徴が一致する。
しかし、このスプーン裏面にメーカー名などなにも刻印が無く、決定的な証拠が無いのだが、そもそも、忠さんの使ったスプーンの本物もメーカーやら一切不明で、前述の本によると日本橋の三越本店2階の釣り具コーナーで買ったという情報程度しか書かれていない。
一緒に買ったタックルがまだ日本では作ってなかっただろうクローズドフェイスリールとスピニングロッドらしいのでスプーンもヨーロッパから舶来の釣り道具として輸入されたものの一つと考えるのが普通だが、本にはルアーについては「何の変哲も無い国産品」と書かれている。
国産品も当時は日本人ではなく主に米軍関係者を対象に売っていたのだろうと思われる。
でも名前がどこにも出てこないぐらいで本物にも刻印は無かったと考えられる。

左はもう一冊、忠さんの書いた平凡社カラー新書「ルアーフィッシング」 のカラー写真。これをみると、真鍮ぽい色合いとかがよく似ており、実にそれっぽく見えてくる。
(この本では1974年となっているが、「忠さんのスプーン人生」にある1967年のほうが前後の年代と整合性がとれている。)

フックがいわゆる「茶バリ」で買ったブツと違うが、右の写真の一緒に売られていた銀色の方には茶バリが付いていてハリは交換した可能性がありなんともいえない感じだ。


こういう金属を加工する場合に、模様の付け方はどうするものなのか分からないが、目玉前方の線は上にずれて引かれなかった可能性があるが、しっぽのところはどう考えても金型とかが違うのではないかと思える。
ではこいつはいったい何なのか?いくつか可能性としてはあると思うけど、1つめは同じルアーの後継モデル。
同じ物を同じメーカーが作ったが若干模様が変わってしまったというもの。サイズ違いという可能性もあるが、「スプーン人生」にサイズがだいたい4センチと書かれており、買ったブツは5センチで、サイズ違いが1センチごとにあったというのはあまりないのかなと思うので、サイズはコレと本物が違っていた可能性は低いのではなかろうかと思う。
もう一つの可能性が、本物のコピー商品。実にありそうな話である。忠さん達が本物でデカいのをガンガン釣ってそのスプーンを欲しいと思ったけど、既に売り切れてどこで作ってたのかもよく分からない、じゃあ作っちゃおうという流れでまねして作られたもの。あるいは人気は無かったんだけどたまたままねする手本として選ばれてしまった、はたまた、1981年初版の「ルアーフィッシング」の写真とかを見てコピーした、という可能性もあるのか?
「忠さんのスプーン人生」では、ABU社トビーとか舶来の釣り道具に「盲目的な崇拝ぶり」があったと書かれているが、反面「何の変哲も無い国産品」にはぜんぜん人気が無かったようにも書かれているので、後者よりは前者のような気がしている。後者のコピー商品であってもそれはそれで、日本のルアーフィッシングの歴史の一コマとして面白いのかなとは思うがどうだろうか。
「何の変哲も無い国産品」で私が見つけなければ、埋もれてしまったであろう実に面白いブツをエグッたものだが、残念ながら私にはこれ以上の調査なり推理は難しく、こいつがいったい何なのかは特定するに至っていない。
スプーンについてはJOSさんがかなりのマニアで、義理のお父さんがちょうど世代的にも知ってておかしくなさそうなルアーマンでもあり、このブツはJOSさんのコレクションに仲間入りさせて追跡調査をお願いしようかと考えているところである。
意外に「あーコレね、良くでてくるんだよ」というショボいブツなのかも知れない。「なんでも鑑定団」だと、さんざん自信のあるようなことを言っていた持ち主が、ガックリきて中島先生に「大事になさってください」と慰められるパターンか。それもまた面白いかと。
※業務連絡です。JOSさん現物のまえに大きめの写真とか送りたいのでメールください。