2018年12月31日月曜日

2018のベスト3(エンタメ編)


 今年は当初「活字の本が読めんっ!」という危機的状況だったけど、再読モノから始めてリハビリしていき何とかいい塩梅に復活して、今は活字もボチボチ楽しめている。
 マンガやらアニメも相変わらず面白いのが多かったし、今年はNetflix契約したのがきっかけでドキュメンタリー映像をたくさん観たのもなかなか楽しく時間がつぶせて良かったので今年はドキュメンタリー部門も新設。
 楽しく面白いのだけじゃなく、心の固くなったカサブタをがりがり引っかかれてはがされ血が流れるような作品もあってそれもまた良し。

○活字本:1位ジャック・ロンドン「火を熾す」、2位角幡唯介「漂流」、3位竹中由浩「アキ」
 1位は、「荒野の呼び声」が有名なジャック・ロンドンの、っていうかそれしか読んだことなかたった米国の作家の短編集。すごく良いから読むべしとお薦めされて、読んだらすごく良かったパターン。なんというかいろんな味わいの作品が収められてたんだけど、表題作を筆頭に乾いた筆致で感情表現少なめの硬質なキリッとしたかっこいい文章のやつがどうにもこうにも実に良い。訳者もいいんだと思う。
 2位、角幡先生本はピンチの時のためにとっておいた「雪男は向こうからやってきた」も良かったけど、本作もくそ面白かった。瞬間的に消費されるような、作ってる側も瞬間的にしか時間をかけてないような安デキの情報が氾濫していて、なおかつそんなのがもてはやされるご時世に、何でこの人はここまでしつこく丁寧に、文献や人にアタって真実に迫ろうとするかな?とあきれるやら感心するやら。結局真相にはたどり着けないんだけど、本自体の面白さはきっちり高いところにたどり着けている。沖縄のカツオ・マグロ漁業の歴史なんていうのも水産業界人としては興味深く楽しめた要素。
 3位のTAKE先生の小説は、先生新しい小説「フィッシングライター陽子」をご自身のサイトでしつこく宣伝しておられたので、小説としては前作にあたる「ユキ」は、正直まあまあかな、先生が全然売れないと卑下するほど内容は悪くないよぐらいの感想だったので、今作「アキ」は後回しにしていたんだけど、先生のリール本を教科書にしている生徒としては新作も含めて読まな義理が立たんな、と北へ向かう新幹線で読んでみたら、これがめっぽう面白いっていうか、「あんたはオレか?」っていうぐらいに、例えば外来魚を’’駆除’する番組の気持ち悪さとか、表現の自由に対する無粋な締め付けとか、過ちを犯した者をよってたかって吊し上げることの不気味さとかを小気味よく切って落としてくれてる感じで、胸がすきましたよ先生。あと「キンタの大冒険」懐かしすぎる。
 TAKE先生のリール本は出たら即読むことにしているけど、これからは小説も出たら即反射食いさせていただきます。
 ついでに再読モノで面白かったのベスト3は中島らも「今夜、すべてのバーで」、石橋宗吉「一本釣り渡世」、夢枕獏「鮎師」でいずれも人生最高の1冊の候補にあげるぐらいで面白いのが分かり切ってて読んだので、あたりまえだけど半端でなく面白かった。「今夜、すべてのバーで」と「鮎師」は当ブログでもすでに紹介済みなので省略して、「一本釣り渡世」なんだけど、戦前から戦後にかけての一本釣り漁船の漁法の開発・発展に大きく寄与した房総の伝説の漁師の半生とその漁法についての聞き語り。聞き取って解説も書いた記者の人が出版社からの「釣り人に興味を持ってもらえるような内容にしてほしい」という要望にお応えできていなくてすいません、と後書きで謝っているけど、なにを謝る必要がある。これを読んで興味がわかない、面白いと感じないような釣り人なら、それは釣り人が間違っている。
 確かに業としての一本釣りは産業として効率的に経済性高く釣るという側面があり、「釣り味」「釣趣」を楽しむ趣味の釣りとは異なる側面もあるけど、そんなもん、釣れれば配りきれないぐらい何でもかんでもクーラーに突っ込む下品な釣り人から、オールリリース水面の釣りのみのお上品なフライマンから、釣り人みんな違うその差の範囲内であり同じ釣り人である。カジキの曳縄で散らしバリで顔にハリをかけるのを良しとしなかった美学とか、自分の中にしっかりとした線引きがあって、周りが良いと言ってれば真似して下品な釣りでも何でもやるような節操のない輩とは次元の違うきちんとした釣り人だと見て取れる。
 大型船にガンガン灯り焚かれてせっかく集めたサバを持ってかれて煮え湯を飲まされてたのを、下品に船を大型化して光量合戦に持ち込むんじゃなくて、操船と灯の使い方で大型船が集めたサバを奪い取るなんていう逆襲の仕方とかも、創意工夫と矜持が見て取れて、誉められるような行儀の良い操業方法じゃないからこそ胸がすく。
 ある程度以上の経験や知識を持つ釣り人なら、この本の中から様々な技術的な着想を得ることができるだろう。例えばイシナギをかけてからのヤッタトッタの時に、根と魚の間に船を入れると魚は引っ張る逆に走るから根を切ることができるなんていうのは、この本を初めて読んだときに、渓流のルアーでJOSさんが目の前で43のイワナを釣った際、掛けるまで岸際の葦に隠れるような立ち位置だったのを、魚がデカいと見るや下流の瀬に下られないよう流心に入ってトウセンボするようににして上流に向かわせ続けて仕止めたのと一緒だなと、渓流のルアーと沖の根のイシナギ釣りとにあしらい方の技術的な共通点があるなんて「変われば変わるほどいよいよ同じ」なんだなと思わされたものである。新しい釣り道具売るための流行の技法なんてのを学ぶぐらいなら、この本から同じ潮など二度と流れない自然環境を相手に、腕で魚を釣っていくというのはどういうことかというのを学んだ方が良いとお薦めしておく。ちなみに名人本人が選ぶ一番の技術的な工夫は、あまたある釣りの仕掛けの工夫などではなく小型の漁船用のスパンカーを開発したことだとのこと。スパンカー今でも釣り人がお世話になっているのはご存じの通りで実に偉大な我らの先輩なんである。

○マンガ:一位「銀河の死なない子供たちへ」二位「堕天作戦」三位「月曜の友達」
 年の始め頃に岡本倫先生の「パラレルパラダイス」の新刊を読んで「やばいこんなに面白いと年末この作品を紹介する羽目になるぞ」と戦慄を覚えた。同作は奇才岡倫先生の才能がビュルビュルッとほとばしるファンタジー系冒険活劇のまごうことなき傑作なんだけど、分類するならどう考えても「エロマンガ」であり格調高い当ブログの品位を汚しかねずゆゆしき問題であった。
 でも心配は杞憂だった。今時のマンガは面白いのいっぱいある。ベストスリーに選んだほかにも「少女終末旅行」「南国トムソーヤ」「レイリ」「ハコヅメ」あたりは、正直順位つけたけど、甲乙つけがたくそれぞれに違った良さがあって面白かった。
 一位「銀河の死なない子供たちへ」は永遠の命を持つ者の悲哀というマンガに限らず表現物におけるある種の王道ネタを施川ユウキ先生が力一杯書ききった。結末の描き方とか、なんかきな臭い方向に右へならえな感じになってきてるからこそ重要になってきている「多様性」について、正しい答えなんてありゃしないと同時に幾つもあるんだよっていうことについて、今の時代だから描ける、描かなければならなかった大事なところをバチンとド真ん中外さず射抜いてくれていた。同じ主題では「ポーの一族」が長く心の中で絶対的王者として君臨していたけど、その王座を脅かす作品だ。これから幾度も読み返し心の中でもっと消化して行くことになるだろう。
 二位の「堕天作戦」は、あんまり話題になってないようで、ひょっとして自分の好みに合っているだけなのかも?とも疑っているけど、とにかくどうにも好きだ。高度な文明が滅びた後の遺伝子操作されたような魔人やら怪物やらが跋扈する世界での戦乱の物語って書くと、いままでSFで佃煮にするほど多く描かれてきたような物語だけど、これが独特の感性でシュシュッと上手に格好良く、かつギャグもいい案配で描かれていてなかなかにヤル感じなのである。本作にも不死者も出てきたりするんだけど、他にもSFで扱われるいろんな要素がてんこ盛りになった群像劇で、それぞれのキャラクターが魅力的で物語が複合的に絡み合って紡ぎ出す抜群の面白さでグイグイ引き込まれる。
 三位「月曜の友達」の阿部共実先生が天才なのはマンガ読みには周知の事実であり、いまさらワシごときが褒めんでもいいんだろうけど、さすがに今作を読むとまた褒めずにいられない。少年少女の心の機微をこんなにも詩情豊かにマンガで描きあげることができる才能を私は他に知らない。何度も書くけどこの人と石黒数正先生がマンガの未来を切り開く特別な才能だと断言する。

○アニメ:一位「B:The Beginning」、二位「3月のライオン第2シリーズ」、三位「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」
 「ゲゲゲの鬼太郎6期」もくそ面白いけどまだ最終回まで見ていないので外す。そのほかベスト3以外にも「シュタインズゲート0」「ハイスコアガール」「邪神ちゃんドロップキック」「うちのメイドがウザすぎる」「ダーリンインザフランキス」「デビルマン クライベイビー」「宇宙よりも遠い場所」あたりがお好みな作品だった。
 一位の「B」は、Netflixオリジナルで「デビルマン」の次に本作がきて、これはネット配信アニメがすごいことになるぞ、”アニオタ”向けのアニメの売り方が変わっていくぞという衝撃を受けたら、その後はやや小粒な作品ばかりになっているけど、それでもDVDやらの「円盤」が売れなくなってきても制作される深夜アニメとかの本数は減らず、有料ネット配信というのが変化をもたらしている状況になってきてはいるようだ。そういう「革新」の先陣を切った作品としての評価も加味して一位とした。内容は超能力ありの刑事モノで主人公の一人が渋いオッサンでなかなかいい。続編作られるような最終回の引きで次も待ち遠しい。
 二位「3月のライオン」は、もうNHKはアニメとドキュメンタリーだけ観とけばいいってぐらいに素晴らしいアニメ。
 努力すれば結果がでるなんていうご都合主義の通用しない「将棋」の世界の勝負を描く厳しい筆致で、いじめ問題を真っ向から描きまくっていて、正直観るのが苦痛なぐらいに胸にきた。程度の差はあるかもだけど生きていればいじめる側にもいじめられる側にもなったことがあるってのが普通で、そう思わないのなら、よっぽど幸運か鈍感かどっちかだと思うけど、そういう心の傷的な部分に容赦なく爪を立てられた気分。
 結局いじめてた側は反省の色なしで、先生も人の心の中までどうこうできるわけでなく無力感に苛まれるような描写で、実に現実にもありそうで嫌な気持ちになる。
 だからこそ、友達のためになにもしてやれなかったと流す涙や、あんな奴らに負けて学校に行けなくなるなんて嫌だと立ち向かう姿に心打たれて私も観ていて滂沱の涙を禁じ得なかった。
 よく釣りに行くあたりの川辺の風景が美しく描かれているのも高得点。
 三位の「青ブタ」は、いかにも深夜のライトノベル原作アニメという感じで「涼宮ハルヒの憂鬱」のようにSF要素のある学園モノで「化物語」のように次々と出てくるヒロインの抱える問題を解決していく。主人公は当然キョン君やアララギ君の正統な系譜に連なる”やれやれ系”の主人公で騒動に巻き込まれていく。という思いっきりベタな設定と展開だけど、これがなかなかどうして面白く仕上がってるんだから不思議なものである。視聴する前は全然期待してなかったけどとても楽しめた。恋愛要素とかはオジサン観てて恥ずかしくなっちゃう感じだったけど、それも含めて学園モノ独特の”青春感”がバッチリ出てて実に良くできた作品だった。素直に脱帽。

○ドキュメンタリ-:一位NHKスペシャル「アウラ 未知のイゾラド最後のひとり」二位BBC「デイビッド・アッテンボローの自然の神秘」三位BBC「氷点下で生きるということ」
 一位は、年末にこれ一本で受信料払う価値があると思わされた。NetflixでBBCのクソ面白いドキュメンタリーをいくつも観て、NHKもがんばってるのは認めるにしてもBBCはまだ先を行ってるなと思っていたけど、なかなかどうしてヤル時はヤルもんである。NHKスペシャルではロウニンアジが海鳥を食うシーンが衝撃の「ブループラネット」も良かったけど、あれはBBCとの共同製作でやっぱりBBCなのかと思ったけど、世界がグローバルスタンダード色に染められていき多様性を失いつつある中で、経済的・文化的侵略という悪いんだか良いんだかにわかには分かりかねる問題を象徴するような「北センチネル諸島の先住民による宣教師殺害事件」なんてのが起こったドンピシャの時期の放映は偶然以上の必然を感じる。彼らが彼らでいるためには異文化に飲み込まれないために外との接触を断たざるを得なかっただろうし、異文化からのひどい接触で煮え湯を飲まされてきた過去もあったんだろうことぐらいは、宣教師の側にも自身の信じる信仰に基づいて、彼らを幸せに導かねばならないという強い使命感があったのだろうことと共にニュースの見出し読んだだけでも分かる。いろんな意見があるんだろうけど双方にそうしなければならない背景があったことぐらいは理解したうえで論じてほしいものだ。
 NHKスペシャルではアマゾンのとある先住民族の最後の生き残りに注目して、現在先住民の保護施設で暮らす彼への聞き取りを中心に丁寧に関係者への取材を重ねている。何しろ永年彼を研究対象にしている言語学者がわかった単語が800ぐらいしかない、受験英語の基礎編かよってぐらいに特殊な言語らしく、一緒に発見されて既に亡くなっているもう一人以外には彼の言葉を正しく理解できる者はもういないので、彼の語る内容も単語の並びから類推するしかなく、番組でも断言するような表現は避けていた。だとしても、最後彼が通訳もいない中、誰に聞かせるともなく語り出した言葉に<子供><みんな><死> <矢><血><大きな音>なんてのが出てくれば、彼の部族になにが起こったのかなんてのは想像がつくというものである。
 アマゾンの密林の悲劇としては、日本人なら日系一世がとんでもない土地に入植させられてっていうのも知ってても良い。まあワシも垣根作品で知った程度だけど。でももっと数が多く普遍的だったのだろう悲劇は、その入植者よりさらに弱者だったかもしれない先住民に降りかかったもので、欧州からの入植者である農場主や鉱山主が、元々住んでた先住民(しまった馬から落ちて落馬してる)を「平和に暮らしていると突如襲撃してくる野蛮人」として、私兵を雇って”駆除”していったなんていうのが、俯瞰してみれば「お前らが先に先住民の住んでた密林を焼き払ったんだろうが!」って盗人猛々しく思うんだけど、当事者にはそんな視点はなくて、実際に番組でも最後の二人が保護されたときにその地に入植していた鉱山主が当時を振り返って「コレで土地がオレのものになったと思った」とさも当然のように語っていて気分が悪かったけど、多分多かれ少なかれ直接的でないにしても、そういうひどいことをした上で便利な暮らしをしているだろう自分も五十歩百歩なんだろなと苦い気持ちになる。
 自分の悲しさを共有することさえできない最後の一人になったその悲しさを思うとき、やっぱり涙が止められなかった。死ぬのなんてあんまり怖くない。だって誰でも死ぬんだもん。でも本当にたった一人になってしまうことを想像するとオシッコちびりそうなぐらいに恐ろしいし想像するだにさみしくて悲しい。
 「語り」が町田康先生っていう弱者や虐げられた者、少数派の側の悲しみを語らせるならこの人だろうという納得の配役で、細かいところでも良くできた番組だった。自分の幸せや楽しさは、誰かの不幸や悲しさの礎の上にあることを知っておかなければと肝に銘じる。
 二位は以前にも取り上げたので、詳しくは書かないけど、デイビットアッテンボロー先生の老いても衰えない知的好奇心旺盛さに敬服すると共に、ダーウィンを産んだ英国の文化的・歴史的底力を感じさせるに充分な力作でかつ文句なしに面白かった。素晴らしい。
 三位は、Netflixオリジナルだと思って観ていたけど勘違いでBBC制作だった。アラスカでいろんな方法で自分たちの生活を自分で切り拓くような古き良き米国流開拓者魂を思わせる人々を追った作品で、それぞれの力一杯の”フルライフ”な奮闘ぶりにアタイあこがれちゃう。誰にも文句は言わせず好きなようにやるけど、失敗も危険も全部自分で責任を負うっていう生き方に、ワシも死ぬまでにはたどり着きたいものである。他人に文句ばっかり言って、そのくせ義務も責任も負おうとしないような好都合な頭の悪さの輩が目についてうざいご時世なので、そういう生き方が眩しく見える。
 Netflixオリジナルのものも米国の薬物汚染を追った「ドープ」とか危険生物72種シリーズとか面白く、危険生物は南米編、豪州編、アジア編と来たのでアフリカ編も楽しみに待っている。

 今年は、有料動画配信サービスのNetflixとDAZNを契約したんだけど、金払うだけの価値がある面白い作品や中継放送があってとても満足している。NHKを除くと企業様のご意向で番組作ってるテレビ局が、私にとってはアニメ以外は観るだけ時間の無駄程度の番組しか作れなくなってるので、金払って観る方式は多分良いんじゃないかと感じている。
 表現媒体やら配新方式やらは変わっていくんだろうけど、物語やらの表現物を創り出す情熱やらそれを楽しむ人の心やらは少なくとも千年前から変わってないわけで、これからもいろんな作品が間違いなく創られ続けるから、そこから良いのをめざとく見つけて楽しんでいけばいいんだと思っている。来年はどんなのと出会えるのか楽しみである。

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